魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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気力が回復してきたので、やっと投稿できました。


第十三話:色々予想したのはいいけど、結局答えは別物なのはよくある

「ふぅ~ん」

 

 と呟き、アリサはさきほど聞いた説明を復唱する。

 

「つまり、あんたってその魔法世界の道具で、魔導師って魔法使いが魔法を使うために必要なアイテムが、デバイスって奴なのよね?」

《そうですよ~》

 

 と返事をするフレイア。

 

《さすがですね~、アリサさん。私の見込んだ通り、ナイスな理解力ですよ~! まぁ、厳密には魔導師自体は簡易的な魔法は使えるので、基本的に高度で高威力な魔法をより効率的に使うための補助装置みたいなものって、解釈の方が正しいですね》

 

 炎に羽を生やしたようなデザインの魔法のアイテム――フレイアは、髪をとかしているアリサを待ちながら、彼女の部屋にあったマンガを読んでいる。

 アリサはフレイアに今朝から教えられている魔法世界、デバイスについてなど色々とレクチャーを受け、それをアリサは自分なりにまとめながら復唱している最中だ。

 

《まぁ、私はそのデバイスでも特殊なデバイス……――『エンシェントデバイス』って言われているんですよ》

 

 フレイアの言葉にアリサは反応する。

 

「そう言えば、自律型のIAを積み込んだ……いんてりなんとかってヤツとは違うの?」

 

 アリサが言ったのは『インテリジェントデバイス』。人格型IAを積んだデバイスで、基本的に上級魔導師向けのデバイスである。

 

《インテリジェントデバイスですね》

 

 と頷くフレイアは説明する。

 

《私はインテリジェントデバイスとユニゾンデバイスの両方を合わせたデバイスって感じなんですよね》

「つまり、どう言うこと?」

 

 制服を手に取っていたアリサはよく分からず、後ろを振り返って首を傾げ、フレイアは主の疑問に答える。

 

《簡単に言いますと、インテリジェントデバイスもユニゾンデバイスも、両方とも自律型のIAを積み込んでいるので、サポート面が充実しています。ですがその分、基本的に魔導師として高い実力がある人でないと、使いこなせないんです》

「なるほど。つまり上級者向けってところね」

 

 アリサがうまく解釈したところで、フレイアはマンガを床に置き、空に飛び上がる。

 

《そしてこの私、エンシェントデバイスであるフレイアちゃんは、インテリジェントより高い自律心があり、ユニゾンデバイスのように単独で行動することが可能なのです! 更には両機のハイブリットである私は、自分自身で(マスター)を選ぶこともできます!》 

「で、その両方よりも更に使いにくさは上がっていると?」

《その通り! 大抵の魔導師は私を使いこなすなんてできませんよぉ!》

「まぁ、よく分からないけど……とどのつまり、難易度だけが無駄に高くて大抵の人間が投げ出すクソゲーってところね」

《ちょぉッ!? その例え方はあんまりにもあんまりでしょうが!》

「むしろこれをクリアできる方が凄いっていうゲームみたいに、本体のあんたより、使える人の方が賞賛される的なヤツなんでしょ、あんた……」

 

 ジト目を向けるアリサの言葉を聞いて、フレイアはへなへなと床に降りて、羽を床に着き、しくしくと愚痴を零し出す。

 

《うぅ……確かに私は素直なインテリジェントさんたちと違って少し……いや、ちょこっっっっと自我が強いですよ? ユニゾンさんたちと同じで、主との融合率が高くないと使えないですよ? そりゃ人を選びますよ? ですけど、そんなの私たちを作った人に言ってくれません? いくら使えこなせないからって、ポンコツだとか、駄作だとか、そんなこと言うことないでしょ? 私だってねぇ、主になるであろう人の期待に答えようと必死なんですよ? でもでも、私にだって相性ってもんがあるんですよ? 私だって素敵な主選びたいですよ? ですが! 百歩譲って主を選ばないと言っても、有用な機能色々積んでいるって言っても、使える人いなきゃ、それりゃただのポンコツですよ! クリアできなきゃいくらオプションが充実してても、そんなのただのクソゲーですよ! ゴールできなきゃ意味ないんですよ!》

 

 なにかのスイッチが入ったのか、ぶつぶつと愚痴を言い出すフレイア。さすがのアリサもちょっと不憫だと思ったのかフォローする。

 

「あー……ごめん。あたしが悪かったから、そんなに気を落とさないでよ」

 

