黒江が好きぃぃぃぃぃ!!   作:ユルい人

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これが私の精一杯(小声)


第16話

目を開けるとそこは空閑さん以外何もない場所だった。まずは純粋に戦闘能力をみる為に余計な障害物を除いたマップにしたらしい。

 

「準備はいいかホラー少年?」

 

だらんと腕を垂らしたままの空閑さんからの問い掛けに「はい」と答えると、それを合図と言わんばかりに空閑さんが地面を蹴り向かって来る。

 

速い。

 

以前も思ったがやっぱり空閑さんの機動力は尋常じゃない。瞬く間に眼前まで来た空閑さんがスコーピオンを振るうのに合わせる形で俺もスコーピオンをぶつける。そのままつばぜり合いをしているともう片方の手からもスコーピオンを出して来たのをシールドで防ぎつつ一旦後ろへ跳ぶ。

 

「行きます」

 

間を置いても速攻を掛けられるだけだと思い即座にアステロイド放ちそれを追う形で空閑さんに向かい駆けるが、アステロイドが当たる直前、瞬間移動かと見間違うスピードで横へ移動し避けられる。移動した空閑さんはしゃがんだ姿勢で居たが、そのままの姿勢で足にグッと力を込め再び眼前まで迫って来る。

 

「シールド!」

 

咄嗟にシールドを張り振りかぶるスコーピオンを防ぐ。

 

「グラスホッパー、良くそれ使えますね、俺じゃ頭が追い付かなそうですよ」

 

使った事は無いがあんなスピードで動いて即座に行動に移せる気がしない。実体だったら脳が揺れる処の騒ぎじゃないだろそれ。

 

「感覚で使うもんだよ。戦っていればその内覚える」

 

なんとか防いだスコーピオンとシールドが競り合う中、軽い口調で言う空閑さんに、どこの戦闘民族ですかと言い放った後左足を踏み込み体を回転させ力任せにシールドごと空閑さんを弾く。若干間いた距離に一息付く間も無く右足に力を込め前へ飛ぶ。前のめりになりながら向かう俺に少し吹き飛んだ空閑さんが直ぐ様体勢を建て直し同じ様に向かって来る。

 

体勢建て直すの早くない?

 

少しの焦りもなく向かって来る空閑さんに若干の恐怖を感じながらも田中は急に止まれない。と言うことで

 

「よいっ、しょおおおお!」

 

気合い一閃。小細工無しで空閑さんに向けスコーピオンを振るう。それに応戦するように振るわれた空閑さんのスコーピオンとぶつかり合い。からの

 

「おりゃあああ!」

 

巴投げ。

 

スコーピオンがぶつかり合った瞬間後ろへ倒れ込み空閑さんを蹴り飛ばす。本来なら後方に蹴り飛ばす技だがトリオン体の素敵ボディのお陰か上空へ蹴り飛ばす事に成功。

 

「アステロイド」

 

すぐさま上空へ蹴り飛ばした空閑さんのやや右よりに向けアステロイドを放ちダッシュ。アステロイドが着弾する少し前に空閑さんが左手を伸ばし瞬間移動。ほぼ予想通りの位置に移動した空閑さんに走った勢いのまま斬りかかる。が、それもシールドで防がれる。

 

ですよね。

 

一筋縄ではいかないなと呟き。シールドを展開した空閑さんから一旦距離を取ろうとした時、右足に違和感が。

 

「足元がお留守だよ」

 

変態スコーピオン使いの真価発揮。気付いたら爪先から出たスコーピオンで足首を切り取られていた。あれ?この人神様?

