魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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今回からついにジュエルシードが本格的に物語に絡んできます。


第十九話:主人公のカラーが白だとライバルはたいてい黒になる

 なのは、アリサ、すずかが、怪我をして拾ったフェレットを動物病院まで送り届けてから時間は経ち、時刻は夕方から深夜になっていた。

 

 動物病院の電気は既に消え、中に人はおらず、預かっている動物たちだけ。

 そして、台の上にある籠の中には体を丸めてフェレットが眠っている。

 

 そんな静まり返った動物病院の白い塀を乗り越える、赤い頭髪の左右にポンポンを付けた女の子。さらに、その背中にしがみ付いているのは、栗色の髪をツインテールに結わえた少女。

 

「よっと……!」

 

 と言って、軽快に塀を乗り越えたのは神楽。彼女は背中に背負ったなのはに顔を向ける。

 

「なのは、大丈夫アルか?」

「う、うん」

 

 なのはは少し言葉を詰まらせさせながらも、笑みを浮かべて答えた。その背にはリュックを背負っている。

 そして神楽に続くように、新八、土方、沖田、山崎が、次々と塀を乗り越えて動物病院の敷地内に侵入していく。

 

「土方さん。これ、僕ら完全に不法侵入ですよね?」

 

 汗を流し、頬を引き攣らせながら聞いてくる新八に対して、土方はタバコを吸いながらクールに返す。

 

「しょうがねェだろ。あのフェレットを狙って、ジュエルシードの化け物が来るんだ。ケースバイケースだ」

 

 続いて沖田も同意する。

 

「ぶっちゃけ、来ると分かってんだから、わざわざ家で待つ必要ねェしな。つうか、事が起こってから行くの、ぶっちゃけメンドーだし」

 

 なのはたちが病院(ここ)にいる理由は、沖田が言ったとおり。ユーノを襲いにやって来る、ジュエルシードの思念体を迎え撃つための準備と言うワケだ。

 まあ、襲われるのが分かっているのに、なのはに届くであろうユーノのSOSをワザワザ家で待ってから助けに行く道理はない。

 動物病院で待ち構えることが最善だと考えたのだ。それが例え、不法侵入と言う犯罪行為を犯そうとも。

 

「まー、警察の連中が来ても、土方さんを首謀者にしとけば大丈夫でさァ。顔的に」

 

 と言う沖田に、土方はメンチ切る。

 

「それは俺が犯罪者みてェな顔してるって言いてェのかテメェは!!」

「って言うか、近藤さんは今も牢屋なんですよ! 洒落になりませんから!!」

 

 青い顔で汗を流す新八は、今なお牢屋にいるであろう近藤を思い出す。

 

「ニャハハハ……」

 

 なのははそんな彼らの漫才的な会話に、苦笑いを浮かべる。とは言え、こんな時でもペースを崩さない彼らに、少なからず関心もしてもいるのだ。

 山崎は首を右へ左へと動かし、周りになにか居ないか確認する。

 

「とりあえず、後はいつジュエルシードが来るかですよね……」

「まァ、正確な時刻が分からないとは言え、そこまで時間がかかるワケでもないだろ」

 

 と言ってタバコを吸う土方は、時計を確認。短い針は丁度九時を指していた。ちなみに、ちゃんと時計の時刻はこの世界の時間と合わせてある。

 

 

「ふわぁ~…………」

 

 病院の白い外壁に腰掛けた神楽はあくびをし、眠そうに指で目をこしり、

 

「「………………」」

 

 座っている新八は眼鏡の汚れを拭き、土方は二箱目になるタバコを吸い始め、

 

「くぅ…………」

 

 アイマスクをしている沖田は、腕枕作りながら草むらで寝て、

 

「ふんッ! ふんッ! ふんッ! ふんッ! ふんッ! ふんッ!」

 

 山崎はバドミントンの練習にいそしんでいる。

 するとやがて、

 

「あ、神楽ちゃん。おにぎり食べる?」

 

 なのはがリュックのチャックを開け、中を探り始める。

 

「サンキューアルなのは。シャケあるアルか?」

「うん。あるよ」

 

