ーーー八幡、大好きーーー
ーーー八幡君、好きだよーーー
ーーー八幡さん、愛しています……ーーー
目の前には白髪の女子に紫色の髪の女子、、緑髪の女子が俺に愛を告げて寄ってくる。
彼女らは全員凄く可愛い。可愛いが、何故か誰の名前も知らない。知らない女子に愛を告げられている。
しかし何故かどこか別の世界で彼女らと出会った気がして、俺の心の中にいる。マジで誰なんだこの子達は?
不思議に思う間にも3人は俺に寄ってから目を瞑り近付いてくる。これはアレか?キスをしろって事か?
しかし名前も知らない女子とキスをするなんて論外だ。そう判断して距離を取ろうとするも……
ーーー八幡、逃げちゃダメーーー
ーーーそうだよ。キスしてよ八幡君ーーー
ーーーお願いします、八幡さん……ーーー
3人の女子は俺を逃がすつもりはないようでそのまま抱きついてくる。ちょっと待てちょっと待て!マジで何なんだこの子達は?!
俺が焦る間にも……
ーーー八幡(君)(さん)、大好きよ(だよ)(です)……ーーー
3人は俺に唇を突き出してきてくる。これはアレか?逆らってはいけないのか?
そう思いながら俺は半ば諦める形で3人の顔に近寄る。3人は逃がすつもりはないみたいだし受け入れよう。なぜか彼女らとは毎日キスをしていたような気がするに忌避感はない。
そう思っていると、俺達4人の唇が重なる……
ーーー八幡先輩!ーーー
ーーーお兄ちゃん!ーーー
ーーー弟君!ーーー
直前に背後から文香と歌歩と姉さんの声が聞こえたかと思えば首根っこを引っ張られる形で目の前にいる女子3人から引き離される。
同時に上空から光が生まれて思わず目を閉じてしまう。マジで何なんだこれは?目を閉じても光を感じるぞ!
予想外の展開に混乱していると光を感じなくなったので目を開けてみると……
pipipi……
「……あれ?」
そこは俺の部屋であり、目覚まし時計が鳴っている。周囲には文香も歌歩も姉さんも、名前を知らないながらも心に強く印象づいた女子3人も居なかった。
それはつまり……
「夢かよ……」
まあそうだよな。俺があんな美女3人と恋仲になっている訳がないよな……はははは……
(何故だろう。なんか凄く惜しい……まあ仕方ないか)
内心悔しい気持ちを胸に抱きながらも、俺はベッドから起き上がりクローゼットから服を取り出して着替え始める。
「てか今の夢なんだったんだよ?」
マジであの3人は何者なんだ?名前も知らないのに妙に印象的なんだよなぁ……
「あー、暑い……」
朝起きた俺は朝食を食べた後、ボーダー基地に向かっている。夏休みの最中だが防衛任務がある故に。
しかし季節は8月とあってクソ暑い。歩いてるだけで脱水症状になりそうなくらい暑くて仕方ない。早くボーダー基地の作戦室に入って、冷蔵庫にあるキンキンに冷えたMAXコーヒーを飲みたいものだ。
そこまで考えながら道を歩いていると……
「「あっ……」」
曲がり角から俺の義妹である歌歩と鉢合わせする。向こうも俺に気付いたようでキョトンとした表情を浮かべるも……
「お、おはようお兄ちゃん……」
「……ああ、おはよう」
途端に顔を茹で蛸のように真っ赤にしながら俺に挨拶をしてくる。同時に俺の顔が熱くなる。
理由はわかっている。それは最後に会った時に事故とはいえ歌歩とキスをしたからだ。
それも頬ではなくて唇同士のぶつかり合い。すなわち俺のファーストキスの相手は歌歩で、歌歩のファーストキスの相手は俺って事になる。(*八幡は寝ている時に遥にキスをされた事を知らない)
加えて……
ーーーわ、私も!お兄ちゃんがファーストキスの相手で良かったよ!ーーー
ーーーさ、さっきの話だけど……嘘じゃないからねーーー
歌歩は俺とキスをして良かったと言ったのだ。嫌でも顔が熱くなってしまう。
しかしいつまでも気まずい空気では防衛任務やランク戦にも支障が出るので早いうちになんとかしないといけない。
「歌歩」
「な、なにかな?!」
「色々と恥ずかしい気持ちや言いたい事があるかもしれないが……今日もよろしく頼む」
いつものようによろしくと挨拶をする。普段やっている事をやっておけば少しは気まずさが解消されるだろうから。それを抜きにしても防衛任務では歌歩に世話になっているので挨拶をするのは当然だ。
すると歌歩は目をパチクリするも、直ぐに笑顔になって……
「うん!頑張るね!」
そのまま腕に抱きついてくる。畜生、やっぱり俺の義妹可愛過ぎるわ。
「ああ!それじゃあ行こうか」
俺がそう言うと歌歩は俺に抱きついたまま歩き出す。熱いし歩きにくいし恥ずかしいが、多少恥じらいを無くして笑顔を浮かべる歌歩を引き離すことは出来なかった。
結局ボーダー基地に到着するまで歌歩が離れなかったのは言うまでもないだろう。
それから15分してボーダー基地の入口に到着したので俺達はトリガーを出してゲートを開けて中に入る。
「そういえばお兄ちゃん。防衛任務までまだ少し時間があるけど、お兄ちゃんはどう過ごすの?」
地下通路を歩いていると俺の腕に抱きついて甘え全開の歌歩が話しかけてくる。
「そうだな……個人ランク戦ブースに行って戦い甲斐のある奴が居たら個人ランク戦、居なかったら作戦室に行って戦術の見直しだな」
辻のスパイダー戦術と文香の狙撃についても部隊の作戦に組み込まないといけないからな。
まあ今シーズンは後2週間ちょいだからチームランク戦では使うつもりはないけど。使うとしたら来シーズンの最初に初見殺しして大量に点を稼いで逃げ切り戦術をするつもりだ。
「あ、じゃあ私も行っていい?お兄ちゃんと一緒に居たいな」
「……好きにしろ。俺はお前の行動についてどうこう言うつもりはない」
俺は歌歩の義兄だが、歌歩の行動についてアレコレ指図するつもりはない。
「そっか……うん、そうするね」
「……この甘えん坊め」
ま、そんな甘えん坊な歌歩は可愛いから良いけど。つくづく俺は歌歩に甘いな。
内心苦笑しながら通路を歩いて基地に入ると……
「よっす辻」
「こんにちは辻君」
チームメイトの1人の辻が廊下を歩いていたので話しかける。すると向こうもこちらに気付いて近寄ってくる。
「2人ともおはよう……なんというか先週会ったばかりなのに3ヶ月以上会ってないように思えるな」
「奇遇だな。俺もお前らとは3ヶ月以上会ってないような気がするな」
なんというか……3ヶ月は別の場所にいた気がする。もしかして朝夢に出てきた3人もその別の場所にいる人間なのか?
