魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第四十二話:黒幕

「フェイトさんからの通信というのは!」

 

 険しい表情を作りながらブリッジに入るリンディ。

 そして彼女の後ろからぞろぞろ入って来るのは江戸組と魔法少女組。各々が思い思いの表情を作っていた。

 

「フェイトォーッ!!」

 

 いの一番に主の名を叫んだのはアルフ。まだショックが抜けきれないはずであるのに、彼女の心はまだ主に向いていたのだ。

 そしてブリッジのモニターに映っていたのは、

 

『よォ、久しぶりだな』

 

 まったく知らない男だった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 それを見たブリッジにやって来た全員(アルフを抜いた)の視線がジト目へと変わる。

 

『ククク。どうやら俺の登場に声も出な――』

 

 男の言葉を聞かずアルフを抜いた全員がブリッジから出ようと180度方向転換。

 

『まてまてまてまてまて!!』

 

 この小説で一回も顔を出したことない男が全員を引き止める。

 

『なに平然と帰ろうとしてんだ!! 普通ここは〝お前は誰だ!?〟的な反応をするとこだろ!!』

「いや、僕たちフェイトちゃんからの通信があると聞いて来たので――」

「おめぇみてぇなおっさんに用はねェんだヨ」

 

 ジト目の新八と神楽がバッサリ返す。

 

『誰がおっさんだ!! まだ体は二十歳なんですけど!!』

 

 謎の男は憤慨。とはいえ、新八と神楽の態度も仕方のないことだろう。

 すると呆れ顔のリンディは、通信を受け持っている局員に顔を向ける。

 

「これはどう言うことですか? 新八さんと神楽さんの言うとおり、私たちは『フェイト』さんからの通信と聞いて急いでここまできたんですよ」

 

 さすがに見知らぬ男が通信してきたら艦長であるリンディも出張るところではあるだろう。が、前もって『フェイトが通信してきた』と聞かされているのだ。

 なのに出てきたのは新八や山崎とは別の意味で特に特徴のない日本人風の男。どう言いつくろったところで肩透かしには変わりない。

 

 局員は少々戸惑いながら口を開く。

 

「い、いえ……それが……。通信に出ている男が『フェイト・テスタロッサの仲間』だと言いましたので」

「フェイトちゃん、の……」

 

 呟くなのはに続くように、アルフも信じられないといった顔で口を開く。

 

「…………仲間?」

 

 局員の言葉を聴いて江戸組も魔法少女組も顔を見合わせて戸惑い顔だ。

 

「おい、適当なこと言ってんじゃないネ!」

 

 いの一番に声を上げたのは神楽。

 

「なんでお前みたいなむさ苦しい男とフェイトが仲間なんだヨ!」

 

 神楽の意見はもっともだ。この男とフェイトが仲間であるという言葉を真に受けるほど彼らもさすがに馬鹿でも単純でもない。

 すると謎の男はケタケタと笑い声を漏らす。

 

『まぁ、そういう前情報があるならお前らの反応も仕方ねェか。だが、本当だ。俺は〝フェイト・テスタロッサの仲間〟としておたくらに通信してんだぜ?』

「証拠はあんのか?」

 

 銀時が鋭い視線を男に向ける。

 

『ククク……こいつを見てみな』

 

 男が体を横へと少しどかし、背景が見えるようにした。するとそこに写っていたのは一人の女性。

 

『あら、ようやく私の出番のようね』

 

 露出の多いドレスを着こなし、血色の悪い顔。手には仰々しい杖を手に持って立っているプレシア・テスタロッサが登場したのだ。

 

「ぷ……プレシア……!」

 

 女性の顔を見て身を見開くアルフ。

 

『あら、久しぶりねアルフ。随分元気がないようだけど、フェイトと〝喧嘩〟でもしたかしら?』

 

 ニヤリと笑うプレシアの表情と言葉を聞いた途端、

 

「プレシアァァァァァァッ!!」

 

 アルフは叫び、モニターに噛みつかんばかりに前に出る。

 

「おい落ち着け」

 

 さすがに見かねた銀時がアルフを羽交い絞めして止めに入る。だがアルフは気にも止めず、銀時の拘束を振りほどかんとする勢いで暴れていた。

 

