パラダイス
それはかつてアダムとイブが住んだというエデンの園の事を意味する。
しかし最近の人間は正確な意味を知らず、幸せがある場所位の認識でしかない。まあ決して間違った意味ではないのでその辺は気にしないが。
とりあえずパラダイスを楽園と言うなら俺が今いる状況は世間一般から見たらパラダイスなのだろう。
しかし当事者である俺は……
「お、弟君……」
いきなりのイベントによって何も感じることが出来なかった。目の前では俺の義姉の綾辻遥姉さんがバスタオルを巻いて立っていた。
え?何で姉さんがここにいるんだ?今は俺が風呂に入っているのに?
改めて姉さんを見るとバスタオルを巻いている。しかし肩や美脚は惜しげもなく晒されているし、タオル越しでも胸の膨らみがハッキリて見て取れる。
大事な所は隠れているが物凄く色気を放っていて、顔に徐々に熱が溜まってきている事を嫌でも実感してしまう。
姉さんの艶姿から目を逸らせずにいると……
「お、弟君……恥ずかしいからあんまり見ないで……」
姉さんは恥ずかしそうに顔を赤らめて身を捩る。それを見た俺はもっと見たい気持ちが湧きだすが……
「わ、悪い!」
それ以上に悪いという気持ちが湧きだしたので後ろを向く。それ以前に姉さんの艶姿は長時間見ていたらヤバそうだしな。
そんな事を考えていると、後ろーーー姉さんのいる方から水音が聞こえて、直ぐ後ろから人の気配を感じる。
「お、弟君……背中、流すけど良いかな?」
そう言ってから俺の背中にひんやりとした感触が伝わるが、これは姉さんの手だろう。
「ね、姉さん。その前に聞きたいんだが……何でいきなり風呂に入ってきたんだ?」
俺は姉さんにそう質問してしまう。姉さんのスキンシップは激しいのは前から知っていたが、ここまで激しいスキンシップをしてくるのは予想外だった。
すると……
「そ、その……負けたくないから」
「は?」
姉さんはよくわからない事を言ってきた。負けたくないから?誰に対して?何について?
「あ、いや!何でもないよ!ただ弟君と一緒に入りたかっただけ!」
すると姉さんは焦りながらもそう言ってくる。これは嘘ではないだろう。姉さんは多分俺と入る気持ちはあったのだと思う。
しかし1番の理由は最初に言った負けたくないから、だろう。何について負けたくないかは理解出来ないが間違いなく本気でそう思っているのだろう。
そんな事を考えていると、姉さんが再度口を開ける。
「と、とにかく!お姉ちゃんは弟君と一緒に入りたいの。だから……入って良いかな?」
言いながら姉さんは俺に不安の混じった声で聞いてくる。姉さんは卑怯だ。そんな声をされたら嫌だ、なんて言えるはずもない。それにここで断ったら姉さんは悲しみながら何度も謝るのは容易に想像出来る。そんな姉さんを見るのは嫌なので……
「……好きにしろ」
姉さんを追い出すことは諦めて、姉さんの好きにさせる事にした。
「……うん。ありがとう弟君。大好きだよ……」
姉さんの言葉と同時に俺の背中に姉さんの手の感触以外の感触ーーースポンジと思われる感触が伝わってくる。
しかし今の俺はその感触を殆ど気にしていなかった。何故なら……
(姉さん、いきなり変な事を言わないでくれよ。姉弟として大好きって言ったのかもしれないが、こっちからしたら勘違いしちまったからな?!)