 

足首を切られたせいでバランスを崩した俺に空閑さんの追撃が。この体勢では避ける事が出来ないのでシールドを展開。だが空閑さんはそんな事知ったこっちゃないとばかりに連撃をかましてくる。連撃により割れるスコーピオン、それに伴い亀裂が広がるシールドと再び錬成されるスコーピオン。無表情でガンガン攻め込んで来る空閑さんにこれはいかんと思いタイミングを見計らいシールドを消し足払い。お返しにその厄介な機動力削がさせて貰います。

 

「む」

 

突然消えたシールドに僅かながらに前のめりになった空閑さん目掛けてお返しの蹴りを放つが、空閑さんはそれを避ける事なく倒れる体そのままにスコーピオンを振るってくる。

 

なるほど、そっちがそうくるなら…うん

 

「交換こ、です!」

 

目眩まし程度に生成したキューブを囮に、左腕の代わりに空閑さんの左足を刈り取る。

 

なんとか相討ちに持っていけた事に喜ぶ間も無く、バランスを崩し倒れるであろう空閑さんにこのままの勢いで攻め込もうとしたが。グラスホッパーで一気に後方に空閑さんが飛んで行く。チャンスを逃したかと少し悔やんだが、気持ちを切り替え立ち上がり空閑さんを見据える。………刈り取った筈の空閑さんの足になにやら違和感。

 

「何か生えてる」

 

「スコーピオンにはこういう使い方もあるんだよ」

 

覚えておいて損はないよ。と言いながら倒れるどころかしっかりと地にスコーピオンを着け立つ空閑さんにまじかこの人と驚愕したが、どちらにしろ機動力は確実に落ちてるだろうと考え立ち上がる。空閑さんの一番厄介な所はあの機動力だ。戦闘センスも確かに厄介だが、グラスホッパーを絡めた動きが合わさるとそれが変態染みて来る。この人と相対する時はまずその動きをどうにかしなきゃいけない。一先ずあのロボットみたいな足ではそこまでの動きは出来ないだろうから落ち着いて動きを見ながら戦っ!

 

空閑さんの手から何か伸びてくるのを感じ咄嗟に避ける。避けた先に見えるのは鋭く伸びきったスコーピオン。映像で見るよりも早く予想よりも予備動作が少なかったので回避出来たのは運が良かった。

 

「これが……」

 

鳴らない筈の喉をごくりと鳴らしスコーピオンを放った空閑さんを見る。

 

「影浦さん対策って言ってたからね。これを見せないと意味がないだろ」

 

外れちゃったけどね。と言い不敵に笑う空閑さんをちょっと格好いいなコンチクショウと吐き捨てながら一つ思った。

 

え?マンモスってこんな早いの?まじか。

 

予想よりも鋭く予備動作の少ないマンモスに驚きつつバランスの取りにく足を庇いながら立ち上がる。

 

「空閑さんって戦闘民族かなんかですよね?」

 

「いや、ただの一ボーダー隊員だよ」

 

「空閑さんみたいなのがただの隊員だったらネイバー全滅待った無しですよ」

 

「そんな事は無いよ。俺より強い人はまだ沢山いるからね。まあ」

 

そのうち越えるけど。と言い向かって来る空閑さんに合わせ俺も前へ飛び笑う。

 

「気が合いますね。俺も同じ、です!」

 

負けませんぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近のお前は猪か何かなのか?」

 

空閑さんとの模擬戦を終え戻った後腕を組み仁王立ちしてた二宮さんの第一声がこれ。何言ってるんだろうか?頭だけでなくついに目までハッピーになっちゃったのかな?

 

「一応人間ですよ?」

 

見て分かりませんか?と人間が猪に見える二宮さんを若干心配しながら問い返すと「比喩に決まってんだろ」と言いながら頭をペシッと叩かれた。

 

「シールドを解いた後の空閑の攻めを何故避けもせず突っ込んだ」

 

「それしかないかなと」

 

「受けと避けはどこいった」

 

「二宮さん達の模擬戦で使いすぎて家出しました」

 

「………」

 

勝った。

 

「でもそのせいで負けたよな?」

 

やっぱ負けだったわ。

 

黙り込む二宮さんの後ろからひょっこり顔を出した太刀川さんにそう言われ、うぐぅとうめき声を上げていると空閑さんが手を上げ近付いて来る。

 

「お疲れ突進少年。強くなったね、中々危なかったよ」

 

ホラーから哺乳類に呼び名を昇格させてくれ………昇格?まあいっか。昇格させてくれた空閑さんがトコトコと歩きながらそう言った言葉に、俺はいやいやと手を振る。

 

「嘘付かないで下さいよ。全然余裕そうだったじゃないですか」

 

「いや嘘じゃないよ、俺は嘘が嫌いだからね。実際前にやった時は避けるだけしか出来なかったのに今回はかなり攻め込まれたからね」

 