『あらあら。随分と好意的じゃない、アルフ』

 

 プレシアはニヤリと笑みを浮かべたまま軽口を叩く。

 

「あんたか!!」

 

 アルフは涙を流しながら憎しみと怒りを込めた眼光をプレシアに向ける。

 

「あんたがフェイトに〝あんなこと〟を言わせたのかァァァァァァッ!!」

『あら、なんのことかしら? 記憶にないわね』

 

 とプレシアは露骨に首を傾げた。

 

「プレシアァァァァァァァッ!!」

 

 アルフは喉が張り裂けんばかりに憎々しい相手の名を叫ぶ。

 フェイトが自分を切り捨てた原因はプレシアにあると考えたのだろう。いや、それ以外考えられないと言っていいかもしれない。

 

 リンディが一歩前に出て口を開く。

 

「プレシア・テスタロッサ、あなたも随分と良い性格をしていますね」

 

 皮肉を込めた言葉を受けたプレシアはあっけらかんとした態度。

 

『あら、私はただ娘の使い魔と楽しくお喋りしていただけよ?』

「そうですか」

 

 そう返したリンディがチラリと視線を向けた先はアルフ。使い魔はプレシアの名を叫びながら暴れまくっている。

 アルフの反応からプレシア・テスタロッサ――フェイトの母である彼女の人間性を考えているのだろう。

 リンディは再びモニターへと視線を戻す。

 

「今回のジュエルシードを巡る事件。あなたが首謀者――つまり黒幕であることは既に銀時さんから説明を受けています」

『あら? 依頼を放棄するつもり、坂田銀時。それにあなたは守秘義務すら守れない人間のようね』

 

 プレシアは銀時に鋭い眼光を向ける。

 銀時はアルフを抑えながら「けッ……!」と吐き捨てる。

 

自分(テメェ)の娘使って切り捨てといて何言ってやがる」

「あなたは一体なにを目的として、幼い娘に危険なロストロギアの回収をさせていたのですか?」

 

 毅然としたリンディの質問にプレシアは不敵な笑みを浮かべた。

 

『私の目的は――』

 

 すると突如として画面がガクッと下に落ち、写っていた映像の視点がズレてしまう。それと同時にデカイチ○コのような物が見える――そう、〝プレシアの股間〟から。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 それを見て、その場にいた者たちは絶句し、白目。

 

『――約束の地、〝アルハザード〟に行くこと!!』

 

 とプレシアがかなり事件の核心に触れる部分を宣言した。

 だが、画面に映っているのは彼女の狂った顔ではなく下半身――そして彼女の股間から生えたデカイ棒のようなモノ。映像にすればモザイク処理がいりそうなナニか。

 

 ――…………え? ……なにあれ?

 

 さすがの銀時も目を点にする。画面に映るのは大根くらいありそうなデカイナニか。

 

 ――つうか…………なに? ……え? …………ナニじゃね? アレ?

 

 まさかの巨大チ○コが登場――しかも女性の股間から生えているのだから思考停止しても仕方ない。

 

『…………あら? なんか何も反応が返ってこないわよ?』

 

 画面の向こうのプレシアが不思議そうな声を出す。

 

 ――なにこれ? ……なんでチ○コが喋ってんの?

 

 もう銀時にはチ○コがプレシアでプレシアがチ○コなのか分からなくなってきていた。

 すると画面に映ったチ○コが横に向き、その長さを見せ付ける。

 

『ちょっと。決め台詞の時にカメラが下がっちゃったわよ』

 

 すると画面外から、忍者が履くような裾が詰まった袴と黒い足袋を履いた足が姿を見せた。ぎりぎりチ○コに当たらない距離を保ちながら。

 

『ええそう。直して頂戴』

 

 ぶんぶんと首っつうか、チ○コが縦に震える。すると画面がブレだし、焦点が上へと持ち上がり始めた。

 そしてプレシアの上半身――胸と顔の部分が写る。

 

『まったく……話の腰が折れてしまったわね』

 

 ため息を吐いたプレシアは、コホンと息を吐く。そして再びニヤリと狂った笑顔を浮かべる。

 

