もしもブレイブウィッチーズにドリフターズのあの人が来たら 作:ひえん
「雁淵ひかり、行きます!」
航空隊は壊滅、姉である孝美は昏睡して戦闘不能。戦えるのは自分しかいない…艦隊を守るべく彼女は飛んだ。多少ふらつきながらも飛び上がり、やっとの思いで2機のネウロイへと銃口を向けた。その時である…
「電探に感、ネウロイと逆方向。当艦隊へ向けて一機何かが来ます!」
「味方か?それとも新手か!?」
「分かりません!雲の中で見えません!」
黒雲をぶち破り、赤い丸を付けた緑色の戦闘機が出現した。
「あれは一体…どこの機体だ?」
空母艦橋の皆が困惑した。
「なんだバカヤロウ!なァにが起きやがったあ!!」
機体の主は叫ぶ。
「おいおいおい、味方の艦隊じゃねえか…さっきまでいなかったってえのに。佐世保から出てきたのか?」
その機体の主は眼前に広がる光景を見た。その形から紛れもない帝国海軍の艦艇であることを確認すると、戦況がひっ迫したこの状況で動ける艦隊がいたことに驚いていた。
だが、海面に漂う機体の残骸が目についた途端、事の異常さに気が付く。なんと真っ白な零戦の残骸である。恐らく、一一型か二一型だろう。だが、今時こんな塗装で飛んでいるとは思えない。燃える艦隊に古い零戦…よって導き出される結論は…
「なんてこった。
自分がタイムスリップでもしてしまったのでは…と考えていると、艦隊周辺の海面に光る何かが突き刺さるのが見えた。そして、それが飛んできた正面上空を見ると…2機の黒い異形が赤い光線を撃ちながら飛んでいた。
「なんだぁ?異星人の襲来か?」
「なんだか知らねえが、味方に手ェ出すんならタダじゃおかねえぞ!!」
そう叫ぶと愛機、紫電二一型…「紫電改」のスロットルを全開にした。
一方、そんな騒ぎに気付かないひかりは引き金を引く。当たった!だが、すぐに回復してしまう。
「再生してる…!コアを狙わないと。」
ひかりを新たな脅威と見なしたのか、ネウロイが光線を撃ってくる。
「きゃあ!?」
シールドでなんとか攻撃を防ぐが、体勢を崩してしまう。その隙にネウロイは艦隊へと攻撃を強める。
「あっ!」
(私のせいだ…私が弱いから…、お姉ちゃんはこの何倍って数のネウロイと戦ったっていうのに…!)
撃ち続ける。だが、ネウロイの急所たるコアには掠りもしないようで効果が薄い。いくら撃ち込んでも再生してしまう。ハッと気が付くと、眼前にネウロイが迫る。衝撃と共にひかりは弾き飛ばされた、ネウロイと接触してしまったのだ。ネウロイはそのまま反転、こちらへと戻ってくる…だが、その瞬間ひかりに一つの変化が起きた。
(あれは…?)
コアが見えた気がした…
そこへ目がけて撃つ。銃弾が当たり、ネウロイの装甲が弾けてコアが露出した。続けて撃とうとするが間に合わない、再び眼前にネウロイが迫る。絶望感と恐怖感がひかりを襲い、次に来るであろう攻撃が頭をよぎる…その時である、ネウロイの直上から機関砲弾の雨が降り注いだ。
露出したコアに20mm機関砲弾が直撃、ネウロイは弾け飛ぶ。そして、ひかりの真正面を一機の戦闘機が急降下して飛び去って行く。
「よかった…味方が来てくれたんだ…!」
ひかりは安堵したが、その後に聞こえてきた無線の内容に仰天した。
「戦果、「異星人」一機撃墜!!」
「ワレ 突撃ス 目標「異星人!」 目標「異星人!」」
「い、異星人!?あの人、何言ってんの!?」
戦場で何を言っているのか、相手はあのネウロイである。子供でも知っている常識だ。それを「異星人」と言うパイロットにひかりは困惑した。
「343空 301飛『新選組』隊長 菅野直!」
戦闘機の主、菅野は下から「異星人」を突き上げる。20mm機関砲3門(1門は破損し使用不能)という零戦と比べ物にならない火力が「異星人」に叩き込まれる。
「好き勝手味方を撃ちやがって、ムカつくんだよバカヤロウ!」
「テメエが何なのかわからねえが、墜ちろバカヤロウコノヤロウ!」
いくら撃ち込んでもビクともしない。さっきは落とせたのだから弱点はあるのだろう、菅野がそう考えていた時である…戦場にはありえない少女の声が無線に響いた。
「コアを…コアを狙ってください!多分さっきと同じ位置だと思います!」
「ああっ!?ガキがなんで無線で喋ってんだ!それにコアって何だぁ!?」
「ひぃッ!」
無線から響く男性の怒声に、ひかりはすっかり怯えてしまった。
「コアっていうのを撃てばいいんだな!?ああっ!?さっきのガキッ、聞いてんのかぁ!?」
「は、はぃ…」
「さっきの所と同じ、か…とすると…」
戦闘機が上昇する、再び直上から攻撃を仕掛けるつもりだろうか、ひかりがそう考えていると、ネウロイの背が光るのが見えた。あの戦闘機を攻撃するつもりだ。とっさに無線で叫ぶ。
