魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第四十八話:新しい繋がり

「えッ? …………マ?」

 

 アースラの医務室ではクリミナルの監視の目であろう存在をあっけなく捕らえたと言うまさかの情報にアルフははポカーンとした表情のまま口を動かす。

 

「……マジで……そんなアホな偶然で……連中のスパイ……捕まえたの?」

「あぁ……マジで」

 

 銀時は頷き、アルフは顔を横から下へと向けながら呟く。

 

「マジかぁ……」

 

 まさか自分とフェイト苦しめてる相手の一人をそんな間抜けな状況で捕まえた事実にアルフは呆然自失という感じだった。

 

「そんでよ……」

 

 なんとも複雑そうな表情のアルフに銀時は言葉を掛ける。

 

「おめェが俺と色々と揉め合った挙句にマンションで気絶しただろ?」

「う、うん……」

 

 これまたなんともバツが悪そうな顔でぎこちなく頷くアルフ。返事を聞いた銀時は話を続ける。

 

「んでよ。おめェが気絶した後にある奴が現れてな……」

 

 と言って銀時はアルフが気絶した後の話を始める。

 

 

 銀時との激しいぶつかり合いの末に力なく気絶したアルフ。

 

「おい!」

 

 突如として倒れ自身の胸に顔を預けるアルフに銀時は声を掛ける。

 

「アルフ! どうした!」

 

 右手をアルフの背中に回して肩を持ち、すぐさま顔色を確認する銀時。

 右腕で抱くアルフの表情は少し青ざめ、息も荒い。

 

「ちッ、くそッ……!」

 

 もう魔力切れの影響が?

 まだ先かとも思ったが、フェイトに魔力を供給されていない影響がもう現れたのかと考えた銀時は珍しく焦りの色を顔に浮かべてしまう。

 とにもかくにも早く処置しなくては、と手に持った首輪に目を向けた時。

 

「――あら、あなたってそんな顔するのね」

「ッ!?」

 

 突如として後ろから、つまり玄関口の方から声が聞こえてきた。それもまるで弄ぶかのような余裕のある声。

 銀時は声に反応として反射的に振り向くと玄関口から声だけが銀時の耳に届く。

 

「まぁ、そこまで心配しなくて大丈夫じゃないかしら? 気を失った原因は魔力供給がないからだろうけど、主な原因は肉体と精神の疲労でしょうし。心が安心したせいで緊張の糸のが途切れたんでしょ」

 

 破壊され扉がなくなっている玄関の近くから聞こえる声。たぶん、声色と喋り方から女性であると判断できる。

 謎の声の主に眼光を鋭くさせる銀時は首輪をポケットへとしまってから木刀へと手を掛ける。

 

「むしろ今あなたが心配すべきなのはその子のことより、フェイトちゃんやプレシアのことじゃなくって?」

 

 余裕という態度をたっぷり感じさせる言葉を聞いた瞬間、銀時は目を大きく見開く。

 

 ――まさか!

 

 今の言葉の内容で姿を見せぬ人物が何者なのかすぐさま察してしまう銀時。いや、さきほどの含みのある言葉と声音で相手の正体を大まかにではあるが予想できていた。

 クリミナル――。

 手紙の存在を一番知られたくない相手に知られてしまったのだ。

 銀時は汗を流しながらも不敵な笑みを浮かべる。

 

「チッ……随分目ざといバケモン共だ……。これでも結構他人の視線には目ざといんだけどな……」

 

 連中の追跡はあらかじめ警戒していた。フェイトの拠点にいる間もここでアルフと取っ組み合いをしている間も連中の監視には警戒していたはずだ。

 だがしかし、そんな付け狙う視線などまったく感じなかった。

 銀時の言葉を受けて姿の見えぬ女かバケモノか分からぬ存在はクスクスと笑い声を漏らす。

 

「あらあらそうなの? フェイトちゃんの真意には気付いても私たちの監視の目には気付かなかったようだけど」

 

 ――クソッ! 間違いねェ! 手紙の事まで知ってやがる!

