魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第四十九話:ペットを飼い始める時は意外にわくわくする

 銀時とアルフが互いの溝を修復してから時間は経過し翌日。

 時空航行艦アースラ食堂。

 新八と山崎は目の間の光景に絶句していた。

 

「ほら銀時、あ~ん♪」

 

 アルフが猫なで声で銀時にパフェを掬ったスプーンを彼の口に運ぼうとする。

 

「いや、いい。自分で食べれるから」

 

 それを拒否する銀時にアルフは不満顔。

 

「いいじゃないか。まだ満足に腕が使えないんだろ? ならあたしが食べさせてやるのが筋ってもんだろ? はいあ~ん」

「ちょっ!? 止めッ!! 鼻に近づけんな!! どこで食わせようとしてんだテメェは!!」

「あんたが大人しくしてないのが悪いんだろ」

 

 と口を尖らせるアルフに銀時は怒鳴り声を上げる。

 

「別に片腕使えるからいいっての!! つうか皆見てて恥ずかしいだろうが!! ちったァ周りの目も考えろバカ犬」

 

 そんな光景を見て新八と山崎の顔の影が酷なる。え? なにこれ? どうなってんの? みたいな表情がより一層深みを増す。

 

「犬じゃなくて狼。別にいいじゃないかい。そんなもん気にしなくても」

「そういうワケにいくかよ。ほれ見てみろ」銀時は新八に親指を向ける。「年齢=童貞拗らせた眼鏡がえれェ眼差しでこっちを見て――」

「銀髪コラァァァァァァッ!!」

 

 ついにブチ切れた童貞(しんぱち)が銀時の胸倉掴んでありったけの声で叫ぶ。

 

「あ、童貞がキレたネ」と神楽。

「なにしてんだコラァァァァァァァッ!! どういうことだコラァァァァァァッ!! 何があったコラァァァァァァァッ!!」

 

 新八は胸倉掴んでありったけの力で銀時の頭をシェイクする。青筋浮かべたその顔は嫉妬やら怒りやら色んな感情が見て取れる。

 

「お、落ち着くんだ新八くん!!」

 

 さすがの近藤もドン引きしながらやんわり止めようとするが猛る眼鏡は止まらない。

 

「どこのバカップルだオメェらはッ!! なんでアルフさんと戻ってきたらいつの間にかそんなにうらやま――密接な関係になってだァァァァァッ!!」

「今羨ましいって言おうとよね? 絶対嫉妬してるよねあれ?」

 

 土方は半眼で新八の乱心を見ている。するとアルフは頬杖付きながら不服そうにする。

 

「おい眼鏡。あたしのご主人様(仮)は病み上がりなんだから、あんま乱暴しないでくれないかい?」

 

 スプーンの先を向けながら言うアルフの言葉を聞いた新八はより一層目を血走らせ、喉が張り裂けんばかりに声を荒げる。

 

「どうことだテメェコラァァァァァァッ!! なんでアルフさんがあんたみたいなダメ人間の使い魔なってんだコラァァァァァァッ!!」

 

 そんな新八の姿になのは、すずか、アリサの小学生三人組も無言でドン引きである。

 

「お、おおおおお落ち着け!! 童貞=新八!!」と銀時。

「どう意味だそれはァーッ!! 僕が童貞の代名詞だと言いたいのかァァァァァ!! いつまでも僕が童貞だと思ったら大間違いだぞコラァァァァッ!!」

 

 新八の言葉に近藤が青ざめた表情で止めに入る。

 

「お、落ち着け新八くん! いつの間にか童貞の話にすり替わっちゃってるから! 小さい女の子もいるからホントもう止めよう!」

 

 あの近藤に下の発言を(たしな)められたからなのか、はたまた単純に叫び疲れただけなのか息を荒げながら銀時の胸倉を離す新八。

 そして新八に代わるように土方が質問を投げかける。

 

「んで、銀髪。おめェはなんでその犬耳のご主人様なんぞになってんだ?」

 

 煙草吸う土方を見て銀時はアルフに耳打ちする。

 

「覚えとけ。あれが妖怪ニコチンだ。体に溜まったニコチンを股間から噴射する奇怪な生物だ」

「へぇー……」

 

 とアルフは返事をし、土方は青筋立ててツッコム。

 

「嘘教えてんじゃねェよ!! つうかニコチン股間から噴射ってどゆこと!?」

 

 すると今度は沖田がアルフに向かって耳打ちする。

 

「違う違う。アレは妖怪マヨネーズだ。股とケツからマヨを巻き散らして――」

「ようし分かった。この妖怪『首置いてけ』がおまえらの首を切ってやろうじゃねェか」

 

