魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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ぶっちゃけpixiv版はの進み具合があまり芳しくはないのですが、こちらの方はそろそろ追いつきそうなのでペースを少しだけアップしています。


ジュエルシード回収編
第三十二話:ちょっと会わない間に急成長するキャラがたまにいる


 ジュエルシードマユゾン事件が数日経ったある日。

 

 時刻は夜となり、街中にジュエルシードの微弱な反応を察知したなのは組。

 夜でも街中を歩く人は多く、行き交う人間を尻目に手分けしてジュエルシードを探すのは一苦労だ。

 なので、ジュエルシードが感知できる人間を基点にして四組に分かれた。

 班分けは以下の通り。

 

なのはチーム:新八、神楽。

ユーノチーム:土方、近藤。

アリサチーム:沖田、山崎。

すずかチーム:定春。

 

 もっと分かれてもよかったのだが、魔力感知ができない江戸組では街中でどこに落ちたかも分からない特徴のある石ころを探すレベルになってしまう。なので、一人一人が探すよりも効率が良いと判断しての組み分けだ。

 

「見つからない……」

 

 不安な表情を作るなのはに新八は相槌を打つ。

 

「人も多いし、範囲も広いもんね」

 

 一時間ほど街を散策したが一向に見つかる気配がない。

 

「まったく、『この辺一体』にジュエルシードがあるとかアバウト過ぎネ。もっとピンポイントに絞れないアルか?」

 

 歩き疲れたのか探し飽きたのか、しゃがみ込む神楽。それを見た新八はため息を吐く。

 

「しょうがないよ。発動してないジュエルシードじゃ、大まかにしか探知できないんだから」

「でも、ジュエルシードには発動してほしくはありませんけどね」

 

 となのはは苦笑。

 

「そうアルなー……」

 

 説明を聞いても神楽の機嫌はさほどよくならない。

 

「頑張って地道に探そう、神楽ちゃん」

 

 なのはの元気づけに「へーい」とやる気なく返事するチャイナ少女。彼女のアンニュイな視線は、眼鏡の青年へと向く。

 

「にしても、新八。ジュエルシードが見つかった場合どうするアルか? 私はともかく、雑魚(しんぱち)じゃ足手纏いアルよ?」

「おいっ!? 今雑魚って字をしんぱちって読んだろ!? いくらなんでもその読み方は酷過ぎるだろ!!」

「だってぱっつぁん、ジュエルシードの怪物が出てきても太刀打ちできるアルか? あんな化け物共、魔法なしで対抗できるなんて私か銀ちゃんかチンピラ警察共くらいアルよ?」

「いや、もうちょっと僕の力高く評価してもよくないかな!? 原作だと僕も結構人外と渡り合ってきたと思うよ!」

 

 さすがに聞き捨てならいとばかりに新八は食って掛かるが、すぐに冷静な表情へと変化。

 

「……ま、僕には『秘策』があるけどね」

 

 新八は眼鏡をクイっと上げてニヤリと笑みを浮かべると、神楽も不敵な笑みを浮かべ始める。

 

「なに言っているアルか? 私にだってじいさんから貰った『秘密兵器』があるアル」

「えッ? それってなんですか?」

 

 なのはは二人を交互に見ながら興味津々といった顔。

 

「それは後のお楽しみだよ、なのはちゃん」

 

 含みのある笑みで返す新八。どうやら相当な自信があるらしい。

 

「ジュエルシード! どっからでもくるヨロシ!」

 

 パン! と神楽は拳を掌に叩きつけた。

 新八は「だけど」と言ってなのはと神楽を交互に見る。

 

「僕たちの『本当の狙い』はジュエルシードじゃないでしょ?」

「銀時さん、ですよね?」

 

 となのはが答えれば、新八は「その通り」と指を立てた。

 

「フェイトちゃんとはまともに話ができないかもしれないけど、銀さんなら僕たちの言葉に耳を貸してくれる」

「あの時、銀時さんを説得できてればなぁ……」

 

 なのははマユゾン事件を思い出して落ち込みだす。

 

 ジュエルシードによって引き起こされたマユゾン事件の時に銀時と会っていたなのは。だが、あの時は事件解決の為にフェイトについての会話ができず、マユラントを倒す為の最低限の会話しかできなかった。

 しかも銀時と一番関りが深い神楽と新八に至っては、マユゾンになって気絶。なので銀時の姿すらまともに確認していない始末。

 

