やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷隊の訓練が始まる

「……って、訳で改めて説明するが俺が目標としているチームは、どんな状況でも安定して点を取れる攻撃を重視したバランスチームだ。既存のチームを使って例えるなら嵐山隊に近いな」

 

比企谷隊作戦室、隊長である俺は嵐山隊が縦横無尽に動くシーンを映しているモニターの前に立ち説明をする。

 

作戦室の席にはチームメイトの照屋文香、辻新之助、三上歌歩が座って俺の話を聞いている。作戦テーブルの真ん中に巨大な仕切り壁を作って男女別々にしながら。

 

理由は簡単、こうしないと辻がキョドッてミーティングにならないからだ。これについては辻本人からも了承が得たので問題ない。

 

「バランスチームという事は狙撃手の勧誘もするんですか?」

 

照屋が律儀に手を上げて質問をしてくる。

 

「一応勧誘することも考えているが。今シーズンはこれ以上メンバーの増員はしないつもりだ。理由としては現時点でB級個人の狙撃手がいないのと、戦闘員4人は三上の負担になるかもしれないからだ。勧誘するとしたら来シーズン以降だな」

 

その頃には三上もオペレートに慣れているだろうし、狙撃手の数も増えているだろう。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「気にすんな。んで次に行くぞ。そんな訳で狙撃手は今シーズンはいないから遠距離戦は無理だ。よって近距離戦と中距離戦を出来るようにしないといけない」

 

そう言ってモニターの近くにあるパネルを操作すると比企谷隊のメンバーのトリガー構成が表示される。

 

比企谷八幡

 

主トリガー

スコーピオン

シールド

ハウンド

グラスホッパー

 

副トリガー

テレポーター

シールド

ハウンド

グラスホッパー

 

 

照屋文香

 

主トリガー

弧月

旋空

シールド

FREE TRIGGER

 

副トリガー

アステロイド:突撃銃

ハウンド:突撃銃

シールド

バッグワーム

 

辻新之助

 

主トリガー

弧月

旋空

シールド

FREE TRIGGER

 

副トリガー

FREE TRIGGER

FREE TRIGGER

シールド

バッグワーム

 

 

「これが今のトリガー構成だが、俺は副トリガーにバッグワームを入れないといけないので、ハウンドを外すつもりだ」

 

「そうなると中距離トリガーの数が減るから俺や照屋さんの空きトリガーに射撃トリガーを入れろ、と?」

 

「俺としてはそれを望んでいる。お前と照屋の得物は弧月と突撃銃で腕を無くしたら戦えなくなるからな。どんな状況でも戦えるように射手の仕事もやって欲しい」

 

俺はスコーピオン+射手タイプのハウンドを使うから腕を斬られても普通に戦えるが、2人は違う。特に現時点の辻なんかは腕を無くしたら何も出来なくなるからな。

 

「もちろん射手の仕事をやる事で従来のポジションに支障が出るなら断ってくれ。嫌だと思った場合もハッキリと断ってくれ」

 

それで本来のポジションの仕事が出来なくなったら本末転倒だしな。無理を強いるつもりはない。

 

そう思いながら仕切り壁によって左右に分かれている2人を見ると、どちらも頷く。

 

「私は大丈夫ですよ。バイパー以外なら実践済みです」

 

「ハウンドで良いなら俺は構わない。アレなら一々狙いを定めないでも使えるから攻撃手の仕事に支障は出ないだろう」

 

どうやら2人は特に反対はしないようだ。俺の考えに不満はないようで良かった……

 

「わかった。じゃあ射手タイプの戦闘も出来るようにしないといけないな……三上」

 

「何お兄ちゃん?」

 

「今からトリガーの構成を変えるから調整を頼む。辻と照屋のトリガーに何を追加するのかは2人と相談してくれ」

 

「三上了解。じゃあ早速やろうか」

 

三上はそう言って作戦机の近くにある椅子から立ち上がり、オペレーターデスクに向かう。照屋も三上に続いて立ち上がるが、辻は立ち上がる気配はないので俺は辻に近寄り手を差し出す。

 

「三上の所には俺が代わりに行くからトリガーをくれ」

 

「……済まない。頼んで良いか?」

 

俺がそう口にすると辻は申し訳なさそうにしながら懐からトリガーを取り出して俺に渡してくる。

 

