魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

41 / 79
やっとpixiv版と同じ話数まで投稿する事ができましたので、今回から投稿頻度は遅くなります。


第三十八話:人数増えても連携取れなきゃ烏合の衆

 時刻は夜。

 

 海鳴市町内のビルの屋上に立つ一つの影。

 空を暗雲が覆い、月光が影の姿を隠す。

 体をローブで覆い、頭はフードを被って全身を隠す影。だが、フードの中から覗くその赤く光る両目は、緑色の鉄網の向こうから眼下に広がる海鳴市の街並みをジッと眺めていた。

 すると影の後ろから声が聞こえてくる。

 

「――あァ、いたいた」

 

 影がゆっくりと振り向けば、そこには黒髪を逆立たせた目つきの悪い男が立っていた。

 影は見知らぬ男を見て目を細めると、ゆっくりと指先が尖った右手を前へとかざし、黒い魔力球を生成。

 

「……なにものだ?」

 

 魔力の弾丸を向けられた男は両手を上げて汗を流す。

 

「ちょッ! 俺です俺! 〝パラサイト〟ですよ!」

 

 パラサイトという名を聞いて影は掌に作った魔力弾を消し去り、また眼下に広がる街並みを眺め始める。

 

「……紛らわしい。それで報告か? さっさと済ませろ」

 

 攻撃されずに済んで、パラサイトは軽くため息を吐く。怪物はゆっくりと影に近づき、耳打ちした。すると影は目を少しばかし細くする。

 

「ふん。何かと思えばそんな事か。騒ぐ事のほどでもない」

 

 影は興味が失せたと言わんばかりの眼下の街を再び眺め、パラサイトは影の反応を見て頬を掻く。

 だがやがて、影は「とは言え」と言ってギロリと赤い瞳をのぞかせた。

 

「もし貴様らの手に余るようだったら、当初の予定通り私が代わりを務めてもよいのだぞ?」

 

 影の言葉を聞いて、パラサイトは余裕の笑みを浮かべながら右手を顔の前で横に振る。

 

「いえいえ。〝ボス〟の手をこれ以上煩わせる事もありません。ジュエルシードをこの地に降らせてくれただけでも充分なんですから」

 

 そこまで言って、パラサイトは右手を胸の置いて軽くお辞儀をした。

 

「後は我々に任せて、あなたはご自身の事に専念にしてください」

 

 言葉を聞いた影は指先が尖った人差し指をパラサイトの顔へと突きつける。

 

「今回の件は貴様らの有用性を試す為でもある。それは分かっているな?」

「えェ、重々承知しています」

 

 赤く光る視線を浴びながら、パラサイトは頭を下げながら答えた。

 そして影は腕を下ろし、視線をゆっくりと眼下の街へと移す。

 

「――ならせいぜい、励むことだ」

 

 まるで凍てつく氷のような影の言葉。それを聞いたパラサイトはゆっくりと上半身を上げ、背を向けて歩いて行く。

 背を向けるパラサイトの顔は、さきほどの相手の好感を得るような笑みから、真顔へと変わっていた。

 

 

 翌日。

 

「グォォォォォッ!!」

 

 海鳴市の海が見える浜辺の近くでは、ジュエルシードによって変貌した大木が不気味な声を上げ、木の根っこを鞭のように振るう。それに地上で対応しているのは、刀と木刀を持った侍たち。

 

「ぎゃああああああああッ!! なんですかあのジュレイモンは!!」

 

 情けない声を上げる眼鏡――志村新八はなんとか振り下ろされる木の根を木刀で捌き、体を捻って避け、凌ぐ。

 

「たく、何回か見て慣れているとはいえ、ホントバケモノ製造機だなジュエルシードってのは!」

 

 そう愚痴りながら刀で根っ子を切り裂く土方。

 

「皆さん頑張ってください!! すぐに封印します!!」

 

 桃色の光る羽を靴横から生やして上空に飛び上がるなのは。手に持つレイジングハートを封印形態――『カノンモード』と変形させ、構える。

 

「シュートッ!!」

 