「まあ良いや。それより俺は今から個人ランク戦に行くがお前も来るか?」
「俺は元々そのつもりだ。もう直ぐハウンドが6000ポイントを超えて万能手になれるしな」
「それは頼もしいな」
既に文香は万能手になっている。加えてマスタークラスの攻撃手の辻が万能手になったら戦術の幅も広がるだろう。
俺も負けてられないな。今の俺はマスタークラスの攻撃手だが、頑張って10000ポイント超えの攻撃手になるつもりだ。
そんな風に雑談していると個人ランク戦ラウンジに到着したので対戦相手を探そうとした時だった。
「さっきの試合を見ていたが、とても仮入隊のそれとは思わなかった。君さえ良ければ正隊員に上がったらウチに来て欲しい」
「え、ええっと……」
「待ちなさい嵐山君。彼女は私が先に目を付けていたのよ。ねぇ木虎ちゃん。正隊員に上がったら私の所に来て欲しいわ。貴女とならトップを目指せるわ」
嵐山さんと加古さんが木虎に対して勧誘をしていた。ヤバイな……前に迅さんが予知していた通りになったよ。これは加古隊と嵐山隊との戦闘もあり得そうだ。
そう思っていると……
「誘ってくれるのは嬉しいですけど、他の人にも誘われていて直ぐには決めれないです?」
「他の人?誰かしら?」
「比企谷八幡さんです」
「ああ……彼ね。まあ決めるのは木虎ちゃんの自由だけど、比企谷君の所に入るなら気を引き締めた方がいいわよ」
「……?何でですか?」
「彼、凄いモテモテで近くにいる女子をメロメロにし「してないですからね」あら比企谷君、久しぶりね」
加古さんがとんでもない事を言おうとしてきたので内心慌てながら遮る。この人マジで何を言ってんだよ?
「お久しぶりですね。それで加古さん、デマを言うのはやめてください」
「あら?何か間違った事を言ったかしら?」
加古さんは何を言っているのかわからない表情を浮かべているが極めて心外極まりない。
「いや普通に言ってますからね?何すか俺がモテモテって。俺を好きになる女子なんている訳ない……何故そこで馬鹿を見る目で見るんすか?」
すると加古さんと歌歩と辻は馬鹿を見る目で俺を見てくる。嵐山さんは苦笑して、木虎は何が何だかって感じの表情を浮かべている。
「……馬鹿だからに決まってるでしょ、あの子達も大変ね」
加古さんがそう口にすると歌歩がウンウン頷いてくるが、そこまで馬鹿扱いされるのは微妙にムカつくな。
「まあ良いわ。それで木虎ちゃん。入るならウチの隊にしなさいよ。私の隊はA級だけど特典として固定給やトリガー改造があるわよ」
ちっ!早速魅力的な提案をしてきたな。確かにB級のウチと嵐山隊では提示出来ないメリットだ。
「いやいや加古さん。幾ら才能があると言ってもB級上がりたてでA級ランク戦に挑むのは無茶ですよ。それでしたらB級ランク戦で技術を身につけてからの方が合理的です」
すかさず嵐山さんも反論するが理に適っている。実際才能があり直ぐにA級ランク戦に挑んでも、狙われまくって伸びないだろう。
「それを言ったら嵐山隊や比企谷隊みたいにB級上位じゃなくて下位のチームに入れた方が合理的じゃない」
加古さんも反論する。まあそれも否定出来ない。経験を少しずつ積ませるならA級だけでなくB級上位でも勧められないな。
ともあれ……
「決めるのは木虎です。これ以上当人差し置いて腹の探り合いをするのはやめましょう」
俺がそう口にする。このまま2人を放置すれば舌戦が止まらないだろうしな。
「それもそうだな……木虎はチームについてどう考えているんだい?」
「……今の状況ではなんとも言えないですね。私は3人のチームの動きを知らないので」
「それもそうね……あ!閃いたわ!」
すると加古さんが途端に笑顔で手を叩く。何となく嫌な予感しかしねぇ……
内心冷や汗をかいていると……
「私達加古隊と嵐山隊、比企谷隊が戦えばいいのよ」
はい、迅さんの予知が確定いたしましたーーー
面倒くさい事になったな……