やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡はオフの日でも休まらない②

「あー、疲れた……」

 

夕方6時、漸くファッションショーから解放された俺は作戦室で一息吐く。ただトリガーを起動して少し動いただけなのに俺のライフは風前の灯火だ。

 

これというのもファンクラブの熱意の強さが理由だ。てっきり大した熱意はないものだと思っていたが殆どがガチ勢だったのには驚いた。

 

特に宇佐美と綾辻が別次元だ。

 

宇佐美はチームメイトの三上に交渉して俺自身のトリガーセットにオプションとしてトリオン製の眼鏡を備え付けようとしてくるし、綾辻はさっきのファッションショーの時に俺がお姫様抱っこをしたら俺の首に腕を絡めて思いっきり身を寄せて甘えてきたし、マジであの2人には注意だ。

 

そしてトリガーは肌身離さず持っていた方が良いだろう。でないとトリガー起動した瞬間、眼鏡を掛けていそうだし。

 

「ごめんねお兄ちゃん……私が口を滑らせたから……」

 

そんな事を考えていると隣に座っている三上は申し訳なさそうに俺を見て謝ってくる。別にそこまで怒ってないから気にしなくて良いんだがな……

 

「気にすんな。元を辿れば俺がお前にお兄ちゃんって呼ぶように言ったのが悪いんだし」

 

1番の原因はそれだ。いくら三上がポカをやらかしたとはいえ、俺がアホな要求をしたのが悪いのは間違いない。寧ろ三上はそんなアホな要求を呑んでくれるし感謝しかない。

 

「でも……怒ってるよね?」

 

それでも三上は納得しないままだ。これはアレだ。由比ヶ浜の時と同じで平行線の会話になりそうだ。経験者からすれば、ぶっちゃけアレは割と面倒だし、今回は早めに終わらせないとな。前回の由比ヶ浜と違って三上はチームメイトだ。このままの状態だとチームの活動に支障が出る可能性も考えないといけないし。

 

「だから気にしてないって。それでもお前が納得しないってなら、今後も俺に甘えてくれればそれで良い」

 

「え……そんな事で許してくれるの?」

 

「実際そこまで怒ってないし、お前が誰かに甘えたいように俺も甘えられたいし」

 

「……じゃあ、これからも甘えていいの?」

 

「ああ」

 

寧ろ推奨。メチャクチャ甘えて欲しいくらいだ。

 

今日1日三上と一緒に行動して俺は完全に三上に甘えられたいと思ってしまっている。前から三上に甘えられたい気持ちはあったがらお兄ちゃん呼びされてからはその気持ちが一層強くなったし。

 

「うん……ありがとうね、お兄ちゃん」

 

言うなり三上はコテンと俺の肩に頭を乗せてくる。たったそれだけの仕草なのに俺の心はドキドキしている。

 

(ヤバい……マジで破壊力が桁違いだ。宇佐美や綾辻からは以前、三上はオペレーター女子をメロメロにしていると聞いた事があるが、今の三上を見ていると納得だ)

 

三上の魅力には逆らえん。小町とはベクトルが違うが、三上もかなりの妹属性を持っている。メチャクチャ甘えられたいし甘やかしたい。

 

そう思っていると俺は思わず三上の頭を撫でていた。ヤバいと思い、手を離そうとするが……

 

「あっ……お兄、ちゃん……もっと」

 

無意識かどうかは知らないが三上がいきなりおねだりをしてきたので、手を離すことなく頭を撫でるのを再開する。

 

ダメだ……実の兄妹ではないとわかっているのに……

 

「お、兄ちゃん……撫で方上手……」

 

三上の甘え方が上手すぎて逆らう事が出来ない。つい実妹の小町にするような事をやってしまう。

 

こうして俺は三上の気が済むまで頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……今日は防衛任務もないし、ファッションショーで大分時間は潰れちまったがお前はどうすんだ?」

 

俺は未だに自身の肩に頭を乗せている三上に話しかける。

 

時刻は6時半。それはつまり三上の頭を20分以上撫でていた事になる。まあ俺も癒されていたから退屈とは思わなかったけど。

 

