やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡は最強の戦闘員と戦う

「ほーん。そんじゃ今回のリハビリは、辻との戦いに備えて弧月1本でやって欲しいんだな?」

 

「はい。大丈夫っすか?」

 

太刀川隊作戦室にて太刀川さんは餅を食べながら俺の話を聞いている。

 

俺は退院した後リハビリの相手として、国近先輩のゲーム繋がりからそこそこ交流のある太刀川さんに頼んだ。その際太刀川さんは条件付きで呑んでくれたのだ。やはり強者との戦いは得るものが多いから太刀川さんに頼んだのは間違いではないと思う。

 

(まあ条件が条件なんだがな……てか高校生に頼むことじゃない気がする)

 

 

閑話休題……

 

そして今、辻との戦いに備えて弧月1本で戦ってくれと頼み込んでいる。ちなみにまだ国近先輩が居ないからトレーニングステージは作れないので模擬戦は始めていない。

 

「別に良いぞ。偶には弧月1本でやるのも悪くないし」

 

太刀川さんは簡単に言うが、弧月を2本使うのは異常ですからね?

 

スコーピオンは軽いから2本同時に使う奴は結構いるが、弧月は結構重みがあり片手で扱うのは難しいのだ。だから弧月使いと戦うときは片腕を落とすのが基本なのだが太刀川さんは片手で普通に振るうからな。ボーダーで弧月を2本使うのは太刀川さんだけだし。

 

そんな事を考えていると……

 

「おー、比企谷君。お久しぶり〜」

 

「退院おめでとさん」

 

緩やかな声が聞こえたので顔を上げると太刀川隊射手の出水とオペレーターの国近先輩が挨拶をしてくる。

 

「どうもっす。お見舞いありがとうございます」

 

俺が入院している時には色々な人がお見舞いに来たが、国近先輩は俺とゲームをする為か割と見舞いに来た方だ。俺としても退屈な入院生活に刺激が与えくれたのは感謝しているが、負けたら泣くのは止めて欲しい。1回お袋に見られて言い訳が大変だったし。

 

「どういたしまして〜。話は太刀川さんから聞いてるよ〜。模擬戦が終わったら久しぶりにスマブラをやらない?」

 

国近先輩はそんな事を言ってくる。確かにゲームは楽しいし魅力的な誘いだが……

 

「すみません。今4時前ですけど6時に防衛任務があるんで厳しいっすね」

 

断らせて貰おう。

 

「でも2時間ぶっ続けで模擬戦をやる訳じゃないんだろうし、少しくらい出来んじゃね?」

 

出水はそう言ってくる。

 

「ああ。予定としては5時まで模擬戦をする事になってる」

 

「じゃあ出来るだろ?」

 

「無理だ。5時からはリハビリをする事を頼んだ際に太刀川さんに提示された条件をやらないといけないからな?」

 

「条件?なになに〜?」

 

「場合によっては協力するぜ」

 

俺がリハビリをする事を頼んだ際に太刀川さんに出された条件、それは……

 

 

 

 

 

 

「大学のレポートの手伝いだが、大丈夫か?」

 

大学のレポート課題の手伝いだ。電話で言われた時はドン引きしてしまった内容だった。

 

それを聞いた出水と国近先輩はこれ見よがしにため息を吐いて太刀川さんをジト目で見る。

 

「いやいや太刀川さん。俺達ならまだしも他の隊の人間、それも鍛える条件にレポートってのは無いでしょ?」

 

その口振りから察するに出水や国近先輩も手伝いの経験があるのだろう。

 

「いや比企谷って報告書書くのが上手いし」

 

「それは否定しないっすけど……」

 

「大丈夫だ。現役ボーダー最強の手ほどきを受けられるんだ。これで辻が手に入るならレポートなんて安いものだ」

 

渋る出水にそう言った。怠いが実力向上の為なら何でもやるつもりだ。風間さんからも形振り構わずにやれと説教を食らったし。

 

「ん?何で辻が出てくんだ?」

 

「ああ。実は……」

 

俺は出水と国近先輩にチームを結成した事、辻に目を付けて勧誘した事、入る条件としてランク戦で勝つ事など全てを話した。

 

