もしもブレイブウィッチーズにドリフターズのあの人が来たら   作:ひえん

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出会い:前編

 ペテルブルグを離陸したC-46はバルト海に出ず、スオムス内陸を飛ぶコースを飛行する。洋上を飛ぶ最短ルートではネウロイと遭遇するリスクが大きいのである。そして、機体は北欧の森林地帯を眼下に眺めながら高度3000m程をのんびり飛行する。気候も安定しており、機内はほぼ揺れが無い状態であった。

 機内の座席は横4列、通路を挟んで2席ずつ配置されている。人員輸送専用に改修されただけはあり、座席は旅客機と同等の物らしい。並みの軍用機では味わえない座り心地だ。

 

「そろそろご飯にしましょうか」

「やった!」

 

 下原の提案にジョゼが喜んで返事を返した。荷物の中から弁当箱を三つ取り出して、ジョゼと菅野直大尉に手渡す。メニューは三角形に握ったおにぎりが三つに卵焼き、沢庵、いつの間に調理したのか根菜入りの煮豆も付いている。直がおにぎりを一口食べる、中の具は醤油で和えた鰹節だ。

 

「おっ、おにぎりの具はおかかだな」

「ええ、直さんが持って帰ってきたお土産に鰹節がいくつも入っていたので使ってみました。他のおにぎりは違う具ですのでお楽しみに」

「定ちゃん、これ美味しい!」

「よかった、急いで用意したけどうまくできたみたい」

「この煮豆もなかなか…」

 

 ジョゼは卵焼きに夢中だ。機体の前方を見るとこの機の乗組員達もパンやサンドイッチを齧り、コーヒーを啜りながらも忙しなく操縦や航法に専念している。窓の外を見ると、陸地の向こうに海が見えてきた。機体はスオムス内陸の上空からボスニア湾の中間辺りを渡り、バルトランド上空に入る予定だ。湾上空の空域は絶えず複数のレーダーサイトで警戒されており、ネウロイが侵入する恐れがあれば即座に迂回を指示される。だが、機は針路を変える様子は無い。今回は安全と判断したようだ。そのまま機体は海の上に出る。陸地に近い洋上には漁船らしき小さな船が何隻か見えるが、それもすぐに視界の後ろへと過ぎ去っていく。少し飛ぶと陸地が見えてきた。目的地であるスウェーデン…こちらの世界ではバルトランドと呼ぶ国だ。機体は首都ストックホルム郊外の飛行場へと機首を向け、乗組員が着陸に備えるようにと客室に呼び掛ける。

眼下には街が見えてきた、いよいよ到着だ。

 

「おおっ、まさに北欧といった街並みだ」

「ええ、首都だけあって活気がありますね」

 

 そんな事を話していると、高度がぐんぐん下がっていく。着陸態勢に入ったのだ。そしてC-46の主脚が滑走路に触れた、少し揺れるが綺麗な着陸である。パイロットはなかなか腕が良いらしい。機体は滑走路を出た後、駐機場に入ってエンジンを停止した。そしてタラップが機体に取り付けられて扉が開いた。乗組員の指示を受けて席を立った乗客は荷物を持ってぞろぞろと降りていく。

 

「直さん、降りましょうか」

「ああ」

「定ちゃん、カバン忘れないようにね」

「大丈夫、ちゃんと持ったから」

 

 荷物を抱えてタラップを降りると、機体の前で待機している迎えのバスに乗って飛行場のターミナルへと向かう。

 

「なんだ、ここは民間空港なのか」

 

 直がふと窓の外の景色を見て気づく。それに下原とジョゼも珍しげに駐機された旅客機を見る。

 

「ああ、確かに。あれもそれも民間の旅客機ですね」

「この国はネウロイ来てないから運航続けてるのかも」

 

 そんな事を話しながらもバスが飛行場のターミナルに到着した。下原は早速到着したことを知らせる為、ペテルブルグの502基地へ電報を送る。そして、ジョゼも前日届いた電報に記された差出先へと電話を掛けていたが、話が終わったらしく、受話器を置いて戻ってきた。

 

「30分ぐらいで迎えが来るみたいです。まず宿に送ってくれるそうで」

「じゃあ、そこの喫茶店で待ちますか」

 

 下原の提案を受けて近くの喫茶店へと入る。そして、店の外に面したテーブル席へ案内された。ウィッチの二人は休暇というだけあって私服だ。だが、直はいつもの飛行服である。私服の女性二人と飛行服を着たパイロットの組み合わせはとても目立つ。すれ違う通行人も気になってちらちら見る程だ。

 

「何ジロジロ見てんだコノヤロウ!見世物じゃねえぞ!!」

「まあまあ、私達は気にしてないので」

 

 言葉は通じないが雰囲気は伝わるらしく、通行人達はそそくさと立ち去っていく。それを見て下原とジョゼは苦笑いしながら紅茶を飲んでいる。そして、頼んだ飲み物を飲み切った頃である。突然、扶桑語で呼び掛けられた。相手は士官服を着た背の高い男性だ。

