ラブライブ! Belief of Valkyrie's   作:沼田

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試験的なスタイルです。


第九話_pert2

 

 物書き(シナリオライター)物書きの醍醐味は何か。

 

 人それぞれ無論違うという前提はあるものの、多くの人間は文字という形で世界を表現する醍醐味を感じたのではないだろうか。もう少し掘り下げれば、文字という形で一つの世界を自ら創り出したともいえるのである。あるいは派生すれば、世界が作られる過程を楽しむなり、世界への自負を感じることにもつながるだろう。いずれにせよ、シナリオ作りという行為は、人を世界で動く一介の演者(プレイヤー)からから唯一の創作主(クリエイター)と変えることには間違いない。

 

 故に、物語というものは作者をこの上なく雄弁に語る。読者なり観客は創作主の意図を読み取らんとするが、逆にそれを隠させるようなシナリオすらあり得る。この点は西木野実姫が遺したシナリオにおいて、顕著であった。果たして彼女は、親友と弟子と、そして妹に何を残し伝えたかったのか? 高坂穂乃果、矢澤にこ、西木野真姫の三名が条件を満たしそろった今こそ、これは明らかとなるであろう。

 

 「端的に聞くわ、穂乃果。実姫が死ぬまでに私たちのこと、どこまで聞いたの?」

 

 「名前は出されなかったけど、師匠に親友が三人いて、スクールアイドルを音ノ木坂でやってるってことは聞いたよ。私をそこにスカウトしたいって打診されたし、真姫ちゃんをそこに入れたいってこともね。にこちゃんはどうなの?」

 

 「来年入れる一年で強力な子を三人ぐらい連れてくるって聞いたわ。もっとも弟子作ってるとまでは知らなかったけどね。後事象解析のことは一式聞いてるし把握はしてるけど、そのあたり穂乃果はどう?」

 

 「だいたい同じかな? ただ……師匠が今ある事象解析が上澄みだって言ってたのと、鍵を託すって言われたのは覚えてるよ」

 

 「鍵って、にこちゃんがお姉ちゃんの力を使ったみたいに、穂乃果も何か覚醒とかするのかしら?」

 

 にこと穂乃果のやり取りを見て、真姫はそんな疑問を呈する。姉が二人をことのほか重視していたのはわかったが、それをもって何をしたかったと考えた時見当がつかなかったのである。自身に何かあった時守り手として期待していた面もあるはずだが、それ以外もあってならなかった。

 

 「そもそも、なんで実姫は穂乃果を選んだわけ? 確かに手っ取り早く海未とことりを引き込むにはうってつけだけど、それだったら直接二人に声かけるって手もあるはずだわ。あるいは、他の序列でも良いし」

 

 「まぁ、海未ちゃんとことりちゃんはあの頃かなり人間不信だったから、引き込むって意味じゃ穂乃果をはさんでは妥当だと思うな。けど、それだけじゃ師匠は動かない。真姫ちゃんの悪用って可能性をなくさないといけないし、真姫ちゃんに見合うだけの戦闘能力だっている」

 

 「差し当たって、持ち前の生体技能と善性のカリスマが評価されたってことじゃないの? あいつの見る目は確かだし、その意味で心配してないわ。ブラックボックスの生体技能は気になるけど」

 

 穂乃果自身の疑問について、一通りにこはそう答える。加速度的に急成長する大器と強力な生体技能であるなら、確かに真姫に対し適任といえた。しかしこれも決定的とはいいがたいと、彼女は内心考えたのである。その疑問を進めるより前に、今度は穂乃果が質問をぶつける。

 

 「私の方からも気になるんだけどさ、師匠はカギにどうしてにこちゃんを選んだの? 確かに親友だしかかわりも深いけど、それなら絵里ちゃんとか希ちゃんとかでも良いし。ただたんに真姫ちゃんが憧れてるだけじゃ、託す理由には足りないと思うな」

 

 「多分だけど……お姉ちゃんは、にこちゃんのメンタルの強さを評価したんじゃないのかしら? 背景で見たらあの三人の中で一番ぼろぼろになっても立ち上がり続けてきたじゃない。私があんまり言えないけど……襲撃でお父様が亡くなられてお母様が負傷されて、そこからいろいろ苦労続きだったから」

 

