ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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急に投稿し始めるやつ〜



地下へと

 ーー深い微睡みの中で揺蕩うような感覚を覚えた。

 ーーここは夢の園か?

 ーーこちらを見ろ

 ーーここは何処だ?

 ーーお前は誰だ?

 ーーこちらを見ろ

 ーー今、何を見ている?

 ーーこちらを見ろ

 ーーこちらを見ろ

 ーーこちらを見ろ

 

 コ チ ラ ヲ ミ ロ

 

 

 

 

 最悪の寝覚めだった。

 時々、ラプラスは寝覚めが極端に悪くなる日があった。それは倦怠感や疲労感により押し潰れそうになるほど、まるで眠りから覚めるのを体が拒んだかのような感覚を覚えるという独特なものだった。そしてその原因を突き止めようとあらゆる方法を試したが、全く効果は現れず、唯一分かったことといえば、一度眠りについてしまうと、その夜見ていた夢の内容が一切思い出せないということとこれが起きる時は決まって彼の周りで何かが起こるということだった。

 前日の記憶は遠征に行った【ファミリア】の面々の安全を願ってと称していつも通り『豊穣の女主人』に行き、リューと晩酌をした所で途切れている。正確には、介抱されながらホームに帰ってきたところまでは覚えている。しかし、記憶が飛ぶほど酔っ払ったわけでもなく、気付いたら倦怠感と疲労感のある朝になっていた。いつものことだと頭を切り替えるが、気分が良くなるわけではないのだった。

 

(毎度のことながら、なんなんだこの症状は。最近は収まってきていたのにどうしてまた……)

 

 【ロキ・ファミリア】が遠征に出てから10日目の朝は久しぶりに憂鬱な気分から始まった。

 

「なーんか暇やなぁ〜、特にやることないしなぁ〜、アイズたん達早く帰って来んかな〜」

「うだうだ言ってもしょうがないだろ、ロキ。あと今日は久々に気分が最悪だ。正直部屋に引きこもっていたい」

「そしたらホントに暇になるやんか〜、構えーうちを構えー」

 

 朝食を済ませた後、調子を整えるために安静にしていようと部屋に戻ったラプラスはいつの間に入り込んでいたのかロキに絡まれていた。ラプラスは殆ど寝るためにしか部屋を使っていないことに加え、彼の『魔法』のこともあるため、その部屋にあるものは殆ど相部屋の団員のものであり、彼の物といえばベッドとその傍にある小さな箪笥くらいのものだ。その相部屋の住民も今は遠征に向かっているため、一人で使っていたのだが、自分のベッドの上に堂々と寝転ぶ主神に頭が痛くなる。

 

「……勘弁してくれ。後で幾らでも遊んでやるから、今日はもう休む」

「はぁ〜、タイミング悪いなぁ。ま、しょうがないかお大事にな」

 

 ロキはラプラスが度々このような状態になることはよく知っているので、体調を慮り部屋を出ようとする。しかし、ロキがベッドから立ち上がった瞬間、部屋のドアが大きくノックされる。

 

「はいはーい、どちらさん?」

「ロキ、こんなところに! 急いで来てください! ベートさんが帰ってきました!」

「なんやなんや、ただごとじゃないな、どないしたん?」

 

 扉の前にいたのは息を切らした男性団員だった。その様子を見るに最上階の主神の間からずっとロキを探し続けていたのだろう。その慌てた様子に只ならぬ雰囲気を感じたロキは急いで部屋を出ようとする。その後ろからラプラスが呼び止めた。

 

「待てロキ、おれも行く。ベートだけ帰ってくるなど何かあったに違いない」

「まだ寝てなくてええんか?」

「愚問だ。遠征部隊の労力に比べたらおれの体調など二の次だ」

 

 心配そうにロキに問われるが、ラプラスははっきりとした口調で答える。

 

(嫌な予感の正体はこれだったのか……?)