「危ない!」
「チッ!」
いよいよ覚悟を決めるか、菅野がそう考えた時である。機体の背に光の壁が現れ、攻撃を弾いた。
「何だこりゃあ!?」
その瞬間、菅野は「少女が生身で飛んできて光の壁で光線を弾く」という、現実離れした光景を目撃したのである。
「おいおいおい、今度は超能力者かぁ!?」
「そこの戦闘機、うかうかすんな!」
その少女はそう叫ぶと反転、そのまま黒い異形に急降下して一撃を浴びせる。弱点を撃ち抜かれたのか、黒い異形はぐらりと傾き四散した。
終わったか…、菅野がそう考えた途端、無線に「英語」で警告が入った。
「そこの所属不明機に告ぐ、直ちに武装を解除してこちらの指示に従いなさい」
気が付くと、紫電改の周りを空飛ぶ少女たちが取り囲んで銃をこちらに向けている。すると菅野は…
「外人?鬼畜米英だコノヤロウ!」
と、無線に怒鳴りつけた。
「彼、なんて言ってるの?」
「扶桑語みたいですけど…言ってる意味が分かりません」
戦闘隊長である金髪の少女…アレクサンドラ・ポクルイーシキン「サーシャ」大尉が部下に問う、その中の一人、黒髪の少女…下原定子少尉が困惑しながら答える。そして、今度は彼女が扶桑語で問いかけた。
「あなたの所属と飛行目的を知らせてください」
「ああっ!?見て分からんのかぁ!こちらは大日本帝国海軍所属機、飛行目的は領空に侵入する敵機の迎撃っ!以上!!」
「ダイニッポンテイコク…?どこかしら?それに敵機って…」
菅野が答えたものの、少女たちは困惑しているらしい。
「見りゃ分かんだろう!下の艦隊と同じ…って、なんだありゃ!?」
業を煮やした菅野が叫ぼうとし、再び艦隊を見て言葉に詰まった。各艦のマストに翻る旗は見慣れた旭日の軍艦旗ではなく、見たこともない旗であったのだ。
「ここはどこだコノヤロウ!」
「どこって…オラーシャですが…」
「オラーシャってどこだ、そんな国ねーよ!」
「ええっ…」
そんな問答が続く中、一人の少女が飛んできた。雁淵ひかりである。
「待ってください!どうして取り囲んで銃なんか向けてるんですか!」
「孝美、無事だったか…いや、誰だテメエ!」
もう一人の黒髪の少女…管野直枝少尉が食って掛かる。
「…雁淵孝美の妹です」
「妹だと!?」
「二人ともそこまで。詳しくは基地で話を聞きます。そこの不明機、あなたも来なさい。その調子だと降りる所も無いのでしょう?」
口論になりそうな二人を制し、サーシャは国籍不明機にブリタニア語で伝えた。
「分かった」
ここが日本ではない摩訶不思議な世界であると確信した以上、彼に選択肢は無かった。英語で返し、しぶしぶ指示に従う。
それから数時間後、ペテルブルグ基地にて…
「雁淵ひかりの件、先生に任せた」
この502統合戦闘航空団の指揮官であるグンドュラ・ラル少佐は銀髪の隊員…エディータ・ロスマン曹長に言った。
「はい」
「で、厄介な問題がもう一つ、か。下原、管野。例の機体はどうだった?」
「艦隊の整備員と共に機体について調べました。計器類は全て扶桑語です。ですが…大日本帝国海軍という聞いたことのない国の軍隊の名前が書いてありました」
「製造元は川西って書いてあったが、こっちも聞いたこともねえ会社だ。しかも、機体名は紫電…孝美のユニットと同じ名前だ」
「機関砲は20mmが4門、うち1門は破損していました。整備員の話だと、零戦の物よりも長銃身だと言っていました。それにフラップも妙だと。後、載せていたチャート(地図)は扶桑の九州地方の物でした」
「ふむ。かなりの重武装だな…性能の方は地上じゃ分からんな。飛ばせそうか?」
「無理だな。部品も整備道具も無いし、機体は損傷でガタガタ。飛ばそうとしてもすぐにドボンだ」
「やはりか。後はパイロットの聴取だが…他所でやっても意味不明でお手上げだそうだ。結局、回りまわってうちでやることになった。そこで管野、お前がやれ」
「はあっ!?」
「隊長、無茶です!」
管野は驚き、サーシャが抗議の声を上げる。
「例のパイロットはある程度ならブリタニア語はできるようだが、完璧とは言い難い。扶桑語でやり取りさせた方が確実だろう。それに管野はあんなのでも士官だ」
「なら、下原さんが適任では…」
「無線のやり取りは聴いていたが、相手のあの調子では下原だと萎縮する可能性が大きい。ある程度、口論になっても管野なら適任だろう」
「喧嘩になりそうな予感が…」
そんなサーシャの心配をよそに聴取は始まった。
「オレが聴取を担当することになった管野直枝少尉だ。早速始めるぞ。まず、名前は?」
「菅野直」
