魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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今更ながら、特殊ルビで文字をでっかく出来ることに気付いたので、ちょっと入れてみました。


第五十三話:物事はいつも予想外

 時間は遡り、管理局がなのはやフェイトの前に現れる三日前。

 

「うわぁ~……海が綺麗やなぁ……」

 

 八神はやては、夕日が反射する海を見て目を輝かせ、感嘆の声を漏らす。少女の後ろの砂浜には、彼女の乗る車椅子の車輪の跡が残っていた。

 はやては嬉しそうに海を眺め、呟く。

 

「こんな近くまで、海に来たのは初めてや……」

「そうなのか? はやて殿は、兄上に海に連れて行ってもらえんのか?」

 

 付き添いの桂小太郎は首を傾げ、はやては彼の問いに頬を掻く。

 

「ま~なぁ……。兄やんは危ないから、海に行っちゃだめーって言うさかい」

「なるほど。まァ、足を動かせん幼子が海の近くで遊ぶのは危険と考えるのも、妥当だな」

 

 桂は、はやての兄の考えもわかると思ったようで、うんうんと頷く。

 

「でも、ありがとうなぁ桂さん」

 

 と、はやては笑顔で桂に礼を言う。

 

「こんな近くで海を見れるのは、とっても嬉しい」

「なに、礼には及ばんさ。居候の身。家主の願いの一つでも叶えてやらねば、武士としての名折れだ」

「桂さん、ホントにお侍みたいな人やなー」

 

 と、はやてはニコニコ顔。

 

「みたいではない、侍だ。ま、未来人のはやて殿に説明しても信じてもらえぬか」

「またまた~、桂さんはほんまにおもろい冗談つくなぁ~」

 

 はやてはおかしそうにくすくす笑みを零す。

 ちなみにこの時の桂は『今いる世界が未来の世界』だと思い込んでおり、その説明を居候相手の家主であるはやてに説明したはいいが、この通りはやてはまったく信じてない。

 とまぁ、こんな会話を二人は今の今まで何回も繰り返してきたワケである。

 すると、パンパンと白い手がはやての肩を叩く。

 

「ん?」

 

 最近、はやての車椅子を押すのがもっぱらの仕事のエリザベスが、はやてに掌を出す。その上には、何かが乗っていた。

 

「うわぁ、綺麗な貝殻や」

 

 形の整った虹色に輝く貝殻。それ見て、はやては瞳を輝かせる。

 そしてエリザベスは、白いペンギンのような手をグイッと、はやての前に差し出す。

 

「私にくれるん?」

 

 エリザベスはグイッと体を折り曲げて頷く。

 はやてはぱぁっと顔を輝かせて、

 

「ほんまありがとうな! エリザベスくん!」

 

 エリザベスの手から貝殻を受け取り、両手で包むように握りしめる。

 普段通りエリザベスの表情に変化はない、と言うか変化せんのだが、その顔はどことなく嬉しそうだった。

 

「ふッ……幼き子供の無邪気な笑顔ほど、尊きモノはないな」

 

 腕を組む桂は笑顔のはやてを見てから、少女が持っている〝本〟にチラリと目を向ける。

 

「しかし……はやて殿はいついかなる時も、その本を持ち歩いているのか?」

「あー、これな……」

 

 はやてがそう言って、膝に置いた本を両手で持つ。

 はやての持つ本は、表紙から全体にかけて十字に鎖が巻き付き、本としての機能をまったく果たしていない。表紙には十字架のような装飾が施されている。

 

「……大事な物なのか?」

 

 問う桂。

 まるで染みついた癖のように『読めない本』をはやては持ち歩いている。それこそ、外出する時はいつも。

 そんな光景を、会った時から何度も見た桂から出た疑問に対し、はやては不思議そうに小首を傾げる。

 

「な~んか……手元に置いておかないと、落ち着かなくてなぁ。なんでやろ?」

 

 はやて自身も自分が鎖に巻かれた本を持つ理由が分かっていないところがある。

 

「ふむ……」

 

 はやての本を、桂は顎に手を当てつつ観察。

 桂の視線に気づいたはやては、おもむろに本を差し出す。

 

「見ます?」

「むッ……では、少々拝見させてもらう」

 

 はやてから本を受け取り、桂は少しの間じっくり見た後、本を開こうとするが、鎖が邪魔して開くことはかなわない。

 

「ん、この……!」

 

 しかし、桂が力を入れても鎖はビクともしない。

 

「アハハ、無理ですよ」

 

 とはやては苦笑しつつ話す。

 

「私だって何度試しても無理でしたもん。どこ探しても鍵穴もあらへんから、鎖を解くこともできません。工具使ってもダメでしたし」

「えいッ……この……!!」

 

 はやての説明を聞かずに、桂はなんとか本を開けようと奮起する。たが、鎖が軋むだけで、なんの変化もしない。

 

「あの……桂さん?」

 

 はやてはなんか桂の様子がおかしいことに気づく。

 

「ふんッ! このッ! おのれッ!」

 

 桂の顔がどんどん必死な形相になっていく。

 

「あ、あのぉ~……」

 

 はやてはさすがに本を取り返した方が良いと思い、手を出す。

 

「んんんんんんんッ!!」

 

 桂は目を充血させ、歯を食いしばり、全身の血管を浮き出たせ、全身のありとあらゆる力を使い、凄まじい形相で本を開かせようとする。

 

「あの桂さん!?」

 

 いくらなんでも止めた方が良いと思ったはやては声を上げる。

 

ぬおおおおおおおおおおおおおおおッ!!

