魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第三十五話:お祝いと反省会

「へい神楽パス!!」

 

 銀時の蹴った後藤(ボール)が宙を舞い、神楽に向かっていく。

 

「任せたぞ神楽!!」

 

 銀時がひと際大きな声をかければ、

 

「任せるアル銀ちゃん!!」

 

 神楽は高く跳躍。舞い上がった化物(ボール)の頭が彼女の手に納まる。

 そして神楽は腕を大きく振りかぶり、

 

「メテ○ジャム!!」

 

 まるで隕石(メテオ)のように後藤(ボール)を新八に叩き付けた。

 

「あっぶねェッ!?」

 

 新八は寸前で後藤を回避。そのまま化物の頭は地面に叩き付けられ、突き刺さる。

 いきなり化物をぶつけられそうになった新八は怒鳴り声を上げた。

 

「ちょっとォ!! あんたらいきなりなにすんですか!? 今の当たってたら僕の骨折れちゃいますよ!!」

「何言っているアルか。人間は215本骨があるネ。たかだか210本折れたくらいでガタガタさわぐんじゃネェヨ」

 

 と真顔で神楽が言う。

 

「いや、五本以外の骨全部折れたら重傷なんてレベルじゃないから!!」

 

 新八は「っていうか!」と言って、いきなり球技を始めた二人に指を向ける。

 

「あんたら一体なにやってんですか!?」

「サッカー」「バスケ」

 

 と、同時に言う銀時と神楽。

 

「一つに絞れェ!! なんでてんでバラバラのことしてんの!! そもそも怪物使って球技している時点でおかしいでしょ!!」

 

 新八がツッコムと、神楽は両手を地面に付けて訴える。

 

「先生、バスケがしたいです……」

「勝手にやってろ!! もちろんちゃんとしたボールで!!」

 

 バッサリ言う新八。すると今度は銀時が地面に両手を付いて訴える。

 

「先生、ちょっとむかつくニコチン野朗の顔面にシュート決めたいです」

「ほほほ、坂田くん。一人でニコチンは、殺せませんよ」

 

 と、ダミ声で言うのは沖田。もちろん土方が青筋浮かべて反応。

 

「いや、殺せませんよじゃねェよ!! なに良い感じ出して人殺そうとしてんの!! 安西先生絶対許さないよ!!」

「って言うか神楽ちゃん! バスケするのはいいけど!!」

 

 新八の言葉に「いや、状況的に遊んでる暇ないです」とユーノがやんわりツッコム。

 

「なんで僕にシュートするの!? いつもの嫌がらせ!?」

 

 プンスカ怒りながら抗議する新八に対して、神楽はあっけらかんとした顔で。

 

「パスしただけアル」

「あれのどこがパス!? 明らかにゴールに向けて撃つ技だよね!?」

「あれくらいのパスもまともに取れないなんてホント使えない眼鏡アル」

「なんで呆れ気味!? あんなパス取れる奴黒バスの世界にもそうそういねェよ!!」

 

 いつものように喧嘩腰の会話を始めるチャイナと眼鏡。それを見ていた土方はため息を漏らす。

 

「たく、あいも変わらず万事屋の連中は能天気っつうか、なんつうか……」

 

 そこまで言って土方はタバコを咥え、火を点ける。

 

「まァ、なんにせよ。桂の野朗を捕まえられたから、良しとするか」

 

 タバコを吸いながら思わぬ収穫にほくそ笑む土方。なんやかんやで桂という大物攘夷志士をあっさり捕まえられた事は、彼にとってデカイ功績になることだろう。

 

「桂って誰?」

 

 とアリサは首を傾げながら質問する。

 

「ん? あァ、さっき突然現れたウザイくらい長髪の長い優男だ」

 

 土方は答え、煙を吐く。するとアリサは指をある方向に向けた。

 

「そいつならもうとっくにいないわよ」

 

 土方は「えッ?」と呆けた声を漏らし、桂がいた場所に顔を向ける。

 アリサが向けた指の先、さきほど倒れた木の近く。そこで化物をぶん投げていた桂の姿はなく、辺りを見回しても影も形もない。

 

「「ああッ!!」」

 

 すると今度は新八と神楽の驚く声。

 

「銀さんが!」

「いつの間にかいなくなってるアル!?」

 

 新八と神楽はあたりをキョロキョロと見渡している。二人の言うように銀時の姿もどこかに消えていた。

 

「「ああああッ!!」」

 

 と今度はなのはとユーノの声が。

 

「フェイトちゃんがいない!!」

「それに封印したジュエルシードも!!」

 

 なのはとユーノもまた辺りをキョロキョロ探す。

 黒衣の魔導師の姿やその使い魔の姿どころか、封印したはずのジュエルシードの姿すらどこかに消え去っていた。

 次に近藤が、

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

「いや、うるせェよ!!」

 

 と土方がツッコム。

 無駄にデカイ声を無駄に長く出す近藤。久々にセリフを喋った彼は、穴の空いている地面を指差す。

 

「さっきまで地面に刺さってた化物がいなくなっているぞ!!」

 

 どうやら怪物はまだ息どころか意識があったらしく、いつの間にか逃げられていたらしい。まあ、あのような人外ならあれだけの仕打ちを受けたとしても、動けそうではあるが。

 

 ない! いない! どこだ! どこいった!? どうしよう! ダメだやっぱりどこにもいない!! 彼女もいない! 山崎もいない! 俺最初からちゃんといますからね!? と言った具合にないないづくし。

 

 結局あんだけ頑張って、騒いで、ふざけて、三話かけて、特に収穫なんもなし。

 そんな無様な惨状に鬼の副長は頬をピクピクさせる。

 

「土方さん!!」

 

 と次に声を上げたのは沖田。驚きの声を上げるのは彼にしては珍しい。

 