『私の目的は約束の地アルハ――』

「「いや、ちょっと待てェェェェェェェッ!!」」

 

 シャウトしたのは新八と銀時。

 

『ちょっと。邪魔しないでくれるかしら? こっちはキメ台詞の途中なのよ?』

 

 とプレシアは不服そうな表情。対して、銀時ビシッとプレシアを指さす。

 

「いや、おかしい!! キメ台詞とかお前が言っちゃう以前に相当おかしいモノが画面に映った!!」

「なんであんたの股間にバベルの塔が生えてんですか!! 貞子かあんたは!!」

 

 新八のツッコミを聞いてプレシアはやれやれと首を横に振る。

 

『まったく。そんな細かいことはどうでもいいでしょう』

「細かくねぇよ!! 寧ろデカかったぞ!!」

 

 と銀時。

 

『あら? コレのことかしら?』

 

 するとプレシアはブチリと何かを引きちぎり、手にチ○コを持って見せ付けた。

 

「「取ったァァァァァァァッ!?」」

 

 新八と銀時はまさかの行動に口をあんぐり。対して、プレシアはあっけらかんとした顔。

 

『あら知らなかったのかしら? 魔導師は大魔導師にランクアップすると股間にデカイナニが生えるのよ』

「そ、そうなのクロノくん!?」

 

 となのはは驚愕の表情。

 

「んなワケあるかぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 クロノは青筋浮かべて怒鳴り返す。

 

『ちょっとフレームを小さくして頂戴』

 

 プレシアに言われ何者かが操作し、画面のフレームが小さくなるとプレシアの全体像が写りだす。

 

『ちなみに何度でも生やすことができるわ』

 

 そうプレシアが言った後、彼女の股間からにょきっと新たなデカイチ○コが出現。

 

「「生えたァァァァァァァァッ!?」」

 

 新八と銀時はまさかの光景に絶叫。

 次にプレシアは腰に手を回し、チンコを虹色に光らせる。

 

『そしてここから魔法を発射することもでき――!!』

『なにやってんだテメェはァーッ!!』

 

 すると謎の男がプレシアの顔面を思いっきりぶん殴る。

 

「「殴られたァァァァァァァッ!」」

 

 もうただ叫びたいだけじゃね? という感じの新八と銀時は放っておき、画面では信じられないことが起きた。

 なんとプレシアの体が縮め始めたではないか。いや、服も何もかもが変化し、ドレスは白いワンピースに、肌は浅黒くなり、髪は白髪へと変色していく。

 そして姿がまるで違うモノになったプレシアは、

 

『ちょっと痛いじゃない!! 頬をぶん殴ることないでしょ!!』

 

 なんとフェイトと同じくらいの背丈に、白髪で浅黒い肌をし、白いワンピースを着た少女へと変化。

 涙目で怒る浅黒い肌の少女の言葉に謎の男が怒鳴り声を上げる。

 

『うるせェーッ!! フェイトが報告してきた時もそうだったが、ちゃんとプレシア演じろよ!! なんでSMプレイ強調させてんだ!! なんで股間からイチモツ生えてんだァァァァァァァァッ!!』

『別にいいじゃない!! だってコミケの薄い漫画で女の人にチ○コが生えた奴再現したかったんだもん!!』

 

 と薄いエロ漫画を両手に持つ白髪の少女。

 謎の男は怒鳴る。

 

『〝もん〟じゃねぇよ!! なにかわいい感じでどキツイ事言ってんだテメェは!! まじめにやれ!!』

 

 怒鳴りツッコミした謎の男は、画面に顔を向けた。

 

『いやーすんませんね。こいつほんとアドリブばっかでまじめに演技しないアホなんですよ』

 

 などと恭しく言う謎の男。

 もうブリッジにいる全員、今画面の向こうで何が起こっているのか理解できないのか絶句している始末だ。

 謎の男は人差し指立てる。

 

『だから、もう一回いきます! TAKE2いくんで、よろしくお願いします』

 

 そう言って頭を下げる謎の男は後ろで棒立ちしている少女にキッと鋭い目を向けた。

 

『ほら。お前もちゃんと誠意見せて謝んなさい』

『は~い、ごめんなさい』

 