 土方は目に影を落とし、刀を鞘から抜く。それを近藤がすかさず羽交い絞めして止める。

 

「落ち着いてトシィッ!! 気持ちは分かるけど落ち着てェーッ!! 場所考えて!! 流血沙汰はいくなんでもマズいから!!」

 

 さすがに管理局員がいるアースラ内で流血沙汰など言語道断。

 暴走する部下を止める近藤を銀時が親指で指してアルフに耳打ちする。

 

「そしてあのゴリラが妖怪ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ」

「それようはただのゴリラじゃねェか!! 妖怪いらねェだろそれ!!」

 

 と近藤はツッコミを入れるが銀時は構わずアルフに告げる。

 

「つまりだ、真選組と言うチンピラ警察と言う組織は妖怪の巣窟で――」

「いやチンピラで妖怪の巣窟ってなんだその伏魔殿!! いい加減ホラ吹き込むのやめろ!!」

 

 と土方が怒鳴ると同時に、

 

「そうですよ!! いい加減にしてください!!」

 

 話が脱線し始めたので新八が声を上げて軌道修正に入ろうする。

 

「アルフさん! なんで銀さんの使い魔なんかになってんですか!? この人魔導師でもなんでもないただのダメな侍なんですよ!?」

 

 新八の問いアルフはあっけらかんとした顔で銀時を手に持ったスプーンの先で指す。

 

「ま、用はあたしが勝手にコイツを臨時のご主人様として扱ってるだけだから。そもそも契約もしてなきゃ、魔力のパスもないしね」

 

 そうアルフが苦笑しながら答えつつパフェを掬い、銀時の顔にスプーンを差し出す。だが照準がズレて銀時の鼻にスプーンの切っ先が突っ込んでいく。

 

「いでででッ!! 鼻ッ!! 鼻に入った!! せめてよそ見しないでやって!!」

 

 アルフ言葉に新八は絶句し愕然。

 

「し、信じられない……」

 

 そんなアルフの姿に少年の姿のユーノが唖然としつつ言葉を漏らす。

 

「契約を結んだ主以外の人間を使い魔が仮とは言え主として認める姿なんて初めて見た……」

「つうか昨日まで死人みたいな顔してた人と同じとは到底思えない……」

 

 とアリサは呆れ声からの、

 

「「う、うん」」

 

 なのは、すずかの続くように頷く。

 

「ホントに次から次へと予想の斜め上なんだか下なんだか分からないことが起きて頭痛が……」

 

 クロノも呆れた声を漏らしつつ右手で頭を抑え、エイミィはニッコリと笑顔を浮かべる。

 

「でも、アルフが暴走せずに元気になったのは良い事だと思うよ。消滅しないで済むし、あの様子なら今後も前向きに私たちに協力してくれそうだし」

「いやまー、確かに言われてみるとそうなんだが……」

 

 どうも納得できんと言いたげに首を傾げるクロノ。

 するとリンディは面白そうに笑みを浮かべる

 

「ふふ。まぁ、過程はあまり褒められてものではありませんが、銀時さんが型破りなお陰で良い結果を得られたと思いますし、認めるべきとこは認めても良いと思いますよ」

「いや型破りと言うか行き当たりばったりと言うか……」

 

 小首を傾げ続けるクロノは銀時を見てジト目向ける。

 

「……そもそもあの無責任な甘党狂いの天パのどこがいいんだ?」

 

 クロノの言葉に反応したのか執務官へとアルフは顔を向ける。

 言い過ぎたか? と思ってかクロノはアルフの文句の一つも身構えるような表情をするとアルフは腰を上げ、

 

「すいませーん! チャーハン大皿一つお願いしまーす!」

 

 手を上げてチャーハンを注文。

 

「いや、そっちィ!?」

 

 クロノは間の抜けた顔になる。

 アルフは構わず自分の体よりでけェ大皿のチャーハンを持ち上げレンゲを使って口に掻き込む。

 

「って言うかなんだそのデカい皿は!? アースラにあんな大きな皿あったのか!?」

 

 クロノはあまりにもバカデカい皿にビックリして汗を流す。するとリンディは苦笑しながら頷く。

 

「えぇ、まぁ……団体人数用なんですけどね」

 

 凄まじい食欲を披露するアルフはご飯を口に掻き込みながら喋る。

 

「そりゃ、そうさ。パクパク! いざって時の為に、もぐもぐ! 体力を作っておかなきゃ、ガツガツ! いけないんだから!」

「うん。食べるか喋るかどっちからにしたらどうだ?」

 

