無意識少女は海を漂う   作:恋し石

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懸賞金を上方修正しました。
それに伴い、1話と3話を修正。

あと、タグとあらすじの追加もしました。


誤字報告、情報ミス等のご指摘この場を借りて再度お礼申し上げます。


無意識少女は食事する

 ポートガス・D・エースは町のはずれに舟を停めた。舟といっても一般的な舟でなく、自身が食べたメラメラの実の能力を動力として動くワンオフのものである。おかげで風がなくても高速で海を移動できるので、自由に動くのに全く支障がない。これを作るのにいろいろお金を出してくれた仲間たちに感謝を。

 

 舟がどっかに行かないようにロープをはり、近くの岩場にロープの先を縛り付けた。簡単に外れないか確認したら、町の方へと歩き出した。

 

 彼がいるのはアラバスタ。〝偉大なる航路〟の前半に位置する夏島であり、砂漠の国である。砂漠の国ということだけあって日中気温はかなり高いものであり、肌をちりちり焼くような暑さがその身を襲う。だが、自身がメラメラの実を食べた炎人間であるから砂漠の暑さは気にならず、肌を焼くような痛みも味わうことはない。

 

 エースがこの国にいる理由はとある任務と、待ち合わせである。任務のほうの情報はすでに別のところで手に入れた。もうその場所へと向かってもいいのだが…

 

「ルフィに伝言届いているといいんだけどな。」

 

 そう、ここアラバスタに来る前に途中で立ち寄った冬島でやってくるであろう弟に伝言を残していたのだ。なにせ数年ぶりだ。ふつう数年差で航海を始めた者たちが海の途中で出会える機会などほとんどない。久々に会えると考えたら自然と笑みがこぼれる。楽しみでならないのだ。

 

 弟の活躍は手配書と新聞で知った。そのときは無事に出航していたことを知って安堵もした。仲間を持ち、ちゃんとした海賊船をこしらえていることも確認したときは本当に胸をなでおろした。小舟で〝偉大なる航路〟…実際やりかねない。だからこそ、兄として弟のことは心配になるのだ。

 

 もっともその伝言が確実に伝わるとは限らないから、ちゃんとやってくるという保証はないのだが、そのことには気がついていない。会えるということに気持ちが先走っているのだ。

 

 そうこうしている内にナノハナの町についた。伝言をしてからの時間を逆算すれば、もう町に入ってもおかしくはない。幸い、顔写真はこの手配書でこと足りる。ということで通り行く町の人に聞き込みをしはじめた。町の人は突然手配書片手に聞き込みをする男を不審に思えども、男の質問に応じる。もっとも誰もが見たことないので、知らないと答えるしかないが。

 

 1時間ほどだろうか。全く情報が集まらないまま時間だけすぎ、しだいにお腹がすいてきた。左手でお腹を抑え、トボトボと歩く。町の人はどうしたのだろうか、と怪訝な視線を向ける。傍から見たら腹痛のように思えるが、ただの空腹である。

 

「まあ、まず飯屋だな。」

 

 聞き込みを終え、飯のにおいを辿って食事どころを探す。そうすると一軒の店〝Spice Bean〟が見えた。空腹も相まって、そのまま店の中へ。

 

 店内にはそれなりに客がおり、家族ぐるみでテーブル席を取っている箇所を多く散見できた。いっぱいだったらどうしようと心配したが、カウンター席はあいているっぽかったのでホッと息をつく。自分は両隣があいている正面カウンターに座り、鞄を足元に下ろしたところ、カウンターの反対側に男が一人近づいてきた。

 

「いらっしゃい。何をご注文で?」

 

 店の店主だろうか。カウンターに座ったエースに聞いてきた。

 

「おやっさん、ありったけで。」

 

「は、はぁ…。」

 

 店主は困った顔をしながらも料理の指示を出してつくりはじめていく。空腹でつらい上、あたりから漂う料理の匂いが余計に刺激して待ち切れない。ヨダレがちょっとずつ出てきた。他の客を見ると談笑しながらおいしそうに料理を頬張るのがみて取れる。横から掻っ攫って食いたい衝動に駆られるがそこはぐっとガマン。店先ではさすがにそういうことはしない。逆を言えば店先以外ではありえるということだが。

