ちなみに私の小説の文章の参考は3年Z組銀八先生です。
「それで? あの男の素性は分かったの?」
時の庭園の主でありフェイトの母――プレシア・テスタロッサはフェイト・テスタロッサを玉座の間に呼ぶ。質問の内容は当然、自身の居住地である時の庭園に侵入した銀髪の男の情報だ。
はい、とフェイトは頷きながら答え、ゆっくりと男の情報について記した紙を読み上げていく。
「名前は坂田銀時。地球と言う惑星の出身で、『えど』と言う名の国にある町の歌舞伎町で何でも屋――『万事屋』を自営業しているそうです。趣味は糖分摂取。将来の夢は『侍王になる』だそうです」
フェイトの説明にプレシアは苛立ちを見せながら目を細める。
「……私がいつ、男の趣味や夢を知りたいの言ったのかしら?」
「す、すみません……」
フェイトは少々威圧しただけで縮こまる。自分に対しておどおどした態度をしている娘の姿に対してイラつきを覚えずにはいられなかった。まぁ、このように自分に怯える風にしたのはそもそも自分のせいだが、プレシアにとってはなんら問題ない。
――期待してなかったとはいえ、尋問で得た情報はあまり役に立ちそうにないわね……。
フェイトに任せずとも、プレシアは監視スフィアを使って気付かれることなく、こっそり銀髪の男の観察することができる。しかしあえてプレシアはフェイトに銀髪の男の尋問を任せた。
いくら魔導師として優秀だからといっても、尋問の才能まであるわけではない。むしろ素直過ぎるこの娘なら、逆に相手に丸め込まれる可能性もある。しかも子供。
だがしかし、プレシアはフェイトに男の尋問させた。それは、子供であるフェイトが相手なら銀髪の男の〝素〟を引き出すことに使えると判断したから。男も油断していろいろとボロを出すと踏んで。結果、それなりに男の性格を把握できた。
プレシアとしては、フェイトとアルフに気付かれずに男を虚数空間に放り出しても問題はない。あの銀髪が管理局からの回し者でも、本当にただの時空漂流者としても、それらとはまったく関係な派閥からやって来た者でも。
だが、処分をしなかったのは銀髪の男――坂田銀時が地球からの出身という部分。それが銀時を大きな利用価値がある男だと、プレシアに認識させたのである。
プレシアが自分の全てを賭けた計画ため、これからフェイトを管理外世界に向かわせる。管理外世界――地球に舞い落ちるであろう『ロストロギア』を回収させるために。
そして計画を遂行させるのに、地球出身の者が手の内にあるというのは実に都合がいい。地球のことを詳しく知らない自分やフェイトにとっては、地球出身である銀時は現地のガイド役として利用価値がある。
だが、問題なのが銀時の言っていることが虚言だった場合だ。
管理局、またはどこぞの組織の回し者であり、自分たちに取り入ろうとしている可能性も少なからずある。まぁ、あんな突拍子な怪しさ全開の登場をするような間抜けが、スパイとしてこの時の庭園に潜り込むとは考えにくい。
なにより、先ほどから見ていたフェイトたちとの会話にもあまり知性を感じられない。こちらの考えを全て見越した演技をしているという考え方もある。が、いかんせんそういった怪しさもあまり感じ取れなかった。
そもそも、自分がこれから行う計画を漏らすようなミスなどしていない。その上、この時の庭園の居場所すら誰にも分からないように徹底的な隠蔽を行っている。
――私の考え過ぎかしら? そもそも、ここ十数年間自分の情報を一切遮断してきたという前提条件を考えるのなら、あの男は本当に事故によって此処に偶然やって来た次元漂流者ってことになるわ。
プレシアは顎を指で撫でる。彼女の前では不安そうにしているフェイトがいるが、今の彼女は自分の娘にはまったく意識を向けていない。
――計画の目前だからといって、少しナーバスになり過ぎていたようね。
今のところは、銀時を地球出身のガイドとして使うということでいいだろう。調べたところ魔法は使えないことは分かっている。もしこちらの不利益となるならば、始末することは容易だ。
ただ気になるのは、
――……地球に江戸や侍や
事前に調べた地球の情報と銀時から聞いた情報に食い違いがある。一致している情報もあるのだが、この食い違っている部分が腑に落ちない。
――やはり私たちを騙すために地球出身と偽っている? いや、それなら下調べはもっとちゃんとするはず……。
自分たちも地球に詳しくないということから生まれた食い違いかもしれないが。