 するとやっと愚痴を止めて、フレイアはふわふわと浮き出す。

 

《…………すみません。私もついつい前から溜め込んでいた鬱憤を撒き散らしてしまいました。こんなことでは、アリサさんのパートナーとしてはまだまだですね》

「うん、そうね。パートナー(仮)ね」

《もぉ~。アリサさんは素直じゃないですねぇ。さっきの話を聞けば、私に選ばれたあなたには魔導師として素晴らしい資質があるってことですよ?》

「いくらあたしにその、魔導師の資質があったとしても魔法を使う使わないは別ってこと。前にも言ったと思うけど、本当にあんたを使わなきゃどうにかならないってことになったのなら、パートナーにするかどうか考えるわ。あたしは今の日常に満足してるんだし」

《まったく……夢がないですね~。まぁ、お嬢様であるアリサさんには、魔法がなくても充分生活が潤ってますから、仕方ないかもしれないですけど~》

「しっかしま、あんたのその軽い口。なんでエンシェントなんて名前がついているのか、分かった気がするわ」

 

 呆れた声を出すアリサにフレイアは思い出したように言う。

 

《あぁ、そう言えば、私の開発者が『妖精のように自由気ままなデバイスだから、名前はエンシェントデバイスにしよう』って言う理由でエンシェントって名前にしたらしいです。なんでですかね? 私、まじめな上に主となる人には忠誠心高いんですよ?》

 

 と言いながらまたしてもマンガを読み出すフレイア。ちなみに自由奔放なデバイスの周りには、今まで読んだであろうマンガが散乱している。

 アリサは半眼をデバイスに向けながら、

 

「あんたそれ、もしかしてギャグで言ってるのかしら?」

 

 あとで絶対マンガ片付けさせようと思いながら、金髪の少女はあることを思い出す。

 

「そう言えば、ユニゾンデバイスって人型なのよね? あんたも人になれたりするの?」

 

 アリサは髪をとかし終わり、自分の通っている私立聖祥大附属小学校の制服を着ていく。

 

《まぁ、なれるっちゃなれるんですけど……》

 

 とフレイアは曖昧な返事を返しつつ、話す。

 

《基本的にこっちの姿の方が色々便利なんですよ。でも、必要な時は私のプリチーな姿も見せますよ~》

 

 フレイアはそう言って本のページを捲る。

 アリサは顎に指を当てながら言う。

 

「ふぅ~ん……ホント、魔法ってなんでもありね」

 

 デバイスは本のページを捲りながら言う。

 

《いえいえ、結構魔法だって言うほどなんでもありってワケじゃないんですよ? アニメでやっているような万能的なことはできません。魔法にも魔法の法則(ルール)ってものがあるんですから》

 

 フレイアの言葉にアリサはきょとんする。

 

「え? そうなの? てっきり魔法で、玩具でもお菓子でも、なんでも作り出せるもんだと思ってたわ」

《いやいや~、さすがにあんなのできたら、なんでもあり過ぎですよ~。まぁ、アリサさんも知ればきっと『魔法って言うかこれ、魔法(物理)じゃね?』的なコメントをすると思いますよ~》

「いや、それはそれで夢のない話ね……」

《アハハ。ま~、子供向けのアニメとかの魔法はぶっちゃけ、魔法や魔術のドロドロした部分やまどろっこしい部分を切り取って、大衆受けするようにした物ですから》

「そッ。まぁなんにせよ、魔法を使わないあたしにはどうでもいい話だけど」

《こんな平和な世界じゃ、私たちの世界の魔法を使う機会なんて中々ないでしょうしね~》

 

 そうフレイアが言った頃には、アリサは教科書も全部バックにしまい、小学校に登校する準備を整えていた。

 

「さて、準備も終わったし。後は朝食食べて、時間までゆっくりするだけね」

 

 アリサは手をパンパンと叩きながら満足げな表情。

 

《おぉ~、さすがアリサさん。朝から規則正しいですねぇ~》

 

 と感心するフレイアの周りにはマンガが取っ散らかっており、アリサはジト目向ける。

 

「そう言うあんたは朝から不規則ね」

 

 アリサはため息を吐いた後、ふとあることを思い出す。

 

「そう言えばさ、まだあんたに聞いてなかったことがあるんだけど」

《ん? そうですか? まぁ、まだまだアリサさんには教えたいことは山ほどありますけど、とりあえず大まかなことはお伝えしたつもりですよ?》

 

