やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

65 / 67
比企谷八幡は防衛任務をしながら、木虎争奪戦について策を練り始める

「あ!八幡先輩に辻先輩に三上先輩、こんにちは」

 

防衛任務開始20分以内に作戦室に入ると、既に文香は居て俺達に気付くと笑顔を浮かべて頭を下げてくる。癒されるなぁ……

 

「うーっす」

 

「こんにちは」

 

「こんにちは文香ちゃん」

 

文香の可愛さに癒されたのは俺だけでないようだ。辻と歌歩も機嫌が良さそうに挨拶をする。

 

「はい。それにしても3人が同時に来るとは思いませんでした」

 

「待ち合わせした訳じゃないが、朝基地に向かったら歌歩と、基地に入ってから辻と会ったんだよ。それよりも文香、重要な知らせがあるから聞いてくれ」

 

「重要な知らせ……この時期ですとランク戦関係ですか?それとも藍ちゃんのスカウト関係ですか?」

 

文香は直ぐに真剣な表情を浮かべて俺に聞いてくる。この切り替えの早さは隊長としてありがたい。

 

「後者だ。今日木虎と会ったら嵐山さんと加古さんもアイツをスカウトしていた。そんで色々あって加古隊と嵐山隊と模擬戦をする事になった」

 

結局俺と嵐山さんは加古さんの提案を受け入れた。ここで逃げたら心証を悪くなりそうだったから。

 

「つまり迅さんの予知が当たったのですか……話はわかりましたが、いつやるのですか?」

 

「来月の正式入隊日ーーーつまり3週間後だ」

 

防衛任務や嵐山隊の広報もあって中々3部隊が揃って非番の日がなかったので木虎が入隊する正式入隊日当日にした。オリエンテーションが終われば嵐山隊は休みだから。

 

「3週間……長いようで短いですね」

 

「ああ。それで今回の作戦についてだが、具体的な作戦はまだないが大まかな方針は決めている」

 

「私と辻先輩の狙撃とワイヤー戦術ですか?」

 

「正解だ。本当は来シーズンのランク戦までに取っておくつもりだったが、確実に木虎を手に入れる為に出し惜しみはしないつもりだ」

 

文香の狙撃と辻のワイヤー戦術は来シーズンから使う予定だったが、木虎争奪戦で出し惜しみして負けたら意味ないし。

 

今シーズンウチの隊は嵐山隊と飽きるほどやったがそこまで差がない。しかし嵐山隊に木虎が加入したらこちらが不利になるだろう。嵐山隊はエースが居ないのが弱点と言われているが、才能に溢れている木虎が入ればその弱点を補えるだろうから。

 

だから3週間後の試合では出し惜しみはしないつもりだ。まあその時の文香と辻の成長具合によるけど。

 

「とにかくそんな訳だからよろしく頼む」

 

「わかりました。それでは八幡先輩。今回の防衛任務で狙撃手として動いてもよろしいですか?基礎練は玉狛でやっていますが、実戦経験は圧倒的に不足していますので」

 

「俺から頼もうと思ってたところだ。ただしヤバくなったら即座に本来のスタイルに切り替えろよ」

 

「了解です」

 

「頼むぞ。辻はスパイダーの展開を頼む」

 

「わかった」

 

そして辻が展開したスパイダーを俺が使ってトリオン兵相手に高速機動戦をマスター出来ないんじゃ話にならないからな

 

「んで歌歩はいつものように支援よろしくな」

 

オペレーターがいない部隊なんて脆いからか。いつものように支援してくれるのがなによりも頼りになる。

 

「任せてお兄ちゃん」

 

歌歩は満面の笑みを浮かべながら了承してくれる。本当に良い部下に恵まれたよ俺は。

 

「よし。んじゃそろそろ時間だから行くぞ」

 

そう言ってトリガーを取り出すと他の3人もそれに続くので……

 

「「「「トリガー、起動」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん!モールモッド二体にバムスター二体、バンダーが三体来るよ!』

