黒江さんに強烈なビンタを頂戴した後、俺はある事実に気が付いた。
「黒江さんA級なのに俺C級ってやばない?」
好きな子は守ってみたい派の俺は取りあえず双葉さんと同じA級を目標に、まずはB級昇格を目指してポイントを稼ぐ事にした。したんだが……
「皆強くね?」
ポイント稼ぐどころか寧ろ取られてます。なにこれこいつら本当に俺と同じC級?
使いやすいと言われてる弧月を使うが剣道すらしたこと無い俺はめーん!と叫びながら弧月を降り下ろす事しか出来ない。当然隙だらけになった所をズバッ!ズドンッされてアボン。ならばとスコーピオンを使い全身から生やしてタックルだ!と果敢に攻めたら自分で自分を切り裂きアボン。ならばならばとアステロイドを使い甲子園球児ばりの豪速球をお見舞いしてやろうと意気込むが玉が言うこと聞かずアポン。スナイパーは言わなくても良いよね?縁日の射的すら当たらんのに動く的なんて当てれるかよ。てか皆本当にC級?なんでそんなに強いの?俺まだ一勝もしてないんだけど?
ここにいるのは入隊試験に受かったばかりの人達。つまりスタートラインは一緒の筈、なんだがあまりの勝てなさに本当は皆B級なんじゃね?と疑ってしまう。
「10対0。空閑悠真の勝利」
その最たる例がこの空閑さんと言う人だ。もうすぐB級に上がるだろうと言われてるこの人は俺と真逆で負け知らずでポンポコポイントを稼ぎまくっている。これが稼ぎ頭と言うものか、黒江さんもこういう人がいいのかなぁ。いや、何弱気になってるんだ!黒江さんを守れる男になるって誓ったばかりだろ!
自らの誓いを思い出し弱気になった自分を戒めた俺は口を3にしながら飄々と戦闘ルームから出てくる空閑さんに声をかける。
「空閑さん」
「ん?」
ジュースを買おうとする空閑さんに声をかけ流れる様な動作で土下座し。
「弟子にして下さい」
「俺も弟子みたいなものをやってるので無理です」
即答で断られた。
「ならば空閑さんの師匠を紹介して下さい」
「勝手に紹介したら小南先輩が怒りそうだからそれも無理」
「その小南先輩とやらの怒りは俺が静めるのでなんとかお願いします」
「小南先輩が怒ったら面倒だぞ?」
「愛で乗り越えてみせます」
「ほほう…あんた、本気だね」
「男としてのあれこれが掛かってますので」
真剣に頼み込む俺を見てうむうむ、と頷く空閑さん。これはいけるか?と思っていると小柄な隊員が空閑さんに近付いて来る。
「遊真先輩~」
「ん?ミドリカワか。どうした?」
「模擬戦しよう!」
「ほほう。この前やられたばかりなのにもう挑んでくるか」
「今度は負けない!米やん先輩と特訓したからね!」
「ふむ。それじゃあその特訓の成果とやらを見せて貰おう」
そう言って空閑さんは再び部屋へ向かって、ってちょっと待って!
「空閑さん!俺の話しはどうなったんですか!」
俺の存在が無かったかの様に模擬戦をしようとする空閑さんを慌てて止めるとミドリカワさんが不思議そうな顔で俺を指差してきた。
「誰?」
「弟子希望の少年」
「誰の?」
「わたくしです」
「遊真先輩弟子なんて取るの?」
「いやいや、わたくしが弟子を取るなど恐れ多い。と言う訳で断らせて頂きます」
すまんね、と言いミドリカワさんと共に別々の部屋へ入って行く空閑さん。え?駄目なの?さっき中々見所ありそうだな的な感じで頷いてたじゃん。ぐぬぬ、ダメと言われてハイそうですかと言える程大人しい俺じゃないぞ、絶対弟子にして貰うからな!