「別に構わない。だがいつかは改善してくれよ?」

 

「わかってる……このままじゃチームとして支障が出るだろうからな」

 

「わかってるなら良い。とりあえず三上に持ってくが要求はあるか?」

 

「とりあえずメインとサブにハウンドを2つ頼む。残った空きは状況によって考える」

 

「はいよ」

 

辻のトリガーを持ってオペレーターデスクに向かうと、三上は既に照屋のトリガーを開けて新しいチップを入れていた。

 

「出来たよ。主トリガーにアステロイドで合ってるよね?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

どうやら照屋はアステロイドを入れたようだ。まあアステロイドはシンプルだからハウンドと同じくらい扱いやすいし納得だ。

 

「じゃあ辻のを頼む。メインとサブ両方にハウンドな」

 

「メインとサブ両方ね。わかった」

 

辻のトリガーを渡すと三上はドライバーのような物を使ってトリガーを開き、色々な機器をトリガーに接続する。メカ系が苦手な俺からしたら凄い技術だと思う。オペレーターやエンジニアからしたら当然かもしれないが戦闘員からしたら別ジャンルだしな。

 

そう思いながら三上を見ると、三上がパソコンを見ながら真剣な表情でトリガーの調整を行っていた。普段の三上は可愛い印象だが、今の三上は美しく見えた。

 

(人は色々な面を持っているのは知ってるが、俺の義妹がこんな凛々しい表情をするとは思わなかったぜ……)

 

暫くの間三上の事を見ていると、三上がこちらを向いてくる。

 

「どうしたのお兄ちゃん?私のことジッと見て」

 

「あ、いや……今の三上は綺麗だなって……」

 

「い、いきなり何言ってるの?!お兄ちゃんのバカ!」

 

しまった、いきなり質問をされたから馬鹿正直に答えてしまった。てか赤面してバカ呼ばわりしてくる三上マジで可愛いな。そして俺は頬とはいえこんな可愛い女子にき、き、キスを……

 

(ダメだダメだ!これ以上考えたらあの柔らかな感触とリップ音を思い出してしまう!)

 

「わ、悪い……今のは聞かなかった事にしてくれ」

 

「べ、別に怒ってないけど……とりあえず辻君のトリガーは終わったよ」

 

「じゃあ最後は俺か……副トリガーのハウンドを外してバッグワームを頼む」

 

「わ、わかった」

 

三上は頬を染めながらも俺のトリガーを受け取り、調整を始める。その間俺は三上の顔をマトモに見れないのでオペレーターデスクから離れて辻の所に向かう。

 

「はいよトリガー」

 

「わざわざ済まないな……そういえば比企谷に聞きたい事があるんだが良いか?」

 

「答えられる事なら構わない」

 

「何故お前は三上さんにお兄ちゃん呼びをされているんだ?」

 

お兄ちゃん呼びされたくて賭けをして勝ったからだ。

 

しかしそれを馬鹿正直に言うと、ド変態扱いを受けそうで怖いので嘘を吐かせて貰おう。

 

「色々あったんだよ。とりあえず同意の上だから問題ない」

 

「……よくわからんが聞かないほうが良さそうだな」

 

「懸命な判断だ」

 

そう返していると三上がやってきて俺にトリガーを渡してくる。

 

「はいトリガー。それでお兄ちゃん。今からどんな訓練をするの?」

 

「サンキュー。先ずは照屋と辻は新しく追加したトリガーのチェック。明らかにやり辛いなら外さないといけないからな。それが終わったらトレーニングプログラムを使った連携訓練をやる」

 

言いながら俺は懐から巨大なUSBを2つ取り出して三上に渡す。

 

「何これ?」

 

「太刀川隊と嵐山隊が普段使ってるトレーニングプログラムだ。国近先輩と遥姉さんが以前作ったプログラムをさっきコピーして貰った」

 

「ええっ?!」

 

その言葉に俺以外の3人が驚きの表情を浮かべた。まあそりゃそうだろうな。

 

「凄いですね……どうやって手に入れたんですか?」

 

「俺の睡眠と羞恥心の犠牲の末にだ」

 

「「「は?」」」

 