 

 バンバンバンバンッ!! と近くの岩に本を何度も高速で叩きつける桂。だが、鎖も本もビクともしない。

 

「桂さんんんんんッ!?」

 

 さすがのはやても桂の執念深い行動に焦る。

 

「おのれ本風情がッ!!」

 

 桂は青筋浮かべて怒鳴る。

 

「武士を愚弄するとどういう目に遭うか思い知らせてくれるわッ!!」

 

 桂は眼光を光らせ、エリザベスに顔を向ける。

 

「エリザベースッ!!」

『ラジャーッ!!』

 

 エリザベスがプラカードで返事をすると、口から何か出す。

 

「ドリルーッ!?」

 

 はやてはエリザベスの口から出たドリルを見てギョッとする。

 

ゆくぞォォォォォッ!!

 

 桂は本を盾のように突き出し、ドリルを回転させるエリザベスに突撃。無論、ドリルで鎖ごと本を破壊するつもりだ。

 

やめてぇぇぇぇぇぇぇッ!!

 

 さすがに本を破壊されてはかなわんと思ったはやては、声を上げて止めようとする。

 その時――。

 ザバーン!! と海から間欠泉のように水柱が立つ。

 全員の動きが止まり、視線が目の前の水柱に注がれる。上にあがった水が地面に落ちると、でっけークリオネみてぇな生き物が海に立っていた。っと言うか浮かんでいた。

 でっけークリオネの大きさ、約十メートル。

 

「『「…………」』」

 

 突如現れたバケモノにポカーンとするはやて、桂、エリザベス。

 

「うわぁーッ!? お化けクリオネェーッ!!」

 

 ようやく状況を理解したはやては開口一番に叫び声を上げる。

 

「か、桂さんッ!! え、エリザベスくんッ!! 早く逃げるんやッ!!」

 

 はやての言葉を受けて、素早く行動したのはエリザベス。

 車椅子の手押しハンドルを握った白いペンギンのおばけ。その鈍重そうな見た目に似合わない超早いダッシュで、はやての車椅子を後ろから押してクリオネから離れる。

 

「ちょッ、ちょっと待って!!」

 

 だが、逃走の途中ではやては待ったをかけ、後ろに顔を向ける。

 

「か、桂さんが!!」

 

 声を受け、エリザベスが足を止めて振り返れば、

 

「………………」

 

 微動だにもせず、突っ立っている桂。彼はバケモノクリオネを見つめていた。

 まさか恐怖で固まって逃げられないのか? と即座に思ったはやては、大声で呼びかける。

 

「か、桂さぁーん!! 早く逃げてぇぇぇぇぇッ!!」

『そうです! 逃げましょう!』

 

 エリザベスもプラカードで逃げるよう促す。桂の目に入らないので、特に意味のない行動だが。

 

「待つのだ二人共ッ!!」

 

 ビシッと声を上げる桂。

 

「『ッ!?』」

 

 桂の言葉に二人は驚く。(エリザベスは文字だけ)

 

「で、でも!!」

 

 なおも食い下がるはやてに振り返る桂は、諭すように余裕の笑みを浮かべる。

 

「いいか、はやて殿。いくら常識外れのバカみたいにデカい生き物であろうと、そのように無暗に怖がったり怯えたりしては、かわいそうではないか」

 

 桂は小さな子供に言い聞かせるかのように語る。

 

『桂さん……』

 

 人間ではない(?)エリザベスは、桂の言葉に感涙を受けているようだ。

 桂は慈愛に満ちた微笑を浮かべつつ、語る。

 

「母なる海より来た生き物。ただ人間を襲うような恐ろしいバケモノであるはずがない。こちらから歩み寄る。その姿勢こそ、多くの人種や生物と分かり合うきっかけに繋がるはずだ」

「な、なんてええ人や……!」

 

 はやても桂の言葉に感動し、口元を手で覆う。

 

「それに見ろはやて殿」

 

 クリオネのバケモノを桂は見上げつつ、表情を和らげる。

 

「少々ナリはデカいが、このような愛らしい姿をしているモノが、やたらめったら人を襲うように見えるか?」

 

 そこではやてはある事に気づく。本を数多く読んで知識を溜めた少女は、知っている。

 

「いや、クリオネは――」

「この姿、まるで天使のようではないか」

 

 はやての言葉を最後まで聞かず、桂がクリオネに触れようとした瞬間――パカっとクリオネの顔面がチャックのように縦に割れ、割れ目から牙が生えてくる。

 

「えッ?」

 

 呆けた声を出す桂の上半身をガブリッ! と縦に開いた口が噛みつく。

 

ぎゃああああああああああああああああああああッ!!

 

 と桂が悲鳴を上げる。

 

「天使が悪魔になったぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 とはやても叫ぶ。

 彼女は知っていたのだ。実はクリオネが外面がいいだけの悪魔であることに。(実際のクリオネはこんな変態はしない)

 

『桂さァーん!!』

 

 エリザベスもプラカードで叫ぶ。

 バケモノクリオネは桂が噛み切れないのか、頭を左右上下にぶんぶん振って餌の下半身を振り回す。

 

ぬ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!