 なのはは笑顔でリュックの中に入っている、自前のおにぎりを神楽に渡した。続いて、新八にもおにぎりを差し出す。

 

「新八さんもどうぞ」

「あッ、ありがとうなのはちゃん」

 

 新八は一回軽くお辞儀をして、なのはからおにぎりを受け取る。そして神楽と同じように、もっさもっさとおにぎりを食す。

 

「ふぅ…………」

 

 タバコの煙を吐く土方。彼の指に挟んだタバコの灰が、ポロリと落ちる。

 そして、土方の額に青筋が浮かび、タバコがくしゃりとへし折れ、

 

「こねェェェなァァ! おい!!」

 

 ついに我慢の限界が来た土方が、立ち上がりながら声を荒げる。

 

「一体いつになったらジュエルシードは来るんだ!? もう一時間も待ってるんだけど!」

 

 丁度、午後十時を指している腕時計を見ながら、土方は地団駄を踏む。

 彼ほどではないが、他の面々も待ち疲れたと言う感じだ。

 

「そうですよね。そろそろ来ると思ったんですけど、ユーノくんからの助けもないし」

 

 新八の言うとおり、ユーノの念話によるSOSもまったくなのはに届かない。

 

「……正直、今日は来ないんじゃないんですかィ?」

 

 そろそろ待つのに飽きたのか、沖田はアイマスクを外しながらつまらなそうに喋る。

 

「いやいや、ユーノくんが入院した夜にジュエルシードが来るはずなんですよ。それはないですって」

 

 と新八は手を横に振りながら言う。が、沖田は呆れたような口調で返す。

 

「どうだかな~。俺たちが関わって、歴史が変わっちまったんじゃねェのか~?」

「そ、それは……」

 

 沖田の言葉も一理あるため、新八は真っ向から反論できないようだ。

 すると突如、

 

「きゃッ!?」

「なのはちゃん!?」

 

 なのはが耳を押さえながら驚いた声を出したために、新八を含めて他の面々の視線がなのはに集まる。

 なのはの頭の中に、少年の声が響いてきた。

 

【聞こえますか!? 僕の声が聞こえますか!?】

 

 なのはは目を見開きながら呟く。

 

「これって……」

「えッ? も、もしかして……!」

 

 新八は少女の反応を見て、ユーノから念話によるSOSが来たと、すぐさま察知したようだ。

 他の面々が言葉を発さずに見守っている中、なのはは片目を瞑りながら、頭の中に響く声に意識を傾ける。

 

【聞いてください! 僕の声が聞こえる方、お願いです! 力を貸してください! お願い……】

 

 まるで神にでもすがるかのような謎の声――ユーノの言葉は途切れてしまう。

 

「なのはちゃん、やっぱり……」

 

 新八の言おうとしている事をすぐに察したなのはは、真剣な面持ちで首を縦に振る。

 

「……はい。ユーノくんからです」

「じゃあ、そろそろジュエルシードが来るアルな」

 

 寝ていた神楽は、少し背中をえびぞりに曲げて、そのままブリッジする時のように両手を地面に付け、地面を手で押す勢いを利用して、ピョンとジャンプしながら立ち上がる。

 

「いや、どうやら――」

 

 土方が口を開き、

 

「お客さんはとっくに来てるようだぜ?」

 

 続いて沖田が、後ろ斜め上へと顔を向けた。

 新八となのはは「えッ?」と声を漏らし、二人に顔を向ける。

 

 真選組の二人は、竹刀袋から刀を取り出し、既に抜刀させ、構えに入っていた。

 

 刀を鞘に入れた状態では警察に色々言われると、士郎にも教えられた為にわざわざ竹刀袋に入れていた刀を、なぜ取り出したのか。そして二人はなぜ、露骨に殺気を出しているのか。

 話は単純……、

 

「グウォォォォ……!」

 

 敵がやって来たからだ――。

 

 白い塀を――ドロドロの石油のような、黒い粘土のような、不気味な姿をした異形が唸り声を上げながら、ゆっくりと這い上がり、乗り越えていた。

 体全体から触手のようなモノをいくつも出し、赤い二つの瞳はギラっと不気味な輝きを放つ。

 

