もしもブレイブウィッチーズにドリフターズのあの人が来たら   作:ひえん

8 / 10
紫電改の帰還

 あいさつ代わりの相撲を終えて、直は地べたに座り込む。そして、傍観していたウィッチ二人も駆け寄ってきた。そこに山口少将が一つの問いをぶつけてきた。

 

「で、菅野大尉。君は元の世界で何を見聞きしてきた?」

 

 山口少将の問いに一瞬考えてから口を開く。そこからは雪崩のような勢いであの戦争の出来事が並べられていく。

 

「そうですねぇ…まず、ニューギニアやソロモン方面での地獄の消耗戦!太平洋各地では島嶼戦での玉砕!マリアナ、レイテでの海戦で敗北!そして、連合艦隊はほぼ壊滅、大和も武蔵も沈んだ!本土はB-29の空襲で焼け野原ですよ!!」

「そうか…で、そのB-29というのは?どこから爆撃された?」

「高度1万メートルをそこらの戦闘機並みの速さで飛行することが可能、マリアナから本土のほぼ全域まで爆撃可能、銃座の配置はほぼ死角のない怪物ですよ。B-17なんて比較にもならない」

「やはり、あの国はとんでもない飛行機を作るな…巨人機開発の噂はちらほらあったが。海の方も酷いか?」

「ええ、海に至っては大型の正規空母が二桁の数で大量の艦艇を引き連れてやってきますよ。あの様子じゃこの戦争ももう長くないでしょう。この調子だと敵が更に何か投入してきてもおかしくない」

「そうか…だが、我々は何故かこんな世界に飛ばされてしまった」

「ですねぇ、どうしてこうなったのやら」

「私と一緒に飛龍までこっちに飛ばされたが、不思議な事があってな」

「ほう?」

 

 そう言うと山口少将は煙草に火を付けながら呟いた。そして、静かに青空を見上げる。

 

「私以外の乗員が艦内から消えていた。戦死者も含めて一切な」

「それは…実に奇妙ですな」

「で、我々の世界には存在しない太平洋の巨大な島の近くに座礁しているところを扶桑という謎の国に助けられた。初めは唖然としたさ。そして、今はアドバイザーのような立場として扶桑海軍に身を置いている」

「自分は九州沖で空戦した後にいきなりバルト海に放り出されましたね。そして、あのネウロイとかいうバケモンに遭遇して撃ち落とした」

「ほう、君も戦闘中にか。共通点はそこか?しかし、そうだとしたら他の乗員の説明が付かない…」

「確かに、まるで特定の人物だけを選んでいるような」

 

 首を傾げつつ考える直であったが、山口少将が話題を変えた。

 

「で、話は変わるが・・・大尉。君はこの世界をどう思う?」

「ええ、ファンタジー紛いの妙な力があって、戦争の代わりにあちこちでバケモンとドンパチしている。それ以上はなんとも」

「この世界は我々の世界と同等の兵器や技術を持っているが、それらはだいたいあの化け物との闘いの経験しかない」

「つまり?」

「あの化け物は海にいない。よって、我々の専門分野である現代航空機の戦いや艦対空の戦いはこの世界において、全くの未知であるという事だ。それが証拠に、こっちの連中がズタズタになった飛龍を見て真っ先に『おそらく巡洋艦辺りに砲撃されたのだろう』と判断したぐらいだ・・・急降下爆撃と艦内誘爆でこうなったと説明した時には連中ポカンとしていたよ。艦内に偶然転がっていた不発の爆弾を見て慌てながらやっと信じたが」

「航空機では航行中の艦艇撃沈は難しい、という開戦前によくあったあの考え方のままという事ですな」

「ああ、化け物からは散々手痛い目に遭ったようだが、自分たちが使っている航空機からは何も味わっていない。マレー沖どころかタラント夜襲すらな。それでいざ人同士の戦争が起こった際に、このままでは悲劇が起きかねない…それを避けるべく、自分は扶桑海軍にこれまでの知識と経験を伝える事にした」