3人が頭にクエスチョンマークを浮かべる。まあ睡眠(オフの日に国近先輩と徹ゲー)や羞恥心(今週末に伊達メガネを掛けて遥姉さんと1日姉弟ごっこ)の犠牲の末って言われてもわからないだろう。

 

ウチの部隊は結成したばかりなのでトレーニングプログラムの数が少ないのだ。三上曰く制作には時間がかかるらしいので他所の隊のプログラムをコピーしたのだ。その際国近先輩と遥姉さんに頼んだら世にも恐ろしい条件を出されたのだ。

 

本来なら断りたかったが、チームの為と割り切った。というか初めは断ろうとしたが2人(特に遥姉さん)が条件を呑めとプレッシャーをかけてきて断れなかったが正確だな。

 

閑話休題……

 

「まあ色々あったんだよ。とにかく!これは紛れもなく太刀川隊と嵐山隊のトレーニングプログラムだ。三上は射撃訓練が終わったらそれをインストールしてくれ」

 

「りょ、了解。とりあえずトレーニングステージを用意するね」

 

三上がそう言って再度オペレーターデスクに向かってパソコンを操作し始める。色々な犠牲の末に手に入れたのだ。是非有効活用しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーニングステージはこんな風になっているのか……初めて見たが中々便利だな」

 

トレーニングステージに転送されると辻は興味深そうに辺りを見渡す。まあ辻はつい最近まで個人だったから仕方ないだろう。

 

てかさりげなく照屋から離れて目を合わせないって……どんだけ徹底してんだよ?

 

「まあな。ほんじゃ三上。適当に的を用意してくれ」

 

『了解』

 

三上の声と同時に少し離れた場所に人型の的が数十個現れた。それは屋根の上や塀の上、壁の横とあらゆる場所にある。

 

『初めてだからその場から動かなくても狙える場所にしか配置してないけど大丈夫?』

 

「問題ない。んじゃ先ずは照屋からさっき入れたアステロイドを確かめてくれ。ただし副トリガーの突撃銃も使いながらやってくれ。その状態で両攻撃が出来るかを確かめたい」

 

「了解」

 

照屋はそう言って銃を生み出して準備を始める。同時に俺と辻は照屋から距離を取り、的がしっかりと見える位置に立つ。

 

『基礎プログラム、スタート』

 

同時に開始の合図が出る。すると照屋は右端の一軒家の屋根の上にある的に銃口を向けながら自身の周囲にキューブを浮かし……

 

「アステロイド」

 

そのまま両攻撃をする。放たれた弾丸は一直線に進んでいき、先にある的を次々と破壊していく。……が、

 

(結構外しているな……)

 

見ると銃口から放たれた弾丸はほんの少しだけだが、キューブから放たれた弾丸はかなり外している。これはおそらく両攻撃をしているが故だろう。元々射手タイプの撃ち方は命中精度が荒いのだ。それに加えて銃に意識を集中しているとなれば命中率は更に下がるだろう。

 

そう思いながら照屋を見るとちょうど最後の的を破壊し終わった。

 

「どうだった?」

 

「そうですね……銃に意識を集中していたからかキューブとして放つアステロイドに意識を割くのが難しかったです。ですからアステロイドではなくメテオラかハウンドにしたいと思います」

 

メテオラは爆発して広範囲を攻撃する炸裂弾、ハウンドは自動で追尾する誘導弾。どちらもアステロイドに比べたらそこまで意識を割く必要はないし妥当な判断だな。

 

「わかった。もしそれでもダメなら外してくれ」

 

「了解しました。それでは一度トレーニングステージから出ますね」

 

言うなり照屋がトレーニングステージから居なくなり、この場は俺と辻の2人だ。今なら一切問題ない状況だろう。

 

「さて、今のお前なら問題なくやれるだろ?」

 

「ああ……三上さん、もう一度的の設置を頼んでいいかな?」

 

『わかった。ちょっと待ってね』

 

言うなり照屋が壊した的は消えて新しい的が生まれる。てか辻の奴、女子と通話するのは出来るみたいだな。つまり顔を見れないだけで女子と関わるのは可能って事だな。女性不信とかじゃなくて良かったぜ。

 

そんな事を考えていると辻は弧月を出して構えを見せてくる。そして周囲にキューブを浮かすと……

 

『基礎プログラム、スタート』

 

再度開始の合図が出る。同時に……

 

「ハウンド」

 