 どうやらアルフは銀時の言われた通りいつでも全快で動けるように食べて元気を付けているようだ。

 

「そうアル! あのムカつく奴らと決着つけるためにも、私たちには準備が必要ネ!」

 

 そう力強く言い放つ神楽の腹は妊婦のように膨らんでいた。彼女の周りには積み上げられた皿のタワーがいくつもある。

 

「お前はその腹でなんの準備できたの? 妊娠の?」

 

 銀時が半眼を向け、神楽は苦しそうにする。

 

「時の庭園にヒッヒフゥー! レッツヒッヒフゥー! ゴーヒッヒフゥー!」

「完全にただの妊婦じゃねェか!! 産婦人科にレッツゴーしてろテメェは!!」

 

 と銀時がツッコミ、神楽の食べっぷりを見ていたクロノは汗を流す。

 

「新八、あの子を止めてくれ。アースラの備蓄が数日で底を尽く」

「無理です」

 

 食べ物関係の神楽は誰にも止めることができなのは新八もよく知っていること。

 するとアルフの態度を今まで見ていた土方が声を出す。

 

「そこの天パがアルフの仮のご主人様だか飼い主だかなんのにはさして興味はねェが……」

 

 土方の言葉に反応してアルフは彼に顔を向けてから口に入れたものを飲み込む。狼の使い魔のほっぺにはご飯粒がところどころついている。

 

「お前が管理局の連中と今後どうするかは気になるな」

 

 土方はアルフに視線を顔を向けつつ、少し低い声音を出して語る。

 

「管理局は仮ではない方の主を〝今のところ〟犯罪者か容疑者として、なによりあの謎の連中の仲間として扱っていてもおかしくはないだろ」

 

 どうやら土方の話を聞く限り非管理局側の人間は銀時とアルフを除いてフェイトの真実を知らないようだ。前に言った通り敵にこちらの情報を漏らさない為にクロノとリンディは情報を開示するのは先送りしているみたいである。

 だからこそ、フェイトの真実を知らない人間であろう土方は質問を投げかけている。

 土方は煙草の煙を吐き、アルフに鋭い眼光を向ける。

 

「結局のところお前は、元々のご主人様を犯罪者として扱うだろう管理局の連中とこのままつるむのか?」

 

 アースラの局員でもフェイトが脅されて演技を強要されているなんて情報をどれだけの人間が共有されているか銀時にもアルフにも分からない。だが、今やることは変わらないのだ。

 アルフは少し息を吸い込んで、

 

「すみませーん!! 次は大皿のミートスパゲッティお願いしまーす!」

 

 手を上げて追加注文する。

 

「いや無視すんなァァァッ!! 俺の作ったシリアス台無しじゃねェか!!」

 

 まさかの追加オーダーに土方は怒鳴り声を上げる。

 

「関係ないよ」

 

 すると唐突にアルフがご飯粒を頬につけたまま、真剣な表情となり語る。

 

「あたしにとってのフェイトは犯罪者でもないし、ましてやあんな連中の仲間でもない」

 

 アルフの言葉を聞いて頬杖をする銀時は彼女を見つつ肩眉を上げる。

 一方のクロノは少し心配そうに表情を曇らせ汗を流しつつ、アルフに言葉を掛ける。

 

「え、え~っと……ならつまり、真実は定かではないが君はフェイト・テスタロッサの味方――つまり彼女の使い魔のままでいくと言うことになるのか? 僕たちに協力はできないと?」

 

 クロノはこのままアルフが下手に真実を漏らしてしまうことを危惧してかフォローに入ったようだ。

 クロノの言葉を聞いたアルフは真剣な表情で告げる。

 

「協力はしてやる。ただしあたしはずるるるるるる!!」

 

 と言葉の途中でアルフはスパゲッティ啜り始める。

 

「だから話の途中で口に物を入れるなァァァッ!! 腹立つなッ!!」

 

 また話の腰を折る狼にクロノ怒鳴り声上げる。

 

「なんかアルフさんもクロノくんも色々キャラが……」

 

 なんかキャラ崩壊的なモノを起こし始めている二人を見て新八は汗を流している。

 ぶっちゃけ、アルフはフェイトの天然が若干移った感もあるが。

 

「そんなこと今に始まったことずるるるるるるる!!」

 

 そして神楽はラーメンを食し、クロノは怒鳴り声を上げる。

 

「ええい!! 啜りながら話に入って来るな!! 腹立つなホント!!」

「つうかまだ食うのかおめェは!! 腹破裂すんぞ!!」

 

 と新八も声を荒げてツッコム。

 やがて麺を啜り終えたアルフは皿から口を離す。

 