 新八はなのはに同意するように少し気を落としながら話す。

 

「……しかも、近藤さんの話だとなのはちゃんがジュエルシードを回収してる頃には、いつの間にか銀さんは姿を消しちゃってたらしいしね……」

 

 落ち込んだ様子を見せるなのはと新八とは対照的に、神楽はあっけらかんとした態度。

 

「別に銀ちゃんに会えるチャンスは一回ぽっきりだけじゃないんだから、そんなに落ち込むことないアル。会ったら即捕まえて銀ちゃん説得すれば良いアル。そのままフェイトも説得して、万事解決ネ」

「いや、銀さんはともかくフェイトちゃんを説得できる保証はないからね?」

 

 と新八は付け加えておく。

 映画はともかく、なのはから聞いたフェイトの印象はそれなりに結構頑固な部分が目立つ。敵と認識されている自分たちの言う事を素直に聞いてくれる可能性は、はっきり言って高くないだろう。

 なのはが力強く両手の拳を強く握り込む。

 

「でも銀時さんと話さへできれば大きく一歩前進できるのは確かです!」

「そうネ! でもってそのままフェイトをふんじばってプレシアにカチコミネ!!」

 

 と神楽も便乗して力こぶ作る。

 

「か、神楽ちゃん。お、お願いだから穏便にね?」

 

 物騒なこと言うチャイナ娘をなだめるなのは。

 

 

 

「ん~、見つからんなァ」

 

 そう言って世話しなく辺りを見回すのは近藤勲。

 ジュエルシードの場所も知らないのにずんずん前を歩いていく局長。彼の後ろを付いて歩く部下、土方十四郎は「そう言えば」と言ってふいにあることを思い出す。

 

「近藤さんてこの世界の警察に捕まってたよな? 外歩かせてたらマズイんじゃねェのか?」

 

 今更ながら、近藤が紛いなりにも脱走犯だと気付く土方。自問自答気味な彼の呟きに対し、肩に乗っているユーノが言う。

 

「一応、近藤さんには僕たち以外の人間には『近藤さんの顔を知っている人間が近藤さんと認知できない』認識阻害の魔法を掛けたので大丈夫だと思います」

「なんつうか、都合の良い魔法だな」

 

 タバコを咥えながら歩く土方は、魔法便利だな、と思った。

 

 

 

「おい、バーニング。魔法使えるお前しかジュエルシード探知できねェんだから、しっかり探せよ」

 

 そう言ってアイマスクを付けてベンチで横になるのは沖田総悟。

 

「あらそう?」

 

 と言って笑顔を浮かべるアリサは、掌を沖田にかざす。

 

「じゃあ、あんたを燃やしてから探しましょうか? バーニングだけに」

「お、落ち着いてアリサちゃん。沖田隊長の代わりに俺がちゃんと探すから」

 

 掌から怒りの炎を物理的に燃やすアリサを、山崎がなんとか宥めようとする。

 するとフレイアも「そうですよ」と相槌を打つ。

 

《あんな怠惰に身を任せた人間は放っておいて、私たちだけで探しましょう『バーニング』さん》

 

 顔に影を落としたアリサは、無言で炎を模るデバイスを折ろうと指に力入れる。

 

《ぎゃあああああああッ!! 何も言わずに私を折ろうとするの止めてください!! 目がマジで怖いですから!! 折れる折れる折れる!! マジで折れるッ!!》

(大丈夫かなァ……このチーム……)

 

 中々探索が進展しないチームに山崎は凄く心配になってきた。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」

「…………」

 

 自分の前で舌を出して尻尾を振る定春と見つめ合うのはすずか。

 なんで自分だけ犬とペア? と少女は謎の配役に疑問しか出てこなかった。

 大きな大きな白犬にすずかは声をかける。

 

「ジュエルシード探そっか」

「ワンッ!」

 

 とりあえずすずかは前向きに考えて定春と探すことにした。

 探索に犬の鼻が役に立ったらいいなぁ……、と思いながら。

 

 

 

 ビルの屋上で銀時は銀髪を夜風に靡かせながら、眼下に広がる街を眺める。

 

「んで、どうすんだよ。この辺にジュエルシードあるっつても、こんなにごちゃごちゃした場所じゃ太陽昇ってきても見つからねェぞ」

 

