魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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銀時「祝――」

神楽「五十話達成!」

なのは「わ~い!!」

フェイト「いえ~い……」

新八「いや祝じゃねェだろォォォォォ!! 五十話達成するまでにどんだけ時間かかったと思ってんですか!! 祝どころか悲だよ!! あとフェイトちゃんのテンションひっく!!」

銀時「おいおいなんだよ。暮れの、しかも五十話達成って言うこんなめでてェ時に」

新八「いや令和になった時にテンションダダ下がりだった人に言われたくないんですけど!! そもそもこの小説五十話達成するまでに6年近く掛かってるんですが!!」

銀時「長期連載してる大作じゃねェか」

神楽「わおッ! すっごいッ!」

新八「よくそのセリフあんたら恥ずかしげもなく言えますね!!」

銀時「安心しろぱっつぁん。五十話達成に確かに六年もノロノロ亀足で続けてきたが、ハーメルンだと三年くらいの駆け足だから」

新八「それも長過ぎだろォォォォ!! どこが駆け足!? つうかピクシブで掛かった時間が帳消しになってねェから!!」

なのは「そもそも五十話近く経って無印も終わってないんですよね……」

新八「うっはッ!! 遅過ぎ!!」

神楽「つまり後10年は私たちは戦えるってことアル!!」

新八「それ完結に10年以上掛かるってことじゃん!! 先行き不安過ぎるなおい!!」

銀時「まー、安心しろ。この業界じゃ完結しないまま未完で放置される作品なんてごまんとあるんだから。俺たちもその作品群の一つになるだけだって」

新八「なにも安心できねェェェェ!! そして怖ェェェェェェェ!!」

フェイト「これからも『リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~』をよろしくお願いします」

なのは「いまの話の流れでよろしくって言っちゃうの!?」


第五十話:自分の答え

 アースラのブリッジでフェイトからの通信で衝撃の言葉を聴いた後のこと。

 時間は進み、夕方。

 なのはは重い足取りで自宅へと歩を進めていた。

 歩くたびにアースラでリンディとクロノから言い渡された言葉が何度も思い起こされる。

 

『これから〝ジュエルシード〟の回収については私たち管理局が担当させてもらいます』

 

 自分、アリサ、すずか、ユーノにリンディがきっぱりと言葉を言い渡し、

 

『君達は今回のことは忘れて……とはさすがに言えないが、それぞれの暮らしに戻るといい。民間人である君たちにこれ以上任すワケにはいかないからね』

 

 クロノもまたなのはたちへと事件に関わらないよう言い渡す。

 そしてリンディが優し気であるが厳格さを思わせる口調で説明する。

 

『たぶん、なのはさんたちにはまだ心の整理がつかないと思います。ですが、悪質な犯罪集団が関わっていると分かった以上……我々はあなた方のような幼い子供たちがロスロギア回収に参加することを許容できません。そのことだけは、理解してください』

 

 リンディの言葉によってなのはや親友たちはほとんど何も言えなくなり、家へと帰ることになった。

 そしてアースラを出る前にユーノからこっそり、

 

『管理局やクリミナルと言う連中が現れて、土方さんたちが持っていた映像の内容とだいぶ違う未来になってきた。フェイトのこともある。……心苦しいけど、なのはには一度じっくりジュエルシードにこのまま関わるか考えて欲しい。まぁ、まだ僕も考えは明確には決まってないけど。ただ、なのはがどっちを選んでも良いようにしておくつもりだから』

 

 一人で考えて欲しいということ。そして少女の答えがどちらに転んでもいいようにアースラで何かをする、といった言葉を受け取った。

 だが、帰路に付く現在も迷っている最中だ。

 ゆっくりとした歩みの中、なのはは親友二人の言葉を思い出す。

 

 アースラから海鳴市へと戻り、帰路に着く時。

 まずアリサから、

 

『あたしは正直、ただ漠然とあんたを助けようって思ってた。途中からは街を守ったりフェイトを助けたいって思いもできたんだけど……色々ととんでもない事実は出てくるし、妙な連中が出てくるしで、頭ん中しっちゃかめっちゃか。だから、まだまだ混乱中の頭を整理してから答えを出すつもり』

 

 次にすずかから、

 

『私もアリサちゃんと同じ。全然心も頭も追いついていかないし、あのクリミナルって人たちは正直に言うと怖いって思ってる……。でも、この事件には最後まで向き合いたいって思いもあるんだ……。だから、ちゃんと自分の思いに向き合って答えを出してみようと思う』

 

 それぞれの考えを聞いた。

 二人は自身の正直な思いを打ち明けてから自分たちの家へと帰って行った。

 ただ、二人の言葉を受け取ってもいまだに自身の考えが覚束ないなのは。

 

「わたしは……」

 

 胸に手を当てるが、それで答えが出るはずもなし。

 土方から『まだ終わったわけではない』という言葉を聞いた以上、まだこの事件に関わり真実に辿り着こうと思う意思は残っている。

 だが――。

 

 クリミナルと言う狂気的で何を考えているかの分からない不気味な犯罪集団に対する恐怖。

 フェイトはもう自分が考えているような心根の優しい子ではなく、母を殺してしまい、使い魔であるアルフも切り捨てた、恐ろしい少女に変貌してしまったと頭を過る疑念。

 自分はこれからなにができる? この事件に最後まで向き合えるのか? と言った自信の揺らぎによる迷い。

 

 不安、恐怖、迷い――

 

 あらゆる要素がなのはが事件へと関わることを止めさせようと後ろ髪を引っ張る。

 そもそもこんな不安定な気持ちで事件解決に協力し、ましてや助力なんて満足にできるはずもないことはなのはだって自覚している。

 

 ――ダメだなぁ……わたし……。

 

 DVDで見た、直球でフェイトへと対峙していた〝もう一人の自分〟の姿を思い浮かべると余計に情けなさを感じてしまう。

 まぁそもそも、あのDVDを見たからと言って自分は主人公などと自惚れてはいない。寧ろ、自分には映画で見た時のような強い志や揺らがない意志があるのか? と不安になることの方が多いくらいだったのだから。