 

防衛任務の最中、歌歩から通信が入る。防衛任務が始まってから2時間、今の所は順調にこなしている。というか今日はトリオン兵が余り来ない。今現れたのも最後のトリオン兵を倒してから30分以上経過してからだし。

 

「了解。文香、バンダーは任せた。辻は文香のフォローを最優先にしながらバムスターを叩け。モールモッドは俺がやる」

 

指示を出しながらグラスホッパーを起動してモールモッドとの距離を詰めにかかる。

 

『照屋了解』

 

『辻了解』

 

2人から了解の返事を聞くと背後から一筋の光が一直線に進み、一体のバンダーの目を破壊する。距離から察するに文香の狙撃だろう。

 

チラッとバンダーを見れば、目ではなく目の近くの装甲に当たっていてまだ生きてる。まあまだ狙撃を始めてから1月も経過してないからこんなものだろう。

 

そう思いながら俺はグラスホッパーを更に使用してモールモッドとの距離を詰める。するとモールモッドはプログラムに沿ってブレードを振り上げてくる。

 

本来の俺ならスコーピオンでブレードの根元を斬るかハウンドで先に目を破壊するだろう。

 

しかし今回は……

 

「よっと」

 

モールモッドがブレードを振り下ろす前に近くにあるワイヤーを掴んで、途中でグラスホッパーによる軌道を変化する。

 

そして更に跳んだ先にあるワイヤーを掴んでから近くにある壁を蹴って、遂にはモールモッドの後ろに回り込むことに成功する。

 

一度地面についた俺はそのままモールモッドの背中に乗って、顔面の近くまで寄って……

 

「じゃあな」

 

そのままスコーピオンを突き刺して頭を破壊する。同時にモールモッドは地面に倒れ込んだので、もう一体のモールモッドを叩きに行く。

 

すると頭上から分厚い光のレーザーが2つ俺の頭上を横切った。レーザーの分厚さや数から察するにバンダーの砲撃だろう。3つでないという事は一体は倒したのだろう。

 

そう思いながら俺は建物の上に上ると……

 

「うおっ!」

 

一筋の光が俺の鼻スレスレの場所を通り、そのままバンダーの目を撃ち抜いた。

 

『すみません八幡先輩!大丈夫ですか?!』

 

ヘッドホンから文香の謝罪が耳に入る。やはり今のは文香のイーグレットのようだ。

 

「いや、元はと言えば一声かけずに射線が通る場所に出た俺が悪いんだし」

 

文香にバンダーを任せた以上、文香の射線に入った俺が完璧に悪い。文香が謝る必要は全くない。

 

「だからお前は気にすんな。寧ろ終わったらアイスでも奢る……っと、モールモッドを仕留めるからまた後で」

 

『あ、はいわかりました』

 

文香から了承の返事が来たので俺はそのまま路地に向かってグラスホッパーを起動して一気に距離を詰める。このモールモッド周辺には辻の仕込んだワイヤーがないに普通に戦うか。

 

方針を決めた俺はスコーピオンを構えて、モールモッドの振り下ろすブレードの横っ腹を叩いて受け流して、返す刀で目玉を横薙ぎに斬り捨てる。

 

それと同時に……

 

『こちら辻。バムスターは全て撃破した。スパイダーの調子はどうだ?』

 

『こちら照屋。バンダーを全て撃破しました。三体仕留めるのに5回狙撃しましたので命中率は6割です』

 

チームメイト2人から撃破報告が入る。どうやら向こうも特に問題なく終わったので安心だ。

 

「わかった。じゃあ最初ーーー俺と辻が前衛で文香が後衛のフォーメーションで行くぞ」

 

今回は文香の狙撃がメインだから俺と辻がしっかりフォローしないといけないからな。

 

『『了解』』

 

2人の声が聞こえたので俺は地面を蹴って空き家となって警戒区域の家の屋根を蹴って2人と合流した。

 

 

