魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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銀時「そういやぁ、夏だよな今。無印の世界って今何月くらいなんだっけ?」

新八「5月~6月くらいだと思いますよ」

銀時「じゃあ時期的にも夏ネタとか平和な回とかやんねェのかね」

新八「そもそも本編の問題諸々が解決してませんからね?」



第四十五話:夫婦喧嘩は犬も食わないどころか見てて吐きそうになる

「こりゃ、骨が折れそうだ……」

 

 呑気な声で銀時は天と地が反対になった景色を眺めながら自身を廊下の扉ごと玄関扉まで吹っ飛ばした使い魔へと目を向ける。顔を俯かせながらゆっくり歩を進め、廊下に散らばるガラス片を踏みつけながら進んで行く。

 まさか一本背負いの感覚でここまで吹っ飛ばされるとは思っていなかった銀時。

 

「たく……無駄にパワフルだなおい……」

 

 と呟きながら上下逆転した体を立ち上がらせる。

 銀時は首をゴキゴキと鳴らしながら玄関に置いてあった靴を履けば、もう目の前にはアルフの姿。

 普段は銀時が見下ろす側であるのだが今は廊下と土間(どま)の段差によりアルフが見下ろす形になっている。

 冷たい眼差しを向けるてくるアルフは中々に迫力があるが、

 

「よォ、アルフ。随分元気そうじゃねェか。さっきまで死にそうな顔してたのによ」

 

 銀時はまったく気圧されず、普段と変わらず飄々としている。耳の穴をほじりながら声をかけるが、アルフは銀時の軽口に反応する様子はない。

 

「どけ」

 

 アルフはただ端的に要求を口にする。

 

「つうかよ、誰がなんの為に動けないお前おぶってこんなとこまで来たと思ってんだ。忘れ物取りに来たワケじゃねェんだぜ」

 

 銀時は高圧的な態度のアルフに対して平然とした顔で、小指についた耳クソを飛ばしながら告げる。

 

「あんな堅苦しい場所でもねェ。ましてや俺とお前意外に余計な奴が誰もいねェここなら、今のお前と腹割って話せると思ったんだけどな」

「知ったことじゃない。あたしはあんたに構ってる時間なんてないんだ。だから――」

 

 どけ、と再度通告してくるアルフの声にはだんだんとドスの色が濃くなっていく。拳にギリリと力が込められているのも銀時は見逃さない。

 アルフのあふれんばかりの怒気と殺意を感じながらも銀時は声音を崩さずに話しかける。

 

「じゃあなにか? 急いでフェイトのとこ行って復讐でも――」

「ッ!!」

 

 突如、銀時の左頬に感じたのは鋭い痛みと衝撃。

 すさまじい剛拳に視界はグラつき、唇は切れる。だが、銀時は左足を一歩だけ後ろに後退させるにとどまる。

 視線をアルフの顔へとむければ狼の使い魔は怒気と殺気がないまぜになった鋭い瞳をギロリと浴びせてくる。銀時はただジッとその視線を見つめる。

 

「それ以上ふざけたこと抜かすなら……カブっといくだけじゃすまないよ」

 

 普段、軽めの口調で言う口癖とはわけが違う。本気で殺す意志さへ感じさせるほどの威圧感がある。

 銀時はゆっくりと切れた唇から垂れる血を左手の甲拭う。

 

「……なるほどな。なんとなくわかってきた」

 

 血を混ぜた唾をペッと吐き出す。

 

「こりゃ、マジでおめェから話を聞いた方がよさそうだな」

「そうかい……」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフの目は据わり、両の手をゴキゴキと鳴らし始める。だが銀時は構わず口を開く。

 

「まずは話を聞け。あのな――」

 

 風を切る音と共にアルフの右の拳が銀時の顔面に向かって放たれる。

 バァン!! と凄まじい炸裂音が鳴るが、拳が当たったのは銀時の顔ではなく掌。

 アルフの剛拳を受け止めた銀時は口を開く。

 