 挙句の果てには、そもそも映画を見てフェイトを知った風になっていた自分はこれから彼女と関わっていくべきではないんじゃないだろうか? と言う自責の念にすら今は駆られてしまっている。

 ぐるぐるぐるぐると色んな考えや感情が頭の中を駆け巡っては混ざり合い、ワケの分からないモノへとなってしまう。

 

「あッ……」

 

 なのははそうこう考えてるうちに実家である喫茶翠屋の前まで歩いてきたことに気づく。

 歩きながら考え、家まで着いたが結局考えも感情もまとまらないまま。

 

「ただいま……」

 

 とりあえず、癖のように普段のあいさつをしながらなのはは玄関を開ける。

 

「あら、お帰りなさい」

 

 すると母――桃子が笑顔でお出迎えしてくれる。

 柔和な笑みを浮かべる母の顔を見ると、まるで胸が締め付けられるような言葉にしずらい不安な気持ちがわいてきて、つい甘えたくなってしまう。

 

「た、ただいま……」

 

 本当のことを言うワケにもいかないので、なのははとりあえずぎこちない笑みを浮かべる。

 すると桃子は少しきょとんとした顔を作った後、また笑顔を作る。

 

「お腹すいた? 丁度お菓子を作ってたところだけど、食べる?」

「う、うん」

 

 なのははぎこちない笑みのまま頷く。

 そのまま桃子の後を付いて行くようにリビングまで行き、台所で手洗いうがいした後、ソファーに座るなのは。

 おもむろに家が静かで、桃子以外の人の気配がしないことになのはは気付く。

 

「ねぇ、お母さん。お父さんやお兄ちゃんやお姉ちゃんは?」

「お父さんは恭也と道場で稽古。美由紀はその見学に行ってるわ」

「そっか……」

 

 なのはは頷いて、渡されたホットココアが入ったコップに口をつける。

 すると桃子がお皿を持って台所からテーブルへとやって来る。

 

「お待たせ」

 

 と言って桃子はクッキーを載せた皿を出す。

 

「あ、おいしそう」

 

 そう言って少々ぎこちなくはあるがなのはは笑顔でクッキーを取って咀嚼する。

 

「やっぱり、お母さんは料理上手だね」

 

 なのははそう言って母の料理の腕を褒めながらちょっとぎこちない笑顔を作り続ける。

 不安で仕方ない、相談したい、そう思うがやはり魔法とは無関係である母に相談できない。そう思い自身の悩みを悟られないようにしてしまう。

 

「ねぇ、なのは」

 

 と言って桃子は手に持ったコップを置く。

 

「なにか……悩んでいることがあるんじゃない?」

「えッ……?」

 

 自身の心の内を見透かされなのははきょとんする。

 桃子は柔らかい笑みを薄く浮かべながら言葉を続ける。

 

「相談したいこと、あるんじゃない?」

「な、ないよ!」

 

 両手を振って慌てて否定するなのはだが、次第に目を逸らしながら弱々しく告げてしまう。

 

「だいじょう……ぶ」

「そっか……」

 

 桃子は少し残念そうに言って、ココアが入ったコップに口をつける。

 

「う、うん。ゼンゼンダイジョウブダカラ」

 

 挙句の果てはロボットのような喋り方になってしまうなのはは内心テンパっていた。

 

(うわァー!! なにやってるの私ィ!! ぜっぜん誤魔化せてない!! むしろ悪化してるよォー!!)

 

 桃子の視線が外れるとなのははすぐに頭抱えて悶える。

 コップを口から離して桃子がおもむろに口を開く。

 

「なのは、一ついいかしら?」

 

 桃子の視線を感じてなのははすぐにビシっと体を正し、

 

「な、なんどぅえすかッ!?」

 

 間の抜けた返事してしまう。そしてなのはの内心は涙目。

 

(どもったァー!! どもっちゃったァー!! 何今の返事ィィ!? 全然自然体にできないィィィ!!)

 

 桃子は指を折り曲げて口元に当て、苦笑する。

 

「別に、悩みを人に言う事は悪いことじゃないのよ?」

「ッ…………」

 

 そう言われてなのはは口を一文字に結んで俯き、何も言えなくなってしまう。

 桃子は「フフ……」と笑みを零して天井を見上げる。

 

「今のなのはを見てると、あなたが小さい頃を思い出しちゃうわね……って、今もまだ小さいか……」

「あッ……」

 

 桃子に言われてなのはは声を漏らしながら思い出す。

 士郎が大怪我をして病院で寝たきりになっていた頃、喫茶翠屋はかなり忙しい切迫した状態になっていた。

 そんな中、幼いなのはは小さいながらも家族の為に何ができるのか? と自分に問いかけ、『最低限迷惑をかけないように我慢する』と言うのが彼女の出した答えだった。

 寂しい気持ちを押し殺し、必死に家族の足枷にならないように我慢した。

 桃子はコップを手に取る。

 

「あの時みたいに……なのはが私たちの為を思って負担を掛けないようにしてくれたことは、今でもとても嬉しいって思ってるわ」

 

 桃子はコップのココアを眺めた後、なのはに顔を向ける。

 

「でも、正直に言うとね……同時に悲しいって気持ちもあったの……」

「うッ……」

 

 なのはは苦い顔をする。

 今思うと、ああやって家族に自分の気持ちを打ち上げずにただおとなしい子でいようとしていたのは、ただ家族に心配を掛けただけで自分でも間違いだったでは? 思ったことがあるだけに、申し訳ないと言う気持ちが大きくなる。

 

「別に、無理に気持ちを打ち明けてくれなんて思ってないわ」

 

 と桃子は苦笑しながらフォローする。

 

「やっぱり……私はあなたの母親だから、娘に悲しい思いをさせてるって感じると、つい自分になにか足りないのかなーって思ったりしちゃうの」

「お母さん……」

 

 なのはは瞳を潤ませて桃子の顔を見る。

 

「あなたが家族に迷惑を掛けないって思いは尊いモノよ」

 

 と言いながらすると桃子はなのはの頬に手を添える。

 

「でも同時に、母親のわがままとしてあなたの悩みや苦しみを打ち明けて欲しいって思いもあるの」

 

