やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡は同期のメンバーと交流する(前編)

 

 

 

1月11日、学校が終わった俺は即座に帰りの準備をして教室を出る。

 

新しく居心地の良い場所が出来た所為か、元々居心地の悪い学校は更に嫌いになった。だから俺としては1秒でも早く帰りたかったので全力疾走で駐輪場に走り全速力で自転車を飛ばして家に帰るった。

 

家に着いた俺は制服を脱いで私服に着替えて机からトリガーを取り出してポケットに入れる。

 

訓練生である俺は訓練以外でのトリガーの使用は禁止されているので常日頃持ち歩く必要はないので訓練に行く時以外は家に置いてある。

 

俺は学校では嫌われているから万が一盗まれたりしたらヤバイしな。

 

 

 

ポケットにトリガーを入れた俺は台所に行って夕食の支度をする。今日の合同訓練は6時からで、今は4時前だから余裕がある。5時には家を出たいからそれまでにお袋と小町の夕食を作らないといけない。

 

今日は冷蔵庫に沢山野菜があるし野菜炒めにするか。お袋あんまり野菜とらないし。

 

米を炊き終えて、フライパンで野菜を炒めていると玄関で物音がした。どうやら帰ってきたようだな。

 

「お兄ちゃんただいまー」

 

そう言ってくるのは妹の小町だ。アホな行動を取る事が多いが可愛い妹で大切な家族だ。

 

「おう小町おかえり。今日は野菜炒めと豚の生姜焼きでいいか?」

 

「いいよー。ていうかお兄ちゃんボーダーの仕事あるんだし小町がやるよ?」

 

優しい気遣いだ。本当に可愛い妹だな。

 

「いや、俺はまだ訓練生だから仕事はないし、訓練は6時からだから問題ない」

 

「そっか。ところでボーダーって楽しいの?」

 

「まあ割と」

 

ランク戦は結構楽しい。まあ試合をするだけで話す相手は殆どいないけど。てか入隊してから話したの照屋だけだし。

 

「ふーん。じゃあ今度茜ちゃんにボーダーの話聞かせてあげて」

 

「日浦に?あいつもボーダーに入るのか?」

 

「うん。何か茜ちゃんのお兄ちゃんの友達がお兄ちゃんと同じ時期に入隊して興味持ったみたい」

 

へー、日浦の兄貴の友達が俺の同期なんだ。まあ日浦とは偶に話すしそんぐらいは構わない。

 

「わかったよ。今度日浦がうちに泊まりに来た時にでも話してやるよ」

 

そう返しながら野菜炒めを皿に盛りながら冷蔵庫から豚肉を出して生姜焼きを作る準備を始める。

 

俺の鼻には野菜炒めのいい匂いが襲っていた。ヤベェ食べたくなってきたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を作り終えた俺はボーダー基地に行く為靴を履く。

 

「じゃあ行ってくるわ。帰りは8時くらいだから腹減ったら先に食ってろ」

 

「そのくらいだったら待ってるよ。頑張ってね」

 

小町から見送りを受けた俺は玄関を出て自転車を走らせた。

 

 

 

 

 

自転車に乗って市街地を走る。この辺りはもう復興してきてショッピングモールも建っている。大規模侵攻から2年、三門市はかなりの勢いで立て直している。これもボーダーのおかげだろう。現に三門市から出て行く人間は少ないし。

 

そう思いながら信号を待っている時だった。

 

 

 

 

「あ、比企谷先輩」

 

横から声をかけられたので振り向くと知った顔がいた。

 

「おう照屋。久しぶりだな」

 

俺が初めてランク戦で戦った相手、照屋文香がいた。照屋を見るとお嬢様学校の星輪女学院の制服を着ていた。言動から薄々感じていたが本当にお嬢様だったのかよ。

 

「お久しぶりです。先輩も合同訓練ですか?」

 

「まあな」

 

「でしたら一緒に行きませんか?」

 

照屋はそう言ってくる。その顔には何かを企んでいるように見えない。しかし同じ中学の連中の所為でどうしても疑ってしまう。

 

「でもいいのか?俺みたいな目の腐った奴と一緒に行って不快にならないか?」

 

俺がそう聞くと照屋は何を言っているのかわからないような表情を見せてくる。

 

「え?別に不快になんてなりませんよ?」

 

……嘘を言っているようには見えないな。

 

「いや、俺はこの目の所為で学校でかなり疎まれてるし」

 

「私は人を見かけで判断しません。少なくとも比企谷先輩は悪い人ではないですから不快にはなりませんよ」

 