 アリサは、両足の間にお尻を落としてフレイアの前に座り、真剣な表情でマンガを読んでいたデバイスを見る。

 

「そもそもあんたはなんで、あたしの部屋に居たワケ? あたしがあんたを使いこなせるだけの素質があると言っても、そんなのあたしだけじゃないはずでしょ? そもそも、この魔法のないあたしたちの世界にあんたがいること自体、おかしくない?」

 

 冷静に、だが捲くし立てて一気に訊いてくるアリサに対し、少し間フレイアは黙る。

 魔法の技術は、異世界のモノであると既にフレイアから聞いていたアリサから生まれた疑問。

 真剣な表情のアリサとは違い、フレイアは軽い口調で答え始める。

 

《あー、そのことですか? アリサさんは昨日、あなたを誘拐した連中のボスを覚えてますか?》

「え? えぇ、そりゃー、覚えているわよ。あんな印象的なこと。……って、なんであんた、あたしが誘拐されこと――」

《前の私の所有者、その誘拐犯たちのボスだったんですよ》

「…………えッ?」

 

 フレイアから教えられた驚愕の真実に対して、アリサはポカーンした表情。そんな彼女の様子をまったく気にせず、軽い口調でフレイアは喋り続ける。

 

《いやぁ、あのゲスな野朗が気絶してくれてホントラッキーでしたよ。その時逃げ出せましたから。あんな奴のために働くなんて、真っ平ゴメンこうむりますよ。あ、気付いてなかったと思うんですけど、あの言葉の汚い野朗がポケットからなにか取り出してましたよね? あの時が私の初登場だったんですよー? さすがに初見じゃ気付くの無理ですよね~》

 

 フレイアは、ア~ハッハッハッハーッ! よかったよかった~!! と愉快そうに喜ぶ。それとは対照的に、アリサはフレイアを指差して大声を上げる。

 

「――って言うことはあんた犯罪者の持ち物だったのぉーッ!?」

《あー、勘違いしないでくださいよ。私だって、あんなチンカス野朗を主だなんてこれっぽっちも認めてませんから。隙あらば逃げ出そうと何度考えたことか……》

「いや、あの誘拐犯のこと言葉汚いって言うけど、あんたの方が言葉汚いわよ?」

 

 フレイアは、今思い出しただけでも腹立つ……、と拳ではなく羽を握りしめながら怨嗟の念を口にしている。

 そんなデバイスの姿を見たアリサは、フレイヤの前の所有者が誰とかもうどうでもよくなった。もしかしたら、呪いのアイテムみたいな厄介な存在かと思ったが、こんなおちゃらけた奴なら、その可能性も低そうだ。

 一方のフレイアは、うっとりした声でアリサとの出会いを語る。

 

《しかし、誘拐されたアリサさんがドンピシャの相性だったもんですから、これはもう運命の出会いだと思いましたよぉ~。あなたのご親友のお二人も捨てがたかったのですが、私はアリサさんと決め、姉のホワイトちゃんは〝すずかさんをパートナーにすること〟を決めて、あの野朗のポケットの中で虎視眈々と逃げるチャンスを伺っていたもんです。まぁ、逃げ出せた後は、自力で飛行できる私とホワイトちゃんはアリサさんとすずかさんのポケットに入って身を潜めていたんですけどね》

「そうなの――って、ちょっと待てぇぇぇッ!?」

 

 アリサはフレイアに詰め寄る。

 

「あんたなんかサラリと重要なこと言わなかった!?」

《えッ? 私がこのマンガを一話目から駄作認定したことですか?》

「違うわよ! って言うかそのマンガは話が進んでいく度にマジで面白くなるんだから! って、そうじゃなくて! って言うかなに? あんたの妹? ホワイトちゃんて誰!? あたしあんたに妹とかいるとか初耳よ!? って言うかなんであんたに妹いるのよ!?」

《くどいツッコミありがとうございます》

「やかましィ!」

 

 フレイヤは羽で後頭部(?)を撫でながら気まずそうに喋る。

 

《あー……もしかして、わたし……ホワイトちゃんのこと、教えてませんでした?》

「初 耳 です!」

 

 

 

【つまり……】

 

 アリサは念話の相手であるフレイアに確認する。

 

【あんたの姉妹機で、姉にあたるホワイトって奴が、すずかにパートナーにしてくれるように取り入っていると?】

【言い方はあれですけど、まぁ概ねそんな感じですね】

 

