俺と辻が突っ込んだ先にはモールモッド3体とバムスターが1体、バンダーが2体いた。
さて……となると照屋にやらせるのは……
『私がバムスターとバンダーをやります。先輩達はモールモッドをお願いします』
俺が言おうとした瞬間、照屋が考えていた事を口にする。やはり照屋は俺の考えを読んでいたか。ボーダーで1番付き合いが長いからか、どうにも照屋の考えは読み易く、照屋には考えが読まれやすいんだよな。
「任せる」
言いながら走ると左右にいるバンダーが砲撃を放ってくるので俺は自身と辻の足元にグラスホッパーを設置して跳ぶことで大きく回避する。
背中に爆風を感じる中、いきなり跳んだ事に辻は驚いていたがそれも一瞬、直ぐにいつもの表情になって上手く着地する。
「いきなりだな」
「悪い悪い。次から気をつける……っと!」
軽く謝りながら近くにやって来たモールモッドのブレードを伏せて回避して間髪入れずに右のブレードをぶった斬る。同時に辻が左のブレードを斬ってくれたので今のモールモッドは隙だらけだ。
トリオン兵はその場に応じて最善の手を打ってくる理に適った動きをしてくるロボットのようなものだ。
つまり次にモールモッドがやろうとしている事は背中に格納してあるブレードを出して俺と辻を斬ろうとする事だろう。
だから……
「死ね」
その前にぶった斬る。弱点の目から煙が出て沈黙を確認。先ずは1体……
そこまで考えている時だった。
ガキンッ
ガガガガガガガガッ
ドゴンッ
鈍い音と銃撃音と爆発音が聞こえたので見ると、近くでは辻が2体目のモールモッドの攻撃を防いでいて、離れた場所では照屋がバンダー2体に弾丸トリガーを浴びせていた。
右のバンダーには突撃銃によるアステロイドを、左のバンダーにはキューブ状のメテオラを放って爆発を起こしていた。
『右のバンダー沈黙確認。左のバンダーはまだ生きてますが先輩達の邪魔はさせませんので、バンダーに気を取られないで大丈夫です』
照屋から頼もしい通信が入る。照屋がそう言うなら大丈夫だろう。信頼なんて言葉は俺には似合わないかもしれないが、俺は照屋の事はボーダーでもトップクラスに信頼している。
だから……
「了解した……そらっ」
照屋にバンダーを任せて、ジャンプすると同時に辻に攻撃をしているモールモッドのブレードを2つ纏めてぶった斬る。これで2体目のモールモッドも隙だらけだ。
「そいつを倒したらバムスターの所に向かえ」
「了解」
辻と一言だけ交わして俺は3体目のモールモッドに向かう。バムスターは鈍いから俺達の所に来る前にモールモッドを全滅させる事は可能だろう。
そう思いながら最後のモールモッドに突っ込むと向こうは両手のブレードを振るっつくるのでスコーピオンを振るって、右のブレードを受け流し、ジャンプをしてブレードを回避する。
既に防衛任務で何百のモールモッドを殺したんだ。ヤツの行動パターンは完全に熟知しているのでタイマンなら負ける気がしない。
これは俺だけじゃなくて照屋や辻、B級上がりたてのルーキー以外の人間なら、殆ど全員が普通にモールモッドを倒せるだろう。
だから俺はいつものように左手をモールモッドの目に向けて
「じゃあな」
スコーピオンを投げつけて弱点の目を貫く。これで2体目。後は……
『こちら辻、モールモッド撃破完了』
『照屋です。バンダーを撃破しました』
「後はバムスターだな」
言いながら巨大な身体を持つバムスターが今更ながらやってくる。ヒーローは遅れてやって来ると言うが、こいつの場合雑魚は遅れてやって来るだな。
そんな事を考えながら俺はバムスターに手を向けて……
「「ハウンド」」
ガガガガガガガガガガッ
俺の副トリガーのハウンド、辻の両攻撃ハウンド、照屋のアステロイドがバムスターに放たれる。
威力の低い弾丸トリガーとはいえ、これだけ火力を集中すれば防御力の高いバムスターでもひとたまりもないだろう。案の定弱点の目どころか全身が粉々に砕け散った。
『第1ステージは終わったよ。新しくトリオン兵の存在が確認出来たから位置情報送るね』
すると三上からそう言われてレーダーに新しい反応が映る。数は6で、トリオン兵の種類は不明だ。
「了解。距離的に俺と照屋が近いから先行する。辻は援護重視で後から付いてきてくれ」
『『了解』』
2人から了解の返事が来たので俺はレーダーに映る反応の方向に向かうべく近くの住宅地の屋根の上に乗る。道なりに行くよりこっちの方が……っ!