その後も何度かトリオン兵が出ていたが、割と文香の狙撃で倒せた上に誰一人としてベイルアウトしなかったのでまあまあ上出来な成果だったと思える。

 

余談だが、次に防衛任務をするチームに引き継ぎをする前に辻が展開したスパイダーは全て斬っておいた。こういう所から情報漏れする可能性があるからな。加古隊と嵐山隊との試合までこういった証拠隠滅は徹底的にするつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりまだまだ動く標的に当てるのは難しいですね」

 

「だな。トリオン兵はプログラムされた動きをするし、直ぐに当てれると思うが……」

 

「例の試合で加古さんや嵐山さん相手に狙撃をするのは厳しいと思う。当日は俺のスパイダー戦術だけにする方が良いかもしれない」

 

「それが良いかもね。もしくはお兄ちゃんと辻君を餌にして引き寄せてから、近距離でライトニングを撃つのはどうかな?」

 

防衛任務を終えて基地に帰還した俺達は廊下を歩きながら、例の木虎争奪戦についての話をしている。

 

やはり文香の狙撃は当日までにモノにするのは厳しいって意見だ。とりあえず基礎の連携はするが当日は使わない方がいいだろう。ミスって居場所がバレたら面倒だから。

 

「そういえば八幡先輩。試合のステージとかはどのチームが決めるんですか?」

 

「公平を期す為に当日にランダム設定にすると決めた。加えて天候とかもランダムだから当日までに悪天候のステージを体験しておくぞ」

 

「そうだな。中には暴風雨とか猛吹雪とか砂嵐があるから、幾ら対策をしていてもし過ぎって事はないだろう」

 

「そうだね。じゃあお兄ちゃん。作戦室に戻ったら「弟君!」この声は……!」

 

聞き覚えのある声が俺の耳に入った瞬間、歌歩と文香が何故か臨戦態勢に入る。お前らどうしたんだ?

 

頭に疑問符を浮かべていると、右から足音が聞こえてきたので見てみると……

 

「こんにちは遥ちゃん、偶然だね」

 

「お久しぶりです綾辻先輩」

 

俺の義姉である遥姉さんがこちらに走ってきたかと思えば、歌歩と文香が俺と姉さんの間に割って入る。

 

すると綾辻が引き攣った笑みを浮かべて口を開ける。

 

「そうだね。ところで弟君と話がしたいから退いて貰って良いかな?」

 

「いやいや、この距離でも話せるよね?」

 

「そうですよ。何か不都合な点でもありますか?」

 

「うん。弟君に抱きつきたいから退いてほしいな」

 

「「ダメ(です)!」」

 

姉さんの要求を歌歩と文香が一蹴する。気の所為か3人の間に火花が飛んでいる気がする……

 

「さて、俺は腹が痛いから手洗いに行ってくる」

 

辻はそう言って逃げようとするがこの場で俺を見捨てるな!

 

急いで捕まえようとするも辻は信じられない速さで走り去って行った。あの野郎……後でしばく。

 

そんな事を考えていると姉さんが話しかけてくる。ただし両手を歌歩と文香に掴まれた状態で。

 

「とりあえずお前ら、流石に離してやれよ」

 

「でも離したら遥ちゃんがお兄ちゃんに抱きつくから……」

 

「いや俺は別に慣れてるから気にしな「「そういう問題じゃないの(です)!」」そ、そうか……」

 

2人に突っ込まれたら何も言えなくなってしまう。今回は歌歩と文香の勝ちのようだ。

 

「済まん姉さん。2人もこう言ってるし今日は抱きつくのは勘弁してくれ」

 

「むー、わかったよ」

 

姉さんは渋々ながら受け入れてくれた。良かった、とりあえずこれ以上は揉めずに済むな。

 

「助かる。そんで話ってなんだ?」

 

「あ、うん。話というより宣戦布告かな」

 

宣戦布告だと?俺に?どういった意味……あ。

 

「もしかして木虎争奪戦についてか?」

 

