蒸し暑い気温が続く季節。特に予定も無く部屋でゴロゴロしつつ、黒江さんなにしてるかなー?会いたいなー等と考えていると充電中のスマホからピロンと軽快な音が。誰だろう?と思いスマホを手に取りタップ。
今日近くでお祭りがあるらしいのですが、もし良かったら一緒に行きませんか?急なので予定があるかも知れませんが、少しでも時間があるようでしたら、一緒にお祭りを見て回りませんか?
田中、いっきまーす!
時速韋駄天でLINEに書いてあった場所に向かうと、そこには既に浴衣にオンした黒江さんの姿が。
なにあれ可愛い!めっちゃ可愛い!
もう準備万端と言った様子の浴衣天使に悶えそうになるのを耐えつつ、時速韋駄天の速度(気持ち)で浴衣天使の元へ急ぐと、俺の姿を捉えた黒江さんが嬉しそうに顔を綻ばし、小さく手を振ってきた。
なんだこれ、可愛い過ぎて吐血しそうなんだけど?もうお祭りに行く前にお祭り状態なんだけど?今日俺死ぬの?まあ黒江さんが居る限り復活するけど。てか勿体な過ぎて死ねん。
本当に嬉しそうにはにかむ黒江さんに萌え死にそうになったが、黒江さんとのお祭り巡りを前に死ぬ田中ではないので、手を振る黒江さんに大きく手を振り返しながら駆け寄る。
「お待たせしてすみません!それと浴衣が似合い過ぎやら可愛い過ぎやらで爆発しそうなんで結婚して貰えませんか!」
「っ!ほ、褒めてくれるのは嬉しいですが、普通に言って下さい!」
「これが俺の普通です!」
「そう言えばこの人はそういう人だった………あの、本当に似合ってます?加古さんに教えて貰いながらも、一応自分で着付けてみたんですが、おかしな所とかないでしょうか?」
左右に腰を捻りクルクル回りながら訪ねる黒江さんを見てると、なんだから黒江さんじゃなく黒江ワンに見えてきた。自分の尻尾を追いかけるかの如くクルクル回る黒江ワンを見てると、可愛いやらじゃれたいやら鼻血出そうやらで、もう……
「お手」
つい手が出ちゃう。やべっ、やっちまった。
学習しない事に定評がある俺は、余りにも可愛い黒江さんに思わず手を出してしまう。つい出してしまった手をやっちまったぜみたいな感じで眺めながら、いつもの如く叱られるんだろうなぁと身構えていたが、黒江さんは差し出した手をじっと見つめているだけだった。ん?どうしました?
「………ワン」
叱りもせず、じっと俺の手を見つめてた黒江さんに首を傾けていると、控えめに鳴きながら俺の手にポンと手を乗せてきた。まさか乗ってくれるとは思ってもいなかった俺の眼球は飛び出る寸前。え、なにこれ?ちょっと早いお歳暮?お返しは田中の詰め合わせで良いですか?
「………ワン、ワン」
しかも追加お手攻撃のおまけ付き。恥ずかしそうにしながらも楽しげに左右の手をポンポン乗せてくる黒江さんに、なんだか俺の方が恥ずかしくなってくる。
「え、あの、黒江さん」
「………ワン、ワン!」
「え、やっ、ちょ、待って!」
「ワン!ワン!」
「ちょ、ごめん!調子に乗ってごめんなさい!謝るからもうやめて!」
なんだかめっちゃ恥ずかしくなり、ポンポン手を乗せられる手を謝りつつ引っ込めようとしたら、逃がさん!とばかりに両手できゅっと握られ一言。
「………くぅーん」
ふおおおおおおおお!ふおおおおおおおお!なんっじゃこりゃああああ!!なんっじゃこりああああ!!アアアアアア!!
黒江さんの頭の上にペタンと伏せた犬耳を幻視。構って貰えないのが寂しい子犬のような声を出す黒江さんに、俺の中にある火山が大噴火。よっしゃ!行くぞ黒江ワン!お散歩の時間だ!
もうなにしにここに来たのかも忘れた俺は握られた手を握り返し、いざ夏の夜の散歩道へGo!!