するといきなり砲撃が3発来たので反射的にジャンプして躱す。内1発はシールドを展開するも防ぐことが出来ず破壊され、俺の右手首より先が吹き飛んだ。
見ると視界の先にはバンダーが3体こちらを向いていた。射線の通る屋根の上に乗ると同時に砲撃をしてくるとは中々いやらしいプログラミングだな。
同時に右から照屋も少し離れた場所にある住宅地の屋根の上に上がるのが見えるが砲撃はない。バンダーは一度砲撃すると次の砲撃まで若干のインターバルがあるからだ。
『大丈夫ですか?』
「問題ない。それよりも行くぞ。ただしシールド1枚じゃ防げないから、バンダーとの距離が30メートル以内になるまでは両防御をしろ」
『了解』
言いながら照屋が走り出し、照屋の更に右では辻も屋根の上に上がるのが目に入るので俺も走り出す。足が撃たれたならともかく腕なら問題ない。俺が使う武器は手が無くても使える武器だし。
屋根から屋根にジャンプしていると砲撃のインターバルが終わったらしいバンダー3体の砲撃がやって来る。狙いは3方向、つまり俺達3人を纏めて潰すつもりだろう。
だが……
「よっと」
3体纏めた砲撃ならともかく1体の攻撃なら問題ない。軽いステップで横に跳んで回避するとさっきまでいた場所に砲撃が叩き込まれ爆発が生じる。爆風で体勢は崩れたが戦闘に支障はないので問題ない。
そのまま距離を詰めながらレーダーを見るとバンダー以外の3つの反応がバンダーに近寄っている。同時に顔を上げてバンダーの方を見ればモールモッド3体が俺達と同じように屋根の上に上がってきた。
どうやら一気に攻めて潰す算段なのだろう。トリオン兵の癖に中々やるな。モールモッドの狙いは動きから察するに俺達3人の中で中心の位置にいる照屋だろう。となると辻はフォロー出来ないだろうし俺がやるしかない。
そう思いながら照屋との距離を詰めようとすると砲撃のインターバルが終わった3体のバンダーが3度目の砲撃を準備してきた。しかもバンダーも照屋に顔を向けている。
「照屋、モールモッドに両攻撃をしろ。防御はしなくて良い。バンダーの砲撃は俺がお前を跳ばして対処するから信じて攻撃しろ」
『っ……!了解』
言うなり照屋は自身の手に突撃銃を展開しながら自身の周囲にキューブを展開して……
ガガガガガガガガガガッ
ドドドドドドッ
大量の弾丸を叩き込む。メテオラを使ったからか爆風が凄くてモールモッドの姿が見えない。しかしレーダーを見ると1体だけ生きてるな。
そう思っているとバンダーが砲撃を放とうと目を光らせるので、それを認識した俺は主トリガーからはハウンドを、副トリガーからはグラスホッパーを起動して……
「跳べ」
砲撃が放たれると同時に照屋の足元にグラスホッパーを設置しながらハウンドを放つ。
それによって照屋は右へ大きく跳び、バンダーの砲撃は照屋が跳ぶ前にいた場所を大きく穿ち、俺が放ったハウンドは生き残っていたモールモッドに止めを刺した。
さてこれで後はバンダー3体。各自1体ずつ撃破していけば『えっ……!あっ……うっ……!』『す、すみません!』……ん?
いきなり変な声が聞こえたので横を見ると
「何やってんだあいつらは?」
見ると辻が尻餅をつきながら照屋に怯えていて、辻に謝っている照屋がいた。どんな状況だアレは?