考えをあらかたまとめたプレシアはフェイトに目を向ける。母からの目線を受けたフェイトは一瞬体を硬直させるが、プレシアは構わず口を開く。
「――フェイト、あの銀髪の男を私のところに連れてきなさい」
「は、はいッ……!」
――私も、一度会っておく必要があるわね。
プレシアは立体パネルを空中に表示し、ある資料を表示する。
*
「この玉座の間で母さんがあなたを待ってます。私は扉の前で待っているから」
フェイトの言葉に銀時は気のない返事で答える。
「へいへい」
両手を後ろに回され、手首を四角い手枷のような物で封じられている銀時。彼は辟易とした様子で玉座の間に入っていく。
にぶい足取りで進んでいくと、玉座の間に座った女性が一人。手には杖を持っており、少し顔色が悪そうな黒髪の女性だ。ドレスの胸元が開いているなど肌をあまり隠さない少し際どい服装ためか、彼女の豊満な部分がところかしこ見えてしまう。
銀時は肩眉を上げ怪訝な表情で観察する。
――おいおい、なんだあのいい歳して魔女のコスプレしたの? まー、別嬪ではあるけど、ありゃちとイテーな。
若く見えるがフェイトの母親であるから熟女であること間違いない。
フェイトの母親なのであろう女性は銀時が玉座の間の中心まで歩いてくると、口を開く。
「あなたが坂田銀時ね? 待っていたわ」
「ああ。んで、あんたがあの金髪のガキの母ちゃんで間違いないんだろ?」
さきほどフェイトの言葉通りなら、目の前で偉そうに玉座に鎮座しているコスプレ熟女ババアが金髪娘の母親。娘が金髪に対し母親が黒髪だとすると、父親が金髪だったか、または先祖返りか。あの歳ではありえないだろうが、染めているかのどれかだろう。
「…………」
銀時の質問を受けたプレシアは玉座に座ったまま、黙り込んでいる。
静寂が当たりをつつみ銀時は汗を流す。
――……え? なにこの空気? 俺、何か気に障ること言った? なんか顔が不服そうなんだけど?
多少なのだが、プレシアの顔色から少し不満の色が感じられる。さすがに普段から捻くれ口調とはいえ、今の会話で彼女の機嫌が悪くなるはずは〝普通〟はないのだが。
とりあえず、なんか目の前の女パッと見おっかなそうなので、下手なことは言わず相手のリアクションを待つことにした銀時。
「………………」
「………………」
顎に手を当てて思案しているプレシア。
「………………」
「………………」
今度は手をかざしてプレシアは透明なパネルを弄りだす。
「……あの、すんません。そろそろ何か言ってくれません?」
銀時は一応コミュニケーション取ってみるが、
「…………………」
プレシアは何も喋らずにコーヒーを音も立てずに啜りだす。その後も銀時は無言の相手に何回かコンタクト取ろうとする。
「……いや、俺何かした!? 何か気に障ること言った!?」
「…………………」
「いい加減にしろよテメー!! 人様呼んどいてだんまり決め込むとかどういう了見だコノヤロー!!」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……あの……ホント何か喋って。なんか段々怖くなってきたんだけど……」
「…………………」
「ごめんさい!! マジすんませんでした!! 俺が何かしたのならマジ謝りますから!!」
「…………………」
一向に喋らず、頬づえを付いて値踏みするように自分をジーっと見つめ続ける。
「こェェェェェェよ!?」
さすがの銀時も青ざめる。
「なんなのこの人!? 何喋るわけでもなく、なんで俺ガン見してんの!? なに? 目からビーム出す練習をしてんの!?」
「…………………」
さすがの銀時も根を上げて我慢の限界を訴えるが、結局目の前の女性は何を言うわけでもなくジーっと彼を見続けている。
ついにコミュニケーションを取ることを諦めた銀時はボソリと一言、
「………………年増クソババア」
「悪いわね」
と、プレシアがやっと喋る。
「私、一度考え出すと周りの声が聞こえなくなってしまうから」
「へ~…………」
気のない返事の銀時。彼のクセ毛だらけ天然パーマは焦げ付き一回り大きく増量していた。
「とりあえず、早速本題に入るわ。あなた、地球出身だそうね?」
プレシアの問いに「あァ」と銀時は頷き、玉座に座った女はニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「それならあなたに単刀直入で頼みたいことがあるの」
