ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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ダンまち3期始まりましたね〜



ステイタス

 ギルドを後にしたラプラスは、ギルドに帰る途中でロキとフィンに別れを告げ、一人小さな路地を歩いていた。辺りはすっかり暗くなり、メインストリートでは、今日も無事オラリオに帰還した冒険者達が、自らの武勇伝を楽しそうに語り合っていた。彼がいるのは光に溢れる賑やかな表通りではなく、その道から少し外れた暗い細道で、そして決して治安の良いものではなかった。

狭い路地といっても、そこを通る者は少なからずおり、ギルドやオラリオの治安維持に努める【ガネーシャ・ファミリア】に見つかっては罰を受けるような代物を扱っている店などもこういった通りには存在する。

 ラプラスは、なるべくこういった通りには近づかないようにはしていたのだが、今日に至っては、早めに目的地に着くために、また、知り合いに見られることを防ぐために近道をしていたのだった。

すると、前から三人の男性がこちらに向かって歩いてきた。

 

「ギャハハハ!!……っち!痛ってーな!!」

「……ん?おい、こいつ【自宅警備員(ニート)】じゃねぇか?」

「ホントじゃねーか。天下の【ロキ・ファミリア】様がなんでこんな道通ってんだ?」

 

 裏路地を行くラプラスはすれ違い様にそのうちの一人と肩がぶつかってしまった。彼らは相当酔っているらしく、また剣や防具を身に纏っていることから冒険者と思われた。さらに、彼らはぶつかった相手がラプラスだということに気づいたようだった。

 

「ああ、すまない。先を急いでいるので失礼する」

 

 ラプラスは見られてしまったことと、自らの顔が意外と広まっていることに若干後悔するが、軽く謝罪をすると、足早にその場を去ろうとする。

 

「おいおい待てよ【自宅警備員(ニート)】。てめえからぶつかってきたのにその程度の謝罪で済むのかよ?」

「……おい、やめとけって」

「【ロキ・ファミリア】に喧嘩うったらやべーだろ」

 

 しかし、ぶつかった男はラプラスの態度が気に入らなかったのか、彼の肩を掴み引き寄せると文句を付けてきた。他の二人はラプラスが都市最強の【ファミリア】に所属していることから、やめるように言っているのだが、男は全く気に留めていなかった。

 

「はっ、びびる必要なんざねえさ!こいつは【ファミリア】でもはじき者なんだからよ!ダンジョンに行かねえ臆病者がなんで【ロキ・ファミリア】にいられるんだかな!本当はもう冒険者やめて【ロキ・ファミリア】の事務員にでもなったんじゃねえのか?」

 

 男はラプラスに対して言葉を捲し立てる。ラプラスはすぐにでも立ち去りたかったが、彼の力から少なくともLv.2以上のランクアップを果たした冒険者だとわかり、余計な揉め事を起こさない為にも黙ってそれを聞いていた。

 

「……そもそもこいつがランクアップした時もおかしかったじゃねえか!お前らも覚えてるよなぁ!」

 

 

 

「こいつはLv.2にはとっととなっちまったのによお、突然引退したかと思ったら、なんで()()()()()()()()()()()()()()()L()v().()3()()()()()んだ!?」

 

 

 

「教えてくれよ【自宅警備員(ニート)】?ギルドに金でも積んだのか?」

「おい!もういい加減にしろ!……すまねえ【自宅警備員(ニート)】 。このことは【ファミリア】の奴らには言わないでくれよ」

 

 ラプラスに対して怒りを露わにしていた男は、一緒にいた男達に連れられ、その場を後にする。彼らはラプラスが今回のことを【ファミリア】に告げられることを恐れ、念入りに口外しないことを約束させてきた。

 

「……」

 