 

 苦しみのあまり、溢れんばかりに悲鳴を上げる桂。砂浜に飛び散る鮮血。

 

「か、桂さんんんんんんんッ!!

 

 はやては叫び声を上げ、エリザベスに顔を向ける。

 

「え、エリザベスくん!! なんとかならないんか!? あのままじゃ桂さんが死んでまう!!」

 

 いや、もう手遅れじゃね? と言うツッコミあるだろうが、桂は丈夫なので大丈夫。たぶん。

 エリザベスはプラカードを見せる。

 

『タイムマシンを探しましょう』

「いや、現実逃避しないで!! 現在(いま)をなんとかするんや!!」

 

 関西弁少女はツッコミ入れる。

 

 そんな時だった。

 縦に開く口から桂をだらーんと垂らすバケモノクリオネの顔が、はやてを捉える。まるで、ない目で車椅子に座った少女を見つめるように。

 ゆっくりと頭を下げ、頭部をはやてとエリザベスに向ける怪物。

 次の瞬間――バッ! とクリオネの頭部が弾ける。いな、それは弾けたのではない。まるで花弁が開くかの如く、頭部が何本もの触手に変形したのだ。

 

「えッ?」

 

 はやてが気づいた時にはもう遅い。

 クリオネは、はやてとエリザベスに向かって触手をいくつも伸ばした。

 発射と言っても過言ではない勢いで放たれた触手が、二人に向かう。

 

 ――もうダメッ!!

 

 そうはやてが思った瞬間には、触手は車椅子の少女と白いペンギンのいる地点に到達し、砂塵を巻き上げる。

 

「はやて殿ォォォォォッ!! エリザベスゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 と、頭に血を流した桂が、クリオネの口を無理やりこじ開けて声を上げる。なんか結構大丈夫そうである。

 触手が引いていき、クリオネの頭部は元の形に戻る。

 そして爆炎のように巻き上がった砂塵が晴れていくと、妙な光景が広がっていた。

 

「?」

 

 首の部分を傾げるクリオネ。

 なにせ、自分が触手を当てた場所には、少女もあの白いペンギンも居はしないのだから――。

 

 

 

「…………」

 

 はやては来るであろう衝撃に思わず目を瞑っていたのだが、

 

「…………?」

 

 一向にそれがやって来ないので、ゆっくりと目を開ける。

 

「なッ……!?」

 

 そして自分に起こった状況を見て思わず声を漏らす。

 今、自分は上空にいるのだ。それも、三角形の白い魔法陣のようなモノに乗って浮いている。遥か下には、クリオネのようなバケモノと食べられている桂。

 

『これはッ!?』

 

 エリザベスも自身に起きた状況に驚きを隠せないようだ。

 

「い、いったい……!?」

 

 不安そうに周りを確認し、ふいにエリザベスの顔を見た時、

 

『はやてちゃん! あれを見ろ!』

 

 エリザベスが指(?)を差す方を見れば、自分の視線より高い位置に、鎖が十字に巻き付いた本が浮かんでいたのだ。

 

 それは、普段から自分が当たり前のように持ち歩いている――いつ手に入れたかも分からない本。だが、さきほどからクリオネに食われている〝桂の手にあった物〟が、どうして空中に浮かんでいるのか? 

 

 ワケのわからないまま、混乱するはやて。

 ふと、エリザベスはある事に気づく。

 

『む…………?』

 

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――。

 まるで心臓の鼓動。鳴動を始める本。その姿は、不気味な雰囲気さへ漂わせる。

 突如、本に巻き付いていた鎖にヒビが入ったかと思えば、バリンッ! と砕け散ってしまう。

 

「ッ…………!?」

 

 それを見てはやては驚く。

 なにせ、何をやっても壊せないと思っていたものが、なんの前触れもなく勝手に壊れたのだ。驚くのも無理はない。

 本が今まで見せなかった中身を見せる。

 真っ白――。

 どんどん捲れる本のページは全て真っ白の白紙。

 すると、

 

(マスター)の危険を感知――封印を解除します》

 

 本から発せられた女性のような声。

 そして、ゆっくりと本ははやてに近づく。だが、エリザベスがはやてを守ろうと、素早く動いて彼女の前に出ていくが、

 

『ッ!?』

 

 なんと、本はいつの間にかはやての眼前へと移動していた。無論、エリザベスは驚く。

 無機質に浮遊し、自分のところにやって来る本に――はやては怯え、唇を震わせる。

 はやての眼前に近づいた本は、また音声を発する。

 

《――起動》

 

 

 

 

おのれ貴様ァァァァァッ!!

 

 桂は喉が張り裂けんばかりに吼える――バケモノクリオネの口の中で。

 

「はやて殿とエリザベスを粉みじんにするとは!!」

 

 *なってません。

 

「あのような幼き少女に牙を向くなど許せん!! 貴様のような輩はこの桂小太郎がせいばあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!