「うん。弟君がA級目指しているのは知ってるけど、今回だけは絶対に負けないから!」

 

姉さんはハッキリと宣戦布告をしてくる。正直意外だ。姉さんがそんな風に宣戦布告をしてくるなんて。

 

「そんなに姉さんもA級に上がりたいのか?」

 

「それもあるけど……」

 

「あるけど?」

 

俺が聞き直すと姉さんは恥ずかしそうにしながらも口を開ける。

 

「その……彼女が弟君のチームに入ったら……新しいライバルになるかもしれないし」

 

「は?」

 

なんだそりゃ?俺のチームに木虎が入ったらライバルになるのは当たり前だろ。

 

「「あー」」

 

すると歌歩と文香も納得したように頷く。マジでなんなんだ?

 

「そう考えると、私達のライバルになるね」

 

「ただでさえライバルが強いのに……」

 

マジでなんの会話をしているんだ?歌歩と文香のライバルにもなるって、イミワカンナイ。

 

しかしそんな俺の頭に浮かぶ疑問の解を出す前に姉さんが口を開ける。

 

「とにかく、当日は絶対に負けないからね?私が言いたいのはそれだけ。じゃあまたね」

 

姉さんがそう言うと歌歩と文香が姉さんの手を離す。何を言っているのかは分からなかったが、勝ちを譲るつもりはない。A級に上がる為にも有力な選手はスカウトしたいし負けるわけにはいかない。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

「隙ありー!」

 

そんな声が聞こえたかと思えば姉さんが俺に抱きついてくる。

 

「「しまった!」」

 

瞬間、歌歩と文香が姉さんを引き離そうとするも姉さんは離れる気配はない。

 

「えへへー弟君あったかい……なんかほんの数日離れただけなのに3ヶ月以上離れ離れになっていた気分だったからね」

 

確かに……俺自身なんというか3ヶ月近く別の世界にいたような気がするんだよな。脳裏にはアスタリスクって言葉が強く残っているし。

 

「遥ちゃん!こんな場所でイチャイチャしちゃダメだよ!」

 

「そ、そうです!不純異性交遊ですからね!」

 

歌歩と文香が真っ赤になりながら遥を引き離そうとする。

 

「いやいや、ただ弟にスキンシップをしてるだけだからね」

 

そんな2人に対して遥は全く気にしないで俺に抱きついたままだ。すると痺れを切らしたらしい歌歩と文香は姉さんから離れて……

 

「「えいっ!」」

 

そのまま姉さんと同様に抱きついてくる。正面には姉さん、右に歌歩、左に文香が抱きついて、俺は今美少女3人に挟まれている状態となっている。

 

「お前らなぁ……」

 

「こ、これは兄妹のスキンシップだから大丈夫!」

 

「そ、そうです!チームメイト同士のスキンシップですから問題ないです!」

 

ダメだ。歌歩と文香も姉さん同様に離れる気配がない。もういいや、好きにしよう……

 

 

結局俺は暫くの間3人に抱きつかれたままスキンシップをされまくったのだった。

 

その後俺を見捨てた辻は模擬戦でしばき倒しておいたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、別世界の水上学園都市では……

 

「今日さ、なんか暴走族か着るような服を着た見た目が高校生時代の頃の俺が知らない美少女3人に抱きつかれた夢を見たんだよ」

 

「へー、随分変な夢を見たんだね」

 

「もしかして過去のパラレルワールドの夢を見たのじゃないかしら?アスタリスクに来ない場合の」

 

「あー、あり得そうだわ」

 

「だとしたら夢で良かったです。もしも八幡さんがアスタリスクに来なかったら……」

 

「だよね。八幡君が居ない人生なんて考えられないよ」

 

「そうね」

 

「ありがとなお前ら……愛してる」

 

「「「私も八幡(君)(さん)を愛しているわ(いるよ)(います)」」」

 

「「「「んっ……」」」」

 

 

 

 

 

 

どの世界でも3人の女子に愛される八幡であった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。