 そう言われて頬に添えられた桃子の手をそっと掴むなのは。

 握った手はとても温かく感じた……。

 

「もちろん、無理に私に言わなくてもいいの」

 

 桃子はニコっと笑顔を作り、優しく言葉をかける。

 

「あなたが信頼できる……頼れると思う〝誰か〟に悩みや不安を打ち明けてくれれば。あなたが前へ進む手助けになるならお母さんじゃなくてもいいの」

 

 頬に当てられた桃子の強く手握り、なのはは目に涙を溜める。

 

 ――あぁ……やっぱり……敵わないなぁ……。

 

 悩む自分に母は言葉を心に沁み込ませるように送ってくれる。

 

「お父さんでも恭也でも美由紀でも――家族じゃなくてもいい。すずかちゃんでもアリサちゃんや神楽ちゃんでも。なんなら新八くんや土方さんたちだっていい」

 

 母は悩みや苦しみを伝えなくても、いつでも助けを与えてくれる。自分に手を伸ばそうしてくれる。

 桃子はより一層優し気な柔らかい笑みを浮かべる。

 

「なのはが信頼できると……話せば自分の助けになってくれると思う人に話してくれればいい。それであなたの悩みが少しでも軽くなって欲しい。それがお母さんの願い」

 

 添えた手を戻した後、桃子はニコっと笑顔を作る。

 

「ただやっぱり、個人的にはお母さんに相談してくれるのが一番嬉しいけどね」

 

 言葉を聞いて、嬉しい気持ちと温かい気持ちがなのはの心を満たしていく。つい涙が溢れそうになるがぐっと我慢して息を吐く。

 やがてなのはは決意の籠った瞳で母を見る。

 

「……お母さん。聞いて欲しいことがあるの」

「はい」

 

 桃子は嬉しそうに返事をし、じっと娘の言葉を受け止める。

 

 

 

 なのはは説明した。

 もちろん、魔法の出来事やフェイトが母を殺したかもしれないということや未来の出来事を映像化したDVDなどは伏せた上で。

 

「――これで全部。〝今〟、私が話せること全部だよ」

 

 説明を終えたなのは。

 

「…………」

 

 桃子は膝に手をお置いて目を瞑り、娘の話をゆっくりと咀嚼するように頷きながらどう答えるべきか思案しているようだ。

 なのはが説明したことを要約すると次の通り。

 

 自分がある一人の少女の秘密を知ってしまったこと。ある物から事前情報を得て、少女の心根は優しい人物であり、今置かれている環境のせいで苦しんでいるから少しでも助けたいと思った。

 だがしかし、あるショックな出来事が原因で少女はまるで別人のように冷たい人物へと変わってしまったかもしれない。

 その子を助けたいと思う反面、ただその子を優しい少女であると〝思い込んでいただけ〟の自分がこれ以上その少女と関わるべきなのか。

 結局、今まで思ってきた事、やろうとしてきたことは独りよがりで、結局自分は少女に関わるべきではない人間ではないのか。

 そう言った心の内にしまっていた悩みを説明できない部分はぼかしながらもなのはは母に話した。

 

 やがて桃子はゆっくりと目を開けてなのはへと顔を向ける。

 

「……なのは。私からも一つ聞いていいかしら?」

 

 桃子の問いに無言でなのはは頷き、母は人差し指を立てる。

 

「なのはは『歴史の教科書で習った人を思い浮かべて』って言われたら、誰を思い浮かべる?」

「えッ? ……え、えっ~と……」

 

 いきなり脈絡なく話の本筋と無関係そうな質問になのはは間の抜けた声を出してしまうが、素直に母の言葉に従って学校の歴史で習った人物を思い浮かべてみる。

 

「織田信長さん……かな?」

 

 歴史の人物でよく思いつくであろう武将の名をなのはは思い浮かべて口にすれば桃子は顎に手を当てて少し視線を逸らす。

 

「織田信長かー……」

 

 少し思案してから桃子は再びなのはへと視線を向きなおす。

 

「じゃあ、なのは。織田信長を授業で習ったことから考えて、どう言う人だと思う?」

「ええ~っと……怖い人……かな」

 

 母の意図がまだ分からないが素直に自身のイメージを回答するなのは。

 なのは的に信長は、なんか天下取るために色々恐ろしいことをした、と言うざっくばらんとした印象が強い。

 娘の回答を聞いて桃子は頷く。

 

「そう。織田信長は怖い戦国武将ってことで有名だわ。なにせ自ら第六天魔王なんて名乗っちゃう人でもあるしね」

「う、うん?」

 

 織田信長で何を伝えたいのか分からず、なのはは困惑しながら首を縦に振る。

 すると桃子は含みある笑みを浮かべる。

 

「でもね、その織田信長さんて実は優しかったって説もあるのよ。特に女性には」

「そ、そうなの?」

 

 授業では習っていない偉人の雑学に少しビックリするなのは。やがては難しい顔を浮かべる。

 

「でも、これだって本当かどうか分からないわ。そもそも、文献だけで今の時代に過去の偉人の人柄を知っている人はいないしね」

「う、うん」

 

 なのはは戸惑いながら頷く。

 まぁ、そりゃそうだろう。もし今、織田信長を実際見た人いたらただのバケモンか仙人である。

 桃子はなのはの反応を見つつ言葉をかける。

 

「でもそれって、なのはがその女の子を〝見聞きした情報だけ〟で知っていた事と同じなんじゃないかしら」

「ッ……うん……」

 

 となのは少し声音を弱くしつつ同意して頷く。

 似たような事を通信でパラサイトにも言われた事を思い出し、つい声音を弱くしてしまうなのは。

 言われてみれば、教科書とかで歴史人物の一生と人となりを知るのと、映画でフェイトの人となりを知るのに違いはない。直接会わないで手に入れたその人物の情報、と言う点では。

 ただフェイトの場合は映画の描写のお陰で彼女の内にある人物像を見ることができたと言う相違点はあるものの、結局〝その人物を情報だけで知る〟と言う点は教科書や映画も変わらないだろう、となのはは考える。

 なのはが悩みながら考える中、桃子は語る。

 

