衛宮士郎は死にたくない。   作:犬登

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ついにあの人が登場。




第九話 ガチ勢は修羅場になっても諦めない。

 とある国に一人の少女がいた。

 

 どうやら、その少女は生まれ落ちた瞬間から道が決まっていたようだ。

 

 望まれるがままに己を磨き。

 

 言われるがままに剣を振るう。

 

 少女はよく理解していなかったが、不思議とそうあるべきだった気がした。そうありたいとさえ思っていた。

 

 ある日、兄に連れられて向かったとある丘。

 独り残った少女はその頂きにあった剣を掴む。

 

 一度抜けば引き返せぬ、どこからか現れた魔術師にそう言われた。

 

 それがどうした、と力を籠める。

 

 良く考えろ、そう言った心配そうな声は心の内で嗤っているのだろうと少女は思った。

 

 それでもいい。

 

 多くの者達が笑顔でいれるのなら。

 

 それが己の望む未来だから。

 

 

 

 ────剣に光が満ち溢れた。

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 

 身を刺すような冷たさで目が覚める。

 

「…………今のは、夢か」

 

 曖昧なものだったが、それでも何を見ていたかは覚えている。見たことのある、というかよく知っている顔だった。

 

 間違いなく、今の夢はセイバーの過去。

 アーサー王として円卓を纏めあげる前の、まだ幼い時期だった。王を選定すると言われる剣、つまり勝利すべき黄金の剣(カリバーン)を抜く場面はやけに鮮明だったが、おそらくセイバーの中でも印象に残っているんだろう。

 

 皆が幸せな国にするために王になる。望まれた理想を体現する。生半可な覚悟では決して成しえないことだ。

 けれど、それをセイバーはやってみせた。戦いに勝ち続け、国を広げて、理想の君主であり続けた。

 まさに高潔な騎士の王だった。

 

 ……まあ、随分と可愛らしい外見ではあったが。夢の中の容姿から変わっていないところを見るに、あの時に不老になったらしい。

 大人になればどうなっていたのか。

 

 

 その、こう、気になる部分があるじゃないか。

 

 

 ……いや、やめておくか。知られたら怒られそうだし。

 

「んー、今日は一段と寒いな」

 

 それにしても、カリバーンは本当に綺麗だった。あれが、本物の聖剣。王を選定するという逸話に相応しい神々しさを纏った剣だ。

 正直言って、あの美しさに惚れた。昔から剣には惚れ込みやすかったが、今回は格別だった。エクスカリバーと比べても甲乙つけがたい。

 

 俺が鞘の記憶から作り上げた紛い物は、あんな光を放ってはいなかった。アレは形状しか合っていない、中身のないハリボテだ。宝具になるか、ならないか。ランクとしてもE-が精々だろう。

 日々改良を重ねてきたが、体へのダメージが増えるばかりでマトモな物にならなかったのだ。カリバーンを目にしたお陰で、設計図はキチンと頭の中で浮かんでくる。

 

 まさか夢に見るだけで投影できるようになるとは、俺も想定していなかったが。あれほどの神秘をもった武装が選択肢に入ったのは大きい。

 それにしてもカリバーンで二刀流とかできないだろうか。セイバーが二刀流で戦ったこともあるなら模倣することも可能なのだが。

 ………何か、『皆にはナイショだよ!』とか言いながら闇討ちしてそう。

 

「────って、ヤバっ。セイバーから道場に呼び出しくらってたんだった!」

 

 十中八九、昨日の件だ。あの最後のイイ笑顔からすると、オカンムリになられている可能性がかなり高い。

 一先ずどうなるかを予想してみよう。

 

 ───王たる私の肉体を直視するとは何事か、即刻打ち首です。

 

 うーむ、これは流石に無いか。いくら怒っていても、これは無い……無いよな?

 

 ───シロウ、謝罪するなら料理を。この私を満足させたならば不問としましょう。

 

 これだ、これこれ。セイバーが要求するといえばご飯だよな。これなら手間と食料がかかるだけで済むからありがたい。 

 

 ───修行しましょう、シロウ。まずは真剣で。話はその後です。

 

 ……あれ、これも割とありそう。そのまま事故に見せかけてグサッと、それはもう思い切りグサッと。

 

 セイバーは微妙に難しい所があるから、どう出るか分かんないぞ。昨日の刺身のタコも猛反対されたし。美味しいのにな。今度、酢漬けで出してみようか。

 

「……って、だから急がないと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一応は動ける服に着替えて、急いで道場に向かう。殊更に冷たい空気が身に沁みた。

 

「すまん、セイバー。少し寝坊し、て……」

 

 予想外の光景に我を忘れる。頭が思考を停止した。何と言えばいいのかも分からず、ただ空気だけが喉を駆け上がった。

 

「─────うそ、だろ」

 

 鎧を身に纏った相棒。

 彼女は不可視の剣を両手で構えており、その碧眼で俺を見据えていた。

 

 尋常ではない殺気がこの身を貫いている。どうにか一言だけ発することができたが、状況は何一つとして進んでいない。

 何故、どうして。同じ単語が頭の中で繰り返される。

 

 

「────こちらへ、シロウ」

 

 

 無意識のうちに、腰を低くする。いつでも動き出せるように身体が反応していたようだ。

 

「………ぁ、あのさ」 

 

 まさか、本当に俺を殺すつもりなのか。

 俺が言うのも何だけど、あんな事故みたいな物で死刑が確定してしまったのか。少しぐらい弁明の時間があってもいいんじゃないだろうか。

 何でもいい、とにかく今は喋らなければ。

 

「待ってくれ、セイバー。話せば分か────」

「話している暇などありません。早くこちらに!」

「なん……だと……?」

 

 聞く耳持たず。

 即却下とは思わなかった。じっとこちらを見つめたまま、剣は欠片もブレはしない。間違いなくセイバーは本気だろう。

 

 どうすればいい。何をすれば斬刑を回避できる。聖杯戦争の死因が自分のサーヴァントの全裸を見て殺された、では死んでも死にきれない。切嗣にも顔向けでき、な…………?

