ボーダーにはCBASと四種類のランクがある。Cランクはついこないだまで俺が居たランクで入隊したての人がここに属する。CランクからBランクに上がるには4000と言う規定ポイントを貯める必要があり。これを成し遂げでやっと一人前と言われている。Aランクはチームで編成されているので、数あるチームから勝利をもぎ取りまくる事で上がれる。Sは人外。多分スーパーボーダーマンとかそんな感じ。ボーダーに入った人は自らを高め戦い必死にランクを上げ己の力を示している。だが、折角ランクが上がっても降格と言う恐ろしい制度がここボーダー本部には導入されている。命令無視、違反行為等の不祥事を起こさない限りは基本的に降格する事は無いらしい。Sランクを除きランクが降格する時はポイントにより判断される。ここ大事だから覚えておいて。降格はポイントにより判断され行われる。ちなみに今俺が居るBランクは1500ポイントを切ると再びCランクに落ちる。一応そういう規定があるのだが今のとこ落ちた人はいないらしい。さて、ここまで説明すればこれから俺が話す事を良く理解して貰えると思うのでそろそろ本題に入ろう。今俺は模擬戦ルームにいる。Bランクに上がった事で同じBランクの人や黒江さんや木虎さんと同じAランクの人ともポイントを賭けバンバン戦えるようになってしまった。目の前にはいつぞやの夜王が神の如き風格を纏い悠然と立っている。黒江さんの髪の毛みょんみょん事件から数日。俺はことあるごとに夜王様に捕まり連日連夜ボコボコにされまくっている。ここまで言えば俺が何を言いたいのか分かって貰えると思うがあえて言わせて貰う。
「ポイントが、アボンする……!」
「次いくぞ」
四つん這いになり絶望の淵に居る俺に夜王様から死の宣告が告げられる。
「待って下さい!もうポイントがアボンで俺の心が」
「先に入ってる」
聞いちゃいねえやこの人。ポイントがアボンするっていってんじゃん。それ聞いてなんで次行くぞってなんだよ。
「チームの制服にスーツを起用する人だから頭おかしいんだろうなとは思っていたが、まさかここまでおかしいとは……!」
『そう言う事は通信を切ってから言うんだな。後10秒以内に来い。来なければ頭のおかしいスーツ野郎がお前になにするか分からないぞ』
黒江さん元気かなぁ………アボン。
その後数戦サンドバッグ役をこなし心がコスモを感じ始めた所でお役ごめんとなる。
「次は2日後だ。それまでにポイント貯めておけ」
いやいや2日後だじゃねーよ。もうやんねーよ。
「あの、二宮さん。これ以上二宮さんとやると俺のポイントが……」
「悪いな。ダサいスーツ着てるから何を言ってるのか理解出来ない」
まだ根に持ってんのかよ!しつけーよ!あんたもういい歳だろ!B級1位チームの隊長だろ!着てるもんバカにされた位でいつまで根に持ってんだよ!
「あの、その節は本当に申し訳ごさいませんでした……と言うかこれ、問題になりませんか?明らかにイジメだと思うんですが……」
「イジメじゃない。教育だ」
「それ体育会系が使うイジメの隠語ですよね!?あんたB級1位の隊長の癖になにやってるんですか!?そんなスーツの一つや二つ」
「そんな?」
「そんな素晴らしいスーツの一つや二つを着こなす二宮さん本当に素敵!一生付いていきます!」
「良く分かってんじゃねーか。なら2日後また来い。以上だ」
俺はもう、ダメかもしれん………
もうにっちもさっちもいかなくなった俺は師匠である木虎さんを求め嵐山隊の部屋に突撃する。
「木虎さーん!助けて下さい!あれ?空いてない?」
お菓子の袋片手に突撃しようとしたが部屋には鍵が掛かっており突撃出来なかった。あれ?もしかして留守?
完全に木虎さん頼りだった俺はまさかの不在にてんやわんや。確か今日は防衛任務が入って無かった筈なんだけどな。どうしよ、連絡とってみようかな?