「んなでっけェ耳頭にくっ付けるわりに、聞く耳持たねェってか……」

 

 語りかけようがもうアルフの口は開く気配がない。どうやら口ではなく拳でどかした方が早いと即決したらしい。

 我を失っていると言っても過言ではない狼をなだめる必要があると決めた銀時は、アルフの拳を受け止める手に力を籠める。

 

「いいぜ。うだうだ口で語るつもりがねェってんなら、拳で語った方が良さそうだ」

 

 銀時の言葉が終わると同時にアルフが空いた左の拳を振りかぶった瞬間、

 

「ちょっとォォォオオオオオオ!!」

 

 突如として奇声を上げながらパンチパーマのおばちゃん乱入。

 銀時とアルフがいるアパート一室の前までやって来たのはおばちゃんは興奮気味に捲し立てる。

 

「なにこれッ!? ちょッ!?」

 

 たぶん左右どちらかの隣の部屋に住む住人だろうおばちゃんが大きな破壊音に反応してやって来たようだ。

破壊された玄関扉を見ながら無駄に大声をまき散らすパンチパーマのおばちゃん。

 

「あんたたちちょっとどうしたのォォォオオ!?」

「あァ、すんません」銀時は飄々とした声。「いま、ちょっと取り込み中なので、要件なら後にしくれません? 別に大騒ぎすることのほどじゃないんで」

「いやいやいやいや!! どう考えてもただ事じゃないでしょ!! 大丈夫!? 怪我してない!?」

「いやいやいやいや。大したことないんで。気にしないでください」

 

 途中からアルフではなくおばさんと対峙しだす銀時。

 

「どこがァァァアアアアアア!! 玄関壊れてるじゃない!! あらやだ怖い!! これ絶対ドロボーでしょ!! 空き巣ね!! 空き巣なのねッ!!」

「うっせェェェババアァァァアアアア!! なんでもねェって言ってんだろうがァァァアアア!!」

「いやこわィィィイイイイイイイ!! もしかしてDV!! DV夫!!」

「誰がDVだコラァ!! DV(ダイナミックヴォイス)ババアに言われたかねェんだよ!!」

「いやァァァアアアア!! 殺されるわァァァアア!! 警察!! 警察呼ぶわ!!」

「すんまっせん!! 警察はマジ勘弁してください!! これ以上メンドーごと増えたらこっちもホント処理しきれないんで!!」

 

 銀時がパンチパーマおばさんとデカ声合戦しているのでアルフはすかさず銀時のどてっぱらに鉄拳をおみまいする。

 

「ンゴォ!?」

 

 しかも間髪入れず連続で腹パン連打する容赦のなさ。

 

「いやァァァァアア!! やっぱりDV!! DVだわ!! 警察!! 家庭裁判所!!」

 

 銀時は腹に痛みに耐えながら必死に弁明しだす。

 

「い、いやオベェ!! だなァァァ! グボェ!! ぼ、僕たゴゲェ!! ちィィィ! きょ、きょきょきょ今日オボォ!! ちょっと白熱しゲェェ!! たプレイをしてゴンェ!! ただけですってブベラァァァァァ! (訳:いや、僕たち今日はちょっと白熱したプレイしてただけです)」

 

 口から胃液と唾液を吐き出すだけでまったく気絶しないどころか作り笑いすら浮かべる銀時に業を煮やしたのか、今度は顔面に鉄拳をお見舞いしようとする。

 一方のおばさんは口元を両手で隠して騒ぎ出す。

 

「あらあらあらァ~!! まぁまぁまぁまぁ~!! そうなんですかァ!! あらやだ私ったらァ~!! 早とちりしちゃった感じかしらァァァ!!」

 

 なぜか言ってること理解できたおばさんが顔を赤くさせる中、銀時は腹を抑えながら必死に頭を上へ下へと移動させて拳を避ける。

 