「今度はなんだ総悟!! つうかこれ以上なにがなくなったんだ!!」

 

 土方は頬に青筋を立てて怒鳴り散らす。

 部下に苛立ちをぶつけてしまうのは上司としても大人としてよろしくないところ。だが、土方とてこの短時間での連続失態にイライラも頂点に達しようとしているので、声を荒げてしまうのは仕方ない。

 

「ここに……」

 

 そこまで言って、沖田は地面を指す。

 

「犬の糞が落ちてますぜ」

「だから!?」

 

 心底どうでもいいことだった!! と土方は内心呆れる。

 鬼の副長のイライラはさらに上がるが、沖田は構わず真顔で告げた。

 

「しかもできたてほやほやですぜ」

「だからなに!?」

 

 心底どうでもいい!! と土方は内心怒る。

 土方のイライラが限界突破するが、沖田は真剣みのある顔で言う。

 

「この立派なウ○コから俺は推理しやした。聞きたいですか?」

「ああ」

 

 と土方は頷き、抜刀。

 

「それが最後の言葉になりそうだからな。聞いてやるよ」

 

 心底どうでもいいので、とりあえず部下を叩き切ろうと思った土方。

 沖田は腕を組み思案顔。

 

「きっとこれはさっきのオレンジ犬女の野グソに間違いありやせん。だから、このウ○コの臭いを土方さんが覚えればきっと奴らを捕らえることが――」

「よしわかった――つまり死にたいってことだなッ!!」

 

 烈火の如く怒った土方は沖田に斬りかかろうと駆け出す。

 すると沖田はフンを蹴って土方の顔面に叩き付けた。顔面に汚物叩き込まれた土方の動きが止まる。そして沖田は一言。

 

「エンガチョッ!」

「――縁じゃなくて、テメェの命断ってやらァァァァァッ!!」

 

 土方の雄叫びが街の夜空へと消えていった。

 

 

「ブハハハハハハッ!!」

 

 フェイトが拠点にしているマンションの一室から高笑いを響かせるのは坂田銀時。

 死んだ魚のような目の男はビールが入ったジョッキを片手に食事を楽しんでいた。

 

「いやァ~、あのクサレポリ公共出し抜けてマジサイコーだわ! 今頃あいつら反省会でもしてんだろうな~!!」

 

 ジュエルシード確保よりも、真選組を出し抜いて悔しい思いをさせた事に上機嫌な銀時。人としてはかなり捻くれた喜び方ではあるが。

 オレンジジュースをジョッキに持ったアルフもご機嫌状態。

 

「あんたの〝サイコー〟はともかく、ジュエルシードが確保できたんだ。これなら残りもすぐ回収できそうだよ♪」

 

 順調、順調♪ と喜ぶアルフ。ちなみにこの使い魔、内心では白い魔導師――高町なのはよりも多くのジュエルシードが自分たちの手にあることが喜ばしいという、銀時と似た感じだったりする。

 

 かんぱーい♪ とジョッキをぶつけて喜びを分かち合う銀時とアルフ。

 

「アハハ……」

 

 フェイトはハイテンションの二人を見て苦笑しかでない。

 ビールをごくごく一気飲みした後、銀時はアルフの肩に腕を回す。

 

「アルフよォ~、今んとこジュエルミートいくつになったよ?」

 

 既に酒が回り始めたのか銀時の顔はほんのり赤い。

 アルフは絡み酒されながらも機嫌よく律儀に指を使って答える。

 

「とりあえず、八個だね。連中が今いくつ持っているか知んないけど、たぶんあたしらの方が数は上さ。あと、ジュエルシードな」

 

 地球のどこに落ちたのかも分からない石ころ大のターゲット。それをこの短い期間で八個も見つけることができたという事実はアルフも嬉しい。ちなみにちょっと前に一個回収していたりする。

 

「結構、結構♪ この分ならプレシアから報酬がっぽりふんだくれそうだな~」

 

 ブハハハハ!! と銀時はまた何がおかしいのか高笑いしながらビールを飲み干す。ちなみにこれでビール瓶三本目。

 さすがにそんな酔っ払い親父さながらの銀時を見てアルフは呆れた眼差しを向ける。

 

「うわー……大分出来上がっちまってるね……」

 

 するとフェイトは優しく微笑みを浮かべる。

 

「フフ……でも、いいと思うよ。銀時、今まで頑張ってくれたんだし」

 

 主の言葉を聞いてアルフも相槌を打つ。

 

「そうだね。回収されてないジュエルシードも残りわずかだろうし。今晩くらいパーッとハジケさせてもバチはあたらないか」

 

 とアルフも笑顔でフェイトに返す。

 だが、アルフの言葉を聞いてさきほどまで明るい雰囲気だったフェイトの面持ちが真剣みを帯びていく。

 

「どうしたんだい、フェイト?」

 

 使い魔は主の心の変化を感じ取り心配そうな表情を作る。

 

「あ、ごめんアルフ。これから先のことを思ったら、ちょっと、ね……」

 

 感慨深そうにジュースを啜るフェイトを見て「あッ……」と声を漏らすアルフ。主の心情を察することのできる使い魔はすぐに気付いた。

 

 決着の時がちゃくちゃくと迫っていることに――。

 

 野良ジュエルシードが少なくなっているということは、今度は持っているもの同志でのジュエルシードの奪い合いになる。

 

 ――フェイトはやっぱり、あの白い魔導師のことを少なからず気にしている……。

 

 それはジュエルシードを争奪してきたライバルと決着をつけなければいけないという感情だろう。

 だが、それだけだろうか? 

