ラブライブ! Belief of Valkyrie's   作:沼田

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事象解析空間で始まる三者三様の対峙。そして明かされていく真姫の真実と最大の怪物の動き。その果てには――

とまぁこんな感じですっごく久しぶりなラブライブ!の沼田版物語です。今回からは試験的に、pixivとは異なりワンブロックごとの投稿にしてみます。


第九話_pert1

 

 目は口程に物を言う。

 

 絶対というには安直な指摘であるが、瞳にこもった感情が言葉と音に表れるそれよりも強い意味合いを持つ例は多々存在する。そうした教訓的な意味のほかにも、遺伝や環境により別人同士の目元が近い形になる例もまたあるのである。ともあれ眼という器官が、いずれにおいても人間ごとの要であることには違いない。そうした象徴という意味合いを意識し、矢澤にこは西木野真姫をじっと見据えたのだった。

 

 <つくづく、似てるものじゃない……>

 

 それなりに見慣れたはずなのだが、改めてにこは内心そんな感想を口にした。鮮やかな赤毛と吊り目で大きな紫の瞳。髪型さえ除けば、(厳密には従姉妹であるものの)姉妹だけあって、実姫と真姫はかなり近い顔立ちだった。もっとも宿る性格と行動様式は対極である以上、仮に実姫が存命なら赤毛の姉妹に挟まれた自分はさぞ振り回されただろうとも考える。それでも重なる箇所は重なるものであり、親友の身としてあまり似てほしくない箇所まで似ていたのである。

 

 「思い詰めたその表情まで、実姫そっくりじゃないのよ」

 

 「私に迷いがあるって、にこちゃんは言いたいの?」

 

 「にこが何回あいつの顔を見続けたと思ってるの? それ以前にアイドルたるものが、コアなファンのこの気持ち一つ読めずして、どう立ち行くっていうのよ。断言するわ、今真姫ちゃんは迷っている。ううん、震えている」

 

 「誰よりも西木野らしくやってきた私がここまでして、考え一つでにこちゃんを消せたとしても?」

 

 「だったらなんで物騒なことをわざわざにこに見せつけるのよ。真姫ちゃんが本気になれば、にこなんてあっという間にお釈迦なのよ? 詳細なんて知らないけど、今のって事象解析の本気なのはわかるし」

 

 やたら冷たく返答する真姫に、にこは平素の勝気風な口調でさらに質問する。そんなやり取りを、彼女は予測が確信になった安堵と刃物の上を綱渡りする緊張感の双方を覚えていた。世界を理想から糺す立場にある真姫ならば、本当の意味で矢澤にこという存在など消去するなど容易い。実現の可能性は低いものの、裏を返せばそうなりかねない凶器を展開したという時点でどれほど彼女が怒りに打ち震えているか察するに余りあるのである。一見すれば迷いも枷もかなぐり捨てたような振る舞いだが、そのやり口こそ西木野姉妹が見せる最大級の迷いの兆候だとにこは判断できた。

 

 「実姫ってさ、どうしようもないことやろうとするとき、どんどん自分でつらい方向を取り続けるのよ。それを連続させてさ、考える間もなく終わらせるわけ。そんなことやってもつらい顔見せないで終わったら何食わぬ顔でにこ達のところに戻ってきた。少し、寂しそうな様子で。そのくせやたら明るくふるまうのよ」

 

 「今の私は、お姉ちゃんよりも迷ってない」

 

 「だったら長々と話さないでしょ? 迷いがなかったとしても、にこに話を聞いてほしい。だからこうしてるんじゃない」

 

 「にこちゃんはアイドルを笑われて――一生かけて負うものを踏まれて、自分の基準を踏まれて、何も思わないの!?」

 

 先ほどよりも若干熱量がこもった言葉で、真姫はにこに問いただす。他全てを仮に妥協したとしても、矢澤にこから得た在り方を踏みにじられることだけは彼女にとってあってはならないのである。そのオリジナルに対し、肯定以外認めぬとばかりの問いを、にこは逃げずに回答する。

 

 「そりゃあ、思うわ。真姫ちゃんほど派手にはできなくても、相手をハチの巣にやりかねない程度にはね」

 

 「だったら」

 

 「そう思うから、アイドルにこにーは今の真姫ちゃんを見過ごせないのよ。真姫ちゃん、今あなたの顔、どんな風になってるか分かる?」

 

 ひしひしと感じる重圧と、それをはねのけるだけの意志を感じ、にこは真姫へ確認する。文字通り西木野真姫というパーソナリティの根幹と己がなっているだけに、彼女が言わんとする意味を嫌というほど理解できた。情けない限りだが、自身が真姫の立場なら、それこそすべてをかなぐり捨ててでも、アイドルへの侮辱は阻止したとさえ考える。同類たる己と遺された妹という責任を自覚しながらも、しかしにこは事態の核心を指摘する。