「――あたしはフェイトの『家族』としてあの子に会いに行く。局員の味方でもなきゃ、あの子の悪いお友達連中の味方でもない。もう一度会う為にとことんやれるだけのことはやってるやるつもりなだけさ」

 

 と狼の使い魔はクロノのフォローに一応は応えつつ自身の意思を伝える。口にべっちゃりミートソース付けながら。

 

「食べて今後に備えるはいいがせめて口を綺麗にしてくれ……」

 

 台無し感半端ない絵ずらにクロノはため息を吐き、銀時は顔を上げ土方に声を掛ける。

 

「つうことだニコネーズ」

「いやニコネーズってなに? マヨネーズの新商品?」

 

 土方のツッコミを受けつつ銀時はアルフの口を布で拭きながら話す。

 

「俺はダチとして、コイツは家族としてあいつに会いに行く。もう使い魔だの犯罪者だのはグダグダ考えんのは止めだ」

 

 口を拭き終えれば、アルフと銀時の両名は真剣な眼差しで宣言するように言葉を紡ぐ。

 

「困ってるなら助ける」

「道を外れそうになってんなら引っ張り戻す」

 

 もう協力者としてでも使い魔などと言う形と言葉で取り繕ったもので動くのではない。

 

「家族として――」

「ダチ公として――」

 

 もっと単純で、純粋で、強い思いが少女の為にこの二人を動かそうとする。

 

「「必ず」」

 

 アルフは拳を掌に叩きつけ、銀時は無表情な顔ながらも真っ直ぐな瞳。

 シンプルだが真っ直ぐな意思がこの二人の闘志に火を付けている。もうこの二人が止まることなどない。そう周りの人間たちが感じ取れるほど二人の強い思いは伝わっていく。

 

「どうやら……」

 

 二人を見たリンディは笑顔をクロノに顔を向ける。

 

「心強い味方ができたみたいですね」

「そうですねぇ……」

 

 とクロノは腕を組みつつ二人の様子を眺める。

 

「さすが旦那」と沖田が銀時に近づく。「もうその犬と息ぴったりとは。随分調教が行き届いてるみたいで」

「そうだろ沖田くん」

 

 自慢げな銀時。彼の横ではアルフが大皿もって食事を再開しているが銀髪は構わず使い魔に顔を向ける。

 

「定春しかり、俺ほどペットに慕われるご主人様早々いるもんじゃねェよ。なァ、アルフ」

「ん?」

 

 呼ばれてアルフが振り向いた瞬間、彼女が持っていた大皿のふちが銀時の顔に直撃。

 

「おごォ!?」

「あ、ごめん」

 

 鼻血出して後ろに倒れる銀時にアルフは謝る。

 その様子を見て沖田は顎を撫でる。

 

「さすが旦那。普段ペットに舐められまくってるだけありますねェ。良いお手本見させてもらいました」

 

 一方、話を聞き終えた新八はすんごく納得いかないと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

「結局、アルフさんが銀さんを仮の主として扱ってる理由がいまいちわからなかったんだけど……」

「それはやはり……」

 

 実は居て今まで喋らなかった東城が腕を組んで語る。

 

「我々の知らないとこで銀時殿がアルフ殿をベットの上で調教――」

「黙れエロ糸目!! テメェの頭鞭でぶっ叩いて調教すんぞ!!」

 

 言葉の途中で鼻血出す銀時に怒鳴りつけられた東城は驚きの声を上げる。

 

「えッ!? 銀時殿は私をアヘ顔調教するのがお望みなのですか!?」

「誰がテメェのアヘ顔見て喜ぶんだよ!! ホントテメェは一回調教されて真人間になってこい!! いやマジで!!」

 

 そんな一部始終を見たクロノは、

 

「――バカと心配ごとが増えただけでは?」

 

 半眼で実直な感想をリンディに告げる。

 

「あ、あの!」

 

 するとなのはがおずおずと緊張した面持ちでアルフの元へとやって来る。

 

「こ、これからよろしくお願いします!」

 

 そう言って頭を下げるなのは。これから協力するかもしれない仲なのだから、挨拶をするべきだと思ったのだろう。

 

「え、えっと……その……」

 

 ただあいさつの後は何を言っていいのか分からないのか言葉を詰まらせている。

 彼女自身、アルフとはほとんど関わりがないと言うか、接点がなかったと言うか、会話をしていなかったので、どう接すればいいのか分からないのだろう。

 もしかしたらフェイトよりもコミュニケーションが取りずらい相手と認識しているかもしれない。

 アルフはなのはを見てから口に入った物をごくりを飲み込む。

 

「ぅぅ……」

 