きっぱりと答える照屋に俺は言葉を返せなかった。正直言って凄く嬉しかった。

 

「……ありがとな」

 

「お礼を言われる事ではないですよ。それより行きましょう」

 

そう言って笑顔を向けてくる照屋を見ると苦笑が湧いてくる。

 

「そうだな。後ろに乗るか?」

 

俺がそう言うと照屋はキョトンとしてから詰め寄ってくる。

 

「比企谷先輩、2人乗りはダメです」

 

めっ、と指を立てて注意してくる。しまった毎日小町を送っているから忘れてたが2ケツは違法行為だったな。

 

「悪かった。基地も近いし歩こうぜ」

 

そう言って自転車から降りる。中学の女子ならともかく照屋なら嫌じゃないし。

 

「はい」

 

ちょうど信号が青になったので俺と照屋は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「そういえば比企谷先輩はどのくらい個人ポイントを貯めたんですか?」

 

基地に向かって照屋と2人で歩いているとそんな事を聞いてくる。

 

「確か1542だったな。お前は?」

 

「私は1384だったと思います。先輩はかなり稼いでいますね」

 

「まあな。ノルマは1日200ポイントで何としても今月中にBに上がるつもりだ」

 

そうすりゃ防衛任務に就くことが出来て金を稼げるからな。

 

「何としてもって言ってましたけど急ぐ理由があるんですか?」

 

不思議そうに聞いてくる。まあ照屋なら話していいか。会って間もないが不思議と信用出来るし。

 

「ん?実は俺、大規模侵攻で親父を失ったんだよ」

 

「え……す、すみません!軽率に聞いてしまって……!」

 

照屋は頭を下げてくるがお前は悪くないからな。

 

「別に気にしてないから頭上げろ。親父の死は受け入れたから問題ない」

 

まあ墓参りに行くと思い出して悲しくなるけど。墓参りは当分先だから問題ないだろう。

 

照屋が頭を上げたので続きを話す。

 

「んでお袋が俺と妹を養ってたんだけど去年の11月に過労で倒れたんだよ。そんでお袋の負担を減らしたくて中学生でも金を稼げるボーダーに入隊したって訳だ」

 

もう2度とお袋を倒す訳にはいかない。その為に何としても稼ぎまくってやる。

 

そう思っていると照屋は俺の手を握ってくる。いきなりの行動に驚いていると優しい目で俺を見てくる。

 

「……比企谷先輩は優しいですね。今話している時にも強い信念を感じました」

 

「そうか?」

 

あんまり熱意を出した事がないからよくわからん。

 

「はい。月並みな言葉ですが頑張ってください。心から応援しています」

 

そう言って貰えると胸が嬉しさで一杯にある。俺の中学に照屋みたいな奴が10人いれば絶対に良い学校になりそうだ。

 

俺が返す返事はただ1つだけだ。

 

「当然だ」

 

一言だけそう返して基地に向かって歩くのを再開した。

 

 

 

 

照屋と歩く事15分、基地の入り口が見えたので近くにある駐輪場に自転車を置いてトリガーを出す。

 

「んじゃ入ろうぜ」

 

そう言ってセンサーにトリガーを当てようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?照屋ちゃん?」

 

後ろから声が聞こえたので俺と照屋が振り向く。

 

そこには1人の女子が立っていた。

 

(……見覚えがあるな。確か俺や照屋と同期の奴だったっけ?)

 

そう思っていると照屋も挨拶を返す。

 

「こんにちは熊谷先輩」

 

「こんにちは。それでそっちにいるのは……確か入隊日に照屋ちゃんと戦ってお腹に蹴りを入れた人だっけ?」

 

そのネタは言わないでくれ。いくら照屋が許したからって未だに罪悪感があるんだよ。

 

「はい。比企谷先輩ですね」

 

「そうなの?私は三門市立第二中学3年、熊谷友子。よろしくね」

 

そう言って挨拶をしてくるが俺を見てもそこまで変わった目で見ていない。どうやらこいつも照屋と同じく見かけで人を判断しない奴だろう。ならこちらも礼をもって返そう。

 

「第一中学3年の比企谷八幡だ。こちらこそよろしくたにょむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……また噛んでしまった。もう嫌だ。よりによってまた同じ場面で自噛むってコミュ力低過ぎだろ?