 そう言ってなのははレイジングハートに付いたトリガーを引き、桃色の魔力砲撃を放つ。凄まじい一撃によりジュエルシードの異相体があえなく封印され撃沈かと思いきや、

 

「フォワタァーッ!!」

 

 と神楽が凄まじい飛び蹴りを大木の化け物に叩きつけた。

 神楽の攻撃を受けて大木の幹は折れ、異相体の胴体は地面に倒れる。そのおかげでなのはの放った砲撃はそのまま的を外れてしまう。

 

「なにしとんじゃぁぁぁぁッ!! 余計なことすんな!!」

 

 バリアジャケット姿のアリサが怒髪天といった具合に髪を逆立たせながらツッコミ入れる。

 

「でも、これで次は簡単に倒せるネ」

 

 神楽は足引っ張ったにも関わらずあっけらかんと反省のない態度。

 

「グォォォ……!!」

 

 ぐぐもった声を漏らした大木の化け物は折れた部分のから木の根を生やして、体を立ち上げさせる。さらには胴体から両腕まで生えてくる始末。

 

「あッ……」

 

 と神楽は声を漏らす。

 

「なんの意味もないじゃない!! むしろ状況悪化してない!?」

 

 アリサはジュエルシードの異相体の変化に嘆く。

 

「今度こそ!! シュート!!」

 

 なのはが封印の力が宿った砲撃を放つが、大木の怪物は木の根を使って軽快に横に移動して砲撃を避ける。

 

「えいッ! この!」

 

 今度はすずかがスナイパーライフル型にしたホワイトから封印の魔力が籠った銃弾を撃つ。だが、バリアを張られたり、カニのように横に避けられたりで、中々決定打を与えられないでいる。

 

「かんッッぜんに!! 状況悪化したわよ!! 倒しにくくなってんじゃない!!」

 

 アリサも怒鳴りながら木の根を燃やしたり焼き切ったりするのだが、中々本体に攻撃が届かない。

 

「うおらァ!! うどの大木の癖に調子ぶっこいてんじゃねェー!!」

 

 神楽が傘の切っ先からズドドドド!! と銃弾を連発して大木の幹の側面に当てまくる。

 

「グォォォォッ!!」

 

 神楽の攻撃を直接体に受けてさすがの怪物も苦しみの声を上げた。

 だが、ギロリと怪物の目が神楽を捉える。

 

「神楽ちゃん!! 危ない!!」

 

 新八の叫びと共に神楽に向かって巨大な木の拳が放たれた。

 

「ふんぬゥゥゥゥッ!!」

 

 神楽は傘ですぐさま拳を防ぎ、後ずさりながらなんとか威力を殺す。

 傘に力を入れていて身動き取れないであろう神楽の腹に向かって、切っ先の尖った木の根がすぐさま向かっていく。

 

「神楽ちゃん!! 逃げてぇーッ!!」

 

 なのはは神楽を守ろうとすぐさま飛んで防御魔法を展開しようとするが、間に合うはずがない。

 神楽の腹を木の根が突き刺そうとした。

 

 ザシュ! と、赤髪の少女に向かっていた木の根は、狼に乗った銀時の木刀で断ち切られる。続いて神楽を潰そうとする木の拳は、回転しながら飛ぶ金色の三日月の刃が断ち切った。

 

「銀さん!!」

 

 現れた銀髪の男を見て新八が声を上げる。

 狼形態のアルフに乗った銀時と黒いマントを翻しながらフェイトが現れたのだ。

 

「おいおい神楽。随分ピンチだったじゃねェか。ピンチヒッターが必要か?」

 

 と銀時は木刀を肩に掛けながら軽口叩き、神楽は口を尖らせる。

 

「なに言っているアルか。余計なことすんなヨ。あれくらい私一人で三塁サヨナラホームランネ」

「か、神楽ちゃん……今のは本当に危なかったんだし、ちゃんとお礼は言うべきだと思うの」

 

 なのはにたしなめられた神楽は鼻をほじりながら「ありがとござあしたー」と全然誠意の籠ってないお礼。

 対して、銀時は青筋を浮かべる。

 