 

 自分も母も危険になる可能性を承知で手紙を託してくれたフェイトの行動を無駄にしてしまったことに銀時は歯を強く噛み締める。

 アルフを止める為だったとはいえ、軽率な行動だったかもしれないと後悔の念が内に生まれてしまう。

 

「あなたが思っているよりも、私たちの監視の目は甘くないと言う事よ」

 

 カツカツと銀時の耳に廊下の鉄と靴が当たる音が聞こえてくれば、ゆっくりと声の主が姿を現す。

 扉を無くした玄関の前に逆光を背にし、腕を組みながら声の主は現れた――。

 

「お、おまえは――!」

「なによりこのわたしの目を甘く見ない事ね」

 

 さきほどまで銀時と口論していた〝パンチパーマのおばちゃん〟だった!

 

「いやお前のなのかよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 まさかの人物に銀時シャウト。

 

「あ~ら、開いた口が塞がらないようね。そんなに驚いた?」

 

 おばちゃんはニヤリと不敵に笑い、銀時はすかさずツッコミ入れる。

 

「あたりめェだろうが!! むしろ誰が予想できんだよ!!  頭の天辺から下まで一世代の前のババアが犯罪者でバケモンなんて!!」

「あらあら~。ババアなんて失礼しちゃうわね~。お姉さんて呼んでほしいわ~」

「いやそのビジュアルで妖艶な女幹部的な仕草やめてくんない!! 吐き気催すわ!!」

「あッ、戻るの忘れてた」

 

 と言っておばちゃんは姿を一瞬で小さな褐色肌の白いワンピースを着た少女へ変える。つまりは――。

 

「トランスちゃん再登場☆」

 

 腰に手を当てウインク&顔の横でピースサインするトランス。

 

「結局お前かよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 銀時の大シャウトが高層マンションに木霊するのだった。

 

 

「まッッッじかおい!! いやマジか!! マジで気にも留めなかったあのおばちゃんが変身チビだったのかよ!!」

 

 現代に時間が戻り、病室でアルフが声を荒げ、銀時は何度か頷く。

 

「うん、マジマジ。それで正体見せたあのガキがその後なんて言ったと思う?」

 

 

 トランスは両目を二本の指で指し示しつつニヤリと告げる。

 

『私たちの監視の目は常にある。フェイトちゃんの為にも言動には注意することね』

 

 

「――ってセリフ吐いたんだぜ」

「監視の目捕まってんじゃん!! ダメじゃん!!」

 

 説明を聞いてアルフは思わずツッコミ、銀時は更に説明を付け加える。

 

「しかも『みっともない無駄な足掻きは止めることね』って決めゼリフ言って颯爽とベランダから飛び降りたぜ」

「台無しじゃん!! カッコつけたの台無しじゃん!! みっともねェな!!」

 

 とアルフは更にツッコムのだった。

 

 

 場所は変わり、時の庭園。

 一人が持つ私有地としてはそのあまりに広い荒廃した庭園。そこから目や気分が悪くなりそうな次元の海の景色を眺めるのは白髪の長い髪に白い薄褐色の肌を白い簡素なワンピースで包んだ少女――トランス。

 彼女はただジッと色と景色が不規則に変化し歪む景色を眺めていると、

 

「どうした、ボーっとして?」

 

 後ろから聞こえてきた声に反応してトランスはチラリと視線を後ろへと向けると、両手をポケットに入れながら歩いて来るパラサイトの姿が目に映る。

 トランスは声を掛けてきた相手を確認した後、再び視線を次元の海へと向けてから口を開く。

 

「なんか用?」

「……そろそろ仕事が始まるから、わざわざ呼びに来たんだよ」

「そう……」

 

 短い返事を聞きながら白髪の少女の隣にまでやって来て立ち止まったパラサイト。トランスと同じように次元の海を憂いを帯びたような瞳で眺めながら口を開く。

 

「……哀愁にでも浸ってんのか?」

 

 言葉を聞いてトランスはクスリと笑みを浮かべる。

 

「私がそんな感傷的なキャラじゃないことはあんたが一番よく知ってるでしょ?」

「……まぁ、な」

 

 短い言葉で返事をするパラサイトにトランスは言葉をかける。

 

「ちょっと考え事をしてるだけ。結構、この景色を眺めながら物思いに耽るのも悪くないわよ?」

「俺は段々眩暈がしてきそうだけどな……」

 

 眉間に皺を寄せるパラサイトは次元の海の景色を見て目を細める。すると隣に立つ相方はふと思い出したように口を開く。

 

「眩暈がすると言えばよ、あの銀髪……坂田銀時だ。まさか使い魔の奴だけじゃなくてあいつにもフェイトが秘密をバラしてたとはな」

 