「俺はどうやら受けに回るより攻める方があってるようです」

 

二宮さん達相手に攻められるようになるにはまず受けと避けの力を上達させないと攻めるどころかアボンせずに近付く事も出来なかったからなぁ、と瞬殺教室の日々を思い出しつつ空閑さんと先の模擬戦を検討していると沈黙していた二宮さんが。

 

「次は俺とだ」

 

家出したバカ野郎を野生から戻してやると言い部屋へ入って行く。瞬殺教室再びである。まじか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポイントがコスモを感じ始めた辺りで二宮さん太刀川さん空閑さんの地獄協奏曲が終わりを告げ、瞬殺筆頭主の二宮さんが皆を集める。

 

「今日はこの辺で解散にする」

 

「一つ質問いいですか?」

 

「なんだ」

 

「明日もこんな感じに瞬殺教室が行われるのでしょうか?」

 

「訓練だからな」

 

「それなら明日俺の降格が決定するんですが?」

 

「黒江に降格した姿を見せたいなら勝手に降格しろ」

 

「絶対負けられない戦いが明日ある……!」

 

「その意気だ」

 

まあ明日は一ポイントも渡さんがな。と言い残し去って行く二宮さんとそれに続いて出ていく皆さん。協力してくれた皆さんに「どうもお疲れ様でしたまた明日お願いします」と頭を下げ近くの椅子に座り込み背もたれに体重をかけ息を吐く。

 

まさか二宮さんからポイント取れるとはおもってなかったわ。手心でも加えてくれたのかな?いや、そんなもん加えるような神経持ってる人じゃないか。ポイント取った後爆撃機と憑依合体して来たし。

 

「やっぱり強いなぁ」

 

ふぅ、と息を吐きながら背もたれに寄り掛かる。俺達ボーダー隊員はゲームと違い戦えば強くなるなんて単純なもんじゃない。数あるトリガーから自分の戦略(スタイル)にあった物を選び実力を伸ばす。トリオン量というどうしようもない才能はあるが、それを言い訳にする人なんてここにはいない。木虎さんも昔トリオン量が少なかったらしいが、それに腐る事無く上を目指しA級に。三雲さんもトリオン量に悩みがあるが、それに腐る事無く自分の手札を伸ばしている。ここには尊敬出来る人ばかりだ。そして、俺が挑むのはそんな尊敬する人達の中でもトップクラスの人。

 

いつかの訓練の時太刀川さんは言っていた。

 

「気持ちだけでは勝てない」と。

 

それは実感してる。いくら絶対勝ってやると思っても勝てない相手はいる。それは俺だけじゃなく二宮さん、木虎さん、太刀川さん、堤さんもそうだ。あの鬼のように強い空閑さんですらまだ越えるべき人が沢山居る。俺が上を見上げて見てる人達ですら天辺じゃない。天辺に立つ為に必死に戦ってる人達なんだ。そして俺が挑むのはそんな高みに居る人。そんな人にこのままの俺が勝てる………ん?

 

「あれ?もしかして今、弱気になってる?」

 

おや?これはびっくり。どうした俺。そんなキャラだったか?

 

「何考えてんだ俺は?黒江さんに勝つって約束したのに弱気になってどうする。こんなんじゃ黒江さんに合わせる顔がないぞ。下手したら、そんな弱気な男嫌い!もう話し掛けないで!とか言われたら俺は富士の樹海にベイルアウトする自信がある」

 

「なにバカな事言ってるんですか」

 

「うおおおおお!!」

 

びっくりしたぁ!え、なに?誰?泥棒?