 トイレ座りしている銀時は、まだ探してもいないのに疲れたようにため息を吐く。

 めんどくさがり屋の彼からしたら、人も建物もごちゃごちゃした街での探し物(しかも夜)は苦痛な上に退屈でしかない。しかも大きさに至っては石ころ程度なのが、めんどくささに拍車をかける。

 

「なら、魔力流を流してジュエルシードを強制発動させようと思う。そうすれば、すぐにジュエルシードの位置が分かる」

 

 そう言ったのは、銀時の横でマントと金髪を夜風で揺らすフェイト。彼女はバルディッシュを構える。

 

「それならあたしに任せておくれよ」

 

 と言って一歩前に出るのは、使い魔のアルフ。

 

「フェイトはあの白い魔導師の子が邪魔してきたら戦わなきゃならないんだしさ」

 

 アルフはグっと拳を作って余裕のある笑みを浮かべた。

 フェイトは自身の使い魔を心配そうに見る。

 

「大丈夫アルフ? 結構魔力を消費するよ」

「あたしを誰の使い魔とお思いで? どーんと任せなって!」

 

 アルフは自信たっぷりにポンと胸を叩く。

 

「じゃあ、お願いアルフ」

「おう!」

 

 笑みを浮かべるフェイトに対して、アルフも気持ちいいくらいの笑顔で答えた。

 そんな二人の会話を横で聞いていた銀時は、二人の方に顔を向ける。

 

「盛り上がってるとこ悪いんだけどよ、一つ聞いていいか?」

「なに銀時?」

「忙しいんだから手短に頼むよ」

 

 フェイトとアルフの言葉を聞いた後、銀時は眼下に広がる街を見ながら口を開く。

 

「もし魔力流ってのをジュエルシードに流したら、ジュエルシードは強制発動するんだよな?」

「うんそうだよ」

 

 フェイトは素直に頷き、銀時は更に問いかける。

 

「それってようは、暴走させるってことだろ?」

「まー、捉え方によっちゃそうなるね」

 

 今度はアルフが答えた。

 

「じゃあ、街にいる連中どうなんの?」

 

 最もな銀時の疑問に対し、

 

「「………………あ」」

 

 と声を漏らす二人。

 銀時はスッと目を細めて怪訝な表情を作る。

 

「『あ』じゃねェよ、『あ』じゃ。つうか…………え? マジで街の人間のこと考えてなかったの?」

「ソ、ソンナコトナイヨ?」

 

 目を逸らしつつ否定するフェイトに、銀時はビシッと指を突きつけた。

 

「思いっきりカタコトになってんだろうが!! エリートっぽいキャラの癖してなんでそういうとこ抜けてんだよお前は!!」

 

 しんのすけの母ちゃんよろしく、銀時はフェイトの頭を拳でグリグリと万力のように締め付け開始。

 

「いだだだだだだだッ!!」

 

 痛がるフェイトに構わず銀時は青筋浮かべる。

 

「下手したら街ぶっ壊すだけじゃ済まねェだろうが!! テメェなに考えてんだコラァ!!」

「ご、ごめんなさいィ~!!」

 

 目に涙を溜めながら痛みを堪えるフェイトを見て、慌てて銀時を止めようとするアルフ。

 

「お、落ち着いておくれよ銀時! 別に強制発動させるって言っても、いつもみたいにあそこまで危険な暴走をするワケじゃないんだって!! それに人だって結界張れば問題ないんだから!! っていうか街は壊すのはOKなのかい!?」

 

 アルフの説得を聞いても銀時のおしおきは中々終わらず、フェイトが痛みに悶える声は夜の街の喧騒に消えていった。

 

 

 そしてフェイト組、なのは組が探索している街では他にもう一組――暗躍している者達がいた。

 

「さァて、ジュエルシードは見つけたが……どうすっかねェ……」

 

 ビルの屋上に男が一人で佇み、親指と人差し指で青い宝石を弄ぶ。

 男は攘夷浪士であり、穏健派攘夷志士のリーダーである後藤仁(ごとうじん)だ。容姿は後藤そのものだが、その体を支配してるのは人外――パラサイト。

 ジュエルードは青く光り、それをパラサイトはまじまじと眺めている時、その後ろにすっと音もなく人が降り立つ。

 突如現れた人物の気配をパラサイトは感じて目を後ろに向ければ、そこには自分がよく知っている者が立っていた。

 