「やっぱり、文章や写真や映像だけじゃどうしたってその人の内どころか一面までしか知ることはできないわよね。ある程度予想はできるかもしれないけど、実はあの人って聞いていたより怖いとか、実は思ってたより優しいって具合に実際会ってみたらイメージと違うって話もあるワケだし」

「……うん」

 

 自身の悩みの痛い部分を言葉にされ、なのははより弱々しく相槌を打つ。

 例え話から言っている母の言葉はなにより土方の指摘を聞いて頭の隅に置いてきた、『自分たちが知っていたフェイトと今まで会ってきたフェイトは違う』という事と一緒だ。

 見聞きした情報とは大分違うフェイトには何度も会って来たのだから。

 桃子は諭すように問いかける。

 

「なのはだって、アリサちゃんやすずかちゃんと仲良くなってから、最初会った時からの印象が変わったりしなかった?」

「…………うん」

 

 最初会った時のアリサはすずかに意地悪をしていた子、すずかは気弱そうな少女と言う印象を抱いてたのは覚えている。だが、会ってから話す度に二人の印象はどんどん変わっていったのも。

 アリサは少し気が強いが優しく面倒見が良くかわいい一面があったり、すずかは大人しくおっとりしたところがあるが優しく気遣い出来るし実は芯が強かったりなど。

 最初見た時より、会ってから色々と知れば相手の知らない部分はたくさん見えてきた。

 フェイトも同じように……。

 

「…………」

 

 俯き、強くコップを握りしめてしまうなのは。

 丁寧に説明され、諭されるとより深く母の言葉は棘のようになのはの心に刺さってしまい、あらためて自身の悩みと向き合うことになる。

 なのはの様子を眺めてから桃子は柔らかい表情を作り、口を開く。

 

「だから別段、前持って誰かの何かを知っていること自体は問題じゃないと私は思うの。それに会ったことのない人の情報を得ることなんて、今じゃいくらでもできることなんだし」

 

 言葉を聞いてなのはは思わず顔を上げて母の顔を見ると、桃子は安心させるような口調で告げる。

 

「だから問題は相手の事を〝知っている事自体〟じゃなくて、〝知った後どうするか〟じゃないかしら?」

「ッ……!」

 

 ハッと表情を変化させるなのはに桃子は薄く優し気な笑みを浮かべて語る。

 

「最初は知らない誰かのことを知って関わろうとする、関わらようにするなんて考えるのは当たり前のことですもの。知ってしまったり、関わってしまった以上はもうどうしようもないことだわ。だから問題は知った後、関わった後、どう考えて行動するか。話して、触れて、考えて……そこからどんな関係を構築していくか」

「……そっか……。そう、だよね……」

 

 ようやく棘が抜け落ちたような、靄が晴れていくような感覚を覚えるなのはは噛みしめるように小さな声で言葉を紡ぐ。

 なのはは考える。

 映画でフェイトのことを知った風になっていた自分が彼女に関わるべきかどうかと言う問題に固執し過ぎていたかもしれない。問題は知った後、関わった後、どうしていくか。それこそが重要なことだと。

 考えるべき問題に気付くが、気付くと同時になのははまた暗い表情を浮かべてしまう。

 

 ――だけど私は……これからフェイトちゃんにどう向き合ったら……。

 

「だから問題は、なのはの言ってる娘にこれからどう向き合っていくかってことよね……」

 

 なのはの考えを読み取るように母は自身の悩みを言葉にしてくれる。

 

「うん……」

 

 返事をしつつ、悩むなのは。

 実は仕方ない理由があったとしてもフェイトが心がわりしているかもしれない。もしくはもともと……といういくつもの可能性。

 真実なんて今は分からない。

 ただ、それらが捨てきれない以上このままフェイトやジュエルシードとまっすぐ向き合おうという意思が固まらないでいる。

 そしてもしフェイトが本当に自分が思っているような人物じゃないなら、彼女にどう対峙したらいいのか……。

 

 するとさきほどまで真剣な表情だった桃子は苦笑いを浮かべ始める。

 

「新八さんや神楽ちゃんみたいな子だったら難しく考えずに気楽に仲良くなれるのにねー」

「う、うん……」

 

 フェイトと新八たちは正反対過ぎてぎこちない返事しかできないなのは。

 

「まぁ、正直に自分を偽らな過ぎるっていうのも問題かもしれないけど」

「あ、アハハ……まぁ……そうだね……」

 

 否定できずなのはも苦笑しながら頬を掻く。

 フェイトとは正反対で新八や神楽ほど単純で親しみ易いオープンな人間もそういないだろう。マイナスな点に目を瞑ればだが。

 そして桃子はまた考える仕草をしながら思案顔となる。

 

「でもなのはの言ってる女の子は自分の内を一切を見せないで、人となるべく関わり合いを待たないようにする娘なのよね……」

 

 それがフェイト・テスタロッサと言う少女。

 神楽たちとは逆に何重にも自分の心に蓋をして表に出さないようなフェイトを相手に、自分は何を言い、何をすればいいのか。

 もうなのはは当初のように自分の正直な言葉や気持ちをぶつければいいと思えなくなってしまっている。

 

「ただなのはは、良い子だと思ったから最初その女の子と仲良くなって……助けたいと思ったんでしょ?」

 

 桃子の問いになのはは表情を沈めながら頷く。

 

「うん。でも……」

「いつの間にかその子は変わってしまったのかもしれない……。元々自分が思っているような人じゃないのかもしれない……」

 

 桃子が先回りして自分が言いたいことを言い、無言で頷くなのは。

 最初のフェイトは桃子の言った通りの人物だったのかもしれないが、今の彼女がどんな人間になってしまったのかは分からない。もしかしたら元々……。

 なにより今のフェイトは自ら一人になることを選び、破滅の道にさへ足を踏み入れようとしている風にさへ見える。

 桃子はなのはから視線を逸らして顔を前へと向けつつ口を開く。

 

「今のその子に自分はどう接していいのか分からない……。そもそもこのまま関わり合っていいのかさへ分からない……」

 

 ポツリ、ポツリと桃子はなのはの気持ちを代弁していく。

 まさしく言われたことがその通りなので、より顔を俯けてしまう。

 