「そ、そうなんですゥ!! ぼ、僕らのプレイィィ!! すぐに燃え上がっちゃってェェェェ!!」

 

 銀時は必死に頭がトマトのように砕けそうなくらい凄まじい剛拳を避け、時には腕でいなしながら必死にガードする。

 

「でも、なぜ玄関ドアが壊れているんですか?」

 

 おばさんのもっともな指摘に、銀時はアルフに髪を鷲掴みにされ何度も拳をドカドカ脳天にくらいながら必死に言いつくろう。

 

「そ、それわァァァ!! ほらアレェェェ!! 白熱し過ぎて脳が沸騰してアレになったのォォォォオオオッ!!」

「あらあらあらァ~!! まぁまぁまぁまぁ~!! 本当にお熱いのねェ~!!」

 

 おばさんはまたも口元覆って赤面。

 拳ではダメと判断としたのかアルフは人間の姿のままガブリと銀時の肩に思いっきり噛みつき、鮮血が飛び散る。

 

「これアレェェェエエエエ!! 俗にいうアマガミィィィイイイイイ!!」

 

 アマガミではなくガチガミなのだが、おばさんはまたも赤面。

 

「あらあらあらァ~!! まぁまぁまぁまぁ~!! マニアックなプレイがお好きなんですねぇ~!!」

 

 だがすぐに「あら?」と声を漏らす。

 

「でも旦那さんの背中にいっぱいガラス片が刺さってますが? それは一体?」

 

 吹っ飛ばされた時にガラスの破片がおもっくそ背中に刺さっていたが我慢していた銀時は叫ぶ。

 

「それはアレェェェェエエエエエエ!!」

 

 銀時は噛みつこうとするアルフの両肩を必死に押し返しながら、頭と肩と背中から血をダラダラ垂れ流す。

 

「ロウソクプレイ的なアレッ!! 背中に刺激受けると子供出来やすくなる超最新プレイ的なアレッッッ!!」

 

 銀時は右足を軸に体を半回転させながら力の限り両腕を振り絞り、

 

「だから心配しないでおばさんんんんんん!!」

 

 アルフは廊下の先にあるリビングまでぶん投げる。

 ぶっ飛ばされたアルフはソファに激突。そのままソファは後ろに勢いよく倒れ込む。

 

「だからおばさんは僕らの邪魔しないでください!! 今僕たち、子供を失うか失わないかの大事な瀬戸際なんで!!」

「わかったわッ!! 頑張って!!」

 

 おばさんの声援を受けながら銀時はアルフを吹っ飛ばしたリビングへと突撃していく。

 銀時の背中を見送ったおばさんは踵を返し、

 

「じゃあ、後は若い二人に任せて私は洗濯物を――」

 

 すぐさま自分の部屋へ向かおうとするのだが。

 ズドォン!! と後ろで響く凄まじい轟音に反応して、思わず後ろを振り向けば。

 

「ぬぎぎぎッ……!!」

 

 狼形態となったアルフに今にも頭を噛みつかれそうになっている銀時の姿があった。

 なんとか上顎と下顎を押しかえして抵抗している銀時を見ておばさんはビックリ仰天してしまい。

 

「お、おおおおおおお――!!」

「おっきい犬ですよねェェェェエエ!!」

 

 すかさず銀時がフォローの大声。

 

「えええええ!? でもそれどう見ても狼じゃない!! 警察!! 今度こそ警察に!! ウルフハンターッ!!」

「違います!! コイツは我が家のペット!! いえ、ファミリーですから!!」

「ええええええええ!? でも今襲われそうになって――!!」

「ちげェェェんだよ!! じゃれ合ってるだけなんだよッ!! 見れば分かんだろッ!!」

 