「へぇ、お前もチームを組んだんだ。チームメイトはもう居るのか?」

 

「ああ、戦闘員は照屋、オペレーターには三上歌歩って奴がいる」

 

「ヘェ〜、みかみかをチームに入れたんだ〜。みかみか凄い良い子だから比企谷君運が良いね〜」

 

それは俺も同じ意見だ。ボーダーにはオペレーターが沢山いるが、三上は間違いなく当たりだろう。顔良し性格良し腕良し、欠点がないと言っても信じるくらい素晴らしいオペレーターだ。

 

「そうですね。事故った時に救急車を呼んだのがあいつなんですけど、そのおかげでチームに入れられたんで割りかし運が良いと思いますよ……っと、すみませんが国近先輩。そろそろ本題に入って貰っても良いですか?」

 

「ほーい。じゃあトレーニングステージを作るね」

 

国近先輩はおっとりした表情のまま、オペレーターデスクに向かいパソコンを操作し始める。

 

「良し。じゃあやるか。レポートを手伝って貰うんだし、しっかり模擬戦をしてやるから安心しろ」

 

「いや、前半の言葉で全然格好良くないですからね?」

 

立ち上がりながらそう口にする太刀川さんに対して出水が突っ込みを入れる。協力して貰う人間である以上強くは言えないがら高校生にレポートを頼むのは普通におかしいからなぁ……

 

そんな事を考えていると俺の身体は光に包まれた。例の仮想フィールドのトレーニングステージに転送されるのだろう。

 

 

 

 

そして気が付いた時には殺風景な空間ーーートレーニングステージにいた。向かいには太刀川さんがいるが、さっきと違って服装は漆黒のロングコートの戦闘服を纏っていた。

 

「そう言えばお前と戦うのは初めてだったな」

 

太刀川さんが弧月を出して両手で持って構えを取る。どうやら俺の要望通り弧月1本で戦ってくれるようだ。

 

「そうですね。よろしくお願いします」

 

太刀川さんと戦うのは初めてだが緊張している。しかし俺を責める事は出来ないと思う。相手はA級1位の隊長にして現役ボーダー隊員の中で最強を務める男だ。個人ポイントも唯一3万を超えている人だし、この試合が賭け試合なら俺に賭ける人がおらず、賭けそのものが中止になるだろう。

 

そんな事を考えていると……

 

『じゃあ頑張ってね〜。模擬戦開始〜』

 

国近先輩の何とも気の抜けた声が聞こえてくる。

 

その時だった。

 

「じゃ、行くぞ〜」

 

太刀川さんがノンビリとした口調でそう口にすると空気が変わった。太刀川さんの構えは特に変わってない。変わったのは表情だけだ。

 

しかし表情1つ変わっただけで俺の全身に刺すような殺気とプレッシャーが襲いかかってくる。さっきまでの太刀川さんも笑ってはいたがそれは国近先輩と同じでノンビリとした笑顔だったが、今の太刀川さんの笑顔は獲物を前にした餓狼が舌舐めずりをする時に浮かべるような笑みだった。

 

その笑顔に恐怖していると……

 

「……っ!」

 

いきなり殺気が強くなったので本能がヤバいと叫び、考える間もなく後ろに跳んだ。

 

と、同時にさっきまで俺がいた場所を太刀川さんの弧月が斬りつけていた。しかも完全に回避しきれずに俺の肩からはトリオンが漏れ出している。

 

「おっ、今の一撃で殺るつもりだったんだが、やるな」

 

太刀川さんは感心しているように言っているが、冷や汗が止まらない。

 

(ヤバい……マジで次元が違う。No.1攻撃手の肩書きは伊達じゃないようだ)

 

勝ち目なんて万に一つあるかないかだろう。となると守っていては勝てない。太刀川さんに主導権を握らせたら反撃のイメージが出来ずなす術なく負けるだろう。

 

そう判断した俺は……

 

(テレポーター!)

