魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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銀時「おいおい。ハロウィン終わっちゃってんじゃん。今年もハロウィンネタなしかー」

新八「そもそも銀魂でもハロウィンネタなんてしたことありませんよ」

神楽「はろうぃんてなにアルか?」

新八「お祭りだよ。コスプレして――」

銀時「大体渋谷辺りでフイーバーしてる感じ」

新八「いやフィーバーって……パチンコじゃないんですから。他に言い方ありません?」

銀時「大体渋谷辺りでヒャッハーしてる感じ」

新八「いや違うだろォォォ!! せめてもっと言い方ってもんがあるでしょ!! 祭りに集まった人たちが危ない人たちみたいじゃん!!」

神楽「なるほど」

新八「いや違うから!! それで納得しちゃダメだから!!」

銀時「祭りとか人間が集まるモンなんて大体やってる連中がヒャッハーして頭のハメ外してるようなもんだろ。文化祭とかは頭じゃなくて股のハメを――」

新八「あんた文化祭をなんだと思ってんだッ!! もっと周りに配慮して祭りしてる人たちだっているんだよ!! あんたどんだけ歪んだが見方しかできねェんだよ!!」



第四十七話:話したくても話せない心苦しさ

 詳しい事情は説明できないけど私は今母さんを人質にされ脅されている

 この手紙を読んだ後決して誰にも事情を話さないで欲しい

 彼らの話だと監視されているようだから

 銀時は私よりもアルフを助けて欲しい私のせいで無茶なことをしてしまうと思うから

 私の大事な家族を最後まで守ってくれることが私が一番して欲しいこと

 どうかお願い

 

「――ってことが書かれてるな。まーおめェは地球の文字なんざ読めねェから分からんだろうが、俺が事情を知ってるワケはその置手紙ってことだ」

 

 と銀時が手紙の内容を説明する。

 紙片に書かれている少し拙く乱れた文はすべて地球の文字だ。もちろん地球の文字などを勉強しなかった自分には地球の簡単な文字だって読めない。だから銀髪の言葉の正否を確かめる手段はない。

 だが……。

 

 紙片を持つ両手に力が入り、皺ができる。

 手紙を読んでいたアルフは紙片の端をギュッと握りしめ、両膝を床へと付き、頭を俯かせる。

 これでようやくわかった。

 なんであそこまで銀時が自身を止めようとしたのか。きっと魔力減少による消滅をさせないためだったのだろう。

 だが今のアルフの頭の中にあるのは銀時の行動理由よりも、

 

「なんで……フェイトは……」

 

 こと此処に至るまで自身よりも使い魔の身を案じて守ろうとする優しい主のこと。

 

「自分よりも……他人ばっかり……」

 

 アルフは嬉しいくもあり悲しくもあり悔しくもあるようなごちゃまぜの感情のせいで涙声をもらす。

 するとアルフの耳に気だるそうな声が届く。

 

「よくまー地球の文字なんざ知らなねェのにこんな文を書けたもんだ。最初見た時なんざ、俺の方があいつの文じゃねェだろって少し疑ったくれェだ」

 

 手紙を渡した主――銀時は廊下に両膝を付けるアルフの目線に合わせるように横でしゃがみ込むとアルフはボソリと言葉を漏らす。

 

「きっと……バルディッシュを使ったんだよ……」

「だろうな……」

 

 バルディッシュを使った、つまりデバイスの翻訳機能を使ったと言うことが伝わったのか銀時は頭をポリポリ掻いてから少し顔を上げて空を眺める。

 

「おめェの主はよっぽどお前に死んで欲しくねェから、色々頭こねくり回してそいつを用意したんだろうな。下手なことして自分(テメェ)の母ちゃんの命を危険に晒すって不安を押し殺しながら」

 

 銀時の言葉からフェイトの必死な思いをより想像してアルフは手紙に額を埋めるように頭を下げる。

 

「それに、こんな物まであいつ用意してたしな」

 

 と言って銀時はポケットから取り出したのは黒い首輪だ。真ん中には赤い宝石が埋め込まれている。

 

「……それは?」

 

 涙声で尋ねるアルフに銀時は首輪を摘まんで垂らしながら答える。

 

「手紙の裏に説明が書いてあったが、なんでも『〝魔力を貯蔵する宝石〟が埋め込まれた首輪』らしい。んで、使い魔がコレを付けると、主との繋がりがなくてもある程度魔力の確保とやら可能なんだとよ」

「それも……手紙と一緒に……」

「あぁ。ちょっと前にな……」

 

 と言って銀時はフェイトに手紙を渡された時の事を話しだす――。

 

 

 それはフェイトと共に時の庭園から戻った後。彼女との最後のジュエルシード回収に向かう直前だった――。

 

「銀時。渡したい物があるの」

 

 そう言うフェイトの掌の上には赤い宝石が埋め込まれ、丁寧に折り畳まれた首輪が置かれていた。

 銀時は首輪を見せられて首を傾げる。

 

「なんだこれ? 首輪か? なんで俺にくれんの? おめェの使い魔にやればいいだろ。尻尾振って喜ぶぞアイツ」

「……近いうち役に立つはずだから受け取ってほしい」

 

 含みのある言い回しでフェイトが首輪を持つ手を少し前へと出す。

 

「ちょっとッ!! ジュエルシードがあの白い魔導師の子たちに取られるちゃうよ!!」

 

 遠くの方でアルフが大声で急かすので銀時は怒声で返す。

 