 

 成敗する前に、桂はまた噛みつかれ、体を上下左右にぶんぶん振り回される。

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

 『起動』という言葉と共に、はやてとエリザベスの四方を囲むように、四つの陣が出現――そこから、四人の人影が姿を現す。

 出現した四人は、囲む二人に向けて恭しく膝を折り、目を瞑ったまま頭を下げている。

 簡素な黒一色の服を身に纏ってこそいるが、その雰囲気はまさに王に仕える中世の騎士さながら。

 

「――闇の書の起動、確認しました」

 

 まず口を開くのは、桃色の髪を後ろで一括りにした女性。

 

『闇の書ッ!?』

 

 とエリザベスはプラカードで驚きを表現する。

 

「我ら、闇の書の収集を行い、主を守る守護騎士にございます」

 

 続いて説明するのは、髪を短く切りそろえた金髪の女性。

 

『主ッ!?』

 

 とプラカードで言って、エリザベスは自分を指さす。

 

『まさか俺か!』

「まじか!?」

 

 はやては素直にエリザベスの予想を信じる。

 今度は、白髪に犬のような青い耳を生やした筋骨隆々の男が、言葉を発する。

 

「夜天の主に集いし騎士」

 

 そして最後に、赤毛の髪を二本の三つ編みお下げにした一番背の低い――はやてくらいの少女が、告げる。

 

「――ヴォルケンリッター」

 

 四人の重々しい自己紹介が終わると、

 

『なるほど。よくわかった』

 

 エリザベスがプラカードで言い、腕を組んでうんうんと頷く。

 

『つまり、お前たちは俺の部下と言うワケだな?』

「すごいなぁ、エリザベスくん」

 

 と感心する天然関西弁少女。

 はやての言葉が耳に入ったであろう赤毛の少女が、目を瞑ったまま訝し気に片眉を上げる。

 

【なー、なんか主があたしら無視して誰かと喋ってんぞ? つうか独り言か?】

 

 赤毛の少女が念話で他の騎士たちに喋りかける。

 

【ヴィータちゃん、しッ】

 

 と金髪の女性がたしなめる。

 

【ヴィータ、主の御前だ。我ら騎士は主の命があるまで黙するのみ】

 

 続いて桃色の女性が念話を使う。

 ちなみに騎士たちは目を瞑っているので、エリザベスにもプラカードにも気づいてない。

 

『ならば、俺が〝主〟として最初の命令を下さねばなるまい』

 

 エリザベスはどこから取り出したのか、鎧武者の兜を被る。

 

「よッ! エリザベスくん! かっこいいで!」

 

 悪乗りしてはやてはエリザベスを持ち上げる。

 

【やっぱ誰かいるんじゃね?】

 

 赤髪の少女は眉間に皺を寄せる。

 

【あたしら完全に無視して話してんぞ】

【黙れヴィータ、主に不敬だぞ】

 

 とピンク髪の女性も眉間に皺を寄せ、ヴィータと呼ばれる赤髪の少女に言う。

 

【例え主が、〝頭の中の人間〟と話すお人であろうと、我らは付き従うのだ】

【いや、むしろおめーが不敬じゃねぇか!】

 

 と念話でツッコミ入れるヴィータ。

 

【今の無礼な発言聞いたからな? 絶対忘れねェからな? 守護騎士失格だなおい】

 

 ヴィータの言葉を受け、ピンク髪の女性が青筋浮かべる。

 

【ヴィータ、そこになおれ。叩き切ってやろう】

【上等だ! やってみろこのデカ乳女! 脳みそ筋肉!】

【よしわかった。貴様は主への挨拶が済み次第、粛清してくれる!】

 

 ピンク髪と赤髪の騎士が念話で火花を散らし始めていると、

 

「あのぉ~……」

 

 はやての声を受けて、全員の目蓋が開く。念話で喧嘩していようとも、忠誠心を優先させる騎士たち。

 代表して、ピンク髪の女性が最初に口を開く。

 

「闇の書の主。我らにご命令を」

『では、早速最初の命を下す!』

 

 と言って、エリザベスが刀を魔法陣に突き刺す。

 

「――っと、あなた方の主が申しております」

 

 笑顔のはやてが、両手の先をエリザベスに向けながら言う。

 

「「「「…………はッ?」」」」

 

 目が点になる騎士四人に、エリザベスはプラカードで言い放つ。

 

『俺はエリザベスだ! まずは桂さんをたすけ――』

「「誰だ貴様(テメェ)はぁぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 桃色髪の騎士と赤毛の騎士が、白いペンギンモドキのどてっ腹に鉄拳のストレートを叩きつける。エリザベスの体がくの字に折曲がり、吹っ飛ぶ。

 

「いきなり主を殴ったぁぁぁぁッ!?」

 

 はやてはビックリ。

 

「いや、おめーだから!! あたしらの主!!」

 

 青筋を浮かべるヴィータは、はやてを指さしながらツッコミ入れる。

 

「わたし?」

 

 はやてはきょとんとした顔で、自分の顔を指さす。

 ヴィータは青筋浮かべながら、エリザベスにビシッと指を向ける。

 

「あんな得体の知れねぇバケモンがあたしらの主なわきゃねぇだろ!! お前天然か!? 天然だろ!」

「ヴィータ貴様!! 主に不敬だぞ!!」

 

 ピンク髪の女性が怒りながらヴィータに駆け寄る。

 

「だってしょうがねぇだろ!!」

 

 怒られてもヴィータは構わず食ってかかる。

 

「召喚されていきなりペンギンの騎士にされそうになってんだぞ!! 怒るだろ普通!!」

「例え主がエセペンギンでも我らは忠義を尽くさねばならんのだ!!」

 