「今の所予定はないけど……お兄ちゃんは?家に帰ってご飯を食べるの?」

 

「いや、今日はお袋は仕事で小町も9時まで塾だから外食だな」

 

流石に今から家に帰って飯を作ると8時を過ぎそうだ。流石にそれは怠いし、ボーダーの食堂か帰りに通るレストランでの飯になるだろう。

 

「っても、まだ腹は減ってないし個人ランク戦で少々運動してから夕飯だな」

 

「あ、じゃあ私も行っていい?お兄ちゃんがランク戦をしている所を見たいし」

 

「別に構わないぞ……あ、でもランク戦の時は眼鏡を外して良いか?もしも乱反射をする場合、途中で眼鏡が邪魔になりそうだし」

 

アレだけ高速移動をしたら眼鏡は顔から外れるだろう。場合によっては集中力が切れる可能性もあるし外しておきたい。

 

「あ、そっか。それなら仕方ないね」

 

三上は了承してくれた。良かった、これで目立たずに済む。今言った理由も嘘ではないが、1番の理由はファンクラブに見つかったら面倒な事になりそうだからだ。

 

「悪いな。じゃあ行こうぜ」

 

「あ、待ってお兄ちゃん」

 

そう言って伊達メガネを外して作戦室を出ると、三上が慌てた声を出しながら付いてきた。可愛いなぁ……

 

 

 

 

個人ランク戦のロビーに着くと、いつものように大量のC級隊員が巨大なモニターで試合を見ていた。今やってるのは太刀川さんと風間さんの2人とボーダートップクラスの攻撃手だった。

 

試合を見ると30本勝負で丁度今終了したようだ。19ー11で太刀川さんの勝利だ。太刀川さん相手に11本を取るとはな……

 

「凄えな」

 

シンプルな感想しか言えなかった。あの領域に届くまでどれほどの時間がかかるのだろうかわからない。

 

「そうだね。そういえはお兄ちゃんは太刀川さんと模擬戦したって言ってたけど、どのくらい勝てたの?」

 

「500回以上やって4本だけ」

 

「ええっ!お兄ちゃんも決して弱くないのに?!」

 

「まあな。それと大声でお兄ちゃんは止めてくれ」

 

幸いそこまで大きくなかったし、顔見知りはしなかったので問題ないが次も安全とは限らないし。

 

「あっ……ご、ごめんね」

 

「別に構わない。それよりも俺も対戦相手を探さな「ヒッキー!」この声は……」

 

俺のことをヒッキーと呼ぶ奴なんざ1人しかいない。顔を上げると個人ランク戦のブースの一室から由比ヶ浜が出てきてこちらにやって来る。

 

「由比ヶ浜か。何か用か?まさかと思うが俺とランク戦か?」

 

流石にそれはないと思うが。

 

「いやいや!ヒッキーに挑んでも負けるだけだから!……そうじゃなくて!あんまり勝てないの!だからアドバイス頂戴!」

 

「アドバイスねぇ……ちなみにポイントはどれ位あんだよ?」

 

「えーっと……1165点」

 

由比ヶ浜が手の甲を見ながらそう言ってくる。1165点か。

 

由比ヶ浜が入隊したのは昨日で、受けた訓練は戦闘訓練、地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練の4つだ。

 

どの訓練も満点を取れば20点貰える。つまり1回の合同訓練で貰えるポイントは最高で80点だ。

 

昨日由比ヶ浜の訓練を見たが殆どがそこそこの記録だったので、昨日の訓練で貰えたポイントは大体40点前後だろう。それで今は1165点。入隊時に1000ポイントなので由比ヶ浜がランク戦で稼いだポイントは大体……

 

1165ー1000ー40で125点位だろう。

 

「昨日今日で100点ちょい稼げれば十分だと思うが?」

 

今のペースで行けば6月までにB級に上がれると思う。そんな由比ヶ浜に対してアドバイスは必要ないと思うのが俺の意見だ。

 

「そうじゃないの!さっきまでは1200を超えてたんだけど、1500以上の相手に挑んだの」

 

「それで?」

 

「私が撃ったら殆どが家を盾にして攻撃を防ぐの。それで相手を探していたら後ろから襲われて……」

 