辻は走りながらハウンドを大量に分割して放つ。自動で追尾する弾丸だけあって辻がバラバラにしてから飛ばしたハウンドはありとあらゆる方向に飛んでいき破壊する。そして破壊し損ねた的を……

 

(旋空で破壊する、と。シンプルだが実に合理的なやり方だな)

 

流石バランスタイプの戦闘員だけあって、弧月の振り方もお手本のように綺麗だ。

 

弧月を振り終えると即座に弧月を消して両手からハウンドを上空に打ち上げる。放たれたハウンドは自動追尾機能を持っているのでそのまま的へと飛んでいく。あの技は敵の炙り出しにも使えるからな。C級時代に銃手が良くやる戦法で、この前由比ヶ浜に教えた技でもある。

 

的が壊れる中、辻はその間を一直線に進み次々と破壊していく。一撃一撃の間に隙がなく実に合理的だ。

 

そんな風に感心しながらも見ていると、遂に最後の的が破壊される。

 

「どうだった?」

 

「特に問題ないな。強いて言うなら両攻撃をした後に弧月を使おうとすると若干使いにくいな」

 

「なら極力両攻撃はしなくて良い。両攻撃をするのは腕を斬られてからにしてくれ」

 

辻本来のスタイルを崩しちゃ本末転倒だからな。それだったら無理を強いるつもりはない。

 

「わかった。それでこれからは例のトレーニングプログラムか?」

 

「ああ。予定としては全員が中距離の訓練、近接2人中距離1人の訓練、近接1人中距離2人の訓練をやっていきたいと思う」

 

「それで近距離での連携についてだが……」

 

「安心しろ。近距離3人の訓練はお前が照屋と話せるようになってからにする」

 

「済まん……」

 

「別に構わない」

 

それ以前の話として近距離3人の連携訓練をするつもりはなかったし。

 

理由は6月のランク戦までには間に合わないだろうからだ。以前から照屋と2人で攻撃手の連携をやっているが結構難しい。それが3人となれば難易度は跳ね上がるに決まっている。

 

3人の訓練は辻のコミュ障が改善してから防衛任務などでやって行くようにしたい。

 

「とりあえず今日の近距離連携訓練は俺とお前、もしくは俺と照屋が近距離をやるから……っと照屋も来たな」

 

チラッと横を見るとトリガー構成を変えたのだろう照屋が再度トレーニングステージに現れたので辻と照屋の間に立つ。

 

「変えてきたな。どっちを入れたんだ?」

 

「今回はメテオラを入れました。ランク戦では相手によってハウンドを入れます」

 

「わかった。さっき俺と辻が話していたのを聞いていたと思うが今日から3人の連携訓練をやる。初めは俺と辻が近距離、お前が中距離担当で良いか?」

 

「問題ないです」

 

「なら良し。三上、さっき俺が渡したプログラムはインストール出来たか?」

 

『出来てるよ。太刀川隊と嵐山隊、どっちを先にやる?』

 

「嵐山隊で頼む」

 

嵐山隊は万能手3人に狙撃手とウチの隊と編成が似ているし。

 

『了解。それじゃあ起動……っと』

 

三上がそう口にするとさっきまであった住宅地や壊れた的が消えて、新しい住宅街が生まれる。さっきに比べて家の数も増えて巨大なマンションをある。

 

『準備完了だよ。これで私がスタートボタンを押せばトリオン兵が出てくるよ』

 

「了解した。じゃあ行くぞお前ら。訓練だからって油断しないで街の安全を守るべく全力でやれよ」

 

「「了解」」

 

俺の左右に立つ2人は落ち着いた声で頷く。どんな状況でも落ち着いているのはありがたいが、辻は距離が遠過ぎるから早めに改善してくれ。

 

「良し……じゃあ三上、頼む」

 

『了解。それじゃあ……』

 

『嵐山隊トレーニングプログラム、開始』

 

次の瞬間だった。ありとあらゆる場所に警戒区域で見る黒い門が生まれたかと思いきや大量のトリオン兵が出てきた。数から察するに結構いるだろう。

 

さて……1日姉弟ごっこをする事を約束してまで手に入れた物なんだ。思い切り使わせて貰おうか。

 

そう思いながら俺は辻と平行して近くにいるトリオン兵に向かって走り出した。


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