 フレイアに教えて貰った、魔力を使って自分以外の相手とテレパシーのように会話する魔法――『念話』を使いながら、アリサとフレイアは車の中で会話をしている。ちなみに、車の中でフレイアに説明させている理由としては、もう部屋で話しているほど時間があまりないから。

 フレイアは説明を続ける。

 

【まぁ、私をすずかさんに見せれば、彼女も大体のことは察してくれると思いますよ? ホワイトちゃんも、私がアリサさんのところに行ったことを伝えていると思いますし】

【はぁ……。なにもあんたの姉まで、あたしの身近な人物に厄介ごとを持ち込む必要ないでしょう……っていうか魔法のアイテムの姉ってなによ……】

 

 アリサは呆れ顔で頭を抑えるが、フレイアは関心した声。

 

【おや、アリサさん。念話でため息をつくとは器用な。早速魔導師としての資質が現れてますね!】

 

 いや、これは魔法の資質と関係ないのでは? とアリサはツッコミそうになる。が、この念話と言うモノは結構使えるし、とりあえず心の中に留めておくことにする。

 

 ちなみに、すずかの家までやって来たアリサ。玄関から出てきたすずかにフレイアを見せたところ、すずかは苦笑いしながら〝雪の結晶に白い両翼がついたキーホルダーみたいなモノ〟を見せてくれた。

 それを見て、頭痛を覚えたアリサ。

 

 

 昼になる頃。

 新八、神楽、沖田、土方、山崎の江戸からやって来た五人組。なのはの家でもある、喫茶翠屋に集まって今後のことについて話し合うことにした。

 ちなみに席は、店の端っこ。これは、わざわざ客でもない自分たちが席を使うのは図々しいからという、新八たちの配慮が半分。

 

「土方さんがニコチンのお陰で、俺らこんな隅っこの席で雑談するハメになったんですぜ?」

 

 と沖田は言って、席が端っこになった半分の理由である上司を、ジト目で見る。

 

「くぅ! まさかここでも喫煙者差別が行われていたとは……!」

 

 悔しさのあまり拳を握り絞める土方に、沖田は「いや、これ普通の対応ですぜ?」と珍しくツッコム。ちなみに、喫茶翠屋も飲食店なので、ちゃんと喫煙席と禁煙席の仕分けはしてある。

 

「って言うか、なんかあの人……」

 

 山崎はレジに入っている士郎に目を向ける。

 

「こっちを射殺さんばかりの視線で見てるんですけど……」

 

 山崎は身を竦めながら顔を青ざめさせ、神楽は土方をジト目で見る。

 

「よっぽどトッシーのタバコが気に入らないアルな」

 

 目からビーム出さんばりの勢いで目を血走らせる士郎。もちろん視線の先は土方。

 すると、ホールのケーキを持ってきた桃子が苦笑しながら説明する。

 

「ごめんなさいね。士郎さん、タバコのこと毛嫌いしてるから。お陰でうちの常連さんでタバコを吸う人はほとんどいないのよ」

「いや、それ営業する方としてはまずくないんですか?」

 

 と山崎が口元を引きつらせる。

 

「まぁ、口には出さないし私も普段は止めてって言うんだけど……」

 

 桃子は頬に手を当ててやれやれと呆れた表情。

 

「たまに顔に出しちゃうのよ……。ホント、困ったものだわ」

 

 そう言って桃子は厨房に戻っていく。

 土方は士郎の視線にいたたまれなくなったのか、灰皿にタバコを押し付ける。

 

「いっただっきま~す!」

 

 神楽はパクリとホールのケーキを一口で頬張って食べる。そんな彼女を見て山崎は「うわッ、一口で食べちゃったよ……」と若干引いていた。

 

「んでま、どうしますかねェ、近藤さんのこと」

 

 沖田の言葉を聞いて、新八と山崎は言葉が出ないと言うように下を向く。

 さっそく本題の一つが来たことで、土方はため息をつく。

 

「今は現状維持以外に方法が見つからねェ。下手なことしたら俺たちまで警察の連中に捕まりかねん。はっきり言って、〝こっち〟じゃ俺たち真選組は権力的力を何も持ってねェんだからな」

「しかし本当なんですか副長? ここが〝未来の世界〟だって言うのは」

 

 と山崎は不満げに聞くと、

 