「………お前達には羞恥心と言うものが無いのか?」
と思ったが、呆れた顔をした二宮さんの登場でお散歩の予定は夜の闇に消え去った。そして、二宮さんが登場した事によりさっきまでワンワンとじゃれついてた黒江さんの動きが止まり、はっ!となり顔を動かす。素早く動かされた視線の先にはいつもの皆さんがおり、太刀川さんと堤さんが目をハートにさせている木虎さんを必死に拘束していた。太刀川さんと堤さんの物理的な拘束を外しかけている木虎さんのバイタリティーは見倣うものがある。てかあれ生身だよね?太刀川さんや堤さんで抑えきれないってサイヤ人かなんかなのかな?
「二宮さんこんばんはです。そして黒江さん、大丈夫?」
呆れ顔二宮さんに挨拶をし、やっちまったぜみたいな顔で真っ白になっている黒江さんの肩をポンと叩く。
「もう死にたい」
死んじゃだめです。ほらお手させてあげますから元気出して。え?もうしない?残念。お歳暮は俺のお手の詰め合わせ送りますね?え、ちょ、なんで叩くんですか!や、やめ!こら!黒江ワン、お座り!
「田中、お座り」
ワン。
猛る木虎さんとへこむ黒江さんを落ち着かせ、本来の目的であるお祭りへ。女性陣は皆さん浴衣にオンしておりとても華やかなのに対し、男性陣は普段着。なんだろうねこの温度差は。てかさ
「二宮さん」
「なんだ」
「なんでスーツなんですか?」
「何か文句でもあるのか?」
「見た目が、凄く暑いです」
「通気性を売りにしてる物だ。それほど暑くはない」
「見た目って言ったの聞いてました?」
「人のファッションにケチをつける男は女に嫌われるぞ」
俺は貝になった。
「田中君、騙されちゃダメよ。お祭りにスーツを着ていくなんてどう考えてもおかしいんだから。太刀川君と堤君もそう思うでしょ?」
「「いや、見慣れすぎて違和感の欠片も感じなかった」」
「………」
声を揃えて即答する二人に言葉が出ない加古さん。なんかすみません、こんな俺達で。
おしゃれしてる女性陣に対して普段着なままな事に若干申し訳なさを感じていると、何かを決意したように一つ頷いた加古さんが男性陣を見渡し。
「浴衣、買いに行くわよ」
有無を言わさぬ気迫で凄む加古さんに、俺達は揃って「お、おう」とだけ返した。
別に服なんかなんでも良いじゃん精神な俺達(二宮さんのスーツ愛は除く)は、若干面倒臭そうに加古さんについて行き店に入る。店に来るまでは面倒臭そうにしてた俺達だったが、着いてみると店内には予想してたよりも多種多様な浴衣が並べられており、一気にテンションが上がる。
「おっ。これ格好いいな。三日月ってのがそそられるな」
「これも良いんじゃないか?袖が破れやすいやつ。本気出す時ビリって破けばかなり格好良いと思うぞ」
「スーツタイプのはないのか?」
実際に浴衣を目の前にしするとテンションが上がった俺達は、あれでもないこれでもないと、色んな浴衣を物色し出した。
「おお、これも格好良いな。いや、こっちも捨てがたい」
「おい見てみろよ太刀川。この帯頑張れば破けるってよ。本気出す時ビリって破けばかなり格好良いんじゃないか?」
「スーツタイプの物はないのか?」
「え、あの……お客様……」
「スーツタイプの物は置いてないのか?」
「え、あの……て、店長ー!」
二宮さんの愛が重い。
「いやー、浴衣がこんなに種類あるとは思ってもみなかったな。どれにするか迷うわ」
「破けるやつにしようぜ破けるやつ。本気出す時絶対格好良いぞ」
「お客様大変お待たせしました。先程従業員から話しを聞きましたが、当店にはお客様の希望する商品は無いかと」
「スーツタイプはないのか?」
「お客様、当店にはスーツは置いてありません」
「スーツではなく、スーツタイプの浴衣を探している」
「お客様の着ているスーツに帯を巻けばそうなるかと」
「なるほど、その発想は無かったな。ではベルトタイプの帯を」
「うちにスーツはないって言ってますよね?話し聞いてますか?」
「うおお!あれも良いがこれも良い!一体どれを選べば……全部着るか」
「おい太刀川!見てみろよ!これ最初から破けてるやつだってよ!やばいなこれ!初っぱなからクライマックスだぜ!」
「何を怒っているんだ?俺はスーツタイプの浴衣とベルトタイプの帯を買いに来ただけだぞ」
「だからうちにはスーツはねぇっつってんだろ。帰れ」
「ほう、俺にそんな口を聞くか………いいだろう、相手になってやる。死ぬ気でかかってこい」
「帰れ」
さて、俺は普通のやつを探してきますか。おや?黒江さん達どうしてそんな離れた場所にいるんですか?
