もしもブレイブウィッチーズにドリフターズのあの人が来たら   作:ひえん

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出会い:後編

 夕食を食べる為に夜のストックホルム市内へと繰り出した菅野たち一行。出かける前に宿泊先のホテルでおすすめのレストランを何軒か教えてもらっていた。そして、そのレストランを目指して現在徒歩で移動中である。

 なお、菅野は部屋に置かれていた士官服を着ている。下原とジョゼからまぶしい笑顔で「外出ですので是非着てください」とお願いされた以上、いつもの飛行服から着替えざるをえなかったのである。

 

「で、ここの名物って何だ?」

「ええと、確かミートボールだったかなあ」

「肉団子…つくねみたいなもんかぁ」

「つくねとは味付けとかも違うみたいですね。あー…あと、海産物も名産だとか」

「ほぉ、夕飯はカニかエビにでもするかぁ」

「エビかあ…ロブスターかなあ」

 

 ちなみにジョゼは部隊一の食いしん坊である。これから食べる料理に期待を膨らませ、内心ワクワクしながら歩く。果たして夕飯は一体何なのか…

 そして、そのままぶらぶら歩く事数分。街中には軍服や水兵服を着た人々がちらほら見える。戦地に行った帰りの休暇か、それとも戦地に向かう前に貰った短い休暇か、どうもそういった雰囲気のようだ。夜になったばかりというのに早くも千鳥足で歩く若い兵士がいる。果たして彼は無事に帰れるだろうか。

 そして、しばらく歩くと教えてもらったレストランにたどり着く。しかし、1軒目は満員との事で諦めた。2軒目の店は幸い1テーブルだけ空いていたのでなんとか滑り込むことに成功。店内はお堅い雰囲気のレストランではなく、街の料理屋といった趣だ。そして、席に座ってメニューを眺める。しかし、言語の壁によりメニューの内容が全く読めない。三人とも首を傾げる。こういう時に北欧生まれのニパでもいれば手っ取り早かったかもしれない。

 

「…これなんだ?」

「う、うーん…?」

「ブリタニア語のメニューがあるか聞きます?」

「…そうしよう」

 

 店員にメニューを変えてもらった。この戦争の影響で世界各国からこの国にやってくる人が多く、それに合わせてここ最近外国語のメニューを用意したとのことだった。

 

「初めからこっちのメニューを出してくれればいいのに」

 

 ジョゼはふくれっ面気味に呟く。

 

「まあまあ。さて、何にしましょう?」

「ロブスター!あと、このサーモンのフライ!」

「そりゃあ決まってらぁ。ビールとつまみ!!」

「じゃあ、せっかくなのでミートボール。んー、飲み物は…」

 

 とりあえず料理の第一陣は決まった。注文が終わるとすぐに飲み物と軽いつまみ類がやって来る。

 

「では、とりあえず…無事に到着した事を祝って乾杯!」

「乾杯!」

 

 直はビール、下原とジョゼは気分だけでもとグレープジュースである。ソーセージや酢漬けにされたニシンといった軽い前菜類をつまみながら話は弾む。

 

「そういえば、直さんの出身ってどちらでしたっけ?」

「んー、育ちは宮城だ」

「へえ、宮城ですか」

「まぁ、宮城と言っても仙台とは離れた田舎だがな。そういや、下原ちゃんはどこの生まれなんだ?」

「私ですか?尾道の生まれです」

「ほー、尾道…広島かぁ」

「ええ、海がよく見える良い街です。坂だらけでちょっと大変ですけど」

 

 下原が瀬戸内海沿いの街特有の悩みを苦笑いしつつ答える。

 

「そういや、雁渕のヤツはどこの生まれだったか」

「ああ、彼女は佐世保ですね。直さんは佐世保には?」

「よく考えるとあまり縁がないな。同じ長崎なら最後の方は大村基地にいたが」

「大村かあ…湾の対岸に広がる海岸が複雑な地形をしていて、それがまた風光明媚でいい所ですよね」

「確かに風景は絶景だった。だが・・・思い返すとあまりいい思い出が無くてな…」

「直さん…」

 

 急にトーンダウンした直の態度から、ただ事では雰囲気を察したジョゼと下原であった。恐らく、最後の方と言っていた事から大村で激戦を潜り抜けてきたのかもしれない。

 

「私たちもまあ…色々ありましたからね、なんとなく分かりますよ。戦地の地名聞いてふと暗い気持ちになる事もよくあります」

「ああ、すまんな。しかし、ジョゼもなるぐらいだからこいつは立派な職業病だな」

「大丈夫です。そういう時は美味しいものを食べれば一発で気分が晴れますよ!」

「うまい酒の方がいいんだがなあ」

「むー、ロブスターはまだかなあ…」

 

 そんな空腹気味のジョゼがぼやいていると、店員がやってきた。ついに待望の料理が来たのである。皿が次々とテーブルに置かれていく。

 

「ああ、やっと来た」

「そりゃあ…こういうやつは時間がかかるだろうなぁ」

「うわあ、調理するだけで大変そうなサイズ…」

 

 テーブルに置かれた大皿には茹でたロブスターが鎮座している…だが大きい、とにかく大きい。全長50cmを軽く超えているように見える。だが、ジョゼはナイフとフォークを持ち食べる気満々である。

 

「美味しそう…じゃあ、食べようか」

「ジョゼはほんとよく食べるねえ」

「やだなあ、定ちゃん。これぐらい普通だよ」

 

 ジョゼが晴れやかな笑顔で普通の量と答えるが、それを聞いた直は首を傾げつつひそひそと下原に疑問を投げかけた。

 

