魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第五十八話:新たなる協力者

「銀時さん!! 銀時さん!!」

 

 涙目の白い魔導師が、自分の名前を何度も口にしながら呼びかけ、

 

「しっかりしろ!! あんたはあたしのご主人様だろうが!!」

 

 必死な形相の使い魔が自分を背負い、

 

「辛いだろうけどがんばって! すぐにアースラに連れて行くから!!」

 

 炎を使う魔導師が自身に声をかけ続け、

 

「早く!! こっちに重傷者が!!」

 

 氷を操る魔導師が局員たちを先導している。

 

 銀髪の侍のまぶたがゆっくりと閉じ、暗闇の世界へと、自身を向かわせる……。

 

 

 すべてが真っ黒な世界――。

 

『その力のない手では――』

 

 前に立つ、黒い影――無機質で、光のない瞳が、自身に向けられる。

 

『なにも――』

 

 黒い影が右手の刀を振り上げ、

 

『――つかみ取れはしない』

 

 自身に刃を振り下ろす。

 そして、薄れゆく視界に映るのは――瞳から流れる、一筋の雫だった……。

 

 

「ッ……!!」

 

 パッと銀時の目が開く。意識が覚醒すれば、荒い呼吸が口から漏れ出す。

 

「ハッ……! ハァ、ハァ……!」

 

 さきほどまで見ていた夢の光景が頭を過り、全身から嫌な脂汗が流れる。

 

「ハァ……」

 

 銀時は呼吸を落ち着け、首を右に左に曲げて周りを見渡す。

 横には、

 

「ず~、ず~……」

 

 椅子に座ったまま、目を見開いて寝息を立てつつ涎を垂らす桂と、

 

「ん、んん……」

「くぅ……」

 

 そして、銀時が寝ているベッドのシーツに顔を埋めるなのはとアルフ。当たり前だが、二人は桂と違いちゃんと目を閉じて、静かに寝息を立てている。

 

 銀時がさらに周りを見渡せば、見たことある白い壁やカーテンに薬品や機械。どうやらアースラの医務室らしい。

 少し息を吐き、かなりダルさを感じる体を動かそうとすると、

 

「いッ……つぅ……!!」

 

 凄まじい頭痛が頭に襲いかかる。

 その銀時の声で、彼を看病していたであろう三人の意識がパッと覚醒した。

 

「……ぎ、銀時!」

 

 いの一番に銀時が目を覚ましたのを確認して声を上げるのは、アルフ。

 

「銀時さん!」

 

 続いてなのはが声を上げ、心配そうに銀時の顔を覗き込む。

 

「くっ……そ……!」

 

 だが一方の銀時は、自分が覚醒して喜ぶ二人になど構ってられないほどの痛みに、表情を歪め、苦悶の声を漏らす。思わず手で頭を抑えてしまう。

 

「おい、銀時。大丈夫か?」

 

 あの桂も銀時の苦しみようを見て心配しているようだ。口の端から涎垂れているが。

 

「あァ……! なん……とか……な!」

 

 銀時はなんとか激痛を我慢しながら強がりを返す。

 

「いや、大丈夫に見えないって! まともに声が出ないじゃないのさ!」

 

 アルフは涙目で心配そうに銀時の顔を覗き込み、なのははすぐに立ち上がる。

 

「わたし、皆に銀時さんが目を覚ました事を伝えてきます!」

 

 そのまま栗色髪の少女は、急いで医務室を出て行く。

 一方の銀時は体を起こそうとするが、まるで体に力が入らず、

 

「ぐッ!? いってェッ!!」

 

 ひときわ凄まじい頭痛がやって来て、すぐにベッドに体を預けてしまう。

 

「だ、大丈夫かい銀時!?」

 

 医療の知識がないアルフはどうしたらいいのか分からないのか、おろおろしながら声をかけることしかできないようだ。

 

「よせ銀時。お前は丸一日も寝込んでいたんだぞ。無理に立とうとするな」

 

 と、桂が冷静な声でたしなめる。

 

「この程度の、けが――ぐァッ!!」

 

 また銀時は起き上がろうとするが、また凄まじい頭痛に襲われた。

 さすがにベッドから起き上がろうとすることを諦め、吐き捨てる。

 

「くそッ……」

「あんたホントバカだね!  一回無理だって分かったならちゃんと理解しろって!」

 