姉さんの大好き発言に顔を熱くしてしまう。幾らスキンシップが激しいからって、言葉でスキンシップをするのは止めてくれ。
内心思い切り叫ぶ中、姉さんはスポンジを使って俺の背中を擦り始める。
「どうかな弟君?痛かったりくすぐったかったりしたら直ぐに言ってね?」
姉さんはそう言って優しくスポンジを使って擦る。
(……参った。スポンジはそこまでくすぐったくないが、姉さんが背中を洗っていると考えたらむず痒くなってきた)
しかしそれは仕方ないだろう。姉さんはボーダーでも学校でもトップクラスの美少女なのだ。そんな姉さんがバスタオル姿で裸の俺の背中を洗っているのだ。変な気分になっても仕方ないだろう。
すると俺が返事をしなかった事が気になったのか姉さんが話しかけてきた。
「弟君?」
「っ……あ、ああ悪い。特に不満はないから大丈夫だ」
「うん……」
姉さんは切ない声を出して背中を洗うのを再開する。ダメだ……マジで鼻血が出てきそうだ。
暫くの間姉さんの優しい手つきに耐えていると、背中から伝わる感触が消えた。その事から背中を洗い終えたのだろう。
「背中は終わったよ」
すると姉さんが予想通りの言葉を言ったので俺はシャワーを浴びて背中の石鹸を洗い流し始めた。顔に溜まった熱も洗い流す為にシャワーの温度を若干下げて。
それから1分、シャワーを浴びて頭を冷やした俺は一息吐く。
「ありがとな姉さん。後は前を洗うからもう少し待っててくれ」
「う、うん……その、弟君さえ良ければ前もやる、よ?」
「すまん。それはちょっと勘弁してくれ」
「わ、わかった」
姉さんが了承したのを聞いたのて早めに前側を洗い始める。流石に姉さんに前側ーーー特に下半身を洗われたら理性が飛ぶ可能性もあるし遠慮しておこう。
俺は速攻で前側の部分を泡で覆わせてシャワーを使って洗い流す。一刻も早く風呂から出る度に。
そして全ての泡を流した俺はシャワーを止めて……
「じゃあ俺はもう出るからごゆっくり」
言いながら俺は風呂場から出ようと立ち上がる。俺は姉さんと違ってタオルの準備をしておらず隠すものがない。
従って姉さんに俺の裸を見せて不快にならないよう、早く風呂場から出ようとするも……
「ま、待って!」
いざ目を瞑って歩こうとすると、その前に姉さんに腕を掴まれる。姉さんの艶姿を見ないように目を瞑っているので姉さんがどんな表情で俺を止めたかは理解出来ない。
「な、何だよ?」
目を瞑っているとはいえバスタオル1枚の姉さんの姿が頭に浮かんでいてヤバいから早めに話を終わらせて欲しい。
そんな事を考えていると……
「そ、その……弟君。弟君さえ良ければ、一緒にお湯に浸からない?」
え?
それから5分後……
「じゃ、じゃあ入るね」
「あ、ああ」
身体を洗い終えた姉さんは湯船に浸かっている俺に話しかけてくるので、俺はお湯から顔を上げず俯いた状態で返事をした。
結局俺は姉さんの誘いを断れずに湯船に浸かっている。いや、最初は断ろうとしたんだが視界が真っ暗の中、いきなり正面から柔らかい感触が伝わってきたので思わず目を開けたら……
『お願い……』
バスタオル1枚で俺に抱きついて涙目+上目遣いでおねだりをしてくる姉さんが居て、気がつけば湯船に浸かっていたのだ。
しかしそれは仕方ないだろう。あんな表情をした姉さんのおねだりを聞けない男はいないと断言出来る。断る奴は血が通っていない奴位だろう。
閑話休題……
そんな訳で俺は湯船に浸かっていて、姉さんは今から入るようだ。
「んっ……」
姉さんの消え入るような声が聞こえると同時に、チャプっと水しぶきが飛んで、湯船の水位が上がる。その事実が姉さんが湯船に入った事を如実に表してきた。
その事を認識して顔に熱が溜まるのを実感している時だった。
「弟君……」
姉さんの言葉と共に、後ろから姉さんの色白とした手が俺の脇を通ってそのまま俺の胸に回されたかと思えば……
「ね、ねねね姉さんっ?!」
俺の背中に柔らかい感触が伝わってくる。それも今までに感じた事がない位の柔らかい感触が。
姉さんの両手は俺の胸に回されている。その事から俺の背中に伝わる感触の正体は……
(む、胸、だよな……しかもバスタオルは巻いてない……!)
バスタオルの感触は無く、ムニムニした感触。これ絶対に姉さんの生の胸だろ?!
つまり今は俺は全裸でお湯に浸かりながら、同じく全裸の姉さんに背中から抱きつかれている状態ということになる。
や、ヤバい!今まで何度目姉さんにドキドキさせられた事はあるが今回は別格だ。余りにドキドキしてきて恥ずかしいを通り越して、ムラってしてきたぞ……
てか姉さんがここまで迫ってくるならこっちも攻め返して良いんじゃね?据え膳食わぬは男の恥って……
(違う!アホか俺は?!そんな事をしたら洒落にならないからな!)
危ねぇ……一瞬マジで姉さんを食べようと考えてしまった。そんな事をしたらアウトなので気を付けないとな。
そんな事を考えていると……
「んっ……弟君の身体、逞しいね……」
姉さんはそう言って抱きしめる力を強める。それはつまり姉さんの胸が必然的に俺の背中に今以上に押し付けられている事を意味している。
「ね、姉さん……何でいきなり抱きつくんだよ……」
「あ……ご、ごめん。いきなり抱きつかれたら嫌だよね……」
「いや別に嫌って訳ではないが……いきなりで驚いたんだよ」
いきなり抱きついたことに関してはドキドキはしたものの特に怒ってはいない。今まで何度も抱きつかれてるし。今回は互いに裸だから気になっただけだ。
「その……弟君の背中を見ていたら抱きしめたくなっちゃって……」
そんな事を言ってくる。つまり本能に従って抱きついたと?なら責めることは出来ねぇな。何かしら狙いがあるならともかく、悪意無くやった事を責めるつもりはない。
「そ、そうか……」
「うん……弟君」
「な、何だ?」
「その……弟君が嫌じゃなかったら私も抱きしめて、欲しいな……」
姉さんは背中からとんでもない事を言ってくるが……
「済まん姉さん。流石にそれは勘弁してくれ」
こればかりは無理だ。姉さんの悲しむ顔を見ることになっても無理だ。
「そっか……」
「悪いな。でも裸の姉さんを抱きしめたりしたら襲ってしまうかもしれないしな」
そしたら俺はブタ箱行きで姉さんは心が壊れてしまうかもしれない。そんな事は誰も彼も望んでいないだろう。
そこまで考えていると……
「わ、私……弟君になら襲われても良いよ」
姉さんが予想外のことを言ってくる。
…………はい。姉さんは俺になら襲われても良いだと?それはつまり俺の理性がぶっ飛んで思う存分姉さんで楽しんでもお咎め無しって事だよな?
(マジで?いやいや流石にそれはないだろ?……いやでも、一緒に風呂に入ったり、全裸で抱きついたりしてる姉さんだし嘘ではなさそうだし……やっぱり良いの……んっ)
そこまで考えていると不意に頭がクラクラしてきた。何だこれは?
疑問に思っていると意識も朦朧としてきた。
(もしかしてのぼせたのか?)
あり得ない話ではない。長時間風呂に入り、姉さんに抱きつかれたりされていて顔に熱は溜まってるだろうし。
「(ダメだ……!もう限界……!)済まん姉さん!俺はもう出る!」
「えっ?!」
姉さんが驚きの声を出す中、俺は姉さんが怪我しない程度に優しく姉さんからの抱擁を解く。その際……
「あっ……お、弟君っ……」
俺の手が姉さんの胸を鷲掴みにしていた。しかし昨日の文香とは違って生の胸をモロに、だ。
この世の物とは思えない位モッチリとした至福の感触が俺の手の中で暴れ出す。
(マジか……凄く柔らかいって、違う!余計な事を考えるな!)
これ以上余計な事を考えたら理性がぶっ飛んでしまうだろう。
「マジで悪い!先に上がるけど、姉さんが上がったらちゃんと詫びをする!」
「んんっ……弟君……」
姉さんの嬌声を耳にしながら俺は湯船から出て、全速力で風呂場から出た。
(危なかった……とりあえず理性がぶっ飛ぶという最悪の事態は回避出来たな……次は不可抗力とはいえ姉さんの胸を揉んだし、姉さんが出てから謝ろう)
そう思いながら俺はタオルで身体を拭いてパジャマを着る。許して貰えるかはわからないが誠心誠意を込めて謝ろう。それが最善の手だろうし。
内心許して貰える事を祈りながらも俺はパジャマを着て洗面所を後にしたのだった。
「お、弟君のエッチ……私だって嫌じゃないけど、いきなりは恥ずかしかったな……」