魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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新八「そう言えば、ゴールデンウィーク突入しましたね」

銀時「あー、そういえばそうだな。まぁ、コロナ流行ってるから遠出なんてできねェからゴールデンもクソもねェけど」

神楽「うちの中でゴロゴロとか、テンション下がるアルなー」

新八「いや、あんたらはそもそもゴールデンでもまともに遠出せんし、そっちゅうゴロゴロしてる万年ゴールデンどころか毎日夏休みみたいな生活してんでしょうが」


第五十六話:最後のジュエルシード

 曇天の空。

 雨が降り、雷が鳴り響く。

 

「…………」

 

 巨大な魔法陣を展開させたフェイトは、目を瞑り、電気が帯電している金色の光球を自身の周辺にいくつも配置していた。

 彼女が右手に持つのは愛機――左手に持つのは、魔力を吸い取る謎の刀。

 

 ――たぶん、ジュエルシードはこの辺りにある……。

 

 連中の情報から、残りのジュエルシードが集まった区域を絞ることができた。

 

 ――後は、魔力流を打ち込んで強制発動させるだけ……。

 

「ハァーーーッ!!」

 

 フェイトが天高く戦斧を掲げれば、自分の周りに浮かばせた複数の金色の光球から、落雷のような激しい(いかづち)が海に向かって落ちる。

 すると、海から青白い光が四つ――。

 やがて四つの青白い光が柱となり、天空に向かって立ち昇った。

 

「くッ……!」

 

 自身の魔力が一気に削られてきていることを、フェイトは実感する。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 大きく息を切らすフェイト。魔力が著し減ったことによる消耗が予想よりも大きいようだ。

 やがて右手に持つ自身の相棒に目を向け、

 

「無理させて、ごめんね……バルディッシュ」

《Yes sir》

 

 いくつかの意味を含ませた謝罪の言葉。

 少女の愛機は自身を点滅させ、素直に答えた。

 

 そしてフェイトは、バルディッシュとは反対の手に持った刀に、目を向けるのだった。

 

 

「さぁ~て。自力でなんとかするか、それとも刀を使うか――」

 

 離れた場所――海面から突き出た岩に乗ったパラサイトは、上空のフェイトを見上げながら目を細める。

 

「見物だな」

 

 人外が放つ声には、言葉ほど興味という意思は含まれてはいない。

 

 

 アースラ内に甲高いエマージェンシーコールが鳴り響く。

 通信でエイミィに呼ばれた江戸組、魔導師組。両者がアースラ艦内の廊下を走る。

 一方、

 

「やっぱり、フェイトちゃんの魔力とセンスは凄いね……」

 

 海水を暴走させるジュエルシード相手に奮闘するフェイトの姿に、言葉を漏らすエイミィ。

 言葉に反応してか、クロノは腕を組みながら巨大なモニターの映像を眺めつつ、口を開く。

 

「確かに彼女の才能は本物だろう。だが、無茶のし過ぎだ。あれじゃ、封印までにはこぎ着けないはずだ」

 

 鋭い眼差しでフェイトの現状を分析するクロノ。

 すると、彼の隣に立つリンディは険しい表情を浮かべながら口を開く。

 

「えぇ……。ただそれは〝通常の場合〟なら、ですが…………」

 

 魔法関係者として各々の反応を見せるアースラの面々。

 モニターの向こう側で黒衣の魔導師が、自身に向かっていく海水の柱を避けながら戦っていれば、

 

「――フェイトちゃん!!」

 

 やって来たなのはが開口一番に少女の名を呼ぶ。

 そして彼女の後ろには仲間たちに、アルフ&銀時ペア+ヅラ。

 

「ヅラじゃない桂だ」

 

 と地の文に言う桂に神楽が「なんでお前もいるアルか?」と訊けば、「いや、なんか成り行きで」と長髪は答えている。

 

「お~……まるで映画みてェ」

 

 沖田の抑揚のない声に反応して、新八は食い気味に、

 

「いや、んな呑気こと言ってる場合じゃないでしょ!! アレ絶対フェイトちゃんヤバイですって!!」

 