 と言い放つ桃色髪の女性。青筋浮かべるヴィータは、倒れるエリザベスに指をビシッと向ける。

 

「だったらあのペンギンに忠誠誓ってみろコラァ!!」

「なぜ私がペンギンなんぞに忠義を尽くさねばならんのだ!! 例え話だバカ者!!」

 

 桃色の髪の女性は怒鳴り返す。

 

「んだとコラッ!!」

「やる気か貴様!!」

 

 そして取っ組み合い始める赤髪の騎士と桃色髪の騎士。

 すると、はやてがおずおずと手を上げる。

 

「あ、あのぉ~……」

「「なんだッ!!」」

 

 二人は喧嘩の横やり入れた相手を睨む。睨まれたはやては「ひッ!」と怯え、おすおずと言う。

 

「ど、どうぞ、続けてください……」

「ッ!?」

 

 桃色髪の女性はハッとなり、この世の終わりのような顔になる。

 騎士でありながら主である少女を怯えさせてしまった彼女は、地面(魔法陣)に両手を付いて平伏し、全力で謝罪。

 

「も、申し訳ございません主よッ!! 召喚されて早々にこのような無礼をッ!!」

「い、いやぁ~、別にそう気にせんでも……」

 

 はやては苦笑しながら頬を掻く。

 桃色髪の騎士は棒立ちしているヴィータをギロリと睨み、

 

「貴様も謝らんかッ!!」

 

 赤毛の頭を掴んで、無理やり謝らそうと頭を地面に押し付ける。

 

ふぎゃッ!?

 

 ヴィータは頭を地面に叩きつけられ、悲鳴を漏らす。

 

「まことに!! まことに申し訳ございません!! 騎士としてなんなりと罰を!!」

 

 桃色髪の騎士はそう言いながら、ヴィータの頭を魔法陣にガンガンガンガン!! と何度も叩きつける。

 

「いやー、あなたの隣の子、もう十分過ぎるほど、罰受け取ると思うんやけど……」

 

 はやては冷や汗を流す。何度も額を地面に叩きつけられるヴィータに、同情の眼差しが向く。

 

「と、とりあえず、頭上げてくれへん? もう謝るのは十分やから」

「はッ!」

 

 桃色髪の騎士は主の許しを受けて、現れた時と同じ跪いた態勢へと戻る。

 横で無理やり頭を地面に叩きつけられたヴィータは、額から煙を出し、白目剝いている。

 とりあえず、ヴィータに同情するような視線を向けつつ、はやては尋ねる。

 

「それで、わたしがあなた達の主ってことになるんか?」

「えぇ」

 

 と頷く桃色髪の騎士。

 

「あなたの命に従い、行動します」

 

 騎士の言葉を受け、はやては下にいるクリオネのバケモノに視線を向ける。

 

「あなたたちって、もしかしてめっちゃ強かったりするん?」

 

 

 

 クリオネのバケモノの口からはみ出した桂の下半身が、ぶんぶんと振られる。

 

「よしわかったッ!!」

 

 桂はクリオネの口を無理やりこじ開けて訴える。

 

「とりあえず休戦しよう!! 一旦タイム取ろう!! そんで仕切りなおあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!

 

 桂の言うことなどに聞く耳持つはずもなく、彼の体を嚙み千切らんばかりの勢いでぶんぶん振り回すクリオネ。

 このまま桂は食われてしまうのか?

 その時――、

 

「うぉぉぉりゃあああッ!!」

 

 犬耳の男が、その丸太のように太い腕を使って、クリオネの腹に鉄拳を叩き込む。

 十メートルはある巨体が空中に持ち上がり、縦の口が開いて桂を離す。

 

「ぬおッ!?」

 

 桂はそのまま地面に落下し始める。が、砂浜に落ちる前に、彼の襟首を空中に浮かぶ桃色髪の女性が掴む。その手には、剣が握られていた。

 

「ラケーテン――!!」

 

 すると今度は、空中に持ち上がったクリオネの更に上空――赤髪の少女が手に持ったハンマーのヘッドの反対側の噴射口から、エネルギーをロケットのように吐き出させ、突撃する。

 

ハンマァァアアアアアッ!!

 

 叫ぶ少女。そして浮かぶクリオネの胴体に、ハンマーの前方にあるスパイクが直撃。

 口から血のような液体をまき散らしながら、クリオネの体がくの字に折れ曲がり、地面に叩きつけられる。

 ドカーンッ!! とまるで爆発のごとく砂塵が巻き上がった。

 やがて赤髪の少女が砂塵の中から飛び出し、空中に佇んで敵の様子を伺う。

 

「ッ……!!」

 

 すると砂塵から、何本もの触手が針のように飛び出す。

 

「させん!」

 

 犬耳の男が赤髪の少女の前に飛び出し、魔法陣のような物を展開させ、触手を防ぐ。触手は硬い盾に弾かれたように跳ね返る。

 砂塵からクリオネが、頭を変形させた状態で立ち上がる。

 

「なるほどな……」

 

 桃色髪の女性は地面に降り立ち、桂の襟首を手から離してクリオネを睨む。

 

「ロストロギアの異相対か。通常の攻撃では倒しきれぬようだ」

 

 桃色髪の女性は後ろに顔を向ける。

 