あー、なるほどな。

 

「一応聞くがお前が負けた時に戦った相手は全員攻撃手か?」

 

「え?うん、そうだよ」

 

やっぱりな……

 

B級になればシールドを使えるが、C級は武器トリガーは1つしかセット出来ない。

 

つまりC級の攻撃手はシールド無しで敵に突っ込まないといけないのだ。攻撃手同士が戦うならともかく、互いにシールド抜きで戦うなら銃手が有利なのだ。

 

よってC級の攻撃手が銃手に挑む時は建物を盾にして近付くのが基本だ。俺もC級時代は状況によっては建物を盾にしたり待ち伏せをした事があるからな。

 

そして由比ヶ浜は案の定銃手対策をしている攻撃手に負けたのだろう。

 

本来なら自分で対策をしてこそのランク戦だが、少しくらいならアドバイスをしても良いだろう。

 

「じゃあ1つだけアドバイスをしてやる。その前に聞くがお前が使ってる武器ってハウンドだよな?」

 

「そうだよ」

 

「なら敵が建物の後ろに隠れたりして見えなくなったらハウンドを空に撃ち上げてみろ」

 

「何で?」

 

「ハウンドは自動追尾する弾だから空中に撃ち上げたら敵のいる方向に飛んでいく。そうすれば敵の位置は大体わかるから後ろから襲われるってのは少なくなるぞ」

 

これは実体験から得たやり方だ。俺も建物の後ろに居たら真上からハウンドが降ってきてビビったからな。

 

「あ、うんわかった。ありがとうヒッキー!」

 

「それは構わないから大声でヒッキー呼びは止めろ?」

 

「えー、何で?」

 

恥ずかしいからに決まってんだろうが。三上のお兄ちゃん呼びに比べたら大分マシだが、他所でそのアダ名は止めて欲しい。

 

そう思ったが言うのを止めた。理由としては由比ヶ浜の顔を見る限り本気で理由がわかってないようだからだ。間違いない、こいつはアホの子だ。

 

「もう良い……それよりも早く実践してこい」

 

「うんわかった!またねヒッキー!」

 

だから大声でヒッキー呼びは止めろ。ヒッキー呼びはともかく大声は止めてくれ。

 

内心ため息を吐きながら由比ヶ浜が再度ブースに入るのを見送った俺は立ち上がる。

 

「さて……俺も適当に戦ってくるか」

 

「うん。見てるから頑張ってね、お兄ちゃん」

 

「ああ」

 

三上にお兄ちゃんと呼ばれて幸せな気分になりながらブースに入る。やっぱりあの事故は起こって正解だったな。でなきゃ三上にお兄ちゃん呼びされる事はなかっただろうし。

 

そう思いながらブースの中にあるパネルを起動してみる。するとそこにはトリガーの名前とその横にポイントが表記されている。

 

(さて……誰に挑むか。現時点で4000以上の隊員は10人。内2人は20000超えをしてるがこれは太刀川さんと風間さんだろう)

 

この2人とは止めておこう。瞬殺されるのがオチだ。

 

そして弧月使いも止めとこう。先週は弧月以外の相手とは一切戦わなかったし、久しぶりに弧月使い以外とも戦いたいし。

 

となると俺が選べるのは4人。さて、誰にするか……

 

そこまで考えている時だった。俺のブースに対戦申請が来た。誰かと思って見てみればパネルには『スコーピオン 4158』と表示されていた。

 

つまり俺が戦おうと候補に入れていた人間の1人だ。しかしまさか申請されるとは思わなかった。俺の個人ポイントは6257。申請をしてきた奴とは2000以上離れている。普通は4〜5000代を狙ってくるかと思っていたのだが、スコーピオン使いと戦いたかったのか?