 アルフが目を潤ませながら弱々しく叱れば、同意するように桂は頷く。

 

「アルフ殿の言う通りだ。医師に聞いたが、どうやらお前の体、特に脳にかなりのダメージがあったらしい。下手をしたら頭パーンになっていたそうだぞ」

「頭パーンてなに? むしろおめェの頭がパーンだろ」

 

 銀時は首だけ動かして、桂にジト目向ける。

 

「なぁ、銀時。あたしのことちゃんと分かるよね? 頭パーンになってないよね?」

 

 とアルフは涙声で自分を指さす。

 

「いやだから頭パーンてなに? 絶対お前ら医者の話ちゃんと理解してないよね? ふわふわだよね?」

「なー、銀時」

 

 今度は桂が涙声で自分を指さす。

 

「俺のこと分かるよな? 一緒に攘夷活動する同志だよな? 一緒にラップ練習したよな?」

「オメェと攘夷活動もラップもした覚えなんてねェよ!! アルフのマネすんなッ!! かわいくねェんだよッ!! 果てしなく腹立つんだよッ!!」

 

 青筋浮かべた銀時はひとしきりツッコミ入れた後、ため息を吐く。

 

「……牛みたいにデカい乳した犬と、ウゼー長髪」

 

 バシッと、銀髪の頭に痛くない程度のアルフチョップ。

 

「でもよかったよ……。それほど悪くなさそうで……」

 

 アルフは安堵したように息を吐く。

 

「……んで? あの後どうなった?」

 

 銀時の問いかけに対して、アルフは俯き、口を閉ざす。すると代わりに、腕を組む桂が答えた。

 

「フェイト殿と言ったか……。あの金髪コスプレ少女は――」

「コスプレって言うな」

 

 と、アルフがツッコムが桂は構わず話す。

 

「面妖な能力と姿を持つ連中にお持ち帰りされたそうだ」

「お持ち帰りって表現やめろ。フェイトだとシャレになんねェんだよ」

 

 と、銀時はツッコミしてから、ゆっくりと首を桂たちとは反対の方に向ける。

 

「……悪かったな」

 

 銀時がボソリと呟き、「えッ?」とアルフは声を漏らす。

 

「フェイトとよ、ちゃんと、腹を割って話をさせてやれなくて……」

 

 小さく静かに銀時が言えば、

 

「そんな気にしないでくれよ! あんたらしくもない!」

 

 とアルフは言うが、涙目でながらも労うように表情を綻ばせる。

 

「むしろ、こんなにがんばってくれたあんたを責めたら、あたしの方がアホだよ」

 

 言葉の最後にニコリと笑みを浮かべたアルフ。

 銀時はまたボソリと呟く。

 

「あのガキ……ホント、イイ使い魔持ったもんだ……」

「なぁ、銀時。今は、頭の方は大丈夫なのかい?」

 

 アルフがおもむろに尋ねれば、銀時は半眼を向けた。

 

「頭大丈夫って……それどっちの意味で言ったの?」

「一応話しは出来てるけど、このまま会話はできるかい? 辛くない?」

「大丈夫だ。動かなきゃ別に話くらいはな」

「そっか……。良かったよ」

 

 アルフは胸に手を当てて安堵し、立ち上がる。

 

「ちょっとあんたに〝紹介したい人〟がいるんだよ」

 

 アルフの言葉を聞いて、銀時は怪訝そうに片眉を上げた。

 ちょっと連れてくるから、とアルフは言い残し、そのまま病室を出て行く。

 やがて銀時は「おいおい」と声を漏らす。

 

「ここに来てまた新キャラ登場かよ。この小説、そろそろ登場人物捌ききれなくなっちゃうんじゃね? つうか読者は登場キャラ把握しきれんの?」

 

 と銀時が言った後、病室は静寂に包まれる。

 

「…………」

 

 ただ腕を組んで自身を見つめてくる桂。たぶん何も考えてないだろう。

 なんでこのウザェ長髪とこんな沈黙に包まれなきゃなんねェの? と内心を愚痴を漏らす銀時。

 

 時間が少し経った後、沈黙と視線に耐えられなくなった銀時は、おもむろに口を開く。

 

「……つうか、他の連中……遅くね? 誰も見舞い来なくね? なのはが俺の無事伝えるとか言って、割と時間経ってるよな?」

 