「うっせェなクソ犬! 待てもできねェのか!」

「あたしは狼だクソ天パッ!!」

 

 アルフの罵声を受けた後、銀時はフェイトに向き直る。

 銀時の反応を待つフェイトは不安そうな目をしており、そんな瞳を見た銀時はため息を吐く。

 

「んな捨てられた子犬みてェな目で見んなって……」

 

 そう言って銀時はフェイトから首輪を受け取り、ポケットへと突っ込む。

 

「ま、お守り代わりに貰っといてやるよ」

 

 

「んで、あいつの首輪がどうたらって言葉を聞いてあらためてもらった首輪を確認したら、折りたたまれた手紙が裏側にテープでくっ付いていたってワケだ」

 

 銀時は摘まんだ首輪を垂らして見つめながら疲れたように声を漏らす。

 

「まぁ、ここに来るまで首輪がどんなモンで手紙がくっ付いてることすら気づかないまま大雑把な勘でお前連れてきちまったが……まー予想よりは収穫があったみてェだしな」

 

 そこまで言って銀時はチラリと隣のアルフに視線を向けつつ疲れたように声を漏らす。

 

「おめェの様子にどうも違和感を感じたがやっぱ……フェイトの為に色々と前のめりなってただけみてェなのは手紙を読んでおおまかにだが察しが付いたしな」

 

 そこまで言って銀時は手に持った首輪を膝の上に置いてアルフが持っている手紙に目を向ける。

 

「先走る使い魔のアフターケアもできる限り考えて大したご主人様だよ、あいつは」

 

 銀時の説明を聞いてアルフはより涙を目に溜めて、嗚咽を漏らし始める。

 アルフの様子を見て銀時は息を吐く。

 

「やれやれ。手紙が偽もんかとかホラ話すんなってゴネるとも思ったが、心配なさそうだな」

「だって……ミッドの文字で……フェイトの名前の……サインがあるんだ……」

 

 嗚咽を漏らしながら手紙がフェイトが書いたものであるという証拠を説明するアルフ。

 もしかしたら手紙は銀時が自分を強引にでも止める為に用意した偽物かともいう考えが頭を過ったのは本当だが、銀時が書けるはずもないミッドチルダの文字、しかも一見してフェイトの文字だと判断できるサインがあることに気付いた。

 わざわざ疑う要素はほとんどない。

 アルフは涙声を漏らしながら言葉を掛ける。

 

「あんたもしかして……フェイトにミッドの文字……習った?」

「おめェが知らねェ間にか? そもそも俺がんなメンドーなことすると思うか?」

「そう……だよね……」

「そもそも今のおめェにんな偽もん見せてバレた暁には半殺しにされんだろ」

 

 銀時は頭をボリボリ掻いて一呼吸入れてから落ち着いた声で語り掛ける。

 

「おめェの大好きなご主人様の気持ちはあらためて分かったろ? ならちったァ自分の体の事も考えろ」

「で、でも!」

 

 自分がどうなろうとフェイトをどうしても助けたいという思いから反射的に意義を唱えようと顔を上げるが、

 

「フェイトを……」

 

 また頭を下げてしまう。

 自身を思いやる主の気持ちを反故にしたくないという思いもまた生まれてしまい、語気はどんどん弱まり、狼の耳と一緒に頭も垂れ下がる。

 最初は抑えきれない感情の赴くままにフェイトを助けようと無茶な行動に出ようとしてしまっていたが、大岩のごとく引き下がらない銀時に引き留められ冷えた今の頭では主の気持ちも汲もうとする感情もあるのだ。

 アルフは垂れ下がる耳を両手で抑え込む。

 

「あたしは……」

 

 主を助けたい、だが主の思いと覚悟をないがしろにできないという相反する二つの感情がないまぜになってしまい、今自分がどうするべきなか分からなくなってしまう。

 がんじがらめで動けず、苦しすら覚え始めた時、

 

「……?」

 

 ふっと頭に暖かな何かが乗る。

 

「別に頭悩ます必要なんかねェだろ」

 

 アルフがゆっくりと顔を上げれば、目の前には気だるげな銀髪天然パーマの顔があった。

 

「俺もおめェも結局やることはなんざ変わらねェ」

 

 まるで苦悩をはたきを落とすように優しくぽんぽんと頭を軽く叩いた後、銀時は腕を引っ込めながら告げる。

 

「フェイトはな~んにも変わってねェが、困ってる。なら助けれりゃァいい。簡単な話じゃねェか」

「なら――!」

 

 すぐにでも動くべきだ! とアルフが進言しようとするが。

 

「焦って動いたところであいつを助けられる保証なんてどこにもねェだろ? いま下手になんかしたところであいつを悲しませるだけになるかもしれねェしよ」

 

 すぐさま挟まれた銀時の言葉によってアルフは反論できなくなってしまう。

 冷静になった今の頭で考えれば、まったくもって銀時の言う通りだ。魔力供給のない今の状態ままただがむしゃらに動いて消滅へのカウントダウンを速めたところで結局はなにも良い結果なんて生まれないだろう。

 

「あたしはどうしたら……!」

 

 今の自分には一体なにができるというのだ? 役立たずもいいところじゃないか!

 隣で平然とした銀時の方がまだフェイトを助ける為に考えて動こうとしている!