 映像ではフェイトが――荒れ狂う竜のような巨大な海水の塊――に立ち向かう姿が、映し出されていた。

 新八はビシッとブリッジのモニターに指を向ける。

 

「早くフェイトちゃん助けないと!!」

「わたし、すぐに現場に行きます!!」

 

 新八の言葉に呼応するかのように、即座になのはが急いでブリッジから出ようとするが、

 

「いや、君は行かない方がいい」

 

 クロノは首を横に振る。

 

「どうして!?」

 

 なのはが食い下がると、銀時がクロノに顔を向けた。

 

「なら、あいつの自滅待ちでも狙ってんのか?」

 

 銀時の言葉を聞いて「あなたもか……」とクロノは右手で頭を抑える。たぶん今のセリフで、銀髪が映画を見たのだろう、と執務官は推測したようだ。

 

「……セオリーが通じるなら、そう答えるつもりだったが――」

 

 クロノはフェイトに目を向ける。

 

「〝今の彼女〟に、消耗を待つなんて定石は当て嵌まらないかもな……」

「えッ……」

 

 言葉を聞いて、なのははフェイトの戦う映像に目を向けた。

 

 

 フェイトは必死に襲い掛かる海流を避け続ける。

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 消耗した魔力、徐々に疲弊する体力。

 はっきり言って、ジュエルシードを強制的に暴走させた時点でコンディションはかなり悪い。ジュエルシードを1個封印するのだって厳しい状態だ。

 まったく歯が立たない状況に、フェイトはふい右手に持った刀を見てしまう。

 

「…………」

 

 思わず顔を歪めた時、海流の一つがまるで襲いかかる大蛇のように、フェイトの背中に向かって突撃していく。

 

「ッ!?」

 

 フェイトが気付いた時には避ける暇などなく、海流の先端(くち)は少女を飲み込む――

 

「――――ッ!!」

 

 ――ことはなく、ズバァン!! と海水の塊は四散してしまう。

 フェイトは思わず刀の刀身を盾に使って、海流の突撃を防いでいたのだ――。

 

 だが、すぐさま他の海流が別方向からフェイトへと向かって襲いかかる。

 黒衣の魔導師は苦々しげに歯を食いしばり、

 

「クッ……!」

 

 一閃――。

 

 ジュエルシードの魔力が宿った海水をフェイトが刀で斬りつけると、水の柱はまるで力を失ったように落水。

 そして彼女の中に、ジュエルシードから奪い取った魔力が満ち始める。

 

「ハァッ!!」

 

 また一閃――。

 

 ロストロギアに向かって刀を振り下ろす。すると、ジュエルシードは輝きを放つの止め、青い宝石となる。

 フェイトは海に落ちる前に、青い宝石を空中で手中に収め、他の三つのロストロギアを見据えた。

 嫌な脂汗を流しながら、凄く辛そうな顔のまま、歯を食いしばる黒衣の少女。

 

 

「なんか、フェイトのヤツ、元気になってないアルか? さっきまでヘトヘトだったのに」

 

 神楽は不可解と言わんばかりの表情で、破竹の勢いで反撃開始するフェイトを眺める。

 

「でも、な~んか顔はあんま晴れやかじゃねェな」

 

 沖田は少し目を細め、

 

「もしかして……魔力を急激に吸収して体に異常な負担が……?」

 

 リンディは右手で口元を覆い隠しながら、鋭い眼差しでフェイトの持つ刀の分析を始めていた。

 

「あの剣、想像以上の性能だな……」

「あっさりジュエルシードの封印までしちゃってる……」

 

 眉間の皺をより濃くするクロノと同じように、モニターを眺めるエイミィも呆然とした顔だ。

 

「ちょちょちょッ!!」

 

 ここで、新八が慌てて声を出す。

 

「冷静に分析してる場合ですか!! このままじゃジュエルシード全部持ってかれちゃいますよ!!」

「むしろなおのこと、なのはやクロノを行かせた方がよくねェか? なんならアリサやすずかも付けてよォ」

 

 目を細める土方は冷静に意見を飛ばす。

 

「このまま指を咥えて黙って見てるのは下策かもしれんぞ?」

「問題は、クロノやなのはさんを行かせた後、どうするかです」

 

