ダンジョンなんだから探求を深めて何が悪い   作:省電力

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お久しぶりです(一年以上

相変わらず拙いですが細々と投稿です

それではご覧ください


神酒

「身体中が痛い……」

 

【ロキ・ファミリア】の最上階、主神の部屋。そこでソファーに寝そべり唸っているのは、昨日ベートに『特訓』をして貰い、絶賛筋肉痛に苛まれているラプラス。

 

普段より元気のない狼に構ったら噛み付かれた。

 

そうロキに溢すラプラスは、主神の部屋だというのに、まるで自分の部屋の様に寛いでいる。このヒューマンが余程この部屋に入り浸っていることが伺える。

 

「……いや、それより一応ウチ、主神なんやけど……慣れ過ぎやない?」

 

「……今更すぎるだろう」

 

「それもそうやな」

 

カリ、カリとペンを走らせる音が響く。暖かな春の陽気に微かに夏の香りの風が吹く。

 

「……珍しいな、ちゃんと仕事しているなんて」

 

のそり、と身体を動かし、ロキの方へ気怠そうに視線を向けるラプラス。それを見た女神はこめかみの辺りを震わせてこの失礼な眷属を見下ろした。

 

「ほ〜う、それは何時もウチが暇してるゆーんか?」

 

「そうだ」

 

「ぐはぁッ!」

 

椅子からひっくり返る様に倒れたロキは、薄い胸を押さえてのたうちまわった。

 

「そんな間髪入れずに言わなくてもえーやん!ウチやってなあ……ウチやってやる時はやるんやで!」

 

じたばたギャーギャーと騒ぐ女神を見ていられない、というか目もくれずにラプラスは再びうつ伏せになり、ソファに身体を預けていた。

 

「はっきり言って、今の俺に何時ものノリは期待しない方がいい」

 

若干くぐもった声で言うラプラスに、ロキは不思議そうに尋ねた。

 

「そないにベートと頑張ったん?」

 

「あれは訓練などではない。唯の拷問だ」

 

「ベートが聞いたら余計怒らせそうなことを……」

 

「Lv.差が有り過ぎるんだ。あいつ、そろそろランクアップするんじゃないか?」

 

「マジか!アイズたんもそろそろランクアップしそうやし、これは楽しみやな〜」

 

ニマニマした顔でラプラスの方へやって来るロキはそのまま彼の上に座ろうとする。

 

「もしお前が俺に触れでもしたらこの館にある全ての酒瓶を叩き割るからな」

 

が、地獄から響くような声でその行動を制したラプラス。ビクッと身体を震わせたロキは、そのまま苦笑いをする。

 

「アハハ……頑張って修行してきたラプラスはんにそないなことするわけないやん……」

 

「……はぁ」

 

そう言って彼は寝そべる体制から、ズルズルと身体を起こし、ソファに寄りかかる様に座った。その空いたスペースにロキも腰掛け、伸びをする。

 

「……もう書類仕事は終わりか?」

 

「ん〜〜!何か疲れたわー」

 

「お前らしいな……」

 

そこで会話は切れる。しかし、お互いに言葉の無い、この静かな時間はここ数年では数え切れないほどあることだった。()()から一番長く過ごしている者同士、そこには確かな信頼があった。

 

「!!」

 

すると突然ロキが動きだし、何かを探る様な動きをする。

 

「……何だ?」

 

「……酒の匂いがする」

 

「は?」

 

「これは……!!」

 

バン、とドアを開け放ち、何処かへと行ってしまった。何となく面白そうだから、と言う理由だけでラプラスも、痛む身体に鞭打って這いずる様に部屋を出て行く。

 

ロキに追いつくのは少し時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

「……来たか?」

 

「え……?」

 

バン、と大きな音をたて、ドアが開いたと思うと、赤髪の女神が目の奥を光らせてやって来た。

 

「あ〜! やっぱりソーマや! なぁなぁリヴェリア〜、ウチにもそれくれん? ウチの目の黒い内はソーマの独り占めはさせへんで〜!」

 

「ああ、元々、お前に渡そうと思っていたものだ。酒に煩いのはお前と彼奴くらいだからな」

 

その言葉を聞き、ロキはやっり〜、とリヴェリアの手から奪い取るように酒瓶をその手に抱くと、どこから取り出したのか御猪口にそれを注ぎ、一気に飲み干した。

 

「……んぐっ! かっ〜〜〜! 美味い! やっぱしソーマは最高やなぁ!」

 

その様子を見ていたリヴェリアは、未だ少し混乱の中にいたエイナに酌をした。畏れ多そうにそれを受けたエイナも、少々の美酒を煽る。

 

「……っ! これは……! すごく美味しいですね……!」

 

「当然だ。失敗作とはいえ仮にも神ソーマの手作りだ。不味い訳がない」

 

と、そこにいたのは、壁に寄りかかりながら、何とかこの部屋まで辿り着いたラプラス。エイナに挨拶をするも、今の彼の身体には酷だったのか、手足が小刻みに震えていた。

 

「あ、ラプラス」

 

「なんだ、アイズも居たのか」

 