 

「へい、おまち。」

 

 そうしている内にまず最初の1品目が運ばれてきた。パスタだ。料理の匂いが鼻の鼻腔を通過し、脳を刺激して早く食べろと指示する。欲望が抑えられないままに食べはじめた。味なんて感じているのか、そもそも噛んでいるのか、と言わんばかりの食いっぷりである。そして、ものの数分で完食すると、

 

「おやっさん、おかわり!」

 

 次を催促した。店主は分かっているというふうな顔をして次々と料理を運んでいく。エースは待ってましたという感じ喜びを表し、ちょっとヨダレもたれている。そして料理が出された瞬間、がっついて食べはじめた。あまりの勢いで食べるものだから、食べ物のカスがまわりに飛んでいく。店主も苦笑いだ。元より食欲はかなり大きいほう。エースにとって空腹のときはいつもこのような食べ方であった。エースをよく知るものにとっては見慣れたものであったであろう。

 

こうなったら基本的に止まることはない。己の胃袋が満足するまで食べ物がドンドン胃袋へ押し込まれていくだろう。

 

 だが、不意に隣から呼ばれたとき、食べるのを止めざるを得なかった。

 

「も〜もうちょっと静かに食べてよ、そばかす君。」

 

「うん?」

 

 隣に顔を向けるとそこには1人の少女がふくれ顔で文句を言いつつ袖をハンカチで拭いていた。黒い帽子をかぶり、黄色がかった鮮やかな緑色の髪がのぞいており、服は黄色がベースでいかにも女の子らしい服装。明らかにこの国の者ではない。それよりも気になるのが左胸にある藍色の瞳のようなもの。閉じているようで、なかはどうなっているか分からない。そして、その丸いものから伸びる管。腹に二周ほど巻きつき、足にまで伸びている。左肩の後ろの方ではハートの型をとっている。オシャレにしては周囲の目を引くほど派手なようにも見えるが、不思議とその少女に目を向けるものはいない。

 

少女の前には食べかけのパスタとチキンがあり、食事中だったことがわかる。どうやら、食べ物の破片が飛んできて袖についたから怒っているようだ。早く謝れと緑色をした目で訴えている。

 

「ああ、悪いな。気を付けるよ。」

 

「そーしてね。」

 

食事になると夢中になって目の前しか見えないエースにも最低限の礼儀ぐらいある。軽く詫びをいれると、少女は軽く怒っていれど、さほどは気にしていなかったようにすぐに謝罪を受け入れ、そのままパスタを食べはじめた。

 

面倒ごとにならなくてよかったとホッとする。他の飯屋でもだいだいこんな感じになるからこのように文句を言われることも一度や二度ではない。中には怒鳴ってくるものもいた。大物海賊とは言えど同じ飯屋で飯を食べるもの同士。逆ギレするなどもってのほかである。争いごとになってしまってはせっかく食べる飯が不味くなってしまう。

 

だからこそ、基本的に席がいっぱいでない限り、余裕のある席をとっているのだが…

 

「おめぇ、いつからいた?」

 

「ん〜はじめっからだよ、そばかす君。」

 

さも当然なことのように言った。しかし、考えてみてほしい。はじめ席を座るときは両隣があいていることは確認済みだ。少なくとも少女が座っているようには見えなかった。お手洗いで席をはずしていたということも考えられるがそれはない。はじめ言った通り席はあいていたのだ、カウンターも含めて。カウンターに出ている料理に気がつかないなど空腹中の自分がありえない。

 

では自身が座ったのちに席についてから注文をとったのか。いや、それもない。なんにせ、自分の料理が運ばれるまで店主の動きには注目していたし、まして自分の隣に料理が来ようものなら目がいかないはずがないのだ。

 

ということは少女の言った通り、自分が来る前から料理を食べていたというのか。仮にも白ひげ二番隊隊長、空腹時とはいえ気配をよむことには長けているし、隣に座っている人に気がつかないほど気を抜いている訳ではない。だが、この少女はどうだろうか。全く気配が掴めない。存在そのものが希薄すぎるのだ。