 当の白い少女はフェイトに対し、話をしたいと何度も訴えてきた。それは主に少なからず敵対心以外の感情を芽生えさせることになっているのかもしれない。

 そう、考えたアルフ。彼女は心配そうにフェイトに声をかける。

 

「フェイト、やっぱりあの白いガキンチョとは戦いづらいのかい?」

 

 元々、性格の優しい主。

 いくら魔導師として優れていても、彼女自身の闘争本能みたいなものはお世辞にも強いとは言えない。だが、それでも母親の笑顔を取り戻したいという一心で、今の今までしたくもない戦いをしてきた。

 だからこそ、アルフもそんな彼女の思いを汲み取って意の一番に戦陣を切ってきたのだ。

 

「ううん。心配しなくても大丈夫だよ、アルフ」

 

 使い魔を心配させまいと主は優しげな笑みを浮かべた後、決意ある表情を作る。

 

「私は絶対にジュエルシードを集めて母さんの願いを叶える。だから、ジュエルシードを全部集めきるまで躊躇も戸惑いもするつもりはない」

 

 一歩も引かない――。

 そんな強い意志がフェイトの瞳からは感じられたのだ。それは使い魔として繋がり(リンク)がなくともふつふつと感じられるほどに。

 フェイトの言葉を聞いたアルフは力強く答える。

 

「フェイトの決意は使い魔であるあたしが〝一番〟よく分かってるつもりだよ! フェイトが母親の願いを全力で叶えられるように、あたしも自慢の牙と拳を使って全力でフェイトをサポートするよ!」

 

 と言ってアルフはフェイトの肩に手を置き、サムズアップ。フェイトはそんな使い魔の言葉を聞いて笑顔になる。

 

「ありがとう。アルフの気持ちは私にはもったないくらい心強いよ」

 

 微笑むフェイトは「けど」と言って真剣な表情に再び戻る。

 

「心配なのはあの正体不明の怪物……」

「あー……確かにあのバケモンは目的が分からないし、不気味だったね」

「あいつには他にも仲間がいるのかもしれない」

「つまり、あの魔導師の子以外にもジュエルシードを狙っているグループがいるってことかい?」

「たぶん。だから、これからもっと敵が多くなる可能性が高いかも」

 

 「なるほどねぇ……」とアルフは腕を組み難しい顔を作る。

 すると銀時が「でぇじょうぶだ」と言って二人の肩に腕を回す。

 

「俺がいりゃあ、バケモンだろうが改造人間だろうがマヨラーだろうがまとめてぶっとばしてやるから安心しな」

「いや、なんか余計なのまでぶっとばそうとしてない?」

 

 とアルフはやんわりツッコミ入れるが、銀時の言葉もまた心強いのは確かだ。

 心強いのだが……

 

「つうか酒くさ……!」

 

 アルフは思わず鼻を抑える。

 人よりも遥かに匂いに敏感な狼の使い魔。絡み酒してくる銀髪の酒臭さに顔をしかめてしまう。

 

「ありがとう、銀時」

 

 だが、よい子のフェイトちゃんは酒くせぇ男に対して素直に感謝を示す。しかも笑顔で。

 反対にアルフは呆れた表情だ。

 

「たく、明日プレシアの報告に行くっていうのに、そんなに酔って大丈夫なのかい?」

 

 アルフの言葉を聞いてフェイトの表情が沈んだものとなる。

 フェイトの変化に、ハッといち早く気づいたアルフは慌ててフォロー。

 

「だ、大丈夫だよ! ジュエルシードを八個も手に入れたんだ! あんたの母さんもきっと褒めてくれるよ!」

 

 きっとバケモノのことよりもフェイトが一番不安に感じているのは母親のことだろう。

 自分の出した結果に満足してくれるか? 笑顔になってくれるか? むしろ不満を言われるのではないか? といった不安が彼女の中で渦巻いていることだろう。

 

「安心しろって」

 

 酔った銀髪がコップに飲み物を注ぐ。

 

「ちゃんと結果出してんだ。おめェの母ちゃんがいくら鬼ババつっても、娘が体張って出した結果に文句は言わねェだろ」

 

 そう言った銀時は、飲み物を注いだコップをフェイトとアルフの前に差し出す。

 

「今は飲んで食って、不安なことは全部忘れな。こう言う祝いの時間は嫌なことなんて全部発散させちまうもんだ。そして心機一転明日も頑張ろうってな」

「あんたは単純だね~。たかだか飲んで食うだけで嫌なこと忘れるなんて」

 

 呆れたように苦笑するアルフに対し、銀時は「へッ」と鼻で笑う。

 

「飲んで忘れるってのは大人にしかできねェ特権ってヤツだ」

「大人って意外と簡単なんだね」

「寧ろ色々と難しいから大人は酒で嫌なことぜぇ~んぶ吐き出して忘れてんだよ」

「それって、ただの現実逃避ってことだろ」

 

 と言いながらも、アルフは銀時に差し出された飲み物を一気に飲む。

 するとフェイトも何度か頷き、決意するように一気飲みする。

 

「んじゃ、俺はさっそく吐き出してきま~す」

 

 銀時は口元を押さえてトイレ向かう。

 あんたが吐き出してどうする! と言うアルフのツッコミは入ってこなかった。

 ただ二人から、

 

「「…………ヒック」」

 

 という音が聞こえた。

 

 

 場所は変わって月村邸の庭園。

 

「えー……ということで……」

 

 と言って、近藤が話し出す。

 

「すずかちゃんのはからいにより、我々は今日ここで反省会を行うことになった。今回の失敗を教訓にし、より一層ジュエルシード回収を頑張ろうというワケだ。では今回はみんな飲み、話し、触れ合い、お互いを高める糧にしてくれ」

 

 そう言って近藤は右手でコップを掲げる。

 

「俺もこの一杯を飲んだら、後はふんどしをしめなおすつもりだ」

 

