無意識少女は海を漂う   作:恋し石

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第一話の時点で、お気に入りが二桁………感動

こいしちゃんはかわいい。


〝無幻の狂人〟

「生存者はナシです。スモーカー大佐。」

 

 紺のショートヘアー、自身の足ほどの長さの刃をもつ刀を携えた、海軍本部曹長たしぎはそう報告した。ビシッとした敬礼、透き通った声、上司に従順の姿はそのAPPの高さも相まって好感をもたれるだろう。

 

 ………まったく別の海兵に向かって言わなければ…

 

「どこ向かって言っているんだバカ!!!」

 

「はいっっっっっすみません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸ポケットに入れっぱなしにしていてかけ忘れていたメガネをかけ、コホンと咳払いを1つ。ちょっぴり恥ずかしいが、すぐに気持ちを切り替えて報告を続ける。

 

「海賊、海兵全員頭部を切り落とされて即死。頭部は船内のどこにも見つからないため、おそらく海に捨てられたか持ち去られたかのいずれかだと。海賊がまとめて集められていたこと、海兵たちが尋問をしている最中と思わしき状況であったことから、ガムウト中佐が海賊を制圧した後に襲撃されたと考えられます。そして、金品、食料など一切強奪された跡がないこと、帆に血で[ようかいくびおいてけさんじよう]と書かれていることから、殺すことを目的として襲撃を行ったと推測できます。」

 

 そう言いながら帆に書いてある文字に目をやる。字の太さが頭部のなくなった首の直径に近い。甲板にはところどころ放りすてられたと思わしき死体がいくつかあったから、どうやってかは分からないが、死体を筆のようにして書いたのだろう。垂れた血のあとが不気味さを思わせる。ぶっちゃけ怖いです。はい。

 

 報告を聞いたスモーカー大佐は2本の葉巻を吹かしながら、少し考えたあと話しだした。

 

「たぶん海に捨てたんだろう。」

 

「?心あたりがあるのですか、スモーカー大佐。」

 

「心臓を抜き取ったり、骨をくり抜いたり、四肢を切り落として造形物をつくったり、胸糞悪いことをやりやがる。毎回ではないが血で何か文字を書き残す。最近だと、半年以上前に見つかった1億8000万ベリーの海賊が船内で十字架のように貼り付けにされていたのが見つかったって話もこの類だろうって見解だ。この話ぐらいは聞いたことあるんじゃないか?」

 

 そうだ、まだわたしたちがローグタウンにいたころ新聞でみたことがあった。枠が小さく、あまり大きくは取り上げられてはいなかったけど、自然系の能力で力を見せつけ、海軍にも牙をむけるほどのし上がってきた海賊が突如航海中に殺られたということで驚いていたのは覚えている。

 

「はい、最近名が上がってきていた〝自然系〟能力者の大物ルーキーが突然壊滅したという話ですね。新聞で見ました。たしか船に意味不明な言葉が残されていたと。そして、犯人として挙げられていたのが…

 

〝無幻の狂人〟コイシ。」

 

「そうだ。こんなことをしでかすのは奴しかいない。」

 

「しかし、発見されたのは〝偉大なる航路〟の後半、とてもこのような場所にいるとは思えませんが。」

 

 そう、そのことが起こったのは〝偉大なる航路〟の後半で、もうすぐ半周するというところだったのだ。こんな前半部にいるとは思えない。

 

「場所など関係ない。〝偉大なる航路〟、〝北の海〟、〝東の海〟、〝西の海〟、〝南の海〟そして、〝新世界〟、縦横無尽で起こっている。さらに同様なことは40年前から起こっている。海賊、海軍問わず、チンピラのようなやつから億超え、下っ端から少ないながら中将クラスまで幅広く襲撃する。頻度もまちまちで、数年に1回のときもあれば、月に4回ほどのペースのとき、さらには10年ぐらい音沙汰無しのときもあったそうだ。基本的には航海中の船の場合が多いが、中には海軍基地そのものを薔薇園にしたり、ただの町を火の海にしたこともあった。メディアでも細かいところまでは報道しないし、明らかに海軍の失態となるようなことは揉み消しているからな。メディアで報道されたのは久々だったな。」