「チッ……やっと来たか。当て馬になりそうな奴は見つかった……のか?」

 

 今現在仲間として共に行動している者だとすぐに分かったが、その姿を見て言葉を詰まらせる怪物。

 

『鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてどうした?』

 

 白いボードで会話する彼女の頭の上には、うにょうにょと八本の足を蠢かすタコがいた。その姿を見て目をパチクリさせるパラサイトは指を向け、半笑いで告げる。

 

「お前もしかして、触手プレイ好きな変態だったか?」

 

 グサッ! とパラサイトの眉間にクナイが刺さった。

 

「おわァァァァァッ!?」

 

 クナイが刺さり、ブシャーと額から血が噴水のように噴出すパラサイト。怪物は額を押さえながら悲鳴を上げ、女忍者はボード見せる。

 

『あまりふざけたこと言うようならクナイ投げるぞ(・`□´・)』

「いや、もう投げてんだろうが!! しかも〝俺の本体〟が近いとことか洒落になってねェんだよ!!」

 

 吹き出る血を押さえる怪物のことなどまったく無視する女忍者。彼女は頭に乗せていたタコを鉤爪を付けた手で掴み、突き出す。

 

『それよりもこのタコをジュエルシードを使って怪物にしろ。私の任務はこれで終了だ』

「あァ、分かった。……つうか、タコとかもうちょっと強い感じのいなかったのかよ」

 

 パラサイトはぶつぶつ文句を言いながら、持っているジュエルシードをタコの袋にくっ付けた。そしてタコの体は光輝き、忍者はすぐさまビルから光るタコを放り投げる。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 その時、魔導師たちと使い魔はすぐにジュエルシードが発動したことに気付く。

 

「グオォォォォォォォッ!!」

 

 街中ではタコのモンスターが雄叫びを上げた。

 

[newpage]

 

「ッ! ジュエルシード!」

 

 銀時に頭をぐりぐりされているフェイト、

 

「発動した!!」

 

 そして土方の肩に乗っていたユーノ。

 両者は同時にジュエルシードを感知、片っぽ絵面が間抜けだが。

 

 怪物が現れたと同時にジュエルシードが発動したことを察知した魔導師たちはすぐさまそれぞれ行動を開始。

 

 フェイト組。

 

「銀時! こんなことしている場合じゃない!! ジュエルシードが発動した!!」

 

 フェイトの言葉を聞いてアルフと銀時は驚いた表情になる。

 

「えッ!?」「マジかッ!?」

 

 

 ユーノ組。

 

「くッ! 広域結界!!」

 

 一方のユーノはすぐさま結界を展開し、一般住民の被害を回避。ただ、彼の姿を見た近藤が驚く。

 

「どうしたのだユーノくん!? いきなり変なポーズ取って!!」

「変なポーズじゃありません!! 結界を張ったんです!!」

 

 ちょっと怒るユーノ。

 確かに手をかざして張り手どすこいみたいなポーズを取っていたユーノだが、別にふざけていたわけではない。

 ユーノの言葉を聞いた土方が目を細める。

 

「つまり、結界を張らなきゃならない事態になったってことだな?」

「はい! ジュエルシードが発動したんです!!」

 

 ユーノは頷く。

 

 

 アリサ組。

 

「ほら急いで! ジュエルシードが発動したのよ!!」

 

 アリサは沖田を急かし、「よし、急がねェとな」と沖田は寝転がりながら言う。

 

「それのどこが!?」

 

 とツッコム山崎。

 

 

 すずか組。

 

「急ごう定春くん!」

 

 すずかは定春に声をかける。

 

「ワン!」

 

 一声鳴くと定春はすずかの横でしゃがみ込む。それを見たすずかは首を傾げる。

 

「えッ? 乗せてくれるの?」

「ワン!」

「ありがとう定春くん!!」

 

 すずかはそのまま定春に乗って町中を駆ける。ちょっと絵面がシュールではあるが。

 

 

 そしてまた戻ってフェイト組。

 

「たく、なんであたしがあんた背中乗せなきゃならないんだよ……」

 

 文句言いながら飛ぶのは狼姿のアルフ。

 

「しょうがねェだろうが、俺空飛べねェんだから」

 

 銀時はアルフの胴体にまたがりながら体に捕まっていた。

 アルフは背に乗った銀時に目を向ける。

 