 そこまで言った近藤は一旦溜めを作ってからひと際大きな声を出す。

 

「そういうワケで、カンパーイ!」

 

 音頭を取った局長(ゴリラ)の姿は――ふんどし一丁。股間以外は筋肉やら肌やらを惜しげもなく見せ付けていた。

 

「「「「きゃあああああああああああああああああああッ!!」」」」

 

 当然だが、年端もいかない少女達がほぼ全裸の男を受け入れるワケなど決して無く。幼い悲鳴が月村邸の広いガーデンに響く。

 

「なにやってんであんたはァァァァァァッ!!」

 

 新八は叫び、全裸に近い裸体を晒す近藤(バカ)の無防備な腹にドロップキックをドカァーッ!! と浴びせた。

 

「ぐぼォォォッ!!」

 

 さすがの偉丈夫もこれにたまらず悲鳴を上げながら体をくの字に曲げて、後ろに吹っ飛ばされる。

 ふんどし一丁は「うごごッ……!」と腹を抑えて苦しむ。

 

「いたいけな女の子が三人もいるのにあんたはなにやってんですか!!」

 

 のたうつ近藤などまったく意に介さず、新八は怒鳴り声を上げる。

 さすが万事屋一番の良識&ツッコミとして普段機能している青年。たまにポンコツになることもあるが、異常行動への反応が早い。

 

「なに言ってるアル。ゴリラの肌見せ芸なんて今に始まったことじゃないネ」

 

 とここで頬杖付きながら異を唱えるのは神楽。

 

「だから怒る必要なくね? みたいな顔しないでよ!! 普通に小さい子に悪影響なんだから!!」

 

 もちろん新八は怒鳴って反論。

 

「ま、待ってくれ新八くん……」

 

 ここで近藤が腹を押さえながら青ざめた顔で起き上がり、やんわり抗議。

 

「べ、別に俺はいつもの変態的な意味でふんどし一丁になったわけではないんだ」

「それ、いつもは変態的な意味で行動してる自覚あるってことじゃねェか! なお性質悪いは!」

 

 新八のツッコミに構わず近藤は腹の痛みに耐えながら弁明を続ける。

 

「お、俺のこのふんどし一丁スタイルには意味があるんだ」

「意味?」

 

 と新八は訝し気に首を傾げる。

 近藤は「その通り」と腕を組んで頷き、説明しだす。

 

「隙をつかれ、ジュエルシードを取られてしまったなのはちゃんたちに対し、俺はこの裸体(ネイキット)で彼女たちに俺の気持ちを伝えようとしたのだ」

「いや、その姿のあんたを見てもただの公然猥褻おじさんって印象しか受けないんですけど……」

「そうか。ならば俺の口から直接伝えよう」

 

 近藤は腕を組み、目を瞑って語る。

 

「『生まれたままの姿で心機一転頑張ろう』、『ふんどしを締めなおそう』、『お妙さんに俺の体を見て欲しい』、『例え何も持たずとも俺は君たちのために尽力しよう』、『お妙さんと合体したい』、『お妙さんを俺の肉体美でメロメロにしたい』、『お妙さんとラブホ行きたい』といった俺の気持ちの現れを伝えようとしたのだ」

「いや、後半ほぼあんたの気持ち悪い欲望しか伝わんなかったんですけど」

 

 新八のツッコミに続き、

 

「とりあえず、見苦しいからさっさと服着て」

 

 アリサの冷たい一言。ネイキットゴリラは落ち込みながら服を着ることにした。

 

 なのはは「アハハハ……」と苦笑いを零す。だが、すぐに沈んだ表情を浮かべ始めた。

 それにいち早く気付いた新八はジュースの入ったグラスを二つ持ちながら、ツインテールの少女に声を掛ける。

 

「あれ? どうしたのなのはちゃん。もしかして近藤さんの裸見て気分悪くなっちゃった?」

「あの、新八くんさり気なく酷くない?」

 

 と涙目になるゴリラはスルー。

 

「う、ううん。大丈夫です」

 

 自身の変化を悟られたなのははすぐに表情を明るくする。だが、どことなくその笑顔はぎこちない。

 

「はい、どうぞ」

 

 と言って、新八はなのはにコップを渡す。

 

「ありがとうございます」

 

 なのはは笑顔でお礼を言って受け取る。そのままジュースを口に含む彼女の顔はやはり、憂いをおびているのが伺えた。

 新八は頬を掻きながら聞く。

 

「もしかして、ジュエルシードが思うように集まらないから落ち込んでいる、とか?」

「ち、違います!」

 

 となのははすぐに否定するが、やがて表情を落とす。

 

「……いえ、それもありますけど」

「もしかしてフェイトちゃんのこと?」

 

 新八の言葉を聞いて少し反応を見せた後、なのはは首を小さく縦に振る。

 

「……私、全然フェイトちゃんとお話できてないなって。これから先、フェイトちゃんの心を本当に動かせるのかなって」

 

 「あッ」と声を漏らす新八は少女の悩みを理解した。

 なのはの言うとおり、今までの接触から考えてフェイトの心を変えられているとは思えないのは普通だ。

 

「大丈夫だよ」

 

 だが、新八はなのはの行動が無駄になっているとは思っていない。

 即座に否定した青年の言葉を聞いて、なのはは不安そうな瞳を向けた。そんななのはの顔を見て、新八は微笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「だってうちの天然パーマのぐうたら男だって、人の心に影響を与えるような事を言えるんだし」

「それってもしかして……銀時さん?」

 

 首を傾げるなのはに、新八は頷く。

 

「あんな人でも人の心を動かせるんだよ? だったら、なのはちゃんの言葉だってフェイトちゃんの心を動かしてるかもしれない」

「そう、でしょうか……」

 