 不測の事態に対して不機嫌そうに眉間に皺を寄せる相方に対してトランスは余裕綽々と言った顔で。

 

「まぁ、ちょっと意表を突かれたけど、それほど問題にもならないし」

「……そうか」

 

 パラサイトのどうでもよさそうな相槌を聞きトランスはポケットに入っている黒い折り畳み式のケータイ型の通信機器を取り出し、開いてボタンを操作しながら画面を見つめる。

 通信機器を操作していたパラサイトはあるメールを見て目を少しだけ細め、細やかに口元を吊り上げる

 

「……なるほど。頑張ってるようね」

 

 パラサイトはトランスの様子を伺うように眺めてから言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、なんにせよだ。アースラでの銀髪の行動を危惧して、マンションで見張ってたのは正解だったなわけだしな」

「まぁ、今後の事も加味して念の為に坂田銀時に釘は刺しておいたから問題ないでしょ」

 

 どうやら自分が忠告した後、銀時はアルフの事を考えてか魔力を感知して追いかけてきたクロノに捕まったようである。

 

「まぁ、なんにせよ……」

 

 トランスは余裕のある笑みをニヤリと浮かべ、

 

「――私に抜かりはない」

 

 キリっと決め顔で告げるのだった。

 

 

「――まぁ、つまりだ。今の話聞いてどういうことだか分かるか?」

 

 銀時の説明を聞いてようやくアルフは合点がいったのか何度か首を縦に振る。

 

「あー、なるほど……。つまり連中って私たちが思ってるより抜けた連中ってことか……。そんであたしとフェイトはそんな抜けた連中に……」

 

 そこまで言ってアルフは疲れたように右手で目元を覆いながら抑え、しばらくしてから右手を目から話して銀時へと顔を向ける。

 

「……それで、その間抜けな監視の目はどうなったんだい?」

 

 半分脱力したような顔のアルフの問いに銀時は頭をボリボリと掻きながら答える。

 

「捕まえて色々と吐かせようとはしたんだけど……そいつ目を覚ますとすぐになんか体が溶けて緑色のドロドロしたもんになっちまった」

「つまり……フェイトの今の居場所は突き止められないって……こと?」

 

 アルフの質問に銀時は「まぁな」と言って答え、顎を掌に上に乗せる。

 

「さすがにバレた時の対処くらいは連中もしてたみてェだ」

「そっか……」

 

 残念そうに顔を俯かせるアルフに銀時は「でもよ」と言って言葉を続ける。

 

「そいつの服を探ったらなんか携帯……得た情報を相手に送る機械(からくり)……」

 

 説明している銀時はチラリとアルフを見ると使い魔はあまりうまく理解できてないのか眉間に皺を寄せるので銀時は少しメンドクサそうに頭を掻きながら説明を再開する。

 

「いや、なんつうかまぁようは通信機器みたいなモンが出て来たんだよ。どうもそれで連中にこっちの情報を送ってたらしい」

「へッ!?」

 

 とアルフが呆けた声を漏らし、銀時は呆れたような声で。

 

「いや、なんかすんげーアホな話なんだが話に出てきたバケモンは自害して情報漏らさねェようにしたのに、結局携帯っつう通信手段残してるもんだから意味があったのかなかったのか分からねェ自害の仕方してんだよ」

「えぇ……」

 

 アルフはなんとも言えない表情で声を漏らす。さすがに相手の行動が色々とお粗末過ぎるのだから仕方ない。

 銀時はアルフの気持ちに内心共感しつつ言葉を続ける。

 

「まァ、色々とバカバカしい話だがなんにせよ、そのバカスパイのお陰で連中に嘘情報は流せるし、連中がアースラに送ったスパイは一人だってことくらいは分かった。ついでに分かったのが入れ代わりの為に連れ去られちまった武装局員とやらが一人居るかもしれねェわけだから、執務官殿は局員救出も視野に入れなきゃなんねェってことで、頭ハゲそうになってるけど」

「ほ、他には!?」

 

 今後の希望に繋がるであろう情報に食いつくアルフだが、銀時は少し肩を落とす。

 