「難しいわよね……」

 

 すると桃子はそっとなのはの頬へと手を当てる。

 なのはは思わず顔を上げて桃子の顔を見上げ、母はゆっくりと語り掛ける。

 

「人との距離や関わりは、簡単には割り切れないし、決められないもの。関わって色々なことを知って後々後悔することもあると思う。相手の嘘や真実なんて簡単には判断できないし、疑心暗鬼にだってなると思う。だから考えれば考えるほどわからなくなるわよね……」

 

 桃子の言葉を受ける度、なのはは自身の悩みを母が掬い取ってくれてるようで瞳が潤む。

 

「なら、いっそのこともっと悩んでみたらどう?」

 

 今の話の流れからの予想外の桃子の言葉に「えッ?」となのははきょとんした顔になる。そして母は柔らかい笑みたたえながら。

 

「相談して、考えるの」

「相談?」

 

 桃子は頷き、諭すように語り掛ける。

 

「私だけじゃない。それこそ家族や友達、なのはが相談したいと思った身近な人。信頼できる人たちに」

 

 桃子の言葉を聞いて思い浮かべる。

 父に兄に姉。今ではジュエルシード事件で一緒に協力してきた仲間たちに小さい頃からの一緒の友達。

 桃子はなのはの頬を撫でながら言葉を続ける。

 

「いっぱい相談していっぱい考えて、自分の心に何度も問いかけるの。自分がこれからなにをしたいのかって。自分がその子になにをしてあげたいのかって」

 

 桃子の言葉を受けて、なのはは心の靄のようなモノが徐々にではあるが晴れていくような感覚を覚える。

 

「ゆっくり、時間を掛けて、迷って、悩んで、考えた先にきっとなのはだけが出せる答えがあるはずよ」

 

 まるでほぐすように語り掛けてくる母の言葉にさきほどまで重く引きずるようななのはの気持ちは徐々に軽く楽なものへと変化していき、同時に前へと進もうとする気持ちがふつふつと湧いてくる。

 

「ねぇ、なのは。聞いていい?」

「ん?」

「あなたが話してくれた女の子と出会った時や話した時。なにか感じ取れたこと、なかった?」

「感じた……こと……」

 

 少々心苦しさを感じてなのはは絞り出すように言葉を紡ぐ。そして少し俯きながら自身の胸の部分をギュッと掴み、ゆっくりと思い起こす。

 

 初めて会ったのは、初めて自分が魔法を使った時――。

 その時の彼女は悲しそうな目の中に、少なからず幸せが見て取れた。映画のように決してどこまで寂しそうで、悲しそうな感じではなかった。

 銀時とアルフと一緒にいる時のフェイトは楽しそうで、銀髪の男をどことなく信頼し、頼りにしていそうだった。

 きっと、銀時やアルフがフェイトの寂しさを埋めてあげていたに違いない。

 対立するような構図だったとは言え、自分もジュエルシードを巡ったり、たまに変な行動を取っちゃうフェイトにツッコミ入れたり、危なくなった彼女を心配した。

 巡り合った回数も、話した時間も圧倒的に少ないだろう。

 それでも……――。

 

「どう? ……なにか思い出せた?」

 

 タイミングを見計らって優し気に問いかける母の言葉にゆっくりと頷くなのは。

 

「あなたのことだから、大変でも色々と思うところがあって関わろうって思ったのでしょうね」

 

 心なしか心配するような声音と表情の母を見てなのは少し目を潤ませる。

 表情をまた優し気なモノに戻す桃子はなのはの頬からゆっくりと手を離し、柔らかい微笑みを浮かべる。

 

「今こうやって悩んでいるからこそ、あなたが持ち続けている思いがあるんじゃないかしら?」

「思い……」

 

 桃子はしっかり頷く。

 

「そう。元々なのはが持ち続けるている消えない思い。そしてそれがあなたが前へ進む助けになってくれると私は思うの」

 

 そう言って桃子は自身の胸を人差し指でツンツンと差しながらニコリと微笑む。

 

「だからこそ、自分の心を見つめ直すの。まずはそこから始めれば良いと思う」

 

 桃子はそっと優しくなのはの肩へと手を置く。

 母の言葉を受けてなのははゆっくり視線を下に移し、自身の胸に手を当て、目を瞑り俯く。

 

 ――私は……。

 

「…………」

 

 なのはは自問自答を繰り返しながら自分の気持ちを探り当てようとしていた。

 すると桃子はタイミングを見計らったように口を開き、強く優し気な眼差しを向ける。

 

「大変かもしれないけど、時間を掛けてゆっくり今のあなたが出せる答えを探して。きっと、後悔しないように」

 

 母の言葉を聞いてなのははゆっくりと目を開く。

 やがてなのはの肩から手を離す桃子はニコリと笑顔を作って人差し指を立てる。

 

「それにそこまで心配しなくても大丈夫よ。だってアリサちゃんと最初に会った時だってあまり良い出会いって言えないでしょ? それでも今じゃ親友と言えるくらい仲良しな関係になったじゃない」

「あ、アハハ……」

 

 過去の実績として励ましの言葉をもらったが、いかせん素直に頷けず苦笑いで返してしまうなのは。なにせ実際、アリサとの初めての出会いはお世辞にも良い出会いは呼べないモノだったのだから。

 桃子はゆっくりとなのはの頭に手を置いて軽く優しく撫でながら言葉を紡ぐ。

 

「人とどんな関係を結んで、それが後々どんな結果になるのかなんて大抵の人は分からないものよ。良い結果になるか、それとも悪い結果になるかだって。だから今回みたいに凄く悩んだり迷ったりした時は焦って答えを出したりしないで、ちゃんと誰かに相談すること。一人で頭を抱えて出した答えよりも、誰かと一緒に頭を悩ませた方が気持ちだって楽だし、もっといい答えがでてくることもあるから」

 

 そして桃子は手をゆっくりと離し、柔らかい笑顔で告げる。

 

「悩んで悩み抜いた後、答えが出たら……あとは自分を信じて頑張るだけよ」

 

 なのはは母の顔を少し間みつめ続けた後、決意の籠った表情を作っていき、

 