 リンディの言葉を聞いて、銀時は顎に手を当てる。

 

「つまり今のフェイトをなんとかできそうな魔導師が、誰もいねェって言いてェのか?」

「……まだ、有効な戦術を用意できていないのが、現状です……」

 

 神妙な面持ちで言うリンディ。横のクロノもまた、悔しさと不甲斐なさが合わさったような表情で口を強く結び、顔を少し背けていた。

 すると銀時は、わざとらしく両手を軽く上げてやれやれと首を横に振った。

 

「おいおい参ったな。法を執行する人間が、ただのガキ一人相手にビビッて足踏みとはよ」

 

 クロノがジロリと銀時が睨むが、銀髪の男は飄々とした態度を崩さない。

 

「そんじゃ、そんな頼りない公僕に代わって、お侍様が行くとしますか」

 

 そこまで言って銀時は、アルフに顔を向ける。

 

「おいアルフ。俺を乗っけながらフェイトの相手をできるか?」

「もちろん。ただ言っとくけど、乗り心地は保証できないからね?」

 

 アルフは軽口を叩きながらニヤリと不敵な笑みを浮かべ、銀時もまた不敵に笑う

 

「暴れ馬じゃなくて暴れ犬ってか? 上等」

「犬じゃなく狼」

 

 二人はそのままフェイトの元まで向かおうと動き出すが、

 

「待ってください」

 

 強めの口調でリンディが二人を引き留めれば、銀時とアルフは振り向く。

 

「あなたたちの今やろうとしていることは、はっきり言って無謀です」

 

 ピシャリと告げられたリンディの言葉。対し、銀時は自身の腕を叩く。

 

「なに言ってやがる。魔法頼りの魔法少女も魔法少年もダメってんなら、腕っぷしが取り柄のお侍さんが行くのがベストだろうが」

 

 口の減らない銀時に対して、リンディはより口調を強めて言う。

 

「それはフェイトさんが魔法をまともに使えないという前提の場合です! 今の彼女は充分な魔力で魔法攻撃ができるんですよ!」

 

 銀時は舌打ちをして食い下がる。

 

「つまり、誰もあいつをなんとかできないってか? だからこのままあんたらと一緒に、俺もボーっと突っ立てろと?」

 

 するとクロノが鋭い視線を銀時に向けた。

 

「なら逆に訊くが、あなたが行ってどうなる? 返り討ちにされるだけだぞ」

 

 と言われ、銀時がまたクロノを睨んだ時だった……。

 

「フェイトちゃん……」

 

 憂いや悲しみを帯びた声で、なのはは少女の名を小さく呟く。

 

「――すごく、苦しそう……」

 

 

 

 バシュ! バシュ! と自身に向かってくる海水の柱を、フェイトは素早い剣捌きで斬りつけ、どんどん魔力を吸い取り、無力化していく。

 自身に魔力が満ちていくのが分かる。同時に思考がさだまらない。

 

「ハァ……ッ!! ハァ……ッ!!」

 

 力が高まっていくのが分かる。だが、精神がまるで落ち着かない。心がちぐはぐになっていく。

 

「ァァァッ!!」

 

 フェイトは髪をかき上げ、天に向かって声を吐き出す。

 魔力が高まる度に、高揚感が高まり、感情の制御が難しくなる。腕には痺れが出始めた。

 

「ァァァアアアァァアアアァッ!!」

 

 徐々に、体の内側がぐつぐつ煮えたぎるような、体全体が軋むような、凄く不快な感覚が体全体に張り巡らされていく。

 なんとか嫌な感覚を振り払おうと、フェイトは光の柱を出すジュエルシードに向かって突進していく。

 

「アアアアアアッ!!」

 

 一つのジェルシード封印すれば、

 

「ァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 また一つ、ジェルシードを封印する。

 そして残りは一つ――。

 

「ァ゙ァ゙ァ゙ッ……!!」

 

 とにかく、外から入って来る大きな魔力も、自身の魔力も安定しない。

 今の状態は不快で、苦しく吐きたくなるような、とにかく我慢できるようなものではない。腕どころか、体のあちこちから感じる、小さな痺れと痛み。

 