「まったくネ。お前、頭がどうかしちゃったんじゃないアルか?」

 

 神楽が訝し気に土方を睨むと、仕返しとばかりに鬼の副長が睨み返す。

 土方は既に『江戸が存在しない未来に来てしまった可能性が高い』という自らの推論を新八たちに話したのだ。しかし、話が話だけに山崎と神楽は未だに信じられないといった顔だ。

 ため息をつく土方は説明する。

 

「だから、この家の連中にも話を訊いたんだよ。案の定、図書館のガキと同じような回答だったけどな」

 

 高町家の士郎や桃子にも尋ねたのだが、図書館で会った車椅子の少女と同じような答えが返ってきただけ。余計に自分たちがいる世界が未来であると言う仮設が、土方の中で深まったのである。

 

「まー、周りの連中のファッションで薄々は勘付いてましたが」

 

 と言って沖田は周りを見渡す。

 

「しかし……未来とは、またとんでもない事実到来ですねェ」

「たく、瞬間移動装置じゃなくてタイムマシンじゃねェか。青い猫型ロボットじゃあるまいし」

 

 今、自分たちが置かれている現状のヤバさに対して土方は頭痛すら覚え、頭を抱える。

 沖田は視線を別の人物に向ける。

 

「まァ、帰る手段がねェワケじゃねェんだろ。な~、眼鏡」

「………………」

 

 当の新八は下を向いて黙ったまま。

 

「おい、ぱっつぁん。呼ばれてるアルよ?」

 

 神楽は肘で新八を小突く。

 

「…………え?」

 

 と、やっと反応を示す新八は。

 

「よ、呼んだ? 神楽ちゃん?」

「いや、お前に話しかけたのはサディストの方ネ」

 

 心ここにあらずと言った新八に対して、神楽はため息を吐く。

 沖田も一回自分が無視されたことに対して呆れた声を出す。

 

「たく、この俺様を無視するたァ、偉くなったもんだなおめーも」

「す、すみません!」

 

 新八は申し訳なさそうに頭を下げる。

 そんな中、土方が「話を戻すぞ」と言って新八に顔を向ける。

 

「お前の知り合いの科学者から貰ったケータイはあるのか?」

「あ、はい。ここに」

 

 新八は懐から黒いケータイを取り出す。

 

「これがあれば、僕たちの知り合いの科学者のげん……げ、〝原人さん〟の瞬間移動装置を使って江戸に帰れますから」

 

 慌てて何かを良い直す新八に対して、土方は怪訝な表情を浮かべるが特に追及はしない。

 山崎は顔を青くさせつつ言う。

 

「ぶっちゃけ、俺たち新八君たちいなきゃ、帰る方法なかったですよね……」

「………………」

 

 山崎の言葉を聞いて土方も顔を青くさせ、冷や汗を流す。

 よくよく考えて、幕府の作っていたあの瞬間移動装置に自分たちを特定できる機能――つまり、行き帰りができるようなシステムがあるかどうかも分からない。下手したら、あのまま自分たちは見知らぬ土地に送られた挙句帰ることすらできなくなっていたのではないか? という予想が、土方の中で浮かんできたのだろう。(そうなった場合、帰れなくなるのは近藤さんだけだが)

 

「ま、まぁ! 銀さんが見つかり次第帰れる目処はあるんですから元気出しましょう! ね?」

 

 新八は声を出して場の雰囲気を変えようと努め始める。

 そこで、沖田が新八の言葉に待ったをかけた。

 

「でもよォ、おめェらの知り合いの科学者が作ったのも瞬間移動装置なんだろ? だけど俺たちがしたのはタイムスリップだ。俺の予想だと瞬間移動とタイムスリップは、別もんじゃねェのか? 本当に帰れんかよ?」

「た、確かに!」

 

 山崎も沖田の意見に納得し、気付いたようだ。

 腕を組んだ土方は新八に顔を向ける。

 

「その電話、今もちゃんと通じるのか?」

「ああ、はい」

 

 と新八は頷き、説明する。

 

「ちゃんと昨日のうちに通じるかどうか確かめましたけど、問題ありませんでした。げんが……原人さんはちゃんと僕たちの特定も出来ているって言ってましたし。ただ、『お前らどこにいるんだ?』とは質問されましたけど」

 

 原人に質問された時、どうやら新八は現状の詳細を大分濁して説明したらしい。理由は分からないが。

 話を聞き、土方はある提案を言う。

 