「普通・・・?ヨーロッパの感覚ではあれぐらいが普通なのか?」

「いや、一人分より多いです…多分きっと」

「二人とも扶桑語で話し始めたけどどうしたの?」

「いやー、伊勢海老とどっちが大きいかなー、って…なあ!」

「え…ええ、そうそう!ほんとに大きいなあ、って」

「イセエビ?」

 

 笑って話をごまかす二人であった。

 

 そして、料理を楽しみつつ話し込み、気が付くと入店から2時間ほど時間が経っていた。料理も美味しく、居心地もよくてついつい長居をしてしまったのだ。

 

「さて、そろそろ宿に帰りましょうか」

「そうだね。それにしても美味しかった」

「おっと、あんなところに酒屋が…ちょっと酒買ってくる」

「まだ飲むんですか?」

「あたぼうよ、部屋で飲む」

「うわあ…」

「という事でちょっと待ってろ」

 

 直は見つけた酒屋に夜のお供を求めて駆け込む。下原とジョゼは仕方なくその近くで待つことにした。外はすっかり夜の闇、街灯の明りが明るく輝いていた。

 

「やあ、そこのお嬢さん方。今暇かい?」

 

 すると突然背後から話しかけられた。相手を見ると若い水兵が二人組、所謂ナンパというやつである。

 

「えーと…」

「すみません、ちょっと人を待っていて」

 

 いつもの軍服なら話しかけられることも無かっただろう、彼らよりこちらの方が階級ははるかに上なのだ。しかし、今は私服。この様子ではウィッチとすら思われていない。

 

「いいじゃない、ちょっとぐらいさぁ」

「そうそう、俺たちもちょっと寂しくてねえ。戦地で明日もどうなるか分からないから、一夜の楽しい思い出ぐらい頼むよ」

 

 やんわりと断るもののまだ粘る。はて、困った。階級の証明になるものが今あっただろうか。そう下原が考えた時である。勢いのある大声がその場に響いた。

 

「よう、水兵!ツレが世話になったようだなぁ…で、そんなに寂しいならちょっとそこで話でもしようやコノヤロウ」

 

 声の主を見た水兵は真っ青になって凍り付く。相手は見るからに扶桑の士官服、他国の士官とはいえトラブルを起こすとどうなるか分かったものではない。しかも、相手は見るからにかなりお怒りだ。こうなった時に彼らの取るべき行動はただ一つ…

 

「すみませんでした!失礼します!!」

 

 彼らは謝罪をしながら走って逃げた。

 

「陸に上がって羽目を外しすぎた、バカヤロウ」

「あー、ぐいぐい来るから怖かったぁ…」

「直さん、すみません。助かりました」

「いや、気にするな。さて。酒も手に入れたし戻るか」

 

 そして、その後は妙な輩に絡まれることも無く、そのままホテルに戻って解散となった。明日は迎えが来るのが早い為、下原とジョゼは早めに就寝する。だが、直は本を読みながら買った酒を楽しんでいた。ちなみにこの本はどさくさに紛れて直枝の部屋から拝借したものである。(もちろん無断)

 

「しかし、あいつも良い本の趣味してるな。さあて、明日は鬼が出るか、蛇が出るか…」

 

 夜は静かに更けていく。

 

 そして、翌朝。

 朝食を終えて待ち合わせの玄関前に行くと、迎えの車が既に来ていた。そして、例の中尉と共に車に乗り込む。行先はどうやら港らしい。そして、車を暫く走らせ、港の入り口の検問を通過する。港には民間船だけでなく軍用輸送船や駆逐艦やフリゲート等の各種艦艇が停泊している。もちろん軍人も多い。この港は北欧各方面の一大後方基地となっているようだ。そして、車は大きな倉庫の前で止まる。直が窓の外を見ると、誰かが立っているのが見えた。そして、その人物が誰なのか認識する。

 

「マジだ、マジで多聞丸だ」

「では、あの人が例の?」

「ああ、そうだ」

「大尉、着きました。どうぞ、お降りください」

 

 車のドアを開けて勢いよく外に飛び出す。

 

「海軍343航空隊、戦闘302飛行隊『新選組』隊長、菅野直大尉でありまぁす!!山口少将、いきなりですが、とりあえず相撲を一つ!」

「ん?」

 

 そして、直は勢いよく山口少将と相撲を始めた。

 

「なんで相撲を…?」

「定ちゃん、あれなに?」

「えーと…相撲」

「こういう時にするものなの?」

「少なくとも扶桑ではこういう時に相撲なんてしないわ…」

「えぇ…」

 

 そして、それを見て困惑する同行人二人。

 

「大尉、いきなりどうした」

「ええ、あのMI作戦で艦と共にミッドウェーに沈んだと聞いたもんで、幽霊かどうか確かめようかと」

「なるほど。で…大尉、私は君を知らん。いつの人間だ?」

「1945年8月初め!」

「ほう、日本はどうなった?まあ、うまく行っていないとは思うが」

「流石ですなぁ。勝ってるか、と聞かない辺り」

「そりゃあ君、MIで散々悲惨なものを見たからな。それに相手があの国だ…っと」

「あっ!!」

「…ああ、引き落とし」

 

 その瞬間、山口少将が一歩引いた勢いで直を叩き落とした。文句なしの山口少将の勝利である。下原がポツリと決まり手を呟いて、一瞬の沈黙が場を包み込んだ。

 




あの人が手紙の差出人とやっと会えたようです

とりあえず、話の終わりがやっと見えてきました。
目指せ完結

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