 そろそろ、新八や神楽あたりが病室に飛び込んでボケの一発でもかまして、続けて小学生組のなのはやアリサがツッコミしたり(たしな)めながら来て、呆れ顔のクロノや苦笑するすずかも入って来て、そんで最後にリンディ辺りが来るといった、バカ騒ぎが起きても良さそうな頃合いなのに、誰の気配も感じない。

 

 そして銀時は、独り言を口にする

 

「やべーよ。来るなら来るで、鬱陶しいとか思っちゃうけど、ここまで誰も来ないとちょっと寂しいんだけど。このまま誰も来ないとか考えちゃうと、ちょっと虚しいんだけど。このロンゲ野郎しかいないとか、すんげー悲しいんだけど」

「いや、今の発言で俺の方が悲しいんだけど?」

 

 と桂が言った時だった。

 ウィーンと医務室の扉が横にスライドし、

 

「クロノ執務官が坂田さんを気遣って、あなたの仲間の方々を病室に入れないようにしてくれているんですよ」

 

 聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。

 桂と銀時の視線が、ゆっくりと声の主へと注がれる。

 

「あー……え~っと……」

 

 銀時は眉を顰めた。

 

 後ろにアルフを連れてやって来た、どことなく見覚えのある女性。

 薄茶色の髪の上に帽子を被り、黒いピッチリした服の上に白い上着を羽織っている。首には、中心に白い宝石が埋め込まれた黒い首輪が巻かれていた。

 

 銀時が寝ているベッドの横までやって来た薄茶色の髪の女性は、訝し気な視線を送る銀髪の侍に対して、微笑みを浮かべている。

 

「〝一応〟は初対面ですので、自己紹介をさせてもらいます。私は――」

 

 

 時は遡り、銀時が医務室に運びこまれて少し経った後だった――。

 アースラの会議室では、江戸組と海鳴市小学生組、そしてアースラ組が集まって話し合っていた。

 

「銀さんの容体はどうなんですか!?」

 

 最初に坂田銀時の安否を確認するのは志村新八。

 彼は自分たちの仲間であり上司でもある男が、理由は分からないがあそこまで追い詰められるとは思っていなかったので、気が気ではいられなかった。

 

「それはまだなんとも……」

 

 アースラ艦長であるリンディが心苦しそうに質問に答えれば、クロノが代わるように説明する。

 

「外傷は掌と額以外はないんだが……。脳と言うか、精神と言うか、そう言った内側のダメージが酷いらしくてね。まぁ、肉体どころか脳の方も彼の異常な頑丈さと回復力のお陰で大事には至らないそうだ……。ただ精神面の方は正直……」

 

 クロノは重い表情を浮かべながら「こればっかりは、彼の精神力に大きく左右されてしまうとしか……」と言葉を濁すことしかできないようだ。

 

「じゃあ、このまま待つしかないんですか?」

 

 不安げな新八の問いに、エイミィが目線を落とす。

 

「そう、だね。医師の言葉では、治療をして、後は銀時さんの自然治癒力に任せる方が良いって」

「肉体の傷なら、話は早いんだが……」

 

 残念そうに告げるクロノ。

 新八は顔を俯かせ「そうなんですか……」と呟くことしかできない。

 

「あの、クロノくん……」

 

 続いて、なのはがクロノに声をかける。

 「なんだ?」と返す執務官に、なのはは汗を流しながら訊く。

 

「く、クロノくんこそ……〝体の傷〟は、大丈夫なの? 今のクロノくん、見た目は銀時さんより酷いよ……」

 

 なのはの問いに、バツが悪そうに顔を逸らすクロノ。

 

 今のクロノは頭に包帯を巻き、顔中に絆創膏やらガーゼを張り、右腕なんかに至っては包帯でぐるぐる巻きのギブス状態。動くようではあるが。

 ぶっちゃけ、今んとこ一番外傷が酷いのが、このクロノ。なので、なのはなど常識ある面々は、なぜこの執務官は医務室で休んでないの? といった疑問を持っていた。

 ただ、医務室に行かない理由を訊こうにも、なんか言いたくなさそうな雰囲気を醸し出すので、訊きづらい。

 

 だから新八はちょっと勇気を出して、

 

「ぎ、銀さんと一緒に医務室で、安静にした方がいいんじゃない?」

 

 汗を流しながらやんわり提案。対して、クロノは首を横に振る。

 

「これから事件解決の為に忙しくなるんだ。目が覚めて、体が動く以上は休んでなんかいられないよ」

 

