やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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こうして格上との試合は終了する

ドサッ

 

ベイルアウト用のマットに叩きつけられた俺は頭を起こす。

 

「最後のアレ……点数が入ったのか?」

 

ぼんやりと呟く。今回のランク戦、俺はとにかく二宮さんを足止めする仕事を担当していた。そしてトリオンが切れる直前に残ったトリオンを注ぎ込んで二宮さんにメテオラ特攻をぶちかました。

 

同時に二宮さんに蜂の巣にされた。アレで多分二宮さんに1点取られたと思う。つまり二宮隊は二宮さんが1点で鶴見が2点、生存ボーナスが2点より合計5点手に入れた事になる。

 

それは予想の範囲だ。問題はウチの隊だ。ウチは俺が若村を、文香が香取を、辻が三浦を倒して3点は確実に手に入れた。そして最後に俺が二宮さんにぶちかました自爆特攻が成功していたら4点手に入る事になる。

 

そんな事を考えながら俺はマットから降りてオペレータールームに向かう。すると視界には私服を着た文香と辻、オペレーターの制服を着た歌歩がいた。

 

「お疲れ様お兄ちゃん」

 

最初に歌歩が笑顔を浮かべて俺にMAXコーヒーを出してくるのでありがたく受け取る。本当に良い義妹だ。2人きりだったらハグしている自信がある。

 

「サンキュー。そういや最後の自爆特攻なんだが、二宮さんを倒せたか?」

 

俺が尋ねると歌歩は首を振った……横に。

 

「ううん。二宮さんの右腕と右足は吹き飛ばしたけど、頭と心臓は守られていたから得点にはならなかった」

 

歌歩に言われてパソコンを見てみると、二宮さんは俺が自爆する直前に頭と心臓部の部分に雪ダルマのような形でシールドを展開して俺の自爆から守っていた。

 

つまりウチは3点止まりって事か……

 

「済まん。俺が最後に二宮さんを倒していたら撃破点でトップだったのに」

 

俺が謝ると文香が首を横に振る。

 

「い、いえ!元はと言えば私が鶴見さんに負けたから向こうが有利になったんです。私が勝っていれば恐らくウチの隊が勝っていました。足を引っ張って申し訳ありませんでした!」

 

文香はそうやって頭を下げて謝る。

 

「そんなに硬くなるな。別に命がかかっていた訳じゃないんだし、俺は気にしてない」

 

ぶっちゃけ俺は怒ってない。文香は負けたとはいえ1点は取ったんだし役割は果たしたと言える、てかこれから週に2回ランク戦があるんだ。毎回怒っていてはキリがない。

 

「で、ですが……」

 

それでも文香は納得していないのか、申し訳なさそうな表情で俺を見てくる。それはいつかの由比ヶ浜と同じように見えた。これはこっちが何かしら言わないと無理だな。

 

「じゃあ罰を与える……次に二宮隊と戦う時は鶴見を倒せ」

 

これから先二宮隊と戦う機会は何度もあるが、文香にはその時に今回の反省を活かして打ち破って欲しいと思っているのでそんな要求をした。

 

それを聞いた文香はハッとした表情で顔を上げて……

 

「はい!必ず!」

 

力強い返事を返す。

 

「なら良い。歌歩も辻も苦労しただろ。一先ずお疲れ」

 

「いや。二宮さんを足止めしたお前に比べたら全然疲れてないな」

 

「うん。お兄ちゃんこそお疲れ様だよ」

 

2人からはそう返され労われる。本当に良い部下だよこいつらは。

 

「サンキュー。そういや次の試合の組み合わせは出たか?」

 

ウチの試合が今日最後の試合だし出ているだろう。

 

「あ、丁度次の試合の組み合わせも出たよ」

 

「何処だ?」

 

「嵐山隊と諏訪隊だね」

 

嵐山隊?二宮隊は上位入りしたから中位落ちしたのか?もしくは柿崎さんが抜けて戦力が下がったか?