 

 自責の念に捕らわれ、悔し涙を流すアルフ。

 

「たく、おめェのご主人様に対する忠誠心はホント呆れるくれェに大したもんだ」

 

 呆れと関心が混ざったような気だるげな声で告げられた言葉にアルフは「えッ……?」と声を漏らし、銀時はまっすぐこちらを見つめながら語る。

 

「別になんもかんも決着が付いたワケでもねェし、ましてやおめェが消滅するなんて決まったワケでもねェ。なら、負け犬になんのも早ェはずだ」

 

 ニヤリと口元を吊り上げる銀時。

 

「とっととおめェが万全の状態になれるよう魔力でもなんでも手に入れて、あのクソッタレ共にガブっとやる準備してやろうじゃねェか」

 

 銀時の言葉を聞き、アルフは徐々にだが心のおくでなにかがふつふつと湧いていくのを感じる。

 

「その執念ぶけェ忠誠心使って、主助けんのも主の思いに応えんのもどっちもやってのけれりゃあいい」

 

 まるで靄が晴れるような、自身を前へと押し出すような何かが沸き立つかのような心の変化。

 銀時の言葉を受ける度に暗い未来であることに変わりがなくても、なにかしらの光が見え始めていくような感覚を覚えるアルフ。

 銀時は自嘲気味な口調で。

 

「さすがに一二か月のポッと出の俺が、なげェ時間フェイトと一緒だったおめェと同じだなんて言うつもりはねェさ。けどよ、あいつを助けてやりてェって気持ちの一つや二つは持ち合わせてるつもりだぜ?」

 

 「だからよ」と言って銀時がゆっくりと手を出せば、アルフは頭に優しい温もりを感じ始める。

 銀時は軽く手を左右に動かしながら、

 

「――おめェが背負い込んでるモン、少しは俺にも背負わしちゃくれねェか?」

 

 どことなく優し気な言葉を送る。

 

「ぎん……とき……」

 

 涙と流し、嗚咽を漏らすアルフ。

 主従の関係や家族の関係とも違う、心を許せる相手。身内以外で自分に安心や安らぎをくれるようなそんな存在を初めて実感した。

 アルフは頭に乗せられた手を両手でギュッと握りしめ、震える声で。

 

「頼っても……いい?」

「エリート魔導師様に比べれば魔法は使えねェし頭の出来もそこまで良くねェが、それでもいいなら……いくらでも手は貸してやるぜ」

 

 銀時に答えを示すようにアルフはギュッと彼の手を強く握り、頷く。

 アルフの答えを受け取ったのか銀時は少しばかし口元を吊り上げる。

 

「まぁ、もしお前が尻尾振る相手がいなくて寂しいってんなら臨時でご主人様になってやってもいいけどな。お前のご主人様が戻るまでの間」

「……バカ」

 

 軽口を叩く銀時の言葉を聞いてアルフは涙声のまま笑い声を漏らす。

 肩の力が抜けたアルフを見て銀時は安心したのか息を吐きだす。

 

「とりあえず、まずはおめェの魔力の確保からだな。どこぞの執務官殿のお小言は聞きたかねェが、まずはアースラにもど――」

 

 銀時の言葉の途中。

 まるでこと切れたかのようにアルフは銀時の胸に倒れてしまった。

 

 

 暗く、まるでそこのない泥に沈んでいく感覚。

 そんな終わるともしれない暗闇の中でまどろむアルフの脳裏にはまるで映像のように昔の記憶が映りだす――。

 

『待っててね! すぐ助けてあげるから!』

 

 最初に聞こえたのは少女の言葉だった。

 もう記憶の残骸としてしか残っておらず、彼女が意識を覚醒させればすぐに露となってしまうモノ。

 自分は何故狼の群れから捨てられたのかよく覚えていない。ただ、そうしなければいけなかったのだろう……。

 冷たくなる体。ただ孤独と寂しさが自分の中を埋め、死すら感じ始めたさなか、一つの温もりが自分を包んだ。

 

『この命を糧に新たな命をここに!!』

 

 少女力強く言い放ち、何かが自分に流れ込んで来る。それは暖かく力強いものだった。

 

『ワンッ!』

 

 目を覚ませば、金色の髪の少女が戸惑いながら自分を見ている。

 自分にはすぐに分かった。この子は私の――。

 

『え、えっと……』

 

 少女は擦り寄って来る自分に戸惑う。

 だが自分はついつい甘えたくて構わず尻尾を振り、舌を出す。隣の背の高い女性が何かアドバイスを言っている。

 

『わぁ……あったかい……』

 

 抱かれると凄く嬉しい。温もりと優しさを全身で感じることができる。

 

『これからよろしくね――〝アルフ〟』

 

 少女は自分の名前を笑顔で言ってくれた。

 決してこの子を裏切らない。決してこの子を一人にしない。自分が絶対に守ってみせる。

 だってそうすれば……もう独りぼっちには……孤独には……ならないのだから……。

 

 そこで急激に映像は変わり現在――あの時の苦い思い出へと。

 

『これ以上わたしのわがままにアルフを巻き込めないよ』

 

 結局また同じことが起こってしまう……。

 

『私がこれから進もうとしている道はもうたぶん、後戻りはできないから……』

 

 また自分は独りになってしまう。

 

『だから、ここでアルフとはもうお別れしなきゃ』

 

 必死に掴もうとしてもまた離れてしまう。離されてしまう……。

 また一人になってしまう。孤独の闇に落ちてしまう……。

 だから離れていく手を……大事な人の手を離したくなくて……もがいてもがいてもがき続けた……。

 何をすればいいのかもどうすればいいのかもわからず……ただがむしゃらに……。

 