「なら、誰か一旦戻ってみたらどうだ? 本当に帰れるかどうか確かめるなら早い方がいい」

 

 新八は首を横に振る。

 

「いや、僕も一旦戻れるかどうかは訊いてみたんですけど、どうにも装置の修理にはまだまだ時間がかかるそうなんですよ」

「……そうか。まァ、紛いになりにも帰れる目処がついているならよしとするか」

 

 土方はそう言って一服吸おうとするが、士郎の突き刺すような視線を感じて、タバコを箱に仕舞う。

 山崎が椅子に腰を預けながら、顔を上げて天井を見る。

 

「にしても、本当に未来なんですかね? 〝ここ〟」

「さーな」

 

 土方は首を横に振る。

 

「正直な話、天人(あまんと)共は今の地球には居ないらしい。それどころか、歴史にすら名前が出てきてねェ」

「マジでか!?」

 

 神楽は、天人(あまんと)の存在そのものが地球の歴史から抹消されていることにビックリしているようだ。

 沖田が体をダラけさせながらが言う。

 

「歴史の闇に葬られたんですかねェ? そもそも、天人(あまんと)がこの地球を簡単に捨てるとは到底思えませんねェ、俺ァ」

「詳しい経緯は俺にも分からん」

 

 と土方はまた首を横に振る。

 

「なんにせよ、もしかしたらこの世界は、俺たちが想像しているよりも遥か先の未来(せかい)ってことなんだろうな……。ま、過去の人間の俺たちがクソみてェな天人(あまんと)共を見なくて住むこの世界を目に焼き付けておくのも、悪かねェかもな……」

 

 土方は外の景色を見ながら笑みを零す。

 

「副長……」

 

 山崎は、鬼の副長の顔から感じる一抹の寂しさのようなものを、感じ取っているのだろう。

 

 土方の話では、侍も武士も過去の生き物となっており、現在では刀を持つことは特定の資格を持つ者しかできないらしい。

 そもそも新選組と言う組織は歴史では結局、変わりゆく時代に取り残され、それに抗った者たちとして語り継がれているそうだ。ちなみに情報源は、大河ドラマ好きの高町桃子から。

 

 きっとこれから起こっていくであろう真選組の顛末を聞いた土方。彼なりに、思うところはあるだろう。

 

「あ、あのォ~……」

 

 新八は、ちょっとセンチメンタルに浸っている真選組副長を尻目に、おずおずと手を上げる。

 

「ん? どうしたんでィ、眼鏡」

 

 反応する沖田は、新八を訝し気に見つつ言う。

 

「つうかお前、さっきから目を泳がせたりそわそわしてっけど、思春期特有のエロい妄想か?」

「いや、思春期特有のエロい妄想ってなに!? 思春期の青年がみんなエロいこと考えていると思ったら大間違いだからな! いや、そうじゃなくてですね……あの……その……」

 

 沖田にちゃんとツッコミを入れる新八だが、やはりなにか言いづらいのか視線を左へ右へと泳がせ、声をも小さくなり、中々本題を話そうとしない。

 

「もォ、さっさと言えよ眼鏡。うじうじしててイライラすんだヨ」

 

 神楽が不満そうに口を尖らせると、新八は素直に頭を下げる。

 

「う、うん……ごめん、神楽ちゃん」

「つうか、おめェはさっきから何が言いてェんだ?」

 

 土方の問いを聞いて、新八は汗をダラダラ流す。

 言いたいことがあるのだが、中々言い出せない。そんな様子の新八であったが、やがて、

 

「えっと……ですね……」

 

 ポツリと話し始める。

 

「ここは……土方さんの言うような、未来の世界じゃ、ないと……思うんです」

「はッ? どう言うことだそれは?」

 

 土方は新八の言葉を聞いて怪訝そうな顔を作る。

 

「えっと……」

 

 山崎がちょっと自信なさげに訊く。

 

「じゃあ、ここが未来じゃないなら……異世界? ってことかな?」

 

 すると神楽の目が輝きだす。

 

「異世界アルか!? なら魔法アルか!? ドラクエアルか!? FFアルか!? 異世界RPG編突入アルか!?」

 

 ちょっと少年マンガ的な思考寄りの神楽。凄い期待感に満ちた目をしだす。

 

「いや、異世界でもなくてね……いや、異世界なのかな? それにまァ、魔法っちゃ魔法なんですけど……」

 

