やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡は可愛い義妹とプールに行き沢山ハプニングを体験する(後編)

キス

 

それは唇同士を重ねることである。無論頬や額、手の甲に唇を当てる事もキスというが、基本的には唇同士を重ねる事がメジャーだ。

 

唇同士のキスは基本的に恋人や夫婦がする事であり、それ以外の組み合わせの人間がする事は滅多にない。

 

しかし、今の俺はその滅多にない方の人間となっている。

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

三門駅前のロータリーにて、俺は地面に背中をぶつけながらチームメイトにして可愛い義妹の歌歩と向き合っていた。

 

 

互いに唇を重ねた状態で。

 

四塚マリンワールドに遊びに行った帰り、バスから降りてから後に降りる歌歩を見たらステップを踏み外して地面に落下しそうになった所を助けようとしたら、歌歩と唇を重ねて、そのまま背中から地面に激突した状態だ。

 

現在も唇を重ねた状態のままだ。歌歩を見ると目を見開いたまま全く動く素振りを見せないが、俺と同じように思考停止に陥っているのだろうと推測出来る。

 

俺の唇に伝わる歌歩の唇の感触は柔らかく、とても温かいものだった。歌歩の唇から伝わる熱が徐々に俺の身体全体に広がり温かくなってくる。

 

お互いに無言のまま何も考えられずにキスをしていると……

 

「ぷはっ……!」

 

「ふぅ……」

 

互いに息が限界になったので、反射的に唇を離して息を吸う。どうやら息が苦しくなるまでキスをしていたのだろう。

 

そこまで考えながら歌歩を見ると……

 

「お、お兄ちゃん……!」

 

歌歩はかつてない程に真っ赤になって俺を見てきて、同時に俺の胸中には罪悪感が半端ない程生まれていた。

 

(や、ヤバい……!よりによって俺は何て事を……!)

 

そこまで認識した俺は歌歩を俺の上から退かして頭を下げる。

 

「す、済まない!」

 

乙女のファーストキスを奪ったのだ。謝って済む問題ではないが、謝らないと気が済まない。

 

「お兄ちゃん?!違うよ!お兄ちゃんは悪くないよ!私の方こそごめん!」

 

そんな声が聞こえたので顔を上げると、歌歩が俺と同じように頭を下げていた。

 

何故お前が謝る?悪いのは俺だというのに。

 

「いや、お前は悪くない。悪いのは俺だ。今日は何度もお前にセクハラ紛いの事したし」

 

「あ、アレはわざとじゃないからお兄ちゃんは悪くないよ。それにさっきのき、き、キスだって私がステップを踏み外してたりしなければ起こらなかったんだし、私のドジでお兄ちゃんのファーストキスを奪ってゴメン!」

 

俺が歌歩は悪くないと言ったら、歌歩は悪いのは自分と言う。平行線だな……

 

マジでどうしようか?俺は自分自身が悪いと思ってるし、歌歩も歌歩自身が悪いと思ってる。

 

とりあえず最低でも俺は怒っていない事を歌歩に伝えないといけない。

 

そう思った俺は咄嗟に……

 

 

 

 

「だから気にしてないって。俺はファーストキスの相手がお前で嫌じゃなかったし」

 

「ふぇぇっ?!」

 

「……あ」

 

しまった、普通にとんでもない事をカミングアウトしてしまった。恐る恐る歌歩を見ると歌歩は俯いていた。身体はプルプルと震えている。

 

ヤバい、完全に怒らせてしまったようだ。土下座するか?

 

俺は急いで頭を地面につける準備をしようとするが、その前に歌歩が顔を上げて真っ赤になった顔を見せながら……

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私も!お兄ちゃんがファーストキスの相手で良かったよ!」

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分……

 

互いに無言で帰路についている。暗くなったので俺は歌歩を家まで送っているが、もう30分以上無言のままだ。気まずいことこの上ない。

 

理由は簡単。さっき俺達は……

 

ーーーだから気にしてないって。俺はファーストキスの相手がお前で嫌じゃなかったしーーー

 

ーーーわ、私も!お兄ちゃんがファーストキスの相手で良かったよ!ーーー

 

 

互いにとんでもない事をカミングアウトしてしまった。その際に歌歩は自分の言った事を理解するとこの上なく顔を真っ赤にして俯いたが、俺も似たような表情だったと思う。

 

以降俺達は30分の間、

 

ーーーとりあえず家まで送るーーー

 

ーーーありがとうーーー

 

これだけしか会話をしていない。今も一言も会話をせず、偶に歌歩の唇を見ようとチラッと視線をズラし……

 

「「……っ!」」

 

同時に歌歩と視線が合って、顔が熱くなるのを実感しながら目を逸らす。もうこれで15回目だ。どんだけタイミングぴったしなんだって話だからな?