 新八の言葉を聞いてもなのはの顔は暗いまま。

「それに」と新八は言葉を付け足す。

 

「ぶっちゃけ……銀さんを説得して時の庭園に行けるチャンスをふいにした僕の失態の僕の方がダメダメだよ」

 

 ハハ……、と新八は乾いた笑い声を出しながらみるみる落ち込んでいく。

 確かに、銀時にこちらの事情を話していればフェイトの心変わり云々など抜きにして時の庭園に直行することができたのだ。はっきり言って、逃した魚は大きい。

 そんな悲壮感漂わせる新八をなのはは慌てて元気づけようとする。

 

「だ、大丈夫ですよ新八さん!! ジュエルシード集めをしていれば銀時さんにすぐまた会えます!! その時に今度こそちゃんとお話しすればいいんです!!」

「そ、そうだね……。まだまだチャンスも時間もあるんだし」

「はい! 私も根気よくフェイトちゃんに気持ちを伝えられるように頑張ります!!」

 

 うん! と声を出して、力強くガッツポーズするなのは。その姿を見て新八も自然と笑みを浮かべる。

 

「なのはちゃんも僕もまだまだ若いんだし、失敗なんて恐れず当たって砕けろだ!」

 

 そう言って新八は手に持ったグラスのジュースをグイッと飲み干す。

 すると突然、新八の背中に大きな影が激突。凄まじい勢いで吹き飛ばされた新八は口からジュースを「ブブーッ!!」と吹き出した後、ズザザザ! と芝生をむしりながら顔面スライディング。

 

「し、新八さん!?」

 

 なのははいきなり吹っ飛んだ新八に驚く。

 

「似合わないセリフ言う眼鏡(ツッコミ)に私、引いちゃったかもしれないネ」

 

 と言うのは定春に乗った神楽。チャイナ少女は悪びれもせずに苦虫を噛み潰したような顔。

 

「いや、かもじゃなくて轢いてんでしょうが!」

 

 新八は顔を起き上がらせながら怒鳴り、ペッと草を口から吐き出す。そしてビシッと定春に乗った神楽を指さす。

 

「その(さだはる)で人のこと轢いてんでしょうが! つうかなにすんの神楽ちゃん!!」

「バカヤロォー!!」

 

 と神楽はいきなり新八の顔面を殴る。

 「おぼォっ!!」と悲鳴を上げて吹っ飛ぶ新八と、「えええええっ!?」と驚くなのは。

 今度は背中で芝生を削りながら吹っ飛ぶ眼鏡に対し、神楽は握り拳を作りながら涙を流す。

 

「私の大切な馬車馬(かぞく)を車と書いてさだはると呼ぶとは何事アルか! 見損なったネ!!」

 

 新八はのっそりと立ち上がり青筋を浮かべ、

 

「馬車馬と書いてかぞくと呼んでるおめェの方がひでェじゃねェかァー!!」

 

 理不尽な暴力にぶち切れた眼鏡はチャイナとタイマン張るが、どう考えても結果は見えているだろう。

 世紀末モヒカン並みのやられっぷりを見せる新八をなのは呆然と見ている他なかった。

 

「あれ? 土方さんと沖田さんは?」

 

 ふと、なのはは気づく。少し怖い顔の男と超ドSの青年が、今に至るまで姿を見せていないことに。

 

 

「くそがァ……」

 

 場所は夜のビルの屋上。そこには、一人の男の掠れるような声が聞こえる。

 男の体のいたるところが折れ曲がり、潰れている。生物としての生命活動を停止してもおかしくないありさま。なのに喋れる姿はまさに異様そのもの。

 

「チクショー……なんで俺がこんな目にィ……」

 

 恨みの言葉を吐き続けるのは全身を血まみれにし、足と腕など全身の骨を複雑に骨折、もしくは砕けさせた攘夷志士――後藤仁、ではない存在。

 

『酷い有様だな』

 

 それをなんの感情も感じられない瞳で見つめるくノ一。白いボードで会話する女忍者を後藤は睨む。

 

「うるせェ……まさか……桂小太郎が……上から降ってくるとか……誰が予想……できんだよ……」

 

 息も絶え絶え。会話するのも困難なはずであるのに、それでも構わず会話を続ける後藤(パラサイト)

 

『その体、そろそろ捨てたらどうだ? この後もお前には大事な仕事があるはずだ』

 

 女忍者の文字を見て後藤は、

 

「……そうだな」

 

 後頭部を内側から開こうとする。

 

『まて』

 

 だがそこで、くノ一がボードで待ったをかける。

 後藤は「あん?」と片眉を上げ、

 

『どうやら――』

 

 女忍者の視線は後ろへと向く。

 

「動くんじゃねェぞ、忍者女」

 

 くノ一の後頭部に刀の切っ先が向けられた。

 女忍者が首を後ろに曲げ、ボードはパラサイトに見せる。

 

『客のようだ』

 

 くノ一の後ろにいるのは刀を右手に持ち、左手にフライドチキンを持つ沖田総悟。

 

「お巡りさんだムシャ。下手なことすんなよ? もしかしたら間違えて片腕斬っちまうかもしれェからな」

 

 そう言った沖田はまた分厚い肉がついたフライドチキンに齧り付く。

 くノ一はボードの文字が書いている面を沖田に見せる。

 

『とても警察の発言とは思えんな』

「優しい犬のお巡りさんを期待してんなら、ご愁傷様だな」

 

 今の言葉は沖田ではなく、右から聞こえてきた。

 くノ一から見て右側の暗闇から現れたのは、煙草を咥えた眼光の鋭い男――土方十四郎。

 

「今は鬼よりこわ~いお巡りさんが巡回中だ」

 

 と言って土方はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。するとくノ一は鉤爪を装着させた手を動かす。

 

「おっと動くな」

 