 だが闇はまるでそんな必死に抗う自分をあざ笑うかのようにあの大事な人の手を自分から引き離す。

 涙を流し声を荒げる自分を引きずり込もうと暗闇は足にも体にも絡みつき、徐々に暗い底へと引きずり込まれていく。

 

 だが不意に――。

 

『ワリィが、死に急いでるだけのテメェをこのまま行かせるワケにはいかねェな』

 

 光が自分を照らす――。

 

『別に頭悩ます必要なんかねェだろ』

 

 温もりを感じる――。

 

『別になんもかんも決着が付いたワケでもねェし、ましてやおめェが消滅するなんて決まったワケでもねェ』

 

 その光は明滅で鈍く、分かりづらい。

 温もりだって自分が大好きな人に比べれば、微々たるものであろう。

 でもほんの数瞬にも見たいな時ではあるが、確かに感じる。

 

『おめェが背負い込んでるモン、少しは俺にも分けてくれねェか?』

 

 安らぎも、暖かさも――。

 

 

 暗闇から光が差し込み、徐々にアルフの目が覚め覚醒していく。

 ゆっくりと体を起こせば独特の匂いが鼻に付き始める。

 辺りを見渡せば、白い色と薬品が目に付く。

 どこだここは? と思った時だった、

 

「よォ、目が覚めたか?」

 

 声がし、アルフの狼の耳が立ち上がる。

 声に目を向ければ、壁を背にして立っているのは銀髪で気だるげな顔をした男――坂田銀時。

 顔は包帯でぐるぐる巻き、更には肩を気遣ってる節もある。

 まぁ、彼の怪我の主だった原因は誰でもない自分なのだろうが……。

 

「どうだ、調子は?」

 

 と銀時が声を掛けてきたので、アルフは頭を抑えながら答える。

 

「な~んか……まだ頭の中ごちゃごちゃのぐるぐるって感じ……」

 

 そこまで言うとアルフは「でも……」と言ってから胸の辺りを軽く撫でる。

 

「ここはなんだか少しスッとしてる」

「そうかい」

 

 と返事をする銀時の表情は特に変わらない。

 アルフはもう一度辺りを見回してから、銀時へと声を掛ける。

 

「ここは?」

「アースラの医務室だ。さすがに魔力関係の治療なんて俺にはできねェからな」

「…………」

 

 答えを聞いてからアルフは自身の体の状態を確認する。

 疲労感を感じるが、魔力の欠乏はそこまで感じない。どうやら、アースラの魔導師の誰かが魔力を供給してくれたのだろう。

 アルフは今のところはすぐにでも消滅の危険がないことに安堵し、気になっていることを聞く。

 

「ねェ、銀時。ここがアースラだってことはさ、やっぱり……色々大変じゃなかった?」

 

 独断行動しまくりで挙句は大怪我して帰って来たのだから当然、あの厳格で身長の低い執務官は酷くご立腹だったはずだ。

 アルフの問いを聞いて銀時は視線を斜め上へと向ける。

 

「あァ……まァ……別にィ……問題なかったな……」

 

 

 気絶したアルフを連れた銀さんを待ち受けていたのは……。

 

「ちょっと銀さんんん!? あんたなにがあったんですかァーッ!?」

 

 医務室でもところ構わず大声を上げる眼鏡。

 

「さぁ~て、とりあえずワケを聞かせてもらおうか?」

 

 腕を組みながら顔面に青筋浮かべるまくる執務官。

 

「銀ちゃん銀ちゃん!! まさかのアルフとランデブーアルか!! 愛の逃避行アルか!!」

 

 素っ頓狂なこと言うチャイナ娘。

 

「なにィィィ!! 万事屋ァァァ!! お前まさかアルフ殿と交尾したのかァァァァァ!!」

 

 アホチャイナの言うことそのまま真に受けるアホゴリラ。

 

「なんですって銀時殿ォォ!! あなたはなんてうらやま――じゃなく破廉恥なッ!! それで!! 場所は!! どこのホテルですかな!! どんなローションをお使いに!! そこんとこ詳しく!!」

 

 勘違いに拍車かけるアホエロ糸目。

 

「それじゃアルフは旦那のガキを身籠ってるってことで風潮しておきますぜェ~」

 

 悪びれもせずとんでもない誤解を広めようとする腹黒ドS少年。

 

 まだ治療すら受けてない状態の銀時を待っていたのは容赦のない質問攻めという精神攻撃であった。

 

 

「うわぁ……」

 

 アースラに帰った後の銀時の混沌とした状態を聞いてアルフは汗を流す。

 根掘り葉掘り聞かれたのだろうが、銀時が自分たちの秘密を喋ったなんてことはアルフは微塵も思ってはいない。

 

「まァ、うるせェのには慣れってからな」

 

 平然とした顔で告げる銀時にアルフは「そっか……」と軽く返す。

 その後は会話が途切れてしまい、いくばくかの沈黙が続く。

 するとアルフがポツリと口を開く。

 

「なんか……ごめんね……。迷惑かけて……」

 

 銀時は何も言わずただ頭を掻く。

 銀時の反応を見て、アルフは狼の耳をペタリと前に倒す。

 

「怒ってる……かい? そりゃそうだよね……。自暴自棄になって……残った唯一の仲間を手ひどくボコボコにしちまった上に散々迷惑かけたんじゃ、あんたが怒んのも当然だよね……」

「別に怒っちゃいねェよ。勝手に勘違いすんな」

 

 そう言って銀時はアルフの寝ているベットに腰を掛ける。

 

「テメェの甘噛みの一つや二つ喰らって怪我するほど俺はひ弱じゃねェっての。図に乗んな」

「甘噛みって……」

 