「「「あれらの知り合いとは思われたくないから」」」
ごもっとも。
なんとかかんとか浴衣を購入し、やっとこさ祭り会場へたどり着いたが、なんかもう皆疲れてる。
「あの店長中々骨があったな。この俺に一歩も引かずに向かってくるとは」
「俺、あんなに激怒する店長初めて見たぞ」
「最終的に帰れじゃなく、かかってこいやあ!とか叫んでたしな」
「私、恥ずかしくてもうあのお店行けないわ……」
「大丈夫じゃないか?大声で、かかってこいやあ!て叫んでたし」
「それ、そういう意味じゃないと思います」
一悶着あったが、やっとお祭りを回れるので、自然とテンションが上がってくる。
ちなみに二宮さんを除き、皆が着ている浴衣は夏っぽい浴衣だ。二宮さんは店員さんとのバトルの末、スーツの上に黒の浴衣を羽織ると言う斬新を通り越して超越者スタイルを築き挙げた。もう見てるだけで汗が出てくるわ。てかあの人この糞暑い中あんな頭おかしい格好しててなんで汗かかないんだ?魔人かなんかなのか?
「ねえ、亮平君」
奇跡のスタイルを築き上げた二宮さんの体温調節機能の神秘に頭を捻っていると、木虎さんが小声で話しかけてきた。
「なんですか?」
「多分あの人達、お酒飲むわよね」
「そりゃ祭りですから飲むんじゃないですか?」
言いにくそうに聞いてくる木虎さんにそう返すと、木虎さんは眉間に皺を寄せ難しい顔をする。え、なんで?
「……田中さん、多分木虎先輩は前の旅行の時みたいにならないか心配してるんだと思います」
ああ、そう言う事か。
以前の惨劇を繰り返すんじゃないかと心配する黒江さんと木虎さんに、流石に公共の場なら大丈夫じゃないですか?と返すと、疲れた顔でお二人が指を指す。
「「あれ見て」」
声を揃え指を指す二人に従い、視線をちらり
「あっそれ!あっそれ!」
「あっははは!あっははは!」
「金魚ってさ、本当に救われてんのかな?」
「田中。祭りだからと言ってはしゃぎすぎるな。そこは泳ぐ所じゃないぞ」
いや、はえーよ。
機動30は越えてそうなスピードで酔っ払った大人組に、呆れたようにつっこみを入れる。
「堤君堤君!なんかやって!」
「任せろ加古ちゃん!ほーらご覧あれ!男堤がぁ……お酒飲んじゃった!」
「あっははは!あっははは!」
「くっ、また救えなかった……俺はこの程度の救いも成し遂げられない奴だったのか……!」
「遅い、脇が甘い、もっと相手を良く見ろ。他の客の迷惑になるから早く田中をそこから出せ。ん?良く見たら何人もいるな。どれが本物の田中だ?」
それ全部金魚っす。
即効で酔っ払った大人組みを放置し、俺達は祭りを楽しむ事に。
「色々ありますね。俺祭りに来るの久しぶりですが、やっぱりこの雰囲気は良いですね」
「私は余りこういった人混みのある場所は来ませんが、確かにワクワクする感じがしますね」
「二人共何か食べたい物ある?お姉さんが買ってあげちゃうわよ?かき氷食べる?もしくはとうきび?それとも、わ、た、が、し?」
「「自分で買うのでお構い無く」」
膝から崩れ落ちる木虎さん。綺麗に膝から崩れた木虎さんを黒江さんと一緒に起こし、これ上げるんで元気出して下さい。と言って堤さんから貰った飲み物を手渡す。木虎さんに抱き付かれ黒江さんからローキックを貰った。解せぬ。