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】ホームの広いエントランスホールでは一人の狼人(ウェアウルフ)が帰還していた。その戦闘着はボロボロになっており、くぐり抜けてきた修羅場を物語っているかのようだった。

 

「おーっ! ベートー!! よく帰ったなー!!」

「うるせぇ、まだやることがあんだよ」

 

 子の帰りを喜び、はしゃいで飛び付こうとするロキをベートはあっさりと無視した。

 

「……状況は?」

毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)にやられた。今は18階層にいる。面倒くせぇが三分の一はあいつらの毒で動けやしねぇ」

「また面倒な……今団内にあるものとおれの手持ちの解毒薬を合わせても全員分を集めるのには二、三日はかかるだろうな」

「俺は【ディアンケヒト・ファミリア】に行く。どうせ買い占めても足りねえだろ、他の連中には都市中の道具屋を回らせろ」

「それならばおれはギルドに行って報告をしてくる。追加で他の冒険者からの情報を集めると共に注意喚起を促してくる」

「オッケーや、こりゃ忙しくなるで〜」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばすベートとラプラスに従い、団員達は解毒薬を求めて出発していく。ベートに替えのバックパックと骨付き肉を渡したラプラスは周りが落ち着いたところでベートに尋ねた。

 

「ところでフィンから何か言伝はないのか?」

「……ちっ、てめぇに言われて思い出したよ。おい、ロキ」

 

 肉を食べ終わり、戦闘着をまさぐった彼は懐から羊皮紙の巻物を取り出すと、それをロキに手渡した。巻物を渡したベートは後はてめえらで何とかしろ、と玄関口へと向かう。渡された巻物に書かれていた内容を読み終えたロキは、その口に笑みを浮かべた。フィンが主神に伝えたのは59階層で判明した情報、『穢れた精霊』、そして都市崩壊の計画であった。ロキの手元からその中身を覗き見たラプラスは、彼女の神意に気づき、そしてまた自らの嫌な予感が概ね当たってしまったことに辟易するのであった。

 

 

 

 

 

 

 フィンからのメッセージを受け取ったラプラスはすぐにギルドへと向かっていた。目的は毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の大量発生についての情報提供と遠征部隊の現状の詳細な情報を求めてだ。ギルドに着いたラプラスはエイナを見つけ話しかけようとするが、そこに先客がいることに気づいた。

 

「アドバイザー君、ベル君達の情報を集めてきてくれないかい? それと冒険者依頼(クエスト)も発注する。依頼内容は『ベル君達の捜索』だ」

「わかりました、上層部の許可を貰ってきます。掲示板に貼り出されるには少し時間がかかりますので、ご了承ください」

「わかった、頼んだよ」

 

 そこにいたのはどこかで見たことのある幼い女神だった。しかし、その胸にはロキが嫉妬で狂うような大きな双丘があり、ある意味一度見たら忘れられないインパクトを持つ女神であった。

 

(あれが神ヘスティアか。ロキが目の敵にしているという……)

 

 ロキがやっかみをかけているのはどう考えてもあの豊満なものであろうことは明白だったが、それよりも彼女とエイナとの会話で気になる内容があった。

 

「ベル・クラネルがどうかしたのですか?」

 

 思わず声をかけたラプラスに、ヘスティアは驚きそちらに振り返る。近くで見ると尚更その幼さと神に違わぬ可憐さを併せ持つ女神だということがわかる。突然話しかけられたヘスティアは少し動揺しながらもラプラスに目を向けた。

 

「君は、ベル君の知り合いかい?」

「……知り合い、とまでは行かないが、お互いに面識はあります」

「ヘスティア様、彼はラプラス・アルテネス。【ロキ・ファミリア】の団員でベル君と同じく私の担当冒険者です。彼の【ファミリア】に……『【ロキ・ファミリア】だって!?』

 

 ラプラスの紹介をしたエイナを遮り、ヘスティアは叫んだ。彼の所属する【ファミリア】はヘスティアにとっては最悪の相性といって良いものだからだ。

 

「……アドバイザー君、背に腹は変えられない。ベル君を助けるためなら、ボクは何だってする。例え大嫌いなやつの子供に頭を下げることになってもね」

 

 エイナの方を見た後に目の敵のように睨まれるラプラスであった。しかし、幼さが勝るヘスティアに睨まれてもそれほど怖くないばかりか、可愛さの方が勝っているとすら思っていたが、ヘスティアのその言葉には思わず口を挟んだ。

 

「お待ちください、神ヘスティアよ。おれは確かにロキの眷属ではありますが、ベル・クラネルは個人的にも気になっていました。彼に何かあったのならば是非協力させていただきたい。これはおれ個人の頼みです。どうしても嫌だというのならばすぐに去ります」

 

 真っ直ぐにこちらを見つめる瞳に嘘はないとわかり、ヘスティアは渋々状況を説明する。それを聞いたラプラスはダンジョンに関わることであり、自らの手には負えないことを謝罪した。

 