 見るからに怪我人と言わんばかりの男の強がりにアルフは呆れた表情を浮かべる。

 やがて銀時はベットに両手を付いて天井を見上げ、アルフに背を向けたまま口を開く。

 

「がむしゃらに足掻いて頭悩ませてる〝ダチ〟の愚痴や一つ二つ聞かねェでどうすんだって話だろ」

「ダチ……」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは噛み締めるように小さくダチと言う単語を口にする。

 銀時は「それにな」と言って振り向き、後ろのアルフへと告げる。

 

「俺にとっちゃあれくれェのメンドー事なんざ、日常茶飯事だしな」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフはクスリと笑みを零す。

 

「あんたって……強がりと減らず口は一級品だよね」

 

 だが笑みを浮かべていたアルフの顔は少し暗いものへと変化してしまう。

 

「…………ねェ、銀時。……これからどうすればいいんだろうね?」

 

 もう前みたいに自分の命を顧みずに自暴自棄にも似た無茶な行動を起こそうという気はないのだが、いかんせん解決策が見つかったワケではない。

 むしろこれからなにをすればいいのかまったく思いつかないと言ってもいい。

 苦悩するアルフの言葉を聞いて銀時は顔を前へと向け、両腕を膝の上へと乗せて少し体を前へと倒す。

 

「なァ、アルフ」

 

 銀時の口から発せられる声は真剣なものだった。

 

「どうやら俺とおめェはこうやってベットでゆっくりできる状況でもねェらしいぞ」

「えッ?」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは呆けた声を出す。

 

 

 

 

 時間は少し遡り、銀時がアースラに戻って医療室で治療を受けている時のこと。

 独断行動に走った銀時を待っていたのはもみくちゃにされるかの如く仲間たちからの邪推と質問の嵐。

 それから次は手当と執務官&艦長による事情聴取である。

 

「さて? なにか申し開きはあるかな?」

 

 腕を組みながら対面して黒い丸椅子に座るのはクロノ執務官。そんな彼の隣にニコニコした笑顔で立つのはリンディ艦長。

 ちなみに治療室には銀時、クロノ、リンディ、エイミィ、新八、神楽以外の人間は誰もいない。さきほどまでわいわいがやがやと騒いでいた他の面々は治療と事情聴取の邪魔と言う事でクロノに強制退去させられている。

 クロノと同じような丸椅子に座り、気だるげな表情を浮かべる銀時は横からエイミィに手当をうけつつ声を漏らす。

 

「あの~執務官さん。俺は怪我人なんですけど? ちょっと圧力強くありません? 少しは労わってくれてもよくありません?」

 

 救急箱を近く置くエイミィに手当てをされながら、顔面と肩が血まみれのひでェ状態の銀時。たしかに普通なら治療と事情聴取を一緒にするなんてしないのだが。

 

「いやだなぁ~。そんなことはないぞ? 僕だちだって気は使うさ」

 

 いつもはまったく見せない屈託のない笑顔のクロノ。彼は笑顔のまま語る。

 

「ただ、人の隙をついて精神的に弱った重要参考人を勝手に連れ出した挙句、忙しい中必死に捜索していたこっちの気も知らずに勝手に怪我して勝手に仕事増やす〝クソ〟に与える配慮なんてないだけだぞ?」

 

 笑顔のクロノの額には青筋がくっきりと浮かべられている。

 すると続くようにクロノの隣に立つニコニコ顔のリンディ提督も口を開く。

 

「とは言え、銀時さんも分かっていますよね? 多くの不確定な要素がひしめく現在の状態であそこまで無責任な行動に出られたんです。色々と〝覚悟〟の上での行動だったのでしょう? もしかして、そこまで考えてない勢い任せの行動とかじゃありませんよね? いい大人がそこまで無責任な行動をしませんよね? そうですよね?」

 

 素晴らしいくらいニコニコの真っ黒な笑顔のリンディにさすがの銀時も顔を引き攣らせていた。

 この時のリンディはマジで肝が冷えるくらいおっかないと銀時は思ったそうな。

 見かねたのか立会人の一人である新八が銀時に耳打ちする。

 

「(銀さん銀さん! さすがに今回の事はクロノくんだけじゃなくてリンディさんもマジで頭にキてます! 正直に何があったか話してください! あんた一体なんの目的でアルフさん無理やり連れだしたんですか!?)」

 

 新八の助言をもらいつつも銀時は少しの間だけ沈黙し、やがて気だるげな表情でぶっきらぼうに答える。

 

「つい犬とじゃれたくなってな。それが白熱して怪我しちまったいってェ!!」

 

 と言葉の途中で思わず声を上げる銀時。

 銀時の反応に構わずエイミィが額の傷に薬品を塗り付けた丸い綿を当て、

 

「いってッ!!」

 

 と銀時はまた声を上げる。

 そしてすぐさま銀時はクロノへと顔を向けながらエイミィを指さす。

 

「ちょっと執務官さん!! この人! この人医者じゃない!! なんでコイツが俺の怪我の治療してんの!?」

「ついさきほど怪我人が多く出てしまってな。医療チームは手が離せなくて忙しい。だから犬とじゃれて怪我した奴の治療はエイミィで充分だ」

「ホワッツ!? だからって素人に怪我人の治療させるっておかしいだろ!! それが公務員の仕事かいっでェーッ!!」

 

 文句の途中で今度は別の傷に薬を塗られて銀時はたまらず声を上げる。

 銀時の悲鳴などまったく気にせずクロノは淡々と告げる。

 