「流石将官、自分にはとてもできそうにないですなぁ」

「まあ、国籍と身分を保障してもらった家賃替わりみたいなもんだ・・・で、今は欧州がどうなっているか、視察する為にあちこち回って歩いているという訳だ」

「なるほど、それで自分の噂を聞きつけて手紙を送ってきたと」

「ああ、そうだ。扶桑の士官から話を聞いて、君の機を見た時には驚いた…おっと、そちらのお嬢さん方をすっかり忘れていた。彼女らが噂のウィッチか?」

「ええ、そうです。居候先の部隊員です」

 

 山口少将と目が合った下原とジョゼが慌てて、それぞれの敬礼で返す。

 

「やあ、そんなに固くならんでよろしい。私は大日本帝国海軍少将、山口多聞だ。わが軍のパイロットが世話になった」

「第502統合戦闘航空団所属、扶桑海軍少尉、下原定子です。いえ、菅野大尉にはとてもお世話になっています」

「同じく、自由ガリア空軍少尉、ジョーゼット・ルマールです」

「よろしく。統合戦闘航空団所属のウィッチは腕利きと聞く」

「いえ、私はそんな大層なものでは…」

「いや、国から遠く離れて職務をこなしている時点で立派なものだ。誇っても罰は当たらんさ」

「ありがとうございます」

「まあ、外で立ち話もあれだ。続きは中で話そう。それに大尉、君に土産がある」

「自分に…ですか?」

「ああ、ついて来たまえ」

 

 山口少将は倉庫の中へと入っていく。それに続いて直達も倉庫の中に入っていく。そして、その中に置かれていたものは…

 

「大尉、これが土産だ」

「あ・・・直さん、これって」

「ああ!間違いない…俺の紫電改だ!修理が終わったのですか!」

「ああ、先月に扶桑の工廠でやっと終わった。しかし、私もこれを見た時は驚いた。零戦の後にこんな機体が出てくるとは」

「ええ、こいつは飛龍に載っていた零戦二一型よりも格段に速くて武装も強力。まぁ、流石に小回りと足の長さは劣りますがね」

「川西製の局地戦闘機と聞いたが」

「ええ、見ての通り着艦フックも付いていません。純粋な陸上戦闘機であります」

 

 格納庫内に鎮座している紫電改に近づきながら直が説明していく。ピカピカになった愛機を見てどこか嬉し気だ。

 

「大尉、修理に携わった扶桑の技術者も機体性能に仰天していたよ。だが、同時に違う点でも驚いていた」

「なんです?」

「エンジンオイルや配線系を含めてあちこち質が悪い、と」

「やはり見る人が見れば分かるもんですなぁ。向こうは色々とギリギリだったもんで」

「問題のある個所は全部交換しておいた。こちらの世界はその辺りの事情が良いのが救いだな…破損した機関砲は扶桑で生産準備中の新型がかなり似通っていたので、それに載せ替えた」

「おお、20mmが4門勢揃い!これで思う存分戦える」

「あの光線出すような化け物とやりあうつもりかね?」

「もちろん」

 

 山口少将の問いに直はニヤリと笑う。

 

「直さんはこれで大型ネウロイを一体落としましたからねえ」

「あれを見た時には驚きましたよ。機体があんなに破損しているのに、別のネウロイも攻撃しにいったし…」

「部隊に入った後も拾ったオラーシャの攻撃機を直して爆撃までしていましたし」

 

 下原とジョゼが直の今までの暴れっぷりをにこやかに話す。それを聞いた山口少将はポカンとしながら呟く。

 

「君は無茶をするなあ」

「戦闘機乗りですからねぇ…戦場を前にじっとはしていられんのですよ」

「直さん、愛機を手に入れたからって無理は駄目ですからね!」

「そうですよ、何かあったらみんな悲しみますからね!」

「安心しろ、愛機を壊すつもりはねぇからな」

 

 紫電改の右主翼前縁を撫でながら直は笑って答える。下原も近づいて機体に触れる。そして、一言呟いた。

 