 彼らが立ち去った後もラプラスはその場に佇んでいた。

 彼らの言う事に一切の間違いはない。自分はダンジョンにもいかず、更にそんなラプラスはいっそ過剰なまでに【ロキ・ファミリア】幹部から目を付けられている節がある。弱者を嫌うと他派閥にも知られているベートですら、ラプラスに対して邪険にしつつも、【ファミリア】から追い出そうとしたことなど一度もなかった。

 ふと、空を見上げると、()()()()()が闇夜を切り裂き、何処かへ向かっていた。一瞬ではあったが、かの有名な小人族(パルゥム)の四つ子、更に猫人(キャットピープル)の戦車も見えたことから、何か穏やかではない予感がしていた。彼らが過ぎた夜空には、聳え立つ白亜の巨塔が嫌でも目に入った。まるで見下ろされているかのような圧迫感を感じたラプラスは、一つ息を吐くと、目的の場所に行くことはなく、来た道を引き返す。路地の暗闇は、そして迷宮都市の象徴でもある巨塔は、不気味にもまるで彼を舐めつけているかのように、その背中に夜よりも暗い影を落としていた。

 

 

 

 

 

 

 『黄昏の館』北の塔最上階。

 

「お、おかえり〜、早かったなあ」

 

 扉が開くと、へらり、と人懐こい笑みを浮かべるロキ。彼女はソファに座り、自ら集めた高級な酒で一人酒盛りをしているところだった。

 

「んー、どしたん。何かあったん?」

 

 いつも通り神の部屋であろうと遠慮なく入ってきたラプラスに声をかけたロキは、くい、と杯に入れた深い紅色の液体を煽りながらも、彼の様子が先程別れたときとは違うことに気付く。

 

「……ロキ、【ステイタス】を更新してくれ」

 

 いつになく真剣な眼差しでラプラスはロキを見つめた。

 ロキは、うーんと悩む素振りを見せた。すると間も無く、一度立ち上がり、一つの杯を持ってくると、そこに自分が飲んでいた葡萄酒を注ぎ、さらにソファに腰掛けた自分の隣をぽんぽんと叩いた。

 

「ま、取り敢えず座りぃ。何があったか話してから考えようや」

 

 黙ってロキの言う事を聞いたラプラスは、そのまま彼女の隣に座った。ラプラスが腰掛けたところで、ロキは自らの杯を掲げると、乾杯、と机の上に置いたままの彼の杯をカチンと鳴らした。今度は煽るようにではなく、味わって飲むかのように少しずつその杯を傾けるロキに対して、ラプラスはただ杯に映る自分と見つめ合うだけだった。暫く彼女の喉を葡萄酒が潤す音だけが部屋を支配していたが、不意にラプラスが口を開いた。

 

「……久し振りに自分の器を確認したくなっただけだ」

「ダウト。そんな辛気臭い顔されたら余計何があったか気になるやん。それに、神の前では嘘はつけへんで」

 

 ロキは微かに紅くなった頬でにやりと笑い、ラプラスの顔を見る。部屋の中はラプラスが来たときには少し照明を落とした状態であった。彼を覗き込んだロキだったが、彼の横顔は憂いの帯びた表情と相まって、女好きを公言し、さらに整った容姿の多い神々との交流も多分にある彼女ですら、思わず注視してしまうほどだった。

 こいつ意外と顔良いなと関係ないことを一瞬考えるロキだったが、ラプラスはそんなことも露知らず、何処か思い詰めた表情のままだった。

 

「別に【ステイタス】の更新がしたいこと事態は嘘ではないんだがな……」

 

 いつもなら食い付いてきそうな貴重な葡萄酒にも目もくれず、ぎこちなく薄い苦笑いをする彼の表情から、何かを察したロキはそれ以上詮索することをやめた。

 

「何がなんでも話さんつもりか……」

 

 これ以上は暖簾に腕押しと考えたロキは、はぁ、とあからさまに大きな溜息をつくと、ラプラスに背中を見せるように促す。

 

「かー、全く難儀な子に育ったわ!こんな子に育てた覚えはないで!」

 

