やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡はオフの日でも休まらない①

月曜日

 

それはありとあらゆる人間が忌避する曜日だろう。理由は簡単。一週間の始まりだからだ。学生には学校が、社会人には会社があるが月曜日に家を出るのは苦痛だろう。前日の日曜日は「あー、明日から会社だぁ〜」とか「学校怠ぃ〜」と愚痴る声が世界中から聞こえるだろう。

 

かく言う俺も同じ考えだ。しかも俺のクラスは月曜日から大嫌いな数学があるし……

 

「今直ぐ帰りてぇ……」

 

「いやいやお兄ちゃん。気持ちはわかるけど頑張りなよ?新しいチームメイトも手に入れてこれからって時にやる気を出さないでどうするのさ?」

 

おっと口に出していたようだ。自転車の後ろに乗っている小町の呆れ声によって注意される。

 

「いや悪い悪い……っと、着いたぞ」

 

いつの間にか小町の通う中学に到着していた。それを認識するや否や小町は自転車から降りて籠に入ってある鞄を取り敬礼をする。

 

「行ってくるであります!ありがとね」

 

言いながら小町は校門をくぐって校舎の方に走り出す。それを見送った俺はため息を1つ吐いて総武高に向けて自転車を漕ぎ始める。

 

「あー、マジで怠い……」

 

思わず愚痴ってしまうが仕方ないだろう。先週はガチで忙しかったのだ。

 

退院して直ぐなのにチームの結成をしたり、チームメイトの勧誘に勤しんだり、防衛任務をしたり、ブランクを取り戻し尚且つ実力を上げる為に1000回以上模擬戦をしたり、来月のチームランク戦に備えて1人目の戦闘員のチームメイトの照屋と連携したり、正式入隊日に辻とランク戦をしたりとマジで忙しかった。

 

おかげで昨日は早く寝たにもかかわらず疲れが取れておらず、今も若干疲れている。

 

(こんなに動いたのは人生で初めてだからな……マジで学校を休むか?いや……ウチの学校は出席に煩いからな。事故の時はともかくズル休みをするのはもっと怠くなりそうだから止めておこう)

 

マジで疲れてるし、どっかに癒しの泉でもねぇかなぁ……

 

ため息を吐きながら自転車を漕いでいると視界の先に知った顔がいたので俺は自転車の速度を上げて彼女の横に並ぶ。

 

「よっす三上」

 

チームメイトの三上歌歩に話しかける。すると三上は今俺に気が付いたのか横を向き……

 

「あっ……おはよう。お、お兄ちゃん……」

 

若干顔を赤くして恥じらいながらも笑顔を見せてくる。と、同時に俺は自分の中の何かが溢れ出るのを理解する。

 

(ヤベェ……!昨日も聞いたが、三上からお兄ちゃんって呼ばれるとガチで幸せになるな……!)

 

昨日辻とランク戦をする際に俺は事前に三上と賭けをしたのだ。賭けの内容は……

 

俺が負けて辻を引き入れることに失敗したら2週間ボーダーでは伊達メガネを掛けて過ごし……

 

逆に俺が勝って辻を引き入れることに成功したら三上は俺を今後お兄ちゃんと呼ぶ

 

って内容だ。結果、俺は勝って辻を引き入れることに成功したので三上は俺をお兄ちゃんと呼ぶようになった。

 

なってお兄ちゃんと呼ばれるようになったが、ガチで破壊力がヤバい。しかも恥じらいながら、それでありながら何処か嬉しそうに言ってくるのだ。男として幸せを感じるのは普通、感じない奴は間違いなくホモだと断言出来る。

 

「お、おう、おはよう。いつものように乗ってくか?」

 

「あ、うん。いつもありがとね、お兄ちゃん」

 

俺がそう尋ねると三上は小さく頷いて、慣れた動きで俺の後ろに乗って腹に手を回して抱きついてくる。

 

(ダメだ……マジで三上可愛過ぎる。今直ぐハグしたい)

 

まあしたらセクハラだからしないが、万が一いや……億が一三上がハグしても良いと言ったら速攻でする自信がある。

 