「そんだけだ。リンディとクロノから聞いたがどうにも奴ら、スパイの奴には指示だけで他の情報はまったく与えてないそうだ。履歴をあらかた辿って唯一分かったのが、アースラに居んのは俺たちが捕まえたスパイが一人だって情報だけ。かと言ってこっちから送信して話を聞き出そうにも、履歴の内容から考えて連中の情報を引き出すのは難しいとよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 少し残念そうな表情を浮かべるアルフをチラリと横目で見てから銀時は息を吐くように肩を落とす。

 

「でもよ、これで俺もおめェもただ口を閉じてだんまりする必要はもうねェんじゃねェか?」

 

 アルフは銀時の言葉に反応して顔を上げるがすぐに俯き「でも……」と言葉を漏らす。

 

「フェイトが……」

「確かに、いくら連中の監視の目が緩んだって言ってもフェイトの事を考えたら俺たちが知ってることを他の奴らに話すのはかなり怖ェだろうな。あいつを危険に晒す可能性だってゼロじゃねェだろうし」

 

 アルフは黙って頷き、銀時はベットに両手を付きながら天井を見上げる。

 

「でもよ、尻込みしてたって足踏みしたってあいつを助ける為に伸ばした手は届かねェ。だったら、気に入らねェ腐れ管理局の連中だろうが腐れポリ公だろうがなんでも使ってあいつに伸ばした手が少しでも、ホンの1ミリでも届くようにすりゃァいい。1歩でも2歩でも足元をよく見てよ、あいつを助ける手が届くまで、歩き続ける他ねェのさ。俺もお前も」

「…………」

 

 アルフはただ口を閉ざすだけで反応は示さない。だが、銀時は言葉を続ける。

 

「誰彼構わず話せって言ってるワケじゃねェんだ。あいつを助ける為に必要な奴も方法もじっくり吟味して揃えていきゃァいい。バカはバカなりに、な」

 

 そこまで言って銀時はベットから腰を上げる。

 その瞬間――。

 パン! と後ろで何かを叩く音が聞こえる。銀時が思わず振り向くと、アルフが頬を赤くさせながら両手で自身の頬を抑えていた。

 やがてアルフはうんうんと何度も頷いてから真剣な眼差しを銀時の顔へと向ける。

 

「――わかった。あたしはバカだけど、フェイトを助ける為にはあんたとあたしのだけの力や頭だけじゃ足りないってことくらいは今のあたしでも分かる」

 

 そしてアルフは真剣な表情で問いかける。

 

「まず……どうする?」

 

 銀時はニヤリと不敵な笑みを浮かべてから前へと向き直る。

 

「ならまず行くのは、艦長様のお部屋だ」

 

 

 場所は代わり、アースラ艦長――リンディ提督の執務室。

 綺麗な白い床。周りには厚いファイルケースなどが綺麗に整理されて置かれた棚。そして部屋の奥には高そうな黒色の机。

 執務室の備え付けの椅子に近くに立ち、ニコリと笑顔を浮かべるリンディ提督。机の斜め横に立つのはクロノ。

 そんな彼女らの前には気だるげな表情の銀時と緊張の面持ちのアルフ。

 

「銀時さん、アルフさん。よく来てくれましたね」

 

 リンディ柔和な笑みを浮かべる。

 

「ここに来たと言う事は私に言いたい事が何かあるんですよね?」

「もったいぶった言い方すんじゃねェよ」

 

 と銀時に若干不機嫌そうな表情となりながら小指で耳をほじる。

 

「素直にフェイトのことを聞きたいって言ったらどうだ? どさくさに紛れて『フェイトさんを助けたいなら後で艦長室に』なんて意味深な耳打ちしやがってよ」

「えッ?」

 

 と銀時の言葉を聞いたアルフは驚きの声を漏らす。

 そう。実はリンディは新八と神楽が医務室で騒いでいるあの時、こっそりと銀時にさきほどの言葉を耳打ちしたのである。

 さすがの銀時もまさかのあの時にそのようなセリフを耳打ちされるとは思っておらず驚いた表情を浮かべてしまった。そして自身の表情の変化を見てリンディはニコリと笑みを浮かべたのだ。

 さきほど銀時の言葉を聞いて驚きの表情を浮かべていたアルフはハッとすぐに我に返ってリンディの方へと向き直り、緊張の面持ちで汗を流しながら口を開く。

 

「……あんたら、フェイトのことについてどこまで知ってるんだい?」

 