「で、出たァァァァァァァッ!!」

 

 思った以上に不気味な姿で登場したジュエルシードの思念体に対して、新八は叫び声を上げた。

 神楽は非難じみた視線を新八に向ける。

 

「ぱっつぁん。時間を考えろヨ。近所迷惑アル」

「いやいやいやいや! 普通はもっと焦るでしょ!! あんなモンスター見たら!!」

 

 いつでもマイペースな神楽に対して、新八は戸惑いの汗を流す。すると、神楽は右手を肩に置き、腕をぐるんぐるんと回しながら首をコキコキと鳴らした。

 

「まー、なのはと駄眼鏡はそこで見ているヨロシ。私があんなブヨブヨ粘土、サクッと片付けるてくるアル」

 

 ボキボキと拳を鳴らしながら、歩いて行く神楽を見て、なのはは声を上げる。

 

「危ないよ神楽ちゃん!」

 

 自分より少しばかし年が上の少女が、化け物相手に喧嘩を売っていく姿を見て、なのはは心配している。

 だが、神楽は跳躍し、ジュエルシードの思念体に向かって拳を振りかぶった。

 

「うォりゃァァァァァァァッ!!」

 

 神楽の拳が、思念体の眉間にあたるであろう箇所にヒット。

 

 神楽のパンチの強さを物語るように、粘土のような思念体の体が、拳の衝撃で激震。そのまま後ろに吹き飛ばされる――かと思いきや、相手は殴れた直後に体の一部が二つ、飛び散った。

 一番大きな思念体の塊は、神楽に殴られた勢いのまま吹っ飛び、後ろの壁に激突。

 

「ぶ、分裂した!?」

 

 一瞬の出来事とは言え、新八は思念体の体が三つに分裂した瞬間が見えたようだ。さすがに剣の修行を積んでいるだけあって、眼鏡であろうとちゃんとした動体視力は持っているようである。

 

 そして分裂した――本体の塊より少し小さめの塊二。一つは土方へ、もう一つは沖田に対峙。

 

「おいなにやってんでィ、チャイナ。敵増やしてんじゃねェよ」

 

 口をへの字に曲げて文句言う沖田に対し、塀の上に立っている神楽も口を尖らす。

 

「しょーがねェだろ! コイツ、スライムみたいに分裂したんだヨ! 私に文句言うなアル!」

「チッ……! 攻撃すると増えるのかこいつ等?」

 

 土方は刀を構えながら、自分を睨み付ける二つの赤い目に対して、負けじと眼光を鋭くする。

 いくら神楽が殴った本体よりも小ぶりと言っても、その大きさは土方よりも少しデカイために、中々の威圧感がある。

 

「おい、総悟。無闇に斬り付けるんじゃねェぞ? 下手したらもっと増える可能性が――」

 

 土方はおもむろに、後ろの沖田に忠告しようと振り返ると、

 

「おりゃァ!」

 

 言い終わる前に、沖田は軽はずみに思念体を真っ二つにぶった斬る。ちなみにだが、刀は山崎の借り物。

 

「おィィィィィ!?」

 

 土方は慌てて沖田の胸倉を掴み上げ、怒鳴り声上げる。

 

「お前俺の話聞いてた!? さっきの見てなかった!? 下手に攻撃して、余計に増えたらどうすんだよ!!」

 

 沖田は両手を前に出す。

 

「まーまー、土方さん。落ち着いてよく見てください」

「あん?」

 

 沖田が指差した方を、土方が怪訝な表情で見ると……。

 斬られた思念体は体の一部分をつなぎ合わせて、何事もなかったかのように体をくっ付けて、元通りにしていく。まるで、細胞の一つ一つが生きているかのような光景だ。

 

「どうやら、こいつ等は攻撃しても分裂するんじゃなくて、ただ単に元通りになるみたいでさァ。それよりも土方さん……」

「なんだ?」

 

 沖田が土方の背後に目を向ける。

 

「目の前の敵に目を離すのは危ないですぜ」

 