「まあ、その分ジュエルシード封印する時はしっかり働いてもらうからね」

「わァーってるよ」

 

 ぶっきらぼうに銀時が返事した後、アルフは前を向いて飛行を続けるが、ふいにボソリと呟く。

 

「……ねぇ、銀時。あんた大丈夫なのかい?」

「はッ? なにが?」

「たぶん今回は、あの白い魔導師の子と戦う事になるけどさ、たぶんあんたの仲間も一緒の可能性が高いよ」

「あァ」

 

 銀時自身だってとっくに分かってることらしく、特に何も言う様子はない。

 耳を垂らすアルフ。

 

「今更聞くのもあれだけどさ、銀時は良いのかい? 自分の大切な仲間と戦うことになってもさ」

「別にあいつらとの喧嘩なんて珍しいことじゃねェよ。本当に命取り合うワケじゃねェんだ。適当にパパッとあしらってマユゾンの時みたく俺たちがとっとと退散すればいいだけの話だ。もちろん、貰うモン貰ってな」

「………………」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは口を閉じる。

 今まで一緒に行動してきた銀時はもう仲間だ。だからこそ、そんな彼を古くからの仲間と戦わせる事に対し、どうしても後ろ髪を引かれる思いが拭いきれない。

 だが、当の本人はアルフの心配など露知らず、あっけらかんとした顔。

 

「ま、俺としちゃあいつらに再会できるってだけで十分だ。お前らとの一件が片付けば、後はなるようになるだろ」

 

 楽天的な銀時の発言。たぶん心配するアルフに対し、彼なりに気を使っているのかもしれない。

 

「……ありがとう」

 

 アルフは聞こえるか聞こえないくらいの声で、お礼の言葉を口にする。彼女の言葉は銀時の耳に届いたのか、彼の片眉がピクリと上がった。

 横から空を飛ぶフェイトがアルフの横に並びながら声を掛けてくる。

 

「もうすぐ発動したジュエルシードのとこに着くよ銀時! 準備して!」

「そんじゃ、初仕事と参りますか!」

 

 銀時は柄に洞爺湖という文字が掘れられた木刀に手を掛けた。

 

 

 

 目的地に到着。アルフは地面に勢いよく降り立ち、銀時も次いでアルフの背中から飛んで降りる。

 銀時の目の前には巨大なタコの化け物が怪獣のように巨大な口を開き、雄叫びを上げた。

 

「グォォォオオオオオオオッ!!」

 

 目の前で触手をうねらせる巨大ダコを見て、銀時は目をパチクリさせる。

 

「……なにこのタコのバケモン? 暴走したジュエルシードは? つうかどっかで見たことあるな……」

 

 タコを指差しながらアルフに顔を向ける銀時。彼の頭に、あのバカ王子とそのペットの記憶が掘り起こされていた。

 アルフはタコの化け物威嚇しながら答える。

 

「タコがジュエルシードを取り込んでこういうバケモンになったんだろ。とっとと倒してジュエルシード回収するよ!」

「ふ~ん、なるほど」

 

 と銀時は納得したように相槌を打った後、再びアルフに顔を向ける。

 

「――なんで街中にタコいんの?」

「知らないよ!! んなこと今はどうでもいいだろうが!!」

 

 どうでもいいこといちいちツッコンでくる銀時にアルフはイラついてか声を出す。

 その時だ、タコの化け物に向かって桃色の光弾が直撃。

 ドカン! ドカン! ドォン!!

 

「グオオオオオッ!!」

 

 三発見事に命中したことで、化け物は痛みによる声を出す。

 いきなりなんだ? と思った一人と一匹。両者の視線が突然の襲撃者のいるであろう空へと向く。そこには靴に桃色の羽を生やし、白い防護服を纏ったなのはが杖を構えて飛んでいた。

 空中のなのはは、地上にいる銀時とフェイトとアルフの姿にすぐさま気付く。

 

「銀時さん! それにフェイトちゃんにアルフさんも!!」

「お~、なのはじゃねェか。またまた会ったな」

 

 そう言ってなのはに向かって右手を振る銀時。そんな呑気な姿を見たアルフは驚きの声を出す。

 