疑問符を浮かべていると三上から通信が入る。
『えっと……お兄ちゃんが照屋さんを跳ばしたらその先に辻君が居てね。それに驚いた辻君が足を止めちゃって勢いに乗った照屋さんと衝突しちゃったの』
しまった。照屋をバンダーの砲撃範囲から逃すことに夢中になって辻の弱点を忘れてしまっていた。次からは跳ばす先のことも考えよう。
「って、砲撃の準備が完了してるぞ!照屋は辻から離れろ」
『了解!』
俺は走りながらバンダーに向けてハウンドを放ち牽制しながらそう指示を出す。少なくとも照屋が辻から距離を取らない限り辻はここで脱落だろう。
「良し、照屋は離れたし辻も急いで跳べ」
この距離だとグラスホッパーの設置は無理なので声しか出せないので指示を出す。
『あ、ああ……済まない』
辻は未だに戸惑いながらもバンダーの砲撃をギリギリで回避する。本当にギリギリだったな。後0.5秒でも遅かったら辻は脱落していただろう。まあ無事だから良しとしよう。
そう判断した俺はグラスホッパーを踏んで1番左にいるバンダーとの距離を一気に詰める。バンダーとの距離が5メートルを切ると、向こうも砲撃のインターバルが終わったのか目から光を出してくるが……
「遅い、死ね」
スコーピオンを出してそのまま弱点の目をぶった斬る。すると目に充填されていた光は溶けるように消えてバンダーはそのまま崩れ落ちた。
(さて次のバンダー……いや、もう大丈夫だな)
見れば照屋が弧月+旋空で真ん中にいるバンダーをぶった斬り、辻がハウンドを放ちながら動き回り最後のバンダーの気を引いて照屋から意識を逸らすように心掛けていた。
つまり最後のバンダーは照屋に対して隙だらけであり……
「旋空弧月」
最後のバンダーは呆気なく真っ二つとなった。これで第2ステージは終了だな。
『第2ステージも終了。新しいトリオン兵の反応が出たよ』
三上から通信が入るのでレーダーを見ると新しい反応が8体あった。さてさて、数も増えたしこれからが本番だろう。
「見る限り次はモールモッドが多くバンダーが少ない。射撃を中心に攻めるぞ」
『『了解』』
言いながら俺達はレーダー反応がある方向に走り出す。さあて……さっさと片付けますか。
1時間後……
『太刀川隊トレーニングプログラム 終了』
機械の音声がそう告げるとトリオン兵の残骸やボロボロになった住宅街は一瞬で消えて殺風景なトレーニングステージに戻った。
「とりあえず訓練はこれで終わりだ」
「お疲れ様です」
「ああ。辻も初回だがお疲れ。どうだったか?」
「チームの戦略については不満はないな。ランク戦までには何とか照屋さんと顔を合わせられるようにする」
そう言いながら辻は若干申し訳なさそうな表情を浮かべている。そんな表情を浮かべながらも照屋から離れている辺り徹底してるな。
「ああ……」
訓練の最中、辻は何度か照屋の近くに行くこともありその度にぎこちない動きをした。それを知ってチームに引き入れたのでそこまで責めるつもりはないが、ランク戦まで味方と顔を合わせられるようにはなって欲しい。
「まあ初回だから仕方ないが、少しずつ直していけ。お前が何で女子が苦手なのか知らんが照屋にしろ三上にしろ、お前と同様女子が苦手だった俺が問題なく接することが出来る位良い奴だから」
俺がそう口にすると辻は驚きの表情を見せてくる。
「比企谷は女子が苦手だったのか?そうは見えない」
「確かに私と初めて話した時は若干ぎこちなかったですけど……そこまで苦手だったんですか?」
後ろからは照屋もそんな事を聞いてくる。
「まあな。告白したら振られて翌日には全員に知られてクラスの笑い者になったし、告白されて真面目に断ったら罰ゲーム告白でキモい呼ばわりされたからな。結構トラウマになったぜ」
しかもその後に再度違う女子から罰ゲーム告白されたので手酷く断ったら、ガチ泣きして次の日には「女子を泣かせた屑」扱いされたし。もしもボーダーに入隊してなかったら今でもトラウマが残っていただろう。
「お前……そんな酷い扱いを受けていたのか?」
「酷過ぎますね……」
『お兄ちゃん……』
そこまで話すと辻の表情が驚きの表情から同情に溢れた表情に変わっていた。後ろにいる照屋や、俺の言葉を作戦室で聞いていたらしい三上も悲痛な声を出している。どうやら2人にとってはヘビーな話のようだ。
「別に気にしなくて良い。今後あいつらと会うことはないだろうし」
大抵の奴は大規模侵攻で死んだか拉致されたし、生き残った連中も殆どが海浜総合に進学したしな。
「まあそんな訳で女子が苦手だった俺だが、ボーダーに入って照屋みたいに良い奴と知り合ってある程度改善出来たんだ。だからお前も少しくらい踏み込んでも大丈夫だと思うぞ?」
「……頑張ってみる」
「あの先輩、先輩は私のことを過大評価していると思うのですが……」
後ろにいる照屋はそんな事を言っているが、俺はそうは思わない。
ボーダーに入隊して1番初めに知り合ったからか、照屋と話したり戦うのは楽しいし、チームを組む時にも1番欲しい戦闘員に照屋を思い浮かべたしな。実際今では入隊初日にこいつに話しかけられて良かったと思う。
「まあ気にすんな。それより訓練は終わりだしお菓子でも食おうぜ。どら焼きは食えるか?」
「どら焼き?食べれる事は食べれるが俺も食べて良いのか?」
「そりゃチームメイトだから構わないぞ。茶は給湯室がないから我慢してくれ」
言いながら俺はトレーニングステージを後にする。トレーニング後のお菓子は最高だからな。しっかり味わうとしますか。