 と言いながら銀時はアルフに頭を思いっきり噛みつかれ、体を上へ下へとぶんぶん振り回されながら床や壁に叩きつけられる。もうとにかくなりふり構ってる余裕が無いので、気合で誤魔化そうとする。

 銀時は体が床に叩きつけられる直前に足を地面に付け、そのまま狼形態であるアルフの巨体を頭が噛まれたままの状態で持ち上げてしまう。

 

「うォォォらァァァアアアアア!!」

 

 オレンジの巨体を思いっきり投げ飛ばし、またリビングへとアルフを投げ入れるのだった。

 銀時は肩で息をしながら、グイっとおばさん顔を向け、ガシっと両肩を掴む。

 

「だからおばさんんんんん!! もうホントッ!! これ以上、家族の営みを邪魔しないでッ!! これ以上おばさんとあの剛力狼の相手してたら俺の体がもたないからッ!!」

 

 血走った眼で顔面血まみれにしながら頼み込む銀時を見ておばさんはぶんぶん頷くのだった。

 

 

 

 

 ――クソ……!! 

 

 リビングの床に背を付けて天井を見上げながらアルフは内心焦り、怒りと共に悪態を付く。

 

 ――クソ……!! クソッ……!!

 

 思い通りにいかない今の状況に強くは歯を軋ませ、ガン!! と拳を床に叩きつける。

 あまりの焦燥感に目の端から涙が出そうになり、目元を腕で覆う。

 

 ――こんなこと……してる暇ねぇんだよ!!

 

 あんな死んだ魚みたいな目をした男を相手にしている時間も暇も自分にはないのだ。だからこそ、殴ってでも噛みついてでもどかそうとしているのに。

 

 アルフはチラリと腕を上げて玄関口の方に視線を向ければ、さっきまでぎゃあぎゃあ知らないおばさんと口論していた銀時。さっきまでいたうるさいおばさんは追っ払ったようで今は一人だ。

 

 ――なんであんたは……!!

 

 銀時は頭から血を流しながら自分を見つめ、やがてゆっくりとこちらに向かおうと歩き出している。

 アルフはキッと腕の隙間から銀髪の男を睨み付ける。

 

 ――そこまであたしに構うんだ……!!

 

 一体なにがそこまであの天然パーマの男を突き動かすのか分からない。なにを思って目の前に立ちはだかっているいるのかは知りはしない。

 あの場面に遭遇していてあの天パが管理局の連中同様に〝今のフェイト〟の為に何かをしようとしているなんて思えない。

 だからこそ、本当にフェイトの事を思って動こうとしている者など自分だけのはずなのだ。

 

「くッ……!」

 

 改めて自身に残されている時間も猶予もないと考えるアルフは溢れ出た涙をすぐさま拭い去り、立ち上がる。

 そして扉の戸当たりを掴み、こちらにやって来る顔や方から血を流す銀時をアルフは睨みつける。

 

「どけよ……!」

「ワリィが、死に急いでる〝だけ〟のテメェをこのまま行かせるワケにはいかねェな」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは俯き、

 

「なにも分かってない奴が……」

 

 歯ぐきから血が出んばかりに強く歯を噛み締め、

 

「なんにも知らない奴が……」

 

 掴む戸当たりに亀裂が入り、

 

「勝手なこと言うなァァァ!!」

 

 アルフは吠え、銀時に向かって走り出す。

 冷静な判断も思考もまったくできないアルフ。

 

 ――もうあたししか……あたししかフェイトを〝救える〟奴はいないんだ……!!

