やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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退院してから比企谷八幡は目標に向かって動き出す(前編)

「……では俺はこれで。1ヶ月間ありがとうございました」

 

そう言って担当医に頭を下げてから病院を出る。するとお袋が入口で待っていた。小町がいないのは土曜日で学校があるからだろう。

 

今日は俺の退院日だ。久々に外の空気を感じたが、薬品の匂いが一切ないのは素晴らしいな。

 

「お帰り。忘れ物はない?」

 

お袋は俺が持つ手荷物を取りながらそんなことを聞いてくる。別にそこまで気を遣わなくても大丈夫なんだがな……

 

「いや、大丈夫だと思う」

 

仮に忘れ物があっても、ウチから病院は近いし取りに行けばいい話だ。

 

「なら良いわ。それよりアンタは今日は学校やボーダーで忙しいんじゃないの?」

 

「まあな」

 

授業や防衛任務ではない。退院したから、その旨を学校とボーダーの事務所に報告しに行くのだ。今日は土曜日だから授業もあるし事務所が開いていると思うが、明日の日曜日だと事務所が閉まってる可能性がある以上今日の内に済ませたい。ぶっちゃけ怠いがこればかりは仕方ない。

 

「とりあえず荷物を家に置いたら一息してから学校に行って、ボーダーに行く感じだな」

 

「ふーん。じゃあ帰りましょ」

 

言うなりお袋は病院の前に停車しているタクシーの元に向かった。タクシーに乗ると自動でドアが閉まり、自宅に向かって一直線に進んで行った。

 

タクシーに乗ること15分、停車してドアが開いたので車から下りると1ヶ月ぶりの自宅が目に入る。見ると門の横には俺の自転車もあった。どうやら回収されていたようだ。

 

そう思っていると、料金を支払い終わっただろうか、お袋もタクシーから下りてタクシーは去って行った。

 

「じゃあ開けるわね」

 

言いながらお袋は玄関の鍵を開ける。同時に1ヶ月ぶりの自宅に入る。何も変わってないようで安心した。

 

「昼ご飯は今から作るから30分位待ってて」

 

なら自室に行って休むか。そう判断しながら自室に戻ろうとした時だった。

 

pipipi……

 

俺の荷物の入ったカバンから着信音が鳴り出したのでカバンからスマホを取り出す。画面には『三上歌歩』と表示されていたので、それを認識すると同時に電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『もしもし比企谷君。電話に出れるって事はもう病院から出てるの?』

 

「ああ。丁度今自宅に着いた」

 

『そっか。退院おめでとう』

 

「ああ。入院中は何度も世話になったな」

 

『だから気にしなくて良いって』

 

三上はそう言っているが、本当に感謝しかない。救急車を呼んでくれたり、授業のノートのコピーを取ってくれたり、林檎を切ってくれたりと何度も世話になっているしな。

 

「それは厳しいな。てかお前も学校は大丈夫なのか?」

 

『今は休み時間だから大丈夫。それよりも……』

 

「ああ、例の返事だろ?」

 

電話をしているだけなのに思わず身構えてしまうが仕方ないだろう。何故なら……

 

 

 

『うん。比企谷君のチームに入るかについてなんだけど……』

 

そう、俺が三上をチームに誘ったので、その返事を聞くのだ。事の発端は入院していた時ーーー

 

 

ーーーなぁ三上。実はさーーー俺、チームを組んでA級を目指すつもりなんだが、オペレーターとしてウチに来ないか?ーーー

 

2週間前に三上が見舞いに来た時に、風間さんに説教を食らって目が覚めてチームを組むと決めた俺は三上にそう頼んだ。女子を誘うのはクソ恥ずかしかったが、風間さんが遅ければ何も出来ない、決断は早く下せと言って説教したので、恥を捨てて頼み込んだのだ。

 

その際三上は多少驚きを露わにしたが、少ししてから考える時間が欲しいと言ってきた。それについては予想していた。自分の今後がかかっているのだし慎重になるのは当然。

 

って訳で話し合った結果、俺が退院する日に三上から答えを聞くことになり、今がその結果発表だが……

 

(やはり形振り構わなくなったとか言っても緊張してしまうな……)

 

中学時代にした告白とは別ベクトルな緊張だ。まああん時は半ば振られる事がわかっていたからそこまで緊張しなかったが、今回は違う。オペレーターになるよう頼んでから即座に否定されなかった為、多少の望みがあるからか結構緊張している。

 

果たして結果は……

 

,

 

 

 

 

『ーーー良いよ』

 

俺が望む返答だった。………え?