 沖田がそう言った直後、土方と対峙していた思念体の分身が飛び上がって、襲いかかってきた。

 振り返る土方は驚くどころか、刀を振りかぶって追撃の態勢を取る。さすがは真選組鬼の副長と言ったところか。

 だが、

 

「副長ォー!! あぶなァァァァァァいッ!!」

 

 即座に気付いた山崎が、手に持ったミントンで思念体の分身の背中を打つ。

 

 そして、思念体の分身を球にしたスマッシュが土方の体にヒット! 「ウボォッ!!」と土方は声を漏らし、そのまま後ろに吹っ飛ぶ!

 思念体の突撃と、山崎の渾身の一撃がプラスされたスマッシュは、まさに会心の一撃!

 

 土方は、思念体の分身が突撃してくる勢いに体を持っていかれながら、後ろの壁に激突。

 ズドォーン!! という衝撃と共に、砂煙が上がる。

 

 

「ッ!?」

 

 寝ていたユーノは突然の破壊音に、パッと目を覚ます。

 

 

 

「土方さ~ん。コイツどうします?」

 

 沖田は思念体の攻撃を軽やかにかわす。

 

「攻撃は大したことねェけど、斬っても斬っても復活しますぜ?」

 

 思念体の分身を何度も斬りつけてバラバラにする沖田。その声と顔は、飽きたという感情がありありとわかる。

 

「たしかに、これじゃジリ貧だな」

 

 そう言う土方の手の先には、胸倉を捕まれて顔面タコ殴りされた山崎が、泣きながら涙と鼻血を出していた。

 少し服をボロボロにさせた土方は、手に持った山崎をポイっとその辺に捨てて、バラバラになった体を再生させる思念体の分身を睨む。

 

「この魔人ブーもどき、ホントどうにかならないアルか?」

 

 と言う神楽は、一番大きな思念体を蹴って壁にぶつけて、サッカーボールのように遊ぶ。文字通り、常人と比べ物にならないくらい強い少女に、怪物は遊ばれていた。

 壁にぶつかってバウンドし、また蹴られ、壁にぶつけられる。その姿は、最早かわいそうと言う言葉すら浮かぶほど。

 

「シュゥートッ!!」

 

 まるでサッカーゴールにシュートするかの如く、神楽は一際強いキックで思念体を蹴りつけ、またしても壁を破壊した。

 そして、ゴールを決めたサッカー選手のように膝立ちになった神楽は、

 

「ウォォォォォォォッ!!」

 

 両腕でガッツポーズを決めながら、天に向かって吼える。

 そのまま、

 

「へいへいへいへいへい!」

 

 チャイナ娘は無言の沖田と、上、下、と両手を叩き合って連続ハイタッチを決める。

 

「こんな時に遊んでんじゃねェ!! つうかホントはお前ら仲いいだろ!!」

 

 ツッコム土方。

 そんな彼らの余裕綽々と言った姿を、唖然とした顔でなのはは見る。

 

「み、皆さん……。ほ、本当に強いんですね……」

 

 なのはにしてみれば、あんな化け物たちを圧倒する彼らの姿は、最早驚きを通り越して、圧巻の一言だろう。

 

「アハハハ……。あの人たちは、くぐってきた修羅場が違うからね」

 

 念の為、なのはの護衛に回っている新八は、頬を掻きながら苦笑する。

 

「グウォォォォォォォォォッ!!」

 

 壁まで蹴り飛ばされた思念体は、ガレキを吹き飛ばし、触手をうねらせながら、まるで怒りをあらわにするかのように唸り声を上げた。

 それを見た神楽は、呆れたように声を漏らす。

 

「ホント、しつこい奴ネ。ゴリラ並みのしつこさアル」

「なに言ってんでィ。近藤さんの粘着質はこんなモンじゃねェぞ」

 

 と沖田が言い、

 

「いや、威張ることじゃねェよ」

 

 土方はやんわりツッコム。

 余裕があると言えど、倒す手立てがなければ、本当にこのまま平行線だ。それに体力だって無限ではない。下手をすれば有利なこちらが不利にだってなりえる。

 