手渡した飲み物を嬉しそうにゴクゴクと飲む木虎さんと、ローキックを繰り出す黒江さんを連れ、周りの楽しそうな喧騒をBGMに色々な出し物や屋台を見て回る。辺りから漂う美味しそうな匂いや面白そうな屋台に目を奪われつつ、急にテンションが高くなった木虎さんをあやしながらトコトコと歩いていると、何やら聞き覚えのある声が。
「ツインスナイプ!」
「あ、また外れた」
「佐鳥さん下手くそだね」
「ねー」
「ツインスナイプ(笑)」
声のする方へ顔を向けると、そこには射的で二丁を使い豪快に外しまくっている佐鳥さんが居り。周りには豪快に外す佐鳥さんに野次を飛ばす子供や嘲笑う木虎さんの姿が。あの人いつの間にあそこに?素早く移動し子供達に混じりプークスクスと笑う木虎さん。佐鳥さんはそんな野次等スルーし、ツインスナイプ!ツインスナイプ!と叫び一心不乱に的を狙っていたが
「ツインスナイプ(爆)」
「ツインスナイプ!」
「ツインスナイプ(草)」
「ツインスナイプ!」
「ツインスナイプ(草原)」
「ツインスナイプ!」
「ツインスナイプwww(大草原)」
「うるせぇぇぇ!」
絶え間なく合いの手を入れる木虎さんに我慢出来なくなり遂にキレた。
「ツインスナイプ(こんにちは佐鳥先輩)」
「木虎、お前か!さっきからふざけた事言ってたのは!」
「ツインスナイプ?(ふざけた事ってなんですか?私はツインスナイプとしか言ってませんよ?)」
「何言ってるかわかんねーよ!ちゃんと喋れ!」
「ツインスナイプ?(分からないんですか?佐鳥語で話してるのに?)」
「おい、良くわからんが、バカにしてるのは伝わってくるぞ。今すぐそれを止めろ。止めないと俺のツインスナイプの餌食にするぞ」
「ツインスナイプwwwww(wwwww)」
「ツインスナイプ!」
ぽんっぽんっと音を立て発射されたコルクが木虎さんのおでこにヒット。
「ふっ。広くて狙いやすい的だったうわっ!」
「ツインスナイプー!(何すんだこのやろー!)」
今度は木虎さんがキレた。ツインスナイプ!ツインスナイプ!言いながら佐鳥さんに襲い掛かるその姿は地球外生命体のように見えちょっと怖い。木虎さんどうしたんだろ?お祭りでテンション上がりすぎたのかな?ん?なんですか黒江さん?え、木虎さんが飲んでたのは何かって?堤さんから貰ったやつです。え?あれお酒?まじっすか?
木虎さんが持っていた空き缶を黒江さんから手渡されたのでラベルを見る。
【これで君も皆と仲良し!言語を越えた友情を掴め!コスモサワー!】
堤さん後でコスモチャーハンの刑に処します。加古さんに宇宙を感じれそうなチャーハンを作って下さいってお願いしときますからね。てかなんてもん渡してんだよあの人。俺が飲んじゃってたらどうする気だったんだ。酔った勢いで黒江さんに求婚してしまうかも知れないじゃないか。まったく。
「結婚します?」
「いつします?」
分かった、ごめん、謝る。俺の負け。謝るからそんないい笑顔で詰め寄らないで。
「普通に返したのになんで照れめるんですか?自分が言うのは良いのに言われると照れるの本当に可愛い。そういうとこ好きですよ?」
やめてって言ってるじゃん!?なんで追加攻撃してくるの!?
「可愛いから」
ぐぬぉぉぉぉぉ!!こんちくしょー!あーいいですよ!そっちがその気ならこっちだってやってやるんだから!