 

副トリガーのテレポーターを使って太刀川さんの懐に潜り込み、スコーピオンで斬りあげる。が……

 

「おっ、やる気充分じゃねぇか」

 

太刀川さんは軽いステップで1本下がり弧月でスコーピオンを受け止め、そのまま間髪入れずに鍔迫り合いの状態のまま体当たりをしてくる。

 

それによって耐久性の低いスコーピオンは砕け、俺は後ろに跳ぶが俺の胸中には驚きしかなかった。

 

瞬時に距離を詰められ懐に潜られても一切動揺しないメンタル、即座に防御する反応の速さ、防御から攻撃への切り替え速度。そのどれもが一級品だ。

 

吹き飛びながら俺は空中体勢を戻して地面に着地して前を見ると太刀川さんが高速で斬りかかってくる。

 

「ハウンド!」

 

言いながら副トリガーのハウンドを威力重視で3×3×3の27分割で太刀川さんに放し、同時に主トリガーのグラスホッパーを起動して太刀川さんの周囲に大量のグラスホッパーを設置する。

 

(未完成の技だが太刀川さん相手に妥協は厳禁だ。やるしかない……!)

 

そう思いながら俺は近くのグラスホッパーを踏んで跳び、その先ーーーハウンドを弧月でぶった切っている太刀川さんの近くにあるグラスホッパーを踏んで更に跳ぶ。

 

そして更にその先にあるグラスホッパーを踏んで、同じような事を繰り返す。跳びながらもグラスホッパーを設置して俺は太刀川さんの周囲を跳びまくる。

 

「おっ、中々面白いことをやってくれるな」

 

一方の太刀川さんはあちらこちらを見渡しながら楽しそうな表情を浮かべている。実際に知っていたが本当にバトルジャンキーだなこの人。

 

呆れながらもグラスホッパーを展開して跳びまくる。そして5秒くらい跳んだ時、遂に太刀川さんがグラスホッパーによる高速移動を見切れなくなったのか俺がいる場所と反対方向を見る。

 

(来た……ハウンド!)

 

この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。副トリガーのハウンドを分割せずに太刀川さんの頭に向けて放った。

 

しかし……

 

「甘いな」

 

太刀川さんは俺の方を向かず、前を向きながらも身を屈めてハウンドの一撃を回避する。

 

(何っ?!シールドで防がれるならまだしも見てない状態で回避するって……マジで化け物か?!)

 

そんな事を考えていると太刀川さんがこちらを見て獰猛な笑みを浮かべながら……

 

「残念だったな」

 

そのまま弧月を振るってきた。不意打ちが決まらず、それも防がれたのでなく見てない状態で回避されて動揺した俺は回避などする事が出来ず……

 

俺の胴体は真っ二つにされた。予想はしていたがやっぱり負けたか。

 

『比企谷ダウン』

 

国近先輩のおっとりした声が聞こえると同時に俺の戦闘体は元に戻る。やっぱり仮想戦闘モードはクソ便利だな。

 

「グラスホッパーを俺の周囲に大量展開して撹乱して隙を探り、隙を見つけたら大玉を叩き込む……中々良い作戦だったぞ。グラスホッパーをあんな風に使う奴は見たことないし」

 

そんな事を考えていると太刀川さんが楽しそうにしながら俺を褒めるが腑に落ちない点がある。

 

「太刀川さん、何で最後のハウンドを回避出来たんですか?」

 

防御されるならまだ納得がいくが、真後ろからの攻撃を回避されるとは予想が出来なかった。

 

「アレか?お前がグラスホッパーで俺の周りを囲んだ時、俺はお前が隙を突いて攻めてくるのがわかったから、ワザと隙を作ったんだよ。そしたら案の定お前が攻撃してきたって訳」

 

なるほど。あの時はグラスホッパーの制御に意識を割いていたから判断が付かなかったが、今考えてみたら少しあからさまだった気がする。

 

「それはわかりました。ですが何故回避出来たんですか?」

 

「お前は確実性を重視する人間だからな。不意打ちをするなら間違いなく『トリオン伝達脳』を破壊するべく首を狙ってくると思っただけだ。結果は大成功。確実性を重視する、それについては間違っちゃいないが、だからこそ回避出来たって訳だ」

 