「チッ……」

 

 と土方はつい舌打ちし、愚痴に似た言葉を漏らす。

 

「そろそろ打開策を見つねェと、騒ぎを聞きつける連中も出てくるしなァ……あッ」

 

 ――あるじゃねェか、打開策が……。

 

 ある事を思い出した土方は、なのはに顔を向けた。

 

「……おい、なのは」

「な、なんですか!?」

 

 いきなり名前を呼ばれたなのはは驚きながら返事をすると、土方は思念体に指を向ける。

 

「確かこいつらは封印すればいいんだろ? なら、映画のお前がやったみたいに、お前がこいつら封印すればいいはずだ」

「えええええッ!?」

 

 いきなりの無茶振りに対して、驚きの声を上げるなのは。

 土方の言葉に対して、新八が待ったをかける。

 

「ちょッ!? 土方さん! 今のなのはちゃんには無理ですって!! レイジングハートをユーノくんから貰わないと、魔法一つ使えないんですから!!」

「おいおい。変身アイテムないとなんの役にも立たないとは、とんだ主人公様だな」

 

 と沖田。

 

「グサッ!」

 

 ショックを受けるなのはは、地面に両手両膝を付く。

 

「沖田さァん!! もうちょっと言葉選んでください!! なのはちゃんめっちゃ落ち込んでるじゃないですか!!」

 

 新八は心配そうになのはに目を配れば、

 

「とにかくだッ!!」

 

 と土方が大きな声を出し、話を戻す。

 

「誰でもイイから、〝れいなんたら〟をあのイタチもどきから借りて来い!! なのはが魔法使えるようになりゃあ、こんな連中にここまで手こずる必要ねェんだよ!!」

 

 その時だった、

 

「――気をつけてください! そいつらはジュエルシードの思念体! 物理攻撃でどうにかできる相手じゃありません!!」

 

 突如の声。全員は驚いて声の主に顔を向ける。

 土方たちが戦闘している位置から、少し離れた場所に立っていたのは、包帯を巻いたフェレット――ユーノ・スクライアだった。

 

「そいつらをどうにかするには封印するんです!! そのためにはこの――!」

 

 そこまでユーノが話しているところで、新八となのはが、まるで早送りしたみたいな素早い動きでユーノに近寄る。

 

「そのレイジングハートを早くなのはちゃんに!!」

 

 と必死の形相の新八が言う。

 

「えええッ!! なんでレイジングハートのことを!?」

 

 とユーノが驚いていると、新八同様に必死な形相のなのはが訴える。

 

「おねがいユーノくん! わたしにレイジングハートを貸して!」

「ええええええッ!? なんで僕の名前を知ってるの!?」

 

 さらに驚きをあらわにするユーノ。

 すると沖田が、

 

「おい淫獣。とっととそのガキに、テメェが首に下げてる赤い宝石渡しやがれ。それで万事解決でィ」

「ええええええええええええええッ!? 淫獣!? 僕が!? なんでェ!?」

 

 あげく、不名誉なあだ名にユーノ仰天。

 

「と、とにかく!」

 

 なのはは両手を振って訴える。

 

「今は時間がないの! わたしたちに力を貸して!」

「わ、分かりました! なら、この宝石を持って!」

 

 ユーノはなのはにレイジングハートを渡し、「うん!」と力強く頷くなのは。

 どうやらユーノは、なのはの勢いやらその場雰囲気やらに、押され、流され、考えるべきことを色々吹っ飛ばして、今やらねばならない事に目を向けたのだろう。

 

「目を閉じて、心を済ませて……」

 

 ユーノに言われ、なのはは赤い宝石を両手で祈るように持ち、目を閉じた。すると、赤い宝石から鼓動のようなモノをなのはは感じ始める。

 

「――管理権限。新規使用者設定機能、フルオープン」

 

 ユーノがそう言うと、なのはとユーノ足元に桃色の魔方陣が展開される。

 

「これは……」

 

 新八はそれを見て目を見開く。

 

「繰り返して。我、使命を受けし者なり――」

 

 言われたとおり、ユーノの言葉をなのはは繰り返す。

 