 と言う土方は、刀に素早く手をかける。

 

「指の一本や二本飛んでも俺は構わねェぞ?」

 

 さすがにマズイと感じてくノ一の動きは停止。

 その様を見ていた後藤は息も絶え絶えに喋る。

 

「おい、どういう……ことだ……。俺たちのこと……嗅ぎつけられてるぞ……」

 

 ズタボロの姿で喋るパラサイトを見て土方の視線が鋭くなる。

 

「おいおい、こんな状態でまだ生きてんのか?」

「穏健派攘夷志士の皮被った過激派攘夷志士が随分様変わりしたもんだ……」

 

 沖田も見た目が完全無欠の化物に少なからず興味抱いているようだ。

 

『いつから我々の監視に気づいていた?』

 

 くノ一のボードを見て土方が答える。

 

「まぁ、教える義理はねェが折角だから言っておくか。なのはが初めて魔法を使った時だ」

『ほォ、忍びの監視に気づくとは恐れ入った。さすがは真選組と言ったところか』

「俺から言わせれば、君の監察はちょっと意識を相手に向けすぎてるよ」

 

 そう言って沖田の後ろから出てきたのは真選組の監察――山崎退。

 山崎は右手の人差し指を立てて得意げに言う。

 

「監察の基本はいかに自分の存在を消せるかだよ、女忍者さん」

「さすがだなジミー。オリキャラより地味なキャラは言うことが違うぜ」

「沖田隊長それ褒めてます!?」

 

 ひでェ言い草に対して山崎は涙目になる。すると女忍者は次の文字を見せた。

 

『喫茶店でわざわざ会話していたのは私の視線を探るためか』

 

 土方は「ああ」と言って答える。

 

「案の定、俺らのことジーっと見つめていたからな。お陰で存在に確証が持てた。忍者のクセに爪があめェ野郎だ。御庭番の連中の爪の垢でも貰ったらどうだ?」

 

 皮肉交じりの土方の言葉を聞いて山崎は自分の顔を指す。

 

「つうかあの時おれまったく何も教えてもらってなかったんですけど? 最初に視線に気づいて教えたの俺なのに、この生け捕り作戦今の今まで何一つ教えてくれませんでしたよね?」

 

 翠屋の屋外での会話が今回のことに繋がっているとはまったく知らなかった山崎は不本意とばかりに言う。

 

「ああ悪い。お前に言うの忘れてた」

 

 と土方は一ミリも反省していない顔。

 

「ちょっとォーッ!! 深い理由あるかと思ったらそんな単純な理由ゥ!? いくらなんでも酷くないですか!?」

 

 抗議する山崎だが土方も沖田もスルー。

 土方は鋭い視線を女忍者に向ける。

 

「そんでテメェは何モンだ? さっきの会話で俺らの世界の奴だってのはもう分かってんぞ?」

「いや、会話つうかそこの忍者さんボードでしか喋ってませんけど……」

 

 と山崎はさり気に言う。

 土方に続いて沖田も鋭い視線を向ける。

 

「俺らの世界のチンピラ犯罪者を『こっち』に連れてきたのもテメェらだろ? とっとと観念して洗いざらい吐いちまいな」

「無論、忍びであるテメェのバックには主だか雇い主だか、裏で糸引いてる野郎がいんだろ? 俺らが知りたい情報は残さず吐いてもらうぞ」

 

 喋りながら煙草の煙を吐く土方。そして沖田が黒いサデスティックな笑みを浮かべる。

 

「たとえ吐かなくても別に俺は構わねェぜ? その分警察としての拷問(じんもん)が楽しくならァ」

「あの、沖田隊長……尋問と拷問を一緒くたにするの止めてください」

 

 顔を青くしてドン引きする山崎。

 

 するとくノ一は足元で転がっている後藤に目を向けると、怪物もまた視線を女忍者に向けた。

 突如、後藤仁の後頭部が内側からパカっと開いたと思うと――中から虫のような奇怪な生物が姿を現し、聞いたことないような奇声を発する。

 

「キィァーッ!!」

「ぎゃあああああああッ!! なんか出たーッ!!」

 

 山崎はまさかのグロシーンにドン引き。

 土方と沖田の視線も一瞬、奇形の怪物に奪われる。そしてその隙を逃さず、くノ一は懐に素早く手を入れ、小さな黒いボールを取り出す。

 

「逃がすか!」

 

 だが、敵の行動にいち早く気づいた沖田は斬りかかろうとするが、一歩動きが早かった忍者は地面に黒い玉を投げる。

 すると玉は弾け、あたり一面を黒い煙が覆う。

 

「くそッ!? 煙幕か!」

 

 土方は腕で目をガードした後、当たりを見渡そうとするが視界はゼロ。

 

「そこだァーッ!!」

 

 沖田が気合一閃――土方に向かって斬りかかる。

 

「どわァァァァッ!?」

 

 土方は慌てて背中をのけ反らせて斬撃を回避。

 

「チィッ!」

 

 と沖田は舌打ち。

 

「なんで悔しそうななのお前!? 今のワザと!? 絶対ワザとだよね!?」

 

 土方はこんな状況でもすかさず上司の寝首を掻こうとする部下に冷や汗流す。

 徐々にだが煙は晴れ、辺りが見えるようになる。すると山崎が声を上げた。

 

「副長ォーッ!! 敵はもうビルからビルに飛び移って逃げちゃってます!!」

 

 遠くの方を見れば、肩に虫みたいなのを乗せた忍者の姿が。

 

「どうします土方さん。追い掛けますか?」

 

 沖田の質問に土方は舌打ちをして首を横に振る。

 

「いや、深追いは得策じゃねェ。あの足じゃ到底俺たちじゃ追いつけねェよ」

 