 「真姫ちゃん、そのあたり隠してないし平気よ? ま、どっちかといえば私たちの親世代で超人クラスだったままの娘だってことがにことしては比較される意味で大変だったわ。無論、家族嫌いとかじゃないわよ? どんなに苦労しても、家族がいてちゃんと笑えることって、すごくありがたいんだから。それはそうとして話を変えるけど……穂乃果の鍵って何なのよ? こっちみたいに何か新しい能力が」

 

 ――新しい能力? んー、ぶっちゃけ違うかな。元に戻すって感じ。条件も揃ったしね。

 

 にこが言いかけたタイミングで、新たな声が突如割って入る。発生したタイミングも内容も衝撃を帯びたものであるが、居合わせの三人にしてみれば話者こそ面を食らうものだった。何しろ一連の謎の中心に上がる存在からの言葉なのである。

 

 「チョット、にこちゃん……今のってまさか」

 

 「まさかもへったくれもないわよ! あいつのことだから何か仕込むぐらい平気でやるとしても、何が目的なわけ!?」

 

 「あ、なんか映り始めたよ!」

 

 ――とはいえ、ネタあかしやるとしても段取り踏まなきゃ追いつかないだろうし、ちょっと西木野一族の歴史から説明するわ。真姫は良いとしても、確実に穂乃果とにこはわからないだろうし。とユ~訳でぇ、所要時間十五分ぐらいですが技能家系西木野一族のあらましを、わたくし西木野実姫がお送りします。

 

 黒幕の名を名乗ったその声は、穂乃果たちの前方に大型の空間モニターを展開させて、そうした口上を宣言する。同時にモニターにはやや画質が古いものの、それでも鮮明に映る邸宅が映し出された。歴史にさしたる知識がない人間が見ても、前近代の大型の武家屋敷のようなものだと理解できた。だが、門に描かれている家紋が映し出された瞬間、真姫の反応がにわかに変わったのである。

 

 「あの家紋であの規模の屋敷だと……まさか」

 

 「真姫ちゃん!? この後何が出てくるかわかるの?」

 

 「ええ、西木野一族の始まりの人……厳密にはその人の娘が西木野を名乗ったからだけど、初代で通る方だわ。その名は」

 

 ――曲直瀬道三(まなせどうさん)。戦国時代でのトップ級の医者にして、西木野一族の始祖にあたる人が、長いこと考えていたことが、発端になったりしています。

 

 穂乃果の質問に答えようとした真姫を制する形で、実姫の音声は屋敷の主と内部にいた十徳姿の医者の全身を映し出す。おおむね五十を過ぎた初老の男性という具合だが、その顔つきは穏やかながら深刻に考える様子からして鋭さを醸し出すものだった。何を言いたいのかと思案する穂乃果とにこであったが、それに応じる格好で実姫の音声は回答を提示する。

 

 ――彼は武将ではありませんが乱世の医者――なかんずく京都在住のものとして、延々続く騒乱を憂いていました。もっともそれだけなら特にアクションというわけではないのですが、ことは専門分野と重なってしまったのです。戦国乱世の混迷には、神域の生体技能がかかわっていたのですから。

 

 「神域の生体技能!? それ、穂乃果とかが持ってるやつのこと!?」

 

 ――日本国内に二種類存在するそれらをめぐり、武将達は領国の拡大と同程度に抗争をつづけました。おまけに悪いことに、性質が相反する両社は比較的別陣営に分かれて属することが多く、能力も同程度でした。なので神域の生体技能は獲得まで抗争を起こし、獲得後も抗争が続くというありさまとなりました。

 

 「私の力ってそこまであるのはわかるけど……それがどう西木野一族に」

 

 にこの問いへ解説をつづける音声に、穂乃果はそこまで答えて止まってしまう。なぜならそれは、正解に至る仮説を思いついたからであり、しかも恐ろしい内容だったのである。しかし、考えれば考えるほどこの仮説は説得力を帯びた。魔法技術の方面も含めてトップの医者が、動乱の根源となる生体技能を前にしたならば、対策はおのずと見えてきたのである。

 

 「この人が作ったからよ。志願した娘に様々な実験を行って、新たな生体技能を発現させた。それが万物を読み取り、解き明かす力。事象解析をね。私が知っているのはここまでだわ。神域に対抗だなんて話、初めて聞いたもの」

 