「わ、我、使命を受けし者なり――」

「契約のもと、その力を解き放て――」

 

 ユーノは目を瞑って言葉を紡ぎ、なのはは少し戸惑いながらも、ユーノ言ったとおりの詠唱を繰り返していく。

 

「け、契約のもと、その力を解き放て――」

「風は空に、星は天に――」

 

 だがその時、なのはの頭に、映画のセリフが頭を過ぎった。

 

「風は空に、星は天に――そして、不屈の(こころ)はこの胸に!!」

「えッ!?」

 

 急に、なのはが自分より先にセリフを言い始めた事に対して、ユーノは思わず声を漏らしている。

 

「この手に魔法を! レイジングハート、セットアップ!」

 

 なのはは赤い宝石――レイジングハートを天に掲げる。

 すると、レイジングハートから女性の声で電信音が流れた。

 

《Stand by Ready, set up》

 

 そして、桃色の光がなのはを覆う。その光は天にも昇り、光の柱は雲さへも突き破った。

 

 新八が目を瞑って「うわッ!?」と驚けば、神楽も「すごい光ネ!!」と目を瞑る。

 土方と沖田も腕で光を防ぐ。山崎は顔を晴らして気絶中。

 

 

 

 光の柱の中、なのはは赤い宝石と対峙していた。

 赤い宝石――レイジングハートが光る。

 

《はじめまして、新たな使用者さん》

「……えッ?」

 

 なのはは少し戸惑いながら、お辞儀する。

 

「あ、はじめまして……」

 

 なのはとしては、あらかじめ予習のようなモノはしてきたつもりだが、やはり実際に体験するとなると、かなり緊張するようだ。

 

《あなたの魔法資質を確認しました。デバイス・防護服ともに、最適な形状を自動選択しますが、よろしい――いや、あなたのイメージする形状が存在しますので、それでよろしいですか?》

「は、はい! それでお願いします!」

 

 レイジングハートの質問に対して、勢いに任せて返事をするなのは。

 

《All right》

 

 と、レイジングハートが答えた。

 言葉を受け取ったレイジングハートは、なのはの服を分解し、魔導師の防護服へと換装し始める。

 

 出現する防護服は、なのはの通う小学校の制服に近い。

 白い制服のところどころに、鎧のような装飾がいくつもほどこされた、戦う為の戦闘服。

 杖の先端には、三日月のような金色の金属が、赤い宝石を囲むようにデザインされている。

 

 そして、見事に魔導師として変身したなのは。少女は魔方陣を展開し、目を瞑って空中に佇んでいた。

 なのはが目をゆっくりと開ければ、自分に襲い掛かる〝三体〟のジュエルシードの思念体が――。

 

「へッ?」

 

 と、なのはは間の抜けた声を漏らす中、

 

「グウォォォォォォッ!!」

 

 思念体が雄叫びを上げながら、襲い掛かって来たのだ。

 

「ふェェェェェェッ!?」

 

 なのはは思わず仰天して、声を上げる。

 いくらなんでも、いきなりの奇襲に対応できるはずもなく、思念体の突進を避けるなんてことは当然できない。

 だが、レイジングハートが光り、音声を発する。

 

《Protection》

「きゃァーッ!!」

 

 なのははそのまま思念体の体当たりをモロに食らってしまうが、間一髪、レイジングハートが防御魔法を展開。

 いくら防御してダメージがなくとも、体当たりの衝撃を殺せず、勢いのままに地面に激突してしまうなのは。

 

 

 

「なのはちゃん!?」

 

 少し遠くの方では、新八がいきなりピンチに陥ったなのはを心配して声を上げ、神楽が怒鳴る。

 

「なにやってるアルか新八!! お前が幼女の着替えシーンを見て興奮してるから、なのはがやられてしまったネ!!」

「興奮してねェよ!! しかも光ばっかで何も見えなかったわ!!」

 

 いきなり酷い当て付けをされて怒鳴り返す新八。

 神楽は、沖田と土方にもキツイ視線を向けた。

 