「え? ちょっ? 江戸に帰してくれるんじゃないの?」
銀時は怪訝な表情で眉間に皺を寄せる。まさかの瞬間移動先で、万事屋の仕事をしなければならない状況に陥りそうになっている前兆に、嫌な予感を覚えているのだ。
帰るどころか、余計な事件に片足突っ込んでそのままどっぷりはまり込んだことが何度あっただろうか? まぁ、大半が自分から突っ込んだようなものだが。
顔を引きつらせる銀時に対し、プレシアは彼の反応をあらかじめ予想しているかのような口ぶりで話し続ける。
「ええ。あなたを地球に帰すことは容易いわ。なにより、嫌がるあなたを手伝わせたところで、邪魔にしかならないことは火を見るより明らかなのも理解してる。だけど、あなたは金さへ払えばなんでもする万事屋と言ったわよね? なら――」
上向きに開いたプレシアの手。その大きさに合わせた魔法陣が展開し、そこから宝石が姿を現す。大きさは野球ボールくらいであり、色はダイヤのような無色透明な輝きを放っている。ぶっちゃけ、ダイヤではないだろうか。
「こういうモノにはかなり興味があるんじゃないかしら?」
プレシアは手のひらに浮かぶ宝石を見せ付けるようにしながら口元を怪しく吊り上げる。
突然現れた宝石を見た銀時はその姿に釘付けだ。銀髪の反応を見てからプレシアは依頼内容を話す。
「私は〝仕事として〟あなたにフェイトとの仕事のサポートと地球の案内を依頼するわ。もちろん、危険を伴うことでもあるから、報酬はそれ相応のモノを用意するわよ?」
「……エ?」
銀時は間の抜けた声を漏らしつつ震える指で、プレシアが出した宝石を指す。
「そのダイヤっぽいつうか……え? だいや? え? マジでダイヤ? ただのガラス玉じゃなくて?」
ダイヤであろう宝石を見た瞬間、銀時の興奮はうなぎ上りだった。体中から変な汁が出てきそうなほどになり、心臓は太鼓の鉄人の鬼ランクのように早鳴りを始める。それほどまでに、ダイヤという宝石は万年金欠の彼にとっては魅力的だった。
プレシアは頷く。
「もちろん、あなたの言うところのダイヤで間違いないと思うわ。どうやら、あなたの反応から見て、私たちとあなたたちの物価に対する価値観は近いようね」
「…………(ダラダラダラダラ!!)」
銀時はダイヤを見て口から凄まじい量の涎を垂れ流す。
「あなたの返答次第では、これ以上の報酬を用意してもいいわよ?」
「なんでも命じてくださいプレシア様!!」
銀時は片膝を付いて深々と頭を下げる。手がふさがっていなければ心臓に拳を当てていたところだろう。
呆れかえるほどの変わり身の早さを見ても、プレシアは呆れるどころか、冷笑すら浮かばせる。
「物分りがよくて助かるわ。それじゃあ、仕事の内容を説明するわね。まず、フェイトが探しているのは――」
だが銀時の脳内は、
――ちょっ、マジやべェよ。確か、ダイヤってあのちっこい指輪の上にちょこんとおまけみたいに付いてるヤツで何十万すんだろ? あんな手のひらサイズとか……おい、やべェッよ! 新八の
ウハウハ状態で、プレシアの話しよりもこれから手に入るであろうダイヤと言う名の金の塊で、一体どれだけの利益が自分に降りかかるか考えるので頭がいっぱいだった。
とにかく、うはうはの未来が待っている。
さすがに一生分のぜいたくは考え過ぎだが、銀時にとってはこれからの人生を一変させる千載一遇のチャンスが到来したと言っても過言ではない。
この後、死ぬほど興奮したせいでプレシアの話を聞かず、彼女に同じ話を三回も言わせて、銀時は髪の毛引っこ抜かれそうになったりした。
*
銀時が江戸から消えてから数日が経過。銀時のいる江戸では、既に異変に感ずいている者がちらほらいた。
それはもちろん万事屋で銀時とともに長年(サザエさん方式で歳は取ってない)戦い、働いてきた新八と神楽が一番に気付いているのだ。何かが足りない、誰かがいないということに。そしてなにより、彼の姿を何日も見ていないという不安が彼らの中に広がりつつあった。
万事屋のリビングでは、テーブル挟んで置かれたソファーに面と向かう形で座っている新八と神楽が、重々しい雰囲気を放つ。
そんな長い沈黙が続く中、新八が口を開く。
「……銀さん、どこに行っちゃったんだろうね」
「銀ちゃん……」
神楽も気のない声を漏らす。
一体いつまで、銀時はいつもふんぞりかえっているボスたる者のソファーを開けておくのか。いつまであの憎ったらしい顔やセリフを聞かせないつもりなのか。