 アルフの言葉を聞いてリンディは目を瞑り首を横に振りつつ「私たちはさほど知ってるワケではありませんよ」と言ってから目を開けて言葉を紡ぐ。

 

「私やクロノはあの時――つまりフェイトさんとクリミナルたちとの通信映像を見てすぐにフェイトさんの態度に違和感を感じました」

「それで僕と艦長は思ったんだ。やはりフェイト・テスタロッサは何かしら脅されて無理やり協力させられているんじゃないかってね」

 

 リンディの言葉に続くようにクロノが話、銀時は目の前の局員二人にジト目を向ける。

 

「どこぞの執務官と艦長殿はすっごくフェイトの話信じてたように見えましたが? クロノ執務官に至っては説教までしてませんでした?」

 

 銀時の言葉を聞いてクロノは特に表情を崩すことなく腕を組んで説明する。

 

「僕も艦長もフェイトの不自然な態度に薄々は感づいていたが、なにも確証も得られないから敢えて言及せずに話の流れに乗っていたんだ」

「あそこであれ以上色々と言及しても、なんの証拠も得られまんせんからね。なら、敢えて泳がせてみようと思ったんです」

「なるほど。つまりはフェイトが加害者か被害者か吟味してたってワケか」

 

 耳の穴を小指で穿りながら告げる銀時にクロノは説明する。

 

「フェイトのように高い魔力を持った子供が犯罪者の駒にされるなんてケースはよくある話だからね。局員として、なにより執務官として出来うる限り色々なケースは想定しておくように心がけているんだ」

 

 クロノは「それに」と言って銀時にジト目を向ける。

 

「あなたのあの唐突な行動を見て思ったんだ。きっとフェイト・テスタロッサについてアルフと二人で話さなければならない情報を掴んでいるんじゃないかって」

「だからちょっとかまをかけてみました」

 

 ニッコリとした笑顔でリンディが告げる。

 

「……意外に抜け目ねェな」

 

 銀時はより深く耳を穿ってから、

 

「だってよ、アルフ」

 

 チラリと狼の使い魔へと視線を送る。

 

「どうやら見た感じ、こいつらは頭ごなしにフェイトを悪党とは決めつけてはいないようだぜ? どうする?」

「ッ…………」

 

 アルフは一度口を開けて話そうとするが、すぐに話すのを止めて俯く。

 すると銀時の手がポンとアルフの頭の上に乗ると狼の耳がゆっくりと立ち上がる。

 

「ちなみにだが、ここは防音とか大丈夫なのか?」

「安心しろ。会話が漏れないように細心の注意と準備はしている」

 

 クロノの説明を聞いてから銀時がアルフの頭から手を離せば、彼女はぶんぶんと頭を振って顔を上げる。

 その表情には決意が籠った様子が見て取れた。

 

「フェイトは――」

 

 

 

 

 リンディの執務室の扉がスライドして閉まり、銀時は閉じた扉にチラリと視線を向ける。

 

「……これでまぁ、なんとか一歩前進てとこか」

 

 詳しい状況までは分からないが、プレシアは健在でフェイトはクリミナルたちに脅されているという情報をリンディとクロノに伝える事ができた。見た感じリンディとクロノも信じれてくれたようで、今後の対策を考えるとは言っている。

 ただ捻くれた考えの銀時は『納得したフリして強硬策とかに出ねェだろうな?』とちょっと意地悪な言葉を掛けたが、クロノに『まぁ、今は信じてくれ。それしか言えない』と言葉を返されそれ以上の言及はしなかった。

 

「でも、先行き不安なのは変わらないね……」

 

 アルフは狼の耳を垂れさせながらまだまだ危ない状況に変わりない現実に暗い表情を浮かべる。

 アルフの不安も最もであろう。リンディとクロノと言う高い地位の管理局員でありアースラの中心人物たちにフェイトにほとんど罪がない事を理解させ協力関係を構築できたと言っても、なんの打開策も打ち立てられてはいない。

 

 そしてリンディにはこのような箝口令(かんこうれい)を言い渡された。

 フェイトやプレシアを救出する為の確かな算段が立てられるまでの間は誰にも余計な情報を漏らさない。敵のスパイが忍び込んでいたこともあり、どんな経緯で情報が漏れ出るか分かったもんではないからである。だからこそ、フェイトに関する情報は慎重に取り扱う必要があるので出来うる限り必要最低限の人数が知るべき案件と――。

