「ふんふんふん♪」
今俺の機嫌は最高潮だ。何故ならあのチャーハントリガー事件以来黒江さんが何かと構ってくれるのだ。例えばこないだボーダー本部で見かけた黒江さんに
「黒江さん一緒にご飯食べましょう!」
「これから防衛任務があるので無理です」
「それが終わってからで良いんで!」
「待たせるのも悪いので遠慮しておきます」
「空腹と黒江さんは最高のスパイスなので待つのは苦になりません!なのでご迷惑じゃなければ防衛任務の後にご飯を!」
「………加古さんも一緒なら」
やばくない?これやばくない?今まで拒否しかされなかったのに一緒にご飯食べてくれるようになったのだ!まあ食べたのチャーハンだったけど。半分位当たりだったからなんとか食べきったけど。この日の出来事も幸せで一杯だったんだけど、もっと凄いのがあるんだ!
「黒江さん黒江さん」
「なんですか?」
「結婚するならどんな俺がいいですか?」
「なんで田中さん一択なんですか……」
「細かい事は気にせず思ったままに答えてみてください」
「……別に、興味無いので特に希望はありません」
「それは今のままの俺が良いと解釈してよろしいですか」
「すみません、やっぱりありました。人の言葉をちゃんと理解してやたら滅多天使とか言わずバカみたいに付きまとって来ない人です」
「一途な人は嫌いですか?」
「………別に、嫌いではありません、ふらふらするような人よりは、まあ好感が持てます」
「俺はどう見えます?」
「……知りません」
この日の出来事だけで日記埋まったわ。プイって顔背けた黒江さんに思わず抱き付こうとしてトリガーオンされたけど、そんなの気にならない位可愛いかったわ。まあオンした黒江さんのビンタで壁に激突してその記憶無くなりそうになったけど。
さらに言えば加古さんのトリガーチャーハンを食べてから何故か動きが良くなった俺は遂にB級に上がる事が出来たのだ!やっと黒江さんの爪先位まで近付けたんじゃないかと思った俺はルンルン気分で黒江さんに報告しようとボーダー本部を練り歩いてた。が
「な、な、な」
ルンルン気分から一転。俺はとんでもない光景を見てしまった。体中から熱を奪われる感覚に陥る。その光景を見ている事しか出来ない自分を呪いながら。歯を食い縛り血涙を流さんばかりの俺のめ目に映ったのはものは……
「おっ、黒江ちゃん久しぶり。相変わらずいいツインテしてるね」
「こんにちは犬飼さん。犬飼さんはなんで私の髪をいじるんですか?」
「んー?そこにツインテがあったからかな?」
「よく分かりません」
「ははは。大丈夫俺もよく分かってないから」
「あまりいじられると髪型が崩れるのでそろそろ止めてもらえると助かります」
「ん、りょーかい」
大天使である黒江さんの髪で戯れるホスト野郎とそれに対して別段嫌そうにせず大人しくそれを受け入れている黒江さんの姿だった。俺はその光景を見た瞬間我を忘れホスト野郎に向かい駆けた。
「うわっ」
そんな俺を見つけたら黒江さんが嫌いな虫でも見つけたかのような声を出し顔を歪める。ついでに俺の顔も歪む。泣きそう。でも今はそれどころじゃないので我慢する。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおっ!なに!?」
俺の怒声に驚くホスト野郎。だがそんなの知ったこっちゃないとばかりにホスト野郎に向かい跳躍。膝を畳みズザザザザッ!と音を立て脛を滑らしそのままの姿勢で流れるように頭を地面に叩きつける。
「弟子にして下さい!!」
「帰って下さい」
今日も黒江さんの声は綺麗だなぁ。
「えっと、俺が黒江ちゃんの髪で遊んでるのが羨ましかったから弟子にして欲しいと?」
「その通りでございます!」
「おおー。黒江ちゃん愛されてるねぇ」
「嬉しくありません」
「あらら。フラれちゃったね」
甘いぞホストさん。俺は知っている。俺がチャーハントリガーを食べてるのに何故か普通のチャーハンを食べていた黒江さんが俺の事をチラチラ見ていたのを。あれはどこかでフラグが立ったからに違いない。くくくっ、髪で満足する貴様と違い俺は黒江さんのほっぺやまさかまさかの太股とかも触れちゃうかも知れないのだあ!」
「通報する?」
「お願いします」
考えてる事って興奮すると声に出ちゃうよね。
「待って下さい!今のは違うんです!」
「いや、何も違わず危ない奴だと思うけど」
「だって!だって!ホストさんだけ黒江さんの髪触れるなんてずるいじゃないですか!卑怯じゃないですか!俺なんて髪どころか……あれ?そういえば前に抱き付いた事あるから俺ホストさんより上じゃね?」
代わりにビンタ喰らったけど。壁に激突したけど。そんなの忘れる程あれは良いものだった。壁に激突した衝撃で全部わすれちゃったけど。
「あれ?もしかして黒江ちゃんの彼氏だった?それならごめんね。彼女の髪を勝手に触っちゃって」
この人、いやこの御方はとてもいい人だ。今度お菓子を貢ぎに行こう。
「止めて下さい犬飼さん。私とこの人は顔と名前を知っているだけの他人です。勝手に恋人にしないで下さい」
いつの間にか知り合いですら無くなってるんですけど………そんなに嫌われてたのか俺……最近ちょっとは距離が縮まったと思ってたのに……
最近の黒江さんとの関係を見て中々仲良くなってきたんじゃないかなぁと思ってたところにまさかのランクダウン通知。そのあまりの高低差に色々ブレイクされた俺は肩を落としフラフラしながらその場から離れる。
「え?あ、あれ?ちょ」
そんな俺に黒江さんが何やら驚いてるご様子。たがランクアップどころかランクダウンしてた事実に打ちのめされた俺はそれに構う余裕がなかった。
「ちょっと!待って下さい!」
大きな声を張り上げた黒江さんが俺の前でばっと腕を広げとうせんぼする。え、なに、まさか追撃でもあるんですか?そんなに嫌われてるんですか……?