 

声のした方を振り向く。

 

「あ、天使だ」

 

「…………ばか」

 

ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

用事が済み急いで来た黒江さんが帰り途中の二宮さん御一行に俺の場所を聞き、教えて貰った部屋に着き中を覗くと椅子に座りぶつぶつ喋ってる俺の姿が。何やってんだあいつ頭おかしくなったか?と思い側に寄り耳を傾けていると何やら本当に頭がおかしかった様子。取り敢えず声を掛け現在に至る。

 

「天使の気配に気付けないとは……田中失格だ……」

 

「何バカな事言ってるんですか」

 

呆れた顔をする黒江さんにごめんなさいと謝ると、黒江さんが眉をハの字にする。

 

「何で謝るんですか?」

 

「や、その。変な所を見せちゃったかなーと思いまして」

 

「いつも変な事してる癖に何を今さら」

 

それについては否定しない。っていや、そうじゃなくて。

 

「聞いて、ましたよね?」

 

「なにを?」

 

「なにをって言うか、その~……シャンプー変えました? 」

 

「バカな話しをするのはこの辺にしましょうか」

 

どうやら変えてなかったらしい。ちょっとイラッとしたように言う黒江さんにびびりつつ、もしかしたら弱気田中は見られてないのかな?なんて都合のいい事を考えていると、黒江さんが手を差し出してくる。

 

「手、貸して」

 

「え?」

 

「早く」

 

「は、はい」

 

椅子を向かい合わせにし座った黒江さんが結構なマジトーンを出してきたので大人しく従うと差し出した手をぎゅっと握られた。

 

なにこれ?柔らかい。

 

突然舞い降りた幸せにちょっとキョドりつつ、握られた手から黒江さんの顔に視線を移すとちょっと赤くなっていた。なにこれ可愛い。ちょっと恥ずかしそうにする黒江さんが余りにも可愛く暴走しそうになる。

 

「えっと、その」

 

あーうーと何を言えばいいのか分からないような仕草で視線をあっちこっち動かす黒江さん。どうしたんだろ?

 

「何かあったんですか?」

 

「いや、何かあったの田中さんでしょ?」

 

「……やっぱり聞いてました?」

 

コクりと頷く黒江さん。おおう、恥ずかしい。まさか独白シーンを聞かれていたとは……

 

「まあそれもありますが。なんかあの時から少し気負ってる気配がしてたので、ちょっと様子見に来ました」

 

「あの時とは、黒江さん告白大事件の事でしょうか?」

 

「……そうです。田中さん照れまくり告白大事件の事です」

 

「……そうですか、黒江さんも照れまくり大事件の事ですか」

 

「……田中さん抱きしめ大事件の事です。田中さん格好良かった大事件の事です。将来の田中さん絶対格好いい大事件の」

 

「わかった悪かった。真面目な話しなのに茶化して悪かった。だから本当にそれやめて?ね?ね?」

 

「……」

 

「いやね、その、男の子には変なプライドと言うか、好きな子に情けない所を見せたく………見せたく………あれ?もしかしてそんなの今さら?」

 

「うん」

 

黒江さんと出会ってから自身起こした数々の行いを振り返ると、土下座正座謝罪の雨霰でプライドも糞も残ってなかった件について。まあ大事なのは黒江さんがどう思ってるかだな。どうなんだろ?もしかしてこんな情けない男嫌い!どっかべイルアウトして!とか言われちゃうのか?そうなのか?

 

「こんな俺ですかどうでしょう?まだセーフですか?」

 

ちょっと、いや、かなり心配になって来たので自分を指指し訪ねると、ため息一つ吐いた後肩を落とし呆れ顔のじと目さんになる黒江さん。

 

「………なんか、真面目に話そうとしてた自分がアホらしくなって来た」

 

「なんかごめんなさい。そして心配おかけしました」

 

「ん。もう平気?」

 

「はい。あんな壮大な約束したの初めてだったのでなんか気負っちゃってました」

 

「壮大だったっけ?」

 

「少なくとも俺にとっては。黒江さんは違うんですか?」

 

「私は田中さんを信じてますから」

 

「………お疲れ様でした」

 

「照れると逃げる癖ありますよね。そう言うとこ本当に可愛い」

 

「っ!」

 

もおおおおおお!まじでなんなの!俺なんかより黒江さんの方が何倍も可愛いっつーんだよ!うおおおおお!!

 

恥ずかしさが天元突破し悶えに悶える俺。だがそんな俺の事情等知ったこっちゃないとばかりに持っていた鞄をガサゴソし出す黒江さん。ゴロゴロと転がり悶える俺なんた見慣れたのか動じる事なく鞄から取り出した小さな紙袋を手渡して来た。え?なんですかこれ?