「あ、でも嵐山隊は防衛任務とかのボーダーの仕事以外にアイドル活動もしてるんだっけ?」
歌って踊れてオンする戦闘系アイドルだっけ?なんかそんなような話しを聞いた気がする。
「留守って事は多分アイドル業の方をやってるんだよな。撮影とかしてる時に連絡なんてしたら迷惑だよなぁ」
よくよく考えたら嵐山隊の皆さんにはいつも助けて貰ってばかりで迷惑しかかけてない気がする。特に木虎さんには修業をつけて貰ったり相談に乗って貰ったりと頼りっぱなしだ。
「皆さん優しいから何も言わないけど、もしかしたらすごく負担を掛けていたのでは……うん。連絡するのは止めよう」
元々自分で撒いた種だ、これ以上嵐山隊の皆さんに頼るのはやめよう。そう思いお菓子の入った袋を部屋の前にお供えしてその場から離れる。
「しかし自分で撒いた種とは言え勝手に世界樹並みに育った荒ぶる夜王を俺1人でどうにかできるとはとても思えん。どうしよ?」
嵐山隊の皆さんの力を借りず俺が出来る事なんて、お菓子を配るか黒江さんの素晴らしさを布教する位だ。試しに二宮さんの枕元で黒江さんの素晴らしさを延々と囁いてみようかな?間接的とはいえ黒江さんの大天使バワーなら夜王を弱体化させて夜王二宮さんから飲んだくれのおっさんスーツverとかにしてくれそう。うん、それでいこう。
困った時の天使頼み。作戦が決まった所で二宮さんの家に……二宮さんってどこ住んでんだろ?なんかセキュリティばっちりのすげー高級なホテルとかに居そう。忍び込めるかな?いや、大穴で安アパートの可能性も……いや、無いな。もし二宮さんが安アパートでカップ麺とか啜ってたら爆笑する自信がある。そしてそれにキレた二宮さんに除隊までポイントを削られる。うん、二宮さんは高級マンションに住んでる。間違いない。
「でもそうなるとどうやって忍び込めばいいのやら」
「どこに忍び込むの?」
「荒ぶる夜王二宮さんの家なんですけどそもそも家のある場所を知らないんですよね」
「二宮君の家なら知ってるわよ?教えてあげようか?」
「本当ですか!ん?あ、加古さん。こんにちは」
「はいこんちは」
二宮さんの家についてうんうん唸ってたらいつの間にか加古さんが横に立っていた。
「いつからそこに居たんですか?」
「さっきよ。廊下を歩いてたら田中君がお菓子の袋を置いて二拍一礼してたからなにしてるのかなーって見てたら面白そうな事を言い出したから来ちゃった」
そう言ってにやりと笑った加古さんに腕を捕まれあれよあれよと言う間に加古隊の部屋へ到着。自然と体が震えた。久し振りに来たがチャーハントリガーの呪縛はそう簡単には取れないらしい。きょ、今日は大丈夫。だって二宮さんの家を教えて貰うだけだもん。そうですよね?ね?……あれ?加古さんは?
忍びかと思う程音無く消えた加古さんを探す為部屋の中に入ると鼻歌を歌いながらエプロンを装着する加古さんを発見。嘘でしょ?
「か、加古さん、何でエプロンをしていらっしゃるのですか?」
唇が喉がなによりも心震える。エプロンを纏った加古さんは夜王とは別の意味で恐怖を与えてくる。
「腹が減っては戦は出来ぬ。古来より言われ続けてる格言だけど私この言葉に凄く好きなの。だって」
-戦う者が集うここには私の料理を沢山食べてくれる人が一杯いるんだもの-
機嫌良さそうに笑みを浮かべ言う加古さんは、それはそれは美しかったとさ、めでたしめでたし。
当たりでした。しかも大当たり。超美味しかった。
「ご馳走様でした!加古さん、今日の凄く美味しかったです!」
「今日の?」
「やだなぁ、今日のもって言ったじゃないですか。あははは」
危ねぇ。今加古さんの目がスッと細くなったぞ。あれか、加古さんはキレると目が細くなるタイプなのか?
「あら?そうだったかしら?」
「そうですよ。俺にとって加古さんが作るチャーハンは最強ですもん!食べるまでどんな味がするか分からないドキドキ感。まるで神話に出てくるパンドラの箱みたいです!」
嘘は言ってない。寧ろ文字通り最強でドキドキするパンドラの箱です。当たりの時はめちゃくちゃ美味しい分トリガーチャーハンに当たった時の衝撃が凄まじいんだよなぁ。
俺の賛辞に本当に嬉しそうに笑う加古さんが綺麗になった皿を台所に持って行く。そして見た事の無い色をした液体が入ったコップを持って俺の前にコトリと置いた。え、なに、これ……?