 

 怒り任せに拳を振り上げるアルフはまるでフラッシュバックのようにあの時――フェイトが自身や銀時と決別した時の光景が思い起こされる。

 アースラのブリッジでフェイトに〝真意〟を告げられた時の事を……。

 

 

 そうそれは……フェイトがパラサイトに耳打ちされ、決意の表情を浮かべた後に自分が本物であると証明しようとした時――。

 

【――アルフ……聞こえてる……?】

 

 突如として繋がったフェイトと念話に主従の繋がり(リンク)

 

「ッ!? ……フェ……イト……?」

 

 いきなり出来事に本来念話で返答できることもできず、動揺したまま主の名前を呟いてしまう。

 

【アルフ……突然の事で混乱してるだろうけど、とにかくこの念話が誰にも悟られないように聞いて欲しい。できるだけ、念話で答えて。お願い】

 

 聞こえてくる優し気な、だが必死な感情が伝わる主の声。だが声以上にアルフには分かることがいくらでもある。フェイトの今置かれてる立場も気持ちも。

 なぜならリンクが繋がった時点でフェイトの感情が一気に流れ込んできたのだから……。

 

【……フェイト……やっぱり……連中に脅されて……!】

 

 主の悔しいという思いも、悲しいと思いも、怒りに震える思いも全て。どうしようもない感情を感じてしまいアルフは瞳を震わせ、唇を震わせながらも溢れてくる感情を必死に我慢する。主を思って出てくる涙を必死に押し殺す。

 アルフが自身の状況をおおまかにではあるが理解してくれた事にフェイトは嬉しそうな声で。

 

【ありがとう……アルフ。すぐわかってくれ……。でも、いつまで時間稼ぎができるか分からない。だからこれから言う事を聞いて――】

【どうして!!】

 

 思わずアルフは念話で怒鳴り、フェイトの話を遮ってしまう。

 

【アルフ……】

 

 少し悲しそうな声で自身の名前を呟く主にアルフは捲し立てるように声を荒げる。

 

【どうしてあの時フェイトはあたしを置いていったんだよ!! 銀時はともかく、あたしとは念話だってリンクだってあるんだ!! だから、連中に脅されて誰にも話せないなんて事ないだろ!! あんな連中の言いなりになってあんな事しなくたって!!】

 

 いつものフェイトだったと言う安堵感よりも湧いてきたのは怒り、そして焦燥感。まるで今までのショックで受けたダメージを発散させるかの如く、アルフは納得できない部分に異を唱え始める。

 いや、アルフは内心どこか察してしまっていた。なにせ、自分よりもずっと聡明な主があんな行動をしなくてはならなかったのか。どうしてなんの相談すらできずに一人去ってしまったのかも。

 

【いくらでも相談してくれれば!! どんな事になったってあたしはフェイトに付いて――!!】

【ダメだよ】

「ッ!?」

 

 優し気に諭すような口調ではっきりと告げる主の言葉にアルフは口を閉ざし、フェイトはゆっくりと優しく告げる。

 

【だって、これ以上わたしのわがままにアルフを巻き込めないよ。私がこれからしなきゃいけない事はたぶん、後戻りはできないことだから……】

 

 心配ないよと言いたげな困ったような声で優しく語り掛けてくるフェイトの声に涙がでそうになるアルフ。

 

【だから、ここでアルフとはもうお別れしなきゃダメなんだよ】

 

 一人でも大丈夫だと言いたげな声だが、アルフには分かってしまう。リンクによってフェイトの不安で苦しみに溢れた気持ちが。

 

【どうしてなんだよフェイト……!! どうしてそこまでして……!! 一体連中になにを――!!】

【母さんの……〝命〟】

【ッ!? やっぱり!!】

 

 フェイトがいつものフェイトである時点で予想はできていた。母親思いの主にあそこまでさせられる脅しの材料なんて、もう母親の生死くらいしかないのだから。

 

【彼ら、理由は分からないけどどうしても私を犯罪者にしたいみたい】

【なにがしたいんだよあいつら!!】

 

 どれだけフェイトを苦しめれば気が済むんだ!! と内心怒りを露にしてしまう。

 あの優しいフェイトがあんな母親だって絶対見捨てられない事は分かっている。自分が悪役になろうととも。それが分かっているからこそアルフは連中の卑劣な手口に歯を強く噛み締め、拳を握りしめる。