確かに俺は首を狙う癖がある。首を落とせば即勝利だからな。しかしだからこそ読まれたって訳か。

 

それについては納得したが今回は相手が相手だし仕方ないと思ってしまう自分がいる。格上、それも現役ボーダー最強の男が対戦相手なんだし。

 

(まあ文句を言ってる場合じゃねぇ。次は首以外も狙っていくようにしよう)

 

そう思いながら俺はスコーピオンを出して……

 

「……もう1本、お願いします」

 

「おう、来い来い」

 

太刀川さんに一礼すると太刀川さんは楽しそうに弧月を構える。勝つのは今の実力じゃ無理だと思うがせめて一撃当ててやる。

 

そう強く決心しながら俺は太刀川さんに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後……

 

「お疲れ様〜」

 

「お疲れさん」

 

精神的に疲れ果てながらトレーニングステージから作戦室に戻ると国近先輩と出水が迎えてくれる。

 

「うっす……まさか50本やって1本も取れないとは思いませんでした」

 

結局俺は太刀川さんと50本やって1本も取れなかった。1本くらい取れるかと思ってはいたかのだが、やはりNo.1攻撃手は伊達じゃないようだ。

 

「でも終盤は太刀川さんの腕を斬ったり、20秒近く斬り合えたんだし結構成長したんじゃね?」

 

「そりゃアレだけやったからなぁ……っても直ぐにジリ貧になったけどな」

 

出水の言う通り、終盤辺りには太刀川さんの剣の軌道を大分見切れるようになり、ある程度は対処出来るようになった。

 

しかしある程度だけだ。多少対処出来ても、直ぐに身体がついてこなくなりジリ貧になって負けた。

 

「それは単純な実践不足だな。こればっかり経験を積まなきゃどうにもならないぞ」

 

太刀川さんが疲れを知らぬかのように餅を食べながらそう言ってくる。まあ太刀川さんが3年近く剣を振っているのに対し、俺は半年も振っていない。実践不足なのは間違いないだろう。

 

「そうですね。とりあえず今は少しずつ実戦経験を積んどきます」

 

1週間でどこまで出来るかはわからないがやるだけやってみるか。

 

「そうしとけ。実戦経験を積めばカンも良くなるからな。さて、とりあえず今日の訓練は終わったし……」

 

言うなり太刀川さんは鞄から紙を取り出し……

 

「レポートの手伝い、よろしく頼むぜ」

 

満面の笑みを浮かべながらサムズアップしてくる。一瞬太刀川さんの顔面に拳を叩き込みたいと思った俺は悪くないだろう。

 

とはいえ、模擬戦に付き合って貰ったし、明日以降も付き合って貰うので……

 

「了解っす」

 

内心ため息を吐きながら太刀川さんからレポート用紙を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかしレポートって大学が始まってから直ぐにやるんですね。俺はてっきり学期末にやるかと思いましたよ」

 

それから20分、現在俺は化学のレポートをやっている。

 

理系科目は苦手だから断ろうとしたが、俺に与えた仕事は太刀川さんが大学でやった実験の結果をレポートに纏める簡単な仕事だったので断れなかった。実験結果があるので作業の難易度は低いが、パソコンではなく手書きなので怠い。

 

「それは授業にもよるぞ。この科目は毎週実験があるから毎週レポートが出るが、経済の授業は学期末だけだぞ」

 

「そうなんですか。てか毎週レポートって鬼ですね?」

 

「だろ?だから模擬戦の報酬で手伝いを要求したんだよ」

 

「気持ちはわかりますけど、高校生にレポートを頼むのはどうかと思いますよ」

 

隣に座って俺同様に化学のレポートで実験手順を纏めている出水は呆れ顔を向けているが、同感だ。報酬を支払った俺が言うのもアレだが有り得ないだろうな。ちなみに国近先輩は「私はアホだから無理〜」と言って奥の部屋に行ってゲームに逃げた。俺もゲームに逃げたい。

 

そんな事を考えているとインターフォンが鳴りだす。どうやら来客のようだ。

 

誰かと思っていると……

 

『俺だ太刀川。レポートはちゃんとやってるだろうな?』

 

鋭い声が聞こえてくる。この声、間違いない……

 