 せいぜい今出来ることはフェイトとプレシアの身の安全を守る為にも余計な情報を誰かに漏らさないと言う、最初の状況からあまり進展していない現状。これではアルフとしても不安な思いが募るばかりである。

 

「たく……」

 

 と銀時が呆れたような声を漏らせば、アルフは頭にポンポンと軽く叩かれる感触を感じた。

 ふと顔を上げれば、頭を軽く撫でる銀時がため息混じりに告げる。

 

「いちいち暗い事ばっか考えてねェで、そのドックフードが詰まった頭でフェイトを助ける為の作戦の一つや二つ考えやがれ」

「銀時……」

 

 名を呼ぶアルフを尻目に銀時は前へと進んでいく。

 

「そんな覇気のねェ姿じゃ、フェイトを助けるここぞと言う時に力発揮できねェぞ? 俺に噛みつかん――って言うか噛みついてきたあのとんでもねェ気合はどこに抜けちまったのかねェ」

「う、うん……そうだね……」

 

 アルフはぎこちなく返事をする。銀時の軽口に背中を押されてやる気は出てくるものの中々気分は前に向かない。フェイトがこれからも傷つくことや助けられるどうか分からないと言ったいろんな不安要素でまだまだ頭がいっぱいだからだ。

 銀時は足を止め振り返る。

 

「まッ、嫌な考えが頭を過るならよ、せめて大好きなご主人様のことで頭いっぱいにして幸せな脳みそにでもしときな。俺なんかより、あいつとの思い出は百や二百じゃ数えきれないほどあるはずだろ?」

「思い出……」

 

 そうだ――。

 自分が使い魔になってから今の今までフェイトはずっと自分に優しい顔を向けてくれた。

 母親に冷たくされても、魔法の先生がいなくなっても、表情が乏しくなっても……ずっと自分に対する優しさだけは失わなかった。

 そうやって大好きなフェイトの事を思い出すとだんだん気持ちが楽になり、元気が出てくる。

 それに……。

 

「そう言えば……」

 

 アルフはくしゃりと顔をほころばせる。

 

「……あんたとも結構色々あったよね」

「まァ、バカなモンばっかだけどな」

 

 やれやれとほくそ笑む銀時との思い出を思い起こせば、色々な記憶が蘇る。

 いきなり瞬間移動して現れたり、食事の時はとにかく騒がしかったり、ジュエルシード集めではあんま役に立たなかったり、プールではとにかく遊びまくったり、散歩なんか道に野糞させようとしたり――、

 

「プッ……」とアルフは吹き出す。「ホントバカっつううか……碌な思い出ないね……」

 

 溜まった涙を拭いながらアルフは笑い声を漏らす。

 

「でも、楽しかったよ。短い間だったけど」

 

 アルフは「まァ、マジでぶん殴りたい時もあったけど」とマジなトーンでサラッと言葉を付け足す。

 

「そりゃどうも」

 

 自分の少し前で止まり顔を前へと向けている銀時。顔は見えないがまんざらでもないと言いたげな声を漏らしている。

 

「あぁ、それとよ」

 

 と言って銀時は振り返り、ポケットから『ある物』を取り出す。

 

「コイツはちゃんと首に巻いときな」

 

 銀時から投げられ、アルフが受け取ったのはフェイトから渡されたと言う黒い首輪だ。

 

「コレ……」

 

 アルフは両の掌の上に置かれた首輪を見て声を漏らす。

 ボーっと黒い首を見つめるアルフに銀時は告げる。

 

「リンディたちからそいつにはちゃんと魔力を溜める力はあるって聞いてっから使いな。魔力の方も充填済みらしいぜ。それにどうせおめェのことだ。仮だとしても新しいご主人様に鞍替えなんてさらさらする気ねェんだろ? だったらそれ巻いて魔力確保して、おめェのご主人様に以外の使い魔になる気なんざさらさらねェって意思表示してやんな」

 

 銀時は右手を上げてぶらり振りながら前へと歩き出す。

 

「つうことだ。飯は後で持ってきてやるから、クロノが用意したとか言う部屋でゆっくり休んどきな。これから忙しくなるんだからよ」

 

 銀時の言葉を耳に受けながら、アルフはギュッと首輪を両手で握りしめる。

 

 

 

 

 