 浅黒い肌の少女は前に出てあんまり誠意の見えない態度で頭を下げる。

 謎の男はぱんぱんと手を叩く。

 

『よし。TAKE2。〝プレシア目的暴露〟だ。準備しろ~』

『は~い』

 

 浅黒い少女は手を上げて返事をし、体も服装もプレシアの姿に完璧に変身。

 

『じゃ、目的発表のとこから』

 

 白髪少女が変身したプレシアは頷き、両手を広げた。

 

『私の目的はアルハザードに――』

「いや、ちょっと待てェェェェェェェェェッ!!」

 

 そこでようやく新八がシャウトし、ビシッと指を向ける。

 

「なにさっきまでのやり取りなかった感じに話進めようとしてんだ!! 今の見せられて話進むわけねェだろ!!」

 

 顔に青筋浮かべてツッコミ炸裂させる眼鏡。

 

『………………』

 

 すると謎の少女はプレシアからまた元の浅黒い肌の白髪少女の姿へと戻った。

 

「あんたらは一体なんなんだ!! 何でプレシアさんに変身してんだ!! フェイトちゃんはどこいった!! あんたらの目的なんなんだァァァァァァァァッ!!」

 

 抱えてる疑問を発散させるかの如く新八は声を張り上げる。

 新八の叫びを聞いてリンディも我に返ったのか、画面に映る謎の人物たちに顔を向けた。

 

「あなたたちは一体何者ですか? プレシアさんに変身したその能力……その能力を使ってあなた方はフェイトさんとプレシアさんに罪を着せようとしているだけではありませんか?」

 

 一見すると完全にアホの垂れ流しみたいな映像だった。が、今回の事件に関わってきた者たちの情報と今の映像から彼らの目的を憶測しているであろうリンディは言葉を続ける。

 

「あなた方の目的はジュエルシード。そしてその能力を使いなんの罪もないプレシアさんとフェイトさんに罪を被せる。それがあなた方の描いた筋書きでは?」

 

 少々強引な推理を聞いた土方は、なるほどな、といった顔。リンディが奴らから情報を引き出そうとしているのが分かったのだろう。

 なぜ正体をバラすミスを犯したかはともかくとしてだ。強引でもいい、彼らの罪を問うことで何らかの有力な情報を口から滑らせるつもりに違いない。

 

「テメェらまさか……」

 

 そこで銀時はあることに気づく。

 

「最初からプレシアに化けてやがったのか? そんでフェイトを利用してたんじゃねェのか? プレシアはどこかに監禁して」

「答えろ!!」

 

 続けてアルフが怒鳴り声を上げながら問い詰める。

 

「あんたらが黒幕なのか!! あんたらがフェイトを騙してジュエルシード集めさせて、あの子を悪者に仕立て上げようとしたのか!!」

 

 射殺さんばかりに画面の向こうの者達を睨み付けるアルフは、より一層悲痛な声で叫ぶ。

 

「答えろォォォーッ!!」

 

 アルフの必死な思いが伝わってくる。プレシアにしろ、謎の者達にしろ、フェイトが自分を捨てていった『仕方のない理由』を探しているのだ。だから縋り付くように悪者を探しているに違いない。

 

『プッ……』

 

 噴出す白髪の少女。

 

『ククク……アハハハ……!』

 

 謎の男もケタケタと笑い声を漏らし始める。

 

『『アハハハハハハハハハッ!!』』

 

 そしてついに二人は腹を抱えながら笑い出す。

 

「なにがおかしい!!」

 

 アルフは人を小ばかにしたように笑い声を上げる二人を睨み付ける。

 一通り笑い声を上げた後、

 

『全然ちげぇよ狼が!!』

 

 謎の男は吐き捨てるように言う。浅黒い少女も続く。

 

『私たちがホントに黒幕か何かだとでも思ってんの? ププ……勘違いもいいとこね』

 

 浅黒い肌の少女もワザとらしい笑い声を出して嘲笑。そして謎の男は耳の穴を穿る。

 

『あ~あ、やだやだ。これだから捨て犬――いや、捨て狼は。主に捨てられといて、ま~だ自分の現実に向き合いないでいやがるんだからな』

 