予想外のブツの到来に戸惑いを隠せない俺に加古さんが先程と同じような笑みを浮かべ宣告する。
「チャーハンばかり作ってたからたまにはジュースを作ってみようと思って作ってみたの。良かったら飲んで」
なん……だと……?
まさかの第二ステージに俺の思考回路はショート寸前。一体何がどうなっているんだ。
「田中君っていつも一杯食べてくれるでしょ?田中君が来るまではある程度決まったメンバーにちょこちょこ出す程度だったの。だから次に来て貰うまでにメニューを色々考えれたんだけど、田中君はそのメンバーより頻繁に来てくれる上に沢山食べてくれるでしょ?だから新作を考えるのが追い付かなくなっちゃの。今日のなんか普通のチャーハンにお野菜を多目に入れただけのだったし」
隠れステージ出現の原因俺でした。自分で撒いた種が竜王になって子供生んだ感じ。ごめん、テンパってて自分でもなに言ってるのか分からない。
「田中君。たまに凄く水を飲む時あるでしょ?それなら水を出すより味の付いた飲み物の方が良いかなって思ったの」
それトリガーチャーハン食べてる時です。ごめんなさい。水で流し込んで本当にごめんなさい。
「ごめんなさい……」
「やぁねぇ。別に気にしなくていいわよ。私が作りたくて作ってるんだもの。寧ろお礼を言いたいくらいなのよ?いつも一杯食べてくれてありがとう。新メニューが思い付かなくなるほど食べてくれるなんて本当に嬉しいかったわ」
「加古さん……っ!」
俺は、なんて最低な奴なんだ……!こんなに嬉しそうしている加古さんを騙すような真似をして!
本当に嬉しそうに笑う加古さんを見て自らを恥じた俺は佇まいを直し加古さんに向き直る。
「男田中。加古さんが作ったドリンク。慎んで頂戴させて頂きます」
「ふふっ。そんな畏まらなくてもいいのよ?これからチャーハンと一緒にいくらでも作ってあげるから」
「………………………………いただきます」
「どうぞ♪」
加古さんが両手を向け勧めるのを合図に震える手を気合いで抑え込み一気に飲み干す。
……………………………
「どお?」
……………………
「?」
……………
「田中君?」
………
「あら?どうしたのかしら?動かなくなっちゃったわ」
…………ゴ…………クンっ
「ごち、そう、さま、でし……た」
「どうしたの?急に動かなくなったりして。心配したわよ?」
「一気に、飲んだ、せい、で、胃が、びっ、くり、して、しまい、まし……た」
「あぁ。冷たい飲み物を一気に飲んだらそうなるわね。大丈夫?横になる?」
「大丈夫、です、ちな、みに、これ、は、なにを、元、に、作った、んで、か?」
「それ?レモネードよ」
「トル、ネー、ド…………」
「違うわ。レモネードよ?あら?田中君?……寝ちゃった。沢山食べたから眠くなっちゃったのね。ソファーに寝かせてあげましょう」
約束通り来たか………どうした?顔色が悪いぞ?加古のチャーハンでも食ったのか。なに?ドリンク?おいなんだそれは!そんなの俺は知らないぞ!いや、そんな事より味は!いやお前のその顔を見れば大体予想が………つかないがあれと同様の物だと言う事は理解した。そうか、最近加古からの召集が無いと思ったらお前が……今日のところは帰れ。それと連絡先を教えろ。体調が治ったら焼肉に連れてってやる。その、なんだ。今まで悪かったな。俺はこのスーツを侮辱されるのが嫌いでな、ついお前に当たっちまった。その侘び代わりと言ってはなんだが今度お前の指導をしてやる。空いてる時に連絡しろ。都合が合えば動きを見てやるっおい!泣くな!泣くんじゃない!お前は良くやった!それは太刀川も認める程だ!あ?太刀川はA級1位の部隊長だ。ああ、忌々しいがボーダーで最強と呼ばれてる男だ。そんな男も認めるんだ。自信を持て。……………家の場所を教えろ。送ってやる。
二宮さんは懐に入った人には優しくなる(確信)