「安心しろ。エイミィはオペレーターだが何度か傷の治療もしたことがある」

「ま、マジで?」

 

 もしかして執務官として生傷が絶えないであろうクロノの治療をしてきたことが? と思った銀時は半信半疑という表情で自身の傷の治療を行うエイミィへと顔を向ける。

 銀時の視線に気づいたエイミィはビシッとブイサイン。

 

「子供の頃はクロノくんとお医者さんごっこいっぱいしました!」

「いやそれ素人ォォォーッ!! 純然たる素人じゃねェかおい!!」

 

 銀時は顔面青ざめさせながら叫び、声を荒げる。

 

「医者ァァァァ!! ここに医者を呼べェェェェ!! ヤブでもいいから!! せめてまともに医学の知識がある奴呼んいってェェェェェな!! いっでェなチクショォォォォォォ!!」

 

 銀時はあまりの痛みにまたしても声を大にして叫ぶ。エイミィがぽんぽんと薬を傷のいたるところに塗ったからである。

 銀時は青筋立て目元を影で隠しながらエイミィの両肩を掴んで詰め寄る。

 

「ねェワザと? ワザとなの? ちょっと薬塗りすぎじゃないの? さっきからお前なに? 治療じゃなくて拷問してんの?」

「い、いや~……アハハ……」

 

 たぶんテキトーに薬塗って失敗したのだろうエイミィは乾いた笑いを浮かべながら視線と顔を逸らす。

 するとクロノが。

 

「エイミィ。気にせずに彼を拷問(ちりょう)してやれ。その方が自白も早くなる」

「りょ~かい♪」

 

 エイミィは銀時に両肩を掴まれながら笑顔で敬礼のポーズをして応える。

 一連のやり取りを見て銀時は顔を青くして叫ぶ。

 

「ヘルゥゥゥプ!! ヘルプミィィィィ!! 誰かァァァ!! この執務官ならぬ拷問官をなんとかしろォォォ!!」

 

 さすがに見かねたのか新八が横から声を掛ける。

 

「く、クロノくん。銀さんもたぶん? 反省してると思うからもうその辺に……」

 

 新八の言葉を聞いてクロノは深くため息を吐く。

 

「別にちょっと意地悪を言っただけで――」

「ちょっと意地悪? ガッツリ痛い思いしてんだけど、俺?」

 

 と銀時が青筋浮かべながらツッコムがクロノは構わず新八に話す。

 

「あれだけの傷だ。薬が染みて当たり前だ。とにかくこっちも真面目に治療している。ただ本当に人手不足で彼にまで医療スタッフを回せないから治療経験が少なからずあるエイミィに任せているだけだ」

「そ、そうですよね……」

 

 と新八は少し安堵したようなホッとした表情を浮かべる。どうやら、クロノが怒ってはいるものの私怨を抜きにした冷静な判断能力があると思って安心したのだろう。

「とは言えだ……」と言ってクロノは指を絡めて真剣な眼差しを銀時へと向ける。

 

「これ以上あなたの戯言に付き合えるほど僕たちだって余裕があるワケじゃない。事件解決の為にもちゃんと〝真実〟を話してくれないか?」

「…………」

 

 銀時は口を閉ざし、場に重い沈黙が訪れる。

 エイミィは場の空気が重くなったことで心配そうな表情を浮かべながらも銀時の顔に包帯を巻き始める。

 だが銀時はやがて口を開き、

 

「…………犬とじゃれてただけだ。気にすんなって言ったろ?」

 

 銀時の変わらない態度と言葉を聞いてクロノは深くため息を吐きながら眉間を抑え、リンディは少し残念そうに肩を落とす。

 そんななんとも言えない複雑な雰囲気の中、

 

「いい加減にするネ銀ちゃん!!」

 

 業を煮やしたように神楽が声を張り上げる。

 

「そんな大怪我見せられて気にするなって言う方が無理アル!! 水臭いネ!! 隠し事してないでとっと喋るヨロシ!! 私らはちゃんと力になるアル!!」

「そうですよ銀さん!」と新八も便乗する。「僕ら紛いなりにも仲間でしょ!! 少しは僕らの事も頼ってくださいよ!!」

 

 仲間たちの真摯な言葉を聞いて銀時は少しの間口を閉ざすが頑なに意志を曲げることはなく。

 

「……しつけェな。だから犬とじゃれ合って――」

「いい加減にしろおらァァァァァァァッ!! 白状しねェとぶっ飛ばすぞコラァァァァァッ!!」

 

 銀時の胸倉掴んで拳振りかぶるチャイナ娘。さらに眼鏡も。

 

「エイミィさん。さすがに僕もイライラしてきたんで傷に薬じゃなくてワサビ塗り込んで下さい。とっと自白させましょう」

「えッ? えぇ……」

 

 とさすがのエイミィも新八の容赦ない発言に戸惑いを見せる。

 

「おィィィィィィィ!!」と銀時はシャウト。「お前らもうちょっと粘れよ!! 暴力と拷問で事情を聞こうとする仲間がどこの世界にいんだよ!!」

 

 銀時はツッコミ入れながら神楽の手を振り払う。。

 

「とにかくなァ! おめェらが思ってるような事は何も起こらなかったんだよ!! 傷だってほら!」

 

 銀時はグイッと服を脱ぐ。

 

「この通り大したことねェし!」

 

 銀時の服の下から見えた噛み傷は痛々しいほどで、血がダラダラと流れ出した跡と傷の付近には赤黒く変色した血が見える。

 