 

しかし……

 

ーーーわ、私も!お兄ちゃんがファーストキスの相手で良かったよ!ーーー

 

ダメだ。歌歩の顔を見る度にあの言葉を思い出してしまう。

 

(まさかとは思うが、歌歩って俺の事が好きなのか?)

 

こんな考えを持つのはナルシストかもしれない。実際中学時代、ある女子と似たような事があってナルヶ谷なんて不名誉な渾名も付けられて虐められた記憶もあるし。まあ彼女大規模侵攻で死んだし、今更どうこう言うつもりはないけど。

 

しかし歌歩の場合は違う。あの時は詰まらない勘違いをしたからナルシスト扱いされたが、今回は実際にキスをしたにもかかわらず歌歩は怒らずにファーストキスの相手が俺で良かったと言ったのだ。これな

歌歩は俺の事が好きだという考えを持ってもナルシストとはならないだろう、多分。

(いや、もしかしたら歌歩もスキンシップと思って……いや、それはないよな)

 

頬ならともかく、唇同士のスキンシップなんてあり得ない。唇同士を重ねるキスをスキンシップ扱いする奴なんて……ん?

 

(何だ?気の所為か全く知らない女2人とスキンシップで唇を重ねている光景が頭に浮かんだぞ?)

 

何か暗闇の中でアイドルっぽい制服を着た紫色の髪の可愛らしい女子と、悲しそうな雰囲気を醸し出す白い髪の女子の2人と唇を重ねている光景が頭に浮かんだ。しかも歌歩と同じように事故に近い感じで重ねている光景を。どこか別世界の俺は違う女子とキスをしたのか?

 

いきなり訳のわからない事を思い浮かべ困惑している時だった。いきなり肩に手を置かれたので意味不明の考え事を止めて顔を上げると、歌歩が真っ赤になりながら俺を見ていた。同時に辺りを見渡すと見覚えのある場所、歌歩の家の前だった。

 

「……じゃあお兄ちゃん、2日後の防衛任務の時に、ね?送ってくれてありがとう」

 

「あ、ああ。じゃあまたな」

 

互いに妙な気分になりながらも挨拶をする。これで今日の予定は終わりだし、帰ったら速攻で休もう。

 

そんな事を考えながら歌歩を見ると、

 

「お兄ちゃん……」

 

歌歩は真っ赤になりながらも口を開ける。正直言って何を言われてもマトモに対応出来る自信はないがシカトする訳にはいかない、ら

 

「な、何だ?」

 

しどろもどろになりながらも返事をすると……

 

「さ、さっきの話だけど……嘘じゃないからね」

 

歌歩はそう言ってから一礼して家に入って行った。対する俺は歌歩の言葉に呆然として暫くの間動く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

歌歩は自宅に帰るなり、自室のベッドに枕を抱きしめる。顔を林檎のように真っ赤にしながら。

 

「ダイレクトには言ってないけど……殆ど告白じゃん」

 

歌歩は先程自分が言った言葉を思い出す。

 

 

ーーーわ、私も!お兄ちゃんがファーストキスの相手で良かったよ!ーーー

 

ーーーさ、さっきの話だけど……嘘じゃないからねーーー

 

改めて振り返ってみると義兄の八幡とキスをして良かったと言っている。

 

「うぅぅぅぅ……」

 

歌歩は更に枕を強く抱きしめる。言った事は紛れもなく事実だ。事故とはいえ、歌歩自身八幡とキスをした事について恥ずかしい気持ちもあるが、嬉しかった。だから嘘は吐いてないが……

 

「だからって馬鹿正直に言うなんて……私の馬鹿……」

 