 

「マジで?良いのか?」

 

思わず問い返してしまうが仕方ないだろう。多少期待していたとはいえ、ダメ元で頼んだ事が叶うなんて思わなかったし。

 

『うん。比企谷君に頼まれてからチームのオペレーターと中央オペレーターの違いについて調べたら私にも出来そうだったし、チームを組むなら気心の知れた相手が良いと思うし』

 

「そうか……済まない」

 

『相変わらず固いなぁ、頭を下げなくても良いのに』

 

「待て。何故俺が頭を下げるのがわかった?」

 

『だって比企谷君、私がお見舞いに来たら毎回頭を下げてるし。声音で簡単にわかるよ』

 

ぐっ……そこを突かれたら返す言葉がないな。確かに何度も世話になったから何度も頭を下げたけど……

 

「そ、そうか……とりあえず狙ってやってる訳じゃないからな?」

 

『それはわかってるよ……あ!もう直ぐ4時間目が始まるけど切るね』

 

そういや今は土曜日の午前、4時間目があっても仕方ないだろう。ただ……

 

「わかった。それと俺は昼飯を食ったら学校に復学の旨を伝えに行く予定だが、そん時に合流してボーダーに行ってチーム申請をしないか?」

 

どのみち学校の事務所に行ったらボーダーにも退院した事を伝えに行くんだ。その時に三上と一緒に行ってチーム申請をした方が合理的だ。風間さんの言うように早く行動しないとな。そんでチーム申請をしたら他のメンバーの確保する作戦を立案しないといけないし。

 

『良いよ。じゃあ午前の授業が終わったら図書室で待ってるから、復学手続きを終えたらメールして。じゃあね』

 

その言葉を最後に通話が切れるのでスマホをポケットにしまう。と、同時に息を吐く。

 

(良かった……とりあえず第一目標のチームを組む事は出来た)

 

チーム結成の最低条件は戦闘員1人とオペレーター1人だ。三上の勧誘に成功した事でチームを組むという第一関門は突破出来た。

 

(だが関門はまだまだあるからなぁ……)

 

他のチームメイトの確保、自身の戦闘力や作戦立案能力の向上、チームの連携の練度の向上などやる事は山程ある。

 

しかし文句など言ってられん。愚痴っていても始まらないし、家計の為にも頑張らないといけない。コミュ障など言ってられない。こう考えると人間は非常時になると大きく変わると考えられる。

 

しかし、とりあえず今は……

 

『八幡、飯出来たから早く降りてこーい』

 

少し早い昼飯を食べるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後……

 

「ーーーはい。では月曜日から登校しますので」

 

飯を食った俺が総武高の職員室にて教頭と担任の平塚静教諭に復学の旨を伝え終えた。これで明後日から学校に行くことになる。

 

「うむ。遅れを取り戻すのは大変だろうが頑張りたまえ」

 

それは大丈夫だろう。入院中にも定期考査が悪くて防衛任務のシフトを減らされたら嫌だから勉強してたし、

 

「うっす。失礼します」

 

改めて一礼した俺は職員室に出て、扉を閉めると同時に三上に『手続き完了』とメールを送る。

 

すると3分もしないで三上がこちらにやって来る。

 

「遅くなって済まん」

 

「大丈夫だよ。身体は大丈夫そうだね」

 

「ああ。多少倦怠感?みたいなものはあるが日常生活には支障はない」

 

「なら良かった。それじゃあ今から基地に行って、復帰申請とチーム申請をしよっか?」

 

「ああ。最後に確認するが、本当に俺と組んで良いな?」

 

一応最後の確認はしておく。俺個人としては見知らぬオペレーターより気心の知れた三上と組む方が良いと思っているが、重要なのは三上本人の気持ちだからな。

 

「大丈夫だよ。私としては知っている人と組む方が気が楽だし」

 