「ふざけてんのかテメエ!人の名前から一文字取っただけじゃねえか!」
「本名だ、文句あんのかチビ!それに俺は大尉だ、上官を敬えコノヤロウ!」
「「ああっ!!?」」
いきなりの問題発生で同席していたサーシャは頭を抱えた。
二人を落ち着かせて聴取を再開する。
「国籍は?」
「大日本帝国」
「だからそれはどこだ!」
直枝は机に世界地図を叩きつける。
「ここだ!ちゃんと地図に載ってるじゃねえか、文句あんのかコノヤロウ!?」
直は極東の島国に指をさした。
「そこは扶桑だ!」
直枝は言い返す。
「そりゃ、戦艦の名前だ!」
「ああっ!?」
「やんのかチビ!!?」
「上等だ、表出ろ!!」
二人同時に椅子から立ち上がる。
「やめなさい!二人とも正座!!!」
こうして、二人は正座して聴取を続けることとなったのだ。
聴取を続け、所持品を調べた結果。嘘は言っていないということは分かった。証言を個人の妄想だと考えると、謎の戦闘機や所持品の存在がそれを打ち消すのである。正直、扶桑で戦闘機を個人で作るのは不可能だ。彼の証言を認めざるを得ない。そんな中、足が痺れてきた直枝に一つの答えが浮かんだ…昔読んだ小説の中にあった「並行世界」という考えである。
「もしかして、並行世界ってやつかもしれない…」
「並行世界?」
サーシャが聞き返す。
「この世界と似た世界がたくさんあるって考えだ。しかも、それぞれこの世界とは微妙に違うってやつ」
「ありうるな」
直枝の説明に直もうなずいた。彼も小説で似たような話を読んだ記憶があったのだ。
「なるほど。並行世界だとしてそっちはどんな世界なんだ?」
ラルは直に聞いた。サーシャや直枝も興味を抱く。
「世界中でドンパチさ」
直はそう言うと、世界の主要国の説明と1930年代から今までの流れを説明した。
日華事変、ドイツのポーランド侵攻、連合国と枢軸国の戦いの始まり、独ソ戦、日米開戦、日本の一時の快進撃、各地の激戦、米軍の反撃、続く負け戦、ドイツの滅亡…
「ひどいな。さながら世界大戦か」
「残酷ね…」
「扶桑…いや、日本はどうなってるんだ?まだ戦争中なんだろ?」
「連合艦隊は壊滅!アメリカのB-29に国中焼かれて何もかも灰燼!正直、もう長くは持たんだろう」
「ドイツも灰燼と化したのか?」
「詳しくは知らんが似たようなもんだろうな」
直の説明に室内の反応は様々だ。無理もない。彼女たちは人間同士の争いなど無縁なのだから。
「さて、我々の世界の事情も説明しなければな」
ラルが言う。そして、隊長自ら説明を始めたのであった。
1930年代、欧州各地にネウロイと呼ばれる異形の集団が欧州各地に出現。人類は攻撃するも各地で敗北、欧州はネウロイに覆われた。それに対して人類は魔法力を使うことのできるウィッチと魔法力を高めることのできるストライカーユニットを使い反撃、世界各地で人類とネウロイの激戦が繰り広げられていた。
「魔法使えんのか!」
「ええ、こんな風に」
サーシャは魔法力を高める。すると、耳と尻尾が生えた。
「おお、耳が生えた!触っていいか?」
「駄目です」
即座に断られた。
「しかし、女子供が命を懸けて戦うなんてこっちも中々に残酷だな」
「人同士でやりあうよりはましだ。相手はバケモノだからな!」
直の言葉に直枝が返す。
「聴取は以上にしよう。菅野大尉、あなたの処遇は追って伝える」
そして、その後ラルとサーシャが話し合っていた。
「で、彼をどうするおつもりで?」
「うちで引き取る」
「本気ですか?」
「どっかの研究所送りになって人体標本にでもなったら後味が悪いからな」
「それに…」
「それに?」
「彼に関する書類作成は面倒だが、それ以上に面白そうじゃないか。異世界人なんて」
ラルは言った。
食堂
「さーて、飯だ、飯。慣れないことやると疲れるなあ」
直枝が食堂の扉を開ける。
「どわっははは、この飯うめえぞ!下原ちゃん、おかわりはあるか?」
「はい!たくさんありますからどんどん食べてください」
「私も負けませんよ!」
「お兄さん面白いねえ。今度飲もう!」
さっき見た顔が飯を豪快に食し、502の隊員たちと打ち解けていたのだ。
「なんでテメエがいるんだ!?」
「私が許可した。彼を502で預かることになってな」
直枝の疑問にラルが答える。
「おー、チビ。来たかー」
「一発殴りてえ…」
すると、白髪の少女が食堂に入ってきた。ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン「ニパ」曹長である。
「おーい、カンノー!」
「「ああっ!!?」」
「ひぃ!?」
おわり
ED曲はダブル菅野!!
なんかすごい事になってる…続くかもしれない