これ以上黒江さんに何を言われるんだとビクビクしていると、黒江さんは広げた腕を下ろしちょっと困ったような顔をしだす。
「なんで、帰ろうとするんですか」
「え、なんでって、黒江さんからランクダウン通知を受けたら帰るしかないじゃないですか……」
「ランクダウン?C級より下なんてありましたっけ?田中さん今何級なんですか?」
コテンと首を横に倒す黒江さんは可愛いかったけど、ちょっと弱ってる俺は「お前C級より弱くなったの?まじで?やばくない?」と言われてる気がして萌える余裕が無かった。
「つい先日B級に上がりました」
「ランクアップしてるじゃないですか。おめでとうございます」
今の一言でちょっと回復した俺はやっぱり黒江さんが大天使なんだと再確認した。
「ありがとうございます」
「B級にランクアップして、なんでランクダウンと言う単語が出てくるんですか?」
「黒江さんとの関係です」
「え?」
「黒江さんとの関係がランクダウンしました」
おお、なんか黒江さんすげー驚いてる。いつも鋭い目がまん丸に見開いてるぞ。なんだこれ、可愛いな。写メ撮りたい。
「私との、関係って……もしかして田中さん、怒って、ます?私が酷い事ばかり言ってるから……」
何故かしょんぼりとする黒江さん。俺が黒江さんに怒るとか大天使が地獄の番人ケロベロスに変身する位あり得んぞ。あ、でも犬っぽくなった黒江さんは見てみたいかも。てか見たい。絶対見たい。すぐ見たい。
「あの、さっきのは、その、つい言ってしまったと言うか。他人と言うのはちょっとした冗談であって、田中さんとのお喋りが嫌とかじゃなく、最近は寧ろちょっと楽しいと言いますか……」
犬耳生やした黒江ワンを撫で撫でしてあげたい。ボールとか転がしてそれにじゃれる黒江ワンとか超見てみたい。
「ですので、もしさっきの発言で田中さんが不快な思いをしたのなら謝りたいと思いまして、その………??田中さん?」
ほーら黒江ワン、ボールだぞー。おお嬉しいか、そうかそうか。それじゃあお次はって、おいおいなんだよ黒江ワン。そんなにじゃれつかれたら動けないだろ。全く黒江ワンは甘えん坊だなぁ。そんなんじゃ賢いワンちゃんになれないぞ?黒江ワンがバカにされるの嫌だかちょっと芸を覚えてみるか?おお!やる気満々だな!流石黒江ワン。それじゃあやる気満々な黒江ワンには……んー、そうだなー、それじゃぁまずは皆が覚えるであろうこれからやるか!いくぞー黒江ワン!せーの!
「あの、田中さ」
「お手」
「田中。お手」
ワン。
自分で想像した黒江ワンと戯れていたら現実と区別が付かなくなり黒江さんを激怒させてしまった。プンプンと怒りながら去っていく黒江さん。残されたのは田中(犬)とホスト犬飼さん。俺を見る犬飼さんは珍獣でも見るような目をしている。
「君、面白いね」
余裕に充ち溢れたオーラを放つ犬飼さんが、面白いもの見付けた見たいな顔をする。ぐっ、ランクダウンと黒江ワンの衝撃で忘れてたけど、この人黒江さんの髪を……!そういやランクダウンはどうなったんだろ?去り際に今度おかしな事考えたら承知しません!って言ってたから、今度また話し掛けてもいいのかな?っと、それよりも今は
「犬飼さん!」
「ん?なに?」
「ちょっと黒江さんに髪を触る事を許されたからって調子に乗ってはいけませんよ!そんなダサいスーツ着てる人に黒江さんは渡しません!いつか俺がそのホストスーツを就活ようのキチッとしたスーツに変えてやります!覚悟しておいて下さい!」
ビシッと指さし犬飼さんに宣戦布告すると。顔を真っ青にしガクガクと震えだした。ふっ、今更後悔しても遅いわ!大天使クロエルの髪を触った罪を地獄で懺悔するが……あれ?犬飼さんどこみてんの?え、なに?後ろ?
最初は笑ってた犬飼さんの顔が段々青くなり、ついには顔面蒼白になったところで俺の後ろをちょいちょい指さして来た。なにかあるのかな、と思い振り返る。
「ダサいスーツで悪かったな」
するとそこにはホスト界の帝王みたいな人が腕を組み青筋を立て俺を睨んでいた。
「ゑ?」
「来い」
混乱する俺の腕を引き模擬戦ルームに引き摺っていく帝王。え、ちょ、誰!?てか誰かタスケテ!
「あいつ、死んだな……」
ちょ!不吉な事言ってないで助けて下さい犬飼さん!いや犬飼様!今度お菓子貢ぎに行きますから!
「暴れるな」
「はい」
この後めちゃめちゃポイント削られた。
開幕2秒でアボンを数十回繰り返した所でやっと解放される。去り際に「そんなんで俺のチームのスーツを変えようなんて甘いんだよ」と意味不明な言葉を残し夜の闇に消えてく夜王。てかこの人B級一位のチームの隊長さんなんだ。こんな人を乗り越えなきゃA級に上がれないんだ。そっかぁ………木虎さんとこ行こ……
あれ……思ったよりツンツンしてない……?