ここぞとばかりに攻めてくる黒江さんに、心の中で反撃ののろしを上げる。そしてゴロゴロ転がりたい気持ちをなんとか落ち着かせ、ニヤニヤしながら見てくる黒江さんに向き直り咳払いを一つ。
「残念ながら黒江さんより可愛いものなど存在しません」
「っ!」
「そして黒江さんより好きなものも存在しません。ベタ惚れです」
「っ!ちょ!やめ!」
「攻められると弱いの黒江さんもだよね?そういうとこ本当に可愛い」
「っっっ!!ぐ、このっ」
「照れてるの?」
「べっ!別に照れてなんか!」
「浴衣可愛いですね?髪飾りも良く似合ってます。てか照れてる黒江さんめっちゃ可愛い。なんでそんなに可愛いの?」
「っっっ!!~~~!!ワン!」
じゃれつかれました。
ウー!ウー!ワンワン!とじゃれついてくる黒江ワンにお手お手しながら焼きそばで餌付けしていると、嵐山さん、綾辻さん、時枝先輩のお姿を発見。これは挨拶をせねばとリード代わりに黒江ワンの手を握り、いざ突撃。行くぞ黒江ワン!駆け足だ!
「韋駄天」
「それは駆け足過ぎ」
普通に駆け寄りました。
「おっ。亮平と黒江じゃないか。久しぶりだな」
「あらあら、仲良く手を繋いじゃって。ふふっ、可愛い」
「こんばんは亮平君、黒江ちゃん。二人共佐鳥がどこに行ったか知らない?」
お三方に駆け寄り声をかけようとしたら、先に挨拶されてしまった。流石A級だなと感心しつつ、俺と黒江ワンも今晩はと挨拶を返す。
嵐山さんは弟さんと妹さんを引き連れ祭りに来ていたらしいが、ツインスナイプ佐鳥さんが射的をするぞー!と言い飛び出し、それに付いて行ってしまったらしい。まじか、野次飛ばしてたの嵐山さんの弟さん達だったのか。
「佐鳥さんなら射的でツインスナイプしつつ木虎さんとツインスナイプしてますよ」
佐鳥さんの現状を俺なりに頑張って説明したら。黒江さんに、いや、間違っては無いけど……みたいな顔された。嵐山さん達は頭にでっかいハテナを浮かべている。すみません、俺の語録力ではそれ以外に表現出来ません。
「まあ楽しそうにやってるならそれでいいさ。木虎は二人に遠慮して離れたのか?」
「酔ってツインスナイプに絡みに行っただけです」
「酔っ?え?藍ちゃんお酒飲んでるの!?」
「いや、飲んだと言うか、俺が飲ませてしまったと言うか……」
かくかくしかじかと経緯を説明。
「ああ、それは堤さんの悪のりのせいだから。亮平君が気にする事ないよ」
最近常に酔っぱらってるみたいなテンションだから気にしないでいいよ。と時枝先輩から慈悲あるお言葉を頂いた。ありがたやありがたや。
「田中さんって、時枝先輩だけはさん付けじゃなくて先輩って呼ぶんですね?なにか理由があるんですか?」
慈悲の塊である時枝先輩に手を合わせて拝んでいると、黒江さんが不思議そうに訪ねてくる。ふむ、そう言えばなんでだろ?なんか時枝さんって呼ぶより時枝先輩って呼ぶ方がしっくりくるんだよね。………ふむ。
「俺にとって時枝先輩は、時枝先輩ですから」
こう言う感じの先輩が居たら凄く頼りになりそうだから、ついそう呼んじゃうんです。と付け加えると、時枝先輩がちょっと照れたように頬をポリポリ。なんか可愛い。
「んん~?それは私達は頼りないって事なのかな~?」
「ははっ。確かに充は頼りになるからな。でも俺達だってそこそこ頼りになるんだぞ?」
綾辻さんがうりうりと頬っぺに指を指し、嵐山さんが爽やかな笑みで頭をポンポンしてきた。ん?なにか誤解させちゃったかな?
「勿論お二人も頼りにしてますよ?」
誤解を解く為二人も頼りにしている事をちゃんと伝えたが、うりうりポンポンを止めてくれなかった。何故?
「二人共楽しんでやってるんですよ」
浴衣天使の助言を受け、好き勝手やってる二人に視線を向ける。ニヤニヤしてた。ほう、この田中を謀ってましたか。ならばお二人には苛烈な報復をせざる負えませんな。
そう誓った俺は、まずはうりうりポンポンしてくる二人の手を素早く取り攻撃を防ぐ。ふふふ、まずはその攻撃を防がせて貰いますぞ。そしてここからが俺のターンだ!