 

「プレゼント」

 

「え、ありがとうございます………え?今日俺の誕生日でしたっけ?」

 

「いや、私田中さんの誕生日知りませんから」

 

「教えてないからそれが当たり前なんでしょうが、面と向かって言われるとかなり心に来ますね、それ」

 

「じゃあ今度出掛けた時に教えて下さい。過ぎてたらその日にお祝い。過ぎてなかったら………サプライズしてあげます」

 

「サプライズなのに宣言するとはこれいかに。開けても良いですか?」

 

「はい」

 

許可を頂けたので手渡された袋を丁寧に開け、中の物を取り出す。ゆっくりと慎重に袋から取り出し出てきたのは、黒と白が混ざり合ったミサンガだった。取り出した物を見た瞬間「おお!」と声を上げた後黒江さんの頭に装備されてる髪飾りを見る。

 

「同じ色!」

 

「お、お揃いの物が欲しかったのですが、男性に髪飾りはと思いまして、ならばせめて色だけでも一緒にしたいなとオモッタリシチャッタリ……」

 

なにそれ嬉しい!超嬉しい!

 

「すっごく嬉しいです!ありがとう黒江さん!」

 

「ほ、本当ですか?なんかありきたりな物で申し訳ないと思いつつ、でも何か付けて欲しいなと思って、でも男の人にプレゼントあげるの初めてだから何買えば良いか分からなくて、でも」

 

なんだこの可愛い生き物は。幻想種か?ああ、天使か。

 

もじもじしながら言い訳のような言葉の羅列を紡ぐ黒江さんに萌えた後、もじもじさせている手を握る。

 

「ひゃっ!」

 

「黒江さんから貰えた物で嬉しく無い物なんてありません!しかもお揃いの色とかまで考えてくれるとかもう!俺は世界一の幸せ者です!」

 

「そ、そんなに喜んで貰えたなら私も嬉しい、です」

 

照れたように顔を伏せ語尾を小さくする黒江さんに俺の萌えゲージは天元突破寸前。

 

「黒江さん」

 

「は、はい!」

 

「これ、付けて貰っていいですか?黒江さんに付けて欲しいんです」

 

「……ふふっ。しょうがないですね、そのお願い叶えてあげます」

 

「ありがとうございます。では宜しくお願いします」

 

「はい」

 

手に持ったミサンガを黒江さんに手渡すと、どっちの腕に付けますか?と聞かれ少し考えた後左手を差し出した。左手を差し出しお願いすると、なんで左手何ですか?と聞かれたので「右手には既にご利益あるから左手にも欲しいんです」と、返すと黒江さんはなんだそりゃみたいな顔をしながら左手にミサンガ結んでいく。

 

穏やかな顔でミサンガを結ぶ黒江さん。そんな黒江さんの作業を邪魔しないよう腕を動かさないようにしながら顔をじっと見つめていると、その表情のせいか普段見ている可愛い黒江さんがいつもより大人っぽく見えた。

 

「綺麗だな…」

 

「っ!」

 

黒江さんの体がビクリと跳ねる。やべ、声に出しちゃってたか。邪魔しないようにしてたのに、失敗失敗。

 

俺の言葉に動揺したかのように震えた黒江さんを見て今度こそ邪魔しないよう気を付けねばと、自分を戒め再び黒江さんを見つめる事に。

 

「………」

 

「………」

 

無言の時間がゆっくりと過ぎる。何も話してないのに安心感が生まれてくる事を不思議に思いながら丁寧にミサンガを結ぶ黒江さんを眺める。すると今まで感じていた不安が徐々に薄れていくのが分かった。薄れていく不安感に心地好さを感じながら、その心地好さに身を任せていると自然と口が開いていき、気付けばすがり付くように黒江さんの名前を呼んでいた。どうやらまだダメ田中なままのようだ。情けない。

 

無意識に黒江さんの名前を口にした自分に若干の驚きと申し訳なさを感じつつ、ミサンガを結ぶ先から視線をそらさずに「なんですか?」となんでもないように言う黒江さんに、最後にもう一度だけ。と心の中で頭を下げながら残った感情を吐き出す。

 

「心配かけてごめんなさい」

 

「心配なんてしてませんよ。だって田中さんですから」

 

どういう意味だろ?褒められてるのかな?