 今までフェイトと敵対してきた自分が何を言われるのか、なのはは不安そうな表情を作る。

 

「ん。よろしく」

 

 短く返事をし、なのはの頭をポンポンと叩くアルフ。そしてそのまま食事を再開する。

 

「え、えっと……」

 

 戸惑うなのはに右手で鼻血を抑えつつ机に座り直す銀時が平坦な声で告げる。

 

「こいつは別におめェを憎んでも恨んでもねェと思うぞ」

「そ、そうなんですか?」

 

 不安そうにするなのは。

 銀時はチラリと横のアルフに目を向ける。

 

「まぁ、むしろ……」

 

 仲良くしてェんじゃねェの? と言おうとした言葉を飲み込み、アルフに含みのある視線を向ける銀時。

 当のアルフは銀時の視線に気づいて、彼が何を言いたいのか察してか照れ隠しのように荒っぽく料理を口に掻き込み始める。

 伝えようとしていることがいまいち分からなかったのか、首を傾げるなのはに銀時は平坦な声で告げる。

 

「まぁ、今後ともよろしくってこと」

 

 

 場所はどこかの森林。

 

「ギィエエエエエエエエエエッ!!」

 

 ジュエルシードの憑依された鳥の怪物が奇声を上げる。

 すると怪鳥の体を緑色に光る鎖が巻き付く。

 

「よし! バインド成功!」

 

 魔法陣を出して空に浮かぶフェレット姿ではないユーノが後ろで控えているなのはに声を掛ける。

 

「なのは! すずか! アリサ! バインドの練習!! やってみて!!」

「「うん!!」」

「了解!」

 

 力強いく頷いた三人は怪鳥に向かって自身のデバイスを向ける。

 

《Bind》

 

 三機のデバイスから女性の声が聞こえ、怪鳥に桃色と紫と赤の光るリングが巻き付く。

 

「ギィエエエエエエエエッ!!」

 

 苦しみの声を上げる怪鳥。

 

「そう! バインドをすれば動きの速い相手も止められるし、大型の魔法も当てられる!!」

 

 ジュエルシードの怪物を使って『バインド』のレクチャーをするユーノ。

 その様子を地上から見つめる者たちがいる。

 

「あれじゃ俺たちの出番ないですねェ」

 

 呑気に眺める沖田の言葉にタバコを吸う土方が相槌を打つ。

 

「まァ、俺らは空飛べねェからな」

「お前は飛べるけどどうすんだ?」

 

 銀時の問いにアルフは苦笑する。

 

「まー、見てるだけでいいんじゃない? あの子らのレベルアップが目的ってことで」

「やれやれ、情けない者たちだ。大の男がこれだけいながら幼き少女たちだけに戦わすなど」

 

 そう言って一歩前に出るのは、心は男、体は女である九兵衛。

 おもむろに前へと出た九兵衛を見て新八は彼女に声を掛ける。

 

「九兵衛さん――あんたいつまで死神やってんですか?」

 

 ブリーチスタイルの九兵衛に新八はジト目でツッコミ入れるが眼帯死神少女は刀を構えつつ気合いを入れ始める。

 

「ソウルソサエティで得た僕の奥義を見るがいい」

「えッ? まさか卍――」

「眼――」

 

 九兵衛は自身の眼帯に手を掛ける。

 

「――解!!」

 

 そして眼帯を取り去りば、九兵衛の片目が光り出す。

 

「眼解ってなんだァァァァァァァッ!? ただ単に眼帯外しただけじゃん!!」

 

 聞いたことない奥義名に新八はシャウト。

 

 ――説明しよう。

 眼解とは九兵衛がソウルソサエティで得た必殺の型。

 自身のキャラとしてのアイデンティを減らすことにより己が能力を数倍にする諸刃の奥義である。

 

「ゆくぞ!! 鳥の化生よ!!」

 

 すると九兵衛は近く木に踏み台に両足で蹴りを入れてそのまま空高く飛び上がり、バインドによって拘束されている怪鳥に向かっていく。

 そのまま目に止まらぬ速さでズババババッ! と鳥の体を刀で切り刻む。

 

「ギェエエエエエエエエエエエッ!!」

 

 体が刻まれて会長は悲鳴を上げる。

 そして九兵衛の常人離れした攻撃を見て新八はまたシャウト。

 

「いやなんでェェェェッ!? なんで眼帯外してキャラ弱くしただけで反比例して強くなんのォォォォッ!? どう言う原理ッ!?」

「九兵衛さん凄いの!!」

 

 新八とは打って変わってなのはは素直に九兵衛の活躍に感心する。

 

「さすが九ちゃんネ!!」

 