「しかし、この機体と私達が使っているストライカー・・・同じ名前が付いているなんてすごい偶然ですよね。別の世界だというのに不思議な話だと思いませんか?」

「そういえば…あのチビが使っているのも紫電改とか言ってたなぁ」

 

 そして、山口少将も会話に加わる。

 

「ああ、それにこの世界で配備されている航空機は元の世界とおおよそ同じような雰囲気だ。だが、こちらの1944年時点で零戦が新鋭扱いで明らかに開発ペースが遅い」

「では、直さん達の世界では零戦っていつ頃配備されたんですか?」

「んー、昭和15年採用だから…1940年頃だな」

「そんなに前に…こっちにもその頃にあったらなあ」

「私にとってはついこの前の話だが、菅野大尉にとってはかなり前だろう」

「ええ、1944年ならとっくに五二型が中心ですよ。二一はすでに二線級」

「そんなに改良したのか」

「ええ、後釜がなかなか出来ないもんで…まあ、その後も新しい型を作ってますが」

「なるほど、苦労したな」

 

 一方、ちょっと離れた所でジョゼはボーっと三人を見ていた。無理もない、三人は熱心に日本語(扶桑語)で会話しており、とても会話に加われないのである。そんな様子を山口少将がちらりと確認すると、手招きしてジョゼを呼んだ。

 

「すまんな、我々だけで話に熱中してしまって」

「いえ、皆さん真剣そうでしたし…」

「さて、先ほど面会に来たガリアの軍人から貰った菓子があるのだが」

「!!」

「では、ここらで一度切り上げて茶でも飲むとするか」

 

 この一言だけでご機嫌回復である。

 

倉庫の内部に作られた小さな事務室に皆で入る。そして、下原が人数分のコーヒーを淹れる。豆はもう挽いてあり、後はドリップで淹れるだけだ。

 

「客人なのにすまないね」

「いえいえ」

「えーと、お砂糖は…あった。直さん、使います?」

「いや、ブラックで」

「で、お菓子は…」

「ああ、これだ。なんでも大使館の料理人の手作りだとか」

 

 山口少将が箱を取り出す。中にはスポンジケーキが入っていた。

 

「シンプルだけどそれがまたいいねえ」

「じゃあ、切り分けましょうか」

「ほー、大使館の料理人ともなると形が見事ですなぁ」

 

 下原が皿にケーキを切り分けてコーヒーと共に皆に配る。そして、コーヒーとケーキのいい香りが辺りに漂う。

 

「さて、食べながらで悪いが・・・大尉、もう一つ話がある」

「なんです?うまいな、これ」

 

 モグモグとケーキを食べる直に山口少将が話を振った。

 

「この国に来る前にフランス・・・ここだとガリアか。そこでちょっとした情報を得た」

「ほう」

「どうも、自分達以外にも向こうから飛ばされた人々が世界各地にいるらしいとのことだ」

「ええ!?」

「それは本当ですか?」

「ああ、まだ直接接触出来ていないが・・・先進的な兵器付きでやって来た例が多く、一部の国では存在を秘匿しつつ研究しているらしい。ああ、対応に困って公表していない場合もあるな」

「少将、つまり直さんも出現位置が悪ければ…」

「ああ、不時着後に幽閉されていたかもしれん」

 

 その一言で場が静まりかえる。直の性格を考えると、下手をすればそのままどこかの国と交戦状態になった可能性もある。彼は実に運がよかったのである。

 

「まあ、この件については情報を集めてみる。どうやら別に調べている組織もあるらしい」

「そんなの調べる組織なんてあるんですか?」

「どうも化け物対策の研究組織だとか」

「んー…どこだろう、連合軍?」

「さあ、まだ分からん。その内接触してくるかもしれない」

 

 そんな事を話し合っている内に皆がコーヒーを飲み終える。帰りの飛行機を考えるとそろそろ切り上げなければならない。しかし、直は飛行服を荷物から取り出す。

 

「直さん、これに乗って帰るんですか?」

「当たり前だ、船便だとどうなるか分かったもんじゃない」

「まあ、それはそうですが・・・ここから基地まで届きます?」

「うちの国の戦闘機の足の長さ舐めちゃいかんぜ。なに、最悪駄目そうなら途中で補給すればいい。どうせ北欧はどこも味方だろう?」

 