 クロノの強気な発言を聞いて、山崎もやんわり進言。

 

「いや、普通はそれくらいの怪我したらベッドコースなんだし。他の局員の人もいるんだから、別にクロノくんだけ無理する必要は――」

「やめな」

 

 するとここで、沖田が山崎の言葉を遮り、

 

「クロノの気持ちも考えてやれよ」

 

 などと柄にもない事を言いだす。

 えッ? あの沖田が人の気持ちを気遣ったぞ? と、腹黒ドS王子をよく知る面々は困惑。

 沖田は、

 

「折角、魔法少女共と旦那使って『危ない金髪』の相手を『わざわざ』させて、事件の重要参考人を捕まえるチャンスを得たのに――」

 

 徐々に口角をニヤリと吊り上げ、どんどん黒い笑みを浮かべ初めた。逆にクロノは「うッ……」と苦い顔をしだす。が、ドSの語りは止まらない。

 

「捕まえられる一歩手前で、バケモンに反撃喰らって怪我した挙句、逃げられるって失態をエリート執務官が犯しちまったんだから、あんまり色々言ってやるなよ。かわいそうだろ」

「いや、オメーが一番かわいそうな事してるからな?」

 

 と、沖田にジト目向ける土方。

 見てみろ、と土方が指を向けた先にいるクロノは、すんごい申し訳なさそうに頭を下げて「すまなかった……」と、声を絞り出している。

 

「エリート執務官、完全に意気消沈してるぞ? どうすんだアレ?」

 

 沖田の無駄に嫌味ったらしい言葉責めに、土方は呆れ、その攻撃をくらった執務官に同情していた。

 なのははクロノ肩にポンと手を置き、苦笑いを浮かべながら言う。

 

「く、クロノくん……。げ、元気出して」

 

 続いて、ユーノもクロノを元気づけようと、

 

「き、君のガッツは、モニターで見てた僕たちがちゃんと分かってるから!」

「そ、そうそう!」

 

 と新八も相槌を打ち、励ます。

 

「クロノくん咄嗟に反撃してたし、さすが執務官だよ!! しかもあんなバケモノ相手に局員の人たちが無傷だったのは、不幸中の幸いじゃないか!!」

 

 さらにアリサとすずかも続く。

 

「いわばその傷は勲章よ! 男の勲章!」

「クロノくんカッコよかったよ!」

「いや、すずかは銀髪と一緒に戦ってたから、クロノの活躍見てなくね?」

 

 つい土方はツッコミいれた。

 年上やら年下の女の子にやら、気を遣われまくっているクロノは、顔を両手で覆う。

 

「やめてあげて!!」

 

 見ていられなくなって、土方は声を上げた。

 

「そうやって励ますのもダメなんだよ!! とりあえずそっとしておけお前ら!!」

 

 この中で一番執務官の気持ちを分かっているのは、フォローの達人たる土方だけのようだ。

 クロノのプライドが高いのは土方も周知であり、プライドが高い鬼の副長もまたその気持ちをちゃんと理解しているのだろう。

 

 そうだぞ、と沖田は腕を組んで頷く。

 

「〝油断して失態を犯した無様な〟エリート執務官殿は放っておいてやれ」

 

 クロノの目の端から水滴が……。

 

「お前はとりあえず黙れ!」

 

 土方がギロリと沖田を睨む。

 

 プライドが高い人間が失敗した時に励まそうとすると、逆に傷ついちゃうんだぞ、っという土方のフォローを、沖田以外の人間は察したらしい。クロノをそっとしておくことにシフト。

 

 そして土方が話しの軌道修正に入る。

 

「さっきの話に戻るんだが……」

「執務官の失敗談義ですかィ?」

 

 としつこい沖田。

 

「ちげェよ!! もうその話はやめろつったろ!! お前マジで陰湿だな!!」

 

 とツッコミ、土方は「銀髪の話だよ!!」と苛立ち気味に言い、他の面々も銀時のことをまた気にしだす。

 

「あの野郎がいつ目覚めるのか分かるのか?」

 

 土方の問いに、エイミィは首を横に振る。

 

「さっきクロノくんが言った通り、精神的な外傷……って言えばいいのかな? 肉体の怪我じゃないから、どうしても銀時さんの精神力に左右されるらしくて。いつ目覚めるかは断定できないの」

「そう、なんですか……」

 