「やべっ、風間さんじゃん!出水、比企谷。一回レポートを止めてテーブルから離れて国近の所に行け!お前らにやらせているのがバレたら殺される」

 

そんな事を言ってくる。まあ風間さんはクソ真面目だからな。絶対に怒るだろう。

 

とはいえクライアントの要求には従わないといけないので、俺は出水と一緒に立ち上がり奥の部屋に行く。

 

すると少ししてドアの開く音が聞こえて人の気配が近付いてくる。

 

「邪魔するぞ……どうやらちゃんとやっているようだな」

 

「そ、そりゃ大学生にもなったんだしちゃんとやってるさ」

 

いやいや。どの口が言っているんですか?

 

呆れながら2人がいる部屋をチラッと見ると風間さんが机に向かいレポートを確認し始める。

 

しかし何故か直ぐに額に青筋を浮かばせながら太刀川さんにレポートを見せる。

 

「太刀川、この実験手順と実験結果のまとめだが明らかに筆跡が違うが、これについて弁明はあるか?」

 

あ、俺と出水がやったヤツだ。

 

「あ、いや、風間さん。これに深い訳があってだな、話せばわかる」

 

俺と出水が2人がいる部屋を見ると太刀川さんが20cmくらい小さい先輩に対して冷や汗をダラダラ流していた。ヤバい、風間さんからはドス黒いオーラが見える。

 

ちなみに国近先輩は隣の部屋の光景から現実逃避しているのか、凄い集中してゲームをやっている。しかし冷や汗が垂れていることから完全に現実逃避するのは無理みたいだ。

 

「ほう……ならば聞かせて貰おうか。……そこで盗み見ている連中と一緒に」

 

俺達がいる方を向かずにそう言ってくる。どうやらバレていたようだ。まあステルス戦闘を得意とする部隊の隊長相手に覗き見してもバレるだろう。

 

俺と出水は顔を見合わせ、やがて観念しながら風間さんの前に立つ。

 

「出水はともかく比企谷もいるとは思わなかったぞ」

 

風間さんは予想外の物を見た表情を浮かべるも、直ぐに冷たい表情を浮かべる。

 

「おそらくお前も太刀川のレポートをやっていたのだろうが、お前にそんな余裕があるのか?ランク戦まで後1ヶ月、チームメイトの増員、部隊としての戦術の構築、ブランクを取り戻す事などやる事は山ほどあると思うが?」

 

「あ、いや……比企谷はブランクを取り戻す為に太刀川さんに協力を求めたんですけど、その報酬としてレポートの協力を要請されたんですよ」

 

「ほう……」

 

出水がそう言った瞬間、風間さんから湧き出ていたドス黒いオーラが増加する。ヤバい、震えが止まらない。

 

「あ、いや風間さん……俺はただ比企谷と出水に大学に上がった時に備えて予習をあげたんで……」

 

「言い訳は以上だな。これは俺の手には負えないから忍田本部長の所に連れて行くとしよう」

 

風間さんはそのまま太刀川さんに足払いを仕掛ける。太刀川さんがバランスを崩して地面に倒れるや否や風間さんは太刀川さんの襟首を掴み作戦室の外に出ようと歩き出す。

 

「ちょ!待ってくれ風間さん!忍田さんはマジで勘弁!マジで死んじゃ……!」

 

2人はそのまま作戦室から出て行き、扉が閉まると太刀川さんの声は一切聞こえなくなった。

 

「………」

 

「………」

 

作戦室には無言の空気が流れ、隣の部屋の国近先輩のゲームの音しか聞こえなくなった。

 

「……なぁ比企谷」

 

「……何だ出水?」

 

「……お前の防衛任務が始まるまで柚宇さんとゲームやらね?」

 

「……そうだな」

 

 

こうして俺は無言の空気の状態のまま出水と国近先輩の3人で集合時間までゲームをやった。空気が微妙だから国近先輩は負けても首を絞めることはなかった。

 

 

その後、防衛任務が始まる直前に三上に何かあったのか聞かれたので全部話したら三上も微妙な表情をしたのは言うまでもないだろう。

 

 

 


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