 不快感や不安感などあらゆるモノを吐き出すように、口から荒れた声を出し続ける。

 

 まるで自分が自分じゃなくなるような……頭がぐちゃぐちゃになるような……制御できるはずのモノが制御できない……。

 そんなワケのわからない恐怖(モノ)が、幼い魔導師を蝕んでいた――。

 

 

「フェイト……ちゃん……!?」

 

 なのはは、フェイトの戦う姿を見て目を見開いていた。

 

「フェイト、あの子……!!」

 

 半狂乱となった主に、アルフも驚きを隠せないようだ。と同時に、何かを感じたのか、悲しそうな表情と声も垣間見える。

 

「おい……本格的にマズイんじゃねェか……?」

 

 物静かだった少女のあまりの豹変ぶりに、土方も唖然としていた。

 クロノはチラリとリンディに目を向ける。

 

「……魔力を吸収し過ぎたせいで、余剰分の魔力が体に負荷をかけているのでしょうか?」

「わかりません。でも、もしそうなら……放っておけば……」

 

 リンディは憂いや焦りといった、悲哀の混ざったような複雑な表情を浮かべた。

 

「…………」

 

 新八はもうどう反応していいのか分からないのか、口を閉ざしている。

 

 フェイトの変容を目の当たりにして、ブリッジに集まった多くの人間が色んな思いを巡らしていることだろう。

 黒衣の少女がなに上、苦しみながらもあんな険しい道を進むのか。本当に狂気に染まって、自らを省みない行動なのか。

 

 そんな戸惑いが渦巻く空間の中、なのはは瞳を震わせる。

 

 ――フェイトちゃん……。

 

 もしかしたら気のせいかもしれないし、フェイトという少女に持っていた先入観から見えてくるモノなのかもしれない。

 だが、なのははには少女の頬から流れる雫が、 

 

 ――泣いてる……。

 

 彼女の気持ちを表しているように見えてならなかった。

 

 雨か海水か汗の、どれかかもしれない。それでも、黒衣の魔導師が吠え、必死に戦っている姿を見る度に……彼女が苦しみも悲しも、感情すべてを押し殺しているように見えてならない。

 なにかを必死に隠しながら――辛くても苦しくても、戦い続ける――そんな姿が垣間見えてくる……。

 

 そして、〝彼女(フェイト)の仲間〟もまた、何かを感じ始めているようで、

 

「おい、アルフ……」

 

 銀時の口から低い声が漏れる。

 

「――行くぞ」

「あぁ……」

 

 アルフもきっと自分のように何かを感じ、銀時と同じような気持ちを持っているのだろう。

 使い魔が力強く頷きながら銀時の後を追うとするが、

 

「だから待てと言っているだろう!!」

 

 クロノが銀時の腕を掴み、再び止めようとした。

 

「そもそもまとも空も飛べないのに現場に行こうというのか!? 下手をしたら大怪我だけじゃ――!」

 

 そこまで言って、クロノは言葉を止めてしまう。

 

 銀時の目――。

 感情の読み取れない深淵のような瞳から、寒気を覚えるほどの威圧感。それは、少し離れたなのはですら、はっきり感じ取れるほどに。

 リンディやアルフでさへ――いや、江戸の人間たちの何人かですら、息を飲むほどの威圧と覇気の籠った、読み切れない瞳。

 

「あんたらお役所の人間は、役人らしいやり方で最善を尽くせばいい――」

 

 銀時はクロノとリンディに視線を向け、

 

「そこのガキ共やチンピラ警察共、うちの従業員は指示に従わせたって文句は言わねェ――」

 

 なのはたち幼い魔導師たち、真選組、そして新八と神楽を見回した後、映像のフェイトに顔を向ける。

 

「――だが、俺とアルフはフェイトのとこに行く。言っておくが、あんたらの指示や命令に従うと約束した覚えもねェしよ」

「僕はあなたのために――!!」

 

 クロノは再度、銀時の説得を試みようとする。だが、

 

「俺のやろうとしてることは、確かにバカで愚直で無謀な事かもしれねェ。だけどよ――」

 