 神楽は九兵衛の活躍を見て瞳を輝かせる。

 すると今度は新たな人物が一歩前へと躍り出る。

 

「若が行くところ……」

 

 それは糸目の長髪の九兵衛のお付きの男。

 

「この柳生四天王筆頭――東城歩ありです!!」

「東城さん!!」

 

 前に出る東城を見て新八は声を上げる。

 

「見るがいい!! これが私があらゆる時間を遡り得た新フォーム!!」

 

 勢いよく東城は服を脱ぎ捨て新たな姿を見せる。タオル一枚を体に巻き、手にカーテンをシャーする棒を持った姿(フォーム)を。

 

「ソープフォーム!!」

「ただのソープ嬢になっただけじゃねぇかァァァァァッ!!」

 

 ソープ状態の東城に新八はシャウト。

 

 ――説明しよう。

 ソープフォームとはあらゆる時間を行き来する時を走る電車で時間を遡った東城があらゆる古代のソープとロフトを体験して得た姿である。

 

「ようはただ単にカーテンのシャーする棒持ったソープ嬢じゃねェか!! つうかソープもロフトも古代にねェよ!!」

 

 新八のツッコミは無視してカーテンをシャーする棒を構える東城。ちなみにカーテンをシャーする棒の名称はカーテンランナーと言うらしい。

 すると東城は新八に顔を向ける。

 

「何を言うのですか新八殿! ソープとライダーは切っても切れぬ縁なのですぞ!」

「いやんなワケねェだろ!! なんで全年齢とR18が密接に繋がってんだよ!! ライダーに対して失礼にもほどがあるぞあんた!!」

 

 だが新八の怒りにも東城は怯まず腕を組んで語り始める。

 

「では新八殿、ライダーの必殺技はキックなのはご存知ですかな?」

「え、ええ……そりゃァ、まァ……」

 

 繋がりをまったく感じられないが素直に相槌を打つ新八に東城は頷き、説明を続ける。

 

「ソープ嬢の中には足技が得意な者も数多くいる。それで何度となく性欲と言う怪人を昇天――」

「そんなモンにライダーとソープに接点見出してんじゃねェェェッ!!」

 

 まさかの回答に新八はより一層怒る。

 

「謝れ!! 今すぐライダーに謝れ!!」

 

 だが暴走するソープ嬢となった柳生四天王は止まらない。

 

「それに平成では銃ライダーが豊富! っとすればソープ嬢には男の銃を扱い弾を幾度となく発射する技術がライダーと酷似――!」

「黙れェェェェッ!! テメェは今すぐライダーに土下座してこい!!」

「そして私が絆を得た亀殿はロッド使いライダー。つまり、男のロッドを扱うソープ嬢はまさに仮面らい――」

「いい加減にしろゴラァァァァァァッ!!」

 

 新八は叫び、東城の顎にアッパーを炸裂させる。「ぐぼォッ!!」と長髪のソープバカは天を舞う。

 だが地面に落ちて背中を打ち付けても東城はすぐに立ち上がりなお食い下がる。

 

「分かりました!! では我が新たなる力をお見せして、納得してもらいましょう!!」

 

 そう言って東城はカーテンシャーを槍投げのように持ち、

 

「とりゃァーッ!!」

 

 カーテンのシャーする棒を怪鳥に向かってぶん投げる。

 

「やってる事はただの原始人じゃねェか!!」

 

 新八のツッコミと同時にガン!! と棒が怪鳥の体にぶつかる。

 

「ギェ?」

 

 えッ? なに? みたいな感じで首を傾げる怪鳥。それを見て新八はツッコム。

 

「しかも効いてねェし!!」

「亀殿との絆で得たフォームがまったく効かないとは……!」

 

 東城は両手両膝をついて落ち込む。

 

「そんな汚ねェロッドフォームなんぞ捨てちまえ!!」

 

 と新八は吐き捨てる。

 

「とりあえず、邪魔しないでちょうだい」

 

 アリサの冷たい一言が落ち込む東城により深く突き刺さるのだった。

 

 

 

 

「うんうん。さすが魔力量が高いだけあって、納得の成果だね~」

 

 なのはたちがジュエルシードを封印する映像を見ながら予想通りの結果を見て笑みを浮かべるのはオペレーターのエイミィ。

 

「『四人共』なかなか優秀だわ。うちに欲しいくらい」

 

 ついリンディは口元を緩ませ微笑を浮かべている。彼女にとっては魔法少女三人より遥かに魔力量が少ないユーノも優秀な魔導師に入っているのだろう。

 クロノは母の様子を見ながら、たぶん冗談ではないのだろうなぁ……、と考えてやれやれと少し呆れる。

 エイミィはパネルを操作しつつ映像を見ながら言葉を漏らす。

 