 だが怒ってもいられないアルフは冷静にある理由を聞く。

 

【……でも、それならなんでこうやってあたしと念話が、できたんだい? それにリンクまで……】

 

 用意周到にプレシアの偽の頭まで準備した連中が魔導師の通信手段である念話も使い魔とのつながりであるリンクも念頭に置いないほど阿呆だとさすがのアルフも思ってはいない。

 どうやっているかは知らないが、フェイトの念話の内容を傍受しているのだろうし。

 

【うん。彼らは私どころかアルフたちのことだってどこからか常に監視している。だから私がアルフにこうやって念話することだってできないはずだと思うよね?】

 

 そりゃそうだ。アルフが真実を知った暁には銀時どころか、果ては管理局に事情を話してフェイトを助けさせようとさせるかもしれないリスクを連中は背負うことになる。

 もうアルフには主の意志を無視してでも、それこそフェイトに恨まれたって本当のことを銀時だろうが管理局にだろうが打ち明けたいと言う思いが芽生え始めている。

 だがもし、

 

【だからね、私は必死に彼らを説得したの……】

 

 リンクの繋がった今の状態で、

 

【だって……いくら母さんの為でも……アルフを最後の最後まで傷つけるなんて……】

 

 フェイトの溢れんばかりの感情を受け止めたのなら……。

 

【でも…………ごめんね……アルフ……。調子のいいこと……言って……。本当に、ごめんね……。強引に別れる為でも……あんなこと……。さっきまで散々……傷つけて……。本当に……ごめんね……】

 

 嗚咽に紛れた涙声を聞くたびにアルフのさきほどまでの決意が揺らいでいく。フェイトの後悔の念と同時に伝わって来る決意を感じる度に。

 

【アルフだけには……〝本当の私〟で……最後に……お別れが……言いたいの……】

【いやだ……!!】

 

 念話と一緒に口からも『いやだ……!!』と言う言葉が漏れ出てしまう。

 

【フェイト! お願いだから……!! 頼むから……!! 帰ってきてよ……!!】

 

 今からでもいい。今からでもいいからこちらに側に戻って来ると決めてくれたのならば、すぐにでも事情を銀時にも管理局にも打ち明ける。

 そうすればフェイトだけは……。

 

「もう……いいから……!!」

 

 これ以上、傷ついてほしくない、背負ってほしくないと言わんばかりの声と言葉がアルフの口から洩れてしまい、思わず頭と耳を押さえつけてしまう。

 

【ダメ。……ちゃんと聞いて】

 

 言葉では冷たく、だが念話ではどこまで優しく語り掛ける少女。

 

【ごめんねアルフ。悲しいお別れだけど、最後まで聞いて】

【フェイト……! 一言いってよ! 助けて欲しいって! あたしに今からでもいる場所を教えてよ!! そしたら全員ぶっ飛ばしてプレシアだって助けてやるから!!】

【アルフ、わがまま言わないで。アルフだってわかってるよね? もう私やアルフだけじゃどうしようもないって。このまま彼らに反抗したら母さんの命も……〝私の命〟だってないってこと……】

 

 アルフは残酷な現実とフェイトの言葉に対して頭をぶんぶんと振る。

 ズルい主である。自分に無理にでも言う事を聞かせようと、普段なら口にしないセリフまで使って説得しようとしている。

 

【このまま彼らの言う事を聞いてうまくいけば、母さんの命だって助かる。それに私の命も。まぁ……これからはとっても悪い犯罪者ってことになっちゃうだろうけど】

 

 最後のセリフなんかは困ったような声で軽めに言うフェイトにアルフは余計に辛さを覚えてしまう。

 いや、そもそもこの事件が終わったらフェイトだってどうなるか分からない。それこそプレシアだって。だがしかし、結局母の命が握られている以上はフェイトがどうこうできる立場ではないことくらいアルフも既に分かっているのだ。