 ぎゃいぎゃいと文句を言いつつも、机から針を取り出したロキを見て、ラプラスは苦笑しつつも、上着を脱ぎ、彼女に背中を向けた。

 

「ダンジョンに行くから気ぃ引き締めてるのかと思ったら、まさか落ち込んでるとはなあ」

「落ち込んでない」

 

 意地でも喋らないつもりのラプラスに、ロキは彼の【経験値】を反映しながら、その背中、()()()()()()()()()()()()()()()()()が深々と残る背中に声をかけた。

 

「……Lv.のことで何か言われたんやろ?」

 

 ロキの言葉に答えはなかった。ただ、彼の膝に置かれた拳は先程よりも少し強く握られていた。

 

「……あの時はうちらもお前のことを良く見てやれんかった。それにその後の情報操作も甘かったしな」

「……あれはおれのどうしようもないエゴと幼稚さ、そして醜さが招いた結果だ。全て……自業自得だ」

 

 あらゆる感情を押し殺したように呟かれた言葉に、ロキは何も言うことができなかった。しかし、それでも……

 ロキはラプラスを後ろから抱きしめた。それは、母親が子を慰めるような優しく、温かい抱擁だった。

 

「……子が間違えたら親は全力で叱って、そんでまた送り出してやるもんや。ラプラスはもう反省も後悔も十分したやろ?だったら他の奴に何言われても気にしなくてええ。うちはお前がどんな奴か一番良く解ってる。また同じ間違いをするなんて、お前が一番嫌いなこともな」

「……」

「澄ました顔してとんでもない負けず嫌いで、しかも結構夢見がちな所あることもな。うち知ってんで。ミア母ちゃんの所のエルフちゃんに頼んで鍛錬してもらってることも。毎朝一人で秘密の特訓してることも」

「……!?」

 

 ラプラスを抱きしめていたロキは、いつのまにかその腕を押さえつけるようにし、人差し指で彼の頬をぐにぐにとつつき始めていた。ラプラスは何故かバレている自分の修業事情に関しては流石に驚きを隠せなかった。

 

「ベートといい、ラプラスといい、何でそんなに自分の修行見られたくないん?恥ずかしいんか?」

 

 ぐりぐりと頬に攻撃を加えてくるロキに対して、ラプラスは反論出来ず、顔を赤くし、されるがままの状態だった。暫く弄られていたラプラスは、【ステイタス】の更新が終わっていたことに気がつくと、彼女の腕を振り払った。

 

「ほれ、ほんまに久々に更新したけど……」

 

 ロキから渡された羊皮紙に刻まれていた自らの器は、以前から全く変化はなかった。

 

「まあダンジョン行かなきゃそんなもんやで!これからはぐーんと伸びるて!あんまり思いつめん方がええ!」

 

 からから笑うロキに、受け取った紙をじっと見つめていたラプラスは、ロキの言葉に力無く微笑すると、ソファに掛けていた上着に袖を通し、その紙を持ったまま、部屋を後にする。

 

「……ありがとうロキ。忙しいのにすまなかった」

 

 彼女の方を一瞥もせず、部屋から出て行ったラプラスを見送ったロキは、頭をがしがしと乱暴に掻き、苦々しげな顔をして息をつく。しかし、そのすぐ後に来た客人に顔を綻ばせた。

 

「……ロキ、いる?」

「待ってたでー!アイズたーん!!」

 

 ラプラスのことは目下のところ悩みの種ではあるのだが、今はやって来た彼女に悪戯をすることにしたロキ。彼女がいつも通りアイズにセクハラしようとして斬られかけるのも時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 何度見ても変わらない数字。頭の中では先程の冒険者の言葉が幾重にも反芻していた。

 

「ダンジョンに行かなくなってから、か…」

 

 一人呟くラプラスの瞳は何処か遠くを見つめていた。

 

 

 

 




全冒険者の内半分がLv.1だというのに何黄昏てんだこいつ


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