「でも魔力を持ってない『えど』出身の銀さんたちの身体能力も侮れないですよねぇ。神楽ちゃんは人間じゃないらしいけど。他の人たちもホントに人間なのかな?」

 

 エイミィの疑問にクロノは腕を組んで答える。

 

「まぁ、例は少ないが彼らのように高い身体能力を持った人間がいる世界も確認されているからね」

管理局(うち)に欲しい?」

 

 振り向くエイミィの言葉にクロノは顔をしかめる、

 

「冗談言うな。彼らは元の世界では職についてるんだぞ? それに……」そう言ってクロノは画面に映る銀時を見る。「個人的にもあまり管理局に来て欲しくない」

 

 エイミィはクロノ言葉に苦笑する。

 大雑把と言うかテキトーと言うか色んな意味で関わると心労が絶えない銀時にクロノが苦手意識持っていることに気付いているようだ。

 クロノは腕を組みつつ冷徹に告げる。

 

「そもそも『刀』などの質量を持った武器で戦う彼らのスタイルと管理局の掲げる規定は水と油と言ってもいい」

 

 息子であるクロノの言葉にリンディは難しい顔になる。

 

「まぁ、ミッドチルダではないので〝今〟は彼らの刀の使用を許可していますが。ミッドでは……」

「間違いなく〝戦えなく〟なりますね」

 

 とエイミィが意味深げに告げればクロノはため息を吐く。

 

「当然だな。刀なんぞで暴れられたら、今度逮捕しなければいけないのは彼らだ」

 

 ミッドチルダ。そしてその世界に本拠地を置く管理局。

 非質量の魔法で犯罪者を無力化して事件解決を目下とする管理局の規定は刀で戦う『江戸』出身の銀時たちには既に説明してある。

 するとエイミィは意外そうな顔で。

 

「にしても、なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、ユーノくんの四人だけじゃなくて『えど』の人たちまで今回の事件協力を艦長とクロノくんが許可するとは思わなかったよ。最初はかなり渋ってましたから」

 

 一週間前にユーノから、

 

『僕はともかく……なのは、アリサ、すずかの高い魔力はそちらにとっても有効な戦力のはずです。ジュエルシード回収、それにクリミナルたちへの牽制。そちらとしては便利に使えるはずです』

 

 と言う捜査協力のための交渉を受けた。

 それでリンディは最初こそかなり渋ったがユーノの強い要望と小さいながらも上手い交渉術で渋々OKした。

 すると今度は「魔法を使えない土方さんたちをこのまま事件に関わらせられない」と言う旨を伝えたところ今度は土方から。

 

『ユーノとも話して確認したが、やはりフェイトの使うあの謎の剣は〝魔法を無力化〟できる力を持っているんじゃねェか? もしそうなら、そのフェイトへの対抗戦力として俺たちは有効な戦力だと思うんだがな。魔法にタメ張れると驕るつもりはねェが、そんじょそこらの一般人よりは魔法なしでも腕が立つ連中ばっか揃ってるぜ。下手に足を引っ張る心配も少ないはずだ』

 

 そう言われ、『江戸』の人間たちの事件解決への参加を許可したリンディ。こちらも許可するまではそれなりに渋ったが。

 だがクロノは彼ら江戸の人間の参加に苦言を呈した。なにせ刀やましてや弾丸仕込んだ番傘で戦う戦闘スタイルは管理局執務官として認められないからである。ギリギリ木刀で戦うのが認められるかどうかレベル

 ぶーぶー不満やら文句やらを神楽たちにかなり言われ口論に発展。キリがないので仕方なくミッドチルダではない『なのはの世界』での使用を許可すると言う妥協案で片付いた。

 

「まぁ……フェイトの使っていた『謎の剣』に対する決定的な対抗策がないのも事実だからね……」

 

 いまもクロノはリンディ以上に渋々と言った感じである。

 

「フェイトちゃんの持ってる〝アレ〟、本当になんなんだろうね?」

 

 エイミィはパネルを操作し、フェイトとクロノが戦った時の画像を出す。画像を拡大し、フェイトが持っていた『謎の剣』を見て首を傾げる。

 

「これ、デバイスなのかな?」

「わからない。ましてや魔力を吸収するデバイスなんて見たことも聞いたこともない」

 

 首を振るクロノの言葉を聞いてリンディは顎に指を当て思案顔を作る。

 