そんな有り得ない未来を想像しながら自転車を漕ぐのを再開する。三上を後ろに乗せて登校するのは初めてではないが、お兄ちゃんと呼ばれたからか初めて乗せた時のような緊張がある。

 

暫くの間自転車を漕いでいる時だった。

 

「ねぇお兄ちゃん。お願いがあるんだけど良いかな?」

 

後ろから抱きついている三上がそんな事を言ってくる。三上からのお願い……何でも聞いてしまうそうで恐ろしいな。

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「うん、あのね……学校でお兄ちゃんって呼ぶのは、その……」

 

「恥ずかしいから勘弁してくれって頼みなら構わないぞ?」

 

「あ……う、うん。ありがとう」

 

寧ろ俺から頼もうとした時だった所だ。教室で三上にお兄ちゃんって呼ばれてみろ。クラスの連中に『クラスのマドンナに兄妹プレイを強いる変態野郎』って扱いを受けそうだし。

 

「気にすんな。それと俺をお兄ちゃんって呼ぶのが嫌なら呼ばなくて良いぞ?」

 

三上にお兄ちゃんって呼ばれるのは気分が良いが、三上が嫌なら呼ばなくても良いと思ってる。

 

「え?!だ、大丈夫だよ!私も、お兄ちゃんって呼ぶの……好きだしね」

 

「え?マジで?」

 

これは予想外だ。賭けに乗ったからそこまで嫌じゃないのは知っていたがら、好きと言われるとは思わなかったぞ。

 

「うん。私、家では長女なんだけど、偶にお兄ちゃんやお姉ちゃんがいたら甘えたいなぁって思っちゃうんだ。……あ!お兄ちゃんが嫌なら甘えないからね?」

 

三上は誰かに甘えたいと言うが、俺が嫌なら甘えないって慌てて言い出す。それを聞いた俺は三上に呆れる。お兄ちゃんが嫌なら甘えない?何を言ってんだこいつは?

 

それを認識すると俺の口を開く。

 

「三上」

 

「え?何?」

 

「良いことを教えてやる。妹ってのはな……兄に思い切り甘えて良いんだよ。お前が甘えたいなら、俺で良ければ好きなだけ甘えて構わない」

 

 

というか三上に甘えられたい。小町とは違うベクトルの妹力を持っている三上に思い切り甘えられたい。

 

「……良いの?」

 

「ああ」

 

「そっか……じゃあお兄ちゃんに甘えるけど、よろしくね」

 

言いながら後ろに乗っている三上は抱きしめる力を強める。

 

(あ、ヤバい。自分から言っといてアレだが、三上の甘える攻撃は破壊力が桁違いな気がする)

 

今さっき俺に礼を言ってきたが、その時の声が既に甘い声だったし。これは眠れる竜を起こしてしまったか?

 

しかし一度言ってしまった手前、断ることなど出来ず……

 

「ああ、好きなだけ甘えろ」

 

もうどうにでもなれ。三上に甘えられて悶死するなら本望と思っちまったし、好きに甘えさせよう。

 

「うん。どうもありがとうお兄ちゃん」

 

三上にそう言われていると、いつの間にかさっきまであった疲れは薄れていた。三上の甘える攻撃、恐るべし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事もあって退屈な授業を余裕でこなすこと6時間、漸く授業も終わったので俺は立ち上がり帰りの支度をする。同時に隣に座る三上も立ち上がり俺と同じように帰りの支度をしながら話しかけてくる。

 

「今日は防衛任務はないけどどうするの?」

 

「一応基地には顔を出すつもりだ。っても、今日は照屋も辻も居ないから個人ランク戦をする感じだな」

 

照屋は家の用事、辻は昨日ウチの隊に正式に入隊したが今週一週間のシフトは5月の初めに申請した個人の時のシフトで、今日は防衛任務で居ない。よって今日は連携の訓練が出来ないのだ。

 

「そうなんだ。私も行くから一緒に行こ?」

 

可愛らしく首を傾げながら誘ってくる。それを見た俺は顔が熱くなるのを理解する。

 

「あ、ああ。っと、その前に手洗いに行きたいから先に駐輪場で待っててくれ」

 

そう言って俺は三上の返事を聞かずに手洗いに行った。そして息を吐く。

 

(三上のお願い破壊力あり過ぎだろ?)