 そうだ、切嗣だ! 切嗣が言っていた。大体の女性問題は問題そっちのけで、誉めれば解決するって。

 そうとくれば褒め殺ししかない。ひたすら褒めまくることで、相手の機嫌をとると同時に罰を与えにくくさせるテクニックだ。

 頼む、切嗣。今こそ女たらしの力を貸してくれ!

 

「前から思ってたけどセイバーって綺麗だよな少しスレンダーかもしれないけど全然気にすることないぞそもそも不老の加護があるからそれ以上成長しなかったのは仕方ないむしろ可愛いと思ったし正直に言えば最高だった美しいとか守りたいとか色々思ったけど一番思ったのはやっぱりセイバーって綺麗だなって」

 

 

「────ぁあああのシロウ!? 何を、いきなり何を言っているのですか貴方は! そんなことより、早く私の方へ来て下さい!!」

 

 

 駄目だったんだけど。

 ヤバい、かなり恥ずかしいことまで言ったけど全部流されたのが更に恥ずかしい。穴があったら埋まりたいとか、そういうレベルだ。これだけでまた怒らせたかもしれない。

 というか、剣を構えてる方に早く来いって言われても行けないぞ。

 

「ゴメン、もう普通に謝るから許して下さい。昨日の事は悪かったって。だから殺さないでくれると助かる」

 

 

 

「昨日の……?いえ、そうではなくて!敵のサーヴァントが接近しているのです!」

 

 

 

「……え、サーヴァント?」

 

 ……もしかして、セイバーが武装していたのはサーヴァントが近くにいるから?張り詰めた殺気はどんな敵襲にも対応するため?近くに来いっていうのは俺をなるべく側で守ろうと?

 もしかして、いや、もしかしなくても。

 

 

「───今までの話、全部違ってたのかよ!!」

 

 

「ですから違うと言っていたでしょう!」

「剣を構えながら近くに来いって言われても、行けるわけないだろ!斬られると思ったぞ!」

「斬りません!シロウは私を何だと思っているのですか!」

 

 このままでは埒が明かない。とにかく、今は武器を持たなくては。敵が近くにいるのなら、あまり悠長にしている暇も────。

 

 

「ねぇライダー。行方不明になったと思ったら普通に戻って来ていた先輩が大声で痴話喧嘩してる時って、どうすればいいかな?」

嘲笑(わら)えばいいと思いますよ、サクラ」

 

 

 ────もう、いた。

 

 

「……桜?」

「三日ぶりですね、先輩。突然いなくなったので心配しましたよ?あ、この子はライダーです。」

 

 可笑しな事は何もないとでもいうように話しかけられても、どう返せばいいのか分からない。

 武装しているセイバーを見ても全く驚かず、ライダーを連れている。

 これって……桜がライダーのマスターだった、ってことだよな。何でこんなに親しげなんだ?今、敵と向き合ってるという状況で友好的にする意味は?

 

「シロウ、あのマスターは?」

「前に話した後輩だ。今のところは敵、のはず」

 

 桜の戦意が微塵も無いことにセイバーも少し困惑している。ライダーも全く動く気配がない。そもそもライダーは武装もせず、私服のラフな格好のままだ。

 

「何かとっても警戒されてるよ……」

「敵とまで言われてますよ。このままでは戦闘になるかもしれませんが、どうするのですか?」

「どうするって言われても……。先輩と戦うつもりは無いんだけどなぁ。むしろ一緒に戦いたいです! 先輩、同盟を組みましょう!」

 

 名案を思いついたとばかりに、そう言い放つ桜。正直、不審でしょうがない。突然現れて、微塵も戦意を見せず、あまつさえ同盟を提案してきた。

 俺が召喚した次の日は何もコンタクトを取ってこなかったのに。

 罠の匂いしかしないぞ。長い付き合いから、桜が良い奴だと知ってはいるのだが……。表の顔をそのまま信用して良いのかどうか。

 

「セイバー、どう思う? 急で悪いが、状況が状況だからな。クラスだけを見るなら、機動力のあるライダーは同盟相手として相性が良いとは思うけど」

「クラスはそうですが……あのライダーのマスターは信用できるのですか?」

「……まあ、多分。同盟を途中で破ったりはしない、と思いたい」

「え、先輩? 何で自信なさげなんですか!? そこは堂々と言ってくれないと、セイバーさんに信じて貰えませんよ!」

「随分と彼からの好感度が低いみたいですが………サクラと彼ではお互いの認識がかなり異なっていますね。イベントはキチンとこなしましたか?」

「おい待て、イベントって何だ」

 

 駄目だ、場が混沌としてきた。これではまともに会話が進まない。

 あちらが全く緊張感を感じさせず、桜とは見知った仲ということもあって空気が緩んでしまっている。

 ここは場所を変えるべきだろう。

 

「まあ、桜たちに戦う気が無いってことは分かった。ひとまず居間に行こう。詳しい話はそこでするから」

「はい!朝ご飯ですね!」

「………はい?」

 

 話が噛み合っていない事に俺が固まっていると、目をシイタケのように光らせたセイバーが高速で歩み寄ってきた。

 

「どうしたのですかシロウ早く行きましょう早く」

「………何でさ」

 

 

 

 




桜は桜でも、ノリは桜セイバーに近いかな?



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