ラブライブ! Belief of Valkyrie's   作:沼田

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分割投稿、今回のラストです。あのお方が登場します……!


第九話_pert4

 

 魔王とは何なのか?

 

勇者が倒すべき巨悪としてか、あるいは勇者に比肩するカリスマとしてか?

 

 いずれにせよ当てはまることは、善なるものの頂点と対極にして、なおかつ比肩する悪なるものの象徴という属性であろう。これが故に魔王という存在は勇者と同等に輝くといえるのである。そして、強烈な輝きを放つ一方の極であるからこそ、真に存在感を放つにはもう一方の極が必要ともいえる。

 

 とはいえこれは、当事者でもない第三者――それもかなり多くの事象を俯瞰し考察できる人物の結論である。対して当事者たる魔王と勇者が互いに何を思ったか、それこそ千差万別といえる。魔王にとっての勇者は、野望の障害か、同胞の仇か、認めた好敵手か。

 

 あるいは――

 

 「世界の誰よりも一番好きな、憧れなのよねぇ」

 

 気取るでも媚びるでもない、どこまでも純粋な憧れを改めてツバサは一堂に表す。どこか懐かしそうに佇む穂乃果と対照的に、にこと真姫は仰天して次の言葉を待った。何しろ生体技能を始めあらゆる要素で彼女は幼馴染に勝っているのである。確かに穂乃果が持つ資質が驚異的だとしても、ここまで褒める理由が二人にはつかめなかった。

 

 「驚いた? 今の状態からは意外だけど、小学六年まで私とほのちゃんって差なんてほとんどなかったの。ぶっちゃけ身長と髪型以外ほぼ同じっていうくらいあってたのよ。誕生日と病院同じだし、パン好きだし、ことちゃんと海未ちゃんもつれてワイワイやっててさ」

 

 「確かにツバサちゃんと似てるし一緒にワイワイしてたけどさ、先に何か見つけてツバサちゃんがテンション上がってたよね? 穂乃果も騒々しかったけど瞬間的じゃツバサちゃん抜いてたと思うよ」

 

 「あれって元の性格もそうだけど、私なりにほのちゃんをリスペクトした結果なんだよ? ことちゃんだってあの髪型ほのちゃんの真似だし、最後はみんなワイワイしてたじゃない」

 

 「第一位の幼少期ってすさまじいのね……ってそんなねずみ花火系小学生が偽名使ってトップになったってこと?」

 

 ツバサの過去に面喰いながらも、にこは理性を復旧させてそう回答する。興味深いがあくまで本筋ではない以上、軽く要約して本題を待ったのである。そうした動きを察してか、ツバサも自らの経緯の本筋について説明する。

 

 「ま、確かにそういうことになるわ。中学入学以来綺羅ツバサはスクールアイドル界で破竹の躍進を続け、去年は序列第一位にまでなった。その理由、なんだと思う? 誰かに吹き込まれたとかその兼ね合いじゃないよ?」

 

 「穂乃果が関係してるの?」

 

 「ほのちゃんも確かにあるけど、どっちかといえば私自身のためかな? 拉致まがいで緊急避難して離れちゃったからこそ分かったの。私にとって、高坂穂乃果という存在は何なのか。そんな相手と私はどう向き合って答えを出すかって」

 

 ツバサは己にとって端的な本質を説明すべく、まずはそのように話を切り出す。彼女が目指すべき要素は多々あれど、一番に帰結すべき点はまさにそこなのである。故に彼女は特に力を入れて、本題に入り始めた。

 

 「お二人はさ、ほのちゃんとそれなりに接したけどどんな風に見える?」

 

 「なんでそんなことを……すごいの一言に尽きるんじゃないの? μ‘s立ち上げるまでの実績もそうだし、立ち上げた後も立て続けに勝ち続けて。それ以上に最高の答えを見せつけてくれるって、言うべきね。とにかく突っ走る割には一人当たりの観察力も鋭いし」

 

 「控えめに言って、リーダー中のリーダーなんじゃない? あんなカリスマと緻密の塊なんて、他に考えられないわよ。ま、それでもつくのはにこの意志って決めてるけどね」

 

 「性格も能力も実績も何もかも御誂えにリーダー向き。誰よりも声と笑顔に力のある女の子。みんなを大好きにさせ、憧れになっていく存在。だからほのちゃんの後ろにつくことに微塵の疑いも持たなかった。ほのちゃんから離れるまではね」

 

 「ツバサちゃん、離れて穂乃果のこと……嫌になった?」

 

 穂乃果は不安そうにそうツバサへ訪ねる。思うまま突き進み人を巻き込み押し上げたものとして、彼女はその振る舞いの悪影響を懸念したのである。しかし案に相違する形で、ツバサは本音を口にする。

 

 「逆だよほのちゃん。離れてからこそ分かったのよ、私はほのちゃんがほしいって。ことちゃんとうみちゃんたちと一緒にいた時は気づけなかった、どこまでも強くてどうしようもなくて、純粋な気持ちに。そう思ったらさ、ほのちゃんの後ろにいるだけじゃ足りなくなったのよ」

 

 「あなた……穂乃果に告白でもしたいの!? そんなにしたいなら音ノ木に来るとかは考えないわけ?」

 