 もう姿が見えなくなっていく忍者を沖田は眺める。

 

「土方さんが魔法を使えてれば――」

「無茶言うな」

「ケツに翼を生やして『魔法おっさんリリカルニコチン』に変身して追い掛けられるんですけどねェ」

 

 土方は煙草に火を付ける。

 

「ああ。それができたらテメェを真っ先に天高くから落としてやるよ」

 

 ちなみにだが、さきほどまで女くノ一がいた場所には緑のドロドロした液体が広がっていた。

 

 

「あれ? そう言えば山崎さんは?」

 

 とすずかが首を傾げる。

 

「あッ……忘れてた……」

 

 素で山崎の存在を忘れていたなのはがやっと思い出す。ちなみに気付いたのは、反省会がお開きになりかけの頃。いなくなった土方や沖田よりずっと遅い。

 

 

 それから数時間が経過した。

 場所は変わり、時の庭園の玉座の間。

 

 玉座に座ったプレシアは肘掛に肘を置いて頬杖を付く。もう片方の肘掛に人差し指をトントンと小刻み鳴らしながら来客が来るのを待つ。

 プレシアはふっと肘掛をトントンと叩く人差し指を止めて、空中にウィンドを出現させた。そして片手を使ってウィンドを操作すれば、写真の画像が出現する。

 そこには微笑みを浮かべる金髪の少女と、その小さな体を抱き上げた自分が映る――ツーショットの写真。

 写真を少し複雑な表情で見ながらプレシアはおもむろに口を開く。

 

「……二十年弱……長いようであっと言う間だったわね……」

 

 この二十年以上という歳月の末、自身が行おうとしている行動は本当に正しいのかどうか。そのような疑問が何度頭を過ったか。だがその度に、自分の進んできた道は正しいと信じて突き進んできた。

 例え、犯罪という道に足を踏み入れることになったとしてもだ。

 

 プレシアがそうやって写真を見ながら物思いにふけっていると、ギギィと言う音を立てながら少し大きな扉が開く。それに気づけばすぐにウィンドを消して、来訪者へと目を向ける。

 扉をゆっくりと開けながら入って来るのは白衣を羽織った白髪の男だ。

 白衣の男を見てプレシアは頬杖を付きながら目を細める。

 

「……いつもながら、急な来訪ね。しかもこんな夜分に」

「ですが、あなたのご自宅の『警報装置』がちゃんと私の来訪を知らせてくれるのですからいいじゃないですか」

 

 笑みを浮かべる白衣の男にプレシアはため息を吐く。

 

「この四年間、度々言ってるけど時の庭園の防衛システムをインターホン代わりみたいにするは止めて欲しいものだわ……」

「こっちだって下手に通信はしたくありませんから。もし、管理局に通信を傍受された場合もちゃんと考慮に入れてるんですよ」

「管理局にではなく、〝私に〟に通信先を探知されるを恐れているのではなくって?」

「フフフ……まぁ、天下の大魔導師に雷の一つでも落とされたらこちらも溜まったものじゃありませんしねェ」

 

 クスクス笑いながら言葉を発した後、白衣の男は右手を軽く動かしながら説明する。

 

「私たちの関係は悪魔で利害の一致からの協力関係。ならァ、当然お互いに最低限の身の安全は確保しておくというのが寧ろマナーではありませんか?」

「ふん。減らず口もそこまでいくと大したものね」

 

 プレシアが苛立たし気に吐き捨て、鋭い眼光を白衣の男に向けた。

 

「それで、この忙しい時にあなたは何しに来たの? 私の人形がジュエルシードを集め切れた報告でもしに来たの?」

「いえいえ。どうやら私の部下の報告によると、あなたのお人形さんのジュエルシード集めは中々に芳しくないようですよ?」

 

 白衣の男の言葉を聞いてプレシアの眼光がより鋭くなる。

 

「どう言うことかしら?」

「フェイトさんを監視していた部下の報告によりますと……」

 

 白衣の男は、今フェイトとジュエルシードを巡って争っているグループの特徴を説明。

 説明を聞き終わったプレシアは口元を手で覆い、視線を流した後、白衣の男に目を向ける。

 

「……厄介そうなのは、その〝白衣の魔導師〟だけのようね」

「他は魔法も使えない味噌っかすみたいな連中ですので、まぁ……さほど気にする必要はないと思いますよ」

「そう。……それで? あなたはどんな用でこの時の庭園まで来たの? 人形から聞けるであろう情報をわざわざ私に言いに来たワケではないんでしょう?」

 

 プレシアの疑問に対し、白衣の男は待ってましたとばかりに口元を吊り上げ、玉座の間の空いた扉へと目を向ける。

 

「こっちに持ってきなさい」

 

 声を掛けると同時に、白衣の男の部下であろう黒いスーツを着た成人男性二名が姿を現す。彼らが協力して持っているのはカプセル。

 カプセルの両端を持って門を潜りながら入って来る男たち。

 プレシアはカプセルの形状を確認。楕円形の錠剤のような形をしており、上の部分には中の様子が覗けるであろう小窓が付ついていた。大きさは子供が一人入れそうなくらいだ。

 プレシアは持って来たカプセルを見て訝し気に片眉を上げる。

 

「それは?」

「あなたへの贈り物」

 

 男の言葉を聞いてプレシアは少し思案した後、カプセルの形状と大きさからハッと中に入っている物を予想した。

 少し動揺する気持ちを落ち着かせ、毅然とした態度で問いかけようとする。

 

「中身はまさかと思うけど――」

「あなたが前々から〝欲しがっていたモノ〟」

 