 

ちょっと気になる事を言われた気がするが構わず想いの丈と願いを黒江さんに晒す。

 

「俺はまだまだ弱いです。しかも弱気にまでなってました」

 

「はい」

 

「言われて気付いたんですが、やっぱり俺気負ってたのかも知れません。黒江さんや皆さんの期待を裏切りたくない、と」

 

どこぞの主人公気取りか俺は。と、らしくもない事を謂っている自分に自分でツッコミを入れ黒江さんの手を強く握る。

 

「黒江さん」

 

「なんですか?」

 

「もう一度、俺を応援してくれませんか?」

 

「一度だけでいいんですか?」

 

「はい」

 

「ん、分かった」

 

そう軽く返事をした黒江さんはミサンガを結ぶのを止め両手で俺の手を握り込んだ後顔を上げ目を合わす。

 

「勝って。私は、誰よりもあなたがそれを成す事を信じてます」

 

黒江さんの言葉を目をつむり体に染み込ませる。不安や気負いをその言葉で洗い流し、息を吐きそっと目を開ける。

 

「はい」

 

うん。今度こそ本当に大丈夫だ。ありがとう黒江さん。

 

 

 

 

 

 

黒江さんから元気を分けて貰い、いつもの調子に戻れた俺はミサンガを結ぶ作業を再開した黒江さんを穴が空く位じーっと見つめる作業に取り掛かる。うん。黒江さんまじ天使。

 

何をしてても可愛い黒江さんをいつまでも見ていたいなぁと思いつつじーっと見ていたら、何故か急に「こっち見んな」と言われ怒られた。解せぬ。でも怒られたならしょうがない。言われた通り目を瞑り黒江さんの作業が終わるのを待つ事に。

 

「まったく……」

 

顔を赤くした黒江さんが呆れたような声でため息を吐くのを感じながら作業が終わるのを待つ事数分。なにやら手を止め顔をじーっと見つめられてる気配が。

 

「終わりましたか?」

 

「っ!ま、まだです」

 

ありゃ。勘違いだったか。また失敗しちゃったな。

 

再び作業の邪魔をしてしまった事を反省し、黒江さんから声がかかるまでじっと待つ事にする。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「……っ。た、田中さん」

 

なんだかさっきより強く視線を感じるなぁと思い始めた頃。黒江さんが僅かに吃りながら声をかけてくる。

 

「はい?なんでしょう?」

 

「……」

 

「?」

 

「……み」

 

「み?」

 

「み、ミサンガは、自然に切れると願い事が叶うと言われています」

 

え、黒江さん急にどうした?

 

「らしいですね」

 

「今の田中さんには、持ってこいのおまじないです」

 

「はい」

 

「で、ですが、その日までにミサンガが自然に切れる可能性はとても低いです」

 

「そうですね。でも俺は黒江さんから貰った物を犠牲にして願いを叶える気はないのでそれは気にしなくていいかと」

 

「っ!このバカは、いちいち人のツボを……!」

 

「?黒江さん?」

 

「ちょっと黙って!こっちはもういっぱいいっぱいなんだから!」

 

「りょ、了解であります」

 

「ふぅぅぅ………ミサンガは……まあ置いておくとして。弱気になった田中さんには何か心の支えが必要だと思うんです。それはミサンガが願いを叶えてくれるとか、流れ星に願い事をするとか……後は……もっと効果のありそうな必勝祈願的なおまじないとか……」

 

「俺には黒江さんが居れば充分ですよ?」

 

「っっ!!~~!………ふぅ」

 

「神頼みする位なら黒江さんが居てくれた方がいいし、心の支えなら黒江さん一人でお守り2万神社分位の効果ありますし、なにより黒江さんが居てくれればなんでも出来ます。だからそんな気を使わなくても」

 

ふにゅ

 

「大丈、夫………ん?」

 

なんだこれ?何か湿り気のある柔らかい感触ががほっぺに伝わってきた。ナメクジでも飛び付いてきたのか?等と思いつつ黒江さんにバレないよう目を開け着弾点に視線を向ける。

 

「~~~!!」

 