「ごくごくごく!」

 

 一気にココアを飲み干す。そのまま立ち上がり、母に顔を向ける。

 

「お母さん! 私、みんなにも話してくる!」

「ええ」と桃子は優しく頷く。「きっと助けになってくるわ」

 

 なのははグッと拳に力を込める。

 

「決まったら、これからどうするかちゃんと話すから!」

「うん。待ってる」

 

 桃子の言葉を受けてから駆け足で二階へと向かうなのは。

 やがて娘の姿が見えなくなってから桃子は顎に指を当てて思案顔を作りながら、

 

「新八くんたちって……携帯持ってたかしら?」

 

 小首を傾げる。

 

 

 

 なのはは二階に駆け上がり急ぎ早に自室に入ると、レイジングハートに手に取ってユーノに連絡を入れよう頼む。

 やがてユーノがレイジングハートの通信に応じれば、自身の相棒から小さなウィンドウが空中に映し出される。

 ユーノの顔が映像に映り、なのははすぐさま声を掛ける。

 

「ユーノくん! ちょっとお願いしたことがあるの!」

『うん、何かな?』

 

 画面に映ったユーノの顔と声はどことなく待ってましたと言わんばかりに嬉しそうなモノだった。

 なのはは念話で自身の頼みごとを伝える。

 

「新八さん、神楽ちゃん、沖田さん、土方さん、近藤さん、山崎さんたちとお話ができないかな? 今すぐにじゃなくても」

 

 すると待ってましたと言わんばかりユーノは笑みを浮かべる。

 

『大丈夫だよ。なのはがみんなといつでも話せるように準備はしてたんだ。今、新八さんたちを呼んでくるから。少しの間待ってて』

「ユーノくん……ありがとう……」

 

 自分を信頼してか、それとも気遣ってか。事前に色々と準備をしてくれるユーノに対し、なのはは心の底から感謝する。

 そして少し時間が経過し、やがてウィンドウの画面には今まで魔法が使えなくても自分と共にジュエルシード集めを手伝ってくれた者たちが映り込む。少々画面が狭いので全員を満足に映せないが。

 今まで一緒にジュエルシード集めをしてきた仲間たちを見てなのはの目を潤ませる。

 

「皆さん……」

『どうしたアルか? なのは』

 

 開口一番に首を傾げて聞いてくるのは神楽。なのはは決意の篭った瞳で。

 

「うん。ちょっと図々しんですけど、皆さんのいまの考えを聞きたくて」

 

 彼らの思いを知りたい。

 それはもちろん彼らの考えに流されるつもりでは決してない。ただどうしても、自分と一緒にジュエルシード集めを頑張ってきた仲間たちの気持ちを確認したかった。

 

『まだ色々悩んでいることはあるけど、僕は決めたよ』

 

 まず開口一番に言うのは眼鏡を掛けた侍――志村新八。

 彼がなのはが映画を見るきっかけを作った人物。

 もちろんなのはにだってそれが良いことだったのか悪いことだったのかは今でも分からない。

 それでも彼らとジュエルシードを集めるきっかけを作ったのは新八であると言っても過言ではないだろう。

 

『もちろん最後まで――それこそ事件の決着を見届けるまで僕は今回の件に目を背けるなんてことはしないよ!!』

 

 新八は力強く宣言する。

 普段からよく仲間たちには地味など役割ツッコミなど一番弄られているが、それでもその強い心は確かに窺い知れる。

 なにより、新八はいつも自分の意志に共感を示してくれた。

 そして新八は笑顔で。

 

『もちろん。なのはちゃんが最後まで関わるなら、僕は全力でサポートするから!!』

『おい眼鏡!! 役割ツッコミの癖になにいっちょ前にカッコつけんだヨ! 言う事言ったんなら私に代わるヨロシ!!』

 

 「役割ツッコミとはなんじゃい!!」とツッコミする新八を無理やり押しのけてどかすのは神楽。

 自分と歳があまり違わない彼女とは結構楽しくお喋りしたりしたものだ。

 自分や母が作ったケーキをおいしそうに頬張ったり、全然ヘコたれない悩みや迷いをまったく見せないその姿にはいつも元気を分けて貰ったものだ。

 神楽はバシッ! と拳を掌にぶち当てる。

 

『私はもちろん全力で突っ走るだけアル!! あのいけすかねェ連中ぶっ飛ばすまで止まるつもりはさらさらないネ!!』

 

 彼女の怪力と戦闘力は魔法を持った自分でさへいつもビックリさせられる。なによりも一番自分の背中を押してくれたのは、いつも元気な彼女かもしれない。

 神楽はグッと胸を張って宣言する。

 

『歌舞伎町の女王たる私を存分に頼るといいネ!! 魔法少女なんぞより今は格闘少女の時代ふぎゃッ!!』

 

 すると突然神楽が何者かに蹴られて横の画面外に飛ばされる。

 

『おうチャイナ。次はおれでィ』

 

 と言いながら次に姿を現し喋り出すのは沖田。

 

『まー、俺が言いたいことは一言』

 

 そう言って沖田は人差し指を立てる。

 

『俺はか~な~り強い』

『いや、それ別の人の決めゼリフ!! つうかあんたなら紫の人でしょ!』

 

 と画面外で新八がツッコミ入れている。

 なのはがつい苦笑してしまうと沖田は頭をぼりぼり掻きながら語る。

 

『まーようは、どんなバケモノだろうが魔法を使うガキだろうが、俺の行く道を止めるなんざできねェってことだ。このままハイ終りなんて目覚めが悪くて仕方ねェ』

 

 彼のサディスティックな性格や突拍子もない行動にはいつも度肝抜かれてきた。

 だがなんだかんで最初に自分や友達たちを助けてくれたのは沖田と神楽である。

 その心根はたぶん……いや、もしかしたら、他人を放っておけない優しいモノなのかもしれない。

 いつもドライだが、なんだかんで冷静に物事を見ている彼にはよく助けられたのも事実だ。

 

『ま、テメェがあの金髪と決着つけたいなら……』そこまで言って沖田は黒い笑みを浮かべる。『今なら特別に邪魔な奴は血祭&拷問に――』

『なにすんじゃこの栗頭ァーッ!!』

 