 銀時は新八から借りている腰に差した木刀の柄に、手を置く。

 

「苦しんでるあいつを見て……何もしねェなんて考えは、ねェんだよ」

 

 怠惰な銀髪の男の――今までに見たことのないくらい強い意志。

 その強さを感じさせる言葉と瞳に、クロノは押し黙ってしまったようだ。

 

 なのはにだってハッキリわかる。もう何を言っても無駄だろう、と。

 銀髪の侍は止まらない。フェイトと言う少女と対峙するまで、止まろうとしない。

 

 銀時の言葉が気になったなのはは、ゆっくりと彼に近寄る。

 

「銀時さんは、フェイトちゃんを見て……」

「どうにもあのガキ、バカな無茶始めたようだ」

 

 なのはが言葉を言い切る前に、言葉を口にしつつ銀時は映像に目を向けた。

 

「〝あんなもん〟を見ちまった以上、どうにもここで黙っていられるほど、俺は辛抱強くねェんでな」

 

 『あんなもん』――それは、なのはが見た涙のことを言っているのか、フェイトの心の奥底から隠しきれないほど溢れ出ている気持ちを察知して言ったのか……。

 

「艦長殿の言うようなことが、あいつの身に何が起こってんなら……なおさらな」

 

 なにを感じ取り、どんな意思を固めたのかわからない。

 だが、フェイトと対峙しなければいけない、という思いは伝わってくる。

 まるで、大木のように揺るがない銀時の意志――それを垣間見た気がするなのは。

 

 一方のクロノは、視線を彷徨わせた後に俯き、逡巡し、やがて決意の籠った表情を浮かべた。

 

「――なら、僕も行こう」

 

 クロノは杖を出し、バリアジャケットを纏う。

 

「クロノ執務官……!」

 

 リンディはクロノの予想外の行動に、少しだけ驚きの声を漏らす。

 執務官はアースラ艦長に決意の籠った眼差しを向ける。

 

「艦長。〝今のフェイト・テスタロッサ〟の力と能力を分析し、少しでも情報を手に入れる上でも、彼らと協力して彼女と対峙する必要があると思います」

 

 クロノの強い意志の籠った瞳を見て、リンディは目を閉じ、唇を硬く結んで思案。やがてゆっくりと目を開くと、

 

「……わかりました」

 

 〝艦長としての顔〟となった。

 決意の決まった瞳でリンディは、オペレーターのエイミィに顔を向ける。

 

「エイミィ。ゲートをフェイトさんのいる結界近くに開いてください」

「分かりました!」

 

 エイミィはすぐにパネルを操作して、ゲートを開く。そうすれば、ブリッジにあるゲートが光を発し始めた。

 そこで、

 

「私も行かせてください!!」

 

 なのはが力強く訴える。

 

「なのはさんまで……」

 

 リンディは呆れた声を出し、説得するような口調で言う。

 

「あなたは砲撃型の魔導師ですよ? 今のフェイトさんにあなたの魔法は――」

「わかってます! 私の魔法が今のフェイトちゃんに通じないかもしれないことも!!」

 

 力強い眼差しで訴えるなのはに対し、リンディも鋭い視線を向けた。

 

「なら、なぜ行こうと?」

「それでも会いたいんです!! フェイトちゃんと話をしたいんです!! 放って置けないんです!!」

 

 意思が強く、曲がることのないであろう、なのはの瞳が意志を訴えかける。

 リンディは薄く息を吐き、頷く。

 

「――今のフェイトさん相手でも対応できる銀時さん、そして高位の魔導師であるクロノやなのはさんが協力すれば、さすがに無謀とまではいかないでしょう」

 

 半分は理論的、半分は彼らの意思を汲み取ってくれたリンディ。

 すると今度は、

 

「ならあたしだって行くわ!!」

「私も行きます!!」

 

 アリサはなのはの肩に手を置き、すずかはなのはの手を取る。二人もまた、強い意思を示す。

 なのはは二人の言葉を聞いて目を潤ませ、まずアリサに顔を向け、

 

「アリサちゃん……」

「あんただけ危ないところに行かせられないっての!」

 