 

「もう……いいんだって……!!」

 

 苦しまなくていい! 無理しなくていい! と続く言葉を押し殺しながらもアルフは涙を流し、頭に付いた耳を抑え付ける。これ以上別れの言葉を聞きたくない、先に進みたくないと思いながらも。

 

【あのね、アルフ。アルフはさ、母さんのこと酷い母親だって言うけど、私にとってはかけがえのない家族で、大切な人なの】

「やめてくれ……!!」

 

 愛しそうに母の事を語るフェイトの言葉を遮ろうとするアルフは既に、念話で返答することさへ満足にできないでいる。

 

【だから母さんの命は絶対に守りたい】

 

 譲れない決意が伝わってくる。

 アルフは涙を流し、前髪を掻きあがるように両手で頭を抑える。

 

【最後の最後まで母さんのこと、アルフに分かってもらえなかったのは残念だけどね】

 

 少し困ったような軽めの口調でフェイトは告げる。

 

【もう、時間も稼げそうなにない、かな? 本当にこれで最後。もう私はアルフの前で本当の自分になることもできないね】

 

 徐々に別れの時間が迫っていることに対してアルフは嗚咽を漏らし、指に自然と力が入る。

 フェイトの昔話は終わり、銀時に問い詰められ始めている。

 

【銀時って、意外に怖いね。思わず決意が揺らいじゃいそう……】

 

 ――お願いだから揺らいでよ……。

 

 使い魔の儚い願いも届きはしない。

 

【だから〝最後〟にアルフに聞いてほしい】

 

 フェイトは今までに聞いた事のないくらい優し気な声で、

 

【私はね、母さんのことが大事。でも、それと同じくらいアルフは私にとって――】

 

 フェイトが口で、そして念話で最後の言葉を告げる。

 

『…………もう、今の私にアルフは必要ない』

 

【大事な――〝家族〟だよ】

 

 その言葉を聞いてついにアルフは膝から崩れ落ち、顔を抑えながら頭を下げ、涙が流し続ける。

 そんなアルフの姿を見ながらも、フェイトは言葉を続ける。

 

【だからアルフは最後まで生きて。主を変えてでも、どんなモノに頼ってでも。どんなことをしても。私がアルフに願うのは、最後まで幸せに生きて欲しいってこと】

 

 自分を思う、主の切な願いを感じ取りながら、アルフはフェイトの念話を聞き続ける。

 

【そして、これから起こることは最後まで、ただ黙って聞いてほしい。私と母さんの為にも】

 

 お願い、と言う言葉を最後にフェイトは念話もリンクも完全に切ってしまうのだった。

 もうアルフは我慢できず頭を抑えながら地面に額をこすりつけるほど蹲る。

 

 優しい主としての、家族としてのフェイトの言葉を聞いたアルフ。

 

 ――なぁ、フェイト……。

 

 画面ではパラサイトがなにやらフェイトの犯行動機だとか出生だとかについて語っている。だが、もう今の自分にはそんなことはどうでもいいことだった。

 

 ――あんたがさ、あたしのこと大事な家族だって、幸せに生きて欲しいって言うんならさ……。

 

 アルフの中ではふつふつとどうやっても抑えきれない衝動が沸き上がり、渦を巻く。

 

 ――あたしだってあんたと思いは同じなんだよ?

 

 もうフェイトが何者であるだとかそんなことはどうでもいい。

 とにかくフェイトに遭う。それから自分の全身全霊を使って奴らからフェイトを救い出す。フェイトになんと思われようとも関係ない。

 なにがなんでも(かぞく)の元へと行かねばならない。

 だからこそ、

 

 ――あたしもさ、あんたに幸せになってほしいから……。

 

 アルフは決意と共に自身の邪魔をする銀髪へと拳を振るうのだった。

 


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