 

「よ、40年も前から!?それにそれ程のことをやっているならばもっと話題になるのでは?この懸賞金ならば海軍だってもっと危険視するはずです。」

 

 そんな前から、そしてありとあらゆる海で引き起こすなんて…。まさに〝天災〟、常識が全く通用しない。でも新聞ではあまり大きくは取り上げられていないのは何でだろう…

 

 ……薔薇園ってなんかちょっとかわいいかもと思ったのはヒミツ。

 

「…奴に懸賞金がかかったのは18年ほど前。20年前、〝悪魔の子〟ニコ・ロビンがわずか8歳にして7900万ベリーも懸賞金がかけられてから数年しか経っていなかった頃だった。再び幼気そうな少女に、しかも当時は2億7000万ベリーという億超えの懸賞金がかけられたからメディアでも大きく取り上げられた。巷でも噂になった。しかし、それだけだった。一切目撃情報がなかったんだ。」

 

 目撃情報がない?そもそも度々襲撃を行うならひとりぐらい目撃してもいいのでは?

 言いたいことが分かっていたのか、そのまま話を続けた。

 

「奴は基本的に襲撃をおこしたと思われる場所ではほとんど生存者を残さない。全員殺しているケースばかりだ。それ故、起こった跡の現場しかわからない。目撃者がいないならってことで模倣犯まで出てきた。まあ、そういうバカどもは皆捕まってインペルダウンに放り込まれたが、模倣犯と本人がやったものの判別があまりつかないから、模倣犯が全てなくなったかどうかもわからない。それに、何十年も前から発生していた襲撃事件が全てその少女が起こしたということも世間にとって到底信じられることではなかったし、海軍内でも真実かどうか意見が分かれている。特に、過激派とそりが合わない穏健派ではでまかせと見ているものも少なくない。どうやら過激派で被害が大きいと思われているそうだ。世論も、悪行の多い海賊を懲らしめるダークヒーロー的な見方をあった。今では、海軍の謎の襲撃事件の責任を全て押し付けるためのスケープゴートじゃないかと言われる始末だ。まあ、事実奴が起こしたものじゃないと思われていたものも含めてしまったものがあるから、あながち的を外しているわけではないがな。」

 

「そんな…。」

 

 生存者を残さないって…。ということは億超えの海賊も、中将クラスの海兵も殺られているということ。ありえる。半年以上前の襲撃が事実ならば不可能とはいえない。

 でもそんなことをたった一人の少女が起こしたなんて、信じられることでもないというのも事実である。

 

「だが、海軍上層部の一部はそう捉えてはいないらしい。なぜなら、奴の情報を報告したのが、当時は海軍本部中将であり大将に近いとまで言われる程の力を持ち、現在大将の地位まで得た〝赤犬〟だからだ。それも、奴に一撃も与えられないまま重傷を負った状態でだ。戦うだけバカだとまであの赤犬に言わせるほどの強さだったという。」

 

「大将〝赤犬〟が…。信じられない…。」

 

「奴自身が襲撃事件を起こしたと証言したと赤犬が言ったんだ。当時は上層部もそれを信じざる得なかったんだろう。」

 

 当時は中将とはいえ大将を無傷で退けるほどの強さとは…とてもじゃないが敵う気がしない。〝赤犬〟は海賊に対して一切容赦しない正義を掲げる。マグマグの実を食べたマグマ人間で、海軍トップクラスの実力者。実際発言力は大きいし、過激派のなかでは人望もある。そんな人がそう報告したのならば頷かざるをえなかったのだろう。たとえ信じられないことであっても。でもそれなら何で〝一部〟と言ったのだろう。

 

 

 

 他にひとつ気になったことがあったので聞いてみた。

 