 

しかも狙ってやってないのがより一層恐ろしい。普通にわかるが、アレは素でやっている。純粋な存在は時として恐ろしい存在になるのは理解していたが、ここまで恐ろしい存在になるとは思わなかった。とりあえず深呼吸をしてドキドキを無くそう。

 

それから30秒間、ゆっくりと深呼吸をした結果、大分ドキドキは収まった。これなら問題なく三上と面を合わせられるだろう。……まあ、すぐにドキドキすると思うけど。

 

そんな事を考えながらトイレを出て昇降口に向かう。下駄箱で靴を履き替えて駐輪場に向かうとそこには三上がいて、宇佐美と綾辻の3人で駄弁っていた。

 

俺が3人の元に近付こうとすると向こうも俺に気付いて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おかえりお兄ちゃん」

 

三上が失言をぶちかました。

 

それを聞いた宇佐美と綾辻は一瞬で無表情となり、互いに顔を見合わせるや否や……

 

「「えぇぇぇぇっ?!」」

 

思い切り叫び声を上げる。三上ェ……お前学校が終わって校舎を出たからって完全に油断しただろ?

 

すると三上も自分の失言に気が付いたのか顔を真っ赤にし始める。

 

「えっ……あっ……こ、これは違うの!」

 

慌てて弁明をするが時すでに遅く、宇佐美と綾辻は勢いよく俺に詰め寄ってくる。

 

「どういう事ハッチ君?!何で歌歩ちゃんにお兄ちゃんって呼ばれてるの?!」

 

「何があったの?!」

 

2人の勢いは凄まじく止められるものではなかった。これは恥ずかしいが正直に話した方が良いだろう。

 

「実はだな……」

 

そう前置きしてから昨日あった賭けについて全て話した。

 

全て話し終えた俺は2人の顔を見ると……

 

「ほうほう……ハッチ君中々良い趣味してるねー」

 

「歌歩ちゃんにお兄ちゃん呼びされるなんて羨ましいな」

 

それはもう良い笑顔で俺と三上を見ていた。予想はしていたがマジで恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。

 

「うぅ……ごめんねお兄ちゃん。学校が終わったから油断しちゃった……」

 

三上は顔を真っ赤にしながら謝る。今更だから怒るつもりはない。三上にお兄ちゃん呼びを要求した時からこうなる可能性はあると予想はしていたし。

 

てか三上よ。バレたからって2人の前でお兄ちゃん呼びは勘弁してくれ。物凄い良い笑顔で見てきてるし。

 

「別に怒ってないから気にするな。それよりもお前ら、頼むからこの件は黙っていてくれ。口止料が欲しいならスイパラぐらいなら奢る」

 

大体5000円近く飛ぶかもしれないが、それでこの件が他の連中に知られないなら安いものだ。

 

同時に2人の顔が更に良い笑顔になる。

 

「んー……スイパラは良いや。代わりにハッチ君にはやって欲しい事があるんだけど」

 

聞きたくない。聞くまでもなく(俺にとって)碌でもない事である事は簡単に予想がつくし。

 

しかし……

 

「嫌な予感しかしないが、一応聞いておこう」

 

背に腹はかえられない。無駄に逆らわず宇佐美達の要求を呑もう。多少のことなら我慢してやる。

 

「うん。それはね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後……

 

「じゃあハッチ君、次はこのトリガーね」

 

ボーダー基地のとある一室にて、宇佐美が満面の笑みで俺にトリガーを差し出してくる。周囲には大量の女子がいる。その殆どがオペレーターの隊服を着ている女子である。

 

「……はいはい。トリガー起動」

 

言うなりトリガーを起動すると身体が光に包まれて俺の身体は生身からトリオン体になる。

 

ただしそのトリオン体に問題があり、今の俺が身に纏っているのは……

 

『きゃぁぁぁぁぁっ!』

 

 

 

 

 

 

白銀の鎧だった。それによって辺りにいる女子は叫び声を上げて写真を撮り始める。

 

「良いねー!眼鏡の騎士ってのも中々良いじゃん!」

 