「うん、お前次はぜってェ助ねェからな?」

「とりあえず降りてくんないかい銀時? あたし戦えないんだけど?」

 

 アルフの言葉を聞いてへいへいと言いながら銀時は狼の背から降りた。

 

「そう言えば、さっき神楽ちゃんを助けた金色の刃ってフェイトちゃんの?」

 

 なのはの質問にアルフは人間体になりながら得意げに答える。

 

「ふふん♪ そうだよ。フェイトの『アークセイバー』さ。ちゃんと感謝しなよ」

「うん! 神楽ちゃんを助けてくれてありがとう! フェイトちゃん!」

 

 なぜか助けられた本人でないのにも関わらず、なのはは笑顔でお礼を言う。

 だがしかし、フェイトはなのはの感謝の言葉に少しだけ視線を向けるが、すぐさま鋭い視線を大木の化物――ジュエルシードへと移す。

 

「フェイト、ちゃん?」

 

 フェイトから何か違和感を感じ取ったのか、なのはは首を傾げる。

 

《Photon Lancer》

 

 バルディッシュ音声が発せられ、フェイトは自分の周りに数個の電気を帯びた魔力の槍を放つ。

 高速の槍で大木の体が貫かれるかと思ったが、怪物の展開したシールドによって攻撃は防がれる。

 

「げッ!? あいついっちょ前にシールドなんて張りやがったよ!!」

 

 今までのジュエルシードの怪物よりめんどくさそうな相手に、アルフは苦い顔。

 

「おい、ウィンナーくん。アレの攻略法をいつものように解説しろ」

 

 銀時は木の怪物を親指で指しながらユーノに言う。

 

「えッ!? もしかしてウィンナーくんて僕のことですか!?」

 

 ユーノはまさかのあだ名にギョッとしていた。

 

「じゃあソーセージにするか?」

「いや、どっちも嫌ですよ!! あなたフェレットをなんだと思ってんですか!?」

「わたかったわかった。チン〇くんで妥協してやるから」

「なにも妥協してないでしょうがぁーッ!! つうかこんな会話前にしませんでした!?」

 

 涙を流しながら怒鳴るユーノ。するとアルフは銀時の胸倉を掴む。

 

「あんたホント真面目にジュエルシード集め手伝わないとしまいにはぶっとばすよ?」

 

 拳構えるアルフに対し、銀時は慌てて両手を出す。

 

「わああッ! ちょッ!? ちょっと待て! ちょっと待ってッ!! だからこうやってあのお利口そうなウィンナーモドキから攻略法聞き出そうとしてんじゃねェか!! 銀さん今回真面目よ!」

「僕絶対あなたにだけはアドバイスしませんからね!!」

 

 とユーノは涙声。

 

「ああ言ってるけど?」

 

 アルフはユーノを親指で指す。すると銀時は真面目な顔で。

 

「じゃあアルフ、テメェがアドバイスしてくれ」

「いや、なんか代替案みたい言ってるけど、あたしからアドバイス貰うのが普通だからね? 敵対してるあのフェレットからアドバイス貰うのがそもそもおかしいからね?」

 

 はぁ~、とため息を吐いたアルフは、真選組や魔法少女たちと戦っている木の化物を親指で指す。

 

「……普通にあんたと私はフェイトのサポートしながらあの子が封印しやすいようにあいつを弱らせる」

 

 銀時は「あん?」と眉を寄せた。

 

「なにそのふわふわした説明? もうちょっとパッとした攻略法ねェの?」

「あんたがもし封印魔法の一つでも使えてりゃあ二人分の封印魔法であっさり封印できるけど、魔法使えないあんたにはとりあえず木の根っこぶった切れとしか言えないよ」

 

 銀時とアルフの会話に聞き耳を立てていたなのはは『二人』という単語を聞いて、フェイトに顔を向けてある提案をする。

 

「あの、フェイトちゃん」

 

 自分に話しかけているのはすぐに分かったようだが、金髪少女の目線はなのはには向かない。だが白い少女は言葉を続ける。

 