「ちょッ!? 銀時! あの子今は敵なんだよ!」

「別にいいじゃねェか。今戦ってるワケじゃねェだろ? 俺、戦う時にふんどし締める方だから」

「いや、さっきの会話で戦う覚悟みたいなの決めたんじゃないのかよ!? あんたの決意ぶれっぶれじゃないか!!」

「まァまァ、硬い事言うなって。こっちも聞きてェことあんだからよ」

 

 噛み付かんばかりに文句言うアルフを銀時は宥めた後、なのはに顔を向けて大声出す。

 

「なァー! 一つ聞きたいんだけどよ!! 今回は新八と神楽もお前と一緒に来てんのか!?」

 

 上空にいるなのはは大声で返す。

 

「はい! 二人共私と一緒です! あと、しんせんぐみの土方さんや近藤さんや沖田さんや山崎さんも一緒にジュエルシードを探してます!!」

「チッ……やっぱりチンピラ警察二十四時もいんのかよ」

 

 銀時は舌打ちをして露骨に嫌悪感を露にした。

 銀時だって真選組とはまた遭遇することはちゃんと念頭に置いてはいた。が、やはり嫌いなものは嫌い。特に土方が。

 アルフは銀時の言葉や態度から不思議そうに質問する。

 

「銀時、その『しんせんぐみ』って連中もあんたの仲間なのかい?」

「いえ敵です。確実に脳みそを噛み砕きなさい。特に土方を」

「なんでいきなり丁寧語!?」

 

 真選組アレルギーと言っても過言ではないほど、あの警察の皮を被ったチンピラ集団が嫌いな銀時。会っても感動もへったくれもない。心底どうでもいい存在なので、すぐさま頭の隅に追いやった。

 とりあえず、まだ姿が見えない新八と神楽について考えを巡らせる。

 

 ――そういやァ、マユゾンの時はちゃんと話せなかったから、今回がまともな顔合わせってことになるなァ……。会った時やっぱ怒るかなァ、あいつら……。

 

 なんだかんだで銀時としても感慨深いものだ。いつもは鬱陶しい年下タッグではあるのだが、こう長い間会わず、しかも久しぶりの再会と会話。その一歩手前となると、それになりにくるものがある。

 

 ――ま、あいつらの文句なんざかる~く流すのが一番だな。結構長い間あいつらとは会ってなかったけど、別段お互い変わったってワケじゃねェんだし。

 

 そう銀時が思った矢先だった。少し離れた所から聞き覚えのある声が。

 

「覚悟しろこのバケモノダコ!!」

「とっととお前をたこ焼きにして食ってやるネ!!」

 

 新八と神楽の声だ。

 

 ――おッ! 噂をすればだな。久々に万事屋三人が集合ってところだな……。

 

「「お前に万事屋銀ちゃんの力を見せてやる!!」」

 

 などとらしくないことを新八と神楽が言い放ち、銀時が満更でもなさそうに薄っすらと笑みを浮かべた。

 

 ――おいおい、なんだよ。例え異世界でもでけェ口叩くじゃねェか。なら、今は敵味方関係なく万事屋として協力してやっても……。

 

 と、銀時が声のした方に顔を向け、向かってくる二人を見る。そしてその目に映ったのは……。

 

「この手が真っ赤に燃える!! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!! バーニングソウル!!」

 

 黒い学生服を着た赤毛の少女の背中から、巨大な赤い悪魔の竜が出現。竜は両の拳に炎を纏わせた。

 

「スタープラチナアブソリュートフォース!!」

 

 少女の叫びに合わせて、ドラゴンが炎の拳のラッシュをタコのバケモノに打ち込む。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 少女の操る竜は、凄まじい拳のラッシュでタコの化け物をボコボコにしていく。そして攻撃が終われば、少女が学生帽のつばをつまみ、一言。

 

「やれやれ、キングはただ一人だぜ」

 

 今の光景を見たなのはは嬉しそうに驚きの声を上げる。

 

「〝神楽〟ちゃんすごい!!」

 

 ――ええええええええッ!? 神楽!? アレ神楽なの!?

 

 銀時は口をあんぐり開けて仰天。

 

 ――なんで酢昆布食ってるだけのゲイロンがライバルキャラだか主人公キャラだかわかんねェ変貌を遂げちゃってんの!?