 

まあ何処が相手でも全力でやる以上関係ないか。

 

「わかった。とりあえず今日は全員ゆっくり休め。んで明日の防衛任務までに各自データ収集をするように」

 

『了解』

 

「良し、んじゃ帰るぞ」

 

そう言って作戦室を後にする。肉体的には疲れてないが20分近く二宮さんを足止めしたからか結構頭が痛い。帰りに気分転換で美味いものを食べに行くか。

 

そこまで考えているときだった。

 

「よー、比企谷隊。面白い試合だったぜ」

 

正面からA級1位部隊の隊長の太刀川さんがニヤニヤ笑いをしながらやってくる。剣と餅を焼くこと以外全てがダメな人が現れた事に俺達は戸惑いの表情を浮かべる。

 

「面白い試合、でしたか?」

 

俺が尋ねると太刀川さんは笑顔のまま頷く。

 

「そりゃそうだろ。お前がグラスホッパーを使って二宮の顔面に瓦礫をぶつけるのを見たら腹筋が崩壊したぜ」

 

あ〜……確かにそんな事をしたな。でも笑われるとは想定外だ。

 

「八幡先輩そんな事をしたんですか?!」

 

「ランク戦とはいえ恐ろしいことをするな……」

 

文香と辻は驚きの表情を浮かべる。まあそれが普通の反応だよな。今更ながら俺の行動って命知らず過ぎじゃね。次に二宮さんに会ったら謝ろう。

 

「そんな面白い試合をしたお前らにこれやるよ」

 

言うなり太刀川さんは懐から何かを出してくるので見てみると……

 

「寿寿苑のランチセットチケット?」

 

「今日大学の友人から貰ったんだよ。どのみち比企谷には先週のレポートの礼も忘れてたし、反省会は焼肉を食いながらやれよ」

 

そう言って太刀川さんは去って行った。俺の手には焼肉屋のランチチケットがある。

 

(折角貰ったんだし使うか。使わなきゃ宝の持ち腐れだし、皆頑張ったからご褒美を与えるのも悪くないな)

 

そう思いながら俺は後ろにいる3人を見る。

 

「……って、訳で反省会は焼肉屋でやろうと思うがどうする?」

 

「私はそれで大丈夫だよ」

 

「次の試合に対しての景気付けとして良いんじゃないか?」

 

「私も大丈夫です。元々今日は食堂で食べるつもりでしたし」

 

3人からは了承を得たので行かない理由はないな。焼肉なんて久しぶりだし、俺も楽しませて貰うか。

 

そう思いながら俺達は焼肉屋を目指すべく基地の出口に向かったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その20分後………

 

「焼けたぞ。さっさと取れ」

 

二宮さんがそう言って肉を指す。

 

「あ、ど、どうもっす」

 

「ありがとうございます」

 

俺と辻は二宮さんが指した肉を食べるが、緊張の余り味がわからなかった。

 

現在は俺達比企谷隊は二宮隊の面々と一緒に焼肉屋にいる。当初は比企谷隊4人で焼肉屋に向かっていたが、店に入ると順番待ちしていた二宮隊が居て一緒に食う事になった。

 

それだけなら問題ない。問題席割りだ。俺達6人がけの座敷席を2つ借りたのだが席割りは……

俺、辻、二宮さん

 

文香、歌歩、犬飼先輩、鳩原先輩、鶴見、氷見

 

感じに別れた。犬飼先輩は女子5人に囲まれてハーレムとなっている。俺は別にハーレムを望んでいる訳ではないが、変われるなら変わって欲しい。

 

女子を苦手とする辻はともかく、俺はついさっきまで二宮さんとタイマンで戦って瓦礫を飛ばしたりとか色々やったし気まずい事この上ないのだ。

 

味のしない肉を食べていると二宮さんが口を開ける。

 

「今回はお前らにしてやられたぞ」

 

今回とはランク戦の事だろう。

 

「え?二宮さん達は勝ったじゃないですか?」

 

「点数ーーー結果ではな。だがその過程ではお前達の作戦に乗せられて思うように行動出来なかったから、それを言っている」

 

「はぁ……どうもありがとうございます」

 

そう言われると嬉しい。俺としては二宮隊に自由にさせない事を考えていたので、本人から言われたら成功したという実感を感じる。

 

「後は個人個人の実力を上げるべきだな。お前は普段のトリガーでも俺を足止め出来るくらいになれ。でないと今後格上の足止めは苦労するぞ」

 

それは一理ある。今回二宮さんを足止め出来たのはスコーピオンを外してエスクードを入れるなど本来のスタイルーーー点を取るスタイルを捨てたから出来た事だ。

 

しかし次からは本来のトリガー構成でも足止め出来るようにならないといけない。これから先二宮隊とぶつかった場合、二宮さんは間違いなく、エスクードを使う俺の対策をしてくるだろうし。

 

それを抜きにしてもA級に挑む以上A級と渡り合えるエースが居ないと、昇格は無理だろう。ポイントは低いが現在の俺の実力はマスタークラスだと自負はある。

 