 「真姫ちゃんの指摘ももっともだけど、立ち位置以前の意味でそっちはしたくないんだ。結局今までと同じでほのちゃんの後ろについちゃうし。そうやって中学高校とほのちゃんたちと一緒に過ごすのはすごく楽しいには違いないけど……別のやり方をすることにしたの。ほのちゃんを――高坂穂乃果を綺羅ツバサは超えて、征服する。私が告白するんじゃない、ほのちゃんに好きだといわせ圧倒させるの」

 

 静かで短く、それだけ煮詰められ純度の高い宣言を、ツバサは口にする。彼女は幼馴染を愛し尊敬し、目標とし続けた。その気持ちに偽りはないものの、離れたことによって満足できない何かを自覚したのである。それこそが穂乃果への恋であり、憧れへの帰結だった。当人には自明でも、それ以外には意外とも取れる内容であり、当然のことにこは質問をぶつける。

 

 「超えるも何も生体技能も戦闘の実力も言いたかないけど社会的な地位なんて、悉く穂乃果より上でしょ!? そりゃあうちのリーダーカリスマの塊に違いないけど、あんたがそれに劣るどころかそれ以上って目されてるじゃない。穂乃果を好きなのはわかったけど、そこまでする?」

 

 「じゃあさにこさん、すごいと思った相手にかなわないって思いっぱなしって納得できる? しかも誰より尊敬していて、その生き方を取り入れるぐらいの相手に。私はあなたが一番気持ち的に近いと思うんだけどなぁ」

 

 「そりゃあ止まりっぱなしはしゃくだけど、そこまで大上段に構えなくても――まさか」

 

 「対等に、勝負したいんだね? ツバサちゃん」

 

 にこがいたり、ツバサがかねてより行いたいアクションを、正確に穂乃果は言い当てる。自ら勝負師として読めたといっても相違ないのだが、眼前の親友と同じ気持ちを彼女は抱いているのである。軽く頷いたツバサに対し、穂乃果はさらに語りだす。

 

 「穂乃果に勝ちたいっていうけどさ、それなら私だってツバサちゃんに勝ちたいよ。勉強も運動も魔法だって私よりうまかったし。それで一番仲好い相手がいなくなったから届かせようと何とかしたんだけど……見つかったなら、こっちも挑んで良いよね?」

 

 「ほのちゃん、そんなけんかっ早いタイプだった?」

 

 「何だろう……勝負終わってノーサイドでわいわいだってもちろん好きなんだよ? けどさ、負けられない勝負を何回もしてたらさ、勝つことがうれしくなった。それに、そうして成功し続けてるツバサちゃんが、すっごく輝いてた。だから、穂乃果もその場に立ってみたい。そのために、全力で行ける」

 

 「マグロみたいに駆け抜け続けることがデフォルトなほのちゃんが、その駆け抜けに目的を作れたって感じだね。それでこそのほのちゃんだよ。そんな単純なことを、誰よりも輝いてやってのけるから、私も含めた大好きになれる。来なよ、ラブライブ本戦。そんな幼馴染が作ったμ‘s全てを、超えてみせる」

 

 穂乃果の決意に呼応する形で、ツバサもまた宣戦布告する。幼馴染のらしからぬふるまいに一瞬身構えたものの、続いた言葉が自らに呼応するものだったのである。にわかに気分が高まっている両者だが、半ば置き去りにされたにこと真姫も、続く形で言葉を告げる。

 

 「ちょっと、二人で盛り上がるのも良いけど挑戦するのは私だって同じなのよ? 学校後の代表って意味じゃアイドル研究部の部長がむしろふさわしいじゃない。絵里ほどけんかっ早くはないけどさ、いつまでも一番でふんぞり返ってるなら蜂の巣になることも覚悟しといてよね」

 

 「私もさ、西木野絡み以外でスクールアイドルってものが好きになってきたのよ。つながりを作って、新しい舞台を教えてくれたこの分野を、私はどこまでも行ってみたい。その先にあるのが綺羅ツバサとの対決でも、ね」

 

 穂乃果に続く形で、にこと真姫も宣戦布告する。当初ツバサに気おされたところもあった二人だがどうやっても消えない本心を各自で見出したのである。予想を超えた反応を受けたツバサは、しかし嫌がるどころか好ましい表情で言葉を返す。

 

 「そこまで言うなら、二人も本気で来てよね? 私もμ‘sにはほのちゃん以外の面でも注目してるんだから。期待して待ってるよ」

 

 「それじゃあ期待に応えてあげようじゃないの! 何なら今から」

 

 「ごめん、もうそろそろこっちも時間だからお暇するよ。真姫ちゃん、後処理はこっちでやるから生体技能解除するだけで大丈夫だよ」

 

 「ちょっといきなり何を――って消えた!?」

 

 去り行くツバサに真姫は声を掛けようとするも、そのままワープでもするように彼女は忽然と目の前で姿を消した。あまりに事態に面喰うも、同時にとてつもない緊張がやっと終わったとも認識できたのである。かくて最強との対峙は平和裏に収まり――

 

 ――あれまぁ、えろぅ荒れたもんで……これは僕ももうそろそろ出番かもしれへんわ。

 

 遠く静かに、だがかなりの確度をもって事態をとらえた観測者も合わせ、スクールアイドルの戦いは新たな局面へ移るのであった。

 




な、何とか終わった……次も頑張ります!

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