そう言いながら写真を撮るのは眼鏡を掛けた俺のファンクラブの会長である宇佐美だ。

 

彼女が口止料として俺に要求したのは『伊達メガネを掛けた状態のまま様々な姿のトリオン体になる事』だった。

 

よって俺は今、昔オペレーター達が開発室の人とノリで作ったらしい様々な衣装のトリオン体が収まった護身用トリガーを何度も起動して色々なポーズを取らされている。

 

ちなみに今までに体験したのは、タキシードに袴、中華服にライダースーツと様々た。

 

本来なら絶対に却下したい位嫌だが、三上からお兄ちゃん呼びされている事がボーダーで知られるのはもっと嫌だ。女子の情報網が恐ろしいのは昔から有名だし、口止しなければ絶対に広がるだろう。

 

よって俺は恥を捨ててコスプレショーの被写体になっているのだ。マジで新しい黒歴史の誕生だな……全然嬉しくないけど。

 

てかマジで俺のファンクラブの会員30人以上居たんだな。てっきりガセかと思ったがマジだった。

 

(クソッ……マジで死にてえ。いっそ殺してくれ)

 

冗談抜きでくっ殺状態になってしまっている。てか三上よ、申し訳なさそうにしているならこいつらを止めてくれ。

 

そんなアホな事を考えていると綾辻がとんでもない事を口にしてくる。

 

「ねぇ比企谷君。折角騎士の格好になったんだしアレをやってみてくれない?」

 

「アレってなんだよ?」

 

物凄く嫌な予感しかしないが聞かないと始まらないので渋々聞いてみる。

 

「ほら……騎士が女性の手にキスをする「頼む!それはマジで勘弁してください!」えー……」

 

それはガチで無理だ。恥ずか死ぬ自信がある。それをやるならお兄ちゃん呼びがバレる方がまだマシだ。

 

「大体手とはいえお前だって手にキスなんて嫌だろうが」

 

「え?別に嫌じゃないよ」

 

即答か?!てか何で眼鏡を掛けると俺はファンクラブが出来るくらいイケメンになんだよ?!アレか?!宇佐美の眼鏡には浄化の力があるのか?!

 

「とりあえずそれはマジで勘弁してくれ。俺が悶死する」

 

そう言って俺は頭を下げて頼み込む。こればっかりは何としても認めて貰わないといけない。

 

暫くの間頭を下げていると……

 

「うーん。じゃあいいよ」

 

すると綾辻は頭上から了承の意を口にしてくれた。良かった……これで悶死しないで済む……

 

 

内心感謝しながら頭を上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ代わりにお姫様抱っこをお願い。ファンクラブのメンバーもこのファッションショーをやると決めてから、伊達メガネを掛けて騎士の格好の比企谷君にされたいって言ってたし」

 

………OH

 

その後の記憶は曖昧だが、新たな黒歴史が誕生した事だけはハッキリと覚えていた。

 




パラメーター

比企谷八幡(左=入隊時、右=辻を勧誘した時点)

PRFILE

ポジション:アタッカー→アタッカー
年齢:15歳→15歳
誕生日:8月8日
身長:169cm→171cm
血液型:O型
星座:ペンギン座
職業:中学生→高校生
好きなもの:妹、金、MAXコーヒー、平穏

PARAMETR

トリオン 7→8
攻撃 6→8
防御・援護 5→6(防御は弧月が相手なら9)
機動 6→10
技術 5→7
射程 1→3
指揮 4→5
特殊戦術 2→4

TOTAL36→51



カバー裏的なヤツ

メガネは勘弁 はちまん

ボーダーに入隊する前はコミュ障の塊だったが、環境の変化によって強制的に矯正された男で、普段は余りやる気を出さないが、やると決めたら太刀川に500回以上斬られることも厭わない何だかんだ真面目な男でもある。メガネを掛けると目の腐りが消えてイケメンとなり女子は狂喜乱舞する。それを知った根付さんはとりまる、嵐山と組ませてアイドルデビューをさせる事も視野に入れている事をこいつは知らない。最近の悩みはみかみかのお兄ちゃん呼びに悶えている事と、太刀川に斬られまくった事によりドMになりかけている事。

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