 ニヤリと直は笑う。下原とジョゼはやれやれと苦笑いしながら頷いた。

 

「大尉、必要になったら今後君を呼ぶかもしれない。その時は来てくれるか?」

「もちろんです、少将」

「そうか、達者でな。また会おう」

 

 紫電改を押し出す。この場にウィッチ二人がいたのは心強く、魔法力で筋力を強化したおかげで軽々移動出来た。そして、周りから整備員が駆けつけきた。後は彼らが始動準備を始め、準備が整うとエナーシャハンドルを回す。点火プラグを交換したおかげか、軽々とエンジン始動。2000馬力の誉エンジンの爆音が響く。港の隣に増設された連絡機用の滑走路に移動…したところでウィッチ二人が気付く。

 

「あ、私達どうしましょう」

 

 流石に3人とその分の荷物は紫電改に入らない。

 

「あー…いいや、先に空港まで飛んで待ってる」

「了解。こちらで空港に連絡しておきます。では、また後で」

 

 それを聞いた直が手を振る。そして、紫電改は動き出す。スロットルを一気に押し込んで加速。エンジンが轟音を鳴らし、ある程度スピードが付いた所で機体がふわりと浮いた。そしてそのまま高度を上げて右旋回。空港のある方向に針路を向けた。

 

「楽しそうに飛んで行ったね」

「ええ、飛び方が凄く嬉しそう・・・じゃあ、行きましょうか」

「うん、定ちゃん」

 

 下原とジョゼも車に乗って空港へと向かった。そして、しばらく車に揺られて二人が空港に着くと…既に紫電改は着陸しており、直が機体の外で待っていた。

 

「直さん、お待たせしました」

「ああ。で、どの機で帰るんだ?」

「えーっと・・・あそこのDC-3みたいですね」

「そうか。じゃあ、あの機の後ろから上がるからな」

「了解、お気をつけて」

「そっちもな」

 

 そして、二人に荷物を預けて直は紫電改に飛び乗る。DC-3は乗客と荷物を積み込むとエンジンを始動。紫電改も同じくエンジンを回す。そして、両機とも滑走路に入るとDC-3が先に離陸、続いて紫電改も離陸した。2機は一路ペテルブルグを目指して飛行する。ストックホルムに別れを告げながら…

 

 そして、数時間後。西日の当たるペテルブルグの滑走路に2機が降り立った。一方、出迎えに来ていた直枝、ひかり、ニパの三人は直の紫電改を見て仰天したのであった。

 

 そして、基地に帰還後の事である。隊長の執務室へ入った直はラルにストックホルムでの出来事を報告していた。

 

「という事で、どうやら他にも向こうから来たヤツが何人もいるらしい」

「そうか。目的以上の収穫があった訳だ」

「ああ、今後の事を考える必要がありそうだ。愛機も手に入ったし」

「しかし、よその世界から来た人が他にもいるとは初めて聞いた。まったく、お偉方はずるいな。そういう事は私にもちょっとは教えてくれればいいのに」

 

 そして、ラルが冗談を言うと途端に話題を切り替えた。

 

「そういえば…扶桑から新しくウィッチが来る」

「ほう」

「ひかりの姉、雁渕孝美中尉だ」

「アイツに姉がいたのか」

「ああ、大尉が来たその日に負傷して送り返された」

「あー…なんかそんな話していたな」

「ゴタゴタしていたから無理もない。まあ、話は以上だが・・・で、大尉。件の少将に呼び出されたら行くつもりか?」

「もちろん」

「そうか、その時は明るく送り出してやるさ」

「すまんな、隊長殿」

「ああ、気にするな。やりたいようにやってくれ」

 

 そうして、ペテルブルグの夜は更けるのであった。

 




紫電改の修理が終わったようです

異世界人を調査する組織・・・果たして何者なんだ


さて、もうちょっとだけ続くよ!
次で最後!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。