 新八は声を落とすが、すぐに顔を上げ、

 

「でも銀さんなら大丈夫!! きっとすぐに、あの憎たらしい腹立つ顔を見せに来ますよ!!」

「そうアル!!」

 

 神楽も同調し、力強く拳を握る。

 

「あのバカが怪我して布団にお世話になるなんてしょっちゅうネ! きっとすぐにあの腑抜けたアホ面拝めるアル!!」

「銀時さんは、随分慕われているんですね」

 

 とリンディは笑顔だが、

 

(信頼よりも罵倒が目立つんだけど……)

 

 ユーノは汗を流しながら微妙な表情。

 そして新八は力強く宣言する。

 

「後は桂さんに任せて、僕たちは銀さんが目覚めるのを待ちましょう!」

 

 桂はこの事件にほとんど関りを持たない人物という立場からか、率先して銀時の看病を申し出てくれた。

 

「たく……テロリストの癖して俺ら警察ガン無視とはな……」

 

 と土方は呆れ顔。なにせ、現状の桂は真選組などお構いなしにフリー行動。さすがに真選組副長も思うところはあるだろう。

 だが、桂のことを考えるのがメンドーになったようで、土方は「まァ、いいか……」と気にするのをやめる。

 

「とりあえず、あの銀髪がゴキブリ並みの精神力で復活するのを持つとして……」

 

 と言ってタバコを吸う土方は、煙を吐いて視線を落とし、眼光を鋭くさせた。

 

「――なら、俺たちが次に考えるべきは〝金髪〟か……」

 

 真選組副長の言葉にその場の誰しもが、フェイト――いや、彼女の持っている謎の刀のことを考え始めているはずだ。

 

「アレ、なんなのかしら?」

 

 アリサが首を傾げ、沖田が顎を指で撫でる。

 

「どうにも、魔法を吸い取るだけが取り柄じゃねェみてェだな」

「えぇ……」

 

 とリンディが頷き、神妙な面持ちで語る。

 

「アレは、フェイトさんの〝精神を乗っ取ろうとする〟危険な怪物と言っても、過言ではないでしょう」

「えッ!?」

 

 リンディの言葉に新八は驚きの声を漏らし、江戸組や魔導師の少女たち、なによりアルフがアースラ艦長の言葉に驚きと困惑の表情を浮かべていた。

 目を細めた土方が、一番にリンディに問いかける。

 

「……あんた、フェイトの持ってる『あの刀』についてなにか知ってんのか?」

 

 リンディは無言で頷き、口を開く。

 

「あの剣には特殊なAIがあり、それが適合する者を選び、所有者すら操るようにできているようです」

「……つまり、やっぱりアレはデバイスってことですか? それとも……」

 

 不安げなユーノの問いに、リンディは顎に手を当てて表情を険しくさせながら話す。

 

「そうですね……デバイスではあるようです。私たちの知っている従来のデバイスとは、大きく特徴も性能も異なるとはいえ」

 

 リンディの言葉を聞いて、アースラ組以外の面々に動揺が走る。

 

「操る……だから、途中からあんな変な喋り方になったのね……」

 

 アリサは汗を流し、フェイトが変化していた時の言動を思い出しているようだ。

 やがて彼女は自身の炎を模ったデバイスを掌に乗せて、見つめながら呟く。

 

「フェイトの使ってたヤツは……なんていうか、ホントに異質だったわね……。私たちが使ってるデバイスと違って、持ち主と一緒に、って感じがしなかった……」

「うん。フェイトちゃんや銀時さんの様子から、危険な感じが伝わってきた……」

 

 頷き、困惑と不安が混じった表情を浮かべるすずか。

 二人の話を聞いたなのはは「フェイトちゃん……」と心配そうに声を漏らす。

 クロノは腕を組んで、険しい面持ちになる。

 

「……すずかの言う通りだ。フェイト・テスタロッサの使っているデバイスは魔力を吸収したり、使い手を操るだけじゃない。もう一つ厄介な機能があるらしい」

「それは?」

 

 と、土方が視線を鋭くして問えば、

 

「あの剣を使い続ければ……」

 

 リンディは答えようとするが、少し言い辛そうに視線を逸らし、一旦言葉を置く。やがて、神妙な面持ちで。

 

「――フェイトさんという〝存在〟が、消えてしまう機能が備わっているようなんです」

「「「「「「ッ…………!?」」」」」」

 