「空いてる手でうりうりポンポンが続いてるけどね」
時枝先輩から的確な指摘を受ける。しかも俺の両手は塞がってるからこれ以上防ぎようがないと言う罠。流石A級部隊です。こんな高度な罠を仕掛けるとは。
「田中さんはたまに凄くバカになりますよね」
否定しない。
それから暫くうりうりポリポリ攻撃を受けてたが、されるがままの俺を哀れに思ったのか、時枝先輩がそろそろ花火が上がる時間になると言い助け船を出してくれ、解放される。
「すまなかったな。亮平を見てると弟みたいに思えて構いたくなってしまうんだ」
「私は単純に可愛くてやっちゃった。ごめんね?」
「いえいえ、この程度の事で喜んで貰えるならいつでもどうぞです。ね、黒江さん」
「なんでそこで私に振るんですか」
「俺も黒江さんにうりうりポンポンしたいからです」
「………」
「はい、ごめんなさい」
じとっとした目で見てきたので即座に謝り、苦笑いしている3人に別れを告げ花火が良く見れそうな場所へ移動する。人混みが苦手な黒江さんの為にどこか良い場所はないかな?と思いながらトコトコ歩いていると、いつの間にか花火会場から離れまくっていた。確かに人はいないけどここじゃ花火が良く見えないので、再び移動しようと思ったら黒江さんに手をぎゅっと握られた。なにこれ嬉しい。でもこれじゃ動けない。
「黒江さん、ここじゃ花火が良く見えないので、他のとこに行きましょ」
「ここで良いです」
「でもここじゃ建物とかあって良く見えないですよ?」
「田中さんと一緒に見れればどこでも良いです」
「お疲れ様でした」
「私を置いて帰っちゃうの?」
俺が黒江さんを置いて帰るとか花火がメテオラになる位ありえん。にやにやしながら訪ねてくる黒江さんに降参ですとばかりに空いてる手を上に上げ、意趣返しに握られた手をぎゅっと握り返し空を見上げていると、半身に寄り掛かる感触を感知。黒江さんが腕にしがみついていた。え!どうたの黒江さん!?
「す、少し肌寒くなってきたので、田中さんの熱を分けて貰いますね」
「今の俺は分けても分けても無くならない程発熱してると思うんですが、宜しいでしょうか?」
「が、我慢してあげます」
「幸せ過ぎて俺が打ち上げ花火になりそうなんだけど、空に舞って来ていいでしょうか?」
「田中さんが居ないと寂しいので、我慢して下さい」
やべえ、なんか色々やべえ。これはあれか、お祭り効果か?お祭りとはここまで人を開放的にさせるものなのか!?そうなのか!?教えてG○ogle先生!
「………今日の黒江さん、凄く、積極的です」
結構いっぱいいっぱいになりながら、絞り出すように言うと。黒江さんがちょっと拗ねたように口を尖らせ。
「………だって、田中さん、木虎先輩に抱き付かれたり、綾辻さんにうりうりされてて、それ見てたらなんかもやもやしちゃって…………取られたく、ないなって、思って……それで」
「アホか」
「あう」
頓珍漢な事を言い出した。見当違いな事を言いながら腕にしがみつきぶつぶつと言う黒江さんの頭をポンと叩く。
「何を心配してるか知らないけど、俺は黒江さん一筋って言ってるでしょ?なのにそんな疑うような事を考えるとは、黒江さんはまだまだ修行が足りん」
「うう……だって……」
弱々しく寄り掛かってくる黒江さんに悶え死にそうになるが、アホな事を考えた黒江さんを叱る為になんとかそれを耐え。咳払いを一つ。
「まさか俺の想いが疑われる日が来るとは思ってなかった。これはあれです。修行のやり直しです」
「うう、修行って、なにするんですか…?」
「それはあれです、えっと、その……デ、デート的な、ものをして、俺がどれだけ黒江さんを好きなのかをちゃんと分かって貰おうかと、オモッタリシチャッタリ……」
語尾が小さくなるのはご愛敬。求婚は簡単に出来るのに、デート的なものに誘うのは恥ずかしくなる俺はどこかおかしいのだろうか?いや、なんかすぐ先の事になると現実的過ぎて恥ずかしくなると言うか……ね?分かるでしょ?てか分かって!