「お前らもなにしてるアルか! ちゃんとあのブヨブヨ抑えておかなきゃダメだろうが!」

「うるせェチャイナ」

 

 と沖田は口を尖らせ、反論。

 

「お前も同じだろうが。偉そうなこと言うんじゃねェ」

「あいつら、俺たちが光で怯んだ隙に、真っ先になのはを狙いやがった」

 

 土方は、意外と抜け目のない思念体たちに視線を尖らせ、後ろの仲間たちに目を向ける。

 

「おい、お前ら。喧嘩してんな。すぐになのはのところに行くぞ」

 

 また喧嘩しそうな雰囲気を出している二人に、土方は注意を促しながら、なのはが吹き飛ばされた方まで走って行く。その後を他の面々も追いかける。山崎を残して。

 

 

 

「び、ビックリした~……」

 

 一方のなのはは、攻撃を受けたと言っても、吹っ飛ばされただけで特に怪我はない。代わりに、地面は陥没してエライことなっているが。

 デバイスが少々心配そうな声を出す。

 

《お怪我はありませんか? マスター》

「うん。大丈夫だよ、レイジングハート。それに、わたしを守ってくれたんだよね? ありがとう」

 

 立ち上がったなのはは、自分を守ってくれた杖に笑顔でお礼を言う。

 

《あなたに怪我がないのは、あなた自身の魔力のお陰です》

「でも、レイジングハートがいなきゃ、さっきの攻撃は防げなかったんだし、お相子だよ」

 

 クスリと笑って言うなのはに、レイジングハートが、

 

《迎撃の準備をしてください。次の攻撃が来ます》

 

 と進言すれば、電線の上から「グゥゥゥ……」という唸り声。

 なのはが視線を上に向ければ、赤く光る思念体の瞳が、下にいる自分を見据えていた。それを見たなのはは、すぐに真剣な表情を作る。

 

《利き手を前に出してください》

 

 とレイジングハートが言う。

 

「こう?」

 

 なのはは言われたとおり、少し戸惑いながら思念体に向けて利き手である左手をかざす。

 一番大きな思念体が、なのはに向かって降下しながら攻撃してきた。

 

《Shoot bullet》

 

 そうレイジンハートが音声を発すれば、なのはの左の掌に桃色の光が集まり、一つの弾となる。

 

「グウォォォォォォォッ!!」

 

 そうしている間、なおも迫ってくる思念体。そして、レイジンハートが告げる。

 

《撃って》

「はい!」

 

 言われたとおり、なのはは左手にあった光弾を、思念体に目がけて発射した。思念体は、なのはの魔力弾をモロに受けて爆発し、吹き飛ばされる。

 だが、すかさず残った思念体の分身二体が、空中から降下して突撃。

 

「ッ!!」

 

 すぐに二体の攻撃をなのはが防ごうとした時、

 

「あたしの友達になにすんのよぉー!!」

 

 赤い衣装を纏った一人の少女が、熱した鉄のように赤く光る剣で、思念体の一体を斬りつけた。

 

「なのはちゃんをイジメないでー!!」

 

 続けて、青い衣装を纏った少女が、コウモリのような矛先の槍で、もう一体の思念体を一刀両断。

 

「……えッ?」

 

 自分を助けた少女二人の姿を見て、唖然とするなのは。目をぱちくりさせながら、現れた二人を「えッ? えッ? えッ? えッ? えッ?」と何度も交互に見る。

 それもそのはず、なにせ現れた二人が――、

 

「はぁ~……もうなんなのよ、こいつら……。なのはを助けるためとはいえ、結局魔法少女ってのになっちゃったじゃない」

 

 ポリポリ頭を掻かくのは親友の一人――アリサ・バニングス。

 

《いやいや~、似合ってますってアリサさん》

 

 そしてアリサが右手に持つのは、熱を発するように紅蓮に光る剣。それから女性の声が聞こえてくる。

 

 今、アリサが纏っている服装は、普段着でもなければ、学校指定の制服でもない。

 ピンクの上着に、脇までの長さがある赤いコートと赤いスカート。動きやすそうなスパッツを履き、手に赤い手甲を装着していた。腰には、かわいらしく尾の長い黄色いリボンが巻いてある。