「どこがァァァァァァ!?」と新八はツッコム。「むっちゃ大怪我じゃん!! あんたホントアルフさんとどんだけ争ったんですか!!」

「アルフじゃねェよ! つうかなんでアルフなんだよ! 俺がいつアルフの名前出したよ! 変な勘繰りすんのやめてくんない!」

「いやそのエグイ噛み傷見たら一目瞭然じゃん!! あんたのことだからどうせ、精神が不安定なアルフさんを怒らせて怪我したんでしょ!!」

「な、なにバカなことを言ってんだコノヤロー! こ、これただじゃれただけだから! それで白熱してちょっと怪我しただけだから!」

 

 痛いところを突かれて少し汗を流しながら必死に誤魔化す銀時に新八とクロノはジト目を向ける。

 そして神楽は拳を握りしめる。

 

「つまりアルフに鉄拳制裁すればいいアルな!」

「ちょっと待てッ!」

 

 銀時は一喝して暴走しそうになる神楽を止める。

 

「確かにアルフかもしれねー……」

「いやかもしれないってなんですか? あんたは自分を怪我させた人だか犬だか見てないんですか?」

 

 と言う新八のツッコミも構わずに銀時は言葉を続ける。

 

「だがな……」

 

 そこで銀時は一旦言葉を止めフッと鼻で笑い、

 

「こんなもん、大したことねぇよ」

 

 自分の肩の怪我をパンと叩く。

 そしてブシャァァァァァッ!! と銀時の肩から血が噴射する。

 

「いや大したことあるだろォォォォォッ!?」と新八はシャウトとする。「原作でもそうそうしたことないほどの大怪我じゃねェか!!」

「ば、ばばばばばバカヤロー……こんなもん掠り傷――」

 

 震える声で言う銀時の肩にエイミィが薬を塗る。

 

「ぬ”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”ッ!!」

 

 銀時は肩を押さえて悶える。

 

「もうやせ我慢止めろあんた!! 見てて痛々しいことこの上ないわ!! つうかエイミィさんも止めてあげて!! さすがに可哀想だから!!」

 

 新八がツッコミ入れる中、

 

「アルフ、貴様はもう死んでいる」

 

 全身筋肉が盛り上がり世紀末スタイルとなった神楽は医務室を出て行こうとする。

 

「いやそもそもおめェは考えんのめんどくさくなったから誰かを殴りてェだけだろ!!」

 

 誰かあのバカ止めろ!! という銀時の言葉を聞いて新八が慌てて神楽を羽交い絞めして止めるのだった。

 

 

 

「つまりー……」

 

 とアルフは銀時の回想を聞いて言葉を漏らし、

 

「あたしはその神楽って子に半殺しにされると……」

 

 青白くなった顔を俯かせながら涙目になる。

 

「と、当然の報いだよね……。あたしは黙ってボコボコに――」

「いやちげェよ。早とちりすんな。まだ続きがあるから」

 

 と銀時はすぐに訂正を入れながら回想を続けるのだった。

 

 

 

 新八と神楽が医療室のドアの手前で揉め、リンディが銀時に何かを耳打ちしている時だった。

 神楽と新八の二人の前の白い扉が横にスライドする。するとある人物が医療室の廊下側の扉の前に立っていた。

 それは、

 

「すまない。ちょっといいか?」

 

 眼帯をした中性的な顔立ちの少女である柳生九兵衛だ。

 

「きゅ、九兵衛さん!? どうしたんですか!?」

 

 いきなり現れた九兵衛に新八は神楽を抑え付けながら目を瞬かせる。一方の神楽も九兵衛の登場に動きを停止して彼女の言動を静観し始める。

 

「いや、実はな……」

 

 と言って九兵衛は申し訳なさそうな表情で頬を掻く。

 

「新しい怪我人を作ってしまったので、ここへ連れて来たんだ……」

「えッ!? そうなんですか!? なら早く治療しないと!」

 

 九兵衛の言葉を聞いたエイミィは驚きの声を上げつつ治療箱を手に取る。

 

「いや、ちょっと待て」

 

 とここでクロノが待ったの声を掛け、九兵衛に訝しな視線を送る。

 

「今、君は〝作ってしまった〟って言わなかったか? それってつまり――」

「そこからこの柳生四天王筆頭! 東城歩がご説明いたしましょう!」

 

 体の横半分を開いた扉の隙間から見せながら声を張って自己紹介する糸目男。クロノの言葉を遮ってそのまま説明を始める。

 

「実は若がトイレに行く途中で、すれ違ったアースラの局員の一人の手があろうことか若に手にぶつかったのです!! 許せねェ!! そしてその局員は『気を付けろ』という一言だけで行こうとする!! 無礼なッ!! 殴りてェ!! しかしそこは問屋が卸さない!! なぜなら若は男が苦手!! ちょっとでも若に触れようものなら一本背負いされてぶっ飛ばされる!! もちろんその局員殿も例に漏れず若に投げられ壁に叩きつけられる!! ざまァ!!」

「いやなにどうでもいい事で怪我人増やしてんだァァァァァァァ!!」

 とクロノは怒鳴り声を雄たけびの如く九兵衛と東城にぶつけ、新八は呆れ顔。

 

「あの、東城さん。あんたの説明の節々で身勝手な私怨隠しきれてなくて気持ち悪いんですけど……」

「そこの糸目が気持ち悪いのはどうでもいい!! それよりもこの忙しい時になに仕事増やしてくれてんだッ!! しかも人材が減るおまけつきだチクショォォォォォォッ!!」

 