 

不気味な少女を警戒しつつも、先ほどの少女との会話を思い返す。見た感じで分からない。会話から口調などで判断すればいい。エースの頭の回転は速かった。へたしたら自分の首につながることもある。生きるためには敵の情報をなんとしても手に入れる必要だってあるのだ。掴めないようなふわふわした感じを思い出しつつ、自分の呼び名にさしかかったあたりで思考が止まった。

 

「ちょっとまて、さっき俺のことなんて言った!?」

 

「えっ、そばかす君でしょ?」

 

え、何言ってんのって感じで逆に聞き返された。これまでいろんな人から呼ばれてきたがここまで不名誉な呼ばれ方をされたことはない。小僧とかガキとかそういうのはまだ許せる。俺がまだ子どもだからって話だ。もっと大きくなって見返してやればいい。だが、そばかす君はさすがにないだろう。全世界のそばかすの人に謝れ!

 

「俺をそんな名前で呼ぶんじゃねぇ!!」

 

「えぇ〜いいじゃん。」

 

「なんか馬鹿にしているみたいに聞こえるんだよ!」

 

「だいたいあなたの名前知らないしー。」

 

少女は少年のことなど相手にするまでにないと言わんばかりに食べながら返す。

 

そりゃそうだ。名乗ってないのだから名前も知らなくて当然だ。確かに自分は札付きだが、俺のような海賊がまさか“偉大なる航路”の前半にいるとは思いもしないだろう。ここは馬鹿正直に名乗ってもよかったのだがここは飯処。自身の名に驚いて騒ぎになる可能性もある。そうなってしまっては飯どころではない。それは避けなければならない。ならば名前だけを名乗ればいい。ファミリーネームや肩書きまで話す必要はない。もっともこのお気楽そうな少女がビビるかといわれたら分からないが…

 

面倒だと思いつつも名前だけ名乗った。

 

「…エースだよ。」

 

「ふんふん、エースだね。そばかす君。」

 

ズルッ。変わってないし…

 

「まあまあいいじゃん♪ちなみに私の名前はこいしだよ。」

「あっ、それとも暑がり君って呼んでほしいの?上半身裸だし。あ~それなら変態さんの方がいいのかな?」

 

「……はぁ〜〜。もうそばかす君でいいよ。」

 

大きくため息をつきながら諦めた。どうやら訂正する気はないらしい。むしろ逆にもっと悪化しそうだった。というかさらっと名乗ってるし。

 

さっきからこの少女、こいしにペースを取られまくりだ。ここまで会話で相手のペースに巻き込まれたことはない。仲間たちがこの光景を見ていたら笑い者にされる様が目に浮かぶ。

 

まあ、先ほど無礼を働いた手前あまり強くは言えない。軽く怒られた罰がその程度なら安いものだろう、と自分のなかで納得してそのまま食事を続けた。

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

エースの台の両脇には皿の山が積みかさなっている。少なくとも子ども二人分の身長な山が二つ。常識を超える量がその一つの胃袋に入ったということだ。胃の中から食べ物が突き破って、その中身をぶちまけても別におかしくない。なのにその中央では少年が一人、未だに食べ続けている。はじめのときのようなペースではないけれど、一般人からみたらその量を食べてなおそのスピードはおかしい。周りの客も化け物を見るような目でみる。

 

店主もその光景には驚いてはいれど、店の収益だ。顔は少し引きつっているが内心はホクホク顔だ。

 

こいしも感心したような目をときどきこちらに向ける。しかし、彼女はいまメイン料理が終わってデザート中である。この国では珍しく、そして高いアイスクリームを堪能している。暑い中でのアイスクリームこそおいしいものはない。上機嫌にその口の中を冷やしていく。どこまで積み上がるかは興味があるが、それよりもアイスクリームにお熱いようだ。

 

それなりに腹いっぱいになったのか、エースは食べるのを片手に会話を始めた。まず今もっとも気になるこいしにだ。

 

「そういやおめぇは何でここにいるんだ?」

 

