無意識少女は海を漂う   作:恋し石

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可愛いは正義

つまり

こいしちゃんは正義

いいかな?


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衆目に現れる無意識

食べながら寝るという珍事を起こしつつも、エースは山のような食事を終え、フォークを皿の上に放り投げてカランカランと音を立てる。そして改めてルフィのことを店主に聞こうとした時だった。

 

「よくもぬけぬけと大衆の面前で飯が食えるものだな。白ひげ二番隊隊長ポートガス・D・エース。」

 

「し、白ひげ海賊団!?」

 

「あ、あの白ひげ海賊団の一味が何でこの町に!?」

「見ろ、あの背中!白ひげ海賊団のマークだ!」

 

店の入り口のほうから聞こえてきた声に店主は驚き、店内は再び騒然となった。エースはあえて振り返らず、背中を向けたままニヤリと口角をあげる。

 

自分の名を知らないやつには知らないなりに対応する。知っているやつにはそれなりの対応する。それに自分の名を知ってなおわざわざ声をかけてくるようなやつは興味本位、腕が立つやつが多い。

 

ここしばらく名を知って声をかけてくるものがいなかったこともあって、エースのテンションはたぎってくる。

 

「名の知れた大物海賊がこの国にいったいなんのようだ。」

 

「探してんだ、弟をよ。」

 

「弟?」

 

質問を答えると同時に振り向き、相手を確認する。そこにいたのは二本の葉巻をふかし、背中に十手をさした白髪の海兵、スモーカーだった。

 

両者とも何も発さずにただただお互いを見やる。周囲の人々も固唾をのんで見守っている。

 

沈黙を破ったのはエースのほうだった。

 

「んで、俺はどうすればいい?」

 

「おとなしく捕まるんだな。」

 

「却下。それはごめんだ。」

 

「まぁ、そうだろうな。」

 

スモーカーは一息つき、そのまま続ける。

 

「俺は今別の海賊を探しているところだ。正直お前の首なんかに興味はない。」

 

「じゃあ見逃してくれよ。」

 

「そうもいかない。」

 

会話の応酬。交渉の決裂と同時に右腕を白い煙にさせ、いつでも発射できるように構える。モクモクの実のケムリ人間。自然系だとわかる。

 

「俺が海兵で、お前が海賊である限りな!」

 

「つまらねぇ。楽しくいこうぜ。」

 

二人の間に緊張が走る。一秒一秒が長く感じる。ここ最近まともな戦闘はしてこなかった。そりゃそうだ。必要外な戦闘はしない。それに見る限り自然系。まして自然系の能力者との戦いはもっと久々だ。男として戦いには血がたぎる。

 

周囲も今か今かとヒヤヒヤする。海賊と海兵の戦いはほとんど見たことがないうえ、まして相手は大物海賊。どんな戦いが見れるのか。心の奥底では楽しみにしている。

 

 

 

「いや、私海賊じゃないんだけど。」

 

しかし、二人の緊張を破ったのは場違いな少女の声だった。

 

「「んん?」」

 

突然声が聞こえてきたほうに顔が向く。ちょうどエースの隣の席。いつの間にか座りなおしていた少女、こいしがいた。その手にはスプーンとアイスクリーム。どうやらおかわりをしていたらしい。

 

「なんだ、まだいたのか。」

 

「うん♪」

 

アイスを食べながら嬉しそうにかえす。

 

っと、集中を切らしてしまった。

 

再びスモーカーに顔を向けたとき、意外にも硬直してしまった。なぜなら、葉巻を床に落とし、口を半開きにして目を見開いたまま少女を見るスモーカーの姿がそこにあったからだ。

 

明らかな動揺が見て取れる。先ほどまで自分に臨戦態勢をとっていたとは思えないほどに。この海兵があんなに驚くとは…。この少女はいったい何者なんだ。

少女に対する疑問ばかりが募っていく。

 

「て、てめぇは…“無幻の狂人“コイシ…!」

 

「無幻の狂人?誰だそれ?」

「ほらあれ、ずいぶん前に海賊船を襲撃したあの…」

「ああ、あれか」

「実在したんだ」

 

