ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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ダンまち4期決まりましたねぇ〜


地上より

「ーー総員、これより『遠征』を開始する!』

 

 ステイタス更新から早2日、【ロキ・ファミリア】遠征の日が訪れた。あれから遠征に行く団員はもちろん、ラプラス達居残り組も忙しなく働き、ようやく準備を完了させた。

 遠征組が多くの人々から見送られる中、ラプラスはホームの窓辺からその様子を見守っていた。

 

「なーんでこんなところにおるん? みんなと一緒に下に行かなくてええの?」

 

 そこに現れたのは主神ロキ。いつにも増して遠征の準備に力を入れていたラプラスが喧騒の中にいないのを疑問に思ったようだ。

 

「ロキの方こそ、主神が見送らなくていいのか? いつもなら一緒に遠征に行く勢いで絡んでいくのに」

「うちはもう昨日散々あの子らと話したからなー。それにうちの子は強いから今回も皆元気に帰ってくる」

 

 ロキの様子にラプラスは口元に笑みを浮かべ、遠征隊の方に目を落とす。

 

「昨日は散々な目にあったからな。今日はここにいろとフィン直々に言われてな」

 

 それは先日の出来事であった。ラプラスは以前(膝枕)のお礼としてティオナにネックレスを渡したのだった。夕食の【ファミリア】全員がいる中での突然の出来事に女性陣は黄色い声をあげ、男達もそれに乗じて、いつもの賑やかさに増してさらに騒がしくなっていた。当の本人達は片や頭に疑問符を浮かべ、片やあまりにも突然すぎて完全に混乱してしまい硬直するという事態になった。

 ティオナが夢見心地の気分から帰ってきた頃にはラプラスは既に居らず、遠征前日の忙しさに気付けば深夜。漸く彼の部屋を訪れ、嬉しさのあまり一晩中部屋にいると宣言された彼は団長、副団長、彼女の姉を召喚。あわや大事故が起きる寸前に自分の部屋に戻されたティオナ(その後フィンとティオネの間にも一悶着あったそうだが)に、すっかり眠気など吹き飛ばされてしまったラプラスは結局一睡もすることなく今を迎えているのであった。

 

「お前も前日に爆弾投下すんなや、自業自得やでホンマに。あとラプラスが昨日フィン達と怪しい取引してたんも見てたでー」

「……善処する。それとあれは別に怪しくも何ともない。ただ魔剣を10本程貸しただけだ」

 

 前日、団長室を訪れたラプラスはフィンに自らの秘蔵っ子である上質な魔剣の数々を今回の遠征のために渡していた。前回の遠征にて現れた芋虫型の新種の魔物に対抗するために必要なものだとして、ダンジョンに行かなくなってから密かに集めていたものだった。フィンからすればラプラスがこの魔剣のコレクションを貸し与えることも、彼がここまで遠征に協力的なのも珍しいことだと驚くのであった。

 

(気をつけろ……フィン。今この都市では何か黒いものが蠢いているぞ……)

 

 ラプラスの予感が果たして杞憂で終わるのか、遠征に行くことのできない彼らにとって心配な種は尽きないものであった。

 

 

 

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】遠征出発から3日後、ラプラスはある高級酒場にやってきていた。厳かな雰囲気の中、そこにいたのは三柱の神とその眷属達。

 

「なんでこんなことになったんやろ……」

「まあまあ、僕たちは運命共同体じゃないか」

 

 三柱はロキ、ラプラスにとっては交流の深いヘルメス、そして最後の一柱は初めて会う神物であった。

 

「すまない、ロキ。私にとってもこの状況は不本意なんだ」

 

 ディオニュソスと呼ばれるその神は神の例に漏れず美しき美貌を曇らせ、不機嫌そうにため息をついた。ロキから着いてこいと言われやってきた酒場にいたのがディオニュソスだったのだが、いつの間にやらヘルメスも加わっており、ラプラスは他の神の眷属達に倣い壁際で話の成り行きを見守っていた。

 

(というより、最も力のある【ファミリア】の護衛がおれ1人とは、この場で交渉決裂即戦闘なんてやめてくれよロキ……)

 

 十中八九あり得ないだろうと思いながらも、戦力差を加味して一応逃走ルートは確保しておこうと考えていたラプラスであったが、そもそもディオニュソスはまだしも自分のよく知るヘルメスという神が仮に自分たちを本気で殺しに来るならば、この酒場の周囲を徹底的に封殺していることは明白であるため、この考えは野暮なのではないかなどと神同士の会合そっちのけで思考の渦に飲まれていた。