 それを聞いてアルフの瞳孔が開き、

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁーーッ!!」

 

 張り裂けんばかりの声を張り上げた。対して、謎の男はニヤニヤと耳くそ眺める。

 

『あ~あ。おたくの主に聞いてた通り聞き分けのなってない犬だなァ。事実を否定したって虚しいだけなのに』

「口から出まかせ言うな!! 殺されたいのか!!」

 

 アルフは今にも喉笛を噛み切ってやると言わんばかりに映像の相手を威嚇。だが相手は映像の向こう。彼女にはただ怒声を浴びせることしかできない。

 

『俺は最初に言ったと思うんだけどなぁ……〝フェイト・テスタロッサから通信です〟って』

 

 謎の男のねっとりとした声。それを聞いてアルフの動きが止まる。

 

「あんた……なに言って……」

『なぁ、ご主人様さん』

 

 男が一歩引き、現れる人物――。

 

「ふぇ……」

 

 その姿を見てなのはが声を漏らし、

 

「フェイトォォォォォッ!!」

 

 アルフがありったけの声で自身の主の名を叫ぶ。

 示し合わせたかのように現れた私服姿のフェイトは片腕に手で握り、視線を逸らしながら現れる。

 一歩一歩、ゆっくりと前に現れるフェイト。

 

『では紹介しましょう! この方こそ、俺達の依頼主!』

 

 謎の男は手を上げて軽快に言えば、

 

『フェイト・テスタロッサちゃんで~す!』

 

 白髪の少女はぱちぱちと拍手。

 そして謎の男はフェイトの首に腕を回す。

 

『このフェイトちゃんならぬフェイトさんこそが、俺らの依頼人その人なのです』

「依頼人だと?」

 

 土方は相手の態度にイラつきを見せながら眼光が鋭くした。

 

『ジュエルシード回収のお手伝いの依頼ってこと。実はあんたらがジュエルシードをちゃ~ん回収できるように見張っていたのよね』

 

 白髪の少女が順番に指差すのは、銀時とアルフ。

 

『まぁ、そこの銀髪は役に立たなそうだから消すつもりだったけどな』

 

 謎の男はあっけらかんとした表情で銀時を指差す。

 

『折角の依頼なのに余計な奴のせいでプラン崩されたくないしね』

 

 白髪の少女はやれやれといった表情をし、謎の男はフェイトの両肩に手を置く。

 

『まぁ、依頼主殿が必要ないと言ってくれたんで俺らも渋々銀髪抹殺は取りやめたんだがな』

『そうそう』

 

 白髪の少女は相槌を打つ。

 

「あなた方は何者なのですか?」

 

 その場の誰もが思っているだろう疑問をリンディが問いかける。

 

『まさか……俺らが正体バラすとあんた本気で思ってんのか?』

 

 謎の男が目を鋭くさせるが、リンディは怯まない。

 

「なら何故通信まで使って正体を現したんですか? それはあなた方が自分達を私たちに教えるという考えの表れでは?」

 

 すると謎の男は目を瞑り、頭をぼりぼり掻く。そしてやがて目を開き、低い声を出す。

 

『おたくら……〝クリミナル〟ってご存知?』

「くりみなる……?」

 

 新八は謎の単語に疑問符を浮かべ、リンディが答えを言う。

 

「クリミナルとは……『傭兵集団クリミナル』のことですか?」

『正解』

 

 ニヤリと笑みを浮かべるクリミナルと呼ばれる組織のメンバーの男。

 

「リンディ殿。そのくりなんたらとは?」

 

 近藤の疑問にクロノが答える。

 

「通称――傭兵集団クリミナル。報酬さへ出せば、殺人、強奪、戦争、なんでもする連中だ」

「管理局でも犯罪集団として最近注視され始めてきた一団です」

 

 とリンディが言葉を付け足す。

 

『おいおい、犯罪集団はないだろ』

 

 やれやれと首を振るクリミナルの男に続いて、隣の少女が首を縦に振る。

 

『ええそうね。クリミナルはただ依頼人のご期待に答えてるだけなんだから』

「ふざけるな! 金の為に犯罪を起こすなど、言語道断だ!!」

 

