やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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突然ですが報告です。

ヒロインの候補数ですが最大5人にしました。流石に10人は多いので……


比企谷八幡は逸材に対して勧誘を勤しむ

夏休みに入って大分経過した。千葉の上空では太陽が容赦なく外を歩いている人間に汗をかかせていた。

 

しかしトリオン体というものは便利で汗をかかずに済む。

 

『はーい。今日の防衛任務は終了だよ。トリオン兵の回収は次の二宮隊がやるから皆は帰還して』

 

灼熱の太陽が西に傾く午後2時。俺の耳からオペレーター兼義妹の歌歩から防衛任務終了の連絡がきた。

 

「良し、帰るぞお前ら」

 

俺はそう言って左右を見渡すと……

 

「「了解」」

 

戦闘員のチームメイトの文香と辻が頷く。つーか俺達の隊服って結構暑苦しい見た目だな。実際は暑くないが嫌な気分になるし、来年からは夏専用の涼しげな見た目の隊服も作るべきだな。

 

 

 

 

 

 

それから30分……

 

「んじゃ報告書も終わったし……お疲れ。今日は玉狛の訓練もないし解散とする」

 

俺個人としては小南と模擬戦をしたかったが、玉狛の人達は三門市外に旅行に行っているので無理だ。てか支部の人間全員で旅行とは、仲が良いな。玉狛以外でもやっている部隊もいるがウチの隊も……いや、計画1つ立ててないし、少なくとも今年は無理だな。

 

「じゃあ私は家の用事があるからこれで。次の防衛任務の時にまた会おうね」

 

歌歩はそう言って作戦室から出て行き……

 

「俺も友人と3時から約束があるからこれで失礼」

 

辻も歌歩に続いて作戦室から出て行った。よって俺は必然的に文香と2人きりになる。

 

「八幡先輩はこれからどうするんですか?」

 

「俺は例の4人目についての視察だな。早い内に迅さんが言っていた逸材に唾を付けておきたいしな。そんでそれが終わったら寝る。昨日は国近先輩に防衛任務開始直前までゲームに付き合わされていたんだよ」

 

迅さんの話じゃ俺達比企谷隊が嵐山隊や加古隊と戦うかもしれないと言っていたが、アレは多分例の逸材を賭けて勝負するのだと思う。

 

加古隊はA級だし、嵐山隊は勝ったり負けたりと互角の相手だ。馬鹿正直に戦ったら手に入らない可能性もあるので、2部隊が逸材を勧誘する前に引き入れるつもりだ。迅さん曰く勝負するのは確定した未来じゃないし充分可能だろう。

 

「そうですか。では私も行って良いですか?」

 

「好きにしろ」

 

俺が文香の行動に対してどうこう言うつもりはないからな。そんな事を考えていると、文香は俺に近寄ってから手を繋ぎ指を絡めて……

 

「では行きましょう。今日の合同訓練は終わってますから個人ランク戦のステージに行きましょう」

 

そう言って俺の手を引っ張って作戦室の出口に向かうので俺も引っ張られる形でそれに続く。てか文香よ、方針については不満はないがいきなり恋人繋ぎをするのは止めてくれ。姉さんがしょっちゅうやってくるとはいえ、未だ慣れていないのだから。

 

 

 

 

 

 

そんな訳で俺は文香と恋人繋ぎをしながら廊下を歩き、周囲から鋭い目で睨まれながらも個人ランク戦ステージに到着する。

 

個人ランク戦のブースでは有力な人の試合をリアルタイムで見る事が出来る。仮入隊とはいえ逸材が個人ランク戦をしていたら巨大モニターに映る可能性は充分にあるだろう。

 

そう思いながらモニターを見ると……

 

「おっ、早速見つかったかもな」

 

C級同士の試合が行われている。片や気の強そうな女子で片やナルシストみたいな雰囲気を醸し出している男の組み合わせだ。

 

しかし内容は一方的だった。女子の方が容赦なくプライドが高そうな男を攻めている。女子は高い機動力で電柱や家の壁、塀などを蹴って男の周囲を跳び回りながらハンドガンで男のありとあらゆる箇所に風穴を開けている。

 

「あ、藍ちゃんだ」

 

すると文香が軽く驚きを露わにしてモニターを見ているが……

 

「知り合いか?」

 

「はい。木虎藍って名前で、私と同じ学校に通っています。今は中学2年生です」

 