 

「……ところで、ラプラス君また自分の世界入っちゃってるけどあれ護衛として大丈夫なの?」

「ロキの所の子は個性豊かなことは存じていたが、また強烈だなあの子は……」

「あんなんいつものことや、気にしたら負けやて。さて、そろそろお開きにしよか。やっぱりうちらにはまだまだ情報が足りなさすぎる。ここから先の議論はフィン達が持ち帰ってきたものを合わせてからやな」

 

 夜も更けた頃に三柱による会合は終わりを告げた。

 

「ほら、帰るでラプラス。いつまでぼーっとしてんねん」

 

 終始全く関係ないことを考えていたラプラスであったが、流石に呼び止められては思考を切り替え、ロキの方に向き直った。

 

「なんだロキ、いざとなったらあの窓からお前を抱えて飛び降りるから心配するな」

「いや何考えてんねん、逆に心配なるわそんなん!? て、そうやなくてお前今回の食人花の件やらどう思う?」

 

 店を出てホームへの帰り道。月夜が照らす都市はまだそこかしこの店に灯りが灯されており、彼らの宴が続くことを示していた。先程の会話を話半分に聞いていたラプラスだったが、なぜ自分に問うのか疑問に思いつつも、ロキからの質問に自らの偽りない考えを答えることにした。

 

「……フィン達の話を聞く限り、少なくともダンジョンからの抜け道がこの都市のどこかしらにあるのは間違いないだろうな。そして、これはおれの戯言として聴いてもらって構わんが、その抜け道を闇組織(イヴィルス)の奴らが発見、もしくはそいつらが作った……なんてこともあり得るかもな」

 

 ラプラスの考えを聞いたロキは露骨にため息をつく。

 

「ま、そうやろなぁ。闇組織(イヴィルス)の奴らもそうやし、うちらとしてはギルドをあんまり疑いたくはないけど、ウラノスのジジィが何考えてんのかもいまいちピンとこーへんし」

「おれ個人の意見としてはギルドは白だと思うがな。ギルドの連中がダンジョン引いてはこの都市を危険に晒すメリットなんてまるでない。ましてやあのロイマンがそんなことするとは到底思えん」

 

 ラプラスの脳裏には同胞に嫌われまくっているギルドの長でもあるふくよかなエルフが思い浮かんでいた。ギルドの富を一番に享受し、それを惜しみなく使っている彼がその地位を捨ててまで今の安定した暮らしを脅かす行為を働くとは考えられなかった。

 

「それはそうやけども……あーもうわからん!! わからんことだらけや!! ラプラス、どうせ明日も暇やろ? 飲み直すで!!」

 

 ラプラスの最もな意見にロキも同意するが、どうにも拭えない不安感に苛立ち大声をあげる。そんな主神の姿に苦笑するラプラスだったが、彼女のそういった姿は見慣れたものであるし、何より彼もせっかく良い店に行ったのに酒の一つも飲めないのは口が淋しいと感じていたのだった。

 

「……つくづく、主神がお前で良かったと思うよ。ところでいいのか? 明日は神会(デナトゥス)だろう。しかも自分から呼びかけたと聞いたぞ」

「ちょっとくらい平気やって! 明日に向けて英気を養うのも大事な仕事やろ!」

「ふむ、確かに」

 

 

 自分たちにできることは遠征に行った彼らを信じて待つことであり、そして彼らがどんな困難にも立ち向かうことができる力を持っていることを一番よく知っているのもまたラプラスとロキなのであった。物事を暗く考えても仕方ないと楽観的にロキは口直しを提案し、ラプラスもその考えに賛同する。しかし、悲しいことにここに彼らを止めることのできるストッパー役は一人もおらず、酒に飲まれる一人と一柱に自重と言う名のブレーキを踏むことができるはずがないのは火を見るよりも明らかなことなのであった。

 

 

 

 

 

 

「よっしゃそろそろみんな集まったな!そしたら始めてくでオロロロロロロ」

「「「「「「「うわああああぁぁぁ!!ロキが吐いたあああああぁぁぁ!!!!!!!」」」」」」」

 

 司会進行のロキが初っ端に吐くという事件は起きたものの、その日の神会(デナトゥス)はつつがなく進行していった。

 