「シャマル。ヤツの封印を頼む」

「了解」

 

 後ろに控えたシャマルと呼ばれた金髪の女性は、右手を前にかざす。

 

「――クラールヴィント」

 

 すると、彼女の指に嵌められた二つの指輪――そこに挿し込まれた緑と青の宝石が飛び出す。まるでベンデュラムのように、尖った宝石の後ろには光る糸が付いている。

 宝石は自動で飛んでいき、クリオネの周りを何度も周回し、怪物の体を糸で拘束する。

 体を捻って暴れるクリオネだが、まったく光の糸が切れる様子はない。

 

「――封印」

 

 シャマルがそう言った瞬間、クリオネが光り出し、体がどんどん小さくなっていく。

 そして残ったのは、小さな通常サイズのクリオネと青い宝石のみ。

 

「なんと面妖な!!」

 

 その様を見ていた桂は目を見開き、驚愕する。

 

「桂さぁ~ん!!」

 

 すると今度は、エリザベスに車椅子を押されながら、はやてが桂の元まで駆け寄る。

 

「はやて殿!?」

 

 と桂は驚く。

 

「死んだのではなかったのか!?」

「勝手に殺さんといて! でも良かったぁ~……!」

 

 はやては桂の安否を確認して安堵する。

 

「無事そう――」

 

 そこではやては絶句する。なにせ、桂の上半身がおもっくそ血まみれなのだから。

 

「か、桂さん……!?」

 

 はやては桂の姿を見てぎょっとし、慌てて声をかける。

 

「だ、大丈夫なんですか!? それ致死量やないんですか!? その血!!」

「安心しろはやて殿」

 

 血まみれ桂は笑顔で言う。

 

「この程度、怪我のうちにもはいら――」

 

 そのまま桂は仰向けに倒れて、白目剥く。

 

「桂さんんんんんんん!?」

 

 はやては叫び、エリザベスも『いかん!』と言って焦る。

 シグナムがシャマルに目配せし、はやてが桂を介抱しようと駆け寄ろうとした時、

 

「管理局執務官――クロノ・ハラオウンだ」

 

 管理局の執務官と名乗る少年が、突如上空から現われる。

 

「チッ……管理局かよ」

 

 赤髪の少女――ヴィータはクロノを見て舌打ちをする。

 他のヴォルケンリッターたちも自身の武器や拳を構えていた。

 

「ッ……」

 

 ヴォルケンリッターを見て、クロノはデバイスを構える。が、彼がちらりと視線を横に向ければ、

 

「桂さん!! 桂さん!! 桂さん!! 桂さぁぁぁぁん!!」

 

 涙目で必死に血まみれの桂の名を呼ぶ、はやての姿が目に映った。

 クロノは少しため息をついて肩の力抜き、

 

「攻撃しないと約束するなら、こちらの医療設備で彼を治療しよう。まぁ、君たちが彼を〝助けたいと思う〟のなら……だが」

 

 値踏みするようにヴォルケンリッターとはやてを見る。

 するとはやてが涙目になりがら、クロノに懇願する。

 

「お願いします!! 桂さんを――私の友達を助けてください!!」

 

 

 

「――はやて殿と、まー……なんかよくわからんポッと出の人たち。そしてリンディ殿やクロノくんのお陰で、俺は一命を取り止めたと言うワケだ」

 

 時間は現在に戻り、手錠した桂はアースラにやって来た経緯を説明し終える。

 前回同様、食堂での桂の説明。話を聞いたヴィータはジト目で「いやポッと出ってなんだ。ポッと出って」とツッコミ入れている。

 一通り話を聞いて、銀時はボソリと呟く。

 

「そのまま死んでれば良かったのに」

「いやその言い草はちょっと酷くない!?」

 

 古き友から死ねばよかったのに、などと言われて桂は声を上げる。

 

「つうかポッと出ってなんだよ。ポッと出って」

 

 とヴィータはジト目で同じ文句を呟くと、隣のシャマルが苦笑を浮かべる。

 

「まぁまぁヴィータちゃん。当時の桂さんから見たら、私たちはいきなり現れたみたいなモノなんだから。まぁ、実際そうだし」

 

 次に、説明を聞き終えたアリサは腕を組んでジト目になり、独り言を呟く。

 

「あー、だから〝あの時〟、ジュエルシードの気配がすぐに消えたんだ……」

 

 すずかも苦笑しながら相槌を打つ。

 

「うん。ちょっと遠出してた時に魔力を遠くから感じて、焦って向かってる途中で、反応が消えちゃったもんね……。結局場所が分からなくなって、諦めちゃったし……」

「てっきり、フェイトちゃんに先を越されちゃったとばかり……」

 

 なのはもようやく合点がいったように、なんとも言えない表情で汗を流す。まさかの原因に、新八以外の江戸組ですら、呆れなどが混ざったなんとも言えない表情。

 すると、腕を組むクロノが喋り始める。

 

「まぁ、お互いのタイミングと運の悪さもあるだろうが、桂や――」

 

 クロノは一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに説明を再開する。

 

「……ヴォルケンリッターたちへの対応に追われれていなければ、もう少し君たちへの接触が早まっていたかもしれないな」

「なるほどな……」

 

 と銀時は頬杖をつきながら言い、山崎は首を傾げる。

 