「今はジュエルシードを封印することは最優先にして、二人で一緒に封印しちゃダメ、かな?」

「なぜ?」

 

 当然の疑問を返すフェイトに、なのはは少し口ごもるがはっきり自分の意思を伝えようとする。

 

「前みたいに二人の魔法がぶつかってジュエルシードが暴走したら大変だから、今度は二人で協力して封印すれば前みたいな暴走が起きる可能性も少なくなると思うの!」

 

 一瞬、フェイトはなのはに目を向けた。そうすれば、強い意思の篭った瞳が黒い少女の目に映る。

 フェイトは目を瞑り、一瞬の逡巡の後に口を開く。

 

「君の考えは分かった」

「なら――!」

 

 パァとなのはは顔を明るくさせる。

 フェイトは無言で頷きデバイスを封印形態――『シーリングフォーム』へと変形させた。

 

「でも……封印できたらジュエルシードを賭けて戦うことになる」

 

 フェイトの言葉に対し、

 

「構わないよ。その時は、全力でぶつからせてもらうから」

 

 なのはも強気な態度で答える。

 そんなフェイトとなのはを横目で見ていたアリサは口を尖らせた。

 

「別にあたしたちもいるんだから、親友三人で一斉に封印すればいい話でしょうに……」

 

 すずかが苦笑してアリサをたしなめる。

 

「なのはちゃんは、フェイトちゃんと少しでも分かり合おうと頑張っているんだからあんまり拗ねちゃダメだよ? アリサちゃん」

「分かってるわよ」

 

 プイッとアリサはそっぽ向く。

 

「なのはちゃァーん!! 話終わったァーッ!!」

 

 すると、木の根っこを必死こいて弾き返している山崎退の叫び声が聞こえてきた。

 

「フェイトちゃんと話すのもいいけど、こっちもいっぱいっぱいだから早く封印してェーッ!!」

 

 山崎は情けない声を上げながらバトミントンのラケットで木の根っこを防ぐ。

 

「いや、なんでバトミントン!?」

 

 とアリサはビックリしてツッコミ開始。

 

「あんた侍なんでしょ!? なんで刀とか木刀じゃないの!? 全然緊迫感感じられないんだけど!」

 

 まさかのバトミントンのラケットで戦闘をこなすミントン山崎は必死に説明する。

 

「いやだって! 俺の刀、沖田隊長に使われちゃってるから!!」

「だからってなんでバトミントン!?」

「山崎ィィィィッ!!」

 

 と怒鳴り声上げるのは真選組副長。

 

「木刀はどうしたァァァァァッ!! 高町家から借りてこいって言っただろうがァ!!」

「すみません!! なんかついクセでラケット持ってきちゃいましたァーッ!!」

 

 と山崎は涙声で謝る。

 

「テメェーッ!! 状況分かってんのかァッ!! ……後でぜってェシメるからな?」

 

 ギロリと土方は鋭い眼光を山崎に向けた。

 

「ひィィィィィッ!!」

 

 山崎は目の前の木の化物より、鬼の副長の方が数十倍怖いと思ったそうな。

 

「あわわわッ! ご、ごめんなさい!! ふぇ、フェイトちゃん!! 早く封印しないと!!」

 

 慌てるなのは。さすがに仲間が必死こいて戦っているのに、いつまで喋っているワケにはいかないと思ったようだ。少女はすぐにデバイスを構えて封印の為の魔力を溜める。

 それを横目で見ていたフェイトも封印の為の魔力を溜め始めた。

 

「まったく、トシもザキ余裕がなくて困るぜ」

 

 すると近藤が木刀(高町家からの借り物)を構えながら余裕の笑みを浮かべる。

 

「俺たち大の大人がこんな大慌てしてどうする? 寧ろ、一つの物を巡って戦い、競う少女たちのガールズトークの為に時間の一つや二つ稼がんで、なにが男か……」

 

 木刀を大振りし、いくつもの木の根を叩き切る近藤は力強くなのはたちに声をかけた。

 

