セブルス・スネイプはやり直す 作:どろどろ
1時間クオリティなので短めです。
大きく見出しの書かれた新聞を見やり、ジェームズを筆頭とするグリフィンドール生の四人組は苦々しい表情を浮かべる。最も色濃く滲み出ているのはやはり恐怖に近い感情だった。
――【闇の帝王の活動激化! 魔法省の対応は!?】
その詳細は、要約すると
魔法界の住人は、マグルの世界と自分たちとを断絶した生活を送っており、その一線を越える事は暗黙の禁忌とされている。それを度外視する事件が多発している事から、闇の帝王の勢力拡大は火を見るより明らかだった。
「はぁ。どうして、こんな事をするんだろう、例のあの人は?」
ジェームズの言葉へ真っ先に、四人組の内の一人――リーマス・ルーピンが応えた。
「やっぱり、自分が最も優れた闇の魔法使いだって事を皆に知らしめたいんじゃないかなぁ」
「や、やめようよそういう話は……。僕は知ってるよ! 闇の帝王は、その名を口にしただけでこっちの居場所を探り当てて、殺しに来るんだ!」
肩をふるわせながら拙い言葉を紡いだのは、ピーター・ペティグリューだ。
ジェームズはピーターの話を「少なくともホグワーツだったら大丈夫だよ」と一蹴し、親からの梟便で送られてきた一級品の腕時計を得意げに一瞥し、口元を歪める。
「それはそうと、そろそろリリーが起きてくる時間だ。彼女はいつも決まった時間に朝食を摂りに来る」
ジェームズに合わせて、その場に居たシリウス、リーマス、ピーターは食堂ホールの入り口へと目を向ける。
すると、言葉の通りに柔らかい赤毛をした少女――リリー・エバンズが姿を現した。どうやらジェームズたちへの関心は一際強いようで――もちろん悪い意味でだが――あえて目を合わせず、友人たちの後ろへ隠れるように歩を遅くした。
「……ふん、彼女の席は僕の隣だって決まってるんだ」
そういったジェームズは、自分の隣の空いた椅子をトン、と叩き、鼻を鳴らした。
一同はやれやれ、といった心境で、朝食を誘いに行ったジェームズの行方を見守っていたが、直後――
「やぁリリー。よければ僕らと一緒に食べ――」
――パァン! と乾いた音が響く。それなりに人の集まる食堂なので、その音はすぐに溶けるように消えたのだが、その光景を見ていた三人は同時に顔を押さえたくなった。
リリーが問答無用でジェームズを叩くのも仕方の無い話だ。まだ一年生であり精神的に未成熟な事に加え、ジェームズたちがスリザリンとの合同授業で行ったセブルスへの仕打ち、そして寮の得点が大量に減点された事実も重なっているのだから。
平たく言えば、ジェームズたちはリリーはおろかグリフィンドール生の大半から目の敵にされている。悪い噂はじきに沈静化するだろうが――それでも、リリーは燃えるように激昂する気持ちを抑えられなかった。
「私に話しかける前に、誰か謝るべき人がいるんじゃない?」
それでもまだ言葉を交わす辺り、リリーは中々に慈悲深い。
「…寮の得点なら、すぐに取り返す。寮の皆には申し訳ないと思ってるよ。でもさ、そんなに怒らなくても……」
「私が言ってるのはセブの事よ! この最低男! 去勢した後に縄で縛って、火あぶりにしてからドラゴンの口の中に放り込んでやりたいわ!!」
「なッ!? 君はあのス二ベルスの肩を持つのか! 食事に誘ってあげてる、この僕を無視した上で!?」
「……、ッ。この…!!」
再び手を振るおうとしたリリーを周囲の友人たちが抑える。
冷たい視線でジェームズを睨み付けた後、リリーたちはいつもの定位置で食事を始めた。――いやまぁ、そもそもの話、食事席は各々に決まっていて、原則他の席は使用してはいけない決まりなのだ。当然と言えば当然だろう。軽く破られがちな申し訳程度の規則とはいえ、非常識なのはそれを破ろうとしたジェームズの方だった。
「……ふんっ、もう知るもんか!」
そう吐き捨てて、ヒリヒリと痛む頬をさすりがら席へと戻るジェームズ。強がってはいるものの、例の如く玉砕して彼の心はもうボロボロだった。
――そして、ジェームズとリリーのやりとりを見てほくそ笑む少年が一人。
「ふ、無様だな、ジェームズ・ポッター……」
セブルスは頬杖をつきつつ、楽しそうに目を細めた。
一部始終を共に目撃したルシウスがセブルスの背後に近寄り、
「敵の内輪揉めは何にも勝る喜劇だな。見ていて実に愉快だ。君もそう思うだろう? スネイプ」
「……えぇ、特にあのジェームズですから」
ルシウスの指す「敵」という言葉がグリフィンドール全体の事を言うなら、そこにリリーも入っている。それを悟ったセブルスはあまり肯定的な返事をする気分になれなかったが、社交辞令として応えた内容も的を射ているのも事実だ。
これはとある日、平和な日常に亀裂が入るのを目前とした、ある朝の話――