「申し訳ありません、おれは諸事情でダンジョンには行くことが出来ず……力になれず、本当に……」

「いいんだ、ラプラス君。君の誠意は十分伝わってきた。ロキのことは嫌いだが、【ロキ・ファミリア】にも良い子がいると知れて良かった。また何かあったらお願いするよ」

 

 そう言い残し、ヘスティアはギルド本部を後にした。ヘスティアの姿が人混みに紛れ見えなくなると、ようやくラプラスは自らの要件をエイナに伝えた。

 

「チュール、続け様に悪いが急を要する案件だ。現在下層で毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)が大量発生しているとの情報が出ているか? どうやら遠征部隊がそこに遭遇したらしくてな」

「ラプ君、来ると思ってたよ。ベル君のことは他の冒険者に任せてね。それで、丁度そのことに対してギルドから注意が出されるところだったんだ。でも【ロキ・ファミリア】の遠征部隊の被害状況はこちらは把握できていないんだよね。まだ中層からの帰還者の話を聞けていない状態で……」

 

 やはりギルドにも情報が伝わっているようではあったが、具体的な被害状況に関しては全容を掴めていないようだった。

 

「いや、問題ない。確かにあの虫の毒は厄介だが、遠征部隊には回復術師もいる。万が一にも毒で死者が出ることはないだろう。いざとなったら手持ちの解毒薬を持たせてベートに走ってもらうが……」

 

 ラプラスは悔しそうに顔を歪ませる。ダンジョンに行くことのできない彼には今尚彷徨い続けているベルを助けに行くことも、苦しんでいる仲間に解毒薬を渡すこともできなかった。遠征に行くことの出来ない彼に今出来ることはこれくらいしかなく、その不甲斐なさを痛感していた。自分が行って解決できるわけではないが、少なくとも、何かその場にいたことで出来ることがあったのではないかと。

 

「ラプ君……今私たちに出来る事は信じて待つことでしょ? 私たちの方にも情報が入って来るから逐一ギルドに来てもらえると助かるな」

「……了解した。忙しいのにすまなかったな、チュール。また何かあったらよろしく頼む」

 

 ラプラスはエイナに背を向けてギルドから走り去っていった。次は解毒薬を集めに行くのだそうだ。彼の迷宮に対する思いは自らの探索欲だけではなく、共に冒険する仲間に対する想いも込められていることをエイナはその背中から感じ取るのだった。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、今のところ用意できる解毒薬はこれが限界だ。必要数の半分程でしかないが……」

「ちっ……しょうがねぇ、ディアンケヒトんところも二日はかかるらしいからな。あいつらこんな時にも足元見やがって」

「仕方あるまい、向こうも商売だ。ロキ、どうする。向こうの重症者がわからない以上、今ある分だけでも早急に届けたいところだが……」

 

 その日オラリオ中から集められた解毒薬は絶対数には到底及ばない量であった。元々下層の稀にしか存在しないモンスターであり、更にそのモンスターのドロップアイテムでしか特製の解毒薬が作れないとなると緊急事態の際に数が足りなくなるのも明白だった。

 

「うーん、先に誰かに持って行かせた方がいいかもな。ベートは出来上がったやつを持っていくとして。とりあえず今できる即席のパーティで18階層まで持っていけるか?」

 

 いくら都市最大派閥とはいえ、遠征にその上位冒険者の殆どを割いてしまっているこの状況では、18階層まで向かわせることのできる団員は残されていなかった。

 

「……冗談言うなよ、ロキ。残ったこいつらが中層に留まれるわけねーだろ。俺が行って帰ってくりゃいい話じゃねーか!」

「それはダメだベート。お前も遠征の疲労が溜まっている。幾ら中層とはいえ、お前にばかり負担をかけさせるわけにはいかない」

 

 逸るベートを宥めたラプラスはロキの目の前に行くと、その瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

「……ロキ、おれに一つ提案がある」

 

 ラプラスの案はロキを驚かせるとともに、非常に悩ましいものとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 夕刻、【ミアハ・ファミリア】ホーム、『青の薬舗』

 

 【ミアハ・ファミリア】のホームでは、現在ベル一向捜索のための会議が行われていた。

 ホームに集っているのは主人であるミアハとその眷属ナァーザ。そして【タケミカヅチ・ファミリア】の面々、ヘファイストスにヘスティアという顔ぶれだった。救助隊は【タケミカヅチ・ファミリア】から3名、【ヘルメス・ファミリア】からは団長のアスフィが同行し、計4名で構成されることとなる。そこに颯爽と現れた、直接の関わりを一切持たない神物ヘルメスは、ただ彼の眷属を同行させるためにやってきたのではなかった。