 眉間に皺を寄せ、腕を組む新八。彼が二度三度と首を傾げながら曖昧な回答をしてから、やがて神楽に言う。

 

「――って言うか、神楽ちゃん。もしかして忘れちゃった? 神楽ちゃんも『あのDVD』見てたよね?」

「ん?」

 

 神楽は新八の言葉を聞いて「ん~……」と唸りつつ腕を組んで考え出す。

 

「…………………あッ」

 

 そして神楽が何かを思い出したかのように声を漏らすと、土方が訝し気に質問する。

 

「ん? DVDってなんだ? つうかお前らなんのこと言ってんだ?」

 

 新八が何を言いたいのか分からない土方。

 新八は息を吸って意を決したのか、『ある物』を懐から取り出した。

 

「――たぶん僕たち、『この世界』に来ちゃったと思うんです」

 

 新八が出した『DVDのケース』。その視線に沖田、土方、山崎の視線が注がれる。そしてパッケージを見た瞬間、三人の顔は茫然と言う言葉を表したようなモノになってしまう。

 

「たぶん僕ら――『アニメの世界』に来ちゃったみたいなんです」

 

 『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』のパッケージに視線を逸らしながら、新八はドッと汗を流すのだった。

 

 

「にしても、すずかの方は、デバイスのマスター登録っての済ませちゃったのね」

 

 私立聖祥大附属小学校、三年生の廊下にある女子トイレ。その中で、アリサは呆れたような声を漏らす。

 

《まったく、アリサさんもすずかさんを見習って、私にマスター登録させて欲しいものです》

 

 不満そうな声を漏らすのは、未だ主のいないデバイスのフレイア。たぶん口があったら尖らせていたことだろう。

 アリサとフレイアのやり取りを見て、アハハと苦笑いをするすずかは尋ねる。

 

「アリサちゃんはマスター登録してなかったんだね?」

「そりゃそうよ。よく分からない魔法の力なんてあたしには必要ないものだし」

 

 ふんと首を背けるアリサは、ちらりと雪の結晶のようなアクセサリーに目を向ける。

 

「にしても、なんですずかはそのホワイトってのをパートナーにしたの?」

「だってホワイトちゃん、どこにも行くあてがないみたいだから。それに、わざわざ私を選んでくれたんだから、魔法使いになってもいいかなって」

 

 すずかの話を聞いたアリサはため息を漏らす。

 

「まったく、あんたってホント昔っからお人よしなんだから」

 

 すずかは「アハハ」とはまた苦笑してから、話す。

 

「でも、私ね。魔法を使ってみたいと思ったからホワイトちゃんと契約したんだよ」

《すずか様のデバイスとなれて、とても光栄です。これからもすずか様のデバイスとして恥じないよう、全力でバックアップさせてもらいます》

 

 すずかのポケットから顔(?)を出して喋っているのは、雪の結晶に羽が生えたアクセサリーのようなモノ。それこそがすずかのデバイス、ホワイトである。

 

「まったく、姉ってだけあって、妹と違ってしっかりしてるわ」

 

 アリサはそんな礼節な態度を取るすずかのデバイスを見て、不遜な態度を取るデバイスに嫌みったらしい視線を送る。すると、自分のデバイスになりたいとかのたまうフレイアは不満声を漏らす。

 

《失礼ですねぇ。私のどこがホワイトちゃんに劣っていると?》

《姉をちゃん付けで呼ぶ時点で、あなたがお調子者であると気付きなさいフレイア》

 

 自分の妹に注意する姉。デバイスであれど、姉妹の役割もちゃんと果たすようだ。

 

《こんな妹ですが、今後ともよろしくお願いします、アリサ様》

 

 お辞儀するホワイトを見てアリサは納得したように頷く。

 

「……なるほど、姉が良い部分全部吸い取ったから妹はこんなんなのね」

《いや、それナチュナルに酷くあ~りませんか!?》

 

 フレイアは心外とばかりに言う。

 

《って言うか私たちは姉妹と言ってもデバイスなんで! 人間と違って後とか先の優劣とかありませんから! むしろ後継機の方が性能は良いってのが相場なんです~!》

《フレイア。私たちが作れたのはほぼ同時期なので、性能にほぼ差はありません》

 

 と、ホワイトは冷たく言い放つだった。

 

 

 

「……二人とも遅いなー」

 

 カバンを背負いながら昇降口の前で親友二人を待つ、最近あんまり出番のない主人公(なのは)


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