 クロノは思いもよらない形で次々に問題が起こる事に苛立ち頭をわしゃわしゃかき乱す。そして涙を流しながら九兵衛を睨み付ける。

 

「君は銀時側の人間では少しはまともな人だと思ったのに!!」

「す、すまない……」

 

 心の底から申し訳ないと思っているのか九兵衛は頭を下げてただひたすら謝っている。

 

「いえお待ちください!!」

 

 と体を扉から半分しか見せない東城が手を前にかざして待ったをかける。

 

「若を責めるのはお門違いです!! 責めると言うならこの東城歩をお願いします!!」

 

 新八は呆れた声でツッコム。

 

「いや、あんたまったくの無関係でしょ? 九兵衛さんを過保護にするのもいいですけど、庇い過ぎるのもどうかと思いますよ? あとなんで体半分だけ見せてんですか? 家政婦ですかあんた」

「だってその局員の方に怪我を負わせたのは私ですから」

「いやなんでェッ!?」

 

 まさかの答えに新八はビックリして目を瞬かせる。

 

「えッ!? なにッ!? どういうことッ!? なんで九兵衛さんがぶん投げた局員をあんたが怪我人にすんの!? なにがあった!?」

「いやそれが……」

 

 と言って東城は腕を組んで眉間に皺を寄せながら説明を始める。

 

「その局員殿は若にぶん投げられて壁に叩きつけられた後、『スパイである俺の正体に気付いたか』とかワケわかんないこと言い出して背中から〝緑色の触手〟を何本も生やしたんです」

「「「「「えッ?」」」」」

 

 東城の説明を聞いてその場に居た九兵衛以外の全員が呆けた声を漏らし、その様子にまったく気付かない糸目は話を続ける。

 

「爪の先も鋭くなり、口元はまるで裂けたように大きく開き、歯が何本も鋭くなっていきました。その異形の姿を見て私はすぐに察知しました。若が危ない。私は思わずその変態した変態局員殿にドロップキックを浴びせ、そいつにありったけの拳をお見舞いしたのです」

 

 そこまで言って東城は開いた扉の見えない位置から何かを引っ張り出す。

 

「とは言え、さすがにボコボコにした挙句放って置くこともできなかったのでこうやって……」

 

 九兵衛が横へと下がり、東城が開いた扉の前に引っ張って来たのは話通りの姿をした怪物。体を変質させた人間の形を保った異形である。

 異形の服を掴みながら東城は真顔で告げる。

 

「医務室に運んできたワケです」

「「「「「…………」」」」」

 

 医療室に居た五人の目が完全に点になっている。

 そんな中、裂けた口元を大きく開けて白目向いてのびている異形へと新八は震える指を向ける。

 

「つ……つまり……と、東城さんはその怪物から九兵衛さんを護ってリンディさんとクロノくんに引き渡しに来た……と?」

「えッ? いや、新八くんは何を言っているのですか? この人はただの局員でしょう?」

「えッ? ……いや……えッ? 東城さんこそなに言って……」

「いや私はただ、コイツが可憐で見目麗しい若に欲情して触手で若のピーにピーしてピーをピーピーピーピーしようとしたと思ったから私がボコボコにしたってだけの話であり、つまり私が護った若のしょ――」

 

 言い終わる前に東城の胴に腕を回した九兵衛がバックドロップを炸裂させ、糸目の頭を地面へと叩きつける。

 東城は「ピィィィィ!!」と悲鳴を上げながら体を悶絶させながら昇天し、九兵衛は「コホン」と咳払いする。

 

「まァ、つまりだ。僕の不注意と東城のバカの勘違いで怪我をさせてしまった彼をここまで連れて来たと言うワケだ」

「…………」

 

 新八はポカーンとした表情で九兵衛と東城の話を聞いており、銀時も呆けた表情を浮かべながらも九兵衛へと震える声で話しかける。

 

「な、なァ……九兵衛……? お、お前もしかして……そいつがアースラの局員だとか思ってんの?」

「そうじゃないのか?」と九兵衛は頭を傾げる。「魔法の世界の住人はこうやって体を変形させる人間もいるんじゃないのか?」

「そんなワケないだろォォォォォ!!」

 

 ようやく話の流れが分かったのかクロノがシャウトする。

 

「いくら魔法の世界でもそんな360°化物な人間なんているワケないだろ!! 魔法が使えるだけで他の人間と大差ないんだ普通は!!」

「なにッ!? そうなのか!? なんと夢のない……」

 

 と九兵衛は驚きすぐさま少し残念そうな表情を浮かべ、クロノはツッコミ入れる。

 

「いやそっちの方こそ夢ないだろ!! むしろ悪夢だぞ!!」

「ちょッ ちょっと待ってください!」

 

 とここでリンディが汗を流しながら声を上げる。

 

「つまり、その方はもしかして――」

「――クリミナルの回しもんじゃね?」

 

 続くように告げた銀時の言葉を皮切りに全員の視線が気絶しているであろう異形の存在に向く。

 そしてやがてお互いの顔を見合った後に、

 

「確保ォォォォォォォ!!」

 

 クロノの張り裂けんばかりの声を合図にクリミナルのスパイと思わし存在に向かってその場に居た全員が捕縛しようと一斉に飛び掛かるのだった。

 

 

「えッ? …………マ?」

 

 まさかの展開にアルフはポカーンとした表情で思わず声を漏らす他なかった。

 


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