 

「菅野直大尉でしょうか?」

「ああ、そうだ」

 

 直が敬礼を返しながら答える。

 

「山口少将の命により、お迎えに参りました。そちらのお二人は502の下原少尉とルマール少尉ですね」

「ええ、そうです…あっ、失礼しました」

 

 相手の階級を見ると扶桑海軍の中尉である。それに気づいた下原とジョゼが慌てて敬礼をすると、すぐに敬礼を返してきた。

 

「いえいえ、気になさらず。まず宿にお送りいたします」

「よろしくお願いします」

 

 荷物を持って迎えの車へと向かう。運転席には同じく扶桑海軍の下士官が乗っている。まず宿に行くとなると、山口少将と会うのはどうやら明日になるようだ。無理もない、もう夕方に近いのだ。3人が車に乗り込むと、車はそのままストックホルム市内の中心部へと向かう。

 

「宿は確保してありますのでご安心を。ああ、あれです」

「うわあ、大きいホテル」

 

 迎えの中尉が指さす先に宿が見えてきた。見るからに歴史あるお高そうなホテルであった。車がホテルの玄関前に止まる。運転手の下士官に礼を言い、3人と中尉が車から降りる。立派な造りの玄関を抜けてロビーに入ると、中尉が一足先にホテルのフロントへ向かった。そしてチェックインを済ませると、部屋の鍵を2つ持って戻ってきた。

 

「これが部屋の鍵です。夕食はご自由にどうぞ」

「ありがとうございます。おや、二部屋ですか」

「ええ、どちらも二人部屋ですので好きな方をお選びください」

 

 下原が部屋の鍵を受け取る。

 

「菅野大尉。明日、9時頃またお迎えにあがります」

「ああ、分かった」

「では、失礼します」

 

 中尉は敬礼をして足早に玄関から出て行った。

 

「さあて、部屋にでも行くとするか」

「そうですね」

 

 鍵を見ると3階の部屋である。エレベータに乗って移動する。3階のエレベーターホールから少し歩いた先に鍵と同じ番号の部屋があった。303と304号室である。部屋の前でどちらにしようか暫し考える3人。きりがないので中を見て決める事にする。

 

「この303から見てみますか」

「うん」

 

 303号室のドアを開ける。部屋の壁は白く、室内は隅々まで清掃が行き届いた清潔感漂う趣である。そして、机やクローゼットなどの家具は歴史を感じるアンティーク調の物が中心だ。そして大き目のベッドが2つ並んでいる。大き目な窓の外にはストックホルムの街並みがよく見える。

 

「凄いなあ、流石こういうホテルは違うね」

「あら、ジョゼもこれぐらい掃除やベッドメイクを綺麗にこなすじゃない」

「えー。定ちゃん、褒めたって何も出ないよ」

 

 実家がガリアの宿屋であったジョゼは興味津々といった具合に部屋を観察している。ちなみに隣の304号室も同じ間取りであった。その為、最初の部屋を下原とジョゼが使い、304号室を菅野が一人で使う事となった。

 

「直さん、なんかクローゼットに袋が入ってますよ」

「んー?いや待て、これは…」

 

 袋の中身を開けてみる。紺色の士官服が入っている…細部を見ると扶桑海軍の物とは若干異なる。間違いない、これは日本海軍の士官服だ。

 

「なんか扶桑の士官服とはどこか違うような…」

「そりゃそうだ、こいつは帝国海軍の士官服だ!どうしてこんなものが」

「あ、なんかメモが」

 

 更に袋の中にはメモ書きが入っている。

 

「何々…土産の一つだ、食事に行くときに使うといい。どういうことだ?」

「あー…」

 

 メモ書きの中身を見た下原とジョゼが菅野の服装を見て納得といった感で頷いた。それもそのはず、彼の服装はいつもの使い込んだ飛行服。こんな平和な街中ではとにかく目立つ。それならばまだ士官服の方が違和感は少ないだろう。

 

「直さん、レストランなんかのドレスコードに備えてじゃないですかね」

「ああ…なるほど」

 

 海軍士官は海外で活動するケースが多い為、それに備えて海軍兵学校で各種マナーを1から10までしっかり叩き込まれる。その為、その単語の意味するところは即座に察しがついた。

 

「服装ちゃんとしないと入れないような高い飯屋に行くつもりはないんだがなぁ」

「いやいや、そうでなくとも街中で飛行服はやっぱり目立ちます」

「駄目か?」

「駄目でしょ」

「さっきも喫茶店で通行人から注目されてたじゃないですか」

 

 ブレイブウィッチーズの中でも真面目な方の二人から言われると直も流石に従わざるをえない。着替えてから夕飯を食べに街へ出る事となった。

 




手紙の差出人の所に出かけたようです

とりあえず、長くなりそうなので前編投稿
もうちょいで完結まで持っていけそうな感じです。

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