 正義感の強い執務官がここ一番に声を上げた。だが一方で、リンディは冷静な態度を崩さない。

 

「管理局に名を知られているとはいえ、なぜここまで公に姿を公表したのですか? 管理局が怖くないと?」

 

 リンディの問いに不敵に笑うクリミナルの男。

 

『寧ろ怖がる要素がどこにあると?』

「なッ……」

 

 クロノは相手の回答を聞いてありえないとばかりに声を漏らした。管理局を巨大な公的組織として認識している彼にしてみれば意外な返答だったのだろう。

 白髪の少女は目を瞑り、語る。

 

『人材不足が慢性的で、基本的な魔導師はCランク~Bランクがざら』

 

 続けて謎の男が口を開く。

 

『ちょっと魔法が使える程度の人間風情しか集まってない集団に、俺らをどうこうできると思えんしな』

 

 ケタケタと笑いながら言うクリミナルのメンバー二人。

 対して、クロノが不敵な笑みを浮かべる。

 

「そう思うならそう思うがいい。その考えが君達の命取りになるかもしれないからね」

『ああそう』

 

 クリミナルの少女は興味なさ気に髪を弄りだす。

 リンディは視線を鋭くさせた。

 

「それで、私の疑問には答えてくれるんですか?」

(はく)だよ』

 

 クリミナルの男の即答を聞いてリンディは顎に手を当てて思案する。

 

(はく)……ですか。なるほど……随分イカレた方達のようですね」

 

 リンディの言葉の意図に気付いたであろうクロノは荒げ気味の声を出す。

 

「管理局が君たちの評判稼ぎの踏み台になると思っているのか!!」

『人間風情がデカイ口叩くな』

 

 冷たい声音を出し、クリミナルの男は首を傾ける。

 

『まさか魔法が使える程度の人間しかいない脆弱な組織の連中を俺らが捻じ伏せられないと?』

『ま、せいぜい頑張りなさい。あんたらが頑張ったら頑張った分だけ、倒せば私たちの名が売れるんだし』

 

 白髪の少女はニコニコしながら言う。

 

「さっきから聞いてりゃあ人間風情とよ。まるでテメェら人間じゃねェみてぇじゃねェか」

 

 と言って銀時はクリミナルの二人を睨み付けた。

 すると突如、銀時たちにとっては信じられない物が映像に映し出される。

 

『あたしはトランス』

 

 トランスと名乗った白髪で浅黒い肌の少女は自身の指を一メートルほど長く伸ばし、

 

『キシャァァァァァッ!!』

 

 隣の男の頭が垂れたと思ったら、その後頭部の真ん中の頭皮が左右にパカっと開く。そして蜘蛛の頭にピラニアの顔が付いたような肌色の奇怪な生物が出てくる。

 

『こいつはパラサイト』

 

 キシャァァァァッ!! と叫ぶ生物をトランスは親指で指し、彼の変わりに名前を告げた。

 

「な、なにあれ!?」

 

 アリサはパラサイトを見て腕を抱いて嫌悪感を露にしていた。

 

「………………」

 

 すずかは口を押さえ、目の前に光景に呆然としている。

 

「ひ、土方さん!! もしかしてあれが――!!」

 

 一方、新八はパラサイトの方を見てすぐに何かを察したようだ。

 

「ああ、間違いねぇ。屋上で俺達が追い詰めたあのバケモンだ」

 

 これでやっと土方たちを影からこそこそ見ていた連中の正体と目的がはっきりした。奴らこそが今回の事件で暗躍していた者達の正体なのだ。

 

「クリミナルのメンバーのほとんどが人間ではないという情報だったが……」

 

 画面の光景にクロノも唖然とし、リンディも汗を流す。

 

「どうやらこれではっきりしましたね。クリミナルは知能を持った人外生物の集団」

 

 するといつの間にかまた『本体』であろう虫を頭に戻したパラサイトが不適な笑みを浮かべる。

 

『はッ! そう言うことだ管理局員共! てめぇらの脆弱な魔法じゃ俺たち倒すことはおろか、捕まえることなんざできはしない!!』

 

 クロノは眼光を強め、声を上げる。

 

「ふざけるな!! 人間をなめ――!!」

「人間を舐めん方がいいぞ物の怪共」

 