 

(まあ申請を拒否する理由もないし受諾するか)

 

そう思いながら受諾ボタンを押すと自身の身体が光に包まれる。

 

『対戦ステージ、市街地A 個人ランク戦10本勝負、開始』

 

そして気が付いた時にはいつものように仮想空間に立っていた。

 

視界の先にいるのは1人の女子。俺はその女子に心当たりがあって驚きの感情が沸き上がる。

 

(こいつ……戦闘訓練で歴代最高の記録を出した鶴見留美だったか……)

 

まさか大型ルーキーに挑まれるとは思いもよらなかった。余程自信があるのだろう。

 

しかし俺が1番驚いている理由はそれじゃない。1番驚いているのは……

 

(な、何でスーツを着ているんだ?!)

 

対戦相手の着ている隊服についてだ。鶴見が着ている隊服は真っ黒のスーツだ。それこそ式典とかでも使えそうな雰囲気を醸し出しているスーツだ。

 

(確か鶴見は二宮さんにスカウトをされたって聞いたが……って事はあの隊服、二宮さんが考えたのか?)

 

わからん。何故スーツにする必要がある。これ絶対に浮くだろ。アレか?二宮さんってエージェントとかに憧れているのか?

 

そんな事を考えている時だった。鶴見の奴がいきなりスコーピオンを出してこちらに突っ込んでくる。

 

何も言わずに不意打ちかよ……っと、一瞬思ったが、既に開始の合図が出てる時点で不意打ちも何もないな。

 

そう判断した俺は迎撃の構えを取ろうとすると、向こうは足元にグラスホッパーを設置して俺の真横に跳ぶ。

 

チラッと横を見ると再度グラスホッパーを設置してこちらに詰め寄り袈裟斬りを放ってくるので後ろに跳んで回避する。速いっちゃ速いが対処出来ない速さじゃない。

 

そして俺は後ろに下がると同時に……

 

「ハウンド」

 

主トリガーのハウンドを鶴見の顔面に向けて放つ。対する鶴見はシールドでそれを防ぐ。もちろんこれは予想の範疇だ。大型ルーキーなら余裕で対処出来るだろう。

 

(テレポーター)

 

そう思いながら俺は副トリガーのテレポーターを起動して鶴見の真横に移動する。ハウンドを放ったのはテレポーターを使う際に視線の向きを読まれない為だ。

 

ハウンドを防いでいた鶴見は急に横に現れた俺を見て驚きを露わにするが一歩遅い。反撃しようとする前に主トリガーのスコーピオンで首を刎ねた。

 

すると鶴見が光に包まれて空に飛んで行き、それと同時にブースのマットの上に叩きつけられる。先ずはこちらが1本だ。

 

 

一度深呼吸をして息を整えていると再度光に包まれて仮想空間に飛ばされる。正面を見ると鶴見が居て、スコーピオンを出しながらジリジリと近寄っている。さっきとは違って随分慎重な姿勢だな。

 

これは待ってても来ないだろうし俺から行くか。そう判断するや否や俺はスコーピオンを出して一直線に突っ込み、先程の鶴見同様袈裟斬りを放つ。

 

対する鶴見は身を屈めてそれを回避するや否やスコーピオンを俺の脇腹目掛けて振るってくる。モロに受けたら負けるので腹の前にシールドを展開する。

 

スコーピオンとシールドが衝突すると鈍い音が聞こえ、シールドにヒビが入る。どうやら鶴見のトリオン量も結構あるのだろう。

 

しかしシールドは直ぐに壊れる訳ではないので体勢を立て直す時間はある。俺は一歩バックステップをして後ろに下がるや否や、同じタイミングでシールドを叩き割った鶴見のスコーピオンを回避して、鶴見の頭の上にグラスホッパーを設置する。

 

俺の袈裟斬りを回避する際に身を屈めた鶴見はスコーピオンを振るった後に、身体を起こそうとしたが……

 

「っ……!」

 

次の瞬間、頭上に設置したグラスホッパーに頭が触れて、鶴見の頭は地面に叩きつけられる。

 

そんな隙を俺が逃す筈もなく……

 

「2本目、っと」

 

そのまま鶴見の首を刎ねる。それによって鶴見の身体は再度光に包まれて空に飛んで行き、俺はブースのマットの上に叩きつけられる。

 

確かに鶴見は強い。入隊して1日でB級に上がるのは凄いと思うし、たった1日でグラスホッパーを使うのは見事だ。

 