エースのときほどではないが周囲で声があがる。知名度は白ひげの方が上だった。

 

“無幻の狂人”。確かにそう言った。新聞で見たことがある。あらゆる海にて海賊、海兵の船を襲い、そこにいた全ての人間を殺す狂人。にもかかわらず目撃情報が一切ないため幻とも言われる。俺も眉唾ものだと思っていたが…。

 

目線の先にはおいしそうにアイスを口にする少女。これっぽちも虐殺を繰り返すような狂人には見えない。つまり、実は性格を偽っていて油断した隙に狩るタイプなのだろうか。

 

いや、そうじゃないだろう。きっと馬鹿の類だ。なんにせ俺と奴の間でしか会話してなかったのに自分も言われてると思って口をはさむようなやつだ。そんなのがこんな狡猾な真似ができるとは思えない。

 

じゃあ素でこれなのか?なんかルフィみたいだな。もっとも経歴は全く似つかないが…。

 

「まさかこの目でお目にかかれるとはな。てめぇが本当にあの無幻の狂人か?」

 

「無幻の狂人…?そういえば昔見た手配書にそんな二つ名があったような…?ああ、それ私か。かわいく撮れてるなぁ〜としか思ってなかったわ。」

 

だめだ。あまりに無頓着すぎる。というか自分の手配書をみた感想がそれかよ!

 

「とても40年前から活動しているようには思えねぇが?」

 

40年前!?おいおい、明らかに俺よりも年上じゃないか!こんな呑気にアイス食っているやつが?無理だ。ぜんっぜん年上に見えない。絶対年下だ。この容姿で年上はありえない。

 

「む〜ひどいなぁ〜。今も昔も私は私だよ。」

 

ちょっとむすっとしながらスプーンを相手に向けて抗議する。しかし、その様子は威嚇ですらなく子供が親に文句を言っているようにしか思えない。

 

本当にこいつが噂の狂人か?エースも疑いだした。

 

スモーカーはしばしこいしを見つめ、考え事をした後、再度右腕をケムリにさせる。おしゃべりは終わりのようだ。

 

「ふん、少々予想外なことがあったが変わらねぇ。火拳のエース、無幻の狂人、貴様らはここでおれが捕まえる!」

 

緊張が再びはしる。エースも気持ちを切り替えていつでも火銃が放てるよう準備しておく。

 

「む、これからなにかおもしろいことが起きそうよかんがする!」

 

そしてキュピーンとこいしが再び変なことを言って水を差す。いい加減空気読め。おめぇも狙われてるんだぞ。口にしようとした瞬間だった。

 

「—————のロケット!!!!!」

 

「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁーーーー」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおーーーー」

 

逆海老反りの状態のままこちらに突っ込んでくるスモーカー。予想外からの攻撃だったのか、自然系も発動できなかったようだ。

 

あまりの事態にエース驚愕した。目玉も飛び出す。自然系?無理だ。この事態に冷静に能力を使えるほど鋼の心は持ってない。

 

叫ぶことしかできないエース。自分に向かって飛んでくる様子がスローモーションで見える。

 

ズドォーーーーン

ガシャーーーーーーン

 

ついに二人は衝突。カウンターを突き破り、店の壁を突き破り、隣の家の壁を突き破り…。

 

「あははははははは。すごいすごーい!人間ビリヤードだ!!」

 

二人の耳には人の心配など毛ほどもしない少女の笑い声が遠くから聞こえてきた。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

「ふざけやがって…」

 

スモーカーは埋もれた瓦礫から起き上がり、ぼやいた。もうすでにエースやコイシのことは頭から抜け落ちている。今あるのはいきなり背中にアタックしてきたどこのだれとも知らない常識知らずへの怒り。

 

葉巻に火をつけ、気分を落ち着かせる。何かにあたりたくなるほどイライラしているのだ。まあ、それはもっともだが。どこの世界に背中に頭突きされて怒らないやつがいるのだ。

 

立ち上がって服についた汚れを払いおとす。葉巻で少し落ち着いたようだ。払い終わったら店の方へとぶちあけた穴を通ってむかった。火拳も同様に歩き出していたことが正面をみればわかる。同じように突っ込んできた人物に対して憤りを隠せないでいる。途中食事中の夫妻が目を点にしてこっちを見ているので軽く詫びるという事件もあったが…まあ穏便に済んでよかった。

