無意識少女は海を漂う   作:恋し石

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かっこよさなら深秘録
かわいさなら心綺楼
そう思うんは自分だけ?


妖怪○○○○○

——海賊は滅ぶべし

 

 ガムウト中佐はガキの頃両親を海賊に殺された。家は少し裕福で、両親は自分を深く愛してくれた。そのため自身も温厚な性格で、この上なく幸せだったと、今なら思える。そう、運命は残酷だったのだ。

 

 ある日、海賊が町を襲ってきた。阿鼻叫喚の騒ぎとなった。自衛団をやられ、人々は逃げ惑うばかり。そして、逃げる人々を容赦なく殺し、金品を強奪していく海賊。自身は両親が命がけで隠してくれたので助かったが、両親は時間稼ぎをするため、銃に撃たれた。自分は銃声を聞き、両親の悲鳴を聞いていることしか出来なかった。海賊共の狂ったような声が聞こえなくなるまで手が、足が、全身が震えていたことは今でも覚えている。自分が無力だと、果てしなく思えた。

 

 自分が保護されたのは襲撃から丸一日後。生存者は自分を残して1人もいなかった。襲撃後もしばらく海賊共が居座っていたが、近くを偶々通り掛かった海軍が追い払ってくれたのだ。自分は海賊に気づかれないよう息を潜めていた。何も食べていないにも関わらず、空腹は自然と感じなかった。事態の収拾をしていた海軍が自分を見つけたとき、大変驚かれた、らしい。

 

 保護された自分は海軍に入隊することを志願した。海賊が憎かったのだ。自分から家族を、全てを奪った海賊が。

 

 2つ返事で承諾された。下っ端時代は決して楽なものでは無かったが、全ては憎き海賊を滅ぼす一心で乗り越え、中佐の地位まで昇り詰めた。温厚だった性格はほとんど鳴りを潜め、狡猾で残忍さを身につけた。多くのことを学んできたが、特に大将赤犬が掲げる正義には共感する。今の海軍はぬるい。その通りだ。七武海という制度で海軍が海賊を雇うなど言語道断である。大航海時代となって海賊が跳梁跋扈するのが増え、捕らえる海賊も増えつつも海賊の被害はなおも起こる。容赦など必要ないのだ。

 

 

 

 そして今、海軍本部大佐ヒナの部隊に合流するため、船を進ませる途中であったが、途中で海賊船を発見し、制圧した次第である。司令塔として部下を指揮したが、トロいし、弱い。あの程度に時間がかかるなど、意識が足りないに他ならない。海賊は滅ぼせ。その意識が低いのだ。イライラしながらも制圧が終わったのち、自分は甲板で一息ついた。

 

 電伝虫から部下の報告を聞く限り、バロックワークスだがどうたらとか、曖昧なものであった。海賊に容赦する必要はない。拷問でも何でもすればいい。そう返して海を眺めた。中佐となって部下を持って初めて思ったが、無能なやつが多い。たかが海賊の命1つ奪うのに何故戸惑う必要があるのか。海賊は常に有害。生きる価値なし。

 

 

 

「プルプルプルプルプル…プルプルプルプルプル…」

 

——ふん、やっと聞き出せたか。これで進展がないと報告するような無能なやつには体罰を与えなければならないな。

 

 呆れつつも受話器を取る。

 

「おい、やっと何か聞き出せt」

 

『もしも〜し、わたしメリーさん。今海の上にいるの。』

 

…………………………??少なくとも部下の声ではない。間の抜けたような声に聞き覚えはない。海を見渡してみるが、特に何かいるようには見えない。もう一度話聞こうと電伝虫を見るがすでに切れていた。

 

 いたずら電話、にしてはありえない。海軍支給の電伝虫であるから、海軍以外のものが回線を知ることはまずない。気味が悪すぎる。

 

 不思議そうに部下がこっちを見る。急にキョロキョロ見渡すからだろう。こっち見んな、はやく仕事しろ。

 

 軽く睨みつけて追い返す。オドオドしてそそくさと立ち去った。たっく…この程度でびびるな。さっさと済ませやがれ。

 

 

 

「プルプルプルプルプル…プルプルプルプルプル…」

 

 悪態ついているとまたかかってきた。部下からかもしれないので今度はまず何も喋らずに出る。

 

『もしも〜し、わたしメリーさん。今あなたの船にいるの。』

 

「おい、どういうk」

 

 ……また切られた。今度は船にいるだと…?!すると考えられるのは生き残った海賊が電伝虫を奪って船に乗り込んだ、ぐらいだろう。みすみす備品を奪われ、侵入を許すなど愚の骨頂。部下共には教育を施してやらないとな。フッフッフ…。

 

 残っていた部下に侵入者を探すよう、声を上げて命令する。急な命令に驚きつつも、中佐の怒りを買わないよう迅速に船を捜索を始める。日々怒りを買うことが多かったのだろう。はやくしなければ…っと焦りが見える。

 

 部下共がせっせと捜索するなか、1人思考する。生き残った海賊がするにしても意味がわからない。普通海兵に攻撃を仕掛けるだろう。隠密で潜んで暗殺するようなやつが、あの船を見た限りいるとも思えない。それが電伝虫を盗んでいたずら電話?少なくとも利があるようにも思えない。司令塔を混乱させるにしても、1人では無意味だ。ということは複数人いるということだろうか? 

 まあ、これで終いだ。すぐに見つかるだろう。さっさと降参すればいいものを。

 

……………メリーさんって…普通自分でさんづけするか?

 

 

 

「プルプルプルプルプル…プルプルプルプルプル…」

 

 またかかってきた。部下からの報告であるならそれでよし。同じようなら部下はノロマだ。罰を与えなければならぬ。先ほどと同じように相手が先に喋るのを待とう。

 

 少々苛つきながら受話器を取る。

 

『もしも〜し、わたしメリーさん。()()()()()()()()()()()。』

 

 !!!!!!

 驚愕して後ろを振り向いた瞬間、

 

 ゴトッ

 

 視界が変わった。右目の視界には甲板の床の木目がめいいっぱいに間近に見える。左目の視界の下部には自分の左足が見える。そして上部には………

 

 

 

 右手に包丁を持ち、包丁についた血を舐める、黒い帽子をかぶった少女が見えた。獰猛な笑みを…う……か…………………t………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん………おい、海軍船と海賊船が接触してるぞ!」

 

 海軍船のマストの上、見張りをする1人の海兵は味方の軍船と敵船らしき船を発見した。その声を聞いてもう一人の当番の海兵が近づいてきた。

 

「なんだなんだ、戦闘中か?加勢が必要な状況なのか?」

 

「いや、特に戦闘しているわけではなさそうなんだ。」

 

「じゃあもう終わったってことじゃねーの?」

 

「それにしては静かすぎる気がするんだ。どっちの船にも人影が見えないし…。それに…」

 

「それに?」

 

「帆になんか大きく書いてあるんだ。よく見えないけど。」

 

「??ちょっと貸してみ。」

 

「あ、ああ。」

 

 うまくピントが合わないのか四苦八苦するのを見てもう一人の海兵はバトンタッチした。慣れた手つきでピントを合わせると、帆に書いてあるものを注視した。

 

「どれどれ…………………………………………ありゃ文字か?」

 

「文字?」

 

「ああ。なになに…………………………………………よ・う・か・い・く・び・お・い・て・け・さ・ん・じ・よ・う?」

 

………………。

 

「「妖怪首置いてけ参上?」」

 

 

 

 

 


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