しかしそれだけじゃまだ足りない。A級を目指すなら個人ポイント10000超えの攻撃手になる位でないと厳しいだろう。現在個人ポイント10000超えしている攻撃手は4人しかいないので、それがどれだけ厳しいのかは言うまでもないだろう。

 

閑話休題……

 

「……そうですね」

 

「まあ俺も今回の試合で考える事が出来た。とりあえず後日出水に色々と聞いてみるか」

 

マジで?既にNo.1射手なのにまだ強くなる可能性があるの。これは俺もウカウカしてられん。

 

「良し辻。俺達も個々の実力を高めるぞ」

 

「もちろんそのつもりだな、具体的には?」

 

「今度から太刀川さんに模擬戦をやって貰え。俺もお前を勧誘する為に1週間で500本以上やったし」

 

今の俺がマスタークラスの実力で弧月使い相手に勝率が高いのは間違いなく太刀川さんとの模擬戦のおかげだ。辻も同じ事をやれば実力は大幅に伸びるだろう。

 

「了解」

 

辻からは了解の返事がくる。俺ももう一度太刀川さんに頼んでみるか。

 

 

「太刀川……ああ。例の報酬でレポートの手伝い有りの模擬戦か?」

 

すると二宮さんがカルビを食べながらそんな事を言ってくる。

 

「二宮さんも知っているんですか?」

 

「割と有名だぞ。俺はこの前に本部長に用があって執務室に行ったら、あの馬鹿が本部長に説教を食らっていたな。おかげでボーダーに所属する大学生はレポートをやらない馬鹿って風潮が流れて良い迷惑だ」

 

二宮さんは悪態を吐きながら肉を食べる。クールな二宮さんが愚痴を零すのは妙に不思議な感じがするな。

 

「大学のレポートはそんなに大変なんですか?」

 

辻が二宮さんにそう尋ねると二宮さんは首を横に振る。

 

「俺はまだ1年だから何とも言えないが、週に一度提出するレポートは割りかし面倒だな。が、しっかり授業を聞いていれば普通に提出出来る」

 

「つまり常日頃から勉強してれば問題ないと?」

 

「ああ。言っとくがお前らは太刀川みたいになるなよ。お前らの世代は特に人が多いが、成績が悪かったら防衛任務にも支障が出るかもしれないからな」

 

二宮さんの言う通りだ。授業をサボる為にワザと嫌な授業に防衛任務を入れる人は割りかしいるが、それでボーダーに所属する人間の成績が悪かったら、提携校からも「成績の悪い奴は授業がある時間に防衛任務を入れないでくれ」と苦情を入れてくるかもしれない。

 

そうなったらボーダーのシフトは大きく変わるだろうし、世間に知られて叩かれるかもしれないからな。

 

「そうですね。気を付けます」

 

「それは否定しませんが、俺と辻はそこまで成績は悪くないですよ」

 

「比企谷は数学で赤点ギリギリじゃなかったか?」

 

「赤点ギリギリ?あんなもん授業を聞いていれば平均点は取れるだろうが」

 

それを聞いた二宮さんは俺を馬鹿を見る目で見てくる。いや授業は聞いているけど、中学時代の知識が曖昧だから聞いてもわからないんだよ。まあそれを言ったら二宮さんに更に馬鹿にされるのは目に見えてるから言わないけど。

 

「ま、まあ次は気をつけますよ(辻、てめぇ余計な事を言うなよ)」

 

「期末は頑張れ(済まん。普通に答えてしまった)」

 

俺がアイコンタクトで文句を言うと、辻は同じくアイコンタクトで謝罪をしてきた。

 

「言っとくが赤点は取らない方が良いぞ。去年の太刀川は赤点を取り巻くって防衛任務のシフトを大幅に減らされたんだ。家計の為に入隊したお前には厳しいぞ」

 

「肝に銘じておきます」

 

次のテストでは辻や歌歩に習って50点台を目指そう。シフトを減らしてチームに迷惑をかけるわけにはいかないからな。

 

そんな風に感じながら俺は肉を食べるのを再開した。その際に俺は思ったのは、二宮さんって焼肉を食べている時は比較的口数が多いということだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、美味かった」

 

「そうですね。チームで食事というのも良いですね」

 

歌歩と文香が楽しそうに話し合う。

 

あれから30分、食べ終わった俺達は防衛任務がある二宮隊と別れて帰路についている。

 