 なのは、アリサ、すずか、新八、神楽はリンディの言葉を聞いて息を飲む。

 

「そ、それは一体どういうことなんだい!?」

 

 無論、一番に食ってかかるのは使い魔のアルフだ。続いて近藤も食い気味に。

 

「リンディ殿! つまりフェイトちゃんは透明人間になるということなのか!?」

「んなワケないだろ!」

 

 とクロノがツッコム。

 

「近藤さん、話しの筋からある程度答えを考えてくれ」

 

 と土方は、勘違い上司にため息を吐く。

 

「フェイトちゃんが消えちゃうって、どう言う意味なんですか!? リンディさん!!」

 

 なのはの問いに、リンディは難しい顔を浮かべながら顎に手を当てる。

 

「そうですね……フェイトさんの精神が、あのデバイスに塗りつぶされてしまう、って表現が妥当でしょうか……」

「つまりどういう事なんだ一体!?」

 

 よくわからないといった近藤。すると、沖田が目を細めながら口を開く。

 

「つまり、あの金髪のガキの精神、ようは魂みたいなモンがあのデバイスのせいで消えるってことか? ゲームのデータを上書きするみたいに」

 

 推論を聞いて、リンディは頷く。

 

「えぇ。おおむね、その表現で間違いないでしょう」

「「そ、そんなッ!!」」

 

 なのはとすずかは驚愕し、

 

「クソッ!」

 

 アルフは歯噛みして、苛立ちからか突発的に右の拳で会議室の机を叩く。

 沖田以外の面々も、衝撃を受けたようで見るからに動揺が見て取れる。

 

「おいちょっと待て」

 

 だがそこで、すぐに冷静な土方は疑問点に気づく。

 

「あんたらなんでそこまでフェイトの持ってる刀に詳しいんだ? クリミナルとか言う連中に、密偵でも送り込んでんのか?」

 

 土方の問いを聞いたリンディは、居住まいを整え、口を開く。

 

「そうですね。土方さんの疑問は最もです」

「そもそもこんな情報を知っているのは少し前、僕たちの元に〝ある協力者〟が来ていたからなんだ」

 

 続けて言うクロノの言葉に、神楽は「協力者?」と呟いて首を傾げる。

 

「彼女です」

 

 リンディは掌を出して対象の人物を指し示し、全員の視線が後ろにいるであろう〝人物〟に向く。

 リンディの言った『協力者』は口を開く。

 

「にゃ~」

「いや、猫じゃん!!」

 

 ツッコミ入れた新八はガバっと顔をリンディに向けて、薄茶色の猫を指さす。

 

「アレのどこが協力者なんですか!? アレのどこがッ!? 猫の手も借りたいってこと!?」

「あッ、ウマイ……」

 

 となのは。

 するとすずかが、思い出したように両手をパンと合わた。

 

「あ、前にリンディさんが膝に乗せてた猫さんだ」

「あ、たしかにそうだね――って、今は別にどうでもいいから!!」

 

 と、ツッコミ入れた新八は再び顔をリンディに勢いよく向ける。

 

「あのリンディさん!! いくらなんでもこのシリアスな雰囲気でボケかますのやめてもらえません!?」

「ちょっと待て眼鏡!」

 

 咄嗟に声をかけた土方は、猫をマジマジと観察しだす。

 

「……お前、この猫……どっかで、見覚えねェと思わねェか?」

 

 汗を流し、困惑気味の土方の言葉――対し、新八も「えッ?」と声を漏らして猫をマジマジと見る。その姿を確認するうちに、青年は汗を流し、頬を引き攣らせ始めた。

 猫の正体に気づき始め、えッ? うそッ? そんなことありえるの!? と、内心のテンパり具合が大きくなれば、

 

「――では、ご紹介します」

 

 と、リンディが言う。

 直後、猫の体が光り出し、やがてその光は人間大――しかも大人の大きさへと変化する。

 変身が終われば、

 

「う、うそ……ッ!!」

 

 アルフは信じられないとばかりに目を見開き、声を漏らす。

 いや、アルフだけではなく、他の面々ですら驚愕の表情を浮かべ始めていた。

 リンディが真剣な表情で協力者を紹介する。

 

「彼女はプレシア・テスタロッサの使い魔――」

「――〝リニス〟です」

 

 大魔導師の使い魔は、恭しく一礼するのだった。

 




第五十八話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/68.html

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