 

 「アイドルは笑顔を見せる存在ではない、笑顔を周囲にもたらすもの。だからこそ、アイドルは内側にどんなつらい気持ちを抱えていても、見せる笑顔に信念をもって舞台に臨まなきゃいけないわ。今真姫ちゃんがやっている行動は、自分が笑顔でできることなの!? 心をずたずたにしてまで、やれることなの!?」

 

 「ずたずたでもボロボロでも、やり抜き続けるのがにこちゃんじゃないの!? 私はその姿に憧れて、どんなにつらくても、逃げずにここまでやり続けたんだよ!? それを――!」

 

 「ずたずたでもボロボロでも、やり抜き続けたし、これからだってにこはやり抜くわ。この言葉を、真姫ちゃんが信じてくれた気持ちを、にこは絶対裏切らない。けどね、真姫ちゃん。それだけじゃなかったのよ。それがわかんなくて、にこは四月までずっと失敗続きだった」

 

 「失敗続き?」

 

 自虐じみた独白を受け、真姫はオウム返しにそう漏らす。だが極限状態でない平素の彼女でなら、この言葉が意味する要素をすぐ理解できるはずだった。そうした気付きをもたらさんとすべく、にこは話を進める。

 

 「やり抜き続けるのは自分自身だけど、誰かに話を聞いてもらったり、助けてもらったり、大切な相手を思いながらでも構わないのよ。二年前に実姫がにこの目の前で死んでから、真姫ちゃん含めた周り全部から逃げていたわ。けど、そんなにこを真姫ちゃんは追いかけてくれて、絵里と希がいたから謝れて、穂乃果とμ‘sがあったからまた歩けて戦えた。やり抜き続けたい気持ちだからこそ、一緒になれる誰かが必要なのよ」

 

 「私にも誰かって、いてくれるの? ここまでできる力と、ここまでやれる気持ちを抱えている私に、歴代最高の西木野じゃない私でも。分かってくれるのかな?」

 

 「いっぱいいるし、増えていくものよ。馬鹿でもなさそうし、対戦相手もなってくれるかもよ? それにさ、もう確定で会員ナンバー1がここにいるじゃない」

 

 限りない不安を示す真姫に対し、自信を込めてにこはそう返す。散々バカをし続けた己よりも、ずっと彼女は良い道を歩めると確信している。そんな相手に心底頼りにされているのなら、にこがすべきことは明白だった。

 

 「真姫ちゃん、あなたが信じる矢澤にこはね、あんな性悪女ごときに屈するほど柔なアイドルじゃないのよ! だから、迷ってぼろぼろになった時は、いつでも助けを呼びなさい。そうなったら」

 

 「てめぇら、さっきから性悪だなんだ好き放題嫌がって! 序列入りなめんじゃねぇぞぉおっ!!」

 

 蚊帳の外に置かれた上、あからさまにコケにされた美渡は、余力も度外視し魔力を注ぎ込み、最大級の念動力を発動させる。高密度で力場を放っても変換されていない念動力の色は薄いものなのだが、この時ばかりは異なった。右手に集中させた赤い力場が球状となり巨大化し、赤黒い半径数メーターの赤玉ができつつあったのである。出力も、それを扱う制御の実力も、まさに序列の象徴といえる代物だった。しかし、そうした一発が迫り来ても、にこはいささかも乱れることなく魔法兵装を美渡へ向ける。

 

 「最っ高に頼れる背中、見せてあげるんだから! 実姫ぃ!」

 

 気合の掛け声とともに、にこはアンタレスを構えるや、穂乃果との対決で展開された化学式の翼が展開される。異質な力の象徴ともいえる代物であるが、しかしそれ以上に重要な役割をこの時彼女は理解していた。結果は当人が無意識で共鳴するよう発動した、真姫の赤い事象解析が、にこの翼とつながったことで具現化される。

 

 「にこちゃん!? こ、これってお姉ちゃんの」

 

 「実姫が色々試してた、事象解析の連結よ! あいつが試したところを見たことあるし、この空間が真姫ちゃんの考えが実現するとなれば、試したわけだわ!」

 

 「そんなこて先、潰してやらぁっ! 大陸砕き(コンネントキネシス)大陸砕き」

 

 「潰せるかどうかは、こいつを超えてから言いなさい! 多弾製造(マルチパレット)多弾製造・理想虹砲(イデアスブラスター)理想虹砲!!」

 

 放たれた美渡の赤玉をさらに上回る化学式の砲撃が、二丁のアンタレスからにこの絶叫と共に放たれる。数瞬拮抗した両者の一撃は、次第ににこの砲撃が虹色を帯び始め勢いを増し、美渡を押していった。そうした危機に序列の身として抵抗した美渡であるが、最後には押し切られ、砲撃に飲まれていく。序列入りのそれ未満による撃破の例はゼロではないにせよ、にこがなしえたという結果を真姫は仰天しながら認識した。