「うん、身体平気?」

 

「平気ではないな」

 

そのまま普通に会話を始める二人だが、エイナはそれには慣れているのかラプラスのある言葉に違和感を感じていた。

 

「失敗作……? これが?」

 

美しく透き通る透明の美酒は、とてもではないが失敗作とは言えないほどに美味であった。彼女のその疑問に最もだと、リヴェリアも首肯する。

 

「ああ、その話はロキが詳しいぞ。それと、そこの男もな。そら、ラプラス。神ソーマについてエイナに教えてやれ」

 

「教えると言っても、俺はそれ程ソーマに詳しいわけではないぞ。まあ、下界の者の中では神ソーマと一番親しい自信はあるが」

 

「その話を聞きたくて来たの。ラプ君なら、【ソーマ・ファミリア】についても詳しいんじゃないかと思って」

 

ふむ、と唸るラプラス。すると、いつの間にソーマを飲み干していたロキが、また別の酒を呑みながらエイナに説いた。

 

「せやったらウチからも、ちょちょっとあのネクラ神について話しとこーかな。あいつと会うたんは、ちょっち前なんやけど……」

 

ロキが神ソーマとの出会いをエイナに語っている間、ラプラスは手持ち無沙汰にしていた。そこに今まで静かにしていたアイズがやって来る。

 

「……ラプラスは、ソーマ様にお酒の作り方を教わってるんだよね?」

 

「む、ああ、そうだが……」

 

「じゃあ、ファミリアの事情とかも知ってるの?」

 

「いや、俺はあくまで神ソーマと個人同士の関係で師事を仰いでいる。ファミリア同士の関係となると、話がややこしくなるからな」

 

「【ロキ・ファミリア】が強いから?」

 

「まあ、そういうことだ。俺も、『ソーマ・ファミリア』については他の冒険者達と同じくらいにしか知らないようにしているからな」

 

ぽん、とアイズの頭に手を置き、冒険者とは思えないほど滑らかな金髪を梳くように撫でていく。んふー、とアイズもリラックスしていると、ロキが目敏くそれを見つけた。

 

「あー!! ラプラスがアイズたんとイチャイチャしとるー! アイズたんはウチのもんや! ラプラスなんかにはやらへんでー!」

 

「ロキ、うるさい」

 

「ガーン!」

 

 

 

 

 

 

「力になれず、すまなかったな」

 

「ううん、全然。それよりラプ君も辛そうなのに見送りにまで来て貰ってゴメンね」

 

「いや、構わんさ。此方の事情だ。寧ろ俺一人に見送りさせる彼奴等に文句を言ってやりたいがな」

 

エイナの帰り際に着いて行くよう猛烈に指示され、結局家まで送り届けることとなったラプラス。アイズも付いて行こうとしていたのをリヴェリアとロキが必死に止める中、『黄昏の館』を後にしていた。

 

「ね、まだ夕方だし、ちょっと何処か寄っていかない?」

 

「む、珍しいな。チュールがそんなことを言うとは。まさか、ソーマ一口で酔ってしまったのか?」

 

そう言い、口許を緩めたラプラスにエイナは少しむくれると、彼に詰め寄った。

 

「むぅ〜、そんなことないよ! 全く、ラプ君は大人しく私に従うこと! 忘れてるのかもしれないけど、私、君より年上なんだからね?」

 

「……少しからかいすぎたか。悪かった、何がお望みか、お姉様?」

 

「やっぱり馬鹿にしてるでしょー!」

 

初夏の喧騒の中、オラリオは上機嫌そうな二人を優しく包み込んでいるようだった。

 

 

 

 

 

翌日、ラプラスはとても不機嫌だった。いつもと同じく主神ロキの部屋の豪華なソファーに、腕を組み目を伏せて座っていた。しかし、ピリピリとした空気を醸し出しているのは一目瞭然だった。そんな空気を出された部屋の主人はたまったものではないと彼に声をかけた。

 

「なぁ〜ええ加減機嫌直しー。しょーがないやろー、モンスターが出るかもわからんのやし」

 

「別に怒っているわけではない。ただ、ダンジョン解禁が言い渡された直後に俺だけ留守番とは、生殺しも良いところだ、そう思っただけであってな……」

 

「だったらピリピリすんのやめーやー。空気悪くなるとウチの気分も悪くなんねん」

 

「むぅ……」

 

本日、【ロキ・ファミリア】の精鋭は以前ロキとベートが探索した下水道を調査していた。そこでは強力なモンスターが出たというが、ベートが撃退していたのだった。ダンジョン攻略への参加を言い渡された直後の【ファミリア】単位での仕事に参加できないことにラプラスは不満を覚えたのだった。しかし、ロキに諌められても尚ラプラスはどこか不満気だ。そんな彼の様子を見た主神は、溜息を吐いた。

 

「はぁ〜しゃーない。今度飲みにでも連れてくからこの話は終わりにしよ!それより、昨日エイナたんとはあの後どこ行ったん?まさか、あのまま家に帰したとか言わへんよな?」

 

ロキの話題変換にラプラスも少し不満を抑え昨日のことを思い出す。

 