 ――医術のほかに、魔法や生体技能関係も強い道三は考えました。二つで収拾がつかないのなら、三つ目を送り込めば良い。単純で、けれどとてつもなく難しく、恐ろしい回答を彼は実現できる才能と環境を有していました。そして、あまりに忌むべくして切実な願いを、受け止め最高の形に昇華させてくれた、被験者にも。

 

 「本人同意で親としても悲痛な状態で始めた人体実験が、引き金とはね……流石にこれは実姫もうかつに話せないわよ。あ、シーンが変わって……この人が娘さん?」

 

 「黒髪だってこと以外は、かなり真姫ちゃんに近い顔つきだよね。けど、西木野一族って赤毛だったよね? どこからそうなったんだろう……」

 

 「実験の余波で、髪の色素構成が遺伝レベルで変わったからよ。このあたりは二人も知ってると思うけど、より強い事象解析ほど、西木野一族の髪色は鮮やかな赤になるわ」

 

 再確認の意味を込め、真姫は二人にそう解説する。とはいえ表面上冷静な彼女も、事象解析の本質については未知の箇所が多すぎた。家督を継承して日が浅いという面もあるにせよ、歴代当主すら事象解析の歴史へのアクセスは厳しいものがあるのである。そうした真姫の心情を察するかのように、実姫の音声はついに本質への言及を開始する。

 

 ――錬金術張りに有効な派生技術は多数出ても果てしなく困難な研究は、十年で事象解析という形に実りました。ご存知と思いますが、解析から派生する効果は出せても、無から有を生み出すような力をこの力は持ち合わせていません。ですが、曲直瀬父娘はそれで構いませんでした。神域に到達する器として――事象解析が記憶した生体技能をため込み、神域まで登らせるのですから。

 

 「事象解析が……ため込むですって!? まさか再現に成功した生体技能が遺伝するとでもいうの!?」

 

 ――もちろんそんなにうまくいくものでもありません。生体技能の再現をするまでのレベルは高いものがありますし、記憶された技能の引き出しはもっと高いレベルが必要になります。ですが、そこまでのレベルじゃない事象解析でも接触した人間の生体技能情報は残りますし、運用履歴という形で運用技術も遺伝されていきます。いずれにせよそれこそ遺伝ですから程度の差はありますが、平均五代150年程度で神域まで達した事象解析を行使できる西木野一族が出現する計算です。これにいくらか特殊なパターンも混じりましたが……真姫もこのスパンで当たりくじを引いた格好ですね。

 

 「だから西木野一族は、キャリーオーバーがピークに達しそうな真姫ちゃんを早いうちに手元に置いたってわけね」

 

 合点と若干の苦い感情を込めて、にこは実姫の音声のそう返す。家督を継ぐまで延べ八年ばかり親元から離された真姫もさることながら、実姫もまた西木野一族の悲願の犠牲にされたのである。一族内部の抗争により両親を殺害され、にもかかわらずその元凶たる一族の重鎮に手駒とされる。その上で暗躍をつづけ親しいものを犠牲に出しながら、唯一の妹を守るため動き続ける。当人があまり言及しないため意識はさしてなかったが、改めて思えばあまりに過酷な人生を親友は送っていたと思わずにはいられなかった。

 

 ――マー西木野だなんだの事情すっ飛ばして、私の妹が良い子なのは確定として……一国以上に価値のある力を有していることは間違いありません。そしてそれは先に話した通り神域のそれを目標としたものであり、モデル元と同系統といえます。だからこそ、真姫の中に穂乃果へのカギを組み込むことができました。白の神域――白光天主。桜花白翼の本質にあたる、創造を担う天上の主が振るう力です。

 

 「穂乃果の……本当の力!?」

 

 ――穂乃果。あなたを鍛えると決めた一番の理由は、当代の白光天主だったからなの。他にも第四位と第六位との絆に無類のカリスマもあるし、それらひっくるめて真姫の守り手に迎えようと私はしたわ。けど、私の弟子はこっちが用意したカードじゃなくて、自分で真姫に至って真姫もちゃんと応えた。だから、穂乃果なら神域の力を正しく使えると、私は信じる。

 

 「師匠――実姫師匠、私の夢にも、使えるんですか!? あの子に至ることにも使えるんですか!?」

 

 ――穂乃果の目的に使っても、その目的の先に使っても、平気だわ。そうやって巻き込んで押し上げていくヒーローが、私が選んで賭けた高坂穂乃果なのだから。

 