 

 銀時は内心ツッコミ入れながらビックリしていると今度は、

 

「俺ターン!! ドロー!!」

 

 眼鏡が軌跡を描き、タコの足を切り裂く。

 眼鏡をカードのように掴み、どこぞの決闘者のような派手なヒトデ頭に学生服を着た青年が出現。彼の身に着けている眼鏡には、シルバー色のテープがぐるぐるに巻きつけられていた。

 青年の活躍を見てなのははまた嬉しそうに声を上げる。

 

「〝新八〟さんも凄い!!」

 

 ――新八!? 新八なのアレ!? 眼鏡ですらもう原型トドメてねェんだけど!!

 

 銀時は更にビックリ仰天して口をあんぐり開ける。

 眼鏡をクイっと上げて一言。

 

「もっと眼鏡にシルバー巻くとかさ」

 

 ――眼鏡にシルバーってなに!? 確かに俺前に、『眼鏡オシャレにしてみたら? そしたらお前も主人公になれんじゃね?(笑)』とか言っちゃけど!!

 

 新八は眼鏡ケースから眼鏡をドローして叫ぶ。

 

「いくぜタコ野郎!! 神楽ちゃん追加攻撃!!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 叫ぶ神楽は新八の胴体を持って槍のようにぶんぶん振り回しながら彼のヒトデヘアーでタコの足を切り刻む。

 

 ――そのヒトデにそんな使い方が!? つうかドローした眼鏡の意味ねェじゃねェか!!

 

 内心またツッコム銀時。

 コスプレとキャラが重複した二人組みによりタコのバケモノはすぐさま撃沈。そして新八は眼鏡をクイッと上げ、神楽は帽子のつまみを掴んで告げる。

 

「「――みたか、万事屋の力を」」

 

 ――こんな万事屋知らねェェェ!! こんなパチモンの塊みたいな万事屋、俺知らねェェェェッ!!

 

 銀時は口をあんぐりと空けて呆然。数日のうちに変わり果ててしまったかつての仲間たちの活躍を眺めることしかできない。

 ドスンとタコは体を倒し、圧倒的戦闘力で敵を倒した新八(?)と神楽(?)は満足げな顔でタコとは反対の方向になぜか歩いていく。

 倒されたタコのバケモノは光に包まれ、普通のタコに戻る。そして上空にはジュエルシードが浮上。

 

「今だよフェイト! あたしたちがこいつらを足止めしているうちにジュエルシードを回収しちまうんだ!!」

 

 隙あらばとすかさず主にチャンスを教えるアルフ。

 使い魔の言葉に小さく頷いたフェイトは自身の相棒であるバルディッシュを変形。猛スピードでジュエルシードに向かって飛んでいく。

 

「ッ!」

 

 それを見たなのはもすぐさまジュエルシードに向かって飛んでいく。

 

 相手よりも先に――!

 

 お互いに譲る気などまったくない二人はスピードを落とすどころか、少しでも早く飛ぼうとスピード上げてしまう。

 同時にジュエルシードに向かって杖を突きたて、封印しようとする。二人のデバイスの切っ先はまったく同時にジュエルシードに到達し、杖の先端は重なり合うようにぶつかり合う。

 

「「ッ!!」」

 

 まるで時間が停止したかのような一瞬の静寂――。

 そして次に起こるのは目を瞑らんばかりの眩い閃光と衝撃。

 

「くッ!」「きゃぁッ!?」

 

 同時にフェイトとなのはは吹き飛ばされ、周りにいた他の面々も衝撃の影響を受け、吹き飛ばされるのであった。

 

 

 

 杖同士の衝突と共に、町中を眩いばかりの光が包み込む。

 

「おいなんだあの光!? まさか! ジュエルシード暴走させちまったのかあいつら!!」

 

 土方は天を貫くほどの光の柱を見て走り出し、肩に乗ったユーノは焦る。

 

「間違いありません! かなり不味い状況です!!」

 

 

 

 光の柱を見た沖田たちも既に暴走しているであろうジュエルシードの元へと向かっていた。

 

「おいおい、なんだあの光? この世の終わりか何かか?」

 

 呑気な沖田の横で山崎は焦り、慌てる。

 

「ちょッ、これ! マジでやばくないですか!? 沖田隊長! 確か映画でこんなシーンありましたよ!!」

 

 不安そうな表情の山崎とは対照的に、沖田はあっけらかんとした表情を崩さない。

 

「まァ、小生意気なガキは〝先に行っちまった〟んだし、大丈夫だろ」

 


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