「……ああ、昨日は一度訪れたことのあるカフェに行ったぞ。以前からチュールが気に入っていたようだったからな」

 

「ほうほう、そこに他の女の子おったん?」

 

「いや、二人だけだったが……何か不味かったのか?」

 

その言葉にロキは思わず破顔した。可愛らしい女の子が大好きなロキだが、彼女も神の一柱、下界の子供たちの恋愛も大好物なのだ。もちろん、自らの眷属であるティオナを一番に応援している。しかし、ラプラスを取り巻く複雑な女性関係にめちゃくちゃ首を突っ込んでやりたいのは、やはり彼女が悪戯の神である所以であるのか。ラプラスの周りは彼に対して純粋にアドバイスをする神と、彼の状況を楽しんで弄ぶ神がきっぱり別れている。彼女がどちらなのかは最早言うまでもあるまい。

 

「へぇ〜そっかそっか、それは楽しかったよな〜」

 

「……まあ悪くはない時間を過ごしたと思いたいが。むぅ……何故だか嫌な予感がする。ロキ、お前何か企んでいたりしないだろうな……」

 

ラプラスはロキに訝しんだ目を送る。そんな彼に涼しい顔でロキは答えた。

 

「まっさかぁー!ウチがそんなことするような神に見えるか?」

 

「見えるな」

 

「ズコーッ!……と、まあ茶番はこんくらいにして、どや?機嫌直ったか?」

 

「はぁ……確かにもう気分は悪くないが、お前にしてやられたと思うと少し癪だな」

 

「ホンマに生意気な奴やなー……どうしてベートといい、お前といい、そんなに構ってちゃんなんや!うりうり!」

 

ロキはソファーの後ろから彼の首に腕を回し、側頭部にぐりぐりと拳をあてる。すると彼は少し顔をしかめ、抵抗し始めた。

 

「やめろやめろ、お前にそれをやられても全く嬉しくないぞ!」

 

「ちょい待てや、それどういう意味や!」

 

「そんなの決まっているだろう、お前の『嘆きの大壁』がッガ!?」

 

 

 

 

 

 

後に部屋に入ってきた【ロキ・ファミリア】幹部はその部屋の惨状に様々な反応を見せた。ソファーに腰掛け、頭部から赤い液体を流しながら動かないラプラス。そして、割れた酒瓶を持ち、青い顔でガタガタ震える主神ロキ。

 

「ち、違うんや!ウチは悪くない!この男が……この男が悪いんや!」

 

ロキは顔からあらゆる液体を垂れ流しながら一番に部屋に入ってきたフィンにしがみついた。その後ろから部屋を覗いたガレスとリヴェリア、そしてティオネは溜息を吐き、ベートは何処かへ行ってしまった。彼らの反応と違うのは案の定ティオナとそして意外にもアイズだった。アイズは驚き、目を見開いた。そしてラプラスに駆け寄っていった。ティオナは一瞬でロキに詰め寄ると光の無い瞳でロキに話しかけた。

 

「ナニガアッタノ?」

 

「ひぃ〜〜!!ち、ちゃうんや!アイツが、ウチを『嘆きの大壁』とか言ってきて〜!!つい、カッとなってもーたんやー!!許してーなー!!」

 

おいおいと泣きながらロキは弁解を始めた。

 

「その通りだ。あれは完全に俺のミスだった」

 

「うわぁ!!喋ったぁ!!」

 

アイズが心配そうに見ているが、構わずラプラスは何事もないかのように事の顛末を話し始めた。それを聞いたフィンはやれやれと額に手を当てた。

 

「つい口が滑った。ロキが慰めてくるのは……何となく恥ずかしかったからな……悪ふざけが過ぎた、すまん……」

 

「こういうことはもうしちゃダメだよ」

 

「む、アイズに言われてしまうとはな、反省している。もうせんよ」

 

膨れっ面のアイズに申し訳なさそうにラプラスが謝る。普段は見られない光景だが、それに和んでいる場合ではなく、フィンは疑問に思っていたことを口にした。

 

「つまり、その赤い液体は……」

 

「ああ、ワインだ。いくら俺でも流石にロキの攻撃で出血はせんな。ロキは焦ってそれどころではなかったようだが」

 

「お前なー!それは悪趣味すぎるやろ!!ウチはホントに心配したんやからな!慰めた恩を仇で返すとかウチはそんな子に育てた覚えないで!!」

 

「まあまあ、ロキ。僕らが怒らなくとももっと怖い子がいるだろう?後は()()に任せようじゃないか」

 

そう言ったフィンはちら、といつのまにか静かになった彼女を見た。ゆらり、と立ち上がった彼女はフラフラとラプラスに近づき、頭を片手で掴んだ。

 

 

 

「ゆっくりお話ししようね?」

 

 

 

翌日、ラプラスの姿を見たものはいなかった……

 

 




創作仲間に感化されて一気に書きました。

あと、周りの環境が落ち着いて執筆に当てる時間が確保できるようになったからですかね。

次話もいつになるかわかりませんが完結はさせたいので気楽にお待ちください。

感想・評価・批評等お待ちしております

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