 すると神楽が横から沖田に襲い掛かるが、沖田はあっさり避ける。

 そのまま画面の真ん中やら端っこやら最終的には後ろで犬猿の二名は取っ組み合い始める。

 今度はずかずかと大柄な男――近藤勲が画面の真ん中に入って来る。

 

『なのはちゃん!! 俺はお妙さんが好きだ!!』

「えッ!?」

 

 いきなり知らない誰かの愛の告白になのはは間の抜けた声を上げてしまう。

 

『いや、あんたなんの話してんの!? なのはちゃん困惑してますよ!!』

 

 また画面外から新八がツッコムが近藤(ゴリラ)はお構いなしに続ける。

 

『俺にとってお妙さんは何よりも心の支えであり、ロードオブザリングで例えるなら、ゴラムの指輪的な立ち位置と言っても過言ではない! 愛しい人……』

「は、はぁ……」

 

 つまりどういうことなの? となのはは困惑し、新八は画面外でいつもの役割ツッコミを果たす。

 

『いや聞けよ人の話!! つうかあんた普段からゴラムみたいもんじゃん!! 主に気色悪さとしつこさ的な意味で!!』

 

 眼鏡のツッコミなどに聞く耳は持たず、我が道を行く近藤は腕を組んで話を続ける。

 

『今すぐにでも江戸に戻り、お妙さんの元に戻りたい。だがこの事件にも最後まで立ち合いたい。そんな二律背反で惑う感情がどっちだか分からない状態だ』

『おい、今度は指輪次元から決闘次元になったぞ』

 

 と土方が画面外からツッコム。

 近藤は目を瞑り、なのはに告げる。

 

『なのはちゃんもまた、そうやって迷っているのではないか?』

「えぇ、まぁ……」

 

 苦笑してなのはは頬を掻く。

 一応なんとなく答えは決まり始めているが、さっきまでは近藤の言うような感じだったので否定はできない。

 さきほどまで冷静な声だった近藤は力強く宣言する。

 

『だがやはり、俺は目の前で起こっていることに背を向けることはできん! 最後まで自分の意志と志を貫いたままこの事件に最後まで向き合いたいと思っている!』

 

 なんだかんだで自分の意志を力強く近藤は伝えた。

 神楽同様に物事を深く考えずに突っ走り、明け透けで裏表のない人格にいつも元気づけられてきた。

 途中からの合流とは言え、彼もまたなのはの元気づけ、助けてくれた仲間の一人である。

 

『なのはちゃんはただ泥船に乗ったつもりでフェイトちゃんと決着をつけてくれて構わん!! 汚れ仕事は俺たちが引き受けよう!! 泥船だけに!!』

 

 サムズアップする近藤に新八はさり気にツッコム。

 

『いや、汚れ仕事はいいですけど、乗る船はせめて綺麗にしてください』

『では俺の意気込みを込めたお妙さんに対する熱い思いを聞いてくれなのはちゃん!!』近藤は息を一気に吸い込む。『俺のお妙さんの対する熱いリビドーは今に股間から爆発すん――』

『いい加減にせんかィィィィィッ!!』

 

 新八の飛び膝蹴りが近藤に炸裂する。

 

『ぐぼォーッ!!』

 

 そのまま退場するストーカーゴリラ。

 すると次に、クールにタバコを咥えながら土方が出てくる。

 

『俺は後ろの連中みたいにごちゃごちゃ言うつもりはねェ。答えは至ってシンプルだ』

 

 やはりいつも通り一方後ろに引いたようにクールな土方。

 でも彼が進んで誰よりもみんなをまとめて、誰よりも皆をフォローしようとしてきたことは知っている。

 新八や神楽とは別の視点から自分を思ってちゃんと考えていたことも。

 なんだかんだで一番面倒見が良いのは鬼と呼ばれる副長なのかもしれない。

 土方はチラリと腰の鞘に視線を向け手を置く。

 

『どんな障害があろうと、ただ折れるまで(コイツ)を振るう。それだけだ』

 

 何よりもその鋭い視線以上に彼のうちには揺るがない一本の筋がある。一人の侍として、何より人の上に立つ人間として。それはなのはにとってある意味、憧れにも似た感情を抱かせた。

 土方はタバコの煙を吐く。

 

『ま、まだおめェの剣が折れてねェのなら、せいぜい頑張んな。近藤さんの言ったように汚れ仕事は俺たちが引き受けてやる』

 

 そこまで言って土方が下がると金髪の少年――ユーノの顔がまた映る。

 

『なのは。僕はなのはがどんな答えを決めても構わない。僕も僕の気持ちに正直に従おうと思う』

 

 そしてユーノ。

 自分が魔法を使うきっかけを作ってくれた人物。

 今まで魔法のサポートで助けてくれて、色々と教えてくれた――魔法の先生だ。

 ユーノは決意の篭った顔で。

 

『僕もジュエルシードと最後まで決着をつけたい。そしてもしこのままなのはが事件に向き合うなら、僕はせめてなのはがフェイトとの決着がつけられるようにちゃんとサポートするから』

 

 そしてユーノは笑顔を作る。

 

『これで、みんなの考えがなのはに伝わったね』

「みんな……」

 

 なのはは涙目に、

 

「――山崎さんは!?」

 

 なる前に山崎のことを思い出す。

 

『『『『『『あッ……』』』』』』

 

 通信に応じていた山崎以外の者たちが同時に声を漏らす。

 

『ちょっとォーッ!!』画面外で山崎が声を出す。『俺の番いつくるのか待ってたのに、まさかこの流れで忘れてたのォーッ!? いくらなんでも酷過ぎるでしょ皆ッ!!』

 

 涙目山崎はそう言いながら画面の中心にやって来る。

 当たり前だが山崎の姿が確認できてなのはは安堵する。

 

「山崎さん」

『や、やあ、なのはちゃん』

 

 出鼻くじかれた山崎はぎこちなく軽く挨拶する。そして頬を掻きながら語る。

 