流石にキスをして良かったと口にするのは恥ずかしく、歌歩は枕を離してうつ伏せになり、ゴロゴロと転がる。あたかも顔に溜まる熱を放出するかのように。

 

暫くゴロゴロすると、歌歩の顔から熱が徐々に消えていき、歌歩自身も落ち着きを取り戻す。

 

「……まあ、もう言っちゃったし仕方ないか。難しいとは思うけど、次にお兄ちゃんと会う時までに割り切らないと……」

 

でないと防衛任務やランク戦にも支障が出るだろうと歌歩は考えている。歌歩は八幡がA級に上がる為に一生懸命努力している事を知っている。だから自分が気まずいからって足を引っ張るのは許されない事と考えている。

 

「でも、こんな風に悶える位なら遠回しじゃなくてハッキリと好きって言えば良かった……」

 

キスをして良かった……一応告白とも取れるが、ハッキリした告白ではないだろう。

 

「まあ今更だよね……告白は次の機会にしようっと」

 

言いながら歌歩は再度枕を強く抱きしめる。顔には羞恥の色は薄れていて、幸せの色が濃くなっていた。

 

「大好きだよお兄ちゃん……本当に大好き。今日は楽しかったし、幸せだった……絶対にお兄ちゃんの彼女になりたい。文香ちゃんや遥ちゃんには負けないから……!」

 

思い浮かぶのは2人の恋敵。2人は大切なチームメイトや友人であるが、想い人に関しては譲るつもりは毛頭ない。それは恋敵2人も同じ考えだと歌歩は確信を持っていた。また新しく恋敵が増える可能性がある事も危険視している。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 

しかし歌歩は負けたくないと考えながら、枕を想い人に見立てて夕食の時間まで抱きしめる続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

俺は自宅に帰るなり、自室のベッドに倒れ込んで天井を見る。顔に溜まる熱は冷める気配はない。

 

理由は簡単、それは……

 

ーーーわ、私も!お兄ちゃんがファーストキスの相手で良かったよ!ーーー

 

ーーーさ、さっきの話だけど……嘘じゃないからねーーー

 

義妹の言った言葉が頭から離れないからだ。あの言葉からわかる事、それは……

 

「歌歩は俺とならキスをして良いと思っている……ぐっ……」

 

いかん、自分で言ってて更に顔が熱くなってきた。同時に唇に伝わる感触を思い出してしまう。

 

(よく漫画じゃ主人公とヒロインが事故でキスをするのはあるが、まさか俺が経験するとはな……)

 

まさか今日ファーストキスを失うとは思わなかったぜ(*八幡は遥にキスをされた事を知りません)

 

しかし今後は歌歩とどう接すればいいのやら……

 

(多分歌歩は俺の事が好きなのかもしれないな……でも、仮に歌歩が俺の事を好きだとしても今の俺は歌歩の気持ちに応えることが出来ない)

 

歌歩が嫌いだからじゃない。寧ろ好きか嫌いか聞かれたら好きと答えるくらいだ。中学時代と違って歌歩を信じてない訳でもない。

 

しかし今の俺はA級に上がるという目標がある。それは厳しい道である故に恋愛に時間を割きたくないというのが本音だ。

 

それに……

 

ーーー八幡先輩!ーーー

 

ーーー弟君ーーー

 

恋愛の事を考えると歌歩以外に文香と姉さんの事も思い浮かんでしまう。恐らくだが、俺の心の底では3人に対して、恋愛的な何かを抱いているのだろう。その正体を突き止めて対処しない限り一歩を踏み出すのは無理だと思う。

 

「まあ直接告白された訳じゃないし大丈夫だろ……多分」

 

もしもアレが告白だとしなら後日歌歩がその質問をしてくるだろうし、その時に対処すれば良い。

 

 

「とりあえず難しいとは思うけど、次に歌歩と会う時までに割り切らないと……」

 

でないと防衛任務やランク戦にも支障が出るだろう。辻にしろ文香にしろA級に上がる為に一生懸命努力している。自分と歌歩が気まずいからって足を引っ張るのは2人に対する裏切りだ。絶対に許されない事だし、明後日までに割り切らないといけないな……

 

前途不安な未来を考えて、疲れながら俺はベッドに寝転んだ。今日はもう飯は良いから寝よう……


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