 

「あなたおもしろいね。」

 

「んん、誰だおめぇ?」

 

「ふふ、私はこいしっていうの。よろしくね麦わら君。」

 

「おれはルフィ。海賊王になる男だ」

 

食べながら言う犯人。少なくとも言葉と格好が似合わない。人様を突き飛ばしたことはどこへやら、呑気に飯を食べる。しかも全て手でつかんで口に放り込むという原始的な食べ方。周りもあんぐりだ。

そしてそれと談笑するこいし。あ、アイスは完食しました。おいしかったです。まる。

 

二人が店の中に戻る寸前、周囲の人々は一斉に逃げ出した。当たり前だ。だれも大物海賊と強面海兵の逆鱗に巻き込まれたくはない。面前の二人、いや一人のことよりも我が身が大事なのだ。

 

店の中でガツガツ食っているやつの正体を見つけ叱責してやろうと思った寸前、それが自分の探し人だと気づいたのはほぼ同時だった。

 

「おいルh」

「麦わらーー!!」

 

目の前にいたエースを真横に吹き飛ばし、エースは厨房に突っ込む。ドンガラガッシャーンと音をたて、再びエースは瓦礫に埋まる。

 

「探したぞ麦わら!やっぱり来たなアラバスタに!」

 

イニシアチブをむしり取ったスモーカー。声をあげて再会を口にする。なんにせ麦わらを追いかけて“東の海”、ローグタウンから“偉大なる航路”までやって来ていたのだ。通信傍受などあらゆる手段を使って麦わらの情報を集め、こうして待ち伏せにまで至っている。これで会えなかったら何しに来ていたのか。

 

一方、ルフィはスモーカーをじっと見つめる。エースは一瞬でしか見えなかったので全く気づいていない。こいしは横で口元を抑え、笑い噴き出すのを我慢している。その間ルフィは食べるのはやめない。肉が魚が、掃除機のように胃袋へ押し込まれる。何も発さずただただ時間だけが過ぎる。

 

「食うのを止めろ!!」

 

そう言われてもルフィは止まらない。変わらず両手でばくばくと。

 

なにせ今ルフィは……こいつだれだっけ?って思っているのだから。

 

そして少し記憶を思い返す。ローグタウン出航前に襲われ、自然系の能力に手も足も出なかったことを思い出し…

 

「ぶはぁぁぁーーー」

 

口に含んでいたものを相手の顔面に吹き付けながら喋り出す。顔はもうよごれよごれ。汚い。

 

「あん時のケムリ!何でこんなところにいやがる!」

 

「んのヤロー…」

 

怒りはもうど頂点。

傍ではこいしは腹をかかえて笑っている。人の不幸は蜜の味、そう捉えられてもおかしくはない。もっともそれにツッコむひとはいないが。

 

もう我慢できない。今にも襲いかかろうとした瞬間、

 

「ちょっと待て!」

 

ルフィは片手で静止させる。不意に言われたものだから何となく止まってしまった。

 

そして、目の前の食べ物を一気に口に含む。明らかに人の口の大きさを超えた要領だが、そこはゴム人間。口もゴムで伸びていく。あっという間に料理の皿は空になった。風船の口を抑えるかのように両手で口を閉じてひとつ…

 

「どぉも、ごっちょさまぁでした。」

 

礼儀は忘れない。そして回れ右してダッシュ!

 

「待て!!」

 

数秒前の信じがたい光景に硬直してしまったが、すぐに硬直を解いて走って追いかける。先程止まってしまった自分が憎い。顔は走りながら拭いて汚れはとった。

 

走りながらルフィは口の中のものを消化する。それはもうゴックンと。食べものを飲み物のように飲み込む。噛んですらない。

 

二人の追いかけっこが始まり、人びとは道をあけていく。進路はいまだ直線。ただただまっすぐに二人は駆ける。

 

途中俺は麦わらが走るさきにいるものを見つけ、叫ぶ。

 

「たしぎーー!!」

 

進行上にいたのは自分の部下である曹長たしぎ。上司の声に反応してすぐさま対応を…

 