 

「う~……さすがに緊張したよぉ……」

 

 手に持った槍を杖代わりにして、へなへな膝を付く少女は親友の一人――月村すずか。

 

《お疲れ様です。すずか様》

 

 すずかが手に持つ、矛先がコウモリのように三又に分かれた槍からも、女性の声が聞こえてきた。

 

 すずかの服装もアリサ同様に変わっており、裾にフリルのついた白い上着を紫の腹当てで締め、膝まである青いコートを着用。フリルついたピンクのスカートと、黒いストッキングを履いている。

 長い彼女の髪は一纏めにされ、髪形はポニーテイルに変わっていた。

 

 そんな、変わりに変わった二人の姿を見たなのはは、

 

「ええええええええええええええええッ!?」

 

 反射的にとんでもなくデカイ声を出す。

 そりゃそうだ。バリアジャケットを着た親友二人が、魔法を使って自分を助けるなんて、夢にも思わなかった場面。驚くなと言う方が無理な話である。

 

 頬をポリポリ掻きながら、目を逸らすアリサ。

 

「ま、まぁ……そう言う反応するわよね……」

「アハハハ……」

 

 力なく笑うすずか。

 

「ど、どう言うことなの二人とも!? な、なんでアリサちゃんとすずかちゃんが魔法を!? それに、その格好って……!?」

 

 まったく冷静になれないなのはは、片っ端から出てきた疑問を口にする。

 

「彼女たちは一体……」

 

 そして、近くで様子を伺っていたユーノもまた、困惑の表情を浮かべていた。

 

「ま、まぁ……いろいろ説明する事は多いけど、とりあえずちゃんと説明するから」

 

 アリサは微妙な表情になりながら説明に入る。

 

「う、うん……」

 

 なのはは真剣な面持ちで唾を飲み込む。

 アリサは息を少し吸い込み、真剣な表情で。

 

「――あたしたちは、魔法少女を始めたの」

 

 と言われて、なのはは「……えッ?」と言う声しか出ない。

 

「……い、いやいやいや! 説明になってないよ!?」

 

 右手を高速で振りながら素っ頓狂な声を上げるなのはに、アリサは腰に手を当てて声を上げる。

 

「もう! 分かってるわよ! ちゃんと説明して――!」

「グウォォォォォォォッ!!」

 

 だが、説明する時間など敵は与えてはくれなかった。

 なのはに吹き飛ばされた思念体が、雄叫びを上げてすぐに彼女たちの元に向かってきたのだから。

 

《今はアレを封印することを優先してください。話すのはその後です》

 

 レイジングハートの言葉に戸惑いながらも、頷くなのは。

 

「う、うん」

 

 確かに、あのような化け物がいては満足に話もできない。色々と知りたいことは山積みだが、今の優先事項は思念体。

 アリサとすずかも、なのは同様に自身の武器を構える。

 

「しょうがないわね」

「もう少し頑張らないとだね」

 

 すると突然……、

 

「フォトンランサー……」

 

 かすかに耳に聞こえてきた少女の声――同時に、思念体の頭上に金色の槍がいくつも降り注いだ。

 

「グウォォォォォォッ!?」

 

 いきなりの攻撃に、さすがの思念体も堪らず悲鳴を上げて、動きを止めてしまう。

 

「な、なに!?」

 

 となのはは驚く。

 

 突然の襲撃。なのはだけでなく、アリサやすずか、そしてやっとやって来た新八たちも、新たな来訪者に目を向ける。

 電灯の天辺に、スラリとした両足を乗せ、黒いマントなびかせる少女。

 

「あ、あれは!?」

 

 新八は驚愕の表情を浮かべる。

 

 長い金髪の髪を夜風になびかせる少女。その姿に、その場にいた全員に差はあれど、誰もが驚きの顔を隠しきれないでいた。

 

 そう、現れたのは、これからなのはとジュエルシードを巡って争う一人の少女――フェイト・テスタロッサ。

 彼女の赤い瞳は、夜の光を照らすように赤く光っていた。


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