 

「もちろん、今回の探索にはオレも同行する」

 

 柔和な表情でどこか胡散臭さが抜けない男神ヘルメスは悪びれもなくそう言い放つ。己の眷属のみに聞こえるようにこそこそと囁くヘルメス。

 

「アスフィがオレの護衛をしてくれるなら大丈夫さ、任せたぞ!」

 

 思わず眉間を抑えるアスフィに、ヘルメスはニヤニヤと笑っていた。それを目敏く見つけ、黒のツインテールを振り回しヘルメスを拘束するヘスティア。

 

「うぉっ!?」

「待つんだ、ヘルメス。ボクもベル君を助けに行く」

 

 有無を言わせぬ迫力でヘルメスに迫るヘスティアだが、慌てるヘルメスは彼女を説得する他なかった。

 

「ダンジョンは危険だ! 『神の力』が使えないオレ達ではモンスター達に太刀打ちできない」

 

 その忠告に対し、ヘスティアは当然承知であると頷く。

 

「でもヘルメスが行くなら、神が一柱、二柱増えても今更変わらないだろう?」

 

 その上でヘスティアの意思は固かった。自分の子を他人に任せて指を咥えて待っていることしか出来ないなど、彼女には考えられないことだった。半ば強引に同行を取り付けると、ますます困惑するのはヘルメスの方だった。

 

「……不味いな、アスフィ。彼が来ない以上、ヘスティアとオレを一人で守れそうか?」

「【タケミカヅチ・ファミリア】の彼ら次第ではありますが、保証はしかねます」

「だよなぁ……」

 

 ヘルメス一人ならまだしも、ヘスティアまで着いて行くとなると、今の戦力では心許ないということには同意する他ない。ヘルメスが熟考する中、突然ホームの扉を勢いよく開ける人物が現れた。全員が驚き、そちらに目を向けるとそこに立っていたのは息を切らせたラプラスであった。

 

「……ここでベル・クラネル捜索についてお話しされていると聞き参りました。神ヘスティアよ、無礼を承知でお願い致します。おれを彼の捜索(ダンジョン)に同行させて頂けないだろうか」

 

 

 

 

 

 

 ラプラスがロキに提案したのは至ってシンプルなものだった。現在【ヘスティア・ファミリア】の【リトル・ルーキー】が遭難している。ヘスティアはそれに対して冒険者依頼(クエスト)を発注している。自分がそれを受けて彼らの依頼を達成するとともに今ある分の薬を18階層まで届けるというものだった。当然、ロキはその案に反対した。ただでさえ久しぶりのダンジョン攻略になるのにいきなり中層までの道のり、さらにあのヘスティアを助けることなどあり得ないと。フィンとの約束に関しても条件を満たすLv.4以上の冒険者などいるはずがないと捲し立てた。ベートもロキの剣幕に口をつぐんだが、ラプラスの案には反対だった。ただでさえ弱者が嫌いな彼はそもそも主神に冒険者依頼(クエスト)を出してもらって助けてもらっているあの兎野郎が気に食わなかったことに加え、合理的ではないラプラスの考えにも納得いかない部分があったのだ。

 

「絶対反対や。なんでわざわざあのドチビ助けなあかんねん」

「……反対するとは思っていた。だがいいのか? ここで冒険者依頼(クエスト)を受けておけば神ヘスティアに多大な恩を与えることが出来るぞ。あの方の眷属に対する愛は本物だ。例えいがみ合っている神の眷属でも助けは拒まないはずだ」

「アホ抜かせ。あのドチビに関わる必要がないっちゅうねん。ドチビの弱小【ファミリア】を都市最大派閥(うち)()()()()助けたってなると面倒臭い関係を邪推されるやろ」

 

 たしかにロキの言う通り、強大な【ロキ・ファミリア】が誰もノーマークであった【ヘスティア・ファミリア】に肩入れしたとなると、何か関係性があるのではないかと勘繰る輩が出てくるのは想像に固くなかった。

 

「いや、それに関しては普段から神ヘスティアと仲が悪いことを知られているから問題ない。あのロキが露骨に神ヘスティアを助けたとなると大半の神はいつもの嫌がらせの延長だと思うだろうしな。それに【ロキ・ファミリア】からの人員はおれだけでいい。フィンとの約束も守れる算段がついている」

 

 ロキを宥めるように言葉を紡ぐラプラスの態度に半ば苛立ちながらロキは啖呵を切った。

 