この町の人間ではないなら町の人よりもっと情報を持っているはずだ。こんなところで一人で食べているんだ。なにかしら得られるかもしれない。さりげなく会話をはじめたつもりだったが…

 

「?何か食べたいと思ったから。」

 

「いやま、そうなんだけど、この町にって意味で。」

 

スプーンを加えながら顔だけをこっちにむけて返した。相変わらずなにかずれている。

 

「ん〜〜〜〜さぁ?」

 

「さぁ?」

 

「無意識にしたがってきただけだからねー。私はただおもしろいものを探しているだけだからなんでこの町にって言われてもね〜。強いていうならおもしろいことが起こるかもしれないから、かな?」

 

ますます分からん。おもしろいものも探している?結局海賊か否かも分からん。旅人と言われてもおかしくない。もう深く考えるのはよそう…。これ以上この路線で話しても無駄だと悟り、本題へと切りだした。

 

「じゃあ黒ひげってやつ知っているか?」

 

「知らな〜い。私にとっておもしろいものしか興味ないもーん。」

 

「けっ、つまらねーやつ…」

 

黒ひげ。俺が今任務として追っているやつだ。情報はすでにあり、わざわざ彼女に聞く絶対性はない。だが複数人から同じような情報が集まればより正確なものになる。それにいろんなおもしろいことを探しているということだから少し情報を持っているかもしれないと思ったが…無駄だったようだ。しかも眼中にないときた。これにはどうしようもない。諦めて残りを食べきってしまおうかと思ったとき。

 

「——んでも、その黒ひげってやつ追っているならここでのんびり食べててもいいの?」

 

心臓がつかまったような気がした。先ほどまでののんびりした声よりもすこし鋭い感じ。俺は黒ひげの情報しか聞いていない。追っているとは一言も言ってないのだ。よく考えているのかいないのか分からなかったが、なにも考えていないという方向に踏もうとした矢先だったものだから急な少女の発言に驚いてしまった。その実、彼女はよく考えているほうで、情報を取ろうとして逆にとられていたということなのだろうか。

 

件の少女はこちらの動揺など全く知らないかのように残り少しのアイスを楽しんでいる。少女の顔はアイスのようにとろけた表情である一方で、こちらの内心はヒヤヒヤものだ。

 

「あ、ああ。すでにだいたいの場所に目星はついているんだ。やつはしばらくは一つの場所に固まっているだろうからまだ大丈夫だと踏んでんだ。それに、今弟を待っているんだ。見たことあるか、こんな麦わら帽子をかぶったやつなんだけど…」

 

こちらの動揺が悟られてはならないと表情を繕う。とはいえ、エース自身、嘘はあまり得意ではない。絶対バレてる。

 

ここで思う。別にバレてもいいと。すでにいろんな人に聞き回っているんだ。向こうに入ったとしても関係ない。少女の態度が急に変わったことで驚いてしまっただけだ。落ち着け、落ち着け…

 

もういいやと思って鞄の中から手配書を取り出して弟のことを聞いてみる。この時点でまともな思考は残っていない。頭はオーバーヒート中。炎人間だけに。元よりこういう頭脳労働は得意ではない。慣れないものは慣れない、そういうことだ。

 

自分が思った通りに動けばいい。今までだってそうしてきたはずだ。偶々この少女が不意に言っただけかもしれない。いちいち気にする必要はないのだ。

 

「ん〜〜〜麦わらをかぶった知り合いはいたけど、この顔は知らないなぁー。」

 

返ってきたのは少し違う回答。知らなかったことには違いないが、他にもいたんだ…麦わら帽子をかぶっているようなやつなんて。弟だけが変なのではないと妙に安心した。

 

「そうか…じゃあおやっさん、この顔しらn」

 

ボフッ

残りのピラフを口に咥え、今度は店主に聞こうとした矢先、エースの顔はピラフの中に突っ込んだ。右手には肉を掴んだフォークをつかんだまま微動だにしない。

 

「おい、あんた大丈夫か!」

 

店主が勢いよく駆け込んでいる。周りの客も店主のあげた声に驚き、顔を向けている。何事かと騒ぎ始めた。

 