「もしあったとしたら、局員以外しか使うことを許されない違法なデバイスとして扱われそうですね」

「まぁ、もろもろ問題は置いといて、もし配備されたのなら魔法を使って犯罪を働く魔導師の抑制になりますからね」

 

 クロノ言葉を聞きつつ、エイミィはパネルを操作しながら考えを述べ始める。

 

「私、最初は魔力を無効にしてるかと思ったんだけど……後から調べたら実は触れたモノ――要は防御魔法の魔力を吸収してるって分かったんだよね。だからクロノくんが構築した魔法が不安定になってあんなあっさり破られちゃったみたい」

 

 更にリンディが、顎に手を当てながら真剣な表情で分析を口にする。

 

「っと、なると……クロノの杖とバリアジャケットが簡単に破壊されたのも、説明がつきますね」

「バリアジャケットと杖も質量こそ持ってますけど、基本は魔力で構成された上での頑丈さですからね。ましてや魔力を吸収されて、構築を乱されたらそりゃあ……」

 

 と言って、エイミィは苦笑しながら「近接と遠距離両方でキツイ相手ですよねー」と言う。

 二人の言葉で、フェイトにあっさり負けたことを思い出して、クロノは苦い顔をしつつ、。

 

「だが、魔法を吸収されるからって完全に対抗できないワケじゃない」

 

 今度は負けないと言わんばかりに強気な態度のクロノ。

 それを見たリンディは苦笑した後、立ち上がる。

 

「ジュエルシードの回収も済みましたし、なのはさんたちとお食事にしましょう。会わせたい〝人たち〟もいますしね」

 

 ニコっとリンディは笑顔で言う。

 

 

 

 アースラに用意された個室では、なのはとすずかとアリサが休息を取っていた。

 

「フェイトちゃんが銀時さんとアルフさんと一緒に居る時に持っていたジュエルシードが八つ」

 

 と言ってなのははジュエルシードをレイジングハートから出して上空に浮かべる。

 

「そして、私たちが持っているのが今回のと〝クロノたち〟が見つけた一個を合わせて……」

 

 アリサの言葉に続いてすずかが呟く。

 

「八個……」

「どっこいどっこね……」

 

 アリサはベットにうつ伏せになり、枕に顔を乗せながら両足を歩くようにパタパタと上から下へと行ったりきたりさせる。

 

「でも、銀さんとアルフさんと別れてからもジュエルシードを見つけてるよね」

 

 ベットに座りながら言うすずかの言葉にアリサは腕を組んで目を伏せる。

 

「推定でも一つは見つけている可能性が高いって、リンディさんたちが言ってたわ」

「となると、多くても残り四つ……」

 

 なのはは天井を見上げる。

 

「数が少なくなってくると……局員さんたちの協力があっても見つかり難くなっちゃうね」

 

 弱気なすずかの言葉にアリサが強気に答える。

 

「それは向こうも同じ。ここからが頑張りどころでしょ!」

「うん!」「頑張ろう!」

 

 すずかもなのはも小さなガッツポーズで返す。

 アリサは体を起こしつつ「ただ……」と言って眉間に皺を寄せる。

 

「やっぱ、映画の通り絶対海よね。残り全部」

「うん。だよね」とすずかが相槌を打つ。

「数は少ないけど、たぶんそうなるよね……」

 

 なのはも苦笑しながら映画の内容を思い出す。

 本当は『六個』海にあるはずなのだが、どういうワケか今残っているのは四個。海の捜索はユーノの進言でとうに行われているが、いかんせん範囲が広いのでまだまだ見つからない。

 かと言って『映画だとジュエルシードは海にあるので探索を海に集中してください』などとアホ丸出しの発言などするはずもいかず、さり気なく海の探査を推し進めさせているのが現状だ。

 

「まぁ、こればっかりは待つしかないよね……」

 

 なのはは天井を見上げる。

 リンディの指示で動くと言う形になっている以上、理由もなく自分たちだけで海の探索を頑張るなんてこともできない。結局、こればっかりは歯がゆい思いで待つしかないのだ。

 

「フェイトちゃん……もう海に気づいてるかな……」

 

 なのはの言葉を聞いてアリサが呟く。

 

「まぁ、時間の問題でしょうね……」

 

 するとアリサが「フェイトと言えば……」と思い出したように言って腕を組む。

 

「〝あの時〟はさすがになのははもうジュエルシードに関わらないと思ったわ」

「なのはちゃん、フェイトちゃんとの通信の後はすっごい落ち込んでたもんね」

 

 すずかの言葉になのはは頬を掻きながら苦笑する。

 

「ニャハハハ……」

 

 なのはは思い出す。

 フェイトとの衝撃の通信の後のことを――。

 

 


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