するとそこには顔を真っ赤にし、力一杯口に力を入れ一文字にしている黒江さんの姿が。なんだ、飛び付いてたのはただの大天使か。そっか、そっか………そっかぁ……ふぅ……。

 

「黒江さん」

 

「っ!!」

 

名前を呼ぶと一瞬で後ろに飛び離れて行く黒江さん。目はぐるぐるしており顔色はなんかやべぇ。

 

「黒江さん」

 

「は!ふはぁ!ふぁな!」

 

「落ち着いて黒江さん。そして安心して黒江さん。どうみてもやばいのは貴女じゃなく俺。見てこれ、手と膝のバイブ機能が震度7を記録してるの。てか現在進行形で記録更新中だから。しかもスヌーズ機能ついてるから多分落ちた後もバイブすると思う。でもね、それでもね、逝く前に君に言い残したい事があるんだ、良ければ聞いてくれない?」

 

ブンブンと首が取れるんじゃないかと思う程上下に頭を振る黒江さんに、俺は穏やか笑みを浮かべる。

 

「ありがとう。あのね黒江さん、実は俺ね………今日が誕生日だった、ん………だ……

 

「え、ちょ、田中さん!」

 

黒江、さん

 

「田中さんしっかり!死なないで!」

 

黒江、さ、ん……俺、ね

 

「なんですか!」

 

君の事が、

 

「はい!」

 

大好き、なん……だ

 

「知ってる」

 

「良かった」

 

俺のログはそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中さん!田中さん!しっかり!死なないで田中さん!」

 

「双葉ちゃん!」

 

「木虎先輩!田中さんが!田中さんが!」

 

「大丈夫!全部見てたら状況は把握してるわ!くっ、これはかなり羨ましいわね、一体どうしたらこんな事に……!双葉ちゃん!どうしたらこうなれるのか教えてくれる!」

 

「………おい、今なんて言った」

 

「だからどうしたらこんな幸せな事をして貰えるのか」

 

「違うそこじゃない。私が聞いてるのは全部見てたとか言うふざけた発言だ」

 

「あ、やば。口滑った」

 

「は?おい、どこから見ていた。正直に言え。まさか本当に全部見てたのか?もしそうなら今ここで……」

 

「まままままって双葉ちゃん!おおおお落ち着いて!みみみみ見てのは私だけじゃなく皆で!ほ、ほら!あそこ!あそこでさっき居たメンバー全員」

 

「どこにいるんだ」

 

「………おかしい、どこにもいないわね………これはあれね、私見捨てられたわね。仲間を見捨てて逃亡なんてボーダーにあるまじき行為だわ。私ちょっと逃げた人達に説教してくるわ。だからこの話しはまた今度にして今は敵前逃亡した裏切り者を」

 

「そんな事で誤魔化されると思ってるのか?安心しろ、他の奴らも逃がしはしない。地の果てまでも追ってさっきの記憶をベイルアウトさせてやる。必ずだ」

 

「……………ごめんなさい、じゃだめ?」

 

「だめ」

 

「………」

 

「だめ」

 

「………ならせめて、優しくキス、してくれない?」

 

「あっはは!木虎先輩本当に煽るのがお上手ですね!ちょっとこっち来いです!まじでふざけんなです!骨の二、三本は覚悟しろよです!」

 

「ちょまっ!そんな可愛い声で恐ろしい事言わないで!だ、誰か!はっ!りょ、亮平!起きて!師匠のピンチよ!早く助け」

 

「人の彼氏に助けを求めないで貰えます?潰しますよ?いいから黙ってついて来い」

 

「ちょ!まっ!ごめんなさい!つい魔が差したんです!もうしないから許して!」

 

「無理」

 

「ですよねー」

 

アッー!

 

ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうね、言い訳すら出てきません。

書いては消してを繰り返してたらちょっと訳分かんなくなりこうなりました。絶対変な所あると思うんで、厳しい突っ込みお待ちしております。

何度も見直しと継ぎ足しを繰り返したせいで自分でもなにがなにやらわからなくなってます。後で修正入れる可能性がありますが修正を入れた場合は次の話しの後書きに入れるつもりです。

そして最後に

遅くなって本当にごめんなさい……

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