こいしも目をパチパチさせながら固まっている。ちなみにアイスはもうない。

 

 

 

#####

 

 

 

店主が男の様子を観察し、なにかに行き当たったのか叫びだした。

 

「これは、砂漠のイチゴだ!!」

 

「砂漠のイチゴ?」

 

こいしがハテナマークを浮かべながら聞き返す一方で、店内の客は驚愕であふれた。客は我先にと男から離れる。店の騒ぎを聞きつけ、なんだなんだと野次馬が集まってきた。砂漠のイチゴだということが伝言ゲームのように広がっていく。

 

店主も厨房付近まで逃げてきた。店で砂漠のイチゴが出たということで自身の身も危ないのだ。命が、というだけでない。これから出る風評被害、損失…。頭が痛くなる。

 

「ねぇねぇ、砂漠のイチゴってなあに?」

 

声が聞こえてきたほうに顔を向けると先ほどまで男の隣で食べていた少女がいた。いきなりカウンター席に座って注文してきていて対応していたのだが、さっきのゴタゴタで忘れていた。

 

「砂漠のイチゴっていうのは赤いイチゴの実のような毒グモなんだ。間違えて口に入れてしまうと突然死に、その死体には数時間感染型のウイルスがめぐると言われる。だから嬢ちゃんも早く離れたほうがいい。」

 

少女に注意を促しこれ以上被害を出さないようにしようとした。さらに被害者が増えるような頭の痛いことは増やしたくはない。もっともすでにいっぱいいっぱいではあるが。

 

「ふ〜ん………あっ、マスター!アイスおかわり!」

 

「えっ!?」

 

しかし少女が返したのはアイスの追加。空気読めてんのこいつ…?

 

「いや、だってそばかす君生きてるし。」

 

「はぁ?」

 

店主が聞き返した直後、

 

ガバッ

男が急に起きあがった

 

〈〈はぁ!!??〉〉

 

客の全員がツッコんだ。

 

男の目はどこか焦点が合っていないように思える。

そんな状態なのを心配して、一人の町娘が声をかけた。

 

「あ、あの、大丈夫ですか。」

 

声が聞こえたほうに男は顔を向ける。ピラフにそのまま顔を突っ込んだからだろう、顔のいたるところにご飯粒が付いている。その様子は焦点の合ってないような目とあわさってホラーじみている。

 

その状態をみて、ヒィっと女は怯えだし、少し後ずさった。襲われるのではないかとヒヤヒヤしている。周りの客も息をのんで行く末を見守っている。

 

そして、男は突然あろうことかその町娘のスカートで顔をふきはじめた。あまりの光景に女はなすすべもなく、されるがままにされるしかない。誰が予想できようか。失礼の域を越えている。

 

拭き終わった途端女を悲鳴をあげて逃げていった。哀れ、女。この恐怖は一生忘れられないであろう。

 

そして、皆がその行く末を見守るなか男は話し出す。

 

「ふぅ〜〜いやーまいった、寝てた。」

 

〈〈寝てた!!??〉〉

 

「ありえねぇ」

「食事と会話の真っ最中だというのに」

「しかもそのまま噛み始めた…」

 

町の客全員がツッコんだ。そりゃそうだ。死んだと思っていたら実は寝てました?寝言は寝て言え。

 

口々に人々が言っているなか男、エースは周りを見て言う。

 

「何の騒ぎだ?」

 

〈〈おめぇの心配してたんだよ!!!〉〉

 

皆の心が一致した瞬間だった。空気読め。

 

「ここはコント集団でもやっているのか?」

 

「いや、そうじゃないんだけど…」

 

この空気読めないやつに店主は引きつり顔で答える。

そして、

 

ゴトン

 

〈〈おい!!また寝るんか!!〉〉

 

エースは再び頭を沈め、今度はいびきが発してきた。珍事件だったと人々も散会していく。客はもとの席へ行き、野次馬も帰り始めた。店主も大事にならなくてよかったと安堵する。

 

 

 

少女がひとり、終始クスクスと笑っていたのを知る人は誰もいない。

 

 

 

 

 





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