つまり小町と同い年ってわけか。にしても14歳の出す雰囲気じゃねぇな。

 

しかし問題はそこではない。重要なのは……

 

「文香、多分あいつが迅さんの言っていた逸材じゃね?」

 

多分というか絶対そうだ。最後にあった入隊式は5月と3ヶ月以上経過している。アレだけの動きを出来る奴が3ヶ月以上C級にいる筈がない。もしも出来るならとっくにB級に上がっているだろう。

 

そうなると必然的に彼女は仮入隊をした人間の1人と判断出来る。

 

「となると勧誘するんですか?藍ちゃんは銃手ですよ?」

 

文香の言う通り彼女は銃手だ。俺が考えている4人目は攻撃手か狙撃手だが……

 

「でもあの動きは攻撃手の動きに近いから見逃したくないな……」

 

「そうですね……」

 

文香も同意するように頷く。いくらハンドガンを使っているとはいえあの動きは攻撃手でも通用する動きだ。他のB級部隊に入って一皮剥けたりしたら厄介だし出来るなら勧誘したい。

 

「まあいきなり勧誘しても失敗するかもしれないし、今日は適度なアドバイスをして、こっちの心証を良くしておきたいな」

 

俺がやるギャルゲーでも直ぐに告白することはない。ギャルゲーはある程度好感度を上げてから個別ルートに入る。

 

これも同じことだ。アドバイスなどをして心証を良くしてから本題に入る流れだしな。

 

「そうですね。私はともかく、先輩とは初対面ですし正しい判断と思います」

 

文香がそう返すと試合終了のブザーがなるのでモニターを見ると木虎が10ー0で勝っていた。やはり強いな。既にB級下位が相手なら良い勝負が出来ると思える。

 

彼女の実力に素直に感嘆していると、彼女がブースから出てきてギャラリーの視線が彼女に向けられる。対する木虎は誇らしげに胸を張るも俺達ーーー正確には文香を見て、こちらに歩いてくる。

 

「照屋先輩、お久しぶりです」

 

「うん。1学期以来だね。藍ちゃんも入隊したんだね?」

 

「はい。宜しくお願いします……ところでそちらの方は?」

 

木虎が俺をチラッと見てから改めて文香を見て質問をする。

 

「私が所属する部隊の隊長の八幡先輩」

 

「比企谷八幡だ」

 

「初めまして木虎藍です。よろしくお願いします」

 

「よろしく。さっきの試合は見たが良い試合だったぞ」

 

「ありがとうございます」

 

木虎はそう言って誇らしげな表情をする。やはりこいつは結構な自信家だな。

 

「どういたしまして。ところで木虎よ、お前はスコーピオンは使わないのか?」

 

俺が尋ねると木虎は誇らしげな表情から不思議そうな表情を浮かべる。

 

「スコーピオン、ですか?」

 

「ああ。さっきのお前は高い機動力で相手を撹乱して多方向から射撃で倒していたな。スコーピオンはメチャクチャ軽いからお前のスタイルに向いていると思ってな」

 

言いながら俺はタブレットを起動して、ある個人ランク戦の記録を表示して木虎に差し出す。

 

木虎は訝しげな表情を浮かべながらもタブレットを受け取り動画を再生するも、直ぐに食い入るように見始める。

 

動画の内容は俺と二宮隊の切り込み隊長の鶴見の10本勝負の試合だ。どちらもさっきの木虎のように電柱や家の壁を蹴ったり、グラスホッパーを使って空中を飛び回ったりと激しい動きを繰り出していた。

 

暫くして俺が7ー3で勝利を収めたところで動画は止まり、木虎がタブレットを返してくる。

 

「どうもありがとうございます。確かに今の動きは私の上位互換の動きで参考になりました」

 

「それは何よりだ」

 

「はい、入隊まで1ヶ月以上ありますが、B級に上がったらスコーピオンを使ってみたいと思います」

 

木虎がそこまで言うと文香が口を開ける。

 

「あ、じゃあ藍ちゃんさえ良ければ、私達の作戦室でスコーピオンを試してみる?トレーニングステージを使えば他のトリガーも使えるよ」

 

文香の予想外の言葉に俺と木虎は軽く驚く。

 

「え?良いんですか?」

 

「もちろん。八幡先輩も良いですよね?」

 