 アルフに背を向けて歩く銀時。

 言う事は全部言った。後はアルフの気持ちの整理が付くまで待つ他ないだろう。

 今後考えるべきはフェイトだったりワケわからんバケモノ連中であるクリミナルたちについて。

 だが今一番の問題なのはアルフとあの江戸のバカ共を対面させる時のこと……。

 

 ――マジでメンドーくせェ……。

 

 今後はホント色々とどうしたもんかと悩みながら頭をボリボリ掻いていた時、 

 

「決めた!」

 

 後ろで勢いよく聞こえてきたアルフの声を聞いて、銀時は「ん?」と声を漏らながら足を止めて思わず振り返る。

 すると既に首輪を首に巻き付け近づいて来たアルフはビシッと銀時に顔の前に指を突きつける。

 

「あんたはあたしの――臨時ご主人様!!」

 

 いきなり気合い入れていきなりワケわからんこと言い出すアルフに銀時は思わず振り向いたまま口を少し開けてポカーンとした表情を作ってしまう。

 

「…………ナニイッテンノオマエ?」

 

 銀時の様子などまったく気にも留めずにアルフは肩に腕を回しながらニカッと笑みを見せて語りだす。

 

「だってあんた前に、あたしの新しいご主人様になってくれるとかなんとか言ってたじゃん」

「いやまァ……確かにな……」

 

 そう言えばそんなことも軽口に乗せて言っちまったな、と思い返しながら曖昧な返事をする銀時。すると彼の肩に腕を回すアルフは小首を傾げて告げる。

 

「あッ、臨時ご主人様が嫌ならご主人様二号にする? それとも新ご主人様(仮)がいい?」

「どこのライダーだよ。つうかよ、お前のご主人様は後にも先にもあの金髪ツインテールじゃねェの?」

「うん。後にも先にもあたしのご主人様はフェイトただ一人だから」

「あッ、そこは即答なんだ。譲らないんだ」

 

 そんなやり取りの後、回した腕を外して銀時から少し離れるアルフは少々気恥しそうに頬を赤くしながら告げる。

 

「まぁ今のあたしにとっちゃあんたは大事な……いや!」

 

 アルフは言葉の途中ですぐさま顔を赤くしながら何かを咄嗟に避けるように両手を上下にぶんぶん振りつつ捲し立てる。

 

「あんたを認めた称号的なアレ!! フェイトに及ばずともすきな……じゃなくて!! ご主人様みてェな奴的なアレだから臨時ご主人様にしてやるって言ってんの!! 要はあたしがあんたを認めてやったって事を形にしたいんだよ!! ありがたくその名誉を受け取りなって!!」

 

 なんか途中で強引に言葉を変えて意味不明なこと言いつつ必死に言葉を取り繕うアルフに対して銀時は怪訝な表情を浮かべる。

 

「いや、そんな賞を上げます的なノリで言われてもァ。つうかおめェは一々近くにご主人様が居ねェと調子でねェのか?」

 

 銀時の疑問にさきほどまで世話しなく表情を変えていたアルフは打って変わって少しだけ悲し気な暗い表情を浮かべる。

 

「いや別にさ……あんたに寄り掛かって依存しようとかそんなワケじゃないよ? ただね……あたしにも身近な……なんだろうね? 家族とか親友って言うのかな? そんな頼れる奴となにかしらの繋がりを言葉って言うか確かなもんとして形にしたいと思ったんだ……」

「別に繋がりなんざ……いちいち言葉とかんなモンで飾り付けなくてもいいだろ。勝手にできちまうもんなんだからよ。つうかよ、ご主人様どうこうはどうでもいいんじゃねェか? ただのダチ公で充分だろ」

「そう……かもね……」

 

 アルフは首を軽く縦に降ってから少し顔を逸らして「でもしょうがないじゃん……」と言ってから銀時の耳には届かないとてもか細い小さな声で。

 

「あんたとはさ……親友よりも……もっとさ……近い……」

 

 口が動いた姿を見て銀時は怪訝そうに肩眉を上げながら告げる。

 

「……えッ? いや、なに? 声が通ってなくて聞こえねェんだけど?」

 

 アルフはまた顔を赤くしつつ首を軽く横に振る。

 

「いや、やっぱなんでもない! あたしの勝手なんだから、あんま気にすんなって!」

「いや、お前の勝手って言うけどよ、勝手に俺はお前のご主人様(仮)にされてんだけど? いやまぁ、俺が言った事で始まった話だけども。なんだかなー……」

 