「にしても数日って、尋問じゃなくて事情聴取でそんなに時間を取られるものなの?」

 

 クロノは青筋を浮かべる。

 

「主に長髪のウザい男への事情聴取が長引いたせいでな……軽くノイローゼにすらなりかけたよ……」

 

 と言うクロノは頬を引くつかせる。

 若き執務官の反応を見て、江戸組は察した。

 

「なに? それは一体誰の事なんだ?」

 

 当の桂は真顔で疑問符を浮かべつつ首を傾げるので、クロノが杖をウザい長髪に向けようとする。が、エイミィが「まぁまぁ」と言いながらが羽交い絞めしてクロノを制止。

 

「………………」

 

 そんな中、桂の回想を聞いていた新八は俯き、一向に喋ろうとしない。

 

「どうしたアルか新八? 眼鏡でも痛いアルか?」

 

 それに気づいた神楽がボケをかますが、新八のツッコミは返ってこない。普段なら「眼鏡が痛いってなに!? 腹でしょ腹!」という感じのツッコミが返って来るはずである。

 

「んん? どうした新八?」

 

 銀時も新八の様子がおかしいことに気づいて、怪訝そうに眼鏡の青年を見つつ、声をかける。

 

「どうしたんだよ新八く~ん。シグナムさん見て色々我慢してんのか? なら厠にでも行って、一回スッキリして来たらどうだ?」

 

 色んな意味で新八が怒りそうな発言しても、眼鏡は反応なし。

 すると今度は沖田が、

 

「あッ、もしかしもう暴発しちまったか?」

 

 かなり失礼な言い草だが、ぱっつぁんの反応なし。いや、心なしかちょっと反応した。

 そして桂が、新八に声をかける。

 

「本当にどうしたのだ新八くん? 銀時の言う通り、厠を我慢して漏らしたのか? ならばすぐにでも――」

 

桂コラァァァァァァァァッ!!

 

 目を血走らせ、新八が桂の両肩を掴みシャウトする。

 

「ど、どうしたのだ? 新八くん。漏らして錯乱したか?」

 

 怪訝そうな顔をする桂に、新八は怒鳴り散らす。

 

漏らしとらんわァァァァァァッ!! つうか、どうしたのだ? じゃねェよ!! あんたかァァァァッ!! あんたのせいで〝闇の書発動〟したんかァァァァアアアアッ!!

「「ッ!?」」

 

 新八の反応と言葉に、リンディとクロノがいち早く反応した。一方、それ以外の面々は新八の豹変に、完全に呆気に取られているが。

 新八は桂の肩をぶんぶん揺すりながら青筋浮かべ、目を血走らせ、鬼気迫った形相で捲し立てる。

 

「どうしてくれんだァァァァッ!! まだ無印リリカルなのは終わってねェよ!! ジュエルシード集め切ってねェよ!! PT事件終わってねェよ!! A.s始まってねェよ!! なのに、なのに、なにはやてちゃん危機にさらして闇の書発動させとんじゃおのれはァァァァァアアアアアアアッ!!

「えッ? なに? ……PTA?」

 

 さすがの桂も困惑。

 ちなみに回想の描写でこそ、はやてが闇の書の主に選ばれたシーンも入っている。だがその実、桂が話したのは彼からの視点での説明だ。その為、そもそも〝桂の説明から〟闇の書の覚醒とかもろもろを新八たちが知るはずがないのである。

 じゃあ、桂は闇の書について説明したの? と問われれば、言及したのは、

 

『FFの新アイテム闇の書……あー、こっちは分んないしどうでもいいな。俺を助けたのは、ポッと出のヴォルケンリッターたちでな。よく分らんが、どうやらはやて殿はシグナム殿たちの主らしい』

 

 ↑この一回だけ。

 ちなみに現状の銀時たちの間でヴォルケンリッターたちは、『はやてのピンチ前に突然現れ、彼女に騎士になった謎の四人』という、ふわふわでご都合的な変な集団扱いになっている。

 

「あッ、お、おい眼鏡ッ!!」

 

 我に返った土方が、新八の失言にいち早く気づいて止めようとするが、興奮するネタバレ眼鏡は止まらない。

 

「どうしてくれんだおい!! もう〝地球滅亡のカウントダウン〟始まってんだぞ!! まだジュエルシードも集めきってねェし、フェイトちゃんも仲間になってねェし、何してくれとんじゃおのれはァァァァァァァッ!!

 

 そして散々桂に怒鳴り散らした新八は頭を抱え、

 

もう地球はおしまいだァァァァアアアアアアアアッ!!

 

 天に向かって助けを乞うように叫び、涙を流す。

 そんな暴走する眼鏡の両肩に、ポンと手が置かれる。

 新八がゆっくり後ろを振り返れば、ニコやかな笑顔のリンディと真顔のクロノ。

 

「さて新八さん――」

「話を訊かせてもらおうか?」

「…………」

 

 新八は自分の失言の数々にやっと気づいて、大量の冷や汗流す。

 土方は見ていられないとばかりに、両手で顔を覆っていたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

おまけ

 

執務官クロノ~桂尋問編~その2

 

 桂は、数分でクロノ執務官をブチ切れさせた。

 

「なに?」

 

 と桂は首を傾げる。

 

「取り調べでカツ丼は定番であろう」

「出るワケないだろ!! カツ丼がッ!!」

 

 とクロノは怒鳴り、桂はありえないとばかりに目を見開く

 

「なに? 取り調べならカツ丼が出るのではないのか!?」

「これは取り調べではなく事情聴取だ! よってカツ丼はなしだ!!」

 

 ちなみに現実の取り調べでもカツ丼はでないのであしからず。

 桂は「そうか……」と言って口を閉ざす。

 やっと長髪のウゼェ男がおとなしくなったので、今度は自分から、とクロノは口を開く。

 

「よし、あなたの疑問も晴れた。今度こそこっちの質問に――」

「では自分で頼むとしよう」

 

 桂はどっから取り出したのか、黒電話を机の上に置き、ダイヤルを回して電話かける。

 

デリバリーを頼むなぁぁぁぁぁッ!!