「構わないが俺はトレーニングステージを作れないぞ」

 

俺はメカ系ダメだし、以前歌歩にトレーニングステージの作り方を習ってもチンプンカンプンだったし。下手にパソコンを操作してぶっ壊してデータが飛んだりしたら申し訳ないからな。実際俺は普段パソコンに触らない事にしている。

 

「私は作れますから大丈夫ですよ。それで藍ちゃんはどうする?」

 

「先輩達が宜しいのなら、お言葉に甘えて……」

 

「良いよ。じゃあ行きましょうか」

 

「はいよ」

 

そんな風に言葉を交わして、俺達は再度比企谷隊作戦室に向かって歩き出したが……女子2人と歩いているからか、個人ランク戦のラウンジに来る時よりも殺気を向けられている気がするな。

 

まあ気にしなら負けだし無視するけど。

 

 

 

 

 

 

「入って良いよ」

 

「お邪魔します。……作戦室って家みたいですね」

 

作戦室に入るなり木虎はそんな事を言ってくる。まあ作戦室にはテレビや冷蔵庫、ソファーに戸棚、挙句ピアノもあるからな。生活感が漂いまくりだ。

 

「否定はしない。作戦室はある意味第二の家って感じだからな」

 

「何だかんだ作戦室は落ち着くからね。それより……早速色々と試してみる?」

 

文香が木虎に尋ねると頷く。すると文香はオペレーターデスクにある椅子に座ってパソコンを操作し始める。

 

「では八幡先輩、私はトレーニングステージの製作と藍ちゃんに状況に応じてトリガーの追加をしますので、先輩はトリガーのレクチャーをお願いします」

 

「はいよ。んじゃトレーニングステージに行くか」

 

俺がそう言うと一瞬で殺風景の部屋に転送される。

 

「これがトレーニングステージ……思ったより殺風景ですね」

 

「直ぐに殺風景じゃなくなるぞ……ほら」

 

俺が指差すとそこからは家が大量に出現する。これには初めて見る木虎も驚きを露わにする。

 

「一瞬で建物が……」

 

「まあボーダーのトリガー技術は凄いからな」

 

誘導装置だの遠征艇とかもトリガー技術の発展によって完成したからな。鬼怒田さんマジで凄すぎる。

 

「トリガー技術?トリガーは武器の事じゃないんですか?」

 

「違う違う。ボーダーでは街を守る為に武器として扱われているけど、向こうでは向こうの世界をを支えている技術の総称で武器以外にも使われてるらしい」

 

「向こうの世界、ですか……」

 

「まあ俺も上の人から聞いただけで詳しくは知らん。それよりも本題に入るぞ。文香、木虎にスコーピオンを用意してくれ」

 

『了解』

 

文香が了解の返事をすると、暫くしてから木虎の手にスコーピオンが握られる光景が目に入る。

 

「え?!私スコーピオンを入れてませんよ!」

 

まあ普通そう思うよな。しかし……

 

「トレーニングステージなら基本的に色々出来る。今の俺達はゲームの中にいるような状況で、文香がゲームプレイヤーだ。そして文香が木虎にスコーピオンを装備するように操作したって感じだ」

 

「ゲームの中……」

 

「嘘だと思うなら試しに振ってみれば良い。文香」

 

『了解』

 

文香がそう言うと木虎の目の前に1メートル位の大きさのターゲットが現れる。同時に木虎がスコーピオンを振るうとターゲットは真っ二つとなった。

 

「ほらな?しっかりと斬れるだろ?」

 

「驚きました……もう少し試してみても良いですか?」

 

目を見るとやる気に満ちている。そんな後輩の頼みを無碍にする程俺は薄情じゃない。

 

「はいよ。文香、基礎プログラムを起動してくれ」

 

『わかりました。プログラム3で良いですか?』

 

「任せる」

 

文香がそう言うと建物の周辺や屋根の上に先程真っ二つされた同じタイプのターゲットが10体出現した。

 

これは初めからパソコンに入っていた基礎プログラムの1つで、新しいトリガーを試す時に使用されているプログラムだ。

 

「じゃあやってみろ。どうせなら正式に入隊してBに昇格した時に備えて、スコーピオンだけじゃなくてハンドガンタイプのアステロイドも一緒に使ってみたらどうだ?」

 

「そうですね。そうします」

 

言いながら木虎が空いている左手から腰のホルスターからハンドガンが抜く、同時に……

 