 

 「にこちゃんが、真正面の打ち合いで……国砕念力に勝った?」

 

 「勝ち目があるから、勝てたのよ。場所が場所で、真姫ちゃんが近くにいて、前よりは実姫の力を知っていたからね。根性論で突貫が全くないとまでは言わないけど、真姫ちゃんある限り勝ち残り続けるわ。まぁでも」

 

 「でも?」

 

 「派手に戦う分、今も含めてぼろぼろになりやすいのよ。それも死にかけるぐらい何度も何度も。真姫ちゃん、にこは必ず生きて戻るから、後のことお願いね?」

 

 「あれだけカッコよく戦いながら、私に丸投げするの!? なんて、セリフですませると思う? 逃げたりなんかしないわ。必ず立ち続けるアイドルがにこちゃんから学んだのが、西木野真姫って必ず生かし続けるアイドルだから」

 

 茫然から回復し、想いを整理できた真姫は迷うことなく自らの意志を宣言する。にこが見せつけた実力もさることながら、彼女が初めて己を頼りにしてくれたことがあり方を認めたことと並び嬉しかったのである。そうした真姫を見届けて、にこもまた心からの安堵を抱き、同時にかねてより気になった点を提案する。

 

 「真姫ちゃん、今あなたが使ってる事象解析、初めてやったんだよね? それも、この使い方は知らないって感じで」

 

 「戦闘中はあんまり意識しなかったし、すぐ戻せる感じはするから良いんだけど……このパターンは初めてだわ。世界レベルで作用する事象解析なんて、西木野一族の歴史書でやっと見るぐらいよ。それに、神域って言葉……」

 

 「綺羅ツバサや穂乃果と同系統の異質な力って意味じゃないの? それこそ物理法則なんてぶっ飛ばした――というか、物理法則をこの世界に拵えた神様が使う力って意味で。けど変っちゃ変ね。事象解析って魔力含めた触れたものを読み取ることが基本でしょ? そこから真姫ちゃんが一番やる医術諸々とか、干渉による分解とか、モーションの再現とか、生体技能のコピーじゃない。十分すごいけど、事象解析そのものが力を生み出しているわけじゃないわ」

 

 「そうよね、神域って言葉が本当だとするなら事象解析の系統からして異常よ。いったいこれって」

 

 省みればあまりに明白な、だがいずれ向き合わねばならない本質を、改めて真姫は口にする。とはいえ断片的な情報は存在するものの、中核に足りそうな要素を彼女は思いつくことができなかった。無論にこも同じなのだが、しかし彼女は何か考えがあるらしく、唐突に口火を切った。

 

 「私と真姫ちゃんだけじゃわからない、わね。とすると他から聞き出すしかないわ。というか、μ‘sに一人いるし。そういうわけで出てきなさい、穂乃果。いつまで眺めてるの?」

 

 「アハハ~……あんまりにも良い雰囲気だったし、口はさみようがなかったってのが事実なんだよ? もうゴールインなんて段階をにこちゃんも真姫ちゃんも超えちゃっているようなものだったし。けど、こうなったからには私も混ざるよ。師匠が言ったことが本当なら、この時に全容が見える筈だから」

 

 「穂乃果!? 私の干渉を受けなかったの?」

 

 「そのことも含めて、ちゃんと説明するから安心して真姫ちゃん。今までは断片で推測混じりだったけど、今回の一件で全部つながりそうだし。それに、私たち三人とも、決めなきゃいけなくなるから」

 

 観念とばかり微苦笑しながら登場し、しかし穏やかながらも強い意志を込めた口調で穂乃果は真姫にそう答える。西木野姉妹の実情についてある程度の情報は持っていたものの、短編的かつ成立した仮説を思えば彼女はこれまで動きかねていた。しかし、真姫自身の力が顕現したとなれば、もう猶予はないと判断できたのである。そうして腹を固めた穂乃果は、事象解析の干渉を受けなかったことを寄貨に行動をついに起こしたのだった。

 

 「人の身にして神域に達する家系――西木野一族の本当の意味と、そこから始まる私たちの決断、はっきりさせよう」

 

 「守る者が随分あるアイドルとして、その話乗っかろうじゃない。穂乃果、あの暗躍マニアが何を企んでたか、洗いざらい話してもらうわよ」

 

 「穂乃果が見たもの、にこちゃんが見たもの、それと……私の中にあるもの。お姉ちゃんがやろうとしてきたこと、私は確かめたいの。私の本当とその先を、自分で歩きたいから」

 

 王子と姫と、そして現れた英傑はそれぞれ決意を表明する。各々が抱えるパズルのピースが図らずもそろい、新たな道が見えたのである。かくて真姫をめぐる事態は、一気に本質へと向かっていくのであった。

 




もうちょい続きます。

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