「…手配書がまわったのは20年前、襲撃が起こったのは40年も前。それなら〝無幻の狂人〟はもっと幼いときから襲撃を起こしているということですか?」

 

「どうやらそれは少し違うらしい。」

 

「どういうことですか?」

 

「赤犬が奴のことを報告したとき、他にもそいつを見たことがあると証言したのがいた。それが、〝仏のセンゴク〟、〝英雄ガープ〟、〝おつる〟…海軍のトップクラスの連中で大航海時代以前からいる古株共だ。撮った写真を見て、会ったときとほとんど姿が変わっていないと、言うもんだ。しかも、その写真を見るまで全く思い出せなかったうえ、不思議と記憶の細部が霧がかっているようだと言う。これにはさすがの海軍も大慌てだったそうだ。だが、少し会話したぐらいで、とてもそんなことするような子とは思えないと擁護しだした。何かが憑依しているのか、それとも別の誰かが模しているのではないか、全く姿が変わらないのはおかしいからこれは二代目で、もっと前のは別の誰かがやっているのではないかと、話がこんがらかって収拾つかなかったそうだ。今じゃ2代目、もしくは3代目という話もあがっている。新聞に載っていたやつだってそうだ。もう死んでいるかもしれないんだから奴の名は出す必要はないという声も少なからずあったそうだ。」

 

「そんなことがあったのですか…。」

 

 ボケたというわけでは…………………無いですね。そうじゃないと現役で活躍出来ませんから。手配書の写真を見る限り、羨ましいくらい可愛い感じですから自分の子のように思えてしまったのかな?

 それにしても、目撃情報がなさすぎるが故に真実がうやむやになってしまうなんて。生死すら分からないほど情報がない、でも結果だけある。まるで本当に幻を追っているみたい…

 

 ………睨まないでください。何も変なことは考えていませんから。はい。

 

 もうどうでもよくなったのか、続きを言った。

 

「そして、世界政府はこれを重く見て、赤犬の一件によって確認された強さ、何十年も前から理解不能なことを起こしているという得体のしれなさ、幻のように存在が掴めないことを踏まえ、“無幻の狂人〟の二つ名がつけられ、最終的に4億1000万ベリーという高額の懸賞金になった。」

 

 

 

 40年も前から活動している謎の相手。もしかしたら近くにいるのかもしれない。出会った場合には勝てるだろうか。不安になって聞いてみた。

 

「もし、……もし〝無幻の狂人〟と相対したら…」

 

「相対したら相対したらだ。奴は懸賞金のかけられた犯罪者、俺の正義に従って動くまでだ。」

 

 はっきりと答えた。確かにそうだ。相手は犯罪者、私達は海軍。得体のしれない奴だとしても臆する必要などないのだ。刀を強く握りしめ、自身を奮い立たせた。

 

「もっとも、今も本人が生きていればな。」

 

 そう締めくくって、この話は終わった。

 

 

 

 

 調査の片付けも終わったのか海兵たちが続々と戻ってきた。私達も話を終え、次の行動に移した。

 

「ヒナの部隊に連絡しておけ。引き渡したら、俺達も予定通りアラバスタへ向かう。いつでも出航できるように準備しておけ。」

 

 そう、私達の今の標的は〝麦わらのルフィ〟である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてはスモーカー大佐。」

 

「なんだ。」

 

「ずいぶんと〝無幻の狂人〟について詳しかったですね。」

 

「………………………………昔愚痴の愚痴、そのまた愚痴に付き合わされただけだ。」

 

「???」

 

 

 

 

 




修正

ご指摘があり、
初期の手配書の金額を1.6億から2.7億、最終金額を4.1億に変更。

それに伴って会話の内容を少し修正。


他の海賊の手配書の金額を踏まえると少し低いかと思われますが、個人的にあまり高すぎないようにしたいので、低くなるようにフォロー。

こいしちゃんの能力的にもっとやばいだろう、と思うかもしれませんが、情報のなさというわけでこの金額に落ち着いているということで。





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