「はい、スモーカー大佐。タオルですか。暑いですねーこの国はー」

 

してくれなかった…。相変わらず呑気なやつである。もっともそれを口にする間も惜しい。

 

「そいつを捕まえろ!!麦わらだ!!」

 

「麦わら!捕まえます!!」

 

事態の緊張性に気づき、近づいてくる麦わらに向かって刀を一閃。ルフィはひょいと跳んで躱す。そのまま建物の出っ張りを蹴り、壁キックの要領であっという間に屋上へと登った。

 

軽く舌打ちをして、

 

「たしぎ!海兵どもを緊急招集!町を隈なく囲って麦わらの一味を探し出せ!!」

「はい!!」

 

麦わらの一味を捕まえるべく指示をだす。自分は足を煙にすぐさま屋上まで上昇、麦わらを追いかけた。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

見失った。当たる寸前に建物の隙間に落ちたり遮蔽物をうまく使ったりと、ちょこまかと逃げられた。だが、緊急招集をかけてからそれなりに時間が立っている。もうじき見つかるだろう。その時にそこへむかえばいい。

 

それにしても…と煙で進みながら先ほどの麦わらとの会話を思い浮かべる。クロコダイルをぶっとばすだと?麦わらとクロコダイルに何のつながりがあるというのか。

 

サー・クロコダイル。アラバスタを根城にする王下七武海の一角。たかだか一海賊が七武海に喧嘩を仕掛けるなどどうかしている。

 

火拳のエース、無幻の狂人、そしてクロコダイルを追う麦わら…この国でいったい何が起きているのか。何かとんでもないことが起きそうな気がする。

 

「麦わらー」

「逃すなー」

「追えー」

「うわわああーー」

 

遠くから海兵たちの声が聞こえる。思考を中断させ、麦わらを捕まえるべく現場に急行する。

 

「いたぞー」

「麦わらの一味だー」

「待て!逃がすなー」

 

追いかける海兵たちと逃げる麦わら。みつけた!

見えないがどうやら麦わらの一味も同時に見つかったらしい。

 

「お前ら道を開けろー!麦わらは俺が仕留める。」

 

器用にも走りながら上司の通る道をあける海兵。海兵たちがあけた道のさきでは逃げる麦わらの一味が見える。その最後尾には船長、麦わらのルフィを捉えた。狙いをさだめ、煙となった拳を構える。

 

「逃がすか!ホワイトブロー!!」

 

げげぇぇーーっと悲鳴をあげてルフィはさらに全速力で駆け出す。しかし、煙の拳の方が幾分速い。道中に遮蔽となるものは何もない。このままでは煙に捕まってしまうだろう。彼らに現状煙をどうにかできる手段はない。つかまってしまえばおそらく一貫の終わり。彼らの冒険は幕を閉じることになる。

 

そう、このままだったなら…

 

 

 

 

 

「スティンギングマインド」

 

何処からともなく聞こえてくる声。それに合わせてちょうどルフィと拳の間、オレンジのバラが一瞬円を囲うように咲いたと思うと、すぐさま爆発し花びらが勢いよく舞う。それに巻き込まれた煙の拳はあっという間に打ち消され、スモーカーも慌てて能力を解除する。打ち出した右手の拳を見ると、グローブの上から無数の切り傷があり血も少し滴り落ちる。

 

双方が足を止めた。麦わらの一味も振り返り、目線の先にはいくつもの花びらが太陽の光に照らされ、キラキラと光っている光景が映っている。あまりに幻想的な様子に見惚れてしまったのだ。中には感嘆の声もあがっている。

 

誰がやったのか?あたりを見渡してみるが誰もいない。双方は何が起こっているかわからず、どうしてよいのかわからないのだ。

 

だが白猟のスモーカーは一人、ある一点を見つめる。それは、ちょうど花びらが舞う中心。彼だけには見えていたのだ。

 

右手で帽子をおさえつつ静かにこちらを見据える、“無幻の狂人”が…

 

 

 

 

 




オリ技でもなければ別の作品のわざでもないです。

多少の改変はしてますが正式に存在するこいしちゃん専用の技です。

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