「そろそろ始めよか。命名式や」

 

 そしてある意味では神会(デナトゥス)の目玉、命名式が始まろうとしていた。ロキは今回の神会(デナトゥス)における一番の盛り上がりは間違いなくアイズのLv.6についてだと考えていた。

 

「というわけで命ちゃんの称号は【絶†影】に決まりだな」

「やめてくれええええぇええぇぇぇぇ!!!!!」

 

 着々と二つ名が決定していく中で、遂にアイズの番がやってきた。

 

「【剣姫】キター!!!」

「姫は相変わらずだなぁ」

階層主(ウダイオス)を一人で倒すとは……オッタルさんよりやべえのでは!?」

「オッタルさんも一人で遠征行って階層主(バロール)倒してっから……」

「ウダイオス……いい奴だったよ」

「まあ奴は四天王の中でも最弱……」

「ウダイオスさんの悪口はヤメロォ!!!」

 

 階層主を倒す偉業を成したアイズに対して神々が好き勝手に話しているが、都市最大派閥【ファミリア】の一員であり、特にロキに気に入られているアイズに対して可笑しな二つ名を付けるわけにもいかず、そのままとなった。

 

「……たく、喧嘩する相手は選べっちゅーのに。んで、次がラストやな」

 

 ロキは手元の羊皮紙を見る。そこには緊張した面持ちで似顔絵が描かれたヒューマンの姿があった。

 

(ホンマに【ランクアップ】しとるな……しかも何やねん、一ヶ月半て)

 

 そこにあったのは未だ都市に来て日の浅い冒険者特有の簡素な関連情報、そして【ランクアップ】にかかった所要日数だった。

 

(アイズの記録を抜いただけやない……あのドチビわかっとるんか、この情報を神ども(コイツら)に渡すことのリスクを……)

 

 ロキは手元の資料を見ながらイカサマの虚偽報告のことも考えるが、いくら大嫌いな神であるヘスティアであっても彼女がそんなことをする神物ではないことはよくわかっているのだった。

 

「おい、ドチビ。二つ名決める前にちょっと聞かせろや」

 

 初めての神回、初めての眷属の命名式に見るからに力んでいるヘスティアに対して、一割にも満たない疑いと、残りの九割以上を占める嫉妬と苛立ちを込めてロキは問う。

 

「うちらの『恩恵』はこういうもんやない。お前、まさかとは思うけどうちらの力使ったんやあらへんよな?」

 

 ダラダラと冷や汗を流すヘスティアに対して、質問を投げかけるロキは内心せいせいしながら凄みをきかせる。ロキの言っている『神の力(アルカナム)』の行使など使ったら一発でバレる訳で、万に一つもない稚拙な言い分ではある。しかしそんなことを指摘してロキに目をつけられては溜まったものではないし、集う神々もヘスティアの眷属の異常な成長速度に興味があったため、誰もヘスティアに味方するものはいないのであった。

 

「あら、別にいいじゃない?」

 

 しかし、その直後に二人の間に割り込むようにある神が声を響かせた。

 

「あぁん?」

「え?」

 

 ヘスティアとロキだけではなく、成り行きを見守っていた他の神も、声の方を見やる。

 

「ヘスティアが不正していないと言うのなら、無理に問いただす必要もないでしょう? それとも嫉妬しているの、ロキ。自分のお気に入りの子供の記録が()()もヘスティアの子に抜かれたから」

「んなわけあるか」

 

 天界からの長い付き合いである美の神、そしてロキと同じく都市の中でも有数の発言権を有するフレイヤに心の内を見透かされながらも即答するも、ロキはここで口を挟んできた彼女の神意に気付く。

 

(ちっ……そういうことかい色ボケ女神)

 

 以前怪物祭の時に話した内容を思い出す。ラプラスと合流する前に彼女と会っていたロキはその時忠告された内容に漸く合点がいったのだった。

 

(つまりあの色ボケの次の獲物は、ドチビの……)

 

 その時交わした契約により、ロキは今後フレイヤの獲物、つまりベル・クラネルに対する行動全てに目を瞑る必要があったのだ。

 結局その後もフレイヤが望む通りの展開となり、ベル・クラネルの成長に関することは有耶無耶になる。いつの間にかフレイヤの指示でベル・クラネルの二つ名の話し合いに移行している中で、ロキは心中穏やかではなかった。

 

(フレイヤが気に入るほど、ドチビの子は素質があるっちゅうことか? しかもうちの子達まで引き合いに出して……あ〜っ、気に食わんな〜っ!!)