 そう言ったのは近藤勲。彼はクロノの横に並び執務官の肩を叩く。

 クロノは「近藤さん?」と不思議そうに彼の顔を見つめ、真選組局長はそんな少年に不敵な笑み浮かべてから画面に顔を向ける。

 

「法を遵守する人間を――安寧に暮らす人々を守ろうとする者達の底力を舐めない方がいい」

 

 そう言う近藤の視線には強い芯が感じられた。

 

「近藤さん……」

 

 嬉しそうに声を出すクロノ。

 クロノも仕事柄管理局員と言うことで煙たがれたりすることもあったのだろう。だがそれでも強い正義感を持って法の裁きを下してきたに違いない。

 そしてまた、真選組局長である近藤勲も同じ法を守り、人々を守る組織の一員。そんな彼の心強い言葉に感銘を受けているようである。

 

『…………』

 

 近藤を見たパラサイトは目をぱちくりさせ、トランスに顔を向ける。

 

『おい、ゴリラに説教されちゃったんだけど俺』

「ゴリラじゃないから!! 俺人間だから!! 真選組局長だから!!」

 

 近藤はこの流れからのゴリラ扱いに涙目で訴える。対して、パラサイトは引き気味。

 

『うっわ、やっべー……。ゴリラが人間の言葉喋ってんぞ』

『ねぇ怪人ゴリラさん。私たちの仲間にならない? 一緒に人間共を駆逐しましょ?』

 

 笑顔で勧誘するトランスの言葉に近藤は必死に弁明しだす。

 

「怪人ゴリラってなに!? 俺ゴリラっぽいかもしれないけど列記としたホモサピエンスだから!! ヒューマンだから!! この流れからゴリラ扱いとか酷くない!? 折角キメ台詞まで言ったのに!!」

 

 落ち込む近藤の肩をポンと叩く神楽。すると近藤は嬉しそうに少女に顔を向け、チャイナ娘は笑顔で。

 

「元気だすネ。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」

「うわァァァァァんッ!!」

 

 近藤は泣き崩れる。

 

「泣かすなァーッ!!」

 

 と土方が怒鳴り、ツッコミ開始。

 

「数少ない活躍シーンからどんだけ人のこと落とせば気が済むんだよお前!! この人原作でも活躍シーンあんまないんだぞ!!」

「トシィーッ!! 俺、原作でも結構活躍してるよォーッ!!」

 

 近藤はおいおい泣く。

 

「あ、ごめん……」

 

 上司を泣かした失言に汗を流す土方。

 軌道修正しようとしてかリンディが「こほん!」と咳払い。

 

「私にはまだ腑に落ちない点があります」

『へぇ~……』

 

 パラサイトは目を細め、リンディは問いかける。

 

「何故〝今〟になって自分達の正体を現したのですか? 最初からあなた方が行動すれば済む話ではないのですか?」

『まぁ、ごもっともな疑問だ』

 

 ポリポリと頭を搔きながらパラサイトは言う。

 

『変わったんだよ……依頼人が。だから途中から俺らも参加で管理局出し抜くプランに変更したわけ』

「誰から誰に?」

 

 リンディの問いにパラサイトはニヤリと笑みを浮かべ、フェイトに指を向ける。

 

『今の依頼人がこいつ。そんで――』

 

 後ろに目を向けるパラサイト。すると後ろから鉤爪を手に装着し、口元を襟で隠し、黒いポニーテールの女忍者やって来る。その手には布を被せた丸い物があった。

 その見覚えのるあるくノ一の姿を見て土方の目が見開かれる。

 

「あいつは……!」

 

 土方や沖田の話から出て来た女忍者なのだろう。そして奴らの仲間の一人と言う事だ。

 パラサイトが女忍者が手に持った布に手をかける。

 

『こいつが前の依頼人だ』

 

 布が取り払われ、中にある物が映し出された。

 それを見て、艦長室にいる者達の表情が凍りつく。

 なにせそれは――。

 

『プレシア・テスタロッサ。俺達に〝最初〟に依頼した女だ』

 

 目を瞑り、安らかな表情を浮かべた――プレシアの頭だった。

 

 

 


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