 あまり納得がいかず銀時が眉間に皺を寄せる中、アルフは気持ちの踏ん切りがついたと言わんばかりに体を伸ばす。

 

「ん、ん~ッ! ようやく体が楽になった感じだよ」

 

 コキコキとアルフは軽快に首を鳴らす。

 

「なんかよくわかんねーうちに元気になっちゃたよ俺の臨時使い魔」

 

 腕を組んでツッコム銀時に構わずアルフは近づきながら新しく出来た天然パーマの主人に人差し指を突き付ける。

 

「あんたはあたしの臨時ご主人様で――」

 

 そしてアルフは突き出した人差し指を拳へと変える。

 

「――初めての親友(ダチ)だ!」

 

 出された拳を見て銀時は少し呆れてため息と共に声を漏らし、

 

「ハァ……たく……」

 

 頬を少し吊り上げる。

 

「こりゃ、とんでもねェペットを引き受けちまったもんだ」

 

 銀時は突き出された拳に向かって拳を突き出す。

 

「よろしくな――ダチ公」

 

 銀時は軽く拳を突き合わせる。

 

「よろしく――親友♪」

 

 ニカっとアルフも笑みを浮かべる答える。

 この時、魔力のパスもなければ、ましてや契約すらなく、家族としての繋がりもない新しい繋がりをアルフが得た瞬間だった。

 

「にしても、こ~んな美人が臨時とは言え使い魔になったんだ。罪な男だね~」

 

 にやけ顔でアルフはうりうりと肘で銀時を小突く。

 すると銀時はフッと鼻で笑い軽口叩く。

 

「随分態度のでけェ(ペット)だなおい」

「狼だっての。あと使い魔な」

 

 アルフは普段の「狼だ」より若干声音を優しくさせる。なんだかんだでこの会話に嬉しさを感じてるようだ。

 アルフはやれやれと首をすくめる。

 

「あたしの臨時ご主人様はホント素直じゃないし柄も悪いし口も悪いし頭も悪いし足も臭いし、ホントフェイトと比べて良いとこないね」

「足臭いは余計じゃね?」と銀時は肩眉を上げる。「つうかなにこの使い魔? 早速臨時とは言え新しいご主人様貶し始めたんだけど? 傷口じゃなくて心の傷開きそうなんだけど?」

「あ~あ。ホントこの天パご主人様(笑)には色々困らされそうだよ」

「おい(笑)ってなんだ。絶対忠誠心ゼロだろお前。お前の中の順位付けで『フェイト>アルフ>俺』みたいになってるだろ」

「フェイト≧あたし>>>>>>銀時、くらいだから安心しなって」

「ミジコン並みに俺の価値ひっくんだけど!! 絶対お前と俺の間に越せない壁が出来てんだろそれ!!」

 

 銀時のツッコミを聞きつつ軽口を叩くアルフは後頭部に手を回して前を歩いていく。だがその時、くるりと振り向く。

 振り向かれた彼女の顔を見た銀時は声を発せずに一瞬、目を見開く。

 腕を後ろで組み、笑みを浮かべる使い魔の顔はどこか満足げで、儚げで、女性的で――、

 

「しっかりしてよ。あんたはあたしが初めて――」

 

 目の前の女は何を思いとどまったのか口を閉じ、笑みを浮かべる。

 

「なんでもない」

 

 そのままアルフは軽快な足取りで銀時の前を歩き出す。

 ただアルフの言葉を待つように突っ立ていた銀時は我に返りポカンとした表情で眉間に皺を寄せる。

 

「……えッ……ちょッ……」 

 

 すんごく意味深な言葉だけ受け取った銀時は戸惑いながらアルフの後を追いながら問い詰める。

 

「おいおいおい。お前今なに言おうとした? 初めて? 初めてがなに? ご主人様(仮)になに言おうとした? 満足してるとこ悪いけど臨時ご主人様にはモヤモヤだけが残っちまったぞ」

「ご主人様(笑)。フェイトのことが片付いたら教えてやるよ」

「絶対だな? 今言ったな? 言質とったからな」

 

 などと言う会話をしながら歩く二人。

 憑き物が落ちたような笑顔を浮かべるアルフ。そんな彼女の首輪の宝石が赤くキラリと光るのだった――。


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