「さあ、なのはちゃん!! フェイトちゃん!! 気が済むまで存分に話すがいい!! その間の時間くらい俺たちがいくらでも稼いで――!!」

 

 近藤が言い終わる前に、バシィッ!! と木の根がゴリラの頬をぶっ叩く。

 

「あべェッ!!」

「近藤さんんんんんん!!」

 

 と新八が叫び声を上げた。

 近藤は吹っ飛ばされ、道路と砂浜を分け隔てる鉄の柵に激突。そのまま白目向いて気絶。

 

「おィィィィッ!!」

 

 と銀時がシャウト。だらしなく気絶した近藤を指差す。

 

「なんかかっこ良さげな事言ってたら案の定即やられちまったぞあのゴリラ!!」

「ちょっとォォォッ!! いの一番にリタイアしてくれたお陰で余計に余裕なくなったんですけどォォ!?」

 

 シャウトする新八は、裁く量の根っこが増えたので汗だくになりながら必死で木刀振る。

 すると沖田が真面目な顔で、

 

「なに言ってんだ。近藤さんの言ってたとおり、俺ら男が根性みせんでどうすんだ」

 

 ベンチで寝転んで観戦していた。

 

「お前はせめて1%でもいいから根性みせてくんない!?」

 

 と土方は青筋立てるが、沖田は真顔で返す。

 

「俺、刀警察に取られたんですよ」

「おめェの腰に差してる(それ)はなに?」

 

 土方に指摘された沖田は腰に差している刀を鞘ごと引き抜いて、

 

「孫の手」

 

 と言って背中を掻く。そして土方は青筋浮かべた。

 

「ようし分かった。俺の(まごのて)で背中掻いてやるよ」

「副長も状況考えてッ!!」

 

 沖田をシメに行こうとする土方を山崎が止めながら「沖田隊長も孫の手にするくらいなら俺の刀返してください!!」と抗議する。

 

「な、なのはちゃん!! もうそろそろ封印できそう!?」

 

 汗だくの新八が、後ろで封印の準備をしているであろうなのはたちに目を向ければ……。

 

「えっ? ここじゃダメなの?」

 

 となのはが言うと、

 

「そこだと封印魔法を放った時に君の魔法と私の魔法が相殺されてしまう。もう少し後ろに」

 

 フェイトは指で指示しながらなのはの位置を調整中。

 

「ちょっとォォォォォォッ!?」

 

 新八またシャウト。

 

「あの二人なんかポジショニング決め合ってるんですけど!? さっきまで魔法溜めてる描写どこいったァァァァッ!!」

 

 渾身の力でツッコミしながら木の根を弾く新八。するとなのはが大声で。

 

「新八さんごめんなさい!! フェイトちゃんが協力するならちゃんとした位置取りじゃないと気が済まないそうなんです!!」

「そういう職人気質的なことはいいから早くしてェェェェェェッ!!」

 

 もう新八の汗はダラダラ、地面に水滴がポタポタ。

 

「すげぇーなアイツ。ツッコミながら戦ってる……」

 

 魔力弾で木の化物を牽制するアルフは、少し新八に感心していた。

 

「なッ? あいつ意外に器用だろ? 万事屋一のツッコミ使いは伊達じゃねェってことよ」

 

 と自慢げに語る銀時は、暢気にベンチに横になってジャンプ読書中。

 

「ちょっと銀さんんんんッ!? なにやってんですかあんたはァァァァッ!! 状況分かってんのかァァァァァァァッ!!」

 

 新八またまたシャウト。

 第二のサボり男に怒涛のツッコミが炸裂。だが、とうの銀時はページをパラリとめくりクスリとほくそ笑む。

 

「いや、この状況でどんだけ熟読してんのあんた!? ホントしまいにはぶん殴りますよ!!」

 

 さすがの新八も堪忍袋の緒が切れて殺しそうな勢いだ。

 

「えッ? それ、そんなに面白の?」

 

 すると今度はアルフまで戦闘を止めて横から銀時のジャンプを覗き見る。

 