『俺はぶっちゃけ、このジュエルシードの事件でまったく活躍できてなかったし、特にどうこう言える立場でもないんだけどさ』

「いえ、そんなことはありません!」

 

 強くなのははきっぱり否定する。

 山崎退。

 彼は確かに地味で目立たないと感じの人物だと、なのはも失礼ながら思ったことはある。

 それでも影からさり気なく自分たちをサポートしてくれることもあった。時には大胆に戦闘に参加してくれたこともある。なぜかバトミントンで。

 それに黒幕――クリミナルの存在に一番に気づいた大きな功績だって残している。

 それに新八と同じく常識人枠として客観的な意見を言ってくれてたりもした。

 

『ありがとう。それでも俺から言えることを言わせてもらうよ』

 

 山崎は笑顔でお礼を言い、自分の気持ちを伝え始める。

 

『俺って、影から物事を観察して報告する監察って仕事をしているんだ。だから、よく地味で目立たない仕事って言われるんだけど、俺なりに誇りを持ってこれに臨んでる』

 

 なのはは無言で頷き、山崎は真剣な声で告げる。

 

『そんな俺だから思ったんだけど、別になのはちゃんの選択肢に事件を忘れるか、事件に立ち向かうかの二択じゃないと思うんだ』

「えッ?」

 

 なのはは山崎の言葉につい声を漏らしてしまう。

 山崎は優し気な笑みを薄く浮かべて人差し指を立てる。

 

『ただ見てるだけ――つまり傍観者として事件の行く末を見守るって選択肢もあると思うんだ』

「あッ……」

 

 その説明で山崎が自分に何を言わんとしているか分かったなのは。少女の様子を見て山崎は頷く。

 

『俺の言いたいことはこれだけ。もしなのはちゃんが事件解決を頑張るなら、監察として影からサポートさせてもらうから』

『おいおい。ザキのクセに随分ご立派なご高説を垂れるじゃねェか』

 

 すると沖田がしゃしゃり出て来て更に神楽まで便乗する。

 

『まったくネ。ジミーのクセにちょっと調子こいてないか? あん?』

 

 いつも犬猿の仲の二人にヤンキーみたく絡まれた山崎は慌てる。

 

『……えッ? えええッ!? 俺結構良いこと言ったつもりなのになにこの扱い!?』

『山崎』と土方。

『副長! 助けてください!』

『なんか偉そうでムカつくからケツバット……じゃなくサマーソルトな』

『えええええええええええッ!?』

 

 まさかの理不尽な理由に山崎は超ビックリしている。

 そのまま山崎いびりを始める彼らを見てなのはは、

 

(変わらないなぁ……)

 

 数時間以上前まで暗い雰囲気だったのが嘘のように前向きな面々。

 良くも悪くもいつもどおり自由にやりながらなんだかんだ前に進んでいく彼らを少し羨ましく思う。

 普段からいつも内に溜め込んで迷ってばかりの自分とは大違い。

 ただ純粋に真っ直ぐに、刀のように折れずに進む彼らの姿は見てみて清々しい。

 

『なのは。君がどんな答えを持ってきたとしても僕は構わない』

 

 ユーノが言い、新八も続く。

 

『僕たちは――』

『なのはの友達ネ!』

 

 神楽は新八の前に横から飛び出して言い、

 

『俺たちはジェルペットを集めた同士!! これからも変わりはせん!!』

 

 近藤は腕を組んで力強く告げ、

 

『年はかなり離れた同士ですけどね』

 

 山崎は苦笑し、

 

『やれやれ。まさか鬼の副長が魔法少女なんぞに縁を持つ日が来ようとはな』

 

 土方は一瞬笑みを浮かべ、

 

『ま、俺の舎弟を名乗ることは許してやるよ』

 

 なんやかんで沖田も笑みを浮かべる。

 

「みんな……」

 

 そんな仲間たちの頼もしい姿を見て今度こそなのはは瞳を潤ませて涙を流しそうになってしまう。

 とても元気をもらった。本当に相談して良かった、となのはは心の底から思った。

 だが感涙からすぐさま瞳を決意の籠ったモノへと変えて。

 

「ユーノくん、もう大丈夫。明日、答えを言うから」

『わかった。待ってる』

「うん」

 

 笑顔でなのはは頷き、ユーノは通信を切る。

 なのははレイジングハートを手に取って決意の籠った眼差しを向ける。

 

「レイジングハート。私、分かった。私がしたいこと」

《どんな答えでも、あなたは私のマスターです》

「ありがとう。あなたも、いつも私を支えてくれた一人だもんね」

 

 なのはは愛し気に自身の相棒を撫でる。

 

「明日から、頑張ろう」

《All right》

 

 ぎゅっと優しくレイジングハートを抱きしめるなのはの心はもう決まっていた。

 フェイトの為だけではない。自分を支え、仲間(ともだち)である皆と一緒に何をするかは――。

 

 

 

 

 バニングス低、アリサの部屋。

 

「ふぅ……」

 

フレイアを介しての通信を切り、アリサは息を吐いて頭を掻く。

 

「まったく……ホントに〝騒がしい人たち〟ね」

《顔がニヤけますよ~?》

 

 とフレイアがニヤけたような声を聞いてアリサは顔を赤くさせながら口元を右手で隠して顔を逸らす。

 

《なのはさんとすずかさんとはお話しないでいいんですか?》

 

 フレイアの問いにアリサは答える。

 

「二人と話すのは明日。ちゃんと、答えを聞かせてもらう」

《やれやれ、相変わらず頑固ですね~》

 

 

 

 

 月村邸、すずかの部屋。

 

「フフ……」

 

 ホワイトを介しての通信を切った後、すずかは笑みを零す。

 ホワイトから女性の声が流れる。

 

《〝彼ら〟は人を笑顔にするのが上手い方たちですね。ある意味関心します》

「うん、そうだね」

 

 すずかは笑顔でホワイトの意見に頷く。

 

《ご友人二人へのご連絡はいかがしますか?》

 

 ホワイトの提案にすずかは首を横に振る。

 

「大丈夫。二人とは、明日〝あの場所〟でちゃんと話を聞くから」

 

 

 魔法少女たち三人の決意は固まりつつ、夜は更けていく。

 

 


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