 平素らしからぬ切羽詰まった様子で答える穂乃果に、実姫の音声は迷いなくそう返す。実姫にせよ穂乃果にせよ、繋がりの理由として双方に目的を抱え現在も忘れたわけではない。しかし、その過程で確かに生まれた信頼もまた本物なのである。故に臨む領域へ自力にたどり着いた弟子に、実姫は白いカギを出現させ渡すという行為を行った。

 

 ――自分で本当に臨んたとき、これをかざしなさい。ぶれない思いに呼応して生体技能の起動キーとして機能するわ。ま、渡すものって意味じゃにこにもあるんだけどね。

 

 「こっちにもあるわけ!? てかねぇ、こんなものよこすぐらいなら実姫本人はどうなのよ」

 

 ――せかす我が親友にもこたえるとして……本当に、ごめんなさい。この状態になってる時点で私は死んだかそれに近い状態で、それでもにこがここまで来てくれたってことだから。死ぬほどつらい思いさせて、絵里と希のことも丸投げして、真姫のこともお願いして。本当に、申し訳ありませんでした。

 

 「ご丁寧に遺言よこすくらいなら、いたこでも用意して肉声聞かせなさいよ……! それで、他にもあるんでしょ? 希以上の暗躍マニアが、自分の死すら計算に入れて練った答え、見せなさい」

 

 ――私に万一あれば組み込んでいる事象解析、あれの最適化を行うわ。これが発動してるってことは、事象解析がなじんでくれた証拠だし、私もやった出力強化と真姫への接続もできるようにする。にこ、誰よりも諦めないあなたの在り方、親友として誇りに思うわ。末永くアイドルであり続けることを、西木野実姫は祈り続けます。

 

 ともに歩んだ親友への想いを余すことなく込め、実姫の音声はにこにそう伝える。当然聞こえずともわかってなおにこはさらに言おうとするが、それより先に彼女の右手に黒いカギが出現した。おそらくこれも穂乃果と同系統とにこが処理していると、さらに音声は言葉をつないだ。

 

 ――ともあれ、ネタあかし第一陣という名の概要説明はこれで終わりました。後は補足がもう少しあるのですけど、驚くかもよ?

 

 「お姉ちゃん、まだ何――え!?」

 

 「もう少しって師匠――ほ、ホント!?」

 

 「実姫、つまらないドッキリなんて連続――うそでしょ!?」

 

 実姫の言葉にそこまでだれたわけでなかった真姫たちであるが、次の瞬間茫然としてしまう。彼女たちにとって眼前の事態が、あまりに異常であったのである。いることが絶対にありえない人物が出現したとなれば、ある意味当然といえる反応だった。

 

 「イタコなんかよこさなくても、言いたいことならちゃんと聞くわよん? 面食らってるとこ悪いけどさ、今あなたたちの前に何があるかは、事象解析で見れば明白よ」

 

 その人物は一年生用音ノ木坂学院の制服をベースに、赤のカーディガンの上からブレザーを羽織っていた。

 

 その人物はリボンが示す学年にしてはかなりの高身長であり、スタイルの良い体つきと合わせ、長めの赤いスリーテールが印象的だった。

 

 その人物の左右の腕には、それぞれ槍と銃の飾りがついたブレスレット上の待機モードをした魔法兵装をつけていた。

 

 何よりも――

 

 「事象解析でも外見でも眼でも……お姉ちゃん、だよね?」

 

 茫然としながら、それでも真姫が漏らした通り、彼女の目元はつっており大きく鮮やかな紫色の瞳をしていたのである。

 

 「そうよ、真姫。まがい物でも留守電メッセージでもない西木野実姫が、こうして登場したんですもの。にこも穂乃果も悪いけど、もうちょっとネタあかしに付き合ってもらうわ。腰、抜かさないでよね?」

 

 二年前と変わらぬ明るい声音と微笑で、自室の体にある穂乃果たち三人に向け、現れた少女――西木野実姫はそう告げる。あまりに現実離れが続き、現状が最も現実から離れていると感じても、彼女たちは眼前の人物だけは嘘だとは到底思えなかったのである。そうした驚愕を、しかし実姫は落ち着いた様子で観察し、言葉のタイミングをうかがっていた。かくして現れた黒幕は、自らのシナリオの要たちと真の意味で相対することとなったのであった。

 




 さらに続きます。

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