「アルフさんんんんんッ!? あんたツッコミキャラどこに捨ててきたァァァァァァッ!!」

 

 まさかの使い魔のボケに新八は喉が裂けんばかりに叫ぶ。すると土方が怒鳴る。

 

「もういいメガネ!! おめェんとこの糞上司は一ミリも戦力にならねェよ!!」

「あんたの上司と部下もですけどね!!」

 

 と新八は付け足す。

 

「おォらォ!!」

 

 土方は気合一閃。ついに化物の本体にまで刀の斬撃を与える。

 

「グォォォォ……!!」

 

 化物は苦しみの声を上げるが、やはり物理攻撃では効果ないのか傷が徐々に回復していってしまう。

 それを見たアリサは冷静に分析を口にする。

 

「なんかあの大木、魔法の攻撃はシールドみたいので防いだり横に避けたりするけど、刀だったり弾丸だったり蹴りだったりは、避けたりしないわね……」

 

 大木の行動を観察していたアリサの呟きを聞いて、すずかも「そう言えば……」と声を漏らす。

 

「たぶん、魔力以外の攻撃は脅威ではないと認識しているんだ」

 

 ユーノの説明を聞いて山崎が驚いた顔をする。

 

「ええッ!? じゃあコイツもしかして考えて動いてるってこと!?」

「い、いえ! たぶん本能的なモノだと思います。ジュエルシードの異相対に基本は知性なんてものはないはずですから」

「ようは俺たちは眼中にねェってことか……」

 

 そうはき捨てながら、土方は刀で何度も大木の幹を切り付けた。だが、大木は苦しみに似た声を上げるだけで意に返す様子がない。

 

「でも、なんでコイツ根っ子で攻撃してくるの!?」

 

 と新八はもっとも疑問をぶつける。

 

「どうせ俺たちのことハエかなんかだと思ってんだろ? 舐められたもんだぜ」

 

 銀時はそう言いながらベンチから立ち上がり木刀を鞘から抜く。

 

「銀さん!」

 

 ついに参戦する気になったか! と新八はやる気のない上司の行動に少なからず喜ぶ。

 銀時は肩を揉み回す。

 

「ま、数分は経ってるだろうし、そろそろだな」

「えッ? なんの話ですか銀さん?」

 

 なにをしようとしているんだ? と新八は怪訝そうな表情を浮かべた。

 すると、アルフが指を立てて説明する。

 

「あッ、プールの時のこと覚えてるかい? あの……なんだっけ? 太陽の……なんたらって、銀時(コイツ)だったんだよ」

「「「「…………えッ?」」」」

 

 土方、新八、すずか、アリサの顔が一瞬にして凍りつく。

 

「「「「ええええええええええええええええええええッ!?」」」」

 

 アルフの言葉をようやく理解したのか四人が驚きの声を上げた。

 そしていの一番にツッコミに入るのは新八。

 

「ちょっとォォォォォッ!? それどういうことォォ!? つまりあのRXの正体って銀さんだったってことですかァーッ!?」

 

 口をあんぐりさせる新八。対して真顔のアルフは銀時に指を向けた。

 

「なんかコイツの木刀改造されてるらしくてね。それで変身できるらしいよ」

「源外さんかァー!? あの人またとんでもない発明しちゃったよ!! まあ、僕たちも前に変身とかしちゃったけど!!」

(あ、ありえねェーッ!)

 

 新八の言葉から発せられた源外と言うワードなど気にも留められない土方。

 土方、さらにはアリサも内心超絶ビックリ中。

 

(あの熱血漢そのもののヒーローの正体があのやる気が氷点下まで下がったアイツとか――)

(どんだけミスマッチな組み合わせ!?)