黒江さんの誓いとは別に新たな誓いを立てた俺は模擬戦が終るまでずっと膝を抱え空閑さんの入った部屋をじーっと見詰めていた。
「くそ~また勝てなかった、ってまだ居る!てか怖っ!」
模擬戦部屋から出た緑川さんが空閑さんの部屋を見詰める俺を見て後ずさる。失礼な人だな、こんな一生懸命な俺を見て後ずさるなんて。てか今の俺そんなに怖いのか?頼み事をするのに怖がらせたりしたら申し訳ないから空閑さんが出てきたら驚かせないようなるべくゆっくり近付くとしよ、あっ、出てきた。
「ふむふむ、ミドリカワも中々腕を上げたがまだおれには勝てな……ふむ、これがホラーと言うやつか。なるほど、確かに怖いかも知れないな」
緑川さんの少し後に部屋から出てきた空閑さん見て今すぐにでも駆け寄りたかったが、緑川さんのように驚かせてはいけないとペタリ、ペタリと這うようゆっくり近付く。するとそれに合わせるようにゆっくりと後ずさる空閑さん。え、なんで?
「空閑さん、弟子に、弟子に、デシニシテクダサイ。オネガイシマス」
後ずさる空閑さんを見て何かやらかしてしまったと悟った俺は、少しでも印象を良くして貰おうと低姿勢でゆっくりとこうべを垂れ心を込めお願いする。
「ひっ!」
地面に擦り付けんばかりに空閑さんに頼み込んでいると近くで小さな悲鳴を上げる声が聞こえてきた。ゴキブリでも出たのか?と思いながら一度顔を上げ声のした方を見ると顔を青くした木虎さんが涙目で俺を見て震えていた。
あれ?空閑さんは?
辺りを見渡したがいつの間にか空閑さんと緑川さんがいなくなっていた。まじか、俺なりに全身全霊を掛けて弟子入りを申し込んでたのに何も言わずにいなくなるなんて酷くない?
「そう思いません?」
「ひっ!」
首をぐるんと回し木虎に訊ねると、木虎さんがドスンッと音をたて尻餅をついた。うわ痛そう、てか結構いい音したけど木虎さんって意外に重い?
そんなちょっと失礼な事を考えながら目的の相手がいなくなり低姿勢でいる必要が無くなった俺は立ち上がり服に付いた埃を払った後、中々の音と震動を放ちながら尻餅をついた木虎さんにそっと手を差しのべる。
「大丈夫ですか?」
「ひっ!こ、来ないで!わ、私を呪ったら切り刻むわよ!」
何やら盛大な勘違いをしているご様子の木虎さん。もしかして俺悪霊か何かと思われてる?
お尻を抑え涙目で凄む木虎さんに悪霊じゃありませんよと伝えようとした口を開きかけた時、ふとある事に気が付いた。この人確かA級だよな。A級って言ったらC級なんか目じゃないぜ!蹴散らしてやるぜ!って位強い人達の事だよな……ふむ。
当初の目的であった空閑さんがいなくなってしまったが変わりにもっと凄そうな人をゲット出来そうな予感がした俺は、このチャンスを逃さんとばかりに四つん這いになり怯える木虎さんにゆっくり、ゆっくりと近付き腹の底から声を出す。
「デシニシテクレナイトタベチャウゾォォォォォォォォ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!来ないでぇぇぇぇぇ!!」
黒江さんに勝るとも劣らぬ見事なビンタを頂いた。が、挫けず何度もトライする。何度かビンタを貰っては地を這うを繰り返した所、顔が腫れ本物の悪霊っぽくなった俺に木虎さんが「分かった!弟子でもなんでもして上げるからこっち来ないでぇぇぇぇぇ!!」と言ってくれなんとか弟子入りする事に成功した。やったね!師匠ゲットだぜ!
「今度あんなふざけた真似したら本気で怒るからね!」
代わりに正気になった木虎さん何発か拳骨を頂いたが些細な事だ。これからよろしくお願いします木虎師匠。
プンプン怒っていた木虎さんだったが、師匠と呼んだ途端ニヤニヤとにやけ出し上機嫌になったのでこれなら友好な関係を築けそうだと一安心する俺であった。