『基礎プログラム3、スタート』

 

機械音声が流れると同時に木虎は走り出し、距離を詰めながら1番近くにあるターゲットにハンドガンを放つ。とはいえ走りながらの射撃に加えて、真っ直ぐにしか飛ばないアステロイドを使っているからか、1発で仕留めるのは無理だった。

 

しかし木虎は気にせずにガンガン放ち、4発目で最初のターゲットを撃破する。そして崩れ落ちるターゲットを横切りながら、次に近いターゲットにハンドガンが向けて、同時に地面を思い切り蹴って空中に躍り出る。

 

そして空中で狙いを定めたターゲットに発砲しながら民家の屋根の上に飛び移りそこにあったターゲットをスコーピオンで振るうと、同時に2つのターゲットが破壊される。

 

(初めて使うトリガーを簡単に使うだけでなく、C級にしては破格の機動力や射撃技術……やっぱりこいつが迅さんの言っていた逸材だな。何としても引き入れたくなった)

 

迅さんは新人関係で加古隊や嵐山隊とぶつかると言っていたが、出来るなら嵐山隊には渡したくない。現在ウチの隊と嵐山隊は殆ど互角だが、来シーズンに木虎が入ったチームが有利にだろうし。

 

そんな事を考えていると木虎が最後のターゲットを破壊した。

 

『基礎プログラム3終了。記録3分12秒』

 

機械音声が時間を告げるが、Bに上がったばかりの俺がやったら2分ちょいだったし、仮入隊の時点でこの記録なら凄いと思える。

 

内心感心していると木虎が近くまで戻ってくる。

 

「どうでしたか?」

 

「ああ。初めてにしたら純粋に凄いな」

 

「ありがとうございます。何か私に改善するべき箇所はありましたか?」

 

こいつ……直ぐに改善するべき箇所を尋ねるなんて結構ストイックだな。まあ教えるけどさ。

 

「そうだな……今の状況ーーー仮入隊の時点なら文句はないが、先を見据えるならスコーピオンを投げれるようになった方が良いな」

 

「スコーピオンを投げる、ですか?」

 

「ああ。さっき実際にスコーピオンを使って軽いって思っただろ?……文香、ターゲットを1体屋根の上に頼む」

 

俺が尋ねると木虎は頷き、10メートル位離れた家の屋根の上にターゲットが1体現れる。それを確認した俺は自分のトリガーの主トリガーのスコーピオンを起動して……

 

「ふっ……!」

 

ターゲット目掛けて投擲する。投げられたスコーピオンは一直線に飛んで行き……

 

「なっ?!」

 

ターゲットの頭の部分に突き刺さる。ターゲットはそのまま崩れ落ちた。

 

「って感じだ。スコーピオンは刃トリガーだから弾丸トリガーに比べて桁違いに威力が高いし投擲武器としても使える」

 

スコーピオンは軽いから俺だけでなく、鶴見や影浦先輩や香取などスコーピオン使いは大抵投擲している。

 

一応弧月やレイガストも投げれないことはないが、弧月は形的に、レイガストは重量的に考えて投擲に向かない。一応レイガストにはトリオンを噴射してブレードを加速させるスラスターってオプショントリガーがあるが、試した結果狙いを定めるのが桁違いに難しかった。

 

(てか俺はスコーピオン以外の刃トリガーは下手くそだから使うつもりはないけどな)

 

そんな事を考えていると木虎が話しかけてくる。

 

「あの、質問良いですか?」

 

「何だ?」

 

「スコーピオンを投擲武器として利用出来るのはわかりました。ですか先輩は今、刃トリガーは弾丸トリガーに比べて桁違いに威力があると言っていましたが、そんなに違うんですか?」

 

ああ。才能があるから失念していたが、こいつまだ正式に入隊してないんだったな。ならば知らないのは仕方ないだろう。ウチの隊に対する信用を得る為にも教えておくか

 

「そうだな。んじゃトリガーの特性についても教えるが、その前に……」

 

「その前に?」

 

木虎が真剣な表情をして俺を見るので俺は息を吸って……

 

 

 

 

 

 

 

「3時のおやつの時間だ」

 

瞬間、木虎はずっこけた。

 

いやだって、今日は朝から昼の2時まで防衛任務だったから昼飯を食べてなく腹が減ってたんで……


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