 

 RXと銀時の姿を重ねて想像したアリサと土方の口は、ポカーンと開きっぱなし。

 土方たちの動きが止まったので、ジュエルシードの怪物は視線を右に左に移して戸惑い中。

 銀時は不敵な笑みを怪物へと向ける。

 

「おい大木野郎。見せてやろうじゃねェか、侍の力って奴をよ」

「いや、アルフさんが言ったとおりあんたが太陽の子なら侍の力もくそもないんですが?」

 

 さり気なくツッコム新八。

 すると木刀は徐々に発光しだした。

 

「変身の合図だな。いくぜ」

 

 銀時は木刀の切っ先を怪物に向けて言う。

 

「へ~んしん」

 

 銀時の気のないセリフと共に、木刀から目が眩むほどの光が発生。

 そのままドカァーン!! と木刀の刀身が爆発した。

 

「「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!?」」

 

 新八と山崎はまさかの光景に驚愕。

 銀時と近くにいたアルフは爆発によって黒こげ&アフロヘアーとなった。

 銀時は「あり?」と目をパチクリさせる。

 

「おい」

 

 青筋浮かべるアルフは、どういうことだ? と言わんばかりの鋭い眼光をアフロ銀髪に向ける。

 

『あーあー……銀の字、聞こえるか?』

 

 すると残った柄の部分から源外の声が、ザザザという雑音と共に聞こえてきた。自然と銀時の視線が手に持った柄に向く。

 

『おめェの木刀に付けた変身機能だけどよ、あれ一万分の一の確立でしか成功しねェから。一回成功しても安易に変身しようとすんなのよ? 下手したら爆発するから』

 

 そのまま音声が切れ、銀時は片眉をピクピク震わせながら、

 

「先に言えェェェェェェェェッ!!」

 

 渾身の力で柄だけになった木刀を地面に投げつける。

 

「みなさぁーん!! 離れてください!! ジュエルシードを封印します!!」

 

 なのはの声が聞こえる方に全員の視線が向く。

 フェイトとなのはは空中に浮かび、魔方陣を展開してジュエルシード封印用の魔法を放とうとしていた。

 木の化物の前にいた新八たちはすぐさま退避開始。

 

「撃ち抜いて!!」

 

 となのはが声を上げれば、

 

《Devine Buster》

 

 レイジングハートから音声が流れ、砲身から桃色の砲撃が発射。

 

「貫け轟雷!」

 

 フェイトが前方の魔方陣にバルディッシュを突き立てれば、

 

《Thunder Smasher》

 

 バルディッシュを介して魔法陣から金色の光が放出される。

 桃色と金色の二つの本流はそのまま木の化物に直撃するかと思ったが、シールドによって防がれた。

 

「グォォォォ……」

 

 だが着実に追い詰めているようで、木の怪物は押しつぶされるように体を縮込ませる。

 

「よしいける!!」

 

 新八がそう言った瞬間だった。

 

「私のこと忘れてんじゃねェーッ!!」

 

 突如の怒声に嫌な予感を覚え、新八が声のした森の方に目を向ければ、

 

「私の渾身の一撃受けてみろ!!」

 

 森から引っこ抜いたであろう大木を持った神楽が突撃してくる。

 

「ちょっと神楽ちゃァーん!?」

 

 新八が必死に止めようと声をかけるが、興奮している神楽は止まらない。

 

「くらえおらァァァァァッ!!」

 

 木の怪物に向かって神楽は力の限り大木をぶん投げる。

 大木は一直線に木の怪物の顔に直撃。そのまま怪物は後ろに倒れてしまうので、二人の魔導師が撃った攻撃が二つとも大外れ。桃色と金色の光は、倒れた怪物の上を通り過ぎていく。

 

「「だから余計なことすんなァァァァァァァッ!!」」

 

 またもや封印の邪魔しちまったチャイナ娘に、アリサと新八が渾身の力でツッコム。

 すると突如上空から青白い光がジュエルシードの怪物に向かって放たれた。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 さすがの怪物もシールドを張る暇がなかったのか、そのまま光の本流を受けて青い宝石の姿へと封印されてしまう。

 その光景を呆然と見ていたその場の面々たち。

 

「――まったく……君たちはいったい何をやっているんだ……」

 

 上空から呆れた声が聞こえ、全員の視線が上へと向く。

 

「管理局執務官――クロノ・ハラオウンだ。事情を聞かせてもらおう」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。