 

 しかし契約とはいえ、自らがいいように扱われていることがロキには我慢できなかった。そして、イライラしながらこの状況の当事者でありながら取り残されるヘスティアに近づいた。

 

「……注意しとけよ、ドチビ。あのフレイヤが子供をかばったんやぞ? その意味わかっとるよな」

「……どういうことだい?」

 

 未だ混乱から抜け出せずにいるヘスティアに対し、ロキは鼻を鳴らす。

 

「はっ、ホンマにわからんのか。……まあええわ、どうせうちには関係ないことやしな」

 

 そう言い残し、自分の席に戻っていく。ヘスティアに対して助言するというのも癪に触るが、フレイヤの手のひらで踊らされるのも業腹であった。最後の最後に嫌な感じやな、と思いつつも一ヶ月半という前代未聞の記録を成し遂げた少年の顔を見る。緊張しつつも希望に溢れたその顔つきに、一つの記録を()()()()()存りし日の少年の思い出へと耽るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ふぇっくしオロロロロロロ」

 

 神会が終わりに差し掛かっていた頃、ラプラスはギルドに続く大通りから一本外れた裏道で吐いていた。

 

「誰だ、おれのことを噂しているのは勢い余って出てきてしまったではないか」

 

 前日ロキと飲みに行った彼は案の定留まるところを知らず、朝まで店を梯子した結果這々の体でホームまで戻ってくるという悲惨な事態を起こした。【ファミリア】の団員が遠征に行っているのに主神と共に朝帰りをした彼はこってり絞られた後、昼を過ぎた頃にようやく解放されたのだった。

 

「ロキめ……自分は神会(デナトゥス)があるからといって早々に逃げるとは……しかもおれが全部の店で支払ってるじゃないか、絶対に許さんぞ」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら、最悪の体調であってもどうしてもギルドに行かなくてはならない理由が彼にはあった。それはロキが逃げ出した原因でもある神会(デナトゥス)、そこで任命される二つ名をいち早く知るためであった。

 様々なことに精通していることで知られるラプラスではあるが、その中でも冒険者の二つ名を確認することは昔からの趣味である。元々独創的な考えを磨くために、神の超越した感性を直に感じ取れるのではないかと始めた二つ名の確認であったが、想像を絶する神々が与え賜うた二つ名の数々に魅了され、いつの日からかギルドにやって来る神会(デナトゥス)直送の二つ名の一覧を求めるまでになっていた。下界の子供達にとって神々が授ける称号は自分達の考えでは到底及ばない素晴らしいものであり、ラプラスにとってそれは正に魂が震えるほどの衝撃を与えたのだった。

 

「ハァハァ、ようやく着いたな。くそっおれも『耐異常』のアビリティがあればこんなことにはならないというのに…… 神会(デナトゥス)はとっくに終わった時間だな。そろそろ届いていてもおかしくないが」

 

 やっとギルドに着いた頃には神会(デナトゥス)は終わっていても良い時間であった。ギルドの職員達もどこかそわそわとしていることが見て取れた。神会(デナトゥス)の結果を気にしているのは例えギルドであっても同じことなのだ。

 

「あ、ラプ君こっちこっち! やっと来た、今回も見るでしょ二つ名リスト」

 

 ギルドに着いたラプラスはエイナに呼び止められる。普段は昼間に訪れることの少ないラプラスがやって来ることはエイナには当然わかっていることだった。

 

「今回もすまないな、チュール」

「いいのいいの、ほらこれが今回のリストだよ。【ロキ・ファミリア】からはヴァレンシュタインさんが候補になってたけど、結局変わらなかったんだね」

「アイズの二つ名は神々の間では特にお気に入りらしいからな。きっとあの二つ名に匹敵するものが出なかったのか、もしくはロキが却下したんだろう」

 

 リストを受け取ったラプラスは早速目を通していく。神会(デナトゥス)で使われていたものではないが、冒険者の簡易な情報も載っているため、神々がどのような意図でその名を授けたのかを考えるのも彼の楽しみであった。

 

「ほぅ、今回も素晴らしい二つ名ばかりではないか。見ろチュール。この【絶†影】なんて、一体どんな神が考えたんだ。惚れ惚れしてしまうぞ」

 