 次にすずかを見れば、

 

「すずかちゃん……」

「一緒にフェイトちゃんに会いに行こう!」

 

 二人に心強い言葉と表情を贈られる。

 徐々にだが、恐怖と不安が和らいでいくなのは。

 

「なら私も行くアル!!」

 

 と、ここで神楽まで便乗。

 

「いや、神楽ちゃん!! アルフさん付きの銀さんはともかく、僕ら空飛べないでしょ!!」

 

 すぐに新八が止めに入るが、神楽は止まらない。

 

「そんなもん、海に落ちたら足が水に沈む前にもう片方の足を上げて、沈む前にまた反対の足を上げてを繰り返せば大丈夫ネ!!」

「できんの!? そんなこと!? いや出来たとして空飛べなきゃ結局意味ないじゃん!!」

 

 新八はツッコム。すると、リンディはチラリと神楽を見て呟く。

 

「そういえば、神楽さんは『夜兎(やと)』という、とても〝身体能力が高く肉体が頑丈な種族〟の方なんですよね?」

「え、えェ……」

 

 新八は神楽を抑えながら戸惑い気味に頷く。

 答えを聞いてリンディは俯き、口に手を当て少し思案した後、

 

「では指示を出します!」

 

 顔を上げ、少女たちの思いに応えるように力強く指示を飛ばす。

 

「銀時さんとアルフさんを主軸に、二人をサポート! 無論、魔導師たちは魔力吸収に細心の注意を払い、近接戦を避けることを第一に考えてください! 決して、彼女の接近を許してはなりません!」

「了解!」

「「「はい!」」」

 

 クロノはビシッ姿勢を正して返事をし、少女三人も力強く頷く。

 

「そんじゃいっちょ、久々にアイツの顔を拝んでやるとするか」

 

 銀時はニヤリと口元を吊り上げた。

 

 

 バシュッ!! 最後のジュエルシードが刀で横薙ぎに一閃――。

 そして、フェイトは大人しくなったロストロギアを手中へと収め、バルディッシュへと収納する。

 

「クッ……!!」

 

 フェイトは髪をかき上げるように片目部分を空いた右手で覆い、

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ッ!!」

 

 肩を激しく上下させる。

 やっと戦闘が終わった事に対し、内心安堵した。魔力は必要以上に充分なのに、精神と肉体の疲労が尋常じゃない。あまり余った魔力が、ゆっくり抜けて行くような感覚を覚える。

 苦しかった……。苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて、仕方なかった……。

 だからなのか、思わず呟いてしまう。

 

「アルフ……銀時……」

 

 今まで自分の側にいてくれた人たちのことを――。

 息を荒くするフェイトの頬には、涙腺から出たモノか雨水か分からないが、水滴が通った跡があった。

 

 

 

「あ~りゃりゃ……」

 

 海面に突き出た岩の上から空を眺めるのは、パラサイト。

 

「拒んでるせいか、色々問題起きてそうだな……ありゃァ」

 

 パラサイトは上空のフェイトを見ながら「頑固なガキだな……」と呟き、頬を掻く。

 

「アレ、さすがに大丈夫か? これだとさすがになァ……」

 

 などとパラサイトがぶつぶつ言っている時、

 

「ん?」

 

 自身の背後に何者かの気配を感じた。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 肩で息をするフェイトは、ゆっくりと呼吸を整えた後、おもむろにさきほどまで使っていた刀を見る。

 

「…………」

 

 なんとも言えない表情でフェイトが刀を見ていると、

 

「随分お疲れじゃねェか」

「ッ!?」

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、フェイトは驚く。

 咄嗟に振り返れば、少し離れた位置――木刀を肩にかけ、不敵な笑みを浮かべる銀髪の男が狼に跨っていた。

 

「ぎん、とき……! アルフ……!」

 

 目を見開くフェイトは、二人の名を呟く。

 

「よォ~。ひっさしぶりだな、フェイト」

 

 銀時はニヤリと不敵に笑いながら、軽く右手を上げて振る。

 

「フェイト……」

 