 白衣の男は瞳を鈍く光らせ、ニヤリと口元吊り上げる。

 その間に黒服の男たちはゆっくりとカプセルを白衣の男の横まで持って来て、慎重にカプセルを地面へと置く。

 プレシアは高鳴る心臓を落ち着けながら、表情を崩さないようにゆっくりとした動作で玉座から腰を上げた。

 床に置かれたカプセルの前までやって来たプレシアは、チラリと白衣の男に視線を向ける。

 

「……中身を確認させてもらっていいかしら?」

「えぇ、もちろん」

 

 白衣の男は頷き、カプセルに付いた青いボタンを押す。するとブシュー! という音と共にカプセルの蓋に隙間ができ、中から白い煙が漏れる。

 やがて蓋がゆっくりと開き、プレシアの目にカプセルの中身が映り込む。

 

「ッ!」

 

 そして中身を確認したプレシアの瞳は見開かれ、表情は驚きに包まれた。だが、すぐに表情を平然としたものに戻して白衣の男へと顔を向ける。

 

「なぜ、カプセルに?」

「いくら抜け殻でも、さすがに〝コレ〟を人目に晒すワケにはいきませんから」

 

 「まあ、念の為ですが」と言葉を付け足す白衣の男。

 プレシアは「そう」と短く答えた後、更に問いかける。

 

「……それで? なぜ今なの? フェイトはまだジュエルシードを集め終えてないわよ? 少し私に渡すのが早いんじゃない?」

 

 白衣の男は頭をぼりぼり掻きながら少し困ったように話し始めた。

 

「どうやら、管理局が出張ってきそうでして。正直、あなたにはとっととアルハザードに行ってもらって、〝プロジェクトFとフェイトさんを引き渡してもらう〟準備を進めようと思いましてね」

 

 白衣の男の言葉を聞いてプレシアは少し目を細める。

 

「なるほど。どうやら、計画を前倒しせざる負えなくなったみたいね」

「まったく……人材不足で無能で偽善だらけの組織が出張るなって話ですよね」

 

 やれやれと白衣の男は大げさに首を横に振り、プレシアはニヤリと口元を歪めた。

 

「えぇ、まったくその通りね。あんな役に立たない組織恐れるに足らないけど……」

 

 そこまで言ったプレシアは忌々しそうに表情を冷たいものへと変える。

 

「出て来たら出て来たでメンドーこの上ないわ」

「言いますねェ」

 

 白衣の男は半笑いで相槌を打ち、プレシアは訝し気な視線を向けた。

 

「しかし、どうするの? ジュエルシードが集まり切っていないままだと、私の計画もあなたの計画も中途半端なままよ?」

「心配には及びません」

 

 プレシアの問いを聞いて白衣の男は右手を出しながら余裕の笑みを浮かべ、ゆっくりとプレシアに今後の計画の内容を話し始める。

 白衣の男の話を聞いていくうちにプレシアの目はささやかに見開き、やがて口元を薄っすら吊り上げた。

 

「それはいいわね。それなら、ジュエルシードも予定より早く集まるわ」

「フフフ……でしょう?」

 

 白衣の男は満足気に怪しく笑みを零し、

 

「アハハハハハハ!!」

 

 とプレシアは目を右手で覆って高笑いを浮かべ、狂ったように天向かって語り掛ける。

 

「これならもうバカバカしい母親ごっこの必要もないわ! なにもかも全て上手くいく!! 全てを取り戻せる!!」

 

 白衣の男も手をパンパン! と軽快に叩いて喜びの声を上げ出す。

 

「えェ! えェ! まったくその通り! 私もあのお人形をやっと手にできる!!」

「なら景気よく、あの人形に〝真実〟でも話してあげましょうか! どうせもういらないのだし!」

「アハハハハ! それはいい! 文字通り精神崩壊を起こしますよ!! あの人形は!!」

 

 白衣の男は心底おかしそうに語り、プレシアはひとしきり高笑いした後に、右手を白衣の男の前に出す。

 差し出された右手を見て白衣の男は小首を傾げた。

 

「……なんのマネですか?」

 

 プレシアはニコリと笑みを浮かべる。

 

「握手しましょ? もうそろそろ、あなたとの協力関係も終わりそうですし、記念に」

「おやおや。まさかあなたからそんな提案を受けるとは」

 

 白衣の男は少し意外そうに言った後、左手を差し出す。

 

「では、お互い最後まで頑張りましょう」

 

 白衣の男は差し出された右手を握り、プレシアは笑顔で告げる。

 

「えぇ――〝さようなら〟」

 

 バァン!! とプレシアの左手から放たれた紫色の雷撃が、白衣の男の腹を貫通した。

 白衣の男は自身に何が起こったのか分からないといった顔。だがその視線はゆっくりと、下へと向かう。

 腹部に起きた現象を見れば、腹は大きく抉れ、貫かれていた――。

 

「……あれ?」

 

 と言いながら白衣の男は横に倒れ、それを見た黒服たちは慌てだす。が、プレシアは左手を彼らに向けて魔法陣を展開、そして雷撃を黒服たちに浴びせて黒焦げにした。

 さきほど行った魔力攻撃は非殺傷設定など一切行っていないので、直撃すればもろに肉体的ダメージが反映され、間違いなく死は免れない。

 

「…………て、テメェ……!」

 

 白衣の男は口から緑色の血を垂れ流し、腹に空いた風穴からも緑色の血を垂れ流しながらプレシアを睨み付けた。しかし、当のプレシアは冷めた目線で倒れ伏す男を見る。

 

「あら、まだ生きていたの?」

「だ、騙しや……がった……のか……!」

 

 息も絶え絶えに怒りの籠った目と言葉を向けてくる白衣の男に、プレシアは冷たい目線を向け続ける。

 

「欲しい物は全て揃ったわ。だからあなたは……」

 

 プレシアはゆっくりと右手を死ぬ寸前の白衣の男へと向け、魔法陣を展開。

 

「――消えなさい」


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