 目を輝かせて食い入るように羊皮紙を見つめるラプラスにエイナは思わずくすりと微笑んだ。

 

(あんなに熱心なラプ君、久しぶりに見たな……)

 

 時に会話を交わしながら読み進めていくラプラスは嬉々として読み進めていたが、最後の一人の情報を見ると少し顔を歪め、エイナの目をまっすぐに見つめた。

 

「……どういうことだ、チュール。これは虚偽報告ではないのか」

 

 そこにあったのは【リトル・ルーキー】ベル・クラネルの記録であった。

 

「……本当だよ、ラプ君。信じられないと思うけど、ベル君は本当に一ヶ月半で【ランクアップ】を成し遂げてしまったの」

 

 再びちらりとベルの記録を見るラプラスだったが、エイナにリストを返すと声を抑えて話を始めた。

 

「チュールのことだ、無茶をさせたわけではないことは分かっている。だが、クラネルの神は何を考えているんだ? こんなことをしては彼らの安全が保障されるとは限らないぞ」

 

 過去偉業を成し遂げた時、アイズもラプラスも騒ぎにはなりはしたが、【ロキ・ファミリア】という名前の庇護を受けて直接の被害を被ることはほとんどなかった。しかし、お世辞にも強者の部類に属していない【ヘスティア・ファミリア】、そんな弱小【ファミリア】から記録破り(レコードホルダー)が出たとなっては彼らにどんな危険が及ぶかわからない。神ヘスティアはこんなにも目立つ行いをして自らの眷属を危険に晒していることをわかっているのかラプラスは疑問に感じた。

 

「間違いなく話題になるだろうね。それに、ベル君本人も危ない橋を何本も渡っていて、その度に注意はしてるんだけど、いくらなんでもこの成長速度は……」

「異常だな。少なくとも何かしらの『スキル』『魔法』の類いが関わっているのは間違いない」

 

 他人のステイタスを見ることは御法度とされており、もちろんベルのステイタスを見たことのないラプラスですらわかるほど、ベルの昇格の速度は常軌を逸していた。かつて自らも行った荒業に近いことを行なっているのではないかと邪推してしまうのも無理はないことであった。

 

「しかし、クラネルは毎日ダンジョンから帰還しているのだろう?」

「うん、今のところ到達階層も上層までだからね」

 

 余程効率よくモンスターを狩っているのか、しかし『狩人』のアビリティがあったとしてもその蓄積の比ではなく、Lv.1の段階でアビリティを取得することは不可能である。

 完全に考え込んでしまうラプラスに対して、エイナは申し訳なさげに彼の顔を覗き込む。

 

「ごめんね、ラプ君。ベル君の成長規範は伝えられないんだ。ギルドの規則だし……」

「ああ、それに関しては全く謝る必要などない。成長の仕方は人それぞれであることは十分承知していることだ。だが、ダンジョンのことは自分で何とかするとして、問題は地上にいる時だな……」

「そのことなんだけど、ラプ君。ベル君のことを気にかけてあげてくれないかな?」

 

 エイナは心配そうな表情でラプラスに提案する。ダンジョンに入ってしまえば酷なことを言ってしまえば自己責任となるが、迷宮都市にいる間はせめて安全に過ごして欲しいという願いだった。

 

「ラプ君なら都市の色々な所に顔が利くし、それに個人的にはベル君はラプ君にとっても良い刺激になるんじゃないかと思うんだよね」

「それは別に構わんが、おれも他の【ファミリア】の団員を常に見ていることなんて出来ないぞ」

「本当に気にかけてくれるだけでいいの。ベル君が危ないことに巻き込まれるかもしれないから……」

 

 エイナの言わんとしていることが良くわかるラプラスは一つため息をつく。

 

「……わかった。だが、おれもダンジョンに行くようになる時が来る。その時までには彼自身が自衛できる状況になっていればいいが……」

 

 ラプラスはあの人畜無害そうな少年を待ち受けるであろう苦難を思うと、思わず表情を硬くするのであった。

 

記録破り(レコードホルダー)は良くも悪くも自分だけではなく、周りに影響を及ぼす。クラネルは否が応にも迷宮都市の洗礼を受けることになるだろうな……)

 




この作品が完結するまでに!!!!!
ダンまちは一体何期必要なんですか!!!!!
お待たせして大変申し訳ありません!!!!!

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