「あーそうかい! なら集めてみいや、Lv.4二人。言っとくけど【ロキ・ファミリア】(ウチ)からは誰も出さんし、絶対反対やからな! あと適当な奴捕まえて嘘言うんもあかん。神に嘘は通用せえへんからな」

 

 それを聞くと顔を引き締めたラプラスはありがとう、ロキと言い残し急いで何処かへと走り去っていった。ロキとラプラスのやりとりをじっと見ているだけだったベートは、ラプラスの背中を見ながら、ため息をつくロキに近づいた。

 

「……おい、何許してんだよ」

「……しゃあないやろ。ああなったらあの子は聞かないし、ウチにわざわざ言ってきたってことはもうアテがあるっちゅーことやろ」

 

 もう一度大きくため息を吐くロキ。その様子に鼻を鳴らしたベートは、先程の彼らの舌戦の最中、ラプラスの様子がどこかいつもと違うことを思い出していた。

 

(救助なんて建前だろ。何考えてんだあの野郎)

 

 

 

 

 

 

 ラプラスが昼間、ベルを助けるために協力を惜しまないと言ったのは嘘偽りのない事実だった。しかし、ギルド本部から解毒薬を集めて『黄昏の館』に帰る途中で彼はある神物と出会っていた。

 

「やあ、ラプラス君。久しぶりだね」

「神ヘルメス……」

 

 そこにいたのはヘルメスとアスフィであった。

 以前ラプラスを睡眠薬で眠らせた前科持ちであり、ロキ、ディオニュソスと共に闇組織(イヴィルス)に関する件で同盟を組んでいる神の登場に若干警戒しながらラプラスは足早に立ち去ろうとした。

 

「申し訳ありません。今少し込み入っており、お話はまたの機会に……」

「まあ待て待て、ベル君が行方不明なのは知っているね? 実はそのことで話があってさ」

 

 ヘルメスはラプラスと肩を組むと、手で口元を覆いながら耳元で囁いた。

 

「……君をダンジョンに連れて行くことができるかもしれない。君さえ良ければベル君の捜索隊に同行してくれないか?」

 

 ヘルメスの提案に驚き、頬に冷や汗が伝う。ダンジョンに行くことを許可されたラプラスではあったが、それは早くても遠征が終わってから、フィン達と共にサポーターとして徐々に慣れていくようなものだろうと考えていた。ダンジョンに行くことを許されたことをヘルメスが知っていることにも驚いたが、なによりもその条件を満たすことができるのか気になった。

 

「……詳しくお聞かせ願いたい」

「いいね、簡単なことさ。ウチのアスフィと君が懇意にしているリューちゃんを連れて行けばいい。彼女は確かLv.4だったよな?」

 

 ヘルメスの考えはひどくシンプルなものだった。しかし、ラプラスにはヘルメスが()()()()()()()と言ったことが気がかりだった。

 

「貴方達の【ファミリア】は皆Lv.2ではなかったか? 団の等級もF相当だったと記憶しているが……」

「ハハハ、細かいことは気にするな! とにかく、アスフィはLv.4以上の実力がある。そして君がリューちゃんを説得することが出来れば、晴れて久しぶりのダンジョン攻略と相見えることができるのさ。どうだい、乗ってみる価値はあるんじゃないかな?」

「ロキを説得するには少し弱いかもしれないな……」

「そこはオレが闇組織(イヴィルス)のことで彼女と同盟を組んだところを見ているじゃないか。それに、ヘスティアに恩を売れるとでも言えばいいさ」

 

 ヘルメスは考え込むラプラスの顔を覗き込む。彼の顔には困惑と期待の表情が入り混じっていた。薄く口元に笑みを浮かべたヘルメスはパッと肩を組んでいた腕を外すとひらひらと手を振りその場を去っていった。

 

「じゃあまた会おう! 今日の夕刻にミアハの所で落ち合うことになっている。君が来てくれるのを楽しみに待っているよ」

 

 立ち尽くすラプラスを置いて行ってしまったヘルメスに、アスフィは思わず声をかける。

 

「……よろしいのですか、彼は来ないかもしれません」

「大丈夫さ、絶対に来る。さ、オレ達も準備をしないとなあ」

 

 ヘルメスは空を見上げる。いつもと変わらぬ迷宮都市の壁に覆われた青空が広がる。これからこの都市に起こる出来事にまるで興味がないように突き抜ける青空だった。

 




まだだ!!
まだ書ける!!
うおおおお!!!!!!!

感想や評価やお気に入りありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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