 

 クロノは怒鳴り、桂が出した黒電話を指さす。

 

「そもそもなんだその……ゴツイ……なんだ!? その使い方、まさか電話か!? そもそもここにデリバリーが来るワケ――!!」

『へいお待ち』

 

 と、取り調べ室のドアが開き、プラカードを持ったエリザベスが『岡持ち』を持って現れる。

 

なんか出たぁぁぁぁぁッ!?

 

 ビックリするクロノを無視して、エリザベスは岡持ちを机に置き、蓋を上にスライドさせる。中には熱々のカツ丼。

 

「おー、これこれ」

 

 待ってましたとばかりに声を漏らす桂。

 エリザベスが『では、お勘定を』とプラカードの文字を見せ、桂に手を出す。

 

「うむ。ではそこの人が」

 

 と桂はクロノを手で指し、エリザベスはクロノに手を出す。そしてプラカードで、

 

『お二つで、3000円になります』

「払うワケないだろ!!」

 

 クロノはエリザベスの手をバシッとはじき、桂は熱々のカツ丼を食べる。

 

勝手に食べるなぁぁぁぁぁッ!!

 

 クロノが怒鳴る。無論、桂は構わず食べ続け、熱さで「あふあふ!」と口をぱくぱく動かす。

 

「ムカつく!! 勝手に食べるのもムカつくが!! その『あふあふ』が余計に腹立つ!!」

「折角だ。クロノ殿も食べふふか?」

 

 桂はもう一個のカツ丼をクロノに差し出す。クロノの顔のいたるところから血管が浮き出る。

 

「ムカつくから食べながら喋んな!! 『ふふか?』が余計に腹立たしいんじゃボケェッ!!」

 

 もう今のクロノは、クロノ執務官ではなくクロノヤンキーみたいな感じになっているが、桂はまったく物怖じしない。

 

『あの、お勘定……』

 

 とエリザベス。

 

「そもそもお前はなんだッ!!」

 

 クロノはエリザベスを頭の天辺から下まで指さす。

 

「桂と一緒にいたなんかよくわからんペンギンじゃないか!! なんで取り調べ室に勝手に入って来て、デリバリーなんぞ受けて、そのままカツ丼持って来るんだ!!」

『だからお勘定』

「払うワケないだろ!! そもそも僕が頼んだワケじゃないんだぞ!! しかも一口も食べてないし!!」

『だから勘定払えって言ってんだろボケェッ!!』

「だから払わねぇって言ってんだろボケェ!! そこの長髪に請求しろッ!!」

 

 クロノは怒鳴り散らし、桂を指さす。

 口にカツ丼を入れた桂は、きょとんとした顔で首を傾げる。

 

「なんふぇ?」

死ねぇぇぇぇぇぇッ!! 長髪死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!

 

 クロノは天に向かって怒鳴り散らす。だが、エリザベスにとってはそんなこと知ったこっちゃないようで。

 

『おいおい、あんちゃん。出前取っといて、金を払わねェとはどう言う了見だ? あァん?』

「お前はとりあずだま――!!」

 

 クロノの言葉をエリザベスの鉄拳が封じ、「ぶべぇ!?」と執務官は顔を殴られながらぶっ飛ぶ。

 

『金払えゴラァ……!!』

 

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!! とエリザベスは凄まじい覇気を放ち始める。

 クロノはその姿を見て、頬を抑えながら目をパチクリさせ、

 

「……い、いや待てッ!!」

 

 なんか怖いんで、とりあえずエリザベスを止めようと、クロノは両手を出して制止させようとする。だが、出前のあんちゃんと化したエリザベスは止まらない。

 

『ぐだぐだ言わんと、銭も払えんのかワレ? とっとと耳そろえて3000円払わんかい』

「いやおかしいしだろ!! 僕がお金を払うこともおかしい!! 取調室にそもそもデリバリーが来るのもおかしいし!! 桂の仲間のお前がデリバリーなのもおかしいし!! なにより管理局員に暴力を振るうのは――!!」

『うるせェーッ!! 銭を払わねェ奴は警察だろうと犯罪者じゃァァァァッ!!』

ぎゃあああああああああああああああああああッ!!

 

 エリザベスはクロノをタコ殴り。

 桂はカツ丼を食べ終え、両手を合わせてから一言。

 

「うむ。やはり蕎麦の方が良かったな」

 

 クロノと桂の尋問は続く――。

 




今回でアンケートの結果を集計しようとしたのですが、ハーメルンにもアンケート機能があることに気付いたので、そっちの集計を見てから最終的な判断をしようと思います

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