 

熊谷はキョトンとしてから、

 

「プッ……」

 

吹き出して笑い始める。

 

「ふふっ……」

 

隣では照屋もクスクスと笑いだす。俺は恥ずかしくなり前みたいに顔が熱くなってきた。

 

「頼むから笑わないでくれ」

 

「ごめんごめん。ちょっと可愛くて…」

 

「あ、やっぱり熊谷先輩もそう思いますよね?」

 

「うん。たにょむって……」

 

そう言ってもう一度笑い出す。もう嫌だ。この場所にはいたくない。

 

俺は急いでセンサーにトリガーをかざす。

 

『トリガー認証。本部への直通通路を開きます』

 

そんなアナウンスが聞こえるとドアが開いたので俺は逃げるように基地に入った。

 

「あ!ごめんってば…!」

 

「比企谷先輩、すみませんでした」

 

2人の声を背に受けると同時にドアが閉まったので俺は早歩きで本部へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとごめんってば」

 

「だから気にしてないからな?」

 

「だったら足を緩めてよ」

 

熊谷がそう言ったので仕方なしに足の速度を緩める。まあ元はと言えば噛んだ俺が悪いからな。

 

「いや、すまん。恥ずかしくてな」

 

「ううん。私が笑ったのがいけないんだし」

 

「まあもう気にしてない。それより少し急ごうぜ。後10分で訓練開始だ」

 

「あ、本当だ!急ごう!」

 

そう言って熊谷は走り出すので俺と照屋もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

訓練室に到着すると既に沢山のC級が並んでいたので俺達も並ぶ。

 

それと同時に訓練開始のアナウンスが流れたので最前方にいるC級は訓練室に入ってバムスターとの戦闘を開始した。

 

「ねえ比企谷」

 

順番を待っていると熊谷が話しかけてくる。

 

「何だよ?」

 

「訓練が終わったら私と個人ランク戦しない?」

 

個人ランク戦か。まあ元々やる気だったし知った顔とやるのも良いだろう。

 

「わかった。やろうぜ」

 

「ありがとう。仮入隊を除いたら今期最強の比企谷とは戦いたかったんだよね」

 

熊谷はそう言ってくる。仮入隊と言ったら俺より早い記録を出したあの2人だろう。

 

「ちなみに仮入隊の2人ってどんな奴なんだ?」

 

俺は強いくらいしか知らないからな。

 

「私も知らないですね。熊谷先輩は知っているのですか?」

 

「まあね。昨日その内の1人の歌川遼君と戦ったんだけど殆ど一方的にやられちゃったよ」

 

「熊谷先輩が一方的にですか?」

 

照屋は驚いた顔で見てくる。俺は熊谷の実力を知らないから良く分からないが照屋の驚きぶりからして強いのだろう。

 

「そんなに強いのか?」

 

「うん。何せ仮入隊の時に加算されたポイントは2950だからね」

 

2950だと?!仮入隊の時にどんだけ好成績を収めたんだよ?!

 

この数値は完全に予想外だ。照屋も絶句してるし。

 

「マジかよ……」

 

「マジマジ。折角だから比企谷も戦ってみなよ。負けてもそこまでポイント取られないし」

 

まあ差が1500近くあるなら負けても10ポイントくらいしか取られないだろう。ならやってみるのも悪くない。

 

「じゃあ今日いたらやってみるわ」

 

「そうしなよ。……っと、次は比企谷の番だよ」

 

言われてみたら俺の番だった。

 

後ろを待たせるわけにはいかないので俺は急いで訓練室に入る。

 

それと同時に

 

 

『2号室用意、始め!』

 

アナウンスが流れてバムスターが現れる。

 

 

それと同時に俺はバムスターに突っ込んでジャンプをする。ランク戦で鍛えたからか入隊日より動ける気がする。

 

跳んだ先はバムスターの首の横あたりで目にはスコーピオンが当たらない。

 

だから俺はスコーピオンを出してバムスターの首の横にスコーピオンを刺してバムスターにぶら下がる。

 

落ちない事を確認したので空いている手でバムスターの耳を掴み足をバムスターの首に当てる。

 

それと同時に一気にバムスターの首を蹴ってその勢いでバムスターの弱点の目の正面に跳んでスコーピオンで一閃する。

 

それによって目からはトリオンが漏れて活動を停止する。

 

それと同時にアナウンスが流れる。

 

 

 

『2号室。記録、18秒』

 

……一気に11秒も縮められたか。

 

俺は小さくガッツポーズをしながら訓練室の出口に向かった。

 

その時に視界には熊谷と照屋が笑いながら手を振っていた。

 

俺はそれを見て苦笑しながら2人に近づいた。


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