 狼の姿で表情こそ分かりづらいものの、アルフの声が憂いを帯びているのが感じ取れた。

 フェイトはひとしきり視線を左右に泳がせた後、後ろを振り向いて立ち去ろうとするが、

 

「おっと待ちな」

 

 素早くアルフが移動し、銀時がフェイトの顔の横に木刀の刀身を突きつけた。

 

「わりィが、行くならおめェがその手に持った物騒なモンは、置いていきな」

 

 フェイトは顔を少しだけ後ろに向けて、冷たい眼差しを銀時に向ける。

 

「銀時、わかってるよね? 私はあなたたちに構ってるほど暇じゃない。そんな余裕もない」

「そうつれねーこと言うなよ。まー、銀さんとしちゃ、おめェの気持ちも尊重してやりてェところだが、過労死しそうなおめェを放って置くのも、一ジャンプ主人公として見逃せねェんでな」

 

 軽口を叩く銀時。

 刀の柄を持つフェイトの手に力がこもり、

 

「ッ……!」

 

 フェイトは刀を振って木刀の刀身を弾いた後、数歩分後ろに後退。

 

「言っとくけど、邪魔するなら手加減するつもりはない!」

 

 フェイトは刀の切っ先を銀時とアルフに向け、鋭い眼光を向ける。

 

「おっと待ちな」

 

 銀時は左手を出してフェイトに制止を促す。

 ニヤリと口元を吊り上げた銀時は、

 

「血気盛んなのは結構だが、喧嘩すんのは役者が揃ってからにしようぜ」

 

 まるで遥か上空を指すように人差し指を立てる。

 訝し気な表情を浮かべながらも、フェイトは指の先を追うように視線を遥か上空と向けた。

 

 

 桃色、赤色、紫色の三つの光が、上空で小さく輝く――。

 

 三つの小さな光――三人の少女は、強い風を全身に受けながらも、まっすぐフェイトたちの元へと急降下していく。

 そして、光のうちの一つ――なのはが声を出す。

 

「いくよ。レイジングハート!」

《All right!》

 

 愛機の答えを聞いた後、なのはは一緒にここまで付いて来てくれた二人に顔を向ける。

 

「がんばろう! アリサちゃん! すずかちゃん!」

「もちろん!」

「うん!」

 

 親友二人も急降下しながら力強く答えた。

 

「行くわよエンシェント・フレイア!!」

《もちのろんです!!》

 

 アリサは相棒をしっかり握りしめ、

 

「がんばろう……! エンシェント・ホワイト!」

《この身はあなたと共に》

 

 すずかはパートナーを胸の近くで抱きしめる。

 

 急降下していく中、自然となのはは目を瞑り、最初に自分が魔法の力を手に入れた時――相棒を起動させるための言葉を思い出す。

 

「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に――」

 

 そうすれば、

 

「火は大地に、光は炎に、赤き焔はこの身体に――」

「水は海に、輝きは氷に、白き息吹はこの背中に――」

 

 アリサとすずかもまた、心に言葉が自然と浮かび、紡ぐ。

 

「不屈の(こころ)は――」

「消えぬ(こころ)は――」

「砕けぬ(こころ)は――」

 

 三人の魔導師(しょうじょ)がおのが相棒(デバイス)を掲げれば、

 

 ――この胸に!!

 

 声は一つとなる――。

 

「「「セットアップ!!」」」

 

 そしてそれぞれが、桃、赤、紫の光に包まれるのだった。

 

 

「ッ!!」

 

 フェイトは目を見開く。

 

 曇天の空から――まるで暗雲を晴らすかの如く、太陽の光を浴びて――三人の魔導師が降り立つ。

 一人は赤い宝石が先端に付いた杖を携え、一人は炎の剣を持ち、一人は槍を構えていた。

 

「さァて……役者が揃ったぜ」

 

 アルフの背に立ち上がる銀時が口元を吊り上げれば、

 

「…………」

 

 フェイトの視線がひと際するどいモノとなる。

 

 一方は、魔力を吸収する刀を持つ黒衣の魔導師。

 一方は、魔力を持たない侍と狼の使い魔、そして三人の幼い魔導師。

 いま、対峙する――。

 




第五十六話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/66.html

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