どうやら不満はないようだ。顔を見ても含むものは見当たらない。それを聞いて安心した気分になる。三上とは救急車を呼んで貰った事から生まれた縁だが、この縁は間違いなく当たりだろう。そう考えたらあの事故も悪いだけのものとは思えない。

 

「なら良かった。じゃあ頼むわ」

 

「うん。それより、そろそろ行こうか」

 

「ああ」

 

言いながら校舎から出て駐輪場に向かい、自分の自転車ーーー事故の時に使ったヤツの鍵の解除をする。同時に三上も同じように自転車の鍵の解除をしていた。

 

そして俺達はペダルを漕いで校舎から出る。自転車によって感じる春風は1ヶ月ぶりだが中々心地良かった。それは俺自身の内にある気分の良さも関係しているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?今のって……ヒッキー?」

 

「結衣ちゃーん?どうしたの早く行こうよー?」

 

「え……あ、うんごめんさがみん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ三上よ。マジで俺なのか?」

 

忍田本部長の執務室の前にて、俺は手に持つ紙をピラピラしながらそう呟く。その紙の上部には『部隊申請書』とデカデカと書いてあり、その下にはシャーペンで『隊長 比企谷八幡』『隊員 三上歌歩』と表示されている。

 

そう、隊長欄には俺の名前が書いてあるのだ。受付にて復帰申請をして、部隊申請書を貰った俺と三上は記入する事になり、隊長をどうするかの話になった時俺は三上を、三上を俺を指名した。

 

俺としては気遣いが出来て、カリスマ性の高そうな三上が良いと思ったが、三上は自信がないと言って反対した。

 

俺も隊長なんて柄じゃないと返したが、三上が「私は草壁さんと違って隊長業務をやっていたらオペレーターの仕事に支障が出る」と言ったので俺が折れる形で隊長が決まった。

 

まあオペレーターが隊長をやってるのは草壁隊だけだしな。

 

「大丈夫だって。自信がないなら私も出来るだけ力になるから」

 

「マジで頼むぞ……はぁ」

 

まあ決まったものは仕方ないし、諦めるか。隊長に自信がないのは事実だが、三上の反対意見も理にかなっているからな。俺のチーム入りに了承してくれた優しい奴を無理に隊長をさせる訳にはいかん。

 

そう判断した俺は一度深呼吸をしてから本部長の執務室のドアを叩く。

 

『どうぞ』

 

「失礼します」

 

「失礼します」

 

ドアの向こう側からどうぞと言われたので俺と三上はドアを開けて一礼する。中に入るとボーダー本部長の忍田本部長が執務机にて書類作業をしているのが目に入った。

 

「比企谷か。先程復帰申請を確認したが、無事に退院出来て何よりだ」

 

「ありがとうございます。それで本部長にこれを提出しに来ました」

 

言いながら部隊申請書を本部長に手渡す。すると本部長は軽く目を見開く。

 

「復帰申請をして30分もしないで部隊申請をしてくるとは驚いたぞ」

 

「ええ、まあ……復帰して直ぐは無理なのでしょうか?」

 

「いや、問題ない。申請書に不備はないから受理出来るぞ」

 

言いながら本部長は執務机にある書類を脇に置いて、引き出しから判を取り出す。

 

「とりあえずは、2人からスタートということか?」

 

「はい。残りのメンバーは6月から始まるランク戦までに集めるつもりです」

 

「なるほどな。入院中に遊んでいた訳ではないようだな」

 

「ええ。何分暇でしたので」

 

特に消灯時間になるとガチで暇だった。個室を使えたとはいえ消灯時間は早くて退屈過ぎたくらいだ。

 

「そうか」

 

そう言いながら本部長は申請書に判を押してからおもむろに口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「では比企谷八幡及び三上歌歩に告げる。本日5月1日をもってボーダー本部所属、B級15位比企谷隊の結成を承認する」

 

こうして退院した俺は新しい一歩を踏み出したのだった。




八幡は新しくチームを組む事になりました。

ちなみにチームメイトは色々考えてます。

今のところ公開できる情報は……

戦闘員は八幡を除いて2人〜3人

内1人は既に名前が出てるキャラ

ってところです。

ちなみに一部のガイルキャラもボーダーに入る予定です。

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