「今日も帰ってこないみたいだね……」
新八が時計に目を向けると、時刻は既に夜の八時。夕食を食べるには少々遅い程度の時間だ。
銀時が帰ってこなかった最初の日もせっかく作った夕食が無駄に――はならなかった。なにせ神楽がしっかり腹に無駄なく収めたのだから。
「このままだと、この――」
新八はテーブルの上に大皿を乗せる。
「国産黒毛和牛が無駄になるね」
大皿には綺麗な赤身の肉が乗っている。一枚一枚綺麗に並べられた肉は脂の少ない赤身のうまみをたっぶりと見せ付けていた。
「まったくアル。銀ちゃんが帰ってこないとこの――」
神楽もテーブルの上に大皿を乗せる。
「高級ズワイガニが無駄になってしまうアル」
大皿の上には大きなカニが五匹も乗っていた。その大きさはまさに立派の一言。たっぷりと身が入っているであろう足は太く、殻も良い光沢を放っている。
「今暑くなっている時期だし、こういうナマモノはすぐに悪くなっちゃうよね」
新八は残念そうな顔をしてため息をつく。
確かに、六月の半ばである今は気温がぐんぐん上昇している。今の暑い時期では生ものは腐りやすく、すぐに調理して食べるか、一度火を通さなければならないのは家事をよくする新八なら理解していることだ。
「銀さんを待ってたら、これすぐにダメになっちゃうよね」
新八は体の良い言葉を並べているが、目の前にあるごちそうを食べたいのはまる分かりで口から涎がダラダラ。
「まったくアル。これは私のモノネ」
神楽も視線はごちそうに釘付け。例えあのダメ天パがいてもこのすてきな品を渡したくはなく、自分が全て平らげたい。それを証明するかのように胃がぐうぐう。
すると新八はワザとらしく言う。
「もうこれはアレだね! 仕方ないね! ほっといたらせっかく依頼した人から貰ったお肉もカニもダメになっちゃうしね!」
「これをダメにすることこそ、この品々に対して失礼アル! 全て私の胃に入れてしかるべきネ!」
神楽もワザとらしく返す。
だんだん彼らの本性が、目の前の
やがて感極まった二人は、銀時抜きでたらふくうまい物を食べられることに歓喜する。
「「つうかあの
そして二人の食欲はついに爆発した!
「つうかあの天パのことなんて知ったこっちゃねェよ! レッツ鍋パーリーじゃァァァァアアアアアアアアッ!!」
新八は箸を持って飛び上がる。
「カニも肉も全て私のもんじゃァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
神楽も目を血走らせて飛び上がる。
獲物を前にして野獣のごとく群がる二匹の獣は肉を焼き、カニの足を引き千切り、邪魔する獣を排除する。
眼鏡の獣がパンチをくらわされ、キックで腹を蹴られ、赤い獣が全てを平らげようとする。
「テメーはちょっと食卓マナーを守れェェェェェェェッ!!」
新八が叫ぶ。
「つうか僕まだ一口も食べてないんだけど!!」
「うっさいネ! 銀ちゃんなき今こそ、この
神楽の言葉を聞いて新八は悔しがる。
「チクショー!! 抜かった! よくよく考えたら銀さんは神楽ちゃんと言う名のケダモノを押さえつけるのに必要な存在だったのか!!」
「テメェ乙女に向かってケダモノとはなんだコラーッ!!」
新八の顔面に神楽のフルスイングした拳がクリーンヒット。「ゴハッ!!」と新八は壁まで吹き飛ばされる。力でも食欲でも夜兎である神楽にただの地球人たる新八が勝てる道理なし。
ある意味、この食卓は新八、神楽、銀時の三人が織り成すデルタゾーンによって荒々しくもルールが敷かれた戦場になっていのかもしれない。
新八と神楽による蹴って殴ってのどんちゃん騒ぎは夜遅くまで続いた。
*
一方時の庭園では、
「あいつら、俺のこと心配してんのかねェ……」
銀時の独り言を聞いたアルフは怪訝な表情を作る。
「あんた何天井向いて独り言喋ってんだい?」
「大丈夫?」
フェイトに心配される銀時もまた、プレシアとの会話を終えて夕食を頂いていた。彼もまた、一段落を終え、江戸に置いてきた仲間たちのことを思い出していたのだ。
ちなみに銀時の食べている料理は、
「まー、こんだけデカイ肉をたらふく食えんのはマジありがてェけどな~! あいつらいたらこうはいかねーよ! ぶはははははははははッ!!」
分厚いステーキだった。
「「???」」
アルフとフェイトは訝しげにドヤ顔したり高笑いしながら忙しく肉を口に頬張る銀時を見ていた。