寄り掛かられた半身どころか、全身が燃えたぎるように暑くなるのを感じつつ、恥ずかしさから空を見上げたまま黒江さんからの返答を待つが、応答が無い。え、まさか嫌がられた?無言の拒絶と言う死の宣告ですか?ちらり
「デート……デート……私と、田中さんで、デート……え?デート!?」
突然大声を出す黒江さんに驚き軽く跳ねる。び、びっくりしたぁ。
「え!?デート!?私と田中さんが!?え!本当に!?」
「は、はい!い、嫌でなければですが!」
「嫌な訳ないでしょ!?なに言ってるの!」
「ごめんなさい!」
「なんで謝るの!もしかして嘘なの!?」
「嘘じゃありません!ごめんなさい!」
「だからなんで謝るの!」
「それじゃありがとうございます!」
「こっちこそありがとうございます!」
「どういたしまして!」
「こちらこそ!」
何故かペコペコ合戦を繰り広げる俺達。、空からはバーンって音が響き渡る。でも俺達はそれどころじゃ無かったので、正気に戻ったのは花火大会終了のアナウンスが流れる頃でした。黒江さんは楽しみにしていた花火が見れなかった事に酷く落ち込んでいたが、来年また見に来ましょうと言うと、パァっと音がするほどの笑顔を浮かべ何度もコクコクと頷く。
「来年の花火大会も楽しみですが、デデデ、デートも、凄く楽しみにしてますからね?ね?」
私、凄く楽しみです!的なオーラを放ち、握った手をブンブンと振る黒江さんを見て思った。………デートって、失敗するとかあるのかなぁ?ないよね?好きな人とお出かけするんだから失敗とかないよね?ね?
余りにも楽しみオーラを放つ黒江さんを見て、ちょっとプレッシャー的なものを感じ出した俺は、今度デート慣れしてそうな二宮さんに相談する事を誓った。
「沢山楽しみができました!ありがとうございます!」
でもニコニコと嬉しそうに笑う黒江さんを見てたらプレッシャー等どこかに消し飛んだ。こんなに嬉しそうな黒江さんを見れただけで今日の花火大会は来た意味がありまくりだったな。さて、夜も遅くなってきてるので黒江さんを送って行きますか。行くぞー黒江ワンー。ハウスの時間だー。
「ワン!」
黒江さんはノリノリだった。
「あの、もう花火大会終わったんですが……」
「二宮君二宮君!追加!追加のメテオラ上げて!」
「ちょっと待ってろ。田中を移す水槽を探してからだ。太刀川、お前も手伝え」
「俺は、田中だけでも救えたんだな。健康に育つんだぞ?水から出られるようになったら、俺が鍛えてやるからな?」
「ほーら少年少女達!よーく見てるんだぞー?いくぞー?堤の浴衣がぁ……ビリビリになっちゃった!」
「「おー」」
「ちょ、堤さん!弟達に変な物見せないで下さい!」
「ツインスナイプー!(おでこですか!おでこなんですか!私のおでこはそんなに的にしやすいんですか!)」
「うおおお!こえーよお前!なんでツインスナイプとしか喋んねーんだよ!悪かったよ!謝る!だからもうついてくんな!」
「ツインスナイプー!(ツインスナイプー!)」
「うおおお!怖ぇぇぇ!」
「………綾辻さん、木虎が、木虎が……」
「藍ちゃん楽しそうねー。亮平君と双葉ちゃんも可愛いかったし。来て良かったわねー。来年もまた来ましょうね?」
「……僕がおかしいのか?僕だけがおかしいのか?」
「ツインスナイプー!(佐鳥まてぇぇ!)」
「うわああ!なんなんだよお前ぇぇぇ!」
「帰れ」
久しぶりにお祭り行ったら人混みの多さに驚愕。うちの近辺こんなに人居たっけ?
本編書かずに番外編ばかり増えてく事をどうか許して……そして笑える程暑くなってきたんで、皆さんどうかお体には気を付けてお過ごし下さい。それでは!