しかしそれだけだ。実戦慣れしてなく馬鹿正直過ぎる。スタイルが俺に似ているからって理由もあるが動きは簡単に読める。

 

将来はわからないが、今の時点で俺が負ける確率は殆ど0だろう。

 

そう思いながら3戦目を始める為に深呼吸をして仮想空間に飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分弱……

 

「次で最後だな……」

 

ランク戦のブースのマットに叩きつけられながらそう呟く。10本勝負で丁度今9本目が終了した。今のところ俺が全部勝ち星を挙げている。

 

しかし俺は不気味な気分になっているのを理解している。戦績だけ見れば俺の圧勝だが、余りに勝った気になれてない。

 

理由は簡単、鶴見の奴、俺に斬られる度に俺がやった技を実践してきて不気味だからだ。勿論向こうからすれば一度見ただけの技だから今の所は未熟だ。よって全て対処出来たが、どの技も初めてにしては出来が良くて驚いた。

 

今回鶴見が俺に勝負を吹っ掛けたのは勝つ為ではなく俺の技を盗む為だろう。戦闘スタイルも似てるし、戦っている最中も俺を観察するような目を向けてくる時があったし。

 

(入隊して1日でB級に上がっただけじゃなく、技術を盗もうとする……冗談抜きで末恐ろしいな……)

 

こんな小学生が本当にいるのか?悪の組織の作った薬を飲んで小学生の姿になった高校生とかじゃないよな?

 

そんなアホな事を考えながら再び仮想空間に飛ばされる。向かい合う鶴見は冷たい表情をしながらも俺をジッと見てくる。

 

(さて……最後はどんな手を使ってくるんだ?)

 

そう思いながら鶴見を見ると鶴見は一直線に突っ込んでくるので、迎撃するべく副トリガーのハウンドを放つ。当てることが最優先の弾丸だ。

 

すると……

 

「グラスホッパー」

 

言うなり足元にグラスホッパーを設置してジャンプする事で、ハウンドの有効半径から逃れる。

 

そして……

 

(これは?!乱反射だと?!)

 

俺の周囲に大量のグラスホッパーが設置されるのを理解する。何故こいつが乱反射を?!鶴見には使ってないので自分で編み出したのか?

 

(いや……昨日の辻とのランク戦で俺が使ったのを見たからだろう。でなきゃもっと早く使ってる筈だ)

 

しかし乱反射を使ってくるのは予想外だ。どんだけ貪欲なんだこいつは?

 

半ば呆れる中、鶴見はグラスホッパーを踏んで俺に近寄り、周囲にあるグラスホッパーを踏んで高速移動をする。俺以外が使うのは初めて見るが思った以上に様になっている。おそらく鶴見は昨日の内にB級に上がって練習したのだろう。初回でここまで出来たら天才を通り越して鬼才だ。

 

が……甘い。開発した俺が何の対策もしてない訳ないだろうが。

 

そう思いながら俺は自身の体内から大量に分割したスコーピオンを針鼠の如く周囲に突き出す。それによってスコーピオンは当然グラスホッパーとグラスホッパーの間にも伸びて……

 

「……っ!」

 

乱反射の途中に急な回避など出来るはずもなく、鶴見の全身をスコーピオンの刃が蹂躙する。それによって大量のトリオンが漏れ出す。

 

しかしまだ倒すには至っていない。どうやら頭と心臓には当たっていないようだ。

 

(まあこれだけトリオンを削れば何も出来ないだろう。これで終わりだ)

 

そう思いながら俺はスコーピオンでそのまま首を刎ねる。と、同時に鶴見の身体は光に包まれ……

 

『10本勝負終了、勝者比企谷八幡』

 

そんな言葉と共に俺はブースのマットの上に叩きつけられる。10ー0……結果だけ見れば圧勝だがどうにも腑に落ちないなぁ……

 

そんな事を考えながらブースから出ると……

 

 

 

 

 

「げっ……二宮さんいるじゃねぇか」

 

そこには鶴見同様真っ黒なスーツを着た二宮さんがこちらを見ていた。

 

それを認識するや否や嫌な予感に襲われた。

 

……もしかして観察されていたのか?


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