「久しぶりの肉は美味かったな」

 

「だな。ところで比企谷、さっきは二宮隊が居たし反省会は出来なかったが、それは明日にするのか?」

 

「そうだな。次の試合の対策の前にやるつもりだ……っと、着いたな」

 

気が付けばいつも別れる十字路に到着した。俺の家は右に曲がった先に、辻の家は真っ直ぐ行った先、歌歩と文香の家は左に曲がった先にある。よって今日はここで別れる。

 

「んじゃ今日はここまで。明日までに次の試合の意見を考えとけよ?」

 

『了解』

 

3人が力強く頷く。顔を見ると全員が真剣な表情を浮かべている。

 

それを見た俺は頼もしさを感じる。今日は負けたが色々と考える試合だったし、いつか二宮隊に借りを返すつもりだ。

 

「良し。じゃあかいさ「弟君!」うおっ!」

 

解散を告げようとしたらいきなり後ろから衝撃が襲ってきた。

 

「「ああっ!」」

 

「……ああ。修羅場が来るな」

 

すると歌歩と文香が声を上げて、辻は額に手を当ててため息を吐き出す。俺を弟呼びして抱きつく人間なんて1人しか思いつかないな……

 

「姉さん……」

 

振り向いた先には俺の義姉の綾辻遥姉さんが抱きついていた。

 

「さっきの試合見たよ。弟君は頑張ったね」

 

言いながら頭を撫で撫でしてくる。抱きついて頭を撫で撫で、おかげで辺りにいる人からは注目を浴びている。おまけに姉さんは最近デビューしたとはいえ広報部隊の人間だ。一部からは綾辻云々って声も聞こえてくる。

 

しかし離れてくれとは言えない。俺の経験上、離れてくれと言ったら物凄い悲しそうな表情をするのが目に見えるからな。

 

「さ、サンキュー」

 

よって俺はそんな風に無難な返事しか出来なかった。

 

「どういたしまして。チームの為に一生懸命頑張る弟君はお姉ちゃんの自慢だよ……弟君」

 

言いながら姉さんは唇を俺の頬に近付けてくる。あ、これは長時間チュッチュッされるパターンだ。姉さんにチュッチュッされるのは慣れたが、街中でされるのはちょっと恥ずかしいから勘弁して欲しい。

 

そう思っていると……

 

「「ダメ(です)!」」

 

歌歩が姉さんを、文香が俺を引っ張って半ば無理やり抱擁を解かせる。すると姉さんは不満タラタラな表情を浮かべる。

 

「ちょっと歌歩ちゃん。文香ちゃんもいきなり何をするの?」

 

「それはこっちのセリフだよ!遥ちゃんこそ何でお兄ちゃんにキスをしようとしたの?!」

 

「そうですよ!少し近過ぎると思います!」

 

「ただの姉と弟のスキンシップだよ。別に悪い事じゃないし、弟君も嫌がってないから良いじゃん。ねぇ弟君?」

 

ここで俺に振るのかよ?!すると歌歩と文香がジト目で俺を見てくる。これはマズい……

 

思わず辻に助けを求めようとするも……

 

「じゃあお疲れ。帰ったら次の試合について考えておく」

 

「ちょっ、待て……!」

 

俺が引き止めようとするも、巻き添えを食らいたくないからか一礼して足早に去って行った。

 

これで俺を助けてくれる人は居ない。よって……

 

 

 

 

「お兄ちゃん!人前でのスキンシップはダメだよね?!」

 

「そうですよ!ああいうのは良くないですよ!」

 

「あ、やっぱりそうだよ「弟君……嫌だったの?お姉ちゃん、弟君の頑張りを見てつい……」あ、いや別に嫌って訳じゃないからな?」

 

「お兄ちゃん(八幡先輩)!」

 

姉さんの悲しそうな表情を見て思わずそう返すと、歌歩と文香はジト目で俺を睨みながら怒ってくる。

 

(マジで誰か助けてください。てか見捨てた辻は明日ぶっ飛ばす)

 

俺は義姉と義妹と可愛い後輩の3人に詰め寄られながら、現実逃避気味にそう考えた。

 

結果、俺は3人に20分近く詰め寄られたのだった。

 

 

 

 

 

その時に周囲の男は……

 

(あの男、マジでモテモテじゃねぇか!リア充爆発しろ!)

 

血涙を流しながら八